コメディ・ライト小説(新)
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- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
羅紗さん
流沢藍蓮さん
ひなたさん
氷菓子さん
アンクルデスさん
白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: エンジェリカの王女 ( No.29 )
- 日時: 2017/08/03 00:52
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: KDFj2HVO)
20話「いざ、対面」
「でもどうやってライヴァンを探せば……」
根本的な問題が残ってしまっている。今私にはライヴァンの魔気が感じられない。
「僕が教えるよ」
そう言ったのはノアだった。
「貴方にはライヴァンの居場所が分かるの?」
それに答えたのはジェシカ。
「ノアは気に対する感度が高いの!聖気にも魔気にもね。だからライヴァンの居場所だって簡単に分かっちゃうわ」
「変な意味じゃないよー」
「うるさい。アンタは黙れ」
二人は相変わらず謎なやり取りを繰り広げているが、今はそんなことをしている場合ではない。一刻も早くライヴァンを追わなければ。
「ノアさんお願い。ライヴァンのところまで案内して!」
私が頼むとノアは嬉しそうに頬を緩め、
「うんうん、もちろんだよー。僕に任せて」
と弾んだ声で返す。
「じゃあ一緒に来てねー」
歩いていくノアの後ろに私とジェシカが続く。彼の感覚を頼りにライヴァンのいる場所まで向かうことになった。
「多分この近くだよー。ライヴァンの魔気を強く感じるねー」
ノアがそう言ったのは、王宮の真ん中にある広間に着いた時だった。ここは王の間へ直接繋がる一歩手前の場所。つまり、王の間に一番近い大切な場所である。それゆえ普段は王を護る親衛隊の天使たちがいる。しかし今は皆悪魔との戦いに駆り出されているので、広間は不気味なくらいの静けさだ。
ちょうどその時だった。カッカッと地面を蹴る固い足音が耳に入り、私たち三人は慌てて石像の陰に隠れる。
「エンジェリカの秘宝も手に入れたことだしそろそろ帰還するかな。……いや、それだけでは生温い。僕は王妃の一番になるため王を殺し王女を捕らえる。そのぐらいしなければ……」
向こうから歩いてきていたのは予想通りライヴァンだった。そんな独り言をブツブツ呟きながら歩いている。
「……やばくない?」
石像の陰に隠れつつジェシカが小さく呟いた。彼女にしては非常に小さなひそひそ声だ。
「王様を殺すとか、ちょっとまずいよねー……」
引いたような顔をして言ったのはノアだった。
「ブローチのこと、言うわ。ちゃんと返してもらわなくちゃ」
「でも王女様。今出ていくのは危険じゃない?さっきの独り言聞いた感じ、あいつ、王女様のことも狙ってるみたいじゃん」
確かにそれはそうかも。でもだからって譲れない。
「あのブローチは大切なものなの。母からもらったのよ。このまま盗られたままにしておくわけにはいかないわ」
「そうかもだけどっ……」
「いいんじゃないかなー?」
唐突に口を挟んだのはノア。また右サイドの髪を指で触っている。やはり呑気だ。
「僕はいいと思うよー。王女様だって一人の天使だもん、譲れないことはあるよねー」
しかしながら、なかなか良い発言をするものだ。
「やっぱりあたしは心配だよ。あいつに会って、王女様に何かあったら嫌じゃん」
「そこは僕らがフォローすればいいところだよねー」
「そうかもしれないけど……」
ジェシカは不満そうに黙る。
直後、ライヴァンが急にこちらを向いた。石像をじっと凝視している。
……ばれた?
