コメディ・ライト小説(新)
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- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
羅紗さん
流沢藍蓮さん
ひなたさん
氷菓子さん
アンクルデスさん
白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: エンジェリカの王女 ( No.4 )
- 日時: 2017/07/07 01:14
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: exZtdiuL)
3話「気ままにお出掛け」
「なにこれ可愛い!くまのストラップ!」
さっきまでいたアクセサリー屋の2軒隣にある可愛らしい小物を置いている雑貨屋で、私はとても可愛いくまのストラップを見つけた。ピンクとブルーのくまが2匹でセットになっていて、それぞれが自身の体色と同じ色のハートを抱きかかえている。
「気に入ったものが見つかりましたか?王女」
店内の商品を見ながら歩いていたエリアスが、こちらへ来て声をかけてくる。
「ねぇ、エリアス!これ見て。凄い可愛くない?」
私はやや興奮気味にそう言った。すると彼は私の手の中にあるくまのストラップを覗き込み感想を述べる。
「2色でセットのストラップですか。可愛らしいですね。王女にお似合いだと思います」
「これ買って1つずつ持たない?お揃い!」
そう提案をするとエリアスは首を横に捻った。
「何故私とお揃いのものを持つ必要があるのですか?よく理解できませんが」
お揃いを持ちたい心理が本当に分からないようである。親しい者と同じものを持ちたいと言う心理は女性特有なのかもしれない。
「私はね、大切な貴方と同じものを持ちたいと思うの。エリアスには理解できないかもしれないけど、それが女の子の心なのよ」
すると彼は驚いたように私を見てから頷く。
「そうでしたか。私にはそのような発想がなかったもので、すみません。そういうことなら買いましょう。同じようなものを持つというのも悪くはないかもしれませんね」
エリアスは少し照れたような表情をしつつもどこか嬉しそうだった。
「いいの?」
「同じものを持ちたい、共有したいと思ってくださるということは、王女が私を嫌ってはいないということ。なら嬉しいばかりです。私も護衛隊長として常に貴女の傍にいたいと考えておりますから、我々の考えは一致しているということですね」
幸せそうに語る彼のは微かに紅潮している。彼は基本淡々としているためクールなように思われがちだが、案外分かりやすいタイプである。
「さて、では買いましょうか。会計は私が済ませて参ります」
「いいの?エリアス」
私は買い物をしたことがないので会計の方法が分からない。何しろ王宮では買い物などしないものだから。
「はい、お任せ下さい」
エリアスにくまのストラップを手渡す。彼はそれを受け取るとレジまで歩いていき、店員の女性にお金を払っていた。それからしばらくして、私のところへ帰ってくる。
「どうぞ、王女。すぐに使うかと思い包みはなしにしてもらいました。いかがでしょう?」
「ありがとう!」
私は嬉しくなって衝動的にエリアスに抱きついた。すると彼は目を開き驚いた顔をした。
「あ……」
私は正気に戻り、気まずい思いをする。何も考えず抱きついたはいいが、一応相手は男だ。それに主従関係。だが私より向こうの方が複雑な思いをしているだろう。
「ごめん、エリアス。急に触ったりして」
「いえ。大丈夫ですよ」
彼は微笑み落ち着いてそう返してきた。微笑むと長い睫毛が目立ち、浮世離れした雰囲気が尚更際立つ。
「また他の店も見ていい?折角だし、もっとたくさん回りたいの。だってこんな機会、滅多にないじゃない」
