コメディ・ライト小説(新)
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- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
羅紗さん
流沢藍蓮さん
ひなたさん
氷菓子さん
アンクルデスさん
白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: エンジェリカの王女 《2章2節始動!》 ( No.84 )
- 日時: 2017/08/31 09:14
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: SqYHSRj5)
64話「蜂蜜の不思議な魔法」
翌日の朝、私は麗奈に電話をかけた。お出かけする約束をするために。この前はこちらの都合で急に取り止めにしてしまったのをちゃんと謝りたかったので、時間に余裕を持って電話した。
かける前は緊張していた。しかし、麗奈が明るく「大丈夫よ」と言ってくれたので、私は安堵した。本当に怒っていない感じで、とても心の広い人だなと尊敬した。こんな友人を持てて私は幸せだ。
そして約束は火曜日、つまり明日になった。
今日は丸々一日予定が空いてしまった。出かけるのもいいだろうが、あんなことの後だ。どこかへ遊びにいくという気分にはなれない。
それに、ジェシカはまだ傷が回復していないので、到底出かけられる状態ではない。ノアもそんな彼女を置いて出かけはしないだろう。
そんなことで、何をするでもなく、ただ椅子に座って退屈な時間をすごしていた。エリアスに手紙を書くこともないしね。
「……退屈」
私はテーブルに突っ伏し一人呟く。平穏な日常こそが幸せだと分かっていても、やはり退屈は退屈だ。
「王女、何かお茶を淹れましょうか?」
エリアスは冷蔵庫の中身を整理しながら何げなく言う。そういえば早朝どこかへ行っていたわね……買い物かな。
「そうね。折角だし、お願いしようかな」
「はい。では淹れますね」
彼は嬉しそうに冷蔵庫を離れ、台所へ向かう。
それにしても不思議な感じ。エリアスが台所に立っているなんて違和感ありすぎだ。
エンジェリカにいた頃は家事も身の回りの世話もヴァネッサが全部こなしてくれていたので、彼は戦っているところしか見たことがなかった。あくまで護衛隊長だったから。
小振りのポットとコップ、それにスプーンを取り出し、作業を始める。
「エリアス、早朝はどこへ行っていたの?」
「すぐ近くのお店へ行ってきました。確かコンビニエンスストアという、一日中営業している何でも屋です」
「ふぅん……って、えっ!?一日中営業してるの!?」
エンジェリカには一日中営業しているお店なんてなかった。地上界はおかしなところが凄いわね。
「はい。勝手に出歩いてすみません。ですが、色々なものを購入できました」
「何を買ったの?」
「飲食物や日用品といった類いのものを。それと練習用として茶葉も買いました。あと、お茶に合うお菓子も」
……結構買ってるわね。
「エリアス、何だか気合い入ってるわね」
「そうですね」
数分後、彼はお茶を注いだコップをテーブルに置く。
「私は王女のためなら何でもしたいです。貴女が常に笑っていられるように、幸せであれるように。さぁ、どうぞ」
外観は昨日と同じ、アイーシアのお茶だ。
出されたお茶を早速飲んでみる。そして驚いた。昨日より喉越しが滑らかになっている。多少甘みを感じる。
「昨日より美味しくなってる!何か変えたの?」
「えぇ、実はこれを少し」
彼の手に握られているのは蜂蜜だった。
「えっ!は、蜂蜜?でもそんな匂いはしないわよ」
「アイーシアは香りが強いので蜂蜜に負けないようですね。今朝、一度試してみましたが違和感がなかったので。多少改善されましたか?」
「考えたわね。良くなってると思う!それに甘いからデザートにもなりそうな感じね」
