コメディ・ライト小説(新)

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《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
日時: 2017/10/31 18:56
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967

初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。

若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。

※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

短編集へはURLから飛べます。

それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪

《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182

あとがき >>183

《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142

《イラスト》
ジェシカ >>27   ノア >>49   アンナ >>72 >>193(優史さん・画)   エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画)     フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137

《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183

《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
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流沢藍蓮さん
ひなたさん
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アンクルデスさん
白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん

Re: 《☆人気投票開催中☆》エンジェリカの王女 ( No.134 )
日時: 2017/09/22 17:07
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 8topAA5d)

98話「本心に従え」

 森の方からドォンという地響きのような音が聞こえてきた。それと同時に迸る白い光は、私やカルチェレイナがいる王宮近くまで届いた。例えるなら雷が落ちたような感じ。
 カルチェレイナに指示されているのか大人しくしていたヴィッタは、轟音を聞き飛び上がっていた。外見に似合った愛らしい部分を初めて見た気がする。もっとも、「彼女の愛らしい部分を知ってどうする?」という話だが。
 光と音が収まった後、カルチェレイナがニヤリと笑みを浮かべて言う。
「今の爆発、エリアスね」
 私もそんな気はした。
 あれほどの爆発を起こすような聖気を持った天使は多くない。指を折って数えられるくらいだろう。その中で森にいる可能性がある者といえばエリアスだけ。
「貴女に捨てられたショックで衝動的に自殺を試みたんじゃない?」
 カルチェレイナは愉快そうに笑っていた。
「エリアスは自殺なんてしないわ。絶対に」
 私はすぐに言い返すが、正直、本当のところは分からない。
 あの強いエリアスのことだ、そんなことは起こらないと信じたい。だが、絶対に間違いが起こらないとも言いきれない。彼は時折凄く感情的になるから。
