コメディ・ライト小説(新)
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- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
羅紗さん
流沢藍蓮さん
ひなたさん
氷菓子さん
アンクルデスさん
白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: エンジェリカの王女 ( No.59 )
- 日時: 2017/08/19 22:54
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: fqLv/Uya)
44話「運命を変える」
親衛隊員の一人によって招かれたのは、王宮から少し離れたところになる教会だった。真っ白な背の高い建物は、原形を留めている。王宮から少し離れているため、私の聖気の暴発による爆発から辛うじて免れたのだろう。
「どうぞ」
高さのある重そうな扉を親衛隊員が開ける。そこには、私の父、ディルク王が静かに佇んでいた。私は親衛隊員に促され、教会の中へ進む。
「お父様……」
晩餐会の件を話した日以来か。私たちは実の親子だが、親子と呼ぶにはあまりによそよそしい関係である。
「アンナ。お前は自分が何をしたのか分かっているのか」
ディルク王は静かにそう告げた。周囲には部下である親衛隊員たちがいて、様子を無言で見守っている。少し怖いくらいだ。
「お前はエンジェリカの王女。そうだな?」
私は緊張しながらこくりと頷く。声は出せなかった。
「王女のお前がエンジェリカの王宮を破壊した。それがどういう意味か……分かっているな」
嫌なぐらいの静けさ。凍りつきそうな冷たい視線。この場に味方が一人もいないという孤独感。決意したばかりで既に挫けそうになった私は、「負けるな」と自分自身を鼓舞する。
「エンジェリカには過去にも、自国を破壊した王女がいたと聞く。その王女がどうなったか、知っているか?」
「……死刑」
「そうだ。自国を破壊する王女など認めるわけにはいかない。よってお前を、死刑とする」
そう言われると分かっていた。当然だ。……私は大人しく死刑になんてなるものか。最後まで絶対諦めない。
「お父様!……私を死刑なんかにしていいの?私がいなくなれば、この国は終わるわ。跡継ぎは他にいないのよ」
言ってやった。私は今まで、ディルク王の命令にはなるべく大人しく従ってきたが、こればかりは従えない。私の生き死にがかかっているのだから。
「禍々しい王女をここにいさせるよりましだ!」
ディルク王は鋭く怒鳴る。怒鳴れば従うと思っているようだ。今までは、そうだったから。
「親衛隊!連れていけ!」
その叫び声と同時に、周囲にいた親衛隊が寄ってきた。両腕を乱暴に掴まれる。
「ちょっと、何するの?離して!離してちょうだい!」
私が暴れて抵抗したところで親衛隊員からは逃れられない。何せ親衛隊、彼らは強い。
『アンナ……、やはりお前も私と同じだ。同じ力を持ち、同じ運命を辿る』
脳裏に女の言葉が蘇る。
……変えられないかもしれない。もう諦めかけている、死を受け入れかけている自分がいた。私は心の中で首を横に振る。弱気になっては駄目だ。今は私を捕らえる二人の親衛隊員から逃れることだけを考えなくては。
離れろ!離れろ!
身を振り必死に抵抗しながら、心の中でその言葉を繰り返す。
「離れろ!」
心の中での叫びが思わず口から滑り出た時、私を捕らえていた二人の親衛隊員が吹き飛んだ。……今のは、聖気?