そんな深い意味のない会話を続けて暇を潰した。
その時ふと、ある案を思いつく。
「そうだ。明日麗奈と会うんだけど、エリアスも一緒に行かない?」
これなら麗奈にエリアスを紹介できる。上手くいけば彼女の友達が増えることに繋がるかもしれない。
「私ですか?なぜです」
エリアスは台所の端に置いた白いビニール袋の中を探りながら不思議そうに返してくる。
やっぱり変かな。
「麗奈、気の合う友達があまりいないみたいなの。だからエリアスを紹介しようかなーって」
友達が増えるのは素敵なことだわ。それに人間と天使の交流にもなるし。
だが立ち上がってこちらを向いたエリアスは難しい顔をしていた。
「私の聖気では人間に交じるのは難しいです」
確かにこの凄まじい聖気を抑えるのはなかなか難しいかもしれないわね。
「でも買い物はできたんでしょ?それなら……」
「買い物は短時間ですから羽さえ隠せばごまかせます。けれどある程度以上近くにいれば人間でないと分かられてしまう可能性が高いです」
確かに三重坂にはこんな金髪や瑠璃色の瞳の人間はいない。でもジェシカやノアだって髪はカラフルだし、私も金髪だけど特に何も言われたことはない。
麗奈だって普通に友達になってくれたし。
「大丈夫、人間には聖気なんて分からないわ。だから一緒に行きましょ。ね?」
しかしエリアスはまだ頷かない。
「すみませんがお断りします。王女の私生活にまで介入するわけにはいきません。それは護衛隊長の仕事ではないのです」
余計な時だけ頑固なのがたまに疲れる。こんなことどっちでもいいじゃない。大人しく従ってくれればいいのに。
「そっか……」
私はしょんぼりした振りをする。
椅子から立つと、エリアスの前まで行って手を取り、上目遣いで彼を見る。
「でもね、一緒に行きたいの。これはエリアスにしか頼めないことなの。だからお願いっ!……ダメ、かな?」
私から懇願されればエリアスもさすがに断れないはず。
彼は迷っているようだった。しかし、少しすると、フッと柔らかく頬を緩める。
「……そこまで言っていただいて断るわけにはいきませんね。分かりました、同行します」
「ありがとう!」
そう言ってくれると思っていたわ!
「明日でしたね」
彼は相変わらず記憶力が良い。
「えぇ、そうよ!また貴方と一緒にお出かけできるなんて、何だか夢みたいね。嬉しいわ」
これは演技ではない。エリアスと一緒に出かけられるのは純粋に嬉しい。
「麗奈さんに電話しておいてはどうです?いきなり二人で行くと驚かせてしまうかもしれません」
「そうね。言っておくわ」
確かに、と思う。
そして私は電話へと急いだ。
- Re: エンジェリカの王女 《2章2節始動!》 ( No.85 )
- 日時: 2017/08/31 14:11
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: UgVNLVY0)
65話「澄み渡る空」
その夜、久々に夢をみた。
気がつくと私はエンジェリカの王宮の中庭にいた。青白い花が風に揺られるその場所で、私は一人の天使に出会う。
美しい女性の姿をした天使。
それは母の姿だった。
金の髪に燃えるような赤い瞳、儚さを感じさせる華奢な体つき。だが背中には立派な羽が生えている。
「アンナ……?アンナなの?」
彼女は両手を伸ばし私を呼ぶ。温かな微笑みに、私は思わず駆け出した。
「こんなに大きくなったのね。アンナ、会いたかったわ」
間違いない、母親だ。
私をギュッと抱き締める彼女の細い腕は、華奢だけどとても温かくて心地よい。まるで昔に戻ったような懐かしい香りが鼻を抜ける。
「お母様がどうしてここにいるの?」
死んだはずの母が今確かにここにいるのだから、おかしな話だ。こんなことありえない。
「ここは夢の中なの。だから現実じゃない……」
なるほど。その発想はなかった。夢の中で夢だと気づくことってあまりないものね。これは珍しく夢であることを自覚する夢なんだわ。
