コメディ・ライト小説(新)
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- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
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流沢藍蓮さん
ひなたさん
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白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: エンジェリカの王女 ( No.69 )
- 日時: 2017/08/23 23:38
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: HTIJ/iaZ)
53話「おつかい、そして出会い」
久しぶりの晴れ!ということで、私は今日、初めてのおつかいに行くことになった。これも社会勉強の一つ。ジェシカからお金と買う物リストを受け取りいざ出発!……大丈夫かな。
一人で外を出歩くなんて初めての経験。でも不安ではない。それどころかウキウキする。
あっという間にショッピングモールに着き、私は指定のお店へ向かった。
「以上で八四○円になります」
レジへ行くとそう言われる。最大の難関、お会計だ。小銭を数える。百円が八、十円が……とその時、おかしなことに気づく。十円玉が一つ足りない。
どうしよう……。
「これでお願いします」
困っていた私の横から一人の女性が紙を出す。どうすべきか迷っているうちに会計は終了し、買い物が済んでしまった。
「あ、あの……払ってもらってすみません。お返しします。あ、でも十円足りないけど……」
艶のある水色の髪が印象的な女性だった。しかも、近くで見るとかなりの美人である。地上界にもこんな華やかな人がいるんだ、と感心する。
「お金は結構よ。それにしてもお嬢さん、もしかしておつかい?偉いわね」
美しい顔が柔らかく微笑む。髪からはフワリとよい香りが漂っている。
「時間はある?もしよければ、少しお茶でもしない?」
突然誘われ困る。今日はおつかいで来たのに。
「あ……ごめんなさい。私、お金あまり持ってなくて……」
断ろうとすると、女性は私の手を握った。
「心配しなくても奢るわよ。クレープとか好き?」
「クレープ……って」
「甘いものよ。お嬢さん、クレープを食べたことないの?」
私が頷くと、彼女は私の手を握ったまま引っ張る。
「クレープを食べたことがないなんて人生損してるわ!早速食べに行きましょう」
楽しそうに笑って言ってきたので、私は誘いに乗ることにした。いや、正しくは流れに乗っただけか。
「自己紹介がまだだったわね。あたしは麗奈。神木麗奈っていうの。貴女は?」
結局彼女にクレープを買ってもらってしまった。彼女はチョコバナナクレープ、私はイチゴクレープ。
「アンナです」
「ふふっ。名前、似てるわね」
店の近くのベンチに座ってクレープを食べながら話をする。麗奈はチョコバナナクレープを上手に食べているが、食べ慣れていない私にはなかなか難しい。こぼしそうだ。
「麗奈さんは近くにお住みなんですか?」
話題がないので適当に尋ねてみる。
「待って、麗奈で構わないわ。麗奈と呼んでもらえる?」
「呼び捨てですか?」
初対面で呼び捨てを希望するなど不思議で仕方ない。
「その方が好きなの。あたしも貴女のことアンナって呼ぶ。だから麗奈にしてちょうだい」
「分かりました」
気がつくと麗奈はチョコバナナクレープを完食していた。私はまだ半分も食べていないのに。
「それで……質問はどこに住んでいるかだったわね。アンナはどこに住んでいるの?」
「バスですぐの辺りです」
「生まれも育ちも三重坂?」
……おかしい。なんだかんだで私ばかり答えさせられている気がする。
「いえ。エンジェ」
「エンジェリカ?」
黄色に輝く瞳が一瞬私を睨んだような気がして戦慄する。
「ち、違います!」
私は慌てて否定した。こんなに慌てていたら怪しすぎるのに。しかし彼女は笑顔に戻る。
「……そうよね、そんなはずがない。ごめんなさい、アンナ。気にしないで」
本当に不思議な人だと思った。人間離れした水色の髪、黄色い瞳。
「……あたしね、夫と息子、それに娘がいたの。でもみんな死んでしまった。ねぇアンナ、貴女はエンジェリカの秘宝って聞いたことがある?」
