コメディ・ライト小説(新)
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- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
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流沢藍蓮さん
ひなたさん
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チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: エンジェリカの王女《まもなく2章終了》 ( No.109 )
- 日時: 2017/09/12 14:48
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: dSN9v.nR)
81話「真実には向き合えない」
顔を上げたエリアスの表情はもう暗くなかった。目つきもいつもの彼らしい鋭さを取り戻している。
「……そうでしたね、王女。私は貴女の護衛隊長です」
開いた手に白く輝く聖気が集まってくる。やがて出現した長い槍を彼は構えた。
それに対しレクシフが激しく叫ぶ。
「エリアスさん!天使でありながら王に武器を向けるなど、裏切り行為ですよ!」
ディルク王に忠誠を誓う彼からすればありえない行為なのだろう。それがありありと分かるぐらい取り乱している。
エリアスは長槍でレクシフに攻撃を仕掛ける。当然首を取りにいくような本気の振りではないが、それでも当たれば十分な威力がありそうだ。槍が長いので攻撃が届く範囲も広い。
しかし、ギリギリのところで赤い髪のツヴァイが間に入り、エリアスの長槍を弾き返した。
彼の手には二本の短剣が握られている。持ち手は髪と同じ赤い色。刃は銀色で、雲のように曲線的なラインを描いている。今までに見たことのない珍しい形状の短剣だ。
「ちょっとちょっと。いきなり攻撃は酷いっすよ。何考えてるんですか、エリアスさん」
ツヴァイは二本の短剣でしっかり槍を受け止めつつ、私を見張っているレクシフに対し「先に行け」と言った。「こいつは俺が相手するから」と、エリアスを悪者みたいに扱う。
レクシフが体に触れようとした瞬間、私は半ば無意識で「触らないで」と叫んでいた。純粋に触れられたくなかったのだ。いくら仕事だといっても、親しくない相手に触れられるのは、いい気がしないもの。
しかしその直後、レクシフが物凄い勢いで吹き飛んだ。まるで彼が空き缶のように軽くなってしまったかのようである。私は一瞬何が起きたか掴めなかったが、どうやら力が発動したらしい。「触らないで」と言ったからだと思われる。
身構えずに吹き飛ばされたレクシフは壁にぶつかった衝撃で立ち上がれそうにない。
私からレクシフが離れたことに気がついたエリアスは咄嗟に槍を消してこちらへ飛ぶ。しかしツヴァイが素早く足首を掴んでいた。エリアスは引きずり下ろされ、そのまま地面に打ち付けられた。
「エリアスさんはアンナ王女のことしか見ていない。それで俺に勝てると思うとか甘いんっすよ」
ツヴァイは地面に叩きつけられ立てないエリアスの背中に乗って押さえ込む。
「よく護衛隊長名乗れるっすね。本当はアンナ王女のこと、恋愛として好きなんでしょ?」
「……何を言って」
エリアスは顔を強張らせる。いきなりそんなことを言われれば意図が分からず警戒するのも無理はない。
「まぁアンナ王女は美人さんだしおかしな話ではないっすけど。やっぱエリアスさんも案外普通の男なんっすね」
「黙れ!」
ニタリと笑みを向けられたエリアスは暴れて抵抗する。しかしツヴァイは慣れているらしく一切動揺しない。両腕を背中に押し付け、がっちりとエリアスを押さえ込んでいる。
