コメディ・ライト小説(新)
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- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
羅紗さん
流沢藍蓮さん
ひなたさん
氷菓子さん
アンクルデスさん
白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: エンジェリカの王女 ( No.49 )
- 日時: 2017/09/21 17:43
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 10J78vWC)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=5834&page=1
ひなたさん
コメントありがとうございます!
褒めていただけると純粋に嬉しいです。ファンタジーお好きでしたか!良かったです。これからも気が向いたら読んでやって下さい。
ひなたさんの作品もまた読ませていただきます!
◇連絡◇
ノアのイメージイラストを描きました。
オリジナルイラスト板に、画力は低いですが掲載しています。URLから飛べます。
※あくまでイメージです。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.50 )
- 日時: 2017/08/14 21:22
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: gK3tU2qa)
35話「銀の髪のベルンハルト」
少しの間、沈黙があった。そして目の前の銀髪の男性は口を開く。
「まずは——、そこの躾のなっていない犬をどうにかしていただけますかな?」
気がつくと、男性の首元に、エリアスが持つ槍の先が突きつけられていた。恐らくそのことを言っているのだろうと分かった私は、エリアスに指示する。
「エリアス。今はいいわ。一旦下がって」
「ですが、王女……」
「いいから下がって!私の命令が聞けないの?」
私は鋭く命令した。
目の前のこの男、どうやら私をすぐに殺すつもりではないらしい。だがいずれは戦いになるだろう。その時に備えて、エリアスには休憩しておいてもらわないと。
「……分かりました」
エリアスは命令に従い槍の先を銀髪の男性から離す。
「ふむ。一応まっとうな飼育をしているようですな」
「飼育とか言わないで下さい」
「おや。これはこれは、失礼しましたな」
少しして男性は続ける。
「それにしてもこの国は実に興味深い国だ。王は大勢の護衛を連れて一番に逃げ、王女を護る者は二人しかいないのですな」
ディルク王は実の父だが、あまり親しくないのだ。彼に置いていかれるのも仕方がない。
「その二人を殺せば貴女は……どんな表情をしますかな」
「寄らないでちょうだい!」
ヴァネッサが噛みつきそうな勢いで叫ぶ。男性は呆れたような顔つきをして笑う。
「……黙れ」
「あっ!……う」
短い悲鳴をあげヴァネッサは地面に倒れ込んだ。私は何が起きたのか分からず、ただ愕然とするだけだった。
「動くなよ」
男性は槍を構えかけたエリアスに対して、静かだが怖さのある声で言い放った。赤黒い瞳が鈍く輝く。エリアスに言ったのだろうが、こんなことを言われては私も動きづらくなる。
「……何をした」
エリアスは怪訝な表情で小さく聞く。
「我が魔気を注入した。ただそれだけのことですぞ」
男性は愉快そうに答え、私の方に薄ら笑いで向きなおる。
「魔気を浴びた天使がどうなるか、ご存じですかな?」
「……知りません」
恐らく何か害を及ぼすのだということだけは分かったが、その理論は知らないので嘘ではない。
「天使が急激に多量の魔気を摂取すれば身を滅ぼす。魔気に慣れない体なのですから、当然といえば当然ですな」
「そんな!じゃあヴァネッサは……」
すると男性は仰々しく丁寧なお辞儀をする。口調も行動も、乱暴でないところが、ますます怪しさを高めている。