どうして、それを知っているのだろうか。
「知りません」
私は咄嗟に答えた。問い詰められたら困るから。それにしても……人間にもエンジェリカの秘宝を狙っている者がいるとは、油断も隙もないわね。
「天使の国にあると言われていて、どんな願いも叶えてくれる秘宝。あたしはそれを手に入れて、いつか家族を取り戻したい。所詮ただの伝説かもしれないけれど……」
どんな願いも叶える秘宝なんてあるわけない。それに、死んだ人を生き返らせるなんてきっと不可能だ。彼女もそれは分かっていて、それでも信じたいのだろう。願いはきっと叶う、と。
「大丈夫です。麗奈の願い、きっと叶うと思います」
私は彼女にはっきりと言う。私だって運命を変えられた。だから、きっと彼女も望みに近づける。いつの日か願いを叶えられるはずだ。
「アンナは優しいのね。ありがとう。もしよければ……あたしと友達になってもらえないかしら」
彼女は少し言いにくそうな表情で言った。
「もちろん!私も麗奈と友達になりたいです!人間の友達は初めてで……」
「人間?」
あ。
しかし麗奈は面白そうに笑った。
「人間って……。貴女少し変ね!でも、面白くて好きよ」
良かった、怪しまれていないようだ。私は胸を撫で下ろす。
「あたしもこんなに気の合う友達は貴女が初めて。これ、もしよかったら連絡して」
麗奈が手渡してきた紙切れには何やら番号がかかれている。もしかして、電話番号かな。
「電話番号ですか?」
「えぇ。あたしの家の電話番号よ。いつでもかけてちょうだい。話しましょう。そうだ、アンナの電話番号も教えて?」
私は口頭で麗奈に電話番号を伝えた。念のため覚えておいて良かった。
「それじゃあね。今日は楽しかったわ。また会いましょう」
「さようなら!」
私と麗奈は別れた。本当はもう少し長く話していたかったけど、また会えるから心配ない。次会った時にまた話せばいい。それだけのことだから。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.70 )
- 日時: 2017/08/24 17:49
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: q9W3Aa/j)
54話「三重坂遊園地」
私は人間の友達ができたことが嬉しくて、おつかいから帰ると、ジェシカとノアにすぐそのことを話した。
「友達ができた!?」
「馴染むの早いねー」
麗奈からもらった電話番号の紙切れを二人に見せる。
「麗奈っていうの。とても綺麗な女の人よ。そうだ、早速電話してみてもいい?」
私はあれからずっとウキウキする気持ちが止まらない。今まで友達なんてほぼいなかったのに、地上界へ来るなりこんな素敵な出会いがあるなんて。
それから電話のところまで歩いていくと、ウキウキしながらボタンを押す。こんな気持ち、初めて。
「……はい。神木です」
しばらく呼び出し音が鳴っていたが、やがて麗奈が出てきた。少し暗い声だ。
「こんにちは、アンナですけど……」
「えっ。アンナ!?早速電話かけてくれたのね。ありがとう」
電話をかけてきたのが私だと分かった途端彼女の声は明るくなった。
「アンナ、何か話したいことがあるの?」
「またいつか会えますか?」
「えぇ。構わないわよ。あたしも会いたいわ。いつがいいかしら……」
電話はエンジェリカにもあったけど、地上界の電話はエンジェリカのものより音が良い。雑音も気にならないし、相手の声がはっきりと聞こえる。
「今日が金曜日でしょ。えぇと……来週の月曜日はどうかしら。予定、空いてる?」
「ちょっと確認してみます」
冷蔵庫の中を覗いていたジェシカに約束していいか確認する。ジェシカは案外サラッと「いいよ」と答えてくれた。私はすぐに電話に戻る。
「月曜日、大丈夫です!」
「ありがとう。それじゃあまたショッピングモールで待ち合わせにする?」
「はい。時間は……」
「十二時にして一緒にお昼でも食べましょうか」
「ありがとうございます。それではまた!」
「さようなら。またね」
友達と約束してお出かけなんて初めての経験だ。月曜日が今から待ち遠しい。
私は友達ができたことをエリアスへの手紙に書くことにした。心配しているかもしれないから、楽しく暮らしているということを伝えなくては。
翌日の朝。
「王女様、おはよっ。今日は土曜日だしどこか遊びに行く?」
