コメディ・ライト小説(新)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
羅紗さん
流沢藍蓮さん
ひなたさん
氷菓子さん
アンクルデスさん
白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: エンジェリカの王女《1章 終了》 ( No.64 )
- 日時: 2017/09/13 00:19
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: pD6zOaMa)
〜第二章 地上界への旅〜
48話「いざ地上界へ!」
『まもなく地上界三重坂ー、三重坂ーー』
また車内アナウンスがあった。列車が出発して三十分くらいが経っただろうか。ノアは少し前からすっかり眠っている。
「みつえざか?」
聞き慣れない名称に首を傾げると、退屈そうにしていたジェシカが答える。
「うん、三重坂はあたしたちの借りてる家がある街の地名だよっ。天界と地上界、そして魔界。三つの世界が繋がっているところだから、三重坂っていう名前になったんだって」
「へぇ、そうなんだ」
私はさっき来た車内販売で買ったクッキーを頬張りながらジェシカの解説を聞いた。……それにしても、このクッキー美味しい。
「王女様、それ気に入った?」
ジェシカが面白そうに笑いながら尋ねてきたが、口いっぱいにクッキーが入っているため返事ができない。ひとまず頷く。
「美味しそうに食べるね」
ノアはすっかり眠ってしまい首がガクンガクンなっている。こんな状態が続くと、そのうち首を痛めそうだ。
「そろそろノア起こそっか。もう着くし」
「私が起こしてもいい?」
「いいよ」
ノアの肩をトントンと軽く叩いてみる。しかし無反応。このくらいの刺激では起きそうにない。
「王女様、ノアを起こすにはこれぐらいしないと」
と言いながらジェシカはノアの頬をビンタした。それもかなりの力で。ノアの目がパチッと開く。
「……あれー?」
意識が戻ったらしい。「そんな全力でビンタしなくても」と思う私だったがノアは気にしていない様子だ。私は知らないが、もしかしたら、いつものことなのかもしれない。
「あ、もう着いたー?」
「アンタいつまで寝てんの。もうすぐだから!」
「うん。荷物出そうかー」
ジェシカに厳しい口調で言われてもノアは気にしていない。いつもと変わらないのんびりした口調で話すだけ。足元の棚から大きい荷物を取り出す。私は荷物がほとんどないが、二人はわりと大きめのカバンである。
『三重坂ー、三重坂ですーー。お降りの際は〜〜』
何やら長いアナウンスが車内に響く。私は、数枚だけ残っているクッキーの箱を、自分の小さなカバンにしまった。
「さっ、降りるよっ。ちゃんとあたしの後ろを来てね」
ジェシカに言われたので私は彼女についていった。列車を降りても、一生懸命ジェシカについていく。
「次エスカレーターだから、気をつけて。動くよ」
ジェシカが警告する。足元を見ると、階段が動いていた。どんどん進んでいっている。
「生きてる!?」
「はいはーい、乗るよー」
後ろにいたノアが私の体をひょいと持ち上げ動く階段に乗せた。自力で乗るとなるとタイミングが難しそうだったので、ノアに乗せてもらえて助かった。
「ふぅん、不思議な生き物がいるのね……」
「王女様、生き物じゃなくて機械だよー」
初めて来る地上界は、奇妙なことが多い。
「はい、切符!改札通るよ!」
ジェシカは大きなカバンを抱えながらも手際よく切符を渡してくる。なくしたらいけないから、と私が彼女に預けていたものだ。
「改札って?」
するとジェシカが指差す先には四角い大きめの箱のようなものがある。
「あれの隙間に切符を入れて」
「え、えぇ……」
私は改札に着くと、切符を穴にゆっくり差し込む——シュッ。何もしていないのに吸い込まれて驚く。
「ひゃっ!中に何かいる!?」
「はいはーい。王女様、後ろが並ぶからどんどん進んでねー」
地上界恐るべし。
そんなこんなで私はやっと駅を出た。しかし、外に出てからも衝撃の連続だった。
まず人間はみんな同じような髪色をしていた。それも黒や茶色と地味な色。さらに服装も似たり寄ったりだ。そして最も驚いたのは、鉄の塊が走り回っていること。ジェシカに「車」と呼ぶのだと教えてもらった。その「車」なる物は、色も形も大きさも様々で、バリエーションが豊富すぎる。