 ……でも大丈夫かな。
 もし彼に何かあったら、私が解任したせいかもしれない。私は彼を守るために解任したというのに、それによって彼が傷ついたなら本末転倒だ。
 エリアスのところへ行ってあげたい。こんな、力のない私だけど、一刻も早く彼を助けに行きたいと思った。
「エンジェリカの王女、どこを見ているの?あたしを見なさい。貴女はあたしが——」
「ちょっと待ったぁぁぁっ!」
 カルチェレイナの言葉を珍妙な大声が遮る。数秒後、視界に黒いコウモリのような羽が入った。
「……ライヴァン。貴方、生きていたのね」
 セットされた黄色寄りの金髪、瑞々しい紫の瞳。いつものことながらきまっているドヤ顔。
「行きたまえ!」
 ライヴァンは私に向かって叫んだ。
 もしかして味方してくれるの?悪魔なのに……。
「そうはさせないわよ」
 カルチェレイナが水色に輝く蝶を放ってくる。ライヴァンは黒い塊を次々放ち、私に一斉に迫ってくる数多の蝶を撃ち落とした。
 今までライヴァンのことはただのバカだと思っていたが、今は不思議なくらい頼もしく感じられる。危機的な状況だからか。
「こちらのセリフさ!」
 ライヴァンはS字のようなきめポーズをとりつつ言い放つ。
 ……うわぁ。
 ライヴァンは何を言ってもかっこ悪い。ある意味才能だ。いつか平和になったら、「謎のポーズを止めてみては?」と提案してみようかな。それで少しはましになる気がする。
「雑魚悪魔の分際で……。ヴィッタ!こいつを殺しなさい!」
 非常に不愉快そうな表情を浮かべるカルチェレイナ。一方、久々に指示をもらったヴィッタは、パアッと嬉しそうな顔になる。
「ヤーン!カルチェレイナ様に頼られてるぅ。キャハッ!ヴィッタ、殺りまぁす!」
 ヴィッタは高らかに宣言すると、ライヴァンに向けて赤いリボンを伸ばす。ライヴァンはそれを黒い塊で弾き防いだ。
 刹那、彼のすぐ近くに姿を現すカルチェレイナ。彼女は気づき遅れたライヴァンの腹に強烈な蹴りを加えた。ライヴァンは後ろへ直線を描くように吹っ飛ぶ。
 その様子を見て、思わず悲鳴をあげてしまった。カルチェレイナがあまりに躊躇いなく蹴ったものだから。
「裏切り者は許さないわよ」
 カルチェレイナの黄色い瞳は、裏切り者であるライヴァンへの憎しみに満ちている。
 私はライヴァンを止めようと思った。これ以上誰にも傷ついてほしくないから。
 だが、蹴りを食らった彼は、案外普通に立ち上がる。
「ふふ……分かった。よく分かったよ。カルチェレイナ、麗しい僕に嫉妬しているな!?」
 天使より悪魔の方が強い。それは聞いたことがあるが、実際に見てみて改めて感じた。
 そもそも肉体の耐久力が違う。それに加えてパワーもあるとなると、天使が不利なのも無理はない。
「王女、もたもたせずに行きたまえっ!」
 ライヴァンはバカでイタいが、それでも一応は四魔将にまで上り詰めた男だ。カルチェレイナのことを知っているというのもあり、即座に敗北することはないだろう。
「でも……」
 しかしライヴァンを残してエリアスの方へ行く決心がつかない。迷ってもたもたしている私に彼が言い放つ。
「本心に従えっ!」
 心臓に突き刺さったみたいだった。
 その一言のおかげで覚悟を決めることができた私は、一度ライヴァンを見て大きく頷いた。彼は片手で前髪を掻き上げながら、もう片方の手の親指をグッと立てる。
「この親切な僕に感謝することだ!」
「そうね、行ってくる。ありがとう」
 自分のことを親切だと言いきってしまえるところが凄い。彼らしく、愚かさ丸出しだ。
 最後に一瞬ライヴァンと視線を合わせ、私は森の方へ走り出した。
 爆発のおかげで大体どの辺りかは見当がつく。だが一刻も早く会いに行きたい。そして、冷たい態度をとってしまったことを謝りたい。
 ——お願い、エリアス。どうか無事でいて。