朝早くからジェシカが元気いっぱいで言ってくる。私はまだ寝ていたのに、そんなことはお構いなしだ。
「遊びに行くって……、どこへ行くの?」
私は半ば寝ぼけながら聞き返す。
「どこがいい?遊園地とか?」
遊園地はエンジェリカにもあった。なんでも乗り物や軽食の店がある楽しいところだとか。もちろん私は行ったことはないが。
「素敵。楽しそう」
「決まり!じゃあノアを起こしてくるよ。あいつ寝過ぎ!」
ノアが寝ている部屋へ行く。しばらくするとジェシカの大きな声が聞こえてくる。
「ノア!いい加減起きて!」
「えー?眠いー……」
「アンタいつまでダラダラ寝てるつもりっ!?」
暫しやり取りをしてから、ジェシカがノアを引っ張るようにして現れた。ノアはうつらうつらしていて、まだ半分寝ている。しかも寝起きだからか酷い寝癖がついていた。
「ノア、準備して!今日三人で遊園地行くから!」
「えー。眠いなー……」
マイペースすぎるノアに苛立っているのかジェシカの拳が震えていた。
「ノアが無理なら二人で行っちゃうよ。アンタだけ家族に入れないよっ!」
「……準備してくるー。家族は三人だもんねー……」
ノアは突然やる気になった。やっぱり家族というものに憧れと執着があるからかな。
十分くらい経っただろうか。ノアがいつもの感じになって現れた。凄かった寝癖もとれている。恐るべき準備速度だ。
「どうー?準備したよー」
勝ち誇った顔をしている。
「……ふん。男だもん、早く準備できるのは当たり前じゃん」
「ジェシカは意外と着替えるの遅いよねー」
「うん。黙ろうか」
ジェシカは微笑みながらノアの喉元に剣先を突きつけていた。どうやらかなり苛立っているらしい。ノアは両手を上げている。
「ごめんなさいー」
それからも様々な困難があったが、一つずつ乗り越え、ついにたどり着いた。
三重坂遊園地!!
土曜日の午前。遊園地はファミリーやカップルで賑わっている。
馬のメリーゴーランド、回るティーカップ、猛スピードで駆け抜けるジェットコースターまである。なんとも贅沢な遊園地。地上界では普通なのかもしれないが私の目にはそう映った。
「さて、どうするっ?」
いつものことながらテンションの上がっているジェシカが明るく尋ねてくる。……毎回私に振るの、止めてほしい。
「ジェシカさんはどこへ行きたいの?」
「えっ、あたし?あたしはあそこに行きたいかなっ」
ジェシカが指差した先には、おどろおどろしい小屋があった。いつ建てたのだろう、と疑問符が出るほど古ぼけている。
「うわ……、あんなところ?なんだか怖くない?」
「けど楽しいよっ。お化け屋敷、あたし好きなんだ」
何と言えばいいのだろうか。背筋が凍りつくような感じがする。
「僕はティーカップにでも乗ってくるよー」
ノアはそそくさと行ってしまった。私は今更断るわけにもいかず、渋々ジェシカとお化け屋敷へ入ることにした。
「はーっ、面白かった!」
小屋の裏口から外へ出る。
……疲れ果てた。お化け屋敷の中は地獄のようになっていた。蒟蒻は降ってくる、死人は生き返る。井戸から出てきた女性が美女だったことだけが、まだしもの救いか。
ジェシカは気持ちよさそうに伸びをしている。彼女はあの地獄を楽しんだらしい。
「王女様はどうだった?」
「……疲れたわ」
「そっか。付き合ってもらってごめんねっ」
「いいえ、気にしないで」
確かに疲れたが、謝られるほどのことではない。
そんな時だった。
カッ、カッ、カッ……。
「久しぶりだねぇ、王女」
赤髪の少女がわざとらしく足音をたてながら姿を現す。
「……魔気」
ジェシカは顔を強張らせ警戒した表情を浮かべる。
「キャハッ!今日は女と二人かぁ。女じゃヴィッタの相手にならなーい。キャハハハッ!」
甲高い奇声のような声で一人笑い続ける。
「この悪魔!何者よ!」
するとヴィッタは静かな声で答える。
「……ヴィッタは、四魔将の一人。紅の雷遣いヴィッタ」
そして空へ舞い上がる。
「女なんかヴィッタの敵じゃなーい。でもやる気なら、そっちからどうぞ!キャハッ!キャハハハハッ!」
- Re: エンジェリカの王女 ( No.71 )
- 日時: 2017/08/24 23:07
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: GTJkb1BT)
55話「女同士の戦い」
三重坂遊園地・お化け屋敷裏、突如現れた赤い髪の四魔将ヴィッタと対峙するジェシカ。