エリアスが逃れられないとはかなりの力だ。
「叶わない恋は辛いっすよね。気づいてすらもらえない……」
「離せ!」
ツヴァイの発言を振り払うように叫ぶエリアス。
「いや、それは無理っす。それよりエリアスさん。本当は触ったり愛を囁きあったり、今よりもっと近くにいったりしたいんでしょ?」
「そんなこと……!」
否定しつつもエリアスは赤面している。もしかして図星なの?私は少しそんな風に思ってしまった。
「王女様っ」
レクシフがこちらへ来る前にジェシカが来る。その手には剣が握られていた。傷だらけの体だ、剣をとってもまともに戦えないだろう。
「ジェシカさん、戦うつもり?」
尋ねると彼女は首を左右に振った。
何か別の作戦があるのだろうか。戦わないにも関わらず剣を構えるということは時間稼ぎかそれとも……。
「見よ!これぞ我が必殺技!」
突如ライヴァンの騒がしい声が響く。全員の視線が彼に注がれる。
「麗しき僕!」
謎のポーズと共に大量の魔気が噴出される。レクシフとツヴァイはさすがに怯む。
その隙にジェシカが私の手を引っ張って、どこかへ連れていくのだった。
だいぶ走った気がする。どのくらい走り続けたのだろう、呼吸がはぁはぁと乱れる。こんなに走るのは久しぶりだ。
運動なれしているからか、ジェシカは呼吸が乱れていない。慣れって凄いことね。基本運動不足の私は必死だったわ。途中で何度も転けそうになったし。
「王女様、大丈夫?」
辺りを見回してみるがディルク王はいない。ツヴァイとレクシフの姿もなかった。
「何とか。でもエリアスはどうなって……」
「ここさ!」
振り返るとライヴァンが立っていた。その隣にかなり疲れた表情のエリアスもいる。
「体は大丈夫?」
すぐに駆け寄り確認する。ツヴァイに押さえ込まれた時にどこか痛めていないか心配だ。
彼は私の質問に頷いたが、いつものような微笑みは浮かべない。
その時ふとツヴァイの言っていたことを思い出す。
アンナ王女を恋愛として好き、というあの言葉を気にしているのかもしれない。私はそんなことは気にしないが、真面目な彼のことだ、何か思って悩んでいるしれない。
彼は触れてほしくないだろうが、いつまでも放置していると余計にややこしい。だから私はストレートに尋ねてみることにした。
「ねぇ、エリアス。ツヴァイが言っていたことは本当?貴方は私を好きなの?」
- Re: エンジェリカの王女《まもなく2章終了》 ( No.110 )
- 日時: 2017/09/13 07:54
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 4V2YWQBF)
82話「新たな護衛」
張り詰めた冷たい空気が肌を刺すようだ。
私の問いを最後に、長い沈黙が訪れた。
いつもなら大抵何でも答えるエリアスだが、今は唇を一文字に結んで黙り込んでしまっている。……少し悪いことを聞いてしまったかもしれない。
「エリアス、どうなの?本当のことを教えて」
もう一度尋ねてみる。
答えを待つ時間はとても長く感じられた。数十秒にすぎなかっただろうに。
私は彼の瑠璃色の瞳を直視した。
「……私は」
エリアスは伏せ目気味にしながら小さく口を開く。
「私には……分かりません。そんなこと考えてみたことがなかったのです……」
途切れ途切れ言葉を述べる。
それが真実なのだろう。彼が嘘を言えるほど器用な天使でないことはよく分かっている。
そこに見守っていたジェシカが口を挟む。
「あたしにはそう見えるよ」
真剣な表情だった。
「気づいてないのかもしれないけど、エリアスは王女様のこと好きだと思う。ずっと見てたから分かるよ」
私はうっかり彼女の存在を忘れていた。エリアスに恋心を抱いていた彼女の前でこんな話をするのはまずかったかな?