「ご安心下さい、この女にはたいした量は入れていませんぞ。即死することはないでしょう。一時的に軽いショック症状を起こしただけですな」
「貴方、酷いわ。いきなり何てことをするの」
すると男性は急に距離を縮め、冷ややかな声で忠告する。
「……よいですかな?我は貴女とお話をしたいと言っただけ。貴女が大人しくしてくだされば、乱暴な手段を使わずに済むのですぞ」
言葉こそ淡々とした調子だが、その表情はとても恐ろしかった。威圧的な表情、それに加えて戦慄するような魔気。逆らったら殺されるだろうと思うぐらいだ。
民衆も王とそれを護る親衛隊も既に避難していて、この場にいるのは私たち三人と目の前の男性だけ。私は、ヴァネッサを心配する気持ちと、もっと早く逃げておくべきだったという後悔が混ざった、複雑な気持ちを抱いていた。しかし、やはり後者の方が大きい。私が無理矢理引っ張ってでもあの時逃げていたなら、ヴァネッサやエリアスもこんなことに巻き込まれずに済んだのに。
「……よろしい。では早速。エンジェリカの秘宝について伺ってもよろしいですかな?」
またか、と思った。
エンジェリカの秘宝についてはライヴァンにも尋ねられたことだが、私は本当に何も知らない。隠しているなどという話ではなく、事実知らないのだ。だからどうしようもない。
「ごめんなさい。エンジェリカの秘宝については話せません」
男性は眉をひそめる。初めて表情が薄ら笑いから変わった。
「何ですと?」
「エンジェリカの秘宝については私も知らないんです。だから尋ねられても話しようがありません」
強い魔気を発する悪魔で、エンジェリカの秘宝を手に入れようと探している。これはライヴァンと同じだ。
「もしかして、貴方は四魔将の方ですか?」
私の中でそういう結論に至った。おおかた、ライヴァンが失敗したため次を差し向けてきた、というところだろう。
「おや、よくお分かりで。さすがは物分かりのよい方。ではその賢明さを称え、一応名乗っておきますかね」
彼は大袈裟に拍手をしながら言い、そこで一度切って、それからまた続ける。
「我は四魔将が一人、ベルンハルト。魔界の王妃カルチェレイナ様に使えております。改めまして、以後お見知りおきを」
銀髪の男性——ベルンハルトは礼儀正しく自己紹介をすると、赤黒い瞳で私を見つめた。
「エンジェリカの秘宝はどんな願いでも叶える。それは事実ですかな?」
私は首を左右に振り否定する。
「知りません。でも、そんな都合のいいものがこの世にあるとは、私には思えません」
「まぁ何でもよろしい。では次を聞かせていただきますぞ」
「どうぞ」
そう答えるしかない。拒否などしたところでヴァネッサの二の舞になるだけだ。
「エンジェリカの秘宝というのは、その赤いブローチのことなのですかな?」
「違います。それは断じて!」
これは母との思い出、母との記憶。ライヴァンの時みたく奪われるわけにはいかない。
「なるほど。しかし、一応調べさせていただきますぞ」
ベルンハルトの手がブローチに触れようとする。私は思わずその手を払い除けていた。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.51 )
- 日時: 2017/08/15 19:49
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: apTS.Dj.)
36話「当たり前には気づかない」
「……逆らうとは、小娘ごときが!」
反抗されたことを怒ったベルンハルトに腕を掴まれそうになった瞬間、エリアスが目にもとまらぬスピードで飛んできた。気がついていなかったベルンハルトに蹴りを一撃お見舞いすると、倒れているヴァネッサと私を抱えて、一気にその場から飛び去る。
「待ちなさい!逃げるとは許しませんぞ!」
ベルンハルトは叫びながら追ってくるが、さすがの彼もエリアスに追いつくのは無理だったようで、追いかけるのは途中で諦めたらしい。エリアスは物凄いスピードで王宮の中へ私とヴァネッサを運んだ。
王宮内に入ると、エリアスは片膝をついて、はぁはぁと荒い呼吸をする。彼にしては珍しく肩が大きく上下している。久々にこれほど激しい飛行をしたからだろうか。