私たち三人は車の中でも特に大きな「バス」に乗って、ジェシカとノアが借りているという家まで直行した。
「さて、着いた着いたっ」
バスを降りて数分歩くと、ジェシカとノアが借りているという家に着いた。質素な二階建てアパートである。
……それにしてもバスは凄い速さだった。今まで乗ったどんな乗り物よりも速かった。例えるなら、エリアスが全速力で飛んだ時くらいの速さ。
「この家、すっごく久しぶりだなーっ!」
ジェシカは高いテンションで言う。はつらつとしている。
私たち三人は階段で二階へ上がり、一つ目の部屋のドアを開ける。中へ入ると少し埃の匂いがした。
「お邪魔します……」
初めて地上界の建物に入る。ドキドキしながら一歩踏み込む。……あ、意外と普通だ。
「そうだ!王女様、お昼何食べるっ?何かあったかなっ?」
ジェシカはそんなことを言いながら、大きく白い箱の中を漁っている。
「ジェシカさん、その箱は?」
「あ、これ?これは冷蔵庫っていうんだ。食べ物を冷やすの。保冷庫ってあるじゃん、それみたいな感じ」
「へーっ。コンパクトだし便利そうね」
そこに荷物を置いたノアがやって来る。
「王女様、ここにどうぞー。僕が作ったジェルキャンドル、見せてあげるよー」
私は椅子に座る。するとノアは近くの棚から綺麗な透明のコップを二つ持ってきて、私の目の前に置いた。
「うわぁ!綺麗ね!」
片方のコップは青を基調として魚が泳いでいる海のようなもの。もう片方のコップは、緑を基調としていて、動物が森にいるような感じ。どちらも別の良さがある。
「これは何ていうの?」
「ジェルキャンドルだよー。綺麗だよねー」
私はコップの中の世界につい夢中になった。
「気に入ったなら王女様、作ってみる?」
ノアは珍しく楽しそうな顔をしている。
「私にも作れる……?」
「もちろん!材料さえあれば、誰でも作れるよー」
「じゃあ作ってみたいわ!」
こんな素敵なものがあるなんて、地上界も捨てたものじゃないわね!ウキウキしてきた。
「そしたら、今から材料買いに行こうかー」
「えぇ!行きましょう!」
- Re: エンジェリカの王女《2章 スタート!》 ( No.65 )
- 日時: 2017/08/22 18:31
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: R6.ghtp2)
49話「赤の少女ヴィッタ」
私とノアはジェルキャンドル作りに必要なものを買うべく、ショッピングモールへ行くことにした。ショッピングモールへはバスに乗って数分らしい。それなら近いし安心だ。
幸運なことにバスの二人席が空いていた。私とノアはそこに座り話し出す。
「ジェルキャンドル作りって、一体何を使うの?」
「そうだねー、まずはキャンドルゼリーとキャンドルの芯、それにー……」
そんなどうでもいい会話をしながら、しばらくバスに揺られていた。
車窓からは様々な興味深い光景が見える。整備された黒い道、そこを走る車、そしてその脇に生えている他に馴染まない木々。この街は人工的なのか自然的なのか分からない。それら二つが融合したような不思議な感じの街である。
「そうだ、ノアさん。聖気のことについて聞きたいことがあったのだけど、今聞いても構わない?」
「うん。何ー?」
柔らかい態度で頷いてくれたので、私は躊躇せずに話を切り出せた。
「親衛隊に捕まりそうになった時にね、私が離れろって叫んだら、親衛隊員が吹き飛んだの。もしかしたら聖気の力だったのかなって思ったんだけど……ノアさんはどう思う?」
「今の話を聞く感じだと、言葉を現実にする力かなー。でも聖気でそんなことをする天使なんて聞いたことないよー」
……そうよね。私にそんな凄い力があるわけない。「私にも力があるのではないか」と僅かでも期待した私は愚かかもしれない。
「ただ、王女様は王宮を吹き飛ばすくらいの聖気を持ってるから、普通の天使にはない力を使えてもおかしくないかもしれないねー」
「私、戦う力が欲しいの」
「え?」
いきなり言ったものだから、ノアはキョトンとした顔になる。
「これから先も悪魔に狙われるかもしれない。今まで通りの私だったら、二人に負担をかけることになるわ。それは嫌なの」
「王女様は気にしすぎだよー。僕のシールドがあるから平気平気ー。王女様は護られていればそれでいいよー」
……どうしてそんなにヘラヘラしているの。私は真剣に言っているのに。護られていればいい?信じられない!