「……分かりません。私にはまだ分からない。だから、もう少し考えさせてはいただけないでしょうか」
エリアスは言いながら深く頭を下げた。そこまでしなくても、と思いつつ返す。
「分かったわ。気にしないで」
私は、少しでも彼を緊張させないように、笑顔を浮かべる。
「……ありがとうございます。ですが、私が貴女の護衛隊長でありたいということ。これだけは紛れもない事実です」
そうよね、私もエリアスに護衛隊長でいてほしい。紛れもない事実よ。
いきなり護衛が他の天使に変わるなんて、そんなのごめんだわ。いくら父の忠実な家来だとしてもエリアスの代わりにはならない。
一緒に過ごしてきた時間に敵うものはない。
「私、もう一度父に話してみるわ。護衛隊長はエリアスがいいって。父はカッとなると物凄く頑固になるけど、冷静になったら理解してくれる。そういう性格だもの」
横にいるジェシカはうんうんと頷く。
それを聞いたエリアスは、初めて表情を緩めた。
「ありがとうございます、王女。とても嬉しいです」
顔から憂いの色は消え、花が咲いたように明るい表情になっている。彼が少しでも元気を取り戻してくれて良かった。
もちろんそう簡単にいくとは思えないが——何と言われても諦めない。私の意思はもう確定したのだから。
「これはもしや、『これにて解決!』というやつだね?」
ライヴァンが急に口を挟んできて、ジェシカは渋いものを食べたような顔をする。
「アンタちょっと空気読みなよ……」
呆れた調子で言い放つ。
「なっ!この麗しき僕の発言が邪魔だったというのか!?」
ライヴァンは驚きを隠さず顕わにした。目は大きく開かれ、口も派手に歪む。
今に始まったことではないが、彼の極めて派手な反応はいつも私を不思議な気持ちにさせる。これが素なのだろうか。だとしたら、かなり愉快な悪魔である。
それに彼は天使にすっかり馴染んでいる。一緒にいても違和感がないし、むしろ愛嬌があって可愛く思えてくるぐらいだ。
「うん、邪魔。そもそもさ、その麗しき僕とか言うの止めてよ。キモいじゃん」
「なっ、なにぃ!僕に対してキモいとは、もしや嫉妬か!?」
「アンタに嫉妬とかないわー。冗談きついよ、黙って」
ジェシカとライヴァンはいつの間にか馴染んだらしく、そんなやり取りを続けている。テンションの差がかなり凄い。
二人の様子を眺めていると何だかおかしくなってきて、私はつい笑みをこぼしてしまった。天使と悪魔がこんなに仲良く喧嘩しているんだもの。珍妙な光景だわ。
突如、気配を感じ振り返る。
ザッザッという複数の足音が聞こえ、向こうから歩いてくる姿が見てとれた。ディルク王にツヴァイとレクシフ。三人だ。
話にだいぶ時間を使っていたせいで追いつかれてしまったらしい。でももう怯まない。心の準備は十分できた。
「アンナ、ここにいたか。逃げるとは驚いたぞ」
それはまぁ私が考えたわけじゃないけれど。
「ごめんなさいお父様。少し話し合う時間がほしかったの」
「それは別に構わぬ」
逃げたことに対してはそれほど怒っていないようだ。
「あのね、お父様。私やっぱりエリアスと離れたくないわ。彼は大切なの。信頼しているの。だからこれからもエリアスに護衛隊長であってほしい!」
私は思いをすべて打ち明けた。伝わらないかもしれない。恐らく分かってもらえないでしょうね。でも、それでも言いたかったの。
——しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。
「よかろう」
一瞬耳を疑った。
だってあんな頑なに「エリアスを護衛隊長とは認められない」と言っていたのに、急にコロッと認めるなんて何だかおかしいきがする。
さらにディルク王は続けた。
「だがアンナの護衛が戦力不足なのは事実。この二人も護衛に加えておくといい」
ディルク王はツヴァイとレクシフを一歩前に出させる。
「アンナ王女、先ほどは失礼しました。これからよろしくお願いします」
「エリアスさんの恋愛運調べとくっすよ!」
レクシフはともかく、ツヴァイは何を言っているのやら。そもそも挨拶ではないし話がだいぶずれている。
……気にしたら負けかな。
「地上界の話を聞かせてほしい。アンナ、速やかにエンジェリカに帰るぞ」
私はエリアスを傍に寄せてから頷いた。
そこでジェシカが口を開く。
「王様!あたしたちが住んでた家はどうすればいい?」
うわぁ、ため口だ。彼女は王に対しても普通にため口で話す。ある意味新鮮だ。
「必要なものだけまとめよ」
ディルク王も当たり前のように返す。口調とかを気にしないあたり少し変わっているわね。
「分かった!じゃあ早速片付けてくるよっ」
「では自分も同行します」
名乗り出たのはレクシフ。
「ジェシカさん一人では荷物を運べないと思いますので自分も参ります。アンナ王女、構いませんか?」
えっ。わ、私なの?