私はただその様子を見守るだけ。
「アンタ、ホントにここで戦う気?そんなことしたら人間に迷惑かかるじゃん!ちょっとは考えなよ」
「キャハッ!だよね!だけど、その心配はないよぉ」
ヴィッタは宙に浮いたまま指をパチンと鳴らす。すると空が黒く染まった。お化け屋敷の小屋はあるが、さっきまでいた人間たちが見当たらない。
「……何をしたの?」
ジェシカは怪訝な顔で聞く。
「キャハッ!周りの時間を止めただけだよぉ。四魔将はこんなこともできちゃう!凄いでしょ、キャハッ!キャハハハッ!」
何が愉快なのか分からないが、ヴィッタは一人、高テンションで笑っている。
「……ふん。じゃあやりたい放題暴れていいってことだね」
ジェシカは聖気を集める。そして作った剣を握り、構えた。 場所が場所なのであまり派手には暴れられないと思うが……。
「そうそう!キャハッ。そっちからどうぞ!」
宙に浮いているヴィッタは挑発するように言い放つ。口元に不気味な笑みを浮かべている。
「バトルキターッ!いいじゃん!面白いじゃん!……なら遠慮なくいくよ」
そう言うジェシカの表情は、異常に生き生きしていた。
剣に桃色の光が集まり、刃が光り輝いてくる。恐らく聖気を込めているのだろう。
次の瞬間。
「せいっ!」
ジェシカは剣を大きく振る。桃色の衝撃波が上空のヴィッタに飛んでいく。一直線に。ドオォン、と音が響き、上空で爆発が起こる。
が、衝撃波は赤いリボンで防がれていた。
「キャハッ!甘いねぇ!」
ヴィッタの反撃。赤いリボンがジェシカに迫る。
「あたしに勝てると思ってるんじゃないよ!」
ジェシカは迫るリボンをすべて剣で斬った。そして地面を蹴りヴィッタに向かって飛び上がる。
「王女様に手を出すやつは許さないんだから!」
小屋の裏という狭い場所では動きにくいが、上空へ行ってしまえば全力で剣を振れる。これでやっとジェシカも本領を発揮できる、というところだろう。
まるで意思を持ったかのように次から次へと襲いかかってくるリボンを確実に斬り刻んでいくジェシカ。素早い剣技でヴィッタを圧倒する。
追い込まれ気味のヴィッタは急に顔をしかめた。
「あーもー!テメェ、面倒!」
赤い電撃を放つ。
「……くっ!」
ジェシカは即座に回避するが、完全には避けきれず、羽の端に電撃が突き刺さる。
「貧乏臭ぇんだよ!テメェ!」
怒っているヴィッタは品のない怒声を撒き散らし、激しい電撃を放った。先の一発でバランスを崩していたジェシカに電撃が襲いかかる。
「ぐあっ!」
今度は避けられない。赤い電撃の直撃を食らったジェシカは短い声を出して落ちてくる——が、地面へ落ちる直前にクルッと回転し、綺麗に着地する。華麗な身のこなしだ。
「ジェシカさん!」
心配して名を呼ぶ。
本当に情けない。私はいつも狙われるだけで、戦う力なんて少しもないんだもの。いや、力がないことはないかも。言葉の力を使えば……でも、逆に足を引っ張るかもしれないから止めておこう……。
「心配無用!大丈夫っ!」
ジェシカは横目でこちらを見ると、元気そうな声で返してくる。どうやら甚大なダメージではなさそうだ。
「キャハッ!ちゃーんと着地するとか、なかなかやるねぇ」
余裕を取り戻したからかヴィッタの口調は元に戻っていた。
ジェシカは再び空へ飛び、ヴィッタに向けて剣を振る。
「でも、さっきより遅くなってるねぇ」
「黙れ!」
「強気だねぇ。キャハッ!無理しないでいいよ」
——刹那。
ドゴォッ、と低い音がした。
「でも欲しいかもぉ」
ヴィッタがジェシカの腹を殴っていた。肉弾戦はしないものと思っていたので驚いた。
何本もの赤いリボンがジェシカへ向かっていく。
「……くっ!」
数本の赤いリボンに縛られた。
「何すんの!離してよっ!」
ジェシカは強気にそう叫びつつ体を動かして抵抗する。しかしリボンはびくともしない。それどころか、ミシミシと音をたててジェシカの体を締め上げていく。
「あっ……う……」
赤いリボンにミシミシと締め上げられるジェシカ。胴を、腕を、羽を、リボンは無情に締めていく。強く圧迫され、ジェシカは苦しそうに呻いた。
「ヴィッタ!何をするの。すぐに離しなさい!」
「やーだねー。キャハッ!」
ふざけた態度が腹立つ。
「この女は連れて帰ってヴィッタのおもちゃにするんだから!キャハッ!さーいこー!」
前も思ったがこの女はおかしい。いちいち意味が分からない。
「王女様……逃げ……て」