でも彼が私たちの存在に気がついているとすれば、攻撃を仕掛けてくるなりなんなりするはずだ。だがそれはない。
「気のせいか……」
ライヴァンは首を捻りつつ小さく独り言のように呟く。もしかしたら私たちの気配を微かに感じたのかもしれない。
私は覚悟を決めてから、ジェシカとノアにお願いする。
「私、行くわ。ライヴァンと話をしてくる。だから攻撃されそうになったら守ってほしいの」
自分勝手な願いとは分かっているので言いにくかったが、二人は私の頼みを快く引き受けてくれた。
「それは当然じゃん。あたしたち王女様の護衛だし」
「うん。傷一つつけさせない。僕らに任せてよー」
本当に頼もしいことだ。
私だってそこまでのバカではない。もちろんライヴァンの前に立つことに恐れがないわけではない。だが一度やると決意したことをやはり止めておくと言うのは嫌だ。
私はその場で立ち上がった。
「お人好し王女!?」
ライヴァンは少し目を見開き驚いたように言った。石像の後ろから突然現れるなどという珍妙なことをしたわけだから、この反応も当然といえば当然か。
また何かされるのでは、という湧き出る不安を抑えて彼の方へ歩み寄っていく。
「わざわざやって来てくれたのかい?これはラッキー!さすがは神に愛された僕っ!!」
発言の意味が分からないので流して言い放つ。
「私のブローチを返して」
するとライヴァンは挑発するような顔をした。
「ブローチぃ?そんなもの、この僕は持っていないぞぉ?」
だが残念なことに、服の隙間から赤い宝石がしっかり見えてしまっている。なんとも滑稽である。
「その隙間から見えている赤い宝石のブローチよ。それは私の大切なものなの。返しなさい」
ライヴァンはブローチを隠せていると思っていたらしく一瞬戸惑ったがすぐ冷静を装う。
「なっ、見えっ!?……ふ、ふんっ、まぁいい。残念ながらこれはあげられないのだよ」
偉そうに言っているが、あげられないも何も、そもそも私のものだし。泥棒しておいてよく言えたものだわ。
「あげられない、ですって?」
するとライヴァンは謎の派手なポーズをきめる。
「エンジェリカの秘宝は王妃にあげるから渡せないということだよ!君は本当に物分かりが悪いなぁっ!」
ライヴァンだけには言われたくない。正直そう思った。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.30 )
- 日時: 2017/08/03 14:42
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: MSa8mdRp)
21話「決意、そして……」
母との思い出でもある大切なブローチを取り返すべくライヴァンと対峙した私は、不安を抱きながらも勇気を振り絞り平気なように振る舞う。
「そのブローチはエンジェリカの秘宝じゃないわ。そんなただのブローチを王妃に差し出して何をするつもりなの?」
するとライヴァンは、セットされた前髪を掻き上げるような仕草をし、ぬかりなくかっこつけて答える。
「王妃はエンジェリカの秘宝をとても欲しがっておられた!美しい僕がこれを差し出せば、僕はその褒美として何でも好きなものを頂くことができる!そのうえ、四魔将の中で一番偉くなることができるのだよ!」
なんというバカげた夢か。それに主君である王妃のためにではなく褒美が目当てとは、もはや目も当てられない。
「けど本物のエンジェリカの秘宝じゃないとばれれば逆に怒られるわよ」
「いや、これは本物だ!」
ライヴァンは完全に思い込んでいるらしく、ドヤ顔で言い返してくる。
「だからそれは違うって言ってるでしょ。とにかく返して」
すると彼は腹を立てたのか不満げに眉をひそめる。
「返せ?この麗しい僕によくそんなことが言えたものだな!」
麗しいとか美しいとかを自分に対していちいちつけるのは止めてほしいものだ。聞いているこちらが恥ずかしくなる。
「だがまぁわざわざ来てくれて助かった!今度こそ貴様を捕まえ王妃に差し出ぁす!」
ライヴァンは私をビシッと指差し言い放つ。もっとも、独り言を聞いていたので驚くことはなかったが。
「王女、覚悟しろぉ!」
感情が高ぶったように叫ぶライヴァンがシュールだ。
「かかって来なさいよ」
背後にある石像の裏側にはジェシカとノアがいる。だから、とても安心感がある。
ライヴァンが片手を上に掲げると、黒っぽい煙のような魔気が集まっていく。渦のような黒い魔気はやがていくつかの塊へと変化する。そしてそれぞれが輪、例えるならチャクラムのような形になった。
そしてそれを投げてくる。
(……右、右!そして左!)