「どうして私に?」
「今後しばらくは貴女が主人ですので。行動には主人の許可が必要です」
本当に真面目な天使だわ。
「もちろん構わないわ。ジェシカさんをよろしくね」
私がそう答えると、レクシフは真面目にお辞儀した。
- Re: エンジェリカの王女《2章終了!》 ( No.111 )
- 日時: 2017/09/13 19:43
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 6FfG2jNs)
83話「三重坂との別れ」
ジェシカは必要な荷物をまとめるために一度暮らしていた家へ戻る。鴬色の髪のレクシフもそれに同行することになり、私は二人を見送った。後で合流するというだけのことだが、何だか少し寂しい気もする。
私は、この前ノアと買ったジェルキャンドルの材料も持ち帰るよう、ジェシカに頼んだ。
材料は買ったものの色々忙しくてまだ作れていなかったジェルキャンドル。少し落ち着いたら作ってみたいと思うの。カラフルな砂はとても綺麗だったし、あれを使えばきっと素敵なものができるわね。
そして私はエンジェリカへ帰るため天界列車の乗り場へ向かった。ディルク王とツヴァイ、そしてエリアス。四人で乗り場へ——と思っていたら、ライヴァンもちゃっかりついてきていた。
……馴染みすぎ。
もう悪魔になれないんじゃない?なんて思うぐらい。
エスカレーター。改札。
懐かしい思い出が蘇る。
ジェシカとノアの案内で初めて地上界へ来たあの日、私は生き物だと思ってびっくりした。機械なんて知らなかったから。
「……懐かしいな」
見るものすべてが新鮮で、驚きに満ちていて、楽しくて仕方なかった。エリアスと別れるのは寂しかったけど、地上界の興味深さに、つい寂しさを忘れていたりしたわね。
「地上界ともお別れなのね」
正直辛かった。気を緩めたら涙が出そうな気がする。
エンジェリカで生まれ育った私にもこの街は優しかった。天使でも普通に受け入れてくれたし、私にいろんな経験をさせてくれた。
そして友達も——。
「……麗奈」
出会いは些細なことだった。おつかいに行ったら十円足りなくて困っていたら、後ろに並んでいた麗奈がお金を払ってくれて。それから私たちは親しくなった。
あの日食べたイチゴクレープ、とても美味しかったな。
——麗奈。
もし私がエンジェリカの王女でなかったら、私たちには普通の友達になる道もあったのかもしれない。
手を取り合って、笑いあって。色々なところへお出かけして。大切な友達になれていたかもしれなかった。
私がエンジェリカの王女だったから——。
「どうなさいました?」
エリアスの声で私は現実に引き戻される。気づくと頬が濡れていた。
「王女、なぜ泣いておられるのですか?」
彼の瑠璃色の瞳が不安そうに見つめてくる。私は慌てて涙を拭った。
こんなことで泣いていたら何もできない。しっかりしないと。
「……大丈夫。気にしないで」
「ですが王女」
「気にしないで!私は何ともないから!」
私は無理矢理笑顔を作り明るく言う。こんなことで彼を心配させるのは嫌だから。
「地上界は素敵なところですね。……三重坂。またいつか一緒に来ましょうか」
天界列車に乗り込む時、エリアスは言いながら柔らかく微笑んだ。長い睫が笑みを際立たせている。
「麗しき僕も一緒さ!」
たまたま横にいたライヴァンが急に謎のポーズをとる。それを見て、エリアスは冷めた表情になるが、私は面白くて笑ってしまった。
意味が分からない言動なのに温かい気持ちになる。私は少しおかしいかもしれない。
「自分がエンジェリカの王女でなかったらカルチェレイナと友達でいられたのに。そう思っているね」
ライヴァンに耳打ちされて、ドキッとした。一瞬心臓が止まったかと思った。
そうか、彼は心が読めるから……。
「けどそれは違う!君が王女でなかったら、エリアスにもジェシカにもノアにも出会っていなかっただろうね。もちろん麗しい僕と会うこともなかった」
——そうだ。
失ったものばかりではない。私が王女だったから出会えた者たちもいる。
「……貴方の言う通りだわ。私はすべてを失ってきたわけではない」
ライヴァンに教えられる日が来るなんてね。
「王女、もうすぐ三重坂が見えますよ」
エリアスが教えてくれる。