Re: 《☆人気投票開催中☆》エンジェリカの王女 ( No.135 )
日時: 2017/09/23 14:51
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: bOxz4n6K)

99話「生と死の狭間で」

 エリアスは気がつくと見知らぬ場所にいた。ルッツにやられたはずの体には傷一つない。辺りを見回す。空も地面も、すべてが白い。だが足の裏には確かに地面を踏み締める感覚がある。彼は何も分からないまま歩き出した。
 やがて目の前に一本の川が現れた。流れは速めだが深さはそれほどなく、エリアスの膝下くらいだろうか。歩いて渡れないこともない感じだ。水は澄んでいて、川底が目視できる。
 ふと向こう岸に目をやると、一人の女性が立っているのが見えた。
 女性が振り返った時、エリアスは衝撃を受けた。
 その姿がラヴィーナだったから。
 長い月日が立っているとしても、エリアスが彼女を見間違えるはずはない。綺麗な金の髪、燃えるような赤の瞳。すべてが彼女そのものだった。
「王妃……」
 目の前にいる彼女は本物ではない。そう自分に言い聞かせながらも、エリアスは彼女を呼んでいた。半ば無意識に。
 それに対してラヴィーナは、手を口に添えつつ笑う。笑う時、口に手を添えるのは、生前の彼女の癖だった。
「会うのは久しぶりね。アンナは元気にしている?」
「はい。貴女によく似て、とても綺麗な方です」
「それは良かったわ。ところで、貴方はアンナと仲良くしているの?」
 エリアスは言葉を詰まらせた。ラヴィーナの問いに、自信を持って答えられない。
 彼自身は良好な関係を築けていると思っていた。自分がアンナを慕っているのはもちろん、彼女も自分を頼りにしてくれているようだったから。
 だが今はよく分からなくなった。護衛隊長を解任され、離れてしまったエリアスには、もはやアンナの思いなど知りようがない。
「……護衛隊長をさせていただいておりました」
 今はもう護衛隊長ではない。口に出したことでエリアスはそれを改めて感じ、辛くなった。
「アンナを護ってくれていたのね。ありがとう」
「いえ、たいしたことではありません」
 エリアスは嘘をついているようで悪い気がした。
 ラヴィーナは信頼してくれている。しかし現実はというと、彼女の期待に添えている状態ではない。護るどころか危険な目に遭わせたりしてしまった。
 だがそんなことは言えない。
「……不思議だわ」
 ラヴィーナが唐突に呟く。
「王妃?」
「貴方、変わったわね。昔より雰囲気が柔らかくなったわ。きっと良い経験をしたのね」
 ラヴィーナはエリアスを見つめながら、ふふっと控えめな笑みをこぼす。
「そうでしょうか」
 エリアスは彼女の言うことがよく分からず首を傾げる。
 するとラヴィーナは子どものような無邪気に言う。
「好きな天使でもできた?」
 突然のことに戸惑い返答に困るエリアス。「もしかして王女のことだろうか」と思う。それは以前ツヴァイにも言われた。
 ツヴァイに言われた時は、単にからかわれているのだと思っていた。しかし、ラヴィーナがもしそのことを言っているのだとすれば、純粋なからかいだけではないように思えてくる。
「……そう見えますか」
 エリアスは迷いつつ、静かにそう返した。
「良かったわ。エリアス」
 純粋な笑みを浮かべるラヴィーナは、ここまで言うと少し悲しげな表情になる。
「実はね、少し後悔していたの。無関係な貴方に重すぎるものを背負わせたのではないかなって。王女であるアンナを護れだなんて、いくら貴方でも重く感じるのではないかなって」
「そんなことはありません。王女には毎日楽しませていただきました。色々と学ぶことができましたし、有意義でした」
 エリアスはアンナと出会い、数えきれないほど多くのことを知った。
 面白い時に笑うこと、誰かと時間と共有すること。誰かを愛しいと思うこと、そして別れを寂しく感じること——。
 彼女は未熟で不完全でも、エリアスが知らないものを知っていた。エリアスにはなかった、豊かな感情というものを。
「私は王女にいつも励まされ、たくさんの勇気をいただきました。ずっとお護りできるものと思って……いたのですが」
 その続きはエリアスには言えなかった。もし口に出してしまえば、あれほど慕っていたアンナに別れを告げられたという悲しみが、一気に込み上げてきそうな気がしたから。
 そして沈黙が訪れた。
 微かな風にラヴィーナの金の髪が柔らかく揺れる。
 話していたからか、状況に戸惑っていたからか分からないが、今まで気づかなかった川のせせらぎが耳に入ってくる。澄んだ水の流れる音がエリアスの心を癒やすみたいだ。
「……貴方はどうしたいの?」
 ラヴィーナは今までより真剣な顔でエリアスに尋ねる。
 エリアスはすぐには答えられなかった。なんせ彼は自分の道を選ぶのが苦手なのである。
「エリアスはどうしたいの?」
 ラヴィーナは真剣な表情のままもう一度聞く。
「……戻りたいです」
 エリアスは絞り出すような声で答えた。
「王女のところへ戻ってやり直したい……。もう無理かもしれないけれど。でもあの方は、私のただ一つの希望でした」
 するとラヴィーナは笑う。その姿は美しく、それでいて幻影のように儚い。
「そうね。自分の望む道を歩みなさい。ひたすらしたいことをして、愛しい者にしがみつくの。そうすればきっと、幸せになれるわ」
 まばたきして再び目を開けた時、ラヴィーナの姿はもうなかった。ただ、川のせせらぎが聞こえるだけである。

ようやく100話! ( No.136 )
日時: 2017/09/24 08:34
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: fQORg6cj)