身構えていなかった彼らは、飛ばされ柱に激突する。その隙に私は勢いよく駆け出した。教会を出る。
「逃がすな!アンナを追え!」
背後からディルク王の叫び声が聞こえた。実の娘に対してよくそんなことが言えるものだ。まるで罪人のように……いや、今の私は罪人なのか。
そんなことを考えながら走っていると、後ろから親衛隊員が追ってきているのを感じた。まずい、追いつかれる。私は必死で駆けた。飛ぶのも一つの選択肢ではあるが、飛びなれていないためすぐに追いつかれるだろう。だから私は走ることを選んだ。……そんなことはどうでもいいが。
私は取り敢えず王宮があった方向へ走った。無我夢中に走る。やがて簡易救護所が見えてくる。あそこにはノアたちがいるから、もしかしたら助けてもらえるかもしれない。そんな小さな希望を抱き、簡易救護所の方へ向かう。
ノアの姿が視界に入った。
「あ、王女様——」
呑気な顔をしているノアに、私は勢いよく突っ込んだ。
「な、何事ー……?」
「……いったぁ……」
走り慣れていない私の足に急停止は無理だった。ノアと私は絡まるように、近くの簡易テーブルを倒して転けた。
……こんなこと滅多にない。
「ちょっとノア!何して——、えっ。王女様っ!?」
倒れた私とノアを上から覗き込んできたのはジェシカだった。
「ジェシカさん!意識が戻って……」
「う、うん。それより王女様、ベルンハルトは?あいつはどこにいるの?」
そういえば、あの爆発からベルンハルトの姿は見かけていないな……って、そんなこと話してる時間はない!
「それより!助けて!私、殺されるわ!」
「えっ?えっ?」
ジェシカは話についてこれず困った顔をしている。
その時、私を追ってきていた親衛隊員たちが、やっと追いついてきた。各々の武器を構え、私たちをほぼ取り囲むような状態になっている。
「アンナ王女を捕らえろ!」
リーダー格の男性が言った。
「ちょ、何これ!?何これ、どういう状況っ!?」
「王女様が狙われてるねー」
ノアは転んだときに打った腰をさすりながら立ち上がる。
「いや、狙われてるね、じゃないでしょ!相手悪魔じゃなくて親衛隊だし、何これ!?」
ジェシカは状況を飲み込めず一人騒いでいた。天使が天使に狙われているのだから理解不能なのも無理はないが。
「うーん……これは敵カウントでいいのかなー?」
武装した親衛隊に囲まれていてもノアは落ち着いていた。むしろ「もう少し危機感を持つべきでは?」と疑問に思うほど。
「桃色の女と紫の男!アンナ王女を引き渡せ」
リーダー格の男性が命じると、ジェシカとノアは顔を見合わせ、一度頷く。
「君たち……さぁ」
ノアがわざとらしく普段より大きめの声で言う。
「こんな可愛い子いじめて、何が楽しいのかなー」
「だよねっ。まぁでも」
そう言いながらジェシカは聖気を集めて作った剣を構える。
「王女様を狙うやつは全員敵!いっちょやるか!」
- Re: エンジェリカの王女 ( No.60 )
- 日時: 2017/08/20 09:00
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 7dCZkirZ)
45話「結末」
この状況はどう考えても不利だ。こちらはノアとジェシカの二人しかいないのに対し、相手は多勢、しかも親衛隊員。個々の戦闘力もかなり高いはずである。ジェシカ一人で敵うかどうか怪しい。
「ノア!王女様守ってて!」
彼女は剣を構え、今にも飛び出しそう。表情はいつになく生き生きとしている。
「うん。死守だねー」
そう答えたノアは私を自分の傍に引き寄せ、紫色の聖気でドーム状のシールドを作り出す。
「王女様も苦労するよねー。ただちょっと壊しただけなのに死刑なんてさー」
今はただ、ジェシカを信じるしかない。何もできない自分が悔しいが、処刑されないためにはこの方法しかないのだ。