「エリアス、大丈夫?」
私が心配して尋ねると、彼はその体勢のまま顔を上げた。表情はいたって普段通りだった。
「はい。この程度、何ともありません。今からヴァネッサを医務室へ運びます。その間、王女は……」
言い終わると立ち上がり、意識のないヴァネッサを両腕で持ち上げる。俗にいうお姫様だっこという体勢。いくら女性とはいえ、一人前の大人をこうも軽々と持ち上げるとは、エリアスはさすがだ。私だったら運ぶ以前に持ち上げられないだろう。
「私も一緒に行くわ。ヴァネッサが心配だもの」
私ははっきりと言った。
ヴァネッサがこんな目に遭ったのは私のせい。だから、せめて傍にいたいと思うのだ。
「侍女の心配をするとは、王女はお優しいですね」
「そうかな。母親を亡くした私にとって、ヴァネッサはずっと母親みたいなものだったから」
悪魔はまだ王宮内までは入ってきていなかった。使用人たちがバタバタしていて騒がしいのはあるが、ひとまず落ち着く。
「だから私がヴァネッサを心配するのは当然のことだわ」
「そうですか。王女はやはり、お優しい方です」
ヴァネッサを運びながら、エリアスは微笑む。
ベルンハルトはこのまま私たちを逃がしたりしないはずだ。「エンジェリカの秘宝を手に入れる」という具体的な目的があるのだから。いずれ必ずまた会い戦うことになるだろうが、今だけでも、エリアスとこうして落ち着いて話せることが嬉しくてならない。
医務室へ行くと、ちょうどラピスが肘の擦り傷を消毒してもらっているところだった。エリアスに抱かれているヴァネッサを見てラピスは驚く。
「エーーッ!ヴァネッサは一体どうしたノッ!?」
相変わらず大きなリアクションで叫ぶ。それをよそに、医者の天使はエリアスに冷静な口調で事情を聞く。エリアスも冷静に説明していた。
「王女様も一緒だったのデスネー!ヴァネッサに一体何があったのですカ?」
医者の天使とエリアスが深刻な顔で話しているのを待っていると、ラピスが尋ねてくる。彼女はヴァネッサの友達だ。実に言いにくいが、真実を隠すのも悪い気がして、私は彼女に本当のことを話すことにした。
「そうデスカー、なるほどネー。それなら納得しまシタ!」
喋り方は安定の独特さだ。
「貴女のお友達を……ごめんなさい」
「いえいえ!ソンナノ謝らないでくだサイ!」
ラピスは明るかった。
「王女様をお守りスル!それがヴァネッサの仕事ですカラ。当然のことデスネ!」
その明るさに私は救われた。
「……ヴァネッサはネ」
彼女が唐突にそう切り出す。
「結婚をして、夫と子どもと、楽しく過ごしていたのデス。でもある時、さっきみたいなエンジェリカへ悪魔の群れが来たことがアッテ、その時に夫と子どもを失ったのデス。しばらくずっと塞ぎ込んでいまシタ」
ラピスはいつもの晴れやかな笑顔とは違う、少し切なげな笑みを浮かべて話す。
「やがて悲しみカラ少しだけ立ち直ったヴァネッサは、王宮へ働きに出ることを決めマシタ。そして、ちょうどその頃に生まれたばかりだった王女の、世話係になったのデス」
「それが、私ですか?」
私が気がついた頃には既に近くにいたヴァネッサ。厳しくて口煩くて、たまに鬱陶しい時もあったけど、でも、私が悩んだり悲しんだりしている時には、いつも傍にいてくれた。
「ソウソウ。ヴァネッサは、忙しくしている方が忘れるカモー、と思ってたみたいデスネ!」
私がしんみりしているうちに、ラピスはいつの間にか明るい表情に戻っていた。いつもの笑顔が眩しいラピスだ。
「だからヴァネッサは、王女様に救われたんデス!友達とシテお礼を言わなくちゃデスネ!」
「お礼だなんて、そんなものはいりません。むしろお世話になっている私がお礼を言わなくてはならないくらいです」
お礼を言ってもらう資格なんてない。私が言わなくてはならないのだ。「ありがとう」と。そして、ヴァネッサが傍にいることを当たり前と思ってすごしてきた私を、叱らなくてはならない。
「ヴァネッサ……ちゃんと良くなるかな」
不安に駆られていた私を、ラピスがそっと包み込むように抱き締めた。腕も体も、すべてが温かく、おまけに何だが良い香りがする。
「大丈夫デス」
彼女にしては小さな穏やかな声で言った。