突然頭の中に響く声が指示を出してくる。こんなこと今までには一度もなかったので驚いていたが、なぜか体は自然にその声に従うことができている。気がつけばライヴァンが投げてきたチャクラムのようなものをすべてかわしていた。
……信じられない。
自分でも今自分が何をしたのかまったく理解できなかった。
「なっ、何だってぇー!?美しい僕の攻撃をかわすだとーっ!?」
ライヴァンは口と目を大きく見開き、かなり大袈裟に驚く。普通起こりうらないぐらいの派手な反応。だが、ライヴァンの言動は演技がかっていて、いちいち大袈裟なので、平常でこんなものなのだろう。
しかし派手に驚いていたのも束の間、彼は気を取り直して再び手に魔気を集める。黒っぽい煙のような魔気は徐々に固形となっていく。
「覚悟しろぉっ!」
ライヴァンは叫びながら、大きく膨張した黒い塊を私に向けて投げた。
さすがにこれはかわせない。反射的に目を閉じる。
「待たせたねー」
目を閉じているので姿は見えないが、ノアの声が聞こえた。ようやく助けにきてくれたようである。
ゆっくり目を開けるとノアが薄い紫色のシールドで黒い塊を防いでいるのが見えた。
「くそっ!仲間が潜んでいやがったか。いくら僕が美麗だからって……卑怯だ!」
卑怯でなければ生きていけない。以前そう言っていたのは他ならぬ彼自身なのだが。そんな彼が他人の策に卑怯と憤慨するなど、実におかしな話である。
「いやいや、美麗じゃないし。そもそも二回も同じ技使うとかセンスないよねー」
ノアは余裕の笑みを浮かべつつライヴァンの攻撃を見事に跳ね返す。
「一回見たのは防げるしねー」
ライヴァンの攻撃は既に見切っているということだろう。
「なら本気を出してやる!覚悟しろ、この呑気男!」
また新しい珍妙なあだ名が誕生した。今回は結構似合っている気もする。
「本気……かー」
ノアは少しおかしそうにクスッと笑う。
「魔気は凄くても頭がねー」
なんとも失礼な発言が出た。図星なだけにライヴァンは怒りそう。
「頭が?頭が何だと?僕は麗しい!それに賢いじゃないか!」
やっぱり。
怒り始めるだろうと思ってはいたが実際その通りになると呆れるものだ。ちょっとした挑発にいちいち反応して怒るのは、子どものようで滑稽である。
「いやいや。さすがに賢くはないでしょー」
「なぁっ!?失礼な男だな!ならば、僕のどこが賢くないのか言ってみろ!言えるのか?言えるんだなっ!?」
するとノアは数秒言葉を止め、それから彼にしては珍しくニヤリと笑って言った。
「そうだね。そういうところかなー」
つまり、ちょっとやそっとのことでまんまと怒り、周囲が見えなくなるところ?