「嫌よ!私は変わりたい。強くなりたいのよ!」
ちょうどバスが停留所へ着いた。私たちが降りる停留所ではないが、カッとなっていた私は、バスから走って降りた。
「王女様!」
背後から私を呼ぶ声が聞こえたが無視して駆け出す。
ノアの分からずや!真剣な話なのにヘラヘラヘラヘラと!
どれほど走ったのだろう。どこへ行くでもなく走り続けた私は、いつしか見知らぬ路地に迷い込んでしまっていた。その路地は建物と建物の隙間で昼なのに薄暗い。とても不気味だ。
「……迷った」
ようやく冷静に戻った私は、孤独感を感じながら呟く。
「キャハッ!エンジェリカの王女、みーつけた!」
突如甲高い声が聞こえて上を向く。見上げたところには少女がいた。
血のように赤い髪はきっちり切り揃えられたロングヘアー。真っ黒でフリルがたくさんついた個性的なワンピースを着ている。体つきは子ども体形で、顔は童顔。よく見ると背中に小さなコウモリのような羽が生えている。
「貴女は……悪魔!?」
よりによって一人でいる時に悪魔に出会うなんて。胸の鼓動が速まる、呼吸が荒れる。私は今どうするべきなのか。考えようとすればするほど混乱して考えられない。
「キャハッ!偉い偉い、よく分かったねぇ。さっすがベルンハルトを消滅させただけはある!キャハハッ!」
いちいち発する甲高い笑い声が気味悪い。それにしても、ベルンハルトを消滅させたのが私だと知っているなんて……一体どこから情報が漏れたのだろう。
考えていた刹那、真っ赤な太いリボンが飛んできて、私の体に巻き付いた。ギュッと締まり動けなくなる。
「なっ、いきなり何するの!」
私は強気に言い放つ。本当は怖くて泣きそうだったが、それを悟られるわけにはいかない。
「エンジェリカの王女ゲーーット!キャハッ!キャハハハッ」
足をジタバタしながら一人で大笑いしている。何がそんなにおかしいのやら。
「ヤーン!ヴィッタ、カルチェレイナ様に褒められるぅ!キャハッ!キャハハハッ」
カルチェレイナ。そういえばベルンハルトもそんなことを言っていた。確か、魔界の王妃だとか……。
「貴女もカルチェレイナの命令で私を狙っているの!?」
すると彼女は、恐るべき冷ややかな目で私を睨んだ。
「あー?今何つった」
次の瞬間、全身に電撃が流れる。
「あああっ!」
全身が痺れて痛む。皮膚は焼けるように熱い。あまりの衝撃に私は絶叫した。
「天使の分際で、カルチェレイナ様を呼び捨てしてんじゃねぇよ!」
「う……あああっ!」
また体に電撃が流れる。
「あ、貴女……何するの……あっ……」
まだ全身がピリピリして、視界が歪む。こんな経験は初めてで、どうするべきか分からない。
「どーよどーよっ!?感想聞きたい!ヴィッタに教えてっ!痛い?辛い?苦しいっ!?」
悪魔の赤髪少女・ヴィッタは、興奮で紅潮しながら尋ねてくる。狂っている。明らかに普通じゃない。
でも……どうすれば……。駄目、体の力が抜けていく……。地上界へ来ても悪魔に狙われる運命は変わらなかった……。
「王女様!」
諦めかけた私の耳にノアの声が飛び込んできた。驚いて目を開ける。地面にいたのは確かにノアだった。
「あー?何だ何だ?」
ヴィッタは眉を寄せ口角を下げて言う。
「ノアさんっ!」
私は叫ぶ。助かる望みが生まれた。
「あー?何だテメェ。……もしかして、天使の仲間か?」
「悪いけど話す時間はないんだー。さて、それじゃあ」
ノアの背に二本の翼が生える。それなりに立派な羽だ。
「……王女様を返してもらうよー」
小さく言ってから、ノアは大地を強く蹴った。
- Re: エンジェリカの王女《2章 スタート!》 ( No.66 )