ジェシカは勇ましく挑む。小さな少女の体で親衛隊員たちと互角に渡り合えるのは凄いと思った。彼女は身軽さを武器に一人戦い続ける。殺してはならないのが難しいところかもしれない。
「ジェシカさん、一人で大丈夫かな……」
私は不安でいっぱいだった。
「大丈夫だよー。王女様は優しいからすぐに心配するよねー」
その一方、ノアは落ち着いていた。穏やかな笑みを浮かべ、軽い口調で話す。
「そこが美点でもあるんだけどねー……え?」
いつも通りのまったりぶりだったノアがピクッと何かに反応し視線を移す。彼の視線の先に、ディルク王がいた。
「お、お父様っ!?」
まさかディルク王が直々に現れるとは。そんな風に驚いた刹那、ノアが小さな声で言う。
「……王様じゃない」
「え?」
私は思わずキョトンとしてしまった。ノアは一体を何を言い出すのか、と。いくら親しくない親子とはいえ外見ぐらいは正確に記憶している。私が見間違えるはずがない。
「……気が違う。あれはベルンハルトだよー」
「えっ!?」
でも、さっき私、普通に話して——そうか!急に閃く。
「ベルンハルトが父の体を乗っ取っているとか?」
「……正解」
ディルク王はこちらへゆっくりと歩み寄ってくる。やがて、私との距離が数メートルくらいになると立ち止まり、口を開く。
「アンナ、諦めろ。誰に頼ろうが逃げきることは不可能だ。エリアスが倒れた今、お前を守りきれる者などおりはしない」
今ディルク王が話したことで分かった。このディルク王は私の父ではない、ベルンハルトだ。
「貴方、お父様ではないわね」
私は勇気を出して言った。ノアが驚いた顔をする。
「何を言う?おかしな小娘だ。父親を父親でないと言うとは、恐怖で気がふれたか」
……やっぱり。
最初ノアに言われた時は信じられなかったけれど、今の会話で確信した。目の前のディルク王はディルク王でないと。
「ベルンハルト!お父様から出ていって!」
私は鋭く叫んだ。今までなら味方に隠れていただろうが、私は変わったのだ。
「……何を言っているのやら」
ディルク王、否、ベルンハルトはまだとぼける。
「貴方はさっき、エリアスが倒れたと言っていたけど、それを父は知らないわ。爆発の前、エリアスが倒れたのを見ていたのは、私とジェシカさんとノアさん、そしてベルンハルト!」
「……寝言は寝て言え」
私が気がついたのはそれだけではない。
「それにね、私のことをおかしな小娘って言ったでしょ。父は私を小娘とは呼ばないの」
「それがなぜベルンハルトである理由に……」
「ベルンハルト!広場で私がブローチに触られるのを拒否した時、貴方は言ったわ。小娘ごときが、ってね!」
「……たいしたものですな」
ディルク王だが喋り方がベルンハルトに戻った。次の瞬間、ディルク王の姿のベルンハルトが殴りかかってくる。ノアが前に出た。
「……っ!」
ノアはベルンハルトの打撃をシールドで受け止める。
「ノアさん!大丈夫!?」
「うん。びっくりしただけで、平気平気だよー」
いつもニコニコしているから、彼は心が見えない。そのせいで余計に不安である。
「アンナ」
横を見ると、黒い女が立っていた。容姿が真っ黒なのはいつもと変わらないが、柔らかい笑みを浮かべている。
「ベルンハルトを消滅させろ」
漆黒の瞳には光が宿っていた。
「……消滅させる?私が?」
私が彼女と話す間、ノアはベルンハルトの攻撃を防いでくれていた。
「ディルク王に触れ、消えろ、と念じる。それで祓える。父親を救ってやれ」
「……分かった」
覚悟して首を縦に動かす。すると彼女はすっと消えた。
私はノアのシールドに攻撃を繰り返すベルンハルトに操られたディルク王に手を触れる。それを目にしたノアは口をぽかんと開けた。
消えろ。消えろ。
「消えろぉっ!」
私は目を閉じて叫ぶ。
その瞬間、ディルク王の体から力が抜けた。ディルク王はすっかり脱力し倒れ込む。
「……王女様、何したのー?」
呆気にとられた顔でノアが聞いてきた。