「おっと、ここでダジャレか……ぶっ!」
ライヴァンの頭にエリアスのチョップがきまった。なぜライヴァン相手の時だけチョップなのだろう、謎だ。
「ハゲさせるつもりかぁっ!」
「王女に馴れ馴れしくするな」
「まぁまぁ、エリアス。ひとまず落ち着いて?ねっ」
天界、地上界、魔界。三つの世界が繋がる街・三重坂。
そこは賑わいに満ちた、いつまでも暮らしていたいような素敵な街だった。
『天界列車、天界行き。まもなく出発致します』
車内に響くアナウンス。
やがて列車が動き出し、地上界から遠ざかっていく。
私はもう悲しくはない。
麗奈一人がいなくても、私にはたくさんの大切な者がいると気づいたから。
「カルチェレイナ、もし貴女と戦うことになったとしたら——」
私が倒す。
彼女の四百年に渡る憎しみの日々を終わらせる。
だって私は、彼女の友達だから。
- Re: エンジェリカの王女《3章開幕》 ( No.112 )
- 日時: 2017/09/30 19:47
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: UgVNLVY0)
〜第三章 天魔の因縁〜
84話「懐かしいヴァネッサ」
天界列車が三重坂を出て数十分。あっという間にエンジェリカへ到着した。
車内販売のクッキーはやはり今日もぶれない美味しさ。何枚かエリアスにあげた以外は全部食べてしまった。
平らげるつもりはなかったのだけど、つまんでいるうちに、いつの間にかなくなっていたの。まぁ、美味しいから仕方ないわよね。
駅にはディルク王の帰りを待つ親衛隊員たちが集まっていた。ずらっと一直線に並び、目に見えないカーペットが敷かれているかのような感覚に陥る。
ディルク王が一番先に列車を降り、それに続いてツヴァイ、そして私とエリアス。最後に少し離れてライヴァンが降車した。
「ディルク王!お帰りなさいませ!」
親衛隊員全員がぴったり揃えて出迎えの言葉を述べる。いつ練習したのだろう、と首を傾げたくなる。
エンジェリカの空気はとても懐かしい匂いがする。地上界とはまた異なった温かさだ。
それから私たちは二台の送迎馬車によって王宮まで送ってもらった。一台目にはディルク王とツヴァイ、二台目には私とエリアスが乗る。ライヴァンは悪魔なので乗せてもらえるはずもなく、ぶつくさ愚痴を漏らしながら自力でついてきていた。
ライヴァンは情けない悪魔だが、生身で馬車についてこれているのはなかなか凄いと思った。
……それにしても、馬車遅い。
地上界でバスばかり使う生活をしていたので、馬車のスピードが物凄く遅いように感じる。そのうちエンジェリカにもバスを導入してくれないかしらね。
馬車の進みの遅さにむしゃくしゃしているうちに王宮へ着いた。もっとも、王宮と言っても元のような立派な建物はないが。
私が壊しちゃったものね。
しかし私たちがエンジェリカを旅立ったあの日よりかは復興している。簡易の建物が建てられていたり、色々工夫したようだ。そこを多くの天使が忙しそうに行き来している。
「もう復興しつつあるのね」
私は隣に立っているエリアスへ話しかける。想像以上の復興スピードに驚いたことを誰かに伝えたかったのだ。
すると彼は私の顔を見つめながら優しく微笑む。瑠璃色の瞳が柔らかく輝いている。
何か嬉しかったみたいね。
「はい。驚かれましたか?案外速やかに復興しています。王宮再建にはもう少し時間がかかるようですが……数年もかからないでしょう」
過去の私は大変なことをしてしまったのだな、と申し訳ない気分になる。
けれど落ち込んでばかりもいられない。これからは私も復興の手助けをしなくては。
それにカルチェレイナのこともある。彼女が次はいつ私を狙ってくるか分からない。常に警戒しておかないと。
なかなか忙しくなりそうね。
「アンナ王女!」
名を呼ばれそちらを向く。
向こうから駆けてくる女性天使の姿が目に入る。黒いかっちりしたシニヨンですぐに誰か分かった。
ヴァネッサだ。
侍女のヴァネッサ。彼女は私の母のような天使。しかしベルンハルトに魔気を注入されて以降は一度も話せていない。
懐かしい顔に、思わず駆け寄った。
「ヴァネッサ!」
ギュッと抱き合い、それからすぐに話し始める。
「体はもう大丈夫なの?もう治った?」