ジェシカは苦しそうに息をしながら漏らす。
「ヴィッタ!離しなさいよ!」
彼女は面白そうに笑う。
「エンジェリカの王女。この女を助けたいなら魔界まで来てよねぇ。キャハッ!」
赤いリボンに縛られているジェシカをヴィッタは担ぎ上げた。意外と力持ちだ。
「待ちなさい!」
「バッカだねぇ、待たないよ。それじゃバイバーイ」
ヴィッタは満面の笑みでわざとらしく手を振る。
「ヤーン!天使で遊べるなんて、ヴィッタ嬉しすぎっ。カルチェレイナ様に自慢しよーっと」
彼女がいなくなると黒くなっていた周囲が元に戻った。遊園地の賑わいが耳に入ってくる。
「王女様ー」
ノアが走りながらやって来た。はぁはぁいっている。
「……ノアさん」
——怖い。言えない。
ジェシカが連れ去られたなんて、ノアに言えるわけがない。
「あれー、ジェシカはー?」
「…………」
黙り込む私を眺めながらノアは呑気に首を傾げている。
「……ごめん。ノアさん……、私……」
地面に座り込んでしまう。
ジェシカを連れ去られたなんて言ったらノアに嫌われるかもしれない。折角家族とまで言ってくれたのに。
「赤い悪魔が来たんだよねー」
えっ?
ノアの顔は笑っていた。もしかして、私の心を察してくれたのだろうか。
「魔気ですぐに分かったよー。遅くなってごめん。……でも、王女様だけでも無事で良かったなー」
優しく言って、そっと抱き締めてくれる。
「ジェシカは大丈夫だよー。僕が助けに行くからねー」
「……私も行くわ。私も行って、ちゃんと謝らないと!」
「王女様は純粋だねー」
何げない一言、ただそれでも少し心が温かくなる。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.72 )
- 日時: 2017/08/25 08:45
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: k9gW7qbg)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=5811&page=1
本作の主人公・アンナ王女のイラストを描きました。
構想開始から始まったアンナたちとの付き合いも、もう2ヶ月以上になります。
個人的にとても色々なことがあった時期でした。私が辛かった時、彼女たちがいつも寄り添ってくれたことに、感謝しかありません。彼女の人生を書き続けたい、その想いがいつも私をささえてくれました。
私から生まれたキャラクターに救われるというのは不思議な感じですね……。
そして投稿を始めてからコメントをくださった方々にも感謝しています。純粋に嬉しかったし元気を貰えました。ありがとうございました!
……と、唐突にしんみりしたことを書いてしまいました。すみません。
完結までまだまだ走り続けます。
これからも『エンジェリカの王女』をよろしくお願いします!
- Re: エンジェリカの王女 ( No.73 )
- 日時: 2017/08/25 19:09
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 6kBwDVDs)
56話「私の持つ力」
その日の夜、私は麗奈に電話をかけた。来週の月曜日にしていた会う約束を取り消そうと思って。しかし電話は繋がらなかった。仕方なく諦め、明日の朝にかけ直すことにした。
「ノアさん、ノアさん?」
椅子にぼんやりと座っていた彼に声をかける。だがしばらく返答がなかった。帰ってきてから彼はずっとこんな感じだ。
ジェシカが拐われた。
優しい性格の彼は私を責めはしなかったが、本当はショックを受けていたのかもしれない。
「ノアさん!」
少し声を大きくすると、彼はハッとしてこちらを向く。
「あ、王女様。何か用ー?」
何もなかったかのように装っているが、いつもより声のトーンが低い。……無理もない。小さい頃からずっと一緒だった相棒が拐われたのだから、ショックを受けるのも当然のことだ。
「ノアさん、私ね、少し練習してみたいと思うの」
言葉が現実になる不思議な力。あれを確実なものにすれば、ジェシカ救出に役立つかもしれない。そう思ったのだ。
「言葉が現実になる力を使いこなせるように練習するのー?いいよー。試してみようかー」
ノアは私が言わんとしていることを理解してくれ、そのうえ快く頷いてくれる。いつものことながら本当に良い天使だと思う。