- 日時: 2017/08/22 22:35
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: okMbZHAS)
50話「偶然の遭遇」
薄暗い路地裏で天使の悪魔が交戦しているなんて、地上界の人間は知らないのだろう。こんな薄汚いところに入ってくる人間などいるわけがないから。
「キャハッ!王子様気取りとかおもしろーい!」
宙に飛び上がり、リボンでくくられている私の方へ接近してくるノア。
「でーも、王女はあげらんないんだよねぇ。キャハッ!」
その背後からヴィッタの放った赤い電撃が迫る。ノアは咄嗟にシールドで弾き返す。
「どうかなー」
ノアはニヤリと笑う。紫の聖気が彼の片手に集まる。そして剣の先のように鋭くなった手で私をくくりつけるリボンを縦に切り裂いた。一瞬にして体が空中に放り出される。
「お……落ちる!」
一度はフワリと浮きかけたが、そう言った直後に一気に落下し、見事に地面へ落下した。
「……い、痛ぁ……」
今日一番の痛みだった。
「テメェ、何してくれてんだ!オイ!!」
ヴィッタが乱暴に叫ぶ。折角の可愛らしい顔が台無しだ。彼女はノアに向けてもう一度赤い電撃を放った。前回よりも威力が上がっているように見えるが、それでもノアのシールドを破るほどではない。
「あーヤダヤダ!これだから男は嫌いなんだよっ!!……なーんてね」
ノアは地面に降りてくる——が、その途中で動きが止まる。右足にリボンが巻きついていた。リボンがノアを上へと吊り上げる。
「王女はカルチェレイナ様のものだしぃ、もう一匹捕まえとくってのも悪くないかもねぇ。キャハハハッ!」
ノアを自分と同じくらいの高さにまで吊り上げてから、逆さむきのノアに向かって言う。
「キャハッ。アンタ、右足怪我してるでしょ」
「さぁねー」
ヴィッタは片側の口角を引き上げる。
「そーいうの、動きでバレバレだよ。ヴィッタ、怪我とかには詳しいから。キャハッ!」
彼女は非常に楽しそうだが、ノアはとても不快そうな顔をしている。
「ノアさん!助けるわ!」
「いやいや、王女様は早く逃げてよー」
「そんな!嫌よ!」
そもそも私が原因なのに、放って逃げるなんてできるわけがない。
「それにしても天使はいいなぁ、こーんな綺麗な羽を持ってて。羨まし」
ヴィッタはノアの片翼の羽を指でつまむと一気に引きちぎった。ブチッ、と痛々しい音がして、数枚の羽がハラハラと降ってくる。ノアの顔が苦痛に歪む。
「キャハッ!どーしたのー?あっ、もしかして痛かった?天使の弱点、案外羽だったりしてーっ。キャハハハッ!アンタいい顔するじゃん!?ヴィッタ、気に入っちゃった!」
何やら暴走している。
「……落ちろ」
さっきそう言った時、私は勢いよく地面に落ちた。——もしかしたらあの悪魔も落とせるかもしれない。そう思い、私は叫んだ。
「落ちろっ!」
「おかしなやつ。そんなこと言ったって……んん?」
馬鹿にしていたヴィッタだったが、突如地面へ落下する。突然物凄い重力がかかったかのように。
「キャアアァァッ!」
悲鳴を上げながら地面まで垂直落下した。それに伴いノアも落下する。
ドォン、と低い音が響く。
「ったく……、いきなり何すんだテメェは!」
ヴィッタは黒いワンピースについた埃を払いながら怒鳴る。しかし涙目になっている。
「覚えてろ、エンジェリカの王女!次は手加減しねぇ!」
そう吐き捨てると、彼女は指パッチンをして消えた。
「お、王女様……さすがー」
ヴィッタと一緒に落ちてきていたノアが言う。私は一瞬忘れていたが、その声で思い出し、彼に駆け寄る。
「ノアさん、大丈夫?」