「心配はいりマセン。ヴァネッサのことですカラ、すぐに復活するでショウ」
- Re: エンジェリカの王女 ( No.52 )
- 日時: 2017/08/22 19:27
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: kI5ixjYR)
37話「友達のように」
医務室のドアが唐突に開く。私は一瞬敵が来たのかと思いドキッとしたが、そこに立っていたのはジェシカとノアだった。ノアは怪我をしたのか、ジェシカに支えてもらっている。
「先生いるーっ!?……あ!」
ジェシカは私に気づいたらしく手を振ってくれる。私は戸惑いつつも手を振り返す。その間に医者の天使がノアを椅子に座らせていた。
「オー!王女様の知り合いのお二人デスネー!」
ラピスが陽気に声をかけながら二人の方へ寄っていったので、私もそれに続いて二人の方へ行くことにする。するとジェシカが明るく言ってくる。
「王女様、無事だったんだね。良かった」
「私は何とか、ね。エリアスに助けてもらったおかげよ」
エリアスがいてくれなければ本当に危ないところだった。彼がいなければ少なくとも捕まっていただろうし、最悪殺されていてもおかしくない状況だったのだから、エリアスには感謝しかない。
「二人は何をしていたの?ノアさん怪我してるみたいだけど大丈夫?」
すると話を聞いていたらしいノアが、椅子に腰かけたままで軽い口調で答える。
「大丈夫だよー。平気平気ー」
あまりに呑気に言うものだから、たいした傷ではないのかなと思いつつ彼の足を覗き込む。そして私は驚いた。右足の足首から膝の間辺りに、十五センチぐらいの切り傷があったから。それも結構深そう。医者が止血しようと使っているタオルにも血が滲んでいる。こんな怪我をしたのがもし私だったら、と考えて身震いする。
駄目だ、気分が悪い。
「これはまた派手にやったな。何をしていた?」
ノアの足を見ようと覗き込みながら尋ねたのはエリアスだった。
「隊長だー。元気そうでなによりだよー」
「問いに答えろ」
エリアスは真顔で迫る。
「うん。ジェシカとみんなの避難誘導してたら突然瓦礫が降ってきてねー、切れちゃったー」
何とも適当な説明だ。そもそもノアはどうしてここまでどうもないのか。
それにしても、何だかフワフワしてきたな……。視界も少し変な気がするし……。
「いつものように体を防御膜で覆っていなかったのか?こんな時に」
「聖気は全部、避難する天使たちを守る方に使ってたからー。ついうっかり、こんなことになっちゃったよー」
「大事なくて良かったが、しっかりしてくれよ。ノア」
それに何だが意識がおかしくなってきた……何これ……。ふらふらする、転けそう。
「エリアス、ちょっとはあたしの心配もしてよ!あたしは女の子なんだから!」
「ジェシカはピンクの髪が可愛イネーッ!」
「うわぁっ。いきなり何よ!?」
「いった!痛い、痛いってー!消毒は待ってー!」
「まず落ち着け、ノア」
駄目なパターンだ、視界が暗くなってくる。耳も水中にいるみたいでおかしい。これは一体な……。
そこで意識は切れた。
意識が戻り、目を開ける。視界には白い天井だけが入った。そこから私は室内にいるのだということを察する。だがどこの部屋だろう。自室ではない、天井の材質が違う。
嗅ぎ慣れない甘い香りが私を包み込むように漂っている。私は、まだはっきりしない意識の中で、記憶を探る。この甘くていい香りは一度嗅いだことがある。そんな気がしたから。
そうだった。香りの記憶を探っているうちに、私は気を失う前のことを思い出す。
まず建国記念祭が始まって、挨拶をなんとか上手に済ませた。だが挨拶が終わった直後に、突然悪魔の群れが現れて、折角のお祭りを滅茶苦茶にした。それから四魔将の一人である銀髪のベルンハルトに襲われ、エリアスの機転のおかげで取り敢えず逃げられて……。
「王女!王女、意識が戻られましたか?」
エリアスの声が私を呼ぶ。
意識はとうに戻っているが、なぜか動きたくない。突然体重が増えたみたいに体が重い。
「王女様、朝だよー」
「朝、来まシターッ」
次はノアとラピスの声。……そうだ!思い出した!