「ベルンハルトを消したの。これで父は父に戻ったはず。気はどうなった?」
ノアは少ししばらくしてから答える。
「王様のものだよ」
私は最大の溜め息を漏らした。これで私が処刑される運命は変えられたはずだ。
- Re: エンジェリカの王女《1章 まもなく終了》 ( No.61 )
- 日時: 2017/08/20 18:24
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: SEvijNFF)
46話「貴方は私の誇り」
「アンナ王女、本当に申し訳ありませんでした」
あの後、私は親衛隊員たちに、ディルク王がベルンハルトに操られていたことを説明した。彼らは私が予想していたより理解してくれ、みんな揃って私に頭を下げた。私はただ死刑を免れたかっただけであり、彼らに謝ってほしかったわけではないが、ジェシカが一人一人謝らせた。なんということだ。
そして私は改めて、ディルク王の前に立っていた。
「アンナ、お前には酷いことをしてしまった。いきなり死刑などありえん。それは謝ろう。だが、お前がエンジェリカを破壊したことは事実……」
死刑以外なら何でもいい。生きてさえいれば何度でもやり直せるもの。
「そこで、お前に頼み事をすることにした」
「頼み事?」
予想外な展開が私を待っていた。
「地上界へ行き、人間の文明について学んできてほしい」
「人間の……文明?」
私は戸惑ったまま繰り返す。ディルク王は真剣な顔で私を見つめて続ける。
「そうだ。地上界へ行き、人間の社会で暮らす。何も難しいことではないだろう?」
人間の暮らす世界なんて、考えてみたこともなかったけど、でもなんだか楽しそう。そう思い、私は頷いた。
「「地上界へ行く!?」」
私は早速簡易救護所へ戻り、エリアスの様子を見守っているジェシカとノアにそのことを話すと、二人はとても驚いた。
「王女様が王宮の外で暮らすってこと!?」
ジェシカはすぐ横に寝ている者がいるというのに構わず騒いでいる。
「それなら僕らの出番だねー」
「そうそう!あたしたちも王女様と一緒に行くよ。そうと決まれば早速用意しなくちゃ!」
ジェシカは物凄く張りきっている。そういえば二人は以前地上界で暮らしていたと聞いたのを思い出す。もってこいの二人だ。
「いつ出発か分からないのに、もう用意するのー?」
ノアは面倒臭そうに言う。
「当然じゃん!善は急げだよ。そうだ、王女様に似合いそうな服を探してこなくちゃね」
ジェシカは楽しそうに言いながら、立ち上がって気持ちよさそうに大きな背伸びをする。
「ジェシカさん、待って。服なんていいわ。私、色々持って……」
私の持っている服はほぼドレスだが、着るものには困らない。
「駄目だよっ。地上界で暮らすなら人間みたいな服を着なくちゃならないんだから。さーて、じゃあ行ってきますっ」
ジェシカは私の答えを待たずに歩いていってしまう。
「それに王宮が壊れたからクローゼットもないかもねー」
ジェシカが去り二人になるとノアはそんなことを言った。そういえばそうだった、と思う。何でもいいが、エリアスの血液で赤く染まったこのドレスはどうにかしたい。ここまで真っ赤だと、通りすぎる天使にやたらと見られて、少し複雑な心境になる。
「僕もそろそろ用事に行ってこようかなー。王女様、一人でも大丈夫ー?」
「えぇ、平気よ」
「それじゃあ隊長をよろしくねー。また後でー」
ノアは手を振りながらどこかへ歩いていってしまった。
エリアスはまだ眠っている。着ていた服は脱がされ、素肌に包帯を巻いた状態で寝かされている。上に毛布をかけてもらってはいるものの寒そうだ。私はそんな彼の手を握り、目覚めるのをずっと待ち続けた。
やがて夕方になり、夜が訪れる。エリアスはずっとびくともせずに眠っていた。それはもう、生きているのか何度も不安になるほど。ただ、手は温かい。