「平気平気ー。ありがとう、王女様。おかげで助かったよー」
ノアは普段通り笑っていたので安心した。たいしたダメージではなさそうだ。
「ごめんなさい。私、勝手に怒って飛び出しちゃって……」
「え、そうだったっけー?」
キョトンとするノア。
……もしかして忘れているの?何ということだ。
「ほら、バスに乗ってて……」
「あ!そうだったねー。ジェルキャンドルの材料買わないといけないんだったー」
ノアは立ち上がると、私の目の前に手を差し出してくる。
「王女様、歩けるー?」
「もちろん。私は大丈夫よ」
こうしてヴィッタから逃れた私とノアは、そのまま、ショッピングモールへ行くことになった。ジェルキャンドルの材料を買うために。
停留所まで歩き、バスに乗り込む。それまでの間いろんなことを話したが、ノアは一度も私を責めなかった。本当に心の広い天使だ。まさに『天使』と呼ぶに相応しい。
「えっ!もしかして、王女様とノア!?」
バスの車内で座っていた時、声をかけてきたのはジェシカだった。私はとても驚く。家にいると思っていたから。
「ショッピングモールに行ってるんじゃなかったっけ!?」
ジェシカもとても驚いていた。ショッピングモールに行っていたならこの停留所から乗ってくることはありえないからだろう。
「ジェシカはどこ行くのー?」
言葉を詰まらせていると、ノアが先に言った。
「あたしもショッピングモール!何か食べ物買おうかなって。今からなら一緒に行く?」
「いいねー。三人で行くと家族みたいだねー」
「……エリアスに殺されそう」
ノアののんびりした発言にジェシカは呆れていた。
「でも確かに、友達と食べるご飯って楽しそうよね」
私はいつも一人か大勢で食事をしていた。一人で食べるのは寂しいし、大勢で食べる時でも嫌いな者がいたりして不快だった。
「友達?王女様、あたしたちのこと友達って思ってるの?」
ジェシカが驚いて尋ねてくる。
「……あ、何かまずかった?」
「そんなことない!とっても、とっても嬉しいっ!」
突然強く抱き締められ焦る。私はこんな風に触れ合うのに慣れていないから。
でも……とても温かい。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.67 )
- 日時: 2017/08/23 10:05
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: oUAIGTv4)
51話「ショッピングモール」
「ここが……ショッピングモール……!」
私は視界に入る世界に衝撃を受けた。巨大な建造物の中に様々な店舗が並び、物凄い数の人間が行き来している。エンジェリカの大通りだってここまでの賑わいではなかった。生まれてから今までに見た中で一番の賑わいかもしれない。
「お祭りをしているの?」
「ここはいつもこんな感じだよっ。賑わい、凄いでしょ」
ジェシカが楽しそうに笑いながら教えてくれる。
「いつもこうなの?地上界って凄いのね……!」
まだ明るい昼間だというのにこうこうと輝くライト、勝手に動く階段エスカレーターに躊躇いなく乗っていく人間たち。まるで夢をみているような感覚。
「さて王女様、何食べる?」
どんな食べ物があるのかも知らない私に、ジェシカはいきなり質問してくる。
「ジェルキャンドルの材料、買いにいかないのー?」
ノアが少しだけ不満そうに言った。
「あ……う、うん……」
「じゃあ先に材料を買いにいこうよー」
そんな風に急かされ困っていると、ジェシカがノアを鋭く睨んだ。
「ノア、黙ってて」
静かだが凍りつきそうな冷ややかな声色だった。なかなかの恐ろしさである。