それにしても私、いつもみんなに同じような質問ばかりしている気がする。
……うん。まぁみんな負傷しているから、同じような質問ばかりになっていも変な話ではない。逆にそれが普通と言える。
「すべて聞きましたよ。貴女が力を暴発させたこと、罰として地上界へ行っていたこと。……ブローチも壊れたそうですね」
私の質問には答えないのね、と内心文句を言う。
「目覚めるととんでもない状態になっていて驚きました。王妃の恐れてられたことが現実になってしまった——おや?」
ヴァネッサの視線が私の胸元に注がれていた。正確には胸元の『銀のブローチ』に。
「そのブローチは何ですか。もしかして地上界で?」
「えぇ、友達にもらったの。綺麗でしょ」
エリアスの羽だなんて言ったら、また長々と説教されそうだ。本当のことは口が裂けても言えない。
いや、たまには懐かしい長々とした説教もいいかもしれないな——なんてね。実際始まったら数秒で嫌になる自信がある。
最初はイライラし、次第に眠くなる。最後は耐えきれず逃げ出そうとして捕まり、更に時間が長くなる。
それがヴァネッサの説教というものだ。
「ところでエリアス。貴方、お茶は淹れられるようになったのかしら?」
ヴァネッサの視線がエリアスに移る。私の隣にいる彼は、気まずそうに視線を逸らす。お茶の淹れ方には自信がない、それが容易く見てとれた。
彼の態度を見たヴァネッサは一度目を細め、それから元に戻して溜め息をつく。
「その様子じゃ、まだ駄目なようね。貴方にはもっと練習が必要だわ」
「それは承知しています」
エリアスは少し不快そうな顔をしつつも、淡々とした調子で短く答えた。
彼の淹れたお茶は渋かった。蜂蜜でごまかして美味しくはなったが、ヴァネッサにはそれは言えないだろう。彼女のことだ。そんなことを言えば、「それでは美味しく淹れられているとは言えない」などと、注意するに違いない。
ヴァネッサはかなり完璧主義だから。
「これからも精進します」
「良い心がけね」
あれ、何だか親しくなってる?気のせいか二人の距離が縮まったように見えるけど……本当に気のせい?
- Re: エンジェリカの王女《3章開幕》 ( No.113 )
- 日時: 2017/09/15 16:19
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: Xr//JkA7)
85話「くまのストラップ」
私たちはしばらくたわいない話をした。その後ヴァネッサは私たちをノアのところへ案内してくれた。
簡易的な小屋に入り、しっかり洗われた真っ白なカーテンを開ける。するとそこにはベッドに横たわるノアの姿があった。ふかふかのベッドの上で、目を閉じて心地よさそうに寝息をたてている。
ずっと苦しんではいないようだ。私は少し安心した。
「ノアさん、起きて下さい。アンナ王女を連れてきました」
よく眠っているノアに、ヴァネッサが静かな声をかける。しかし起きそうにない。
そういえばノアは一度寝るとなかなか起きないタイプだったな、と思い出す。よくジェシカに叩き起こされていた。そんなことを思い返すと、とても懐かしくて少し笑ってしまった。
ヴァネッサはあまりに起きそうにないノアに呆れつつ、ノアの片耳を引っ張る。途端に彼はパチッと目を開けた。
「——痛っ!」
ノアは耳を引っ張られた痛みで目を覚ましたようだ。驚いてパチパチまばたきしている。若干混乱しているように見受けられる。
「あれー、王女様だー」
横たわったまま頭だけを動かして私を見る。のんびりした口調は変わっていない。
「ノアさん、大丈夫?……ではなさそうね、まだ動けなさそうだもの」
表情は普段通りだが体は動いていない。恐らくまだ傷が痛むのだろう。
「平気平気ー気にしないでー。それより王女様無事で良かったー」
ノアは呑気に笑っている。だが平気と言われても心配だ。
「……私のせいか」
エリアスは横になっているノアを見下ろしながら申し訳なさそうな顔をする。ノアを心配しているように見える。エリアスもノアを心配したりするのね。ちょっと意外。
ヴァネッサがベッドの下からパイプ椅子を取り出す。座るように促され、私は腰かけた。
「気にしないでー。それより、隊長は肩治ったのー?」