「それでも会えて嬉しい!」
「私もよ、アンナ」
夢の中だとしても母と再会する日は来ないと思っていた。だから、本当に不思議な感じがして仕方ない。
「あのね。アンナ、聞いてくれる?」
彼女は唐突に切り出す。真剣な表情だった。
「エンジェリカの秘宝の話はヴァネッサから聞いた?」
突然『エンジェリカの秘宝』が出てきて驚く。地上界へ来てからしばらく忘れていたが、そんな話もあったな、と思う。
「ヴァネッサから?聞いてないけど……。でも、その言葉は知っているわ」
「そう。でもヴァネッサから聞いていないのなら、アンナはそれをどこで知ったの?」
彼女の澄んだ赤い瞳に私の姿が映り込んでいる。
「襲ってきた悪魔にね、私がエンジェリカの秘宝を持っているって言われたの。お母様のくれた赤いブローチあったでしょ?あれがエンジェリカの秘宝と思われていたみたい」
すると彼女は心配そうな表情で手を胸に当てる。
「やっぱり悪魔に襲われたのね……。もうそんな時が……」
何か知っているような、そんな素振りが妙に気になる。
「お母様は何か知っているの?もし知っているなら教えて?」
すると彼女は私の肩に手を乗せ、真っ直ぐにこちらを見据えた。赤い瞳が私を捉えている。
「エンジェリカの秘宝。それはアンナ、貴女自身なの」
私は耳を疑った。
「え……?待って。今何て?」
だって信じられなかったの。『エンジェリカの秘宝』が私自身だなんて言われても。
「四百年前にエンジェリカを一度壊したという王女がいるわ。貴女はその生まれ変わりなの」
——もしかして黒い女?
でも彼女は最近出てこない。地上界へ来てからは話していない。
「アンナが生まれた時、伝説の王女の生まれ変わりだとすぐに気づいたわ。聖気が普通の天使と違ったもの」
目の前の美しい天使は懐かしむように、それでいて真剣に口を動かす。
「放っておいたらアンナが伝説の王女と同じ運命を辿ることは分かっていた。だから私は、伝説の王女の封印に使っていたブローチを、貴女に渡したの。少しでも効果があるかと思って」
記憶を思い返してみると、少しだけ心当たりがあった。あの黒い女が現れたタイミングだ。そのほとんどが、私の身からブローチが離れている時だった。
晩餐会の時、私はブローチをうっかり忘れてしまっていた。それでグラスに映る彼女を見た。ライヴァンにブローチを奪われ気絶した時も、夢の中のような場所で黒い女に会った。そして力の暴発を止めきれずブローチが壊れた後、彼女は実体を持ち話していた。
今パッと思い出したのはこのくらいだが、他にもあった気がする。
「アンナはもう目覚めてしまったのね。聖気で分かるわ。今の貴女からは、伝説の王女と同じ聖気を感じる。まさかこんなに早く目覚めるとは思わなかった……」
彼女は少し寂しそうな表情をしていた。
止めてよ。折角会えたのにそんな顔されたら、こっちまで寂しい気持ちになってくるじゃない。
「ごめんなさい、アンナ。私が傍で護ってあげられれば良かったのに……」
「大丈夫。私にはちゃんと護ってくれる天使がいるの。だから心配しないで!」
私はわざと明るく言った。そうしないと湿っぽい雰囲気に流されてしまいそうだったから。
「それより一つ聞いても構わない?」
今度はこちらから話を振る。
「もちろん。構わないわ」
彼女は静かに頷き問いを待つ。
「私、言葉を現実にする力を持っているみたいなの。まぁ最近できるようになったんだけど、これって私の聖気の力?」
すると彼女は答える。
「えぇ、そうだと思うわ」
「やっぱり!」
自分にできることがあると思うのはやはり嬉しい。
「それが、エンジェリカの秘宝が持つと言われている力よ」
……そうか。頭の中で繋がった。パズルのピースが嵌まったような感じだ。
「噂でエンジェリカの秘宝が持つと言われている、どんな願いも叶える力。それは、言葉を現実にするこの力のことなのね」
「えぇ、そうなるわね。……あ。そろそろ時間だわ。それじゃあね。さようなら、アンナ」