ノアが言い終わるとほぼ同時に、バン!という大きな音が鳴り響き、白い服をまとった天使たちが流れ込んでくる。服装で親衛隊の者たちと分かった。
「覚悟してよね!もう逃げ場はない!」
「ジェシカさん!」
先頭でやって来て一番最初に言ったのはジェシカだった。可愛らしい容姿とは裏腹に厳しい口調。恐らく彼女が親衛隊を呼んできたのだろう。
「ジェシカ、遅かったねー」
「いちいちうるさい!」
「わー。怖い怖い」
こんな流れになることを誰が予想しただろう。少なくとも私の頭からこの展開は出てこなかった。私は予想外の展開に驚きつつも安堵して少し笑みをこぼしてしまった。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.31 )
- 日時: 2017/08/03 23:21
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: SEvijNFF)
22話「侵攻の終わり」
親衛隊は王の直属の護衛部隊だ。だから親衛隊員の天使たちは並大抵の兵士とはランクが違う。戦いを生業とする天使の中でもかなり上の層である。
いくら四魔将といえども、彼らを一人で蹴散らすのはおおよそ無理とみて問題ないだろう。
「く……。仲間を呼んでくるとは卑怯な。正々堂々と戦わないか!」
ライヴァンはもっともらしく騒ぐ。卑怯者の中の卑怯者である彼にだけは言われたくないし、そもそもこちらはいきなり侵攻してこられた身だ。
「ライヴァン、貴方言ったわよね。生きていくには卑怯さが必要だって」
あの時は理解できなかったが今ははっきりと分かる。
「やっと意味が分かったわ」
私は、青ざめ怯えた小動物のような表情になっている彼に、静かな声でそう告げた。
「王女様。ここからは任せて帰ろっかー」
ノアが愉快そうに笑みを浮かべる。親衛隊が来てしまえばライヴァンはもうどうしようもない。それを楽しんでいるみたいだった。
「待って。ブローチがまだだわ」
この騒ぎですっかり忘れていたが、まだブローチを返してもらっていない。
すると背後からジェシカが声をかけてきた。
「王女様!はいっ!」
満面の笑みで立っていた彼女の手には赤い宝石のブローチが乗っていた。ライヴァンはブローチをエンジェリカの秘宝であると思い込んでいた。だからか、ブローチには傷一つついていない。大切に扱われていたようである。
「ブローチってこれでしょ?取り返したよ」
「ジェシカさん!一体、いつの間に……」
私は驚きを隠せなかった。
「まーね。あたし凄いでしょ」
彼女は誇らしげに胸を張り私の答えを待っている。なんだか本当に子どもみたいで可愛らしい感じだ。
「ジェシカさん、さすがね。ありがとう」
私がお礼を述べると、彼女は照れたようにはにかみ、上目遣いでこちらを見てくる。
「……ちょっと調子狂うな。そんな素直にありがとう言われちゃったら、おかしな感じがする」
違和感を抱いているのは私も同じだ。女同士なのになぜか、ジェシカのことを可愛いと思っている自分がいる。大きな瞳で上目遣いなんてされたから、慣れていなくて少しおかしくなっているのかもしれない。
こうして、私は無事大切なブローチを取り戻し、ライヴァンは親衛隊によって捕らえられた。彼はあれほど騒いでおいて呆気ない終わり方だった。ライヴァンが捕らえられたことで侵攻は終わり、エンジェリカには平和が戻った。
エンジェリカは再び日常へ戻っていく。
だが、悪魔との戦いで壊されてしまったものも多くあったため、修理の作業をしなくてはならなくなり、王宮の修理と建国記念祭の準備を同時進行するはめになってしまった。そのせいでますます忙しくなった。
ジェシカやノアも昼間はお手伝いをしに行ったりしていたのだが、私はやはり手伝うことを許可されない。分かってはいたが「もしかしたら」と微かに期待していただけにがっかりした。準備のお手伝いぐらいさせてもらえてもいいのに。
変わりばえのしない退屈な暮らし。けれど私はそれを少しだけ幸せと思えるようになった。
話は変わるが、あれから良いことが二つあった。