次はいつ王宮から出られるか分からないから、なるべく多くのものを見ておきたいと思う。
「そうですね。私も貴女と二人でお出掛けする機会は滅多にありませんから嬉しく思います」
彼は快く頷いてくれ、話はまとまったので、次の店を見に行くことになった。
「エリアス、空が綺麗ね」
私は途中で不意にそんなことを呟く。
見上げた空がとても美しかったからだ。果てしなく続く青空に、白い雲の隙間から差し込む神々しい光。まるで私の初めての外出を祝福してくれているみたい。
「空、ですか?」
彼は不思議そうな表情で言ってから、気がついたように続ける。
「あぁ、そうでした。王女が王宮の外で空をご覧になったのは初めてですね」
「そうよ。いつも部屋からは空を眺めていたけれど。外で見るとこんな風に見えるのね」
エリアスは少し目を細め悲しそうな表情を浮かべる。何だか一気にしんみりしてしまった。
「さ!行こ!」
私はしんみりした雰囲気を吹き飛ばすために敢えて明るく言って歩き出す。明るく笑っていないと何だか悲しくなりそうな気がしたから。折角のお出掛けを湿っぽくするのは嫌だ。
「はい。次はどこへ参りましょうか……」
エリアスは早足で私を追ってくる。
「うーん、公園?」
私はふと思い出した言葉を発した。行ったことはないし詳しくは知らないが、以前使用人の息子の小さな少年から面白いところと聞いた覚えがある。
「この辺には公園なんてありませんよ」
「え。ないの?でも王宮の前のあそこは」
「あれは広場です」
「公園じゃないのね……。でも広場と公園って何が違うの?」
「ややこしい説明を求めないで下さいよ、王女。王宮の図書館でお調べ下さい」
「エリアス知らないんだ」
「なっ、王女!さすがにそれぐらい分かります!」
お互いの顔を見合わせると、自然と頬が緩んだ。理由は分からないが何だかおかしくて。
「……面白いわ、エリアス。貴方って不思議な感じね」
彼は困惑した顔で首を捻る。
「ずっと思ってたわ。貴方って完璧に見えるのに、たまに変なの」
「私が?おかしいですか」
彼はいたって真面目な態度である。それがまた笑いを生む。
「でも、だからこそ、一緒にいて楽しいの。私、面白くない天使ってすぐに飽きるから」
これからもずっと先も、こんな風に笑いあって幸せに暮らす。何も変わりはしない。明日が来ても明後日が来ても、今日と変わらず、同じように一日を過ごすの。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.5 )
- 日時: 2017/07/08 23:09
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: l1OKFeFD)
4話「危険な街角」
「……あれ?」
雑貨屋でくまのストラップを買った後、立ち並ぶ店を眺めながら歩いていた。するといつの間にやらエリアスが見当たらなくなっている。おかしい。さっきまで数歩後ろにいたはずなのに。
「エリアスー、どこー?」
彼の名を呼んでみたが、建国記念祭の準備で行き交う天使達が一瞬振り返るだけで、彼からの返答はない。辺りを懸命に眺めてみても姿は見当たらない。
「……はぐれちゃったのかな、どうしよう。エリアスと一緒にいなくちゃヴァネッサに怒られるのに……」
不安に駆られながら独り言を呟く。さっきまでは楽しくて仕方なかったのに、街が急に怖く感じてくる。エリアスを探してうろつくうちに段々足が疲れてきて、私はとうとう道の端の煉瓦に腰をかけた。
「……どうしたらいいの」
すっかり困りきってしまい、頭を抱えて小さく漏らす。
「こんにちは。お嬢さん」
ふと声が聞こえ私が顔を上げると、そこには見知らぬ男性が立っていた。
黄色に近い金髪でセットされた前髪、紫の瞳。細身でスタイルは良く、金を持っていそうな身形をしている。まとっている紫のマントが個性的で、この国ではあまり見かけない服装だ。