夜空を眺めてぼんやりしていると、突然彼の指がピクッと動いた。私は驚いて彼に目をやる。細くだが目が開いていた。
「気がついた?」
怖々声をかけてみると、彼は掠れた声で返す。
「……王女」
ちゃんとした反応をしている。どうやら意識ははっきりしているようだ。私はひとまず安心した。
「良かった。エリアス、体の調子はどう?」
「……よく分かりません」
「そっか。そうよね。でも、生きていて良かった」
「……ありがとうございます」
それを最後に沈黙が訪れた。もう多くの天使が眠りつつあるのだろう、昼間の騒がしさが嘘のように辺りは静かになっていた。私もエリアスも、何も言わなかった。
私はふいに夜空を見上げる。空にはたくさんの星が輝いていた。今は希望の星に思える。不思議と温かな気持ちになった。
「……王女。ごめんなさい」
エリアスがいきなり沈黙を破って謝ってくる。
「どうして謝るの?」
私には彼が謝る理由が分からなかった。謝るとすれば私の方なのに。
「……貴女を護ると、ずっと傍にいると……言ったのに」
エリアスは言いながらゆっくりと上半身を起こす。
「どうして?エリアス。貴方は私のこと、ちゃんと護ってくれたじゃない」
しかし彼は随分浮かない顔をしている。
「……私はベルンハルトに負けました。王女の前であのような不覚をとるとは情けない……」
「そんなことないわ!」
私は両腕を彼のわきにまわし、頬が胸元に食い込むくらい強く抱き締めた。包帯の生地が頬に触れてザラザラするが、そんなことは気にならない。
「情けなくなんてない!エリアスは私を護ってくれた。貴方は私の誇りよ!」
それから一度体を離して彼の顔を見ると、彼は泣いていた。瑠璃色の瞳から溢れた涙が、頬を伝ってポロポロとこぼれ落ちる。彼自身も無意識のうちに泣いていたようだった。
「……ごめんなさい、王女。私は本当に……情けない……。護衛隊長失格ですね……」
エリアスは包帯に包まれた手の甲で溢れる涙を拭く。
「でも、無事で良かった……。もう会えないかと思いました」
彼がこんな風に涙を流すところを見るのは初めてだ。
「私もちょっと思ったわ。でもエリアスはきっと生きてるって信じてたの」
「ありがとうございます。私は幸せですね……」
寒い夜だった。だけど、エリアスが傍にいるから、ちっとも辛くはない。むしろとても幸せな気持ちだった。
- Re: エンジェリカの王女《1章 まもなく終了》 ( No.62 )
- 日時: 2017/08/20 18:41
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: w93.1umH)
47話「またね」
翌朝。
簡易救護所ですっかり眠ってしまっていた私は、気がつくと朝になっていた。穏やかな朝日が降り注いでいる。
「おはよっ」
ジェシカが目覚めたばかりの私に声をかけてくるが、私はまだ寝ぼけていて目がはっきりと見えない。寝ぼけ眼を擦りながら小さな声で「おはよう」と返す。
「おはようございます、王女」
既に起きていたらしいエリアスも優しく微笑んで挨拶してくれた。表情は昨夜より元気そうになっていて安心した。まだ包帯に巻かれているままだが、悪化はしていないようだ。
「王女様、服これでいい?一応似合いそうなの持ってきたんだけど」
ジェシカの手には見慣れない形の服が乗っている。上半身用と下半身用が別れていて、ドレスとは全然違う。色や飾りもドレスのような鮮やかで華やかなものではなく、比較的シンプルなものだ。
「これが地上界の服?」
地上界の服なんて今まで一度も見たことがなかった。
「そうだよっ。さ、早速着せてあげるよ!」
ジェシカに急かされ、私は彼女と二人で近くの更衣用個室に入る。自力で服を着るということに慣れていないので着られるか不安だったが、ジェシカの丁寧な説明のおかげでわりと簡単に自力で着替えることができた。ドレスとはまったく異なる雰囲気に戸惑いつつも、地上界の服を着た自分が鏡に映っているのを眺めると、そんなに悪い気はしなかった。