一つ目はヴァネッサが戻ってきたこと。ライヴァンに斬りつけられて怪我をしてしまった彼女は、救護班に預けられていたのだが、日常生活なら問題ないと判断されて戻ってきた。
いつもお節介な彼女を鬱陶しく思っていたはずなのに、久々に再会すると嬉しくてつい抱き締めてしまった。不思議なものね。
そしてもう一つ、とても嬉しい出来事が起こった。エリアスが解放されたのだ。なんでも侵攻の時に多くの悪魔を倒すということをしたかららしい。理由はどうあれ、これからまた共にいられるのだという事実が嬉しくて、心が弾んだ。
「エリアス、これからはまた一緒にいられるのね」
自室の窓から外を眺めながら何げなく話す。
「はい。常に王女の傍らに」
エリアスは落ち着いた表情でそう言った。
無理して話さなくても長い沈黙に包まれても温かな気持ちでいられる。二人でいられる時間がこんなに幸せと感じるなんて不思議だ。
「これからジェシカとノアはどうなるの?貴方が復帰するなら護衛の仕事はなくなるでしょ」
「そうですね。どうしましょうか……」
エリアスは真剣な顔で考え込む。
「私はね、これからもみんなでいたいわ。二人のこともっと知りたいし、それにね、エリアスが二人と一緒にいるところも見てみたいかなって……」
完全な興味本意だが、きっと楽しくなる気がして仕方ない。いや、逆に楽しくないはずがないだろう。
「では三人で王女をお護りするという方向で構いませんか?」
私は大きく頷いた。
「それがいいわ。これから、きっと楽しくなるわね!」
- Re: エンジェリカの王女 ( No.32 )
- 日時: 2017/08/05 05:41
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: fqLv/Uya)
23話「誕生日が祝われない?」
「誕生日パーティー中止っ!?」
たった今、王の家臣の一人から信じられないことを告げられ、私は頭が真っ白だ。
こんなことって……。
いよいよ建国記念祭が二日後に迫ってきた。王国は大忙し。でもなんだか楽しい雰囲気でもある。そんな中で明日、私は誕生日を迎える。
毎年私の誕生日には盛大な誕生日パーティーが行われる。この日ばかりは王である父も参加し、みんなで盛り上がるのだ。
例年そのパーティーが建国記念祭の前夜祭のような感じになっているのに、それが今年に限ってないなんて!理由を問いただすと王の家臣は「侵攻の被害が酷くてパーティーどころでないから」と説明した。全部ライヴァンのせいじゃない!
イライラしているところに、エリアスがやって来た。
「王女、何のお話をなさっていたのですか」
「ちょうどいいところに来てくれたわね。エリアス、少し話し相手をしてくれる?」
苛立ちを彼で発散するのはすまない。しかし今は発散しないと爆発しそうだ。彼なら文句を聞かせてもきっと受け入れてくれるはず。
「王女が自ら私に話を?なんだか照れてしまいます」
エリアスは嬉しそうにはにかむ。多少ずれている気もするが彼らしいといえば彼らしい。
流のまま私はエリアスに誕生日パーティーが中止になったことを話した。聞き上手な彼に文句を聞いてもらっていると段々怒りが収まってくる。
「でも不思議だわ。エリアスに聞いてもらったらイライラがましになってきた。ありがとう」
「そんな。お礼を言われるほどのことはしておりませんよ」
エリアスは静かに微笑んでそう言い、それから真剣な表情になって続ける。
「それにしても王女の誕生日パーティーを中止するなど実におかしな話です。理解に苦しみますね。何を考えているのやら」
「まったくその通りだわ。ライヴァンが余計なことしてくれたおかげね」
私は溜め息を漏らす。誕生日パーティー、楽しみにしていたのに。
「では今年のパーティーは小規模で行いますか?」
「小規模?」
「はい。内輪だけで王女の誕生日パーティーを行うのです。ドアの修理も終わっていますし、王女の自室でなら文句は言われないでしょう」
今まで自室で誕生日パーティーはしたことがない。しかし、なんだか楽しそうだ。
「楽しそうね。エリアス、名案だわ。あ……でもヴァネッサが許してくれないかも……」
「アンナ王女!」
ヴァネッサは駆け足で私とエリアスのところへやって来る。