「……誰ですか?」
怪しんで尋ねてみると、その男性は返す。
「僕はしがないお金持ちさ!」
意味が分からない。分からないが、今の一言で一つだけ分かったことがある。
バカだということ。
「あの……、お金持ちなのにしがないんですか?」
「そうさ。僕って、賢いし強いしかっこいいだろう」
お金持ちはしがないとは言わないと思う。
「貴方、変わってますね」
「僕が?あぁ、そうか。君は僕の魅力に驚いているんだね」
そんなに美男子とは思わないが、目の前にいる彼は自分がかっこいいと信じて一切疑わないようだ。ナルシストというやつか。そういう質の者もいると話には聞いたことがあるが、実際出会うのは初めてな気がする。
「それで、何か用ですか?」
「ふふふ……」
彼はよく分からない奇妙な笑い方をしている。
「僕には見える。君の悩みが、手に取るように!」
「私の悩み?」
「なんたって僕、天才だから!他人の心が見えるのさ」
謎のポーズをしながらそんなことを言う。果てしなく謎だ。
「君、今、探している人がいるだろ?」
彼はいきなり顔を私の顔に接近させ、小声で囁いた。
「いや、人じゃないか。正しく言うなら天使だね。名前はエリアス、君の護衛隊長か」
私は思わずごくりと唾を飲み込んだ。当たっている。どうやらナルシストなバカというだけでもないらしい。
「やけに詳しいのね」
だがますます怪しい。
「最初に言ったはずさ。僕は君の心が見える!そんなことぐらい簡単に分かるよ」
「じゃあエリアスがどこにいるかも分かるって言うの?」
私は少し興味を持ったので尋ねてみる。いかにも怪しくはあるが、エリアスを探す力になってくれるのなら、頼ってみるのも悪くはないかもしれない。
「ふふ……、もちろん。実は心当たりがあるのさ!」
彼はまた謎のポーズをきめながら発言した。
「心当たりですって?もしかして貴方、エリアスのこと知ってるの?」
知り合いでないなら心当たりがあるわけがない。
「ふふ、そうさ。特別親しいわけじゃないけど、会ったことはあるんだよ。だから見た目で分かる。さっき彼らしき天使を見かけた場所へ案内してほしいかい?」
私は腰かけていた煉瓦から立ち上がる。
「……本当なのね?」
真っ直ぐに見据えると、彼は誇らしげに頷く。
「このかっこいい僕が君に嘘を言う理由はないよ。ふふふ」
「分かったわ。じゃあエリアスのところへ案内して」
私は彼についていくことにした。多少の不安はあったが、行動しなくては何も始まらない。
男性に案内されて歩くことしばらく。辿り着いたのは街からそこそこ離れた郊外にある木造の小屋だった。
静かな雰囲気で何者かがいるとは思えない場所だ。近辺にエリアスがいるなら多少は彼の聖気を感じられるはずだが何も感じられない。
「本当にこんなところにエリアスがいるの?」
私は疑問を抱きつつ小屋の中へ入る。小屋の中はとても殺風景で、机と椅子を除けばほぼ何も置かれていない。
「帰ります。エリアスはここにいないわ。彼の聖気は感じられないもの」
無駄足だった。小屋を出ていこうとした刹那、男性は私の腕を掴んだ。
「いやいや。ただで帰らせるわけにはいかないなぁ」
彼は掴んだ腕を引っ張り、私の体を自分の方へ引き寄せる。
「アンナ王女。エンジェリカの秘宝……って知ってるかい?」
あまり至近距離で不気味な笑みを浮かべるものだから、私は反射的に腕を振り払っていた。
「エンジェリカの秘宝?何よそれ。知らないわ」
聞いたこともない。
「なんでも、どんな願いも叶えてくれる宝具だとか。……素直に話した方が身のためだよ」
男性は一旦前髪を掻き上げてかっこつけてから、私の首に腕を回した。その手には黒いナイフが握られており、そこからは悪魔が持つ魔気が漂っている。背筋が凍りつくような不気味な感覚だ。
「……魔気?もしかして」