「ノアは放ってていいよ。さて王女様!どうするっ?」
ジェシカは私が今日こちらへ来たばかりということを忘れているのかもしれない、とそんな風に思ってくる。
「……ごめんなさい、分からないわ。この世界にどんな食べ物があるのか知らないし」
「あー、そっか。王女様は初めての地上界だもんね。うーん、じゃあどうしよっかな……」
そんな風になんだかんだ話しながら、結局私たち三人は近くにあったお店に入った。ジェシカによれば洋食のお店らしい。そのお店にはオムライスやスパゲッティ、カレーなんかもあって、エンジェリカの食生活に近い感じだった。
「えっ!ノアさん!?」
ようやく喧騒から離れ、席についてホッとした時、見知らぬ女性グループが声をかけてきた。
「ノアさんいる!久しぶりですねーっ!」
「今日もかっこいいっ!」
「素敵ですね、ノアさん!……誰よ、この女は」
脳内に大量の疑問符が浮かぶ。彼女らはノアのことを知っているようだ。それだけでなく、ノアに対して軽い恋愛感情を抱いているようにも見える。
「やぁ、久しぶりー。新しい家族が増えたから紹介するよー」
「「「……家族?」」」
……今、女性たちから物凄く鋭い視線を送られた気がする。ちょっと怖い。
「うん。この子だよー。王女様っていうんだー」
「いや待って!おかしい!王女様は名前じゃないから!」
ジェシカが勢いよく突っ込みを入れる。
「そうだったっけー?」
「そうだよ!名前はアンナじゃん!」
今一つ分かっていない反応のノアに呆れて頭を押さえるジェシカ。
「うん。じゃあもう一回紹介するよー。こちらアンナ、仲良くしてあげてねー」
ノアが改めて紹介すると女性グループは困惑した顔をする。
「「「呼び捨て……?」」」
またしても鋭い視線を送られる。三人の視線がまとまって私に突き刺さる。……そろそろ帰りたくなってきた。
「貴女、ちょっと可愛いくらいで勘違いしないでよね!」
一人の女性が突然私に向かって言ってくる。こんなくだらないことで嫌みを言えるなど平和な世界ではあるが、こんな言い方をされるとさすがに嫌な感じがする。
「おかしいって!勘違いしてんのはそっちじゃん!」
先に言い放ったのはジェシカだった。
「王女様は何もしてないじゃん!そんなこと言わないでよ!」
「何言ってんの?そのアンナとかいう女、どう考えても勘違いしてるし」
さっき私に嫌みを言ってきた女性とジェシカが睨み合う。平和になるとこんなことが起こるのか。私は一つ学んだ。
「ちょっと貴女退きなさいよ。邪魔……」
女性グループの中の一人に腕を引っ張られそうになった瞬間、ノアが私の体をグッと引き寄せた。
「何でもいいけど、王女様に触れるなら許さないよー」
そう言ったのはノアだった。
「忙しいから帰ってもらえるー?さすがにしつこいよー」
少し怒っているようにも見える。ノアに言われた女性たちは、不満そうな顔をして店から出ていった。
「何よあいつら!」
ジェシカは憤慨している。
「ノアさんがあんなに人気だなんて知らなかったわ」
「ホントそれ!謎だよね、ノアのどこが好きなんだろ」
私はなんだか凄く疲れた。
食事を済ませた後、私とノアはジェルキャンドルの材料を買いに行き、ジェシカは食べ物を買いに行った。私はついでに便箋と封筒も買う。エリアスに送る用だ。そして、二時間後にショッピングモールの入り口で集合し、バスで家まで帰った。
「便箋?なになに?誰かにラブレターでも送るの?」
私がテーブルに便箋を広げていると、ジェシカが興味津々で覗き込んでくる。
「エリアスに手紙を書くの。今日あったこととかね」
「へー!面白そうじゃん」