「アンナ王女、誕生日パーティーが中止とは本当ですか!?」
彼女もどこかで聞いたようだ。説明する手間が省けて得をした。
「私も言われたわ。侵攻の被害のせいですって。酷い話よね」
それを聞きヴァネッサは難しい顔をする。
「困りました。もう呼んでしまったというのに……」
「何を呼んでしまったの?」
「パーティーに備えて歌手と手品師を呼びました。そろそろエンジェリカに到着する頃だと思うのですが……仕方ありませんね。キャンセルしてきます」
ヴァネッサは残念そうに言った。彼女は彼女なりにパーティーを盛り上げる用意をしてくれていたのだろう。
「ヴァネッサさん!少し待って下さい」
この場を去っていこうとしたヴァネッサをエリアスが呼び止める。
「王女の誕生日パーティーは行います」
「はぁ?何を言っているの。パーティーは中止だと貴方も聞いていたはずよね」
ヴァネッサは呆れ顔になるがエリアスは気にせず続ける。
「我々だけで王女の誕生日パーティーを開くのです。一年に一度しかない誕生日を祝わないなど、貴女だって嫌でしょう?」
「それはそうね。でも中止と言われれば中止だわ」
エリアスの眉が微かに動く。
「ヴァネッサさん、貴女はどうしてそんなに無情なのです。王女のために何かして差し上げたいとは思わないのですか?」
彼から発されている聖気が珍しく乱れている。表情からは読み取れないが、怒りスイッチが入ってしまっているみたいだ。
「そんなことを言われる筋合いはないわ。そもそも貴方はアンナ王女を甘やかしすぎではないの?」
ヴァネッサは露骨に不快そうな顔をしてエリアスに鋭い視線を向ける。
「そうやっていつも貴方が甘やかすからアンナ王女がまともに成長しないのでしょう!」
何それ、酷い。確かに間違いではないけどいきなり言われるとさすがにダメージを受けるわね。ちょっと傷ついたわ。
「貴女は何を言い出すのです!王女は立派ではないですか!」
堪忍袋の緒が切れたらしくエリアスは激しく言い放った。
「事実を言ったまでよ」
「王女を侮辱するというのなら護衛隊長として見逃すわけには参りません!」
「私は本当のことしか言っていないわ」
「ヴァネッサさん!よく王女の目の前でそのようなことを!」
見るまに空気が気まずくなっていく。喧嘩しているのは二人なのに、なぜか私が一番この場にいづらい。
「はいはーい。そこまでー」
二人の言い合いを、突然呑気な声が遮った。ノアだ。
「ヴァネッサさん!エリアス!無意味な喧嘩は止めようね!」
ジェシカの明るい声が続く。
「ジェシカさん!ノアさん!」
今の私には二人が救世主に見えた。まるで今までずっと隠れて見ていたかのようなナイスタイミング。
「二人が喧嘩してたら王女様が泣いちゃうよー」
「そうそう!仲良くしようよ。王女様もその方がいいと思ってるよねっ!」
- Re: エンジェリカの王女 ( No.33 )
- 日時: 2017/08/06 00:05
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: yl9aoDza)
24話「可愛いから仕方ない」
ジェシカとノアが現れたおかげでエリアスとヴァネッサの喧嘩はなんとか収まった。しかし話についてこれないジェシカらに、私は何が喧嘩の発端となったのかを説明する。
「そっかぁ、そういう流れで喧嘩になっちゃったんだね」
ジェシカは明るく言うが、エリアスとヴァネッサはまだ不満そうな顔のままでいた。仲直りはしばらくできそうにない。
「エリアスは王女様のこと大好きだけど、ヴァネッサさんはどちらかというとお母さんって感じだもんね」
「教育方針の差かなー」
今は客観的な判断をしているジェシカとノアがとても大人に見える。エリアスとヴァネッサはどちらも譲らない、もはや子どもの喧嘩だ。
「……アンナ王女はいずれ女王になりますから、立派に成長していただきたいのです。そのためにまず慎重に考え行動する力を身につけていただかなければなりません」
先にヴァネッサが主張した。
「まだ言うか!」
「はいはーい、落ち着いてー」
激昂して反論しかけたエリアスをノアが宥める。制止されたエリアスは仕方なく言葉を止めるが、瞳はまだ怒りで揺れていた。放出されている聖気からも怒りの感情がひしひしと伝わってくる。