魔界で暮らす悪魔が天界にいるはずはない。だが、今感じている魔気は確かに本物である。
「貴方、悪魔……?」
すぐそこにある彼の口がにやりと歪む。
「僕は四魔将のライヴァン」
以前、魔界の王妃に仕える優秀な四人の悪魔の話を聞いたことがある。魔界でも数えるほどしかいない上級悪魔だとか。
「さぁ!この美しい僕にエンジェリカの秘宝を渡してもらおうか」
怖い。だが、こんなことに負けるわけにはいかない。ただひたすらに耐える。
「そんなの知らないわ。離してちょうだい!」
私は湧き出る恐怖を振り払うべく、きつい口調で言い放つ。こうでもしないと脚が震えてへたり込んでしまいそうだ。
「ならいいさ!」
男性——ライヴァンは、怒りに顔を歪めて私を蹴飛ばした。なんて乱暴なの。
「美しい僕のお願いを聞けないならもう知らない!怒った!消しちゃうっ!」
ライヴァンは怒った子どものように顔を真っ赤に染め声を荒らげる。思い通りにならないとイライラするタイプのようだ。
「覚悟っ!」
彼は甲高く叫ぶと、魔気をまとった黒いナイフを振り回し始めた。さすがに危ないと思い、慌てて距離をとる。
額に浮かんだ汗の粒が頬を伝って床へ落ちる。この男は私を本気で殺そうとしている。そう感じた途端、恐怖で脚が動かなくなった。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.6 )
- 日時: 2017/08/16 21:16
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: AwgGnLCM)
5話「卑怯な悪魔」
私はライヴァンの振り回すナイフを紙一重でかわし小屋の入り口の方へ駆け寄る。外へ逃げるためドアノブに手をかける。しかし、いつの間にやら鍵がかかってしまっているらしく、ドアは開かない。このままでは何をされるか分からない。必死にドアに体当たりをしたり足掻いてみるが女一人の力では何もできなかった。
「待って!」
もうこれしかないと思い、全力で叫ぶ。するとライヴァンの動きがほんの一瞬止まった。
「ちょっと待って!お願いよ、話を聞いてちょうだい!」
「……話だって?」
ライヴァンはナイフの刃をこちらに向けたまま怪訝な顔をする。
「貴方を怒らせるつもりはなかったの。私、エンジェリカの秘宝なんて聞いたことなくて、だから、誤解しないで。本当に怒らせる気はなかったのよ」
怒りで暴走している相手に何を言おうとも恐らく無意味だろう。彼に冷静になってもらうのが先決だ。
「ふっ、ふふふ……!やーっと謝る気になったようだね!」
ライヴァンは突然元の雰囲気に戻った。いや、違う。元に戻ったのではなくご機嫌になっている。少しでも落ち着かせれば十分と思っていた私は、予想外な結果に一瞬ついていけなかった。
「謝るわ、ごめんなさい。だから一つだけ教えてほしいの」
「僕は心が広いから許してあげるよ!で、このかっこいい僕に質問だって?」
「かっこいいと思ってるのは自分だけよ」と嫌味を言いたくなるのは抑えて頷く。
「エンジェリカの秘宝って一体何なの?」
「まさか君、本当に知らないのかい!?」
目は見開き口を精一杯広げ、ライヴァンはこれ以上ないぐらい派手な驚き顔になる。こんなに顔筋が柔軟だとは思わなかった、とつい冷静になってしまうほどの変わりようだ。
「えぇ、知らないわ。それどころか聞いたこともない」
嘘ではない。
「そうか。なら仕方ないな。この美しく賢い僕が教えて差し上げよう!」
ライヴァンは片腕を上に上げるような謎の決めポーズでそう言った。喉まで込み上げてきた「美しくも賢くもないと思う」という言葉を飲み込む。
「エンジェリカの秘宝とは、エンジェリカに伝わる秘宝のことである」
「そのままじゃない」
「うるさい!そこで大人しく黙っていろ!」