100話「エリアス」

 ——赤く染まった天使。
 それを見た時、その天使がエリアスであるとすぐに分かった。
 私は大急ぎで駆け寄り、彼のすぐ横に座る。
「エリアス!?エリアス!」
 呼びかけてみても反応は一切ない。
 白い衣装も、白い翼も、目を逸らしたくなるぐらい赤く染まっている。腹部に傷があるらしく、トクトク脈打って血が流れ出ている。このままでは死ぬのも時間の問題だ。
 長い睫のついた目は眠っているかのように閉じられ、顔と唇は青くなっている。
「エリアス、起きて。お願い。ねぇ!エリアス!」
 もう一度呼びかけても反応はなく、私の声は森に虚しく響くだけ。
 途端に目の奥から熱いものが込み上げてくる。私が彼をこんな目に遭わせてしまったという罪の意識。それがあまりに苦しくて、泣きたくなる。
「ごめんなさいエリアス……。こんなことになったのは私のせい……。でもどうかお願い、死なないで……」
 彼の身が滅ばぬようにと思って、辛いながらも突き放した。それなのに結局こうなってしまった。
 私の選択が間違っていた。
 あの時、あのまま森の中に潜んでいたならば。一緒に行動していたならば。こんな風にはならなかったかもしれない。
 彼の存在がどれほど大きなものなのか、私はたった今まで気づけなかった。否、分かっているつもりでいた。けれど本当に分かってはいなかったのだと、今更思い知る。
「嫌だ……死なないで……。話したり、笑ったり、抱き締めたり、してよ……」
 別れが来るのが怖くて、半ば無意識に体が震えた。
 エリアスはピクリとも動かず、ただただ皮膚が青白くなっていくばかり。脱力した彼の肉体からはいつもの神々しい聖気は感じられない。まるで抜け殻のよう。
「……王女」
 突如、エリアスの唇が小さく動いた。驚いて彼の顔を見たが、意識が戻った様子はない。どうやら譫言のようだ。
「エリアス?」
 恐る恐る声をかけてみる。
「……会いたい」
 エリアスは私のかけた声には反応しなかったが、また小さく言葉を漏らす。長い睫には透き通った涙の粒がついていた。
 彼の脱力した手を握る。血色は悪いが体温は感じられる。
「私も会いたいわ……。勝手なこと言ってごめんなさい。本当は、ずっと傍にいてほしい……」
 今まで一度でも、自分の行動を、これほど悔やんだことがあっただろうか。
「お願い……」
 彼がいることが当たり前だった。護ってもらうことを当たり前と思っていた。
 私は自分勝手だったのだ。
 彼の本当の心を知ろうともせず、勝手な考えで彼を突き放した。彼を護るためなどと聞こえのいいことを言っていても、それはただ私自身が傷つくのを恐れていただけ。結局はすべて私のためにした行動だった。

 ——その時。
 エリアスの指が微かに動いた。私の手を握り返すように。
「エリアス?」
 恐る恐る名前を呼んでみる。
 すると、彼は静かに瞼を開けた。
「……王女」
 瑠璃色の瞳が私を捉える。意識が戻ったらしい。目つきは思っていたよりかしっかりしている。
「エリアス!気がついたの!?」
「……なぜここに」
 声はまだ弱々しいが、意志疎通は可能なようだ。
 エリアスが生きている。それがあまりに嬉しくて、溜まっていた涙が一気に溢れ出した。泣いている暇なんてありはしないのに。
「王女……なぜ泣いてらっしゃるのですか」
 彼は指で私の涙を拭う。
「構わなくていいのですよ。私はもう護衛隊長ではありませんから」
 そう言いながら少し切なげに微笑むエリアス。
「死んじゃったかと思った……。私のせいでエリアスが……って思って、それで……」
 私は泣きすぎてまともに話せなかった。涙は洪水のように溢れて止まらず、おかげで彼を普通に見つめることすらままならない。
「ごめんなさい……私、貴方を傷つけて……。許さなくてもいいから死なないでほしいの……。エリアスのいない世界なんて……嫌よ……!」
 必死に言葉を紡ぐ。意味が分からないことを言ってしまっているかもしれないが、今の私にとってはそんなことどうでもよかった。
「簡単に死にはしません」
 エリアスは浅い呼吸をしながらも、しっかりとした口調で答える。口調とは裏腹に表情は柔らかい。
「貴女が望んで下さるのなら、私は必ず生き続けます」
 彼の顔には色が戻ってきていた。
 私は延々と流れ続ける涙を二の腕で拭いつつ、改めて彼の瞳を見つめる。瑠璃色の瞳はとても美しく澄んでいて、私の姿がくっきりと映っている。
「王女、一つだけ申し上げても構いませんか?」
 エリアスは横に寝た体勢のまま、じっと私を見つめた。こんなに真っ直ぐ見つめられては恥ずかしい。私は少し視線を逸らしながら彼の問いに頷く。
「……ようやく気づきました。私は貴女を愛しているのだと。護衛隊長としてではなく、一人の男として私は貴女を好きになっていたのです」
 ——え?
 ちょっと待って、何の話?いきなりすぎてついていけないわ。
「王女、好きです」
 エリアスは、傷つき汚れた顔に、何よりも純粋で綺麗な微笑みを浮かべる。
 こんなストレートに言われるとは予想しなかった。恥ずかしくて気まずくなり、私は少し言葉を詰まらせてしまう。心の整理がすぐにはできなかったのだ。
 ただ、とても嬉しかった。
 彼を失うかもしれないと思った時、私の心に生まれた想い。特別な感情。自覚してもなかなか伝えられないと思っていたけれど、そのチャンスは案外すぐにやって来た。
「ありがとう。嬉しい。あのね、私も気づいたことがあるの」
 今なら言える気がする。
「エリアス。大好きよ」
 もっと早く気づけば良かった。いや、本当は気づいていたのかもしれない。ただその感情から目を逸らしていただけで。
 だから、今ここで誓うわ。
 私は二度とこの温もりを離さない。永遠に——。