「隊長、落ち着いてー」
ノアは今にも暴れそうなエリアスを宥めつつ苦笑した。
「今日は聖気が尋常じゃないね!エリアスよっぽど怒ってる」
ジェシカも少し引き気味だった。
とにかくエリアスの怒りをなんとかしないと、と考えているうちにふと良い案が閃く。恐らく成功するであろう比較的お手軽な方法だ。
ゆっくりとエリアスに歩み寄り、彼の前に手を差し出す。
「……王女?」
急なことにきょとんとした顔をする。
「握手しない?」
私が手を差し出したまま言うと、彼は両眉を上げる。
「……何事ですか?」
意図が理解できないらしい。よし、それでいい。
理解するにも和解するにも、まずは怒っている状態をどうにかしなくてはならない。そのためには訳の分からないことを起こすのが一番だろう。一旦落ち着けば少しは冷静になって話を聞けるはず。
「私が未熟だっていうのは本当のことよ。だからエリアス、もう怒らないで。これ以上きついことを言わないで。お願いだから、喧嘩するのは止めて!」
するとエリアスは何か言いたそうな顔で俯く。
「……何か言いたいの?」
私は彼の顔を何気なく覗き込み愕然とした。俯いている彼の顔がとても辛そうだったから。食いしばった唇、ピクピク動く眉頭。涙を流しているわけでもないのに、とても悲しそうだ。
きっとエリアスにはエリアスの考えがあったのだろう。思い返せば彼はずっと私を護ろうとしてくれていた。ヴァネッサに「成長しない」と言われて私が傷つくことを心配してくれていたのだ。
それなのに私は何も考えず、自分が言いやすいエリアスだけに、喧嘩を止めるように言ってしまった。でも今更後悔しても遅い。一度言ってしまったことは後悔しても消えない。
エリアスは私に言われたら何も言い返せない。例え思うところがあったとしても、私の言動が私自身を傷つけることでない限り、決して言い返さないだろう。彼は何より私が幸せにいることを望んでいるから。
「最低ね……」
私は無意識に呟いていた。
心から自然に湧いてきた純粋な言葉だった。
エリアスが顔を持ち上げて、驚いた顔で私を見る。
「私、何も考えずに……ごめんなさい」
「あの、一体何を?」
「エリアスは悪くないのに、それなのに……」
「待って下さい。王女」
エリアスが肩を優しく掴んでくる。
「貴女は何を責めておられるのですか?私はただ、王女が健やかにすごせるようにと、護衛隊長として取り組んでいただけのことでして……」
色々言っているが、どうやらなかなかまとまらないようだ。
「隊長は不器用だねー」
「うん。面倒だねっ」
ノアとジェシカが呆れた顔で言っていた。
「貴女は何も悪くない。だから泣かないで下さい。王女が泣くところは見たくありません」
どうしてそんな風に優しくするの。私は貴方を傷つけたのに貴方は……。
優しくされればされるほど、胸が締め付けられて苦しい。
「甘やかしていると言われても構いません。私は護衛隊長として貴女の幸せに貢献したい」
エリアスは真剣な顔でそんなことを言う。
「ほぇぇ……」
「いやー、何だか楽しいねー。えっと、こういうのはー、ロマンチスト?」
「ロマンチック、ね」
「うん。ロマンチックだねー」
ジェシカとノアののんびりした会話が耳に入ってくる。
「エリアス……悪いのは私よ。私は自分の都合で貴方を責めそうになった。ごめんなさい。それは謝らせて」
一度謝らないと自分の中の後悔を拭えそうになかったから。
「構いません。王女の思いを考慮せず喧嘩をした我々にも問題があったのです」
それから彼は黙っているヴァネッサに目をやる。
「ね、ヴァネッサさん。王女の前での喧嘩はこれきりにしましょう」
「……バカらしい。私は何も間違っていないわ」
ヴァネッサはまったく和解する気がない様子だ。
「えぇ、貴女は間違ってはいません。すみませんでした。けれど私はこれからも王女を甘やかしてしまうでしょう」
少し間を開けて続ける。
「なぜなら私は王女が可愛くて仕方ないからです」
これにはさすがのヴァネッサも驚愕していた。
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