彼女の別れの言葉と共に強い風が吹く。
青白い花弁が風に煽られ飛び散る。そして高い空へと舞い上がり、やがて見えなくなった。
まるで母が、天国へ帰ってしまったかのように。
「さようなら、お母様。……またいつか、きっと会えるよね」
そう呟いて見上げた空は、青く澄み渡っていた。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.86 )
- 日時: 2017/09/01 16:22
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: AtgNBmF5)
66話「ゲームって何?」
目が覚めると朝になっていた。窓の外の空はよく晴れていて、文句なしのお出かけ日和だ。
「おはようございます」
そう挨拶してきたエリアスの姿を見て、眠気が一気に吹き飛ぶ。なぜか?彼が人間の服装をしていたからだ。
白いカッターシャツに黒のズボン。いつも着ている全身白の衣装でないとかなりの違和感を感じる。しかし人間の服装もなかなか着こなせている。
「エリアスが何だか人間風になってる」
私は無意識にそんなことを漏らしていた。
「ありがとうございます。人間に見えますか?」
「えぇ、見えるわ」
外から見れば十分人間に見える。長い睫や髪色は、地上界で若干浮くかもしれないが。ただ、ジェシカやノアが問題なく暮らしているのだから、エリアスも大丈夫だろう。
それから朝食を取り、エリアスと出かけることになった。私は桃色のワンピースを着ていくことにした。ジェシカが自分のワンピースを快く貸してくれたのだ。話し方こそまだ少しぎこちないが、親切なところは変わっておらず安心した。
待ち合わせ場所はショッピングモールの入り口近く。私たちが到着した時、麗奈は既に着いていて一人掛けのソファに座っていた。長い水色の髪がよく目立つ。
「麗奈!」
私は大きめに手を振りながら彼女に駆け寄る。声に気づいたらしく振り返った彼女の美しい顔には明るい笑みが浮かんでいた。
「待たせてごめんなさいっ」
手を合わせると彼女は首を左右に動かす。
「気にしないで、アンナ。あたしが約束より早く着いたのよ」
それから一度エリアスに視線を移し、再び私を見て、
「彼がエリアスくん?」
と尋ねてくる。
「そうです。エリアスは私の大切な友人なんです」
エリアスのことを友人と呼ぶのはおかしな感じだが、「護衛隊長です」なんて口が裂けても言えない。
「あら。あたしは大切な友人ではないの……?」
麗奈は寂しそうな表情になる。なぜそういう流れになるのか分からない。
「違います、そんな意味じゃ……」
「冗談よ」
麗奈は長い人差し指を私の唇に当て、クスッと微笑む。どうやら演技だったようだ。良かった、本気であんなことを言われると厄介だ。
「あたしは神木麗奈。エリアスくん、よろしくね」
麗奈はエリアスに対して気さくに挨拶をする。
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
やや固い気もするが、エリアスは人間らしく振る舞えている。凄い、さすがだ。
「それじゃあ行きましょうか。アンナは行きたいところあるかしら?」
あまり考えていなかった。
「えっと……」
すると麗奈が提案してくる。
「あたし久々に見に行きたいところがあるの。もしアンナが特にないなら、そこへ一緒に行かない?」
「そうですね、行きます!」
好きな友達とならどこへ行っても楽しいと思う。私は行く場所より行く相手を重視する派かもしれない。
麗奈について入ったのは、見たことのないものがたくさん売られているお店だった。
私の身長ぐらいの高さの棚には正方形の箱が並んでいる。ちょうど開いた手のひらと同じくらいの大きさで、厚みはそれほどない。そして柄は色々なものがありカラフルだ。
「ここは一体何のお店なんですか?」
麗奈に質問してみた。