あの甘い香りはラピスの全身から漂う香り。私が気を失う直前は、ノアの足の怪我について話していたのだった。
そこで私はようやく目を大きく開くことができた。見える世界が一気に広がる。何も特別なことではない。これが普段の普通の視界だ。
「そうだった!」
私は慌てて上半身を起こす。医務室のベッドの上だった。まじまじと眺めていたノアとラピスはもちろん、近くにいたエリアスやジェシカも驚いた表情になる。
すぐ隣にあるもう一台のベッドに目をやると、ヴァネッサが眠っていた。すぅすぅと穏やかな寝息を立てている。彼女の寝顔が苦しそうなものでなく安心した。私のせいで彼女がうなされていたならば、申し訳なくて合わせる顔がない。
「い、いきなりだねー」
ノアが驚いたまま苦笑する。さっきまで寝ていたのに急に飛び起きたのだから、彼が驚くのも無理はない。
「王女!起きられましたか!」
一方エリアスは驚いた表情から嬉しそうな表情に変わった。私が目覚めたという興奮からか、少し頬が紅潮している。
「王女様、貧血で倒れたんだよ。みんなびっくりした!」
教えてくれたのはジェシカ。
「気がついてなによりデス!」
ラピスもそう言ってくれた。
私はこんなにも多くの天使に支えられている。大切にされている。それを改めて時間に、温かな気持ちになった。エリアスは当然ながら、ジェシカもノアも、ラピスだって、私を大切に思ってくれている。それも、ただ私が王女だからというだけではなく、友達のように接してくれるのだ。それに気づいた。
私には仲間がいる。だから、どんな困難だって乗り越えられるわ。滅亡の未来なんてはね除けて、また平和に暮らすの。
私は心の中で、あの黒い女に向かって言ってやった。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.53 )
- 日時: 2017/08/16 20:15
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: xPB60wBu)
38話「特別な力」
それから私はしばらくの間、医務室でみんなと話した。
「どうして悪魔はエンジェリカの秘宝を狙うのかな。それに、なぜ私が狙われるんだろう。どんな願いも叶うような秘宝なら、王女が持っているわけない。普通なら金庫とかにしまってあるはずなのに……」
私の中ではそれがずっと疑問だった。それもみんな揃って、このブローチをエンジェリカの秘宝と勘違いするなんて。これはただのブローチなのに。
「それは王女様がか弱いからじゃないかなー」
ノアが一番に答えた。迷いなく、サラッと。
「バカッ!何言ってんの!」
ジェシカはノアを厳しくしばいてから私をフォローしてくれる。そんなのいいのに。
「ノアの発言とか気にすることないから!それに、王女様は王女様でいいとこあるし!ホントノアは空気読めないやつなんだから。戦いだけが天使の偉さじゃないじゃん!」
ジェシカに気を遣わせてしまって申し訳ない気分になる。
ノアの言ったこともある意味事実だ。弱い者がいれば弱い者から狙われる。それもおかしな話ではない。
「ジェシカ、怒らないでよー。僕だって王女様を悪く言おうとしているわけじゃないよー。ただ、王女様はまだ目覚める前っていうかー……」
ノアは言い訳のように慌てた口調で話す。
「どういう意味だ?」
エリアスが真剣な顔で口を挟んだ。彼の瑠璃色の瞳が、ノアをじっと見つめていた。まったく、エリアスは私の話題になるとすぐ参加してくるんだから。
真剣に聞かれたノアは、少しの間迷ったように言葉を止めたが、やがて答える。
「王女様からは結構凄い聖気を感じるんだよねー。まだ発現には時間がかかりそうだけどー」
ノアの言葉を聞いても意味がよく分からなかったらしいエリアスは、怪訝な顔をして首を捻る。私も同じ気持ちだ。ノアは一体何の話をしているのか。
「隠された力、ってわけ?」
話を聞いていたジェシカが尋ねるとノアは頷く。
「うん。そんな感じだねー」
「では悪魔たちは、それを狙っているのか?」