「じゃーん!どうっ?」
ジェシカはノリノリだ。私は地上界の服でエリアスの前に立つ。なぜか少し恥ずかしい。
「……なるほど。そういう服装は新鮮です。しかし、よくお似合いですね、王女」
「おかしくない?」
「もちろん。いつもと同じように素敵です」
恐らくエリアスは私が何を着ても素敵だと言うだろう。なので彼の意見はあまり役には立たないが、褒められたことは嬉しかった。
「それにしても王女、本当に地上界へ行かれるのですね。事情は聞きましたが、少し寂しくなります」
「えぇ。私も寂しくなるわ。でも毎日手紙を書くから」
「……手紙、ですか?」
私は大きく頷く。
「そうよ。天界郵便を使えばその日のうちに届くはずだわ。毎日手紙のやり取りをすれば、ちょっとは寂しくないでしょ?」
天界と地上界を繋ぐ天界郵便を利用する日が来るとは夢にも思わなかったが。
するとエリアスはふっと笑みをこぼす。
「そうですね。ありがとうございます。体が治れば、私も地上界へ行きますから」
なんだか少し寂しくなった。
「無理しないでね」
私は最後にエリアスをギュッと抱き締める。ずっとこうしていれたら……なんて少し思ったりもした。でもそんなことを願うのは贅沢だ。生きているだけで十分。
「エリアス、またね。必ず書くから、手紙待ってて」
私は簡易救護所を後にし、ジェシカと共にノアが待っているという場所まで向かった。王宮から大通りを南に下る。
ある雑貨屋の前で私は足を止めた。ショーウインドウにピンクとブルーのくまのストラップが飾られている。
「王女様?」
ジェシカは首を傾げながら足を止める。
「……ここ、前に来た」
くまのストラップのことなんてすっかり忘れていた。多分私はなくしてしまっている。
「このくまのストラップ、前にエリアスと来た時に買ったの。……っ」
今までこらえていた涙が一気に流れた。死ぬわけじゃないから、また会えるから。最後に泣いていたらまたエリアスを心配させてしまうから。
「王女様、それ買う?」
「……いらない。見たら思い出してしまうから。それに、一人じゃ意味がないわ」
ジェシカは静かに提案する。
「一応買っといてさ、後で手紙と一緒に送ったらどう?」
涙を拭いながら、私はこくりと小さく頷く。その発想はなかった。
私はくまのストラップを買った後、大通りを南に下り、ノアと合流した。「随分遅かったねー」などと冗談混じりに言われつつ、地上界行き列車が待つ駅へと向かう。
初めて目にする地上界行きの列車は、真っ白に金色の柄で、とても綺麗な外観をしていた。乗り込むと中には、ワイン色の席が片側には三つもう片側には二つ、それぞれ並んでいた。高級感の漂う車内で、私はあっという間に夢中になる。さっきまで泣いていたことなんてすっかり忘れていた。
私たちは三つ並んでいるところの席だった。切符の番号の席を見つけると、足元の棚に大きな荷物を入れる。
「王女様、窓側に座ったら?外の風景が見れるよっ」
ジェシカの勧めで私は一番窓側の席に座った。大きな窓で、よく風景が見えそうだ。
『天界列車、地上界行き。まもなく出発致します』
車内アナウンスがあった。
「意外とすぐ着くからねー」
ノアがいつも通りののんびり口調で言う。
列車が走り出す。不安もないことはないが、今はそれ以上の期待があるのでもう辛くはない。
こうして私は、ジェシカとノアの二人と一緒に、地上界へ向かうのだった。
- Re: エンジェリカの王女《1章 終了》 ( No.63 )
- 日時: 2017/09/16 22:57
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 49hs5bxt)
折角なので簡単な登場人物紹介を作ってみました。ネタバレはしていないはず……。ということで早速!