ライヴァンがこちらに指を向けると黒い輪が飛んできて、私の体は木製の柱にくくりつけられた。非常に窮屈だ。
「……それは手に入れた者のどんな願いも叶えると言われている。王妃はこの美しく聡明な僕に期待を寄せてくださった。僕がエンジェリカの秘宝を手に入れた暁には、最高の褒美をくださるそうだよ」
彼は恍惚としながらこちらへ歩み寄り、長い指で私の顎に触れた。正直気持ち悪い。
「天界の王女も一緒に差し出せば、王妃は僕にもっと多くの褒美をくださるだろうね。思う存分利用させてもらうよ」
「私を悪魔に差し出す気?」
「ふふふ。最終的には、だよ。まずは君を人質として国王にエンジェリカの秘宝を要求する」
顔の距離が近い。ここまで接近すると余計に顔面の粗が目立ち、彼をますます嫌いになる。
「……随分卑怯なのね」
「卑怯でなくては社会を生きていけないよ!」
どんな社会だ、と嫌味を吐いてやろうと思ったその時、一瞬だけ、目が眩むくらいの強い聖気を感じた。エリアスが来たのかもしれない。心の奥に一縷の望みが生まれた。
「……そうね。きっと魔界ではそうなのでしょうね」
私は目を閉じて小さく口を動かす。
聖気は確かにこちらへ近づいてきている。エリアスでほぼ間違いないだろう。今私がすべきことは時間を稼ぐこと。
「卑怯者が勝つのは魔界でなくとも世の摂理さ!」
端から真面目に討論する気はない。私としては時間を稼げるなら何でもいいのだ。
「天界ではそうと決まってはいないわ。卑怯でなくとも勝者にはなれるの。面白いでしょう」
「いや、違うね!卑怯者こそが最後に勝者となる!」
「いいえ。残念だけど、それは魔界でだけ。ここでは違うわ」
しばらくの間、そんな風に言い合った。どうでもいい議題ではあったが、ライヴァンのむきになる性格のおかげで会話は苦労なく続く。
「随分な自信だなぁ。でも残念ながら卑怯者こそが……っ!?」
ライヴァンは言いかけて途中で言葉を詰まらせた。見開かれた目の中にある紫の瞳が怯えたように揺れている。
「聖気……?な、そんな……」
ドアの中央に手のひらくらいの白い光が現れ、次の瞬間、爆発が起きてドアが吹き飛んだ。神々しいほどの白い光に私は思わず目を閉じる。
「王女!こちらにいらっしゃいますか!?」
エリアスの声が耳に入る。光が止んだ後ゆっくりと目を開けると、小屋のドアは綺麗さっぱりなくなっておりエリアスが立っていた。
「エリアス!」
私は思わず彼の名を呼んだ。
「すぐにお助けします」
彼は落ち着いた様子でそう言うと、私がくくりつけられている柱の方へ歩いてくる。
「きっ、貴様ぁ〜!どうしてここが分かった!」
ライヴァンの表情が驚きから怒りへ変化した。エリアスはライヴァンの問いには答えず、彼に目をくれることすらしない。
「王女、お怪我はありませんか?すぐに拘束を解きますから」
エリアスは私の目の前まで着くと柔らかく笑みを浮かべて言う。そして私の体を拘束する黒い輪に手をかけ、一瞬にして輪を引きちぎった。
「貴様っ!美しい僕を無視するとは何事だーっ!」
「そこにいて下さい。もう決して触れさせはしません」
エリアスはライヴァンの発言にはひたすら無視をする。その様子は、さすがにライヴァンが可哀想になってくるぐらいだ。
「穢らわしい悪魔が王女に触れるな」
戦闘体勢に入ったエリアスが低い声で小さく言った。さっきまでとは別人のような冷ややか表情に鋭い眼差し。普段は柔らかな雰囲気を漂わせる長い睫毛が、今は表情の鋭さを際立たせている。その迫力に、ライヴァンがごくりと唾を飲み込むのが分かった。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.7 )
- 日時: 2017/08/16 21:15
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: AwgGnLCM)
6話「白き翼」