すると彼女は笑顔で教えてくれる。
「やっぱり初めて来るの?教えてあげる。ここは、ゲーム屋さんよ!」
「げぇむやさん?」
そんな単語は聞いたことがない。後ろの「やさん」は、八百屋さんとか本屋さんというような店を指し示す「屋さん」だろう。すると「げぇむ」なるものを売っている店ということか……などと色々考えていると、エリアスが口を挟んでくる。
「ゲームというと、遊びのようなものですね」
「あら。エリアスくんは知っているのね」
ふぅん、エリアスは知っているのね。さすがに博識だわ。
「ここで言うゲームっていうのは、機械を使ったゲームなの。機械の中で色々な物語が繰り広げられて、困難を乗り越えたり敵を倒したりして遊ぶわ」
比較的丁寧に説明してもらっても理論がよく理解できない。馴染みのないことを急に理解するのって案外難しい。
「うーん。難しいですね……」
それしか言い様がなかった。本当に分からないんだもの。
「敵を倒すのがどうして遊びなんですか?」
「んー、そうね。じゃあ少しジュースでも飲みながら説明しましょうか」
「お願いします!」
私と麗奈は、一度店を出て、自動販売機でイチゴミルクを買う。エリアスは飲まないらしく断った。折角だし飲めばいいのにね。
私と麗奈はイチゴミルクを持って休憩所のベンチに腰かける。
「あら、エリアスくんは座らないの?このベンチ、もう一人座れるわよ」
エリアスが私のすぐ横に直立しているのが気になったのか、麗奈は彼に声をかけた。すると彼はほんの少し微笑みながら淡々とした調子で答える。
「お気遣いありがとうございます。ですが私は立っている方が楽なのです」
「そうなのね。分かったわ」
麗奈は美しい唇に微かな笑みを浮かべ、それ以上何も言わなかった。
それから私はイチゴミルクを飲みながら、ゲームについて麗奈から教えてもらった。ゆっくり説明してもらうと徐々に分かってくる。
自分の分身を操り冒険したり恋愛したり……というのは実に興味深い。それはつまり、行けない場所へ行ったり知らない者に会って話したりできるということである。
もしエンジェリカにゲームがあれば、王宮から出られなかった頃も退屈しなかっただろうなと思う。
「いつも思うのですけど、人間の発想力は凄いものがありますね。私にはそんなこと思いつきませんでした」
「人間?」
あ。またやってしまった。
麗奈がキョトンとした顔をする。確かに人間とか言い出す人間はおかしい。
「ふふっ、アンナは本当に変わっているわね。でもあたしはアンナのこと、そういうところも含めて好きよ」
良かった、疑われていないみたい。どうやら人間は人間以外の存在が普通に暮らしていると思わないようだ。
イチゴミルクを飲み終えるとゲーム屋さんへ戻り、ゲームのパッケージを見てあれこれ話す。そして昼食は近くにある外国料理店で食べた。米の上にハンバーグと卵が乗ったメニューを選んだ。初めて食べたけど、結構美味しいかったな。昼食の後、午後は色々な店を見て回ったりして、たくさん話した。
とにかく今日は、とても充実した一日だった。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.87 )
- 日時: 2017/09/02 03:24
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 0llm6aBT)
67話「王妃の日記帳」
次の日、天界郵便のキャリーが郵便物を届けに現れたのは昼前だった。いつもは朝早くに持ってくるのに、昼前だなんて珍しい。
「おはようございます!郵便物を届けに参りました!」
キャリーは薄緑色の髪を揺らしながら爽やかに挨拶する。いつものことながら、彼女を見ていると爽快な気分になる。
「キャリーさん、いつもありがとうございます」
笑顔でお礼を述べると、彼女は満面の笑みで返してくる。
……笑顔対決では勝てない。