—登場人物 紹介—
【アンナ】
本作の主人公で、天界の王国エンジェリカの王女。母を幼い頃に亡くしている。ずっと王宮の自室で暮らしていたため、いつか外の世界へ行きたいと夢みていた。自室の窓から外を眺めるのが趣味。好きな食べ物はヴァネッサが作るエンジェルコーンのクッキー。
【ヴァネッサ】
昔からアンナに仕える侍女。アンナには母親のようにお節介であったり厳しく接することも多いが、本当は大切に思っている。料理を始め一通りの家事をそつなくこなす。
護衛隊長エリアスとはすぐに喧嘩になる。歌手ラピスとは学生時代からの友人。
【エリアス】
アンナを護る護衛隊長で、彼女を「王女」と呼び慕っている青年天使。槍術に長けており戦闘力も高いが、アンナを護ろうとしてよく怪我をする。
【ジェシカ】
明るく活発な少女天使。戦いが好きで、幼い頃から剣術をしていた。相棒のノアには、いつも突っ込みを入れるが仲良し。
【ノア】
おっとりした天然の青年天使。右サイドの長い髪を触る癖がある。聖気でシールドを作るのが得意。微少な聖気や魔気を感じられる能力を持つ。
【ディルク】
エンジェリカの現・国王でアンナの父。通称ディルク王。
【ラヴィーナ】
エンジェリカの今は亡き王妃。ディルクの妻でアンナの母。元々ヴァネッサが仕えていた相手。エリアスとは知り合い。
【ラピス】
エンジェリカ内外問わず活躍する歌手の女性天使。とにかく明るく、話し方は少し変わっている。ヴァネッサとは学生時代からの友人。
【フロライト】
手品師で魔道士。無口でよく無愛想と言われる男性天使。天使らしくない。
【キャリー】
天界郵便で働く女性天使。快活な生活で笑顔が眩しい。挨拶もハキハキしている。
【ツヴァイ】
親衛隊員の男性天使。赤い髪をオールバックにしていて、やや筋肉質。ノリが軽く「〜っす」というような口調で気さくに話す。二本の短剣を使い戦うが肉弾戦も得意。恋バナが好き。
【レクシフ】
親衛隊員の男性天使でツヴァイとは同期。鴬色のおかっぱのような髪型でわりと細めの体型。非常に真面目。
【ライヴァン】
魔界の王妃に仕える四魔将の一人で自分を麗しいと思って疑わない青年悪魔。自分を賞賛するような発言をしたり、突如謎のポーズをきめたり、そこそこ変わり者。卑怯だが悪になりきれないところが惜しい。
【ベルンハルト】
ライヴァンと同じく四魔将の一人。男性悪魔。丁寧な口調で話す。かつて愛する者を失ったという過去があり、その者を生き返らせてまた共に暮らすのが夢だったらしい。
魔気を注入する触手と氷術を使い分けて戦う。
【ヴィッタ】
四魔将の一人で、赤い髪に黒いワンピースの少女悪魔。不気味な甲高い声でよく笑う。余裕がなくなると急に口が悪くなる。
戦闘には赤い電撃とリボンを使うが、大型悪魔を使役する力も持っている。
【神木 麗奈】
アンナがショッピングモールで知り合った、水色の髪の美人な女性。
【ルッツ】
天使を裏切ったエリアスの弟。強さを求め続けて堕ち、ついに四魔将となる。剣を使う。
【カルチェレイナ】
エンジェリカの秘宝を狙う魔界の王妃。四百年前の戦争で夫と子ども二人を亡くしていて、『エンジェリカの王女』ということでアンナを憎んでいる。
対象者に究極の選択を迫る夢をみせる能力を持っている。
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