エリアスは鋭い表情のまま右手を開き聖気を集める。白い光が徐々に集結してきて、やがて長い槍の形になった。白く長い柄に、鋭利な銀の刃。エリアスの相棒だ。
「ぶっ、武器とは卑怯だぞ!美しい僕に刃を向けるとは何て野蛮な……ヒィッ!!」
ライヴァンが文句を言い終わる前に、槍の先は彼の喉元へ突きつけられていた。
「お前は王女に手を出した」
エリアスは背筋が凍るような声色で言う。声そのものは静かで淡々としているのに得体の知れない威圧感がある。
「死をもって償え」
「な、何だってぇ!?麗しい僕に死ねと言うとはどこまでも品のないや……ギャッ!」
エリアスは騒がしいライヴァンを槍の柄で殴り飛ばす。今まで私が見た中で一番乱暴だ。
「いっ、痛いじゃないか!これはさすがに酷いぞ!」
彼は私を狙う敵なのだから全力で殴り倒して構わないわけだが、ここまでやられていると、さすがに気の毒な気もしてくるものだ。
ライヴァンは殴られた脇腹を押さえながら力なくよろよろと立ち上がる。
「美しい僕にこんな仕打ちをするとは……そんなに僕が羨ま、ぶっ!」
エリアスは槍の柄でライヴァンを再び殴った。そして、可哀想なぐらい見事に転倒したライヴァンの襟の後ろを掴み、左手で一気に持ち上げる。片手とは思えない力だ。
「な、何をするんだぁっ。まだ!まだ何もしてないっ!」
半泣きになってじたばたと抵抗するライヴァンの喉元へ槍の先をあてがう。
「まだ、ということは、いずれ王女に危害を加えるつもりだったということだ。その罪は死をもって償え」
エリアスは冷ややかに言い放つと槍を握り直す。先程までの脅しとは違う、本気の持ち方に変わった。私はエリアスが護衛隊長になってからずっと彼の戦いを見てきた。だから今の彼が本気であることぐらい容易く分かる。
「待って、エリアス」
私は何故か声を出していた。
「その人が言っていることは本当よ。私たちはただ話していただけなの」
エリアスが振り返る。
「ですが王女……この者は貴女の命を狙ったのですよ?」
「いいえ、まだ何もされていないわ。エンジェリカの秘宝について話をしていただけよ。だから殺さなくても」
私がそう言うと、彼は困り顔になる。
「見逃せと仰るのですか」
「彼もさすがに後悔しているはずよ。大人しく帰ってもらえるなら、一度くらい見逃してもいいんじゃない?」
「……分かりました。王女がそう仰るなら」
言い終わる直前、エリアスは急に顔をしかめ、片手で掴んでいたライヴァンを反射的に放り投げた。そして左肩の辺りを押さえる。
「……く」
手を当てているところから一筋の赤い液体が垂れてきて、純白の衣装に赤い染みが広がる。
「ふ、ふふ、ふははっ!」
突如ライヴァンが大きな甲高い笑い声をあげた。
「やった、やったぞ!バカめ、お人好し王女!」
「ライヴァン、貴方……」
一瞬でも彼が反省していると思った私が愚かだった。彼は単純に自身の危機に怯えていただけで、私を傷つけようとしたことへの後悔は微塵もなかったのだ。
「今日は一旦引いてやる。が!次は本気で来るからな!愚かな王女、ふふふ……。次はこの美しい僕に拐われると覚悟しておくことだ!さらば!」
ライヴァンはいきった謎のポーズを二三種類きめながら長文を言い切ると小屋から風のような速さで走り去ってしまった。つまり、逃げた。
ライヴァンを卑怯者と分かっていながら信じてしまった愚かな自分への怒りと、敵が去ったという安堵感が混ざり、力が抜けてへたり込んでしまう。
「王女!」
それに気づいたエリアスは、素早く振り返り屈んで声をかけてくれる。
「お怪我はありませんか?」
エリアスはいつものことながら、自身の怪我は気にかけず、私の心配をしている。
「すみません。私の力不足で貴女に怖い思いをさせてしまい、何と謝れば良いものか」
エリアスはすっかり落ち込んだ表情だ。仕事には真面目な彼のことだから無理もないかもしれないが、私からすれば彼は何も悪くない。