「ジェシカさんも書く?」
すると彼女は首を横に振る。
「いいよ。王女様が書いた方がエリアス喜びそうだし」
「書きたくなったらいつでも言ってね」
「……ありがとう。王女様」
ジェシカは小さく笑みを浮かべてから冷蔵庫へ歩いていった。
さぁ、手紙を書こう!やる気に満ちてテーブルに向かったのはいいが、そういえば私は手紙を書いたことがあまりないということに気づく。幼い頃に母親とお手紙ごっこをしたことはあるが、実際に誰かに書いて送るのは経験がない。
「……何を書こう」
私はテーブルに突っ伏して、考え込んでしまう。手紙を書くなんて簡単だと思っていたが、いざとなると案外難しいことを知った。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.68 )
- 日時: 2017/08/23 19:15
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 7dCZkirZ)
52話「手紙」
物凄く悩んだ。あれも言いたいしこれも伝えたい。驚いたことや楽しかったこと……。しかし便箋に書ける文字数には限りがある。便箋が多すぎたら読み手がしんどいだろうし。
そんなことで手紙を書き終えた時には夜遅い時間になってしまっていた。そこで、明日の朝天界郵便へ出しにいくようジェシカに任せた。本当は私が持っていくべきなのだが、彼女が持っていくと言ってくれたのだ。
三日後。私も地上界での暮らしにだいぶ慣れてきた頃。
朝早くに家を訪ねてきた者がいた。私が出ると、女性の天使が立っていた。
「おはようございます!天界郵便のキャリーと申します。郵便物をお届けに参りました」
薄い緑の髪を一つにまとめてすっきりした印象の天使で、眼鏡がよく目立つ。ずば抜けた美女ではないものの、爽やかな雰囲気が好印象だ。
「あ、はい……」
「エリアスさんからですよ!」
綺麗な空みたいな青色をした封筒だった。
「地上界にはもう慣れられましたか?頑張って下さいね!」
彼女は爽やかな声で励ましてくれた。
「はい……。ありがとうございました」
「それでは、また!」
キャリーと別れると、私は弾むような足取りでテーブルへ向かう。ウキウキする。
椅子に腰かけると早速封筒を開けてみる。
『アンナ王女へ お手紙ありがとうございます。地上界の生活は充実しているようで安心しました』
エリアスの字はとても整っていて読みやすい。
『ショッピングモールなるところへ行かれたのですね。店がたくさんあるとは興味深いです。いつか私も行ってみたいと思います』
便箋は二枚だけで綺麗な字なのもあってか、ほんの数分で読み終わってしまった。会話と違って手紙は書ける量がかなり限られている。少し寂しい気もするが、だからこそやり取りが楽しいのかもしれない。
「返事が来たの?」
ジェシカが話しかけてくる。
「えぇ!エリアスの字、とっても上手なの!」
「ホント!?見せて見せてっ」
便箋を彼女に渡す。すると彼女は食い入るように便箋を見つめる。
「すごっ!エリアス、字上手すぎじゃん!」
ジェシカは興奮気味だ。
「ねぇ、やっぱりジェシカさんもお手紙書かない?」
「えっ!?そんなの、いいよ!」
「ほら、折角だから……」
「書けないの!」
私は首を傾げる。どうして書けないのか。
「……ほら、あたしもノアも良いとこの出身じゃないからさ……まともな字書けないんだよね……」
「えっ?字が書けないの?」
信じられない。そんなの聞いたことがない。
「いや、少しは書けるけど……ちゃんとは書けないんだ。だからさ……ごめんね」