準備は十分もかからなかった。
チラシを貼りつけた糸を天井から垂らす。左右に三つほど。
「これは……何をするの?」
私の脳内に疑問符が溢れる。一体何の練習をするための用意なのか。
「説明するねー。今から僕が右か左か真ん中って言うから、そのチラシを破ってみてー」
なるほど、実に地道でシュールな練習ね。けど少し楽しそうでもある。
「指定された位置のチラシに、破れろって言えばいいのね。楽勝だわ!」
このくらいなら私でもできそうだ。力も要らないし。
「じゃあ、真ん中ー」
私はその声に頷くと、真ん中のチラシに意識を向ける。そして今までみたいに心の中で「破れろ、破れろ」と繰り返す。
そして。
「破れろ!」
と叫んだ。
しかし、驚いたことに何も起こらなかった。真ん中のチラシは破れるどころか折れてすらない。私が叫ぶ前とまったく同じ状態。
「え……。ど、どうして……?何も変わってない……」
慌ててノアに目をやる。
「ダメだったねー」
あっさりそう言われた。ちょっと落ち込みそうだ。
「何度でも試してみるといいよー。次は左ー」
そんな風にしばらくずっと同じことを繰り返した。だが残念なことに、私の力が発動されることはなかった。
「そんな、どうして!?」
これくらい容易いと思ったのに。
「うーん。内容の問題かなー。じゃあ別のこと試してみようかー?」
「えぇ、そうね」
「じゃあ僕を浮かせてみてー」
いきなりランクアップしすぎな気がするが。
「分かった。やってみるわ」
私は意識を彼に向ける。
「浮け、浮け……浮けぇっ!」
ゴンッ!
一気に浮いたノアが天井で背中を打って勢いよく地面に落ちた。
「せ……成功だねー……」
打った背中をさすりながらノアは言う。天然気味なノアですらさすがに痛いようだ。
「これは役立ちそうだねー。十分痛いよー……」
上手くいったようだ。
まぁノアにダメージを与えても意味がないけどね。
「王女様の力はどうやら生物に対して働くみたいだねー」
「そっか!」
それならチラシが破れなかったことも説明がつく。
「王女様ー、他のこともしてみていいよー」
ノアはまだ背中をさすりつつもニコニコしている。
「次はもっと軽くしてみるわ。……浮けっ」
するとノアの体がフワリと持ち上がり空中でフワフワ漂う。
「おー。浮いてるねー」
ノアは感心している。
「はいっ、着地っ」
すると彼はゆっくり地面に降りた。
「王女様は凄いなー。もうマスターしたんだー」
「でも……疲れたわ……」
急激に体が重くなる。だるい、という感じ。
「聖気を使ったことによる疲労じゃないかなー?僕もやりすぎると段々しんどくなるよー」
「どうすれば回復するの?」
「しばらく待つことかなー。勝手に回復するよー」
なかなか深いな、聖気。そんなことを思いつつ、少し嬉しい気持ちになっていた。
この力があれば私も少しは役に立てる。戦力になれる。もちろんエリアスやジェシカに勝てるはずはないけれど、それでも全然構わない。
翌朝、天界郵便のキャリーがまた郵便物を持ってきた。
「おはようございます!今日はやや大きめの郵便物がありましたよ!」
キャリーは丁寧に教えてくれる。見ればすぐ分かることなのに。
彼女が帰ってから、受け取った茶封筒を開ける。すると中から便箋一枚と手のひらサイズの四角い板が出てくる。
便箋を読んでみる。
『エンジェリカの王女へ 昨日は楽しかったねぇ。同封した四角いやつの、下のところにあるボタンを押してみて!そしたら話せるよ。 ヴィッタより』
「何これ!?ノア、来て!」
私は驚き急いでノアを呼ぶ。
「……何だろうねー」
ノアは怪訝な顔をしながら、四角い板の下のところにあるボタンを押した。すると板に映像が現れる。
暗い牢獄のようなところで、ヴィッタの姿が映っていた。
「ヤーン!早速つけてくれたんだぁ、ありがと!」
映像のヴィッタは言いながらこちらを向く。
「昨夜は久々に楽しかったぁ!王女がヴィッタにくれたおもちゃ、凄く良かったよぉ。一晩中遊べちゃった!やっぱり生きがいいと持ちが違うねぇ」
彼女は随分ご機嫌なようで、ただひたすら一人で喋り続ける。まるで独り言かのように。
「王女、素敵なおもちゃをくれたお礼に、ヴィッタの遊びを見させてあげるよ!キャハッ!」
ヴィッタがこんなにご機嫌だということは……。
私は嫌な予感しかしなかった。
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