「いいえ、貴方は悪くないわ。私が悪いの。私がライヴァンを見逃せなんて言ったから、貴方は怪我して……」
問題なのはむしろ私の方。
「そもそも私が王宮から出たいって言ったのが悪かったのね。やっぱり私に外出は無理だった……」
「それは違います」
エリアスは迷いのない表情できっぱりと断言した。
「王女、貴女が外を知りたいと思われるのは、間違いではありません」
「でも……貴方を傷つけてしまうようじゃダメよ……」
何だか悲しくなってきた。
温室育ちで世間知らずの私には、外の世界に憧れる資格なんてありはしない。ずっと王宮の中で暮らしているのがお似合いなんだ。
「そのようなことを仰らないで下さい。貴女をお守りするための護衛隊長でしょう」
「でも……!」
「王女にお怪我がなければそれで良いのです。従者をいたわるお心を否定はしませんが、いちいち些細なことでそのように悩まれては、貴女の健康に良くありませんよ」
彼はそっと微笑んで右手を差し出す。白い手袋も少しばかり血に濡れて赤くなっていた。いきなり赤い手を差し出され戸惑い反応に困っていると、彼はそれを察したらしく差し出す手をすぐに左手に変える。
「もう夕方になりますし、そろそろ帰りましょうか。今日のことは念のため私から王へお話ししておきます」
彼は落ち着いた様子でそう言った。
エリアスは強い。何があっても、傷を負っていても、いつだって普段通り冷静に判断できる力を持っている。だからこそ護衛隊長になってほしいと依頼したわけで……、だけど何故か切なくなる時がある。彼といるとたまに、自分が弱虫に思えて、情けなく感じて仕方なくなるのだ。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.8 )
- 日時: 2017/07/16 19:37
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: e/CUjWVK)
7話「王宮の自室にて」
王宮へ戻るとエリアスは私を侍女のヴァネッサに引き渡し、今回の件について報告してくると言って王の間へ向かった。
私は自室でヴァネッサと二人きりになる。彼女は深い青色の瞳でじっと凝視してくる。普段から厳しそうな雰囲気だが、今日はいつもに増して厳しい顔つきだ。
「アンナ王女。私は貴女に危ないと感じればすぐ逃げるようにと申し上げました」
「……そうね」
「それと、エリアスから離れないようにとも申し上げましたよね」
私は小さく頷く。
「それなのに!何故こんなことになったのですか!」
ヴァネッサは声を荒らげた。
「無事だったから良かったものの、一歩誤れば大問題に発展するところでしたよ!」
「……ごめんなさい」
私は何も言い返せなかった。彼女の言うことがまっとうだったから。
「しかし今回で学習されたことでしょう。次からは気をつけて行動するようにして下さい」
そうまとめるとヴァネッサは流し台の方へ歩いていく。
今日はいろんな慣れないことがありすぎて疲れた。それから私はベッドの上に座ってぼんやりと時間を過ごした。
そのうちに日は暮れ、夜。私は建国記念祭の初日に行う予定である挨拶の練習をすることになった。挨拶として読み上げる数枚の原稿は数日前に渡されていたが、面倒だったので今まで放置していた。しかしそろそろ練習しなくてはならないと思ってくる。
「えっと、うーん……ここからか。本日は記念すべき、えと……三百回目の建国記念日を迎えられたことを、……エンジェリカの王女として、光栄に思います。今年の建国記念祭は例年とは異なり、一週間に渡る日程で……あー!もー!」
他人の書いた真面目な文章を読んでいるとむしゃくしゃしてきてついに放り出してしまう。ベッドに飛び込み目を閉じる。やはり私にはこのような役割は向いていない。