「いえいえ。お仕事ですから!あ。これがアンナ王女へのお荷物です」
彼女から手渡されたのは、今まで見たことのない分厚い日記帳だった。
「あの……これは?」
いきなり予想外のものを渡されたので、困惑して尋ねる。またしても手紙以外のものが届くとは。
「ヴァネッサさんからのお届けものですよ!」
キャリーは美人とも不美人とも言えないような平凡な顔に屈託のない笑みを浮かべながらそんな風に答えた。
「そうですか。ありがとうございました」
「いえいえ。それではまた!」
キャリーはペコリとお辞儀をすると、軽い足取りで去っていった。いなくなるのは結構速かった。
「王女様にお届けもの?」
ちょうどそこに現れたジェシカが声をかけてきた。やはりもう普通な様子で「良かった」と安心する。
「そうなの。ヴァネッサから日記帳が送られてきたわ」
「へぇ、王女様の日記帳?」
「それが違うの。こんな日記帳見たことないわ」
ジェシカは首を傾げる。
「え。じゃあ何だろ。取り敢えず読んでみたら?」
私はテーブルのところまで行き、日記帳の表紙を開く。そして数ページペラペラと捲る。
「ここ、ラヴィーナって書いてあるね」
横から覗き込んでいたジェシカがページの隅を指差して言った。目を凝らして見ると、確かに小さな字で書かれている。
ラヴィーナ、それは私の母の名前だ。
「じゃあ、もしかしてこれ、お母様の……?」
思わず言ってしまったものだから、ジェシカは驚いたように目を開く。
「えっ。王女様のお母さんの日記帳だったの?じゃあこれ、王妃の日記帳じゃん」
これが母の日記帳ならヴァネッサから送られてきたのも説明はつく。ヴァネッサは母にも仕えていたから。
だが、なぜ今?私はそんな疑問を抱いた。
ちょうどそこに買い物へ行っていたエリアスが帰ってくる。人間の服を着て白のビニール袋を持っていると、もう立派な人間だ。
「お帰り、エリアス」
何げなく声をかける。彼はビニール袋を持ったまま台所まで歩いてきた。
「さっき日記帳が届いたんだけど、お母様のものみたいなの」
すると彼は一瞬にして飛んできて食いつく。
「王妃の日記帳ですか?」
どうやら非常に興味があるようだ。
そうか。そういえばエリアスは母と知り合いだったのだものね。私より彼の方が母のことを知っているかもしれないぐらいだわ。
「……後で見せていただいても構いませんか?」
彼は遠慮がちに頼んでくる。余程興味があるのね。
「もちろん」
——その時。
「来て来てー。おかしなニュースやってるよー」
テレビを見ながら一人寛いでいたノアが私たちに向けてそう言った。一人でいる彼が他者に絡むのは珍しい。
それに対してジェシカは「何?」と短く返す。
「なんか連続通り魔だってー」
と、通り魔っ!?……これまた物騒なのが来たわね。
なぜこの街はこんなにやたらと物騒なのか。悪魔はいるわ、通り魔は現れるわで。
「犯人らしき写真出てるよー」
ノアはのんびりしている。そこ声色はどこか楽しそうにすら感じられるほどだ。
「通り魔だと?」
エリアスが怪訝な顔でテレビのある部屋へ歩いていく。そしてテレビの画面を見た瞬間、彼は言葉を失った。
「隊長どうしたのー?」
エリアスは青くなって硬直した。まるで時が止まったみたいに。
画面には通り魔の目撃写真、黒っぽい青年が映っているだけなのに、何だろう。
「エリアスどうかした?」
ノアに続けて私が尋ねてみた。すると彼は正気に戻る。
「……あ。いえ。何でもありません」
言葉とは裏腹に、彼の態度は明らかに何かあるように見える。いや、この態度で何もない方がおかしい。もし本当に何もなくてこの状態だとしたら、それはもはや普通ではない。
「エリアス、顔色悪いけど……大丈夫?」
彼がこんな風に青ざめるなんて滅多にないことだ。
「はい。問題ありません」
「そう?それならまぁいいけど……」
だが引っ掛かる。
通り魔ごときに怯えるエリアスではないはずだ。それも現実で遭遇したわけではなくテレビのニュースで見ただけ。そのくらい、私でも怯えないというのに。