Re: 《☆人気投票開催中☆》エンジェリカの王女[祝・100話☆] ( No.137 )
日時: 2017/09/24 19:07
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: O7xH2wYh)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=5836&page=1

本日、100話を突破しました!

いつもありがとうございます。これからもコツコツ執筆を続けて参ります。

Re: 《☆人気投票期間延長☆》エンジェリカの王女[祝・100話☆] ( No.138 )
日時: 2017/09/25 21:27
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 59tDAuIV)

101話「すぐに帰ってくるから」

 ほんの数秒、沈黙があった。何か悪いことを言ってしまっただろうか、と少し不安になる。私はエリアスの反応を待つ。
 しばらくすると、エリアスの瑠璃色の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。突然のことに驚き戸惑う。「何事?」という感じだ。
「あ……す、すみません……」
 エリアスは慌てて涙を拭く。
 私が泣き止んだと思ったら今度は彼か。私たち似た者同士ね。
「嬉しくて……あまりに……」
 いきなり倒置法。気になる。まぁたいして気にすることではないのだが。
 私は「嬉し涙なら良かった」と思い胸を撫で下ろした。これ以上彼に迷惑をかけるわけにはいかない。
「そうでした。カルチェレイナはどうなったのですか?」
 ようやく普通に話せるようになってきたエリアスが尋ねてくる。
「今はライヴァンが食い止めてくれているわ」
 傷があるエリアスの腹部を一瞥する。どうやら出血は止まったようだった。かなりの量が体外へ出てしまっただろうが、彼の様子を見ている感じだと、命に別状はなさそうだ。意識ははっきりしているし、首から上や腕は動かせている。
 もちろん治療は必要だと思うが、何とかなりそうな状態だ。
「ライヴァンですか……」
 エリアスは怪訝な顔をしながら上半身を起こそうとする。しかし途中でガクッとなったので、咄嗟に支える。
「もう少し横になっていた方がいいわ」
 今はライヴァンのことよりもエリアスの体が心配だ。
「はい。すみません」
 ゆっくりと横たわらせる。すると、彼の服にこびりついていた血がべったりと手につく。それを見て複雑な心境になったが、なるべく気にしないようにした。
 エリアスが生きていればそれでいいのだから。
「ねぇ、あの小さな瓶の薬は持っていないの?」
「クヤハズキオルーナですか」
「そうそう。それよ」
 するとエリアスは上着のポケットへ手を伸ばす。そして数秒後に水色の小瓶を取り出した。
「これをどうなさるのです?」
 予想外の質問をされ困惑する。「エリアスが飲む意外に選択肢はないでしょう!」と突っ込みを入れたい気分だ。これを素で言っているとすれば、かなりの天然である。
「貴方が飲むのよ」
「私が?」
 今日のエリアスはどうかしているわね。明らかに変。
「いいから飲んで!ちょっとでも早く傷を治さなくちゃならないでしょ!」
 少しイラッとして調子を強めた。
 エリアスは「はい」と短く返事して小瓶の中の薬を飲む。意外と少量なのか、あっという間に飲み終えた。