「面倒臭い……」
身を回転させて仰向けになり一人呟く。横目に窓の外を見ると沢山の星が輝いているのが分かる。星たちの輝きはいやに明るく感じられた。私もあんな風に自由に輝けたら……なんてよく分からないことを夢想する。天使が星になるなんてありえないのに今は星たちが羨ましい。
その時、突然誰かがドアをノックした。
「アンナ王女、いらっしゃいますか?」
ヴァネッサの声だった。
「はーい。今開けるわ」
軽く返事をしてベッドから起き上がりドアを開ける。そこに立っていたヴァネッサは少し様子がおかしい。
「ヴァネッサ、どうしたの。こんな夜遅くに用事?」
私は敢えて気づいていないふりをして普通に尋ねる。
「エリアスが牢へ入れられました」
微塵も想像していなかったことを告げられ戸惑う。そんな私に構わずヴァネッサは続ける。
「王が、王女を連れ出し危険な目に遭わせたとお怒りになり、エリアスを牢へ入れよと」
「そんな……どうして。エリアスは何も悪くないじゃない」
王は実の父だが、一体何を考えているのかさっぱり理解できない。エリアスはただ私を守ってくれただけ。何がどうなれば彼が悪くなるのか。
「私、お父様に話してくるわ。ちゃんと説明すればエリアスは何も悪くないって分かってくれるはずよ」
「いけません、アンナ王女。こんな夜分に王の間へ行くなど」
ヴァネッサは早速歩き出そうとした私の手を握り制止する。
「でも誤解を解かないと。あんな暗くて汚い場所にいなくちゃならないなんて、エリアスが可哀想よ」
罪を犯した者を収容しておく地下牢。以前一度行ったことがあるが、光が入らず暗く、埃っぽくて不潔という、劣悪な環境だったのを覚えている。天界の明るさとは真逆のような場所だった。
「関係ありません。夜分に王の間へ行くのはいけません」
彼女が淡々とした態度なのに段々腹が立ってくる。
「ヴァネッサ、貴女変よ。どうしてそんなに冷たいの」
「時間というものを考慮して行動していただきたいだけです。貴女はいずれ女王となる身ですから、最低限のマナーは……」
いつもいつもそうやって真面目なことばかり言って。
「ヴァネッサ、貴女は酷いわ。手を離して!」
口調を強めても彼女はまったく動じない。
「まだ王の間へお行きになる気なら離しません」
ひたすらそれの一点張りだ。
「じゃあそれ以外なら離してくれるの?王の間に行く気じゃないなら離すのね?」
だったらエリアスに会うために今すぐ地下牢へ向かうわ。と心で呟いた瞬間、その思考を読んだかのようにヴァネッサは提案した。
「エリアスに会いに行かれますか?」
私は驚いて少しの間黙ってしまったが、その後すぐに返す。
「……心が読めるの?」
「いえ。ただ、アンナ王女のお考えぐらい簡単に分かります。私は貴女がまだ赤子だった頃からお仕えしているでしょう。かなり長い付き合いですから、そのくらい分かります」
特に王妃であった母が亡くなってからは、彼女がほとんどの世話をしてくれた。考えぐらい読めても不思議ではないのかもしれない。
「会えるものなら会いたいわ。彼には色々と謝らなくちゃならないし」
あれからまだまともに話していないので言いたいことは沢山ある。
「では会いに行きますか?」
ヴァネッサは珍しく笑みを浮かべた。いつもは表情があまりなく淡々としているものだから珍しいものを見た気分になる。
「いいの?」
「それなら構いません。ただし私も同行しますが」
ヴァネッサがいて困るようなことをする気はない。逆にそのような質問をする意味がいまいちよく分からなかったが、敢えて突っ込むことはないだろう。
「ありがとう!どっちみち私は場所分からないし、ヴァネッサも一緒に行こう!」
こうして私はヴァネッサと共に、エリアスがいるという地下牢へ向かうことにした。
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