私がそのことについて考え込んでいると、エリアスはいきなり提案する。
「王女、そろそろ昼食にしましょうか。コンビニエンスストアでお弁当を買ってきました」
「それはいいわね」
軽く返した。
コンビニエンスストアのお弁当は地上界へ来てから何度か食べた。安価なので期待していなかったが、意外と食べられる味だった。極めて美味しいまではいかなくとも、素朴な味で案外嫌いでなかった記憶がある。
「僕も食べたいなー」
テレビの前で寛いでいたノアが会話に乱入してくる。
「ノアは後!」
ジェシカは腕組みをして、ノアに対して厳しく述べる。
「僕コンビニ弁当の唐揚げが好きなんだよねー」
「後って言ってるじゃん」
「王女様から唐揚げ分けてもらおうかなー」
「……そんなことしたらただじゃおかないから」
二人は本当に仲良しだ。ジェシカが堕ちかけたあの日以来、特に仲良くなった気がする。
「うん、唐揚げは止めとくー。代わりにジェシカをもらうことにするよー」
「は?」
若干ノアが暴走している感は否めないが。
「お待たせしました」
電子レンジで温めたお弁当を運んでくるエリアス。
その表情に暗いものは何一つない。至って普通。整った顔には普段通りの柔らかい笑みが浮かんでいる。
青ざめていたのは一体何だったのだろう……もしかして私の気のせい?と思うぐらいだ。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.88 )
- 日時: 2017/09/02 13:47
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: EZ3wiCAd)
68話「今宵の空には星が」
その日の夜、ジェシカがベランダに一人でいるのを発見した私は、彼女に声をかけた。
「ジェシカさん、何をしているの?」
私はベランダへ出て、彼女のすぐ横に静座する。
「空を見てたんだよ」
暗い夜空を仰視していたジェシカはそう答えた。
それにしても、今宵の空はとても綺麗だ。数多の星が輝く夜空は、エンジェリカで眺めたそれを想起させる。凄く懐かしい気分になる。
まだこちらへ来て一ヶ月も経たないというのに、エンジェリカにいたのが大昔のようだ。
「王女様……この前ごめんね」
ジェシカはらしくない遠慮がちな声で謝ってくる。
「気にしていないわ」
「……うん。ありがと」
彼女は空を見上げたまま、短く言った。
それからしばらく沈黙があった。彼女はずっと夜空を見上げてぼんやりしている。
自ら近づいておきながら、何を話せばよいのか分からない。だから私は余計なことを言わないように口を閉じておいた。
冷涼な空気は心地よく、時折吹く風がやや寒く感じられる。パジャマ一枚の私は少し身震いしつつも、この快適な空間へ身を委ねる。
「……ねぇ王女様。あたしさ」
あれからどのくらい時間が経っただろうか。ジェシカが唐突に切り出す。
「ヴィッタに捕まって色々されたじゃん。あの時、正直もうダメかもって諦めかけたんだよね。情けない話だけど」
彼女は自嘲気味に笑う。
「だから助けに来てくれた時、凄く嬉しかった。なのにあたし、王女様に対してあんな嫌なこと……言っちゃって」
暗い顔をする彼女の手を握り首を横に振る。
「ジェシカさん、もういいの。私は気にしていないから」
すると彼女は真剣な顔でこちらに向く。
「あのね、王女様」
いつもは何でもきっぱりと言うジェシカだが、今は少し遠慮がちな小さめの声で言う。
私はなんだかきっちりしなくてはならない気がして、彼女をまっすぐに見据える。彼女の瞳も私だけを捉えていた。
「もう一度あたしと友達になってほしいの!」
そんなこと?と私は思った。拍子抜けだ。
私にしてみれば、私とジェシカが友達でなくなっていたということが一番の驚きである。
「ジェシカさん、何を言っているの?もう友達じゃない」