「美味しかった?」
 興味本意で尋ねてみると、エリアスは苦笑する。
「あまり美味しくありません。草の味がします」
 草の味!?……それは厳しい。
 原材料が薬草だから仕方がないのかもしれないが、調味料などで多少味付けしておけばいいのにと思う。
 傷病者が飲むわけだから、ある程度美味しくしておくべきよね。怪我はともかく、病気の時に草の味がする液を飲むのはかなり辛いだろうし。
 その時、カルチェレイナがいる方角から爆発音が聞こえた。そこまで大きくはないが何回も鳴り響く。
「そうだった、そろそろ行かなくちゃ。エリアスは一人で平気?」
 本当は重傷の彼をこんなところに置いていきたくない。安全な場所へ一緒に避難して、一刻も早く手当てしなくては。
 だが私はカルチェレイナとの戦いから逃げられない。絶対にあの場所へ戻らなくてはならないのだ。
 何度も「このまま逃げてしまおうか」と思った。そうすれば私もエリアスも無事でいられるし、一番簡単な道だから。だがそれは私たち二人しか救われない道だ。あの場所にいるジェシカたちや、カルチェレイナと戦っているであろうライヴァン。私に味方して力を貸してくれた者たちを犠牲にするわけにはいかない。
 私の願いは大切な者たちと幸せに暮らすこと。一人でも欠ければその願いは成就しない。
「私は平気ですが……本当にカルチェレイナのところへ行かれるのですか?王女が無理して行かれることはないのですよ」
 エリアスは眉を寄せて複雑そうな顔つきになる。私がカルチェレイナのところへ行くのを止めたそうだ。
「そうね。でも、こんなことになったのは私のせい。だから私が決着をつけるの」
 躊躇いなくそう答えられた。
 今はカルチェレイナを倒すという揺るぎない決意があるから、私は迷わないし間違えない。
「……本気なのですね、王女」
 瑠璃色の瞳が私を真っ直ぐ見つめる。こちらが目を逸らすことを許さないくらい真っ直ぐな視線。
 エリアスを心配させることは分かっている。それでも、私はこんな憎しみ合いの連鎖を終わらせたい。そうしなくては本当の幸せは訪れないのだ。
「もし戦うのなら、それを使って下さい」
 エリアスは納得したような表情をしながら、私の胸元にある銀のブローチを指し示す。
 カルチェレイナがまだ麗奈だった頃、彼女から貰ったブローチ。複雑な思い出があるものだが、昔からの習慣もあって、いまだにずっと身につけている。
「これ?」
「はい。その羽には私の聖気が入っています」
 エリアスは柔らかな笑みを浮かべつつ続ける。
「私はもう戦えませんが、私の相棒が王女を護るはずです」
「相棒?」
 私は彼の言うことが理解できず首を傾げた。するとエリアスは答えてくれる。
「槍のことです。危ない時に使って下さい」
 え?
 そんなものを私に持たせてどうなるのだろうか。槍術どころか運動すらまともにできない私がエリアスの槍を持ったところで、戦えるはずがない。ほぼ無意味に近しい。
 だが彼は良心でしてくれたのだろう。その思いを否定するのは少々失礼だ。
「ありがとう、エリアス。それじゃあ行ってくるわね」
 私は今日一番の笑顔を作った。
「いってらっしゃいませ、王女。……どうかご無事で」
 エリアスの顔には不安の色が浮かんでいる。だが、彼は私を止めなかった。私の選んだ道を尊重してくれたのだろう。
「待っていてね。すぐに帰ってくるわ」


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