ジェシカが申し訳なさそうな顔をするから、なんだか悪いことをした気分になった。
「そういえばジェシカさんたちの昔の話は聞いたことなかったわね。聞いてもいい?」
すると彼女は迷っているようだったが、少ししてから口を開く。
「いいよ。あまりいい話じゃないかもだけど。……あたしは一般家庭に生まれたんだけど、戦い好きすぎて捨てられたの」
「戦い好きすぎて捨てられた?どういうこと?」
そんな理由で捨てられることがあるのかな……。
「女でそれも天使なのに戦いが好きだったから、小さい頃から気味悪いって言われてたの。それで親と森に行った時にね、突然親がいなくなって……なんとか家に戻ったら、『うちに子どもはいない』って言われてさ。家にも入れてもらえなかった。どうしようもないから、それからあたしは一人旅に出たんだ」
それを聞き、私はますます悪いことをした気分になった。
「なんというか……聞いちゃってごめんなさい」
「え?いやいや!そんなことないよっ。こちらこそごめんっ」
彼女は明るく両手を合わせて謝る。だが、過去の悲しい話を聞いた後だと、その明るささえも悲しいように思えてくる。
ちょうどそこにノアがやって来た。
「おはよー、ん?ジェシカが早起きなんて珍しいねー」
「うるさい!」
「あー、怖い怖いー」
ノアはちゃっかり空いていた椅子に座る。
「で、何の話してたのー?」
「ジェシカさんの昔のことを聞いていたところなの。もしよかったらノアさんの過去についても教えてほしいのだけど……」
ノアは少し目を開いたが、すぐにいつもの微笑みへ戻る。
「過去ー?何それー」
「嫌だったらいいの。ただ、少し気になったのよ。もしよかったら教えてもらえる?」
「……うん。いいよー」
それから彼は話し出す。
「でもあまりちゃんとした記憶がないんだよねー。僕は赤ん坊の時に売りに出されたから、気がついたらもう売られてたかなー」
「売られ!?な、何それ……天使屋さん……とか?」
「うん。そういう感じー。多分、労働力にしたり羽を切って売ったりするんじゃないかなー」
ノアが恐ろしいことを随分普通のように語るものだから、私は困惑した。
「でも僕はこんな性格だからさー、売れなかったんだよねー。主人からは嫌われてたなー。あの主人はすぐ怒るし乱暴だから嫌いだったよー」
「確か脱走したんだっけ」
ジェシカが口を挟むとノアは頷いた。
「うん。脱走して追われてた時に偶然ジェシカと出会ってさー、助けてくれたよねー」
「じゃあ二人はそれからずっと一緒にいるの?」
「そうだよー。天使屋の主人を殺した時も一緒だったねー。あれは痛快だったなー」
純粋な笑みが余計に怖さを増している。
「……ノア。あまり殺したとか言わない方がいいよ。王女様がびっくりするから」
「そうかなー。分かったー。それじゃあ僕はそろそろ買い物にでも行ってくるよー」
そう言って椅子から立つと、ノアはあっという間に家から出ていった。
「びっくりさせてごめんね、王女様。本当ならあたしたちは、王女様に仕えられるような身分じゃない」
「いいえ!そんなことない、生まれた環境のせいよ。生まれた場所が悪かったんだわ」
二人ともそんなに悪いとは思えない。
「……ノアはさ、家族を知らない。それで家族に憧れてるの。だからすぐに家族だって言うけど、あまり気にしないで」
ジェシカは苦笑いする。
「間違いではないわ。もう家族みたいなものよ。少なくとも私はそう思っている」
当たり前よ。私たちに身分なんて関係ないわ。
「……ありがとう、王女様」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39