今度は逆にジェシカが驚く番だった。口をポカンと開け、固まってしまう。内心「そこまで驚くことか?」と思うが、彼女的には衝撃的だったのかもしれない。
「……ジェシカさん?」
あまりに固まっているので控えめに名を呼んでみる。
しかし反応がない。何もそんなに驚かなくてもいいじゃない。
「ジェシカさん?」
念のためもう一度名前を呼んでみると、彼女はピクッと身を震わせる。そして苦笑する。
「ご、ごめん。びっくりしすぎて止まってた……」
びっくりしすぎて止まっていたなんて、こっちが驚きだわ。 そんな心の声を発することはなかったが、よく分からないがおかしくなって、クスッと笑みをこぼしてしまう。まるで伝染したかのように、ジェシカもクスクスと笑い出す。
「あたし、変だった?ごめん。話についていけなくてつい……ふふっ」
彼女は純粋に笑っていた。私は自分が自然と楽しい気分になっていることに気づく。
不思議な感覚だ。ずっと一人で見ていた夜空を、こんな風に友達と喋りながら眺める日が来るなんて。
「あの星たちはエンジェリカで見ていたものと同じなのかな。ねぇ、ジェシカさんはどう思う?」
私は同じものだと思うわ。だって、王宮から見た時と、同じぐらいの明るさだもの。
「あたしはエンジェリカで星なんか見たことないよ。毎日が、今日一日を生き抜くのに必死。そんな暮らしだったから」
そういえばジェシカはずっと貧しかったと言っていたわね。
一日生きるのに必死。そんな暮らし、私にはまったく想像できない。
意識したことがなかったけれど、私は恵まれていたのだ。それをひしひしと感じた。
「食べ物を盗む。邪魔者は殺す。昔はそんな滅茶苦茶な毎日だったなぁ」
彼女は思い出話のように軽いノリで話すが、私は信じられなかった。
盗むなんて。殺すなんて。
——でも、貧しくて、そうしなくちゃ生きていけない状態だったってことよね。
生きるためには罪を犯し続けなくてはならない。そんな暮らし、どんなに辛かっただろう。
「ずっと大変だったのね……」
思わず涙が溢れてきた。
泣き出してしまった私を見てジェシカは慌てている。こんなことで泣いてしまって申し訳ない。
「えっ?えっ?ちょ、待って。何で王女様が泣くのっ!?」
でも涙は一度出ると止まらないものなのよ。
「ごめんなさい、ジェシカさんの話を聞いていたら……可哀想すぎて……」
正直酷いことを言ってしまったと思う。
しかしジェシカはそんなことで怒らなかった。むしろ優しく私を慰めてくれる。しっかりしてるなぁ。
「でもっ、でもね。今はほら!こうやって普通の生活してるし、食べ物にも困ってないから。あたしもノアも楽しく暮らしてる!そうじゃん?」
私は少しでも早く泣き止むよう努める。この状況を誰かが目にしたら、ジェシカが私を泣かしたと誤解するかもしれない。
早く涙を止め——あ。
ガララッ。
部屋とベランダを繋ぐガラスのスライドドアが開いた。
「こんな遅くに何を……なっ!王女!?」
声の主はエリアス。
涙で濡れた顔の私を見るや否や、勢いよく言う。
「一体何があったのです?王女、私が話を伺います」
涙を拭いながら返す。
「ち、違うの。ちょっとだけ待って……」
するとエリアスは隣のジェシカに鋭い視線をやる。
「一体何をした」
「ちょっと待って!あたしじゃないって!殺気怖い、殺気怖いってば!」
彼の恐ろしく鋭い視線にびびり上がるジェシカ。
「エリアス、話を聞いて。今から事情を説明するから……」
「はい。分かりました」
こちらを向いた彼は微笑んでいた。
切り替え早っ!
そんなことで、色々説明しているうちに夜が明けた。
夜な夜なベランダで話すというのは、恐らくかなり近所迷惑な行為だったと思われる。だから苦情を言われるのは覚悟していた。しかし、近隣住民から苦情は一件も来なかった。
近隣住民が広い心の持ち主だったのだろう。……良かった。
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