「今は落ち着いている」
「良かった、安心したよー。魔気絡みの傷はなかなか癒えないから厄か……っ」
ノアは突然言葉を詰まらせ、顔をしかめる。顔色が悪くなり体が震え出す。まるで極寒の地にいるかのような様子だ。
それを見ていたエリアスは緊迫した顔つきになる。私も何が起きたか分からず戸惑う。
「医者を呼んできます」
ヴァネッサは速やかにカーテンの外へ出ていった。
「ノアさん、傷が痛むの?」
私は彼の手をそっと握る。
目の前で苦しんでいるのを見ると本当に申し訳ない気分になった。
私が迂闊に夜道を歩いたりしなければこんなことにはならなかったというのに……いや、考えたらダメだ。無意味なことを考えるのは止めよう。世の中、考えてもどうしようもないことはある。
その時、ノアの手が握り返してきた。彼は震えながらも懸命に笑みを浮かべようとしていた。心配させないようにだろうか?意図は分からないが、とにかく笑おうとしているようだ。
「……お、王女様ー……僕は平気……だからー……」
そう言ってはいるが、どう見ても平気だとは思えない状態である。私にもさすがに分かる。もしこの状況で「そっか!平気なんだ!」となる者がいれば、そっちが驚きだ。
「……昨日の晩のねー……卵のお粥……上に乗って……葱が……美味しかったー……」
「話すだけでも消耗する。なるべく話すな」
ノアが今は関係ないどうでもいい話を途切れ途切れ話すのを、エリアスが制止する。
それにしても、卵のお粥の上に乗っていた葱が美味しいだなんて不思議。葱って青臭いから、あまり好きじゃないのよね。
ちょうどそのタイミングで、医者の天使が入ってきた。
彼の後ろにはヴァネッサもいる。ヴァネッサが呼んできてくれたのだ。さすが、彼女は気が利く。
「大丈夫かい!?少し診るよ」
私はノアから手を離し、邪魔にならないよう少し離れた。エリアスも同じようにした。
医者の天使はノアの上半身の服を脱がせた。上体が露になる。腹部には包帯が巻かれているが、そこから黒いもやが湧き出ていた。
エリアスと同じだ。
ルッツに突き刺された時、魔気を注入されたというところだろう。初めてではないのですぐに察した。
「ヴァネッサさん、二人ぐらい看護師を呼んできてくれるかな」
「承知しました」
ヴァネッサは速やかにカーテンの外へ出ていく。まるで看護師であるかのような反応の素早さを目にし、純粋に凄いと尊敬した。
「王女。空気を吸いに、少し外へ出ましょうか」
エリアスが唐突に提案してくる。
二人もいると邪魔だということだろうか……。彼の真意は分からないが、私は頷き、外へ出ることにした。
ここは狭くて圧迫感がある。まるで檻のよう。広いところへ行きたいなと内心思っていたところだ。ちょうどいいタイミングである。
カーテンの外に出て、それから小屋からも出た。だいぶ日が落ちてきて薄暗くなっている。もうすぐ夜になるからか、行き交う天使の数も心なしか減っている気がした。
「いたいた!王女様っ」
聞き慣れた声に呼ばれそっちを向く。視界に入ったのはジェシカだった。とても明るい表情で駆け寄ってくる彼女の背後には、山のような荷物を持たされている鴬色の髪のレクシフが立っていた。
「今着いたところ?」
私は何げなく尋ねる。
ジェシカとレクシフは荷物を整理してから天界へ来るという話だった。
「うん、そうだよ。あ、そうだ!これね」
彼女は言いながら自分のズボンのポケットの中を手で探る。
「はいっ、これ。忘れてたよ」
そう言って差し出したジェシカの手には、くまのストラップ二つが乗っていた。ピンクとブルー。エンジェリカを旅立つ時に買っておいたものだ。
手紙でエリアスに送ろうと計画していたのに、色々あったせいですっかり忘れてしまっていた。
「それは……!」
エリアスは驚いた声を出す。そして上着のポケットから取り出した。前に買った方のブルーのくまを。
「これと同じものではありませんか?王女がなぜ」
「実は私……前のやつなくしちゃったのよ。ごめんなさい」
そう答え苦笑いでごまかした。
あんなに何度も激しい戦いを繰り広げながら、まだくまのストラップを持っていたとは。予想外で衝撃を受けた。
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