「それはないかなー。だって、ずっと一緒にいた隊長すら気がつかなかったんだよねー?」
ノアはいつものことながら右サイドの髪を指で触りながらきっぱり言う。それを聞きエリアスは悔しそうに顔をしかめる。
「……確かにその通りだな。私には気づけなかった」
ノアは気に対する感度が人一倍良いから、まだ発現していない微量の聖気でも感じることができるのだろう。それは理解できる。だが、私にまだ隠されている力があるというのは、簡単には納得できなかった。もし私にノアが言うような聖気があるなら、少しくらいは自覚することが可能なはず。自身のことなのだから。
その時ふと思い出した。
『アンナ。お前は選ばれた。それゆえにお前は、このエンジェリカを終わらせる天使となる』
前に夢の中で、黒い女の声が私にそう告げていたことを。
……まさかね。そんなことあり得るはずがない。私は今までずっと護られるばかりで弱かった。ついこの前まで、王宮の外へ出たことすらなかった。そんな私に力があるわけない。あるわけないのに。どうしてだろう、いやに引っ掛かる。
「ノアさん、冗談は止めて。私が護ってもらうばかりの弱虫なのは事実だし、それに……気にしてないから。本当のことだもの、気にしてないわ!」
私が唐突に言ったものだから、ノアは指の動きも止まりキョトンとした顔になる。
「冗談?冗談じゃないよー。王女様は確かに特別だよー」
『特別』。その言葉がいやに胸を苦しくする。聞きたくない。私は普通の天使で、ただ王家に生まれた王女なだけ。
「特別なんかじゃないわ。私は無力な王女なの」
私は心の不安を拭うように言った。
「うん。今はそうだねー。だけど、将来的には僕らを越えるかもしれないよー」
「まさか。それは本当か?私を越えるのか?」
エリアスはノアの話に興味津々のようだ。
「隊長はかなりレベル高いけど、もしかしたら越えるかもだねー。だって王女様はエンジェリカに選ばれたわけで——」
「もう止めてっ!!」
私は無意識に叫んでいた。
周囲にいたみんなの視線が集まる。ジェシカもノアも、エリアスもラピスも、驚いた顔をしてこちらを見ていた。冷たく静かな空気が流れる。
「あ……あの、……ごめんなさい。つい……」
とても言いにくかったが、取り敢えず謝る。
「よっし!この話はもう終わりにしよっ。ノア、アンタはホント余計なことばっかり言うんだから!」
沈黙を破り明るく言ったのはジェシカだった。ジェシカは一発ノアにビンタを食らわせると、大きく背伸びをする。それから口を私の耳元に当てて小声で言う。
「……何かあるの?」
すべてを見透かすような言い方だった。ジェシカには他者の心を読む能力はない。つまり、私の言動がそれほど分かりやすかった、ということか。
私は彼女の耳元に唇が触れるくらい接近し問いを返す。
「どうして?」
すると彼女はまた私の耳元に口を寄せて答える。
「さっきから、ちょっと様子がおかしかったから」
本当によく見ているな、と思う。もしかしたら彼女はこの中で最も護衛向きの性格かもしれない。一見すると明るく気ままな少女だが、実際は鋭い観察眼を持った人物なのだと分かった。
「この後、少し二人になれる?できれば二人きりで話したいのだけど……」
そう返すと、彼女は親指をグッと立て、小さく頷く。私の気持ちを汲んで、他に気づかれないようにしてくれているのだろう。
「エリアス、ちょっと王女様を借りてもいい?」
ジェシカは何事もなかったかのように明るく尋ねる。
「突然どうした」
「あたし、王女様に用があるんだ!だから少しだけ二人にさせてくれる?」
エリアスは少し考える。
「……分かった。だがどこへ行くかだけ言っておいてくれ。悪魔が来たらすぐに行く」
「隣のカウンセリング室!あそこなら窓もないし、まだ安全じゃん?」
そしてジェシカは私に手を差し出す。
「さっ、王女様。行こっ!」
私はその手をとり、医務室の外へ出た。
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