コメディ・ライト小説(新)
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- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
羅紗さん
流沢藍蓮さん
ひなたさん
氷菓子さん
アンクルデスさん
白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: 《3章残りわずか》 エンジェリカの王女 ( No.149 )
- 日時: 2017/10/03 00:27
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: SkZASf/Y)
110話「美しさの意味」
ヴァネッサやエリアスと話していると、白い服を着た一人の男性天使がやって来た。襟に親衛隊の紋章がついているのでディルク王の部下だとすぐに判断できた。ミルクティー色の髪は短く切り揃えられていて、全身から真面目な雰囲気が漂っている。
私に何か用でもあるのだろうか。
「アンナ王女、先程は親衛隊の若い者が失礼しました。本来であれば本人に謝らせるのが筋というものなのでしょうが、少々事情がありまして、今回は自分が代わりに謝罪させていただきます。本当に申し訳ありません」
真面目な雰囲気の男性天使は深く頭を下げる。「ごめん」の一言だけでいいのに、と内心思う。王女でありながらこんなことを言うとまたヴァネッサに注意されるかもしれないが、私は堅苦しいのが苦手だ。
丁寧に扱われるのが嫌なのではない。必要以上に敬われるれるのがピンとこないのである。王女だって一人の天使にすぎないのよ。
「頭を上げて下さい。私は気にしてませんから」
これは完全な嘘ではない。実際、そんなことは忘れていた。
私が言ってから十秒ほど経過した後、親衛隊員の彼は頭を上げた。
「感謝致します。後日改めて謝らせますので」
何かよく分からないけれど感謝されてしまったわ。不思議ね。
……とその時、ベッドに横たわっていたエリアスが上半身を起こして口を開く。
「今後このようなことがないよう、しっかり言い聞かせておくことだ」
直前までとは異なり厳しい顔つきをしたエリアスの声は低かった。実はまだ根に持っているのかもしれないと思うくらいだ。親衛隊員の男性天使はエリアスに向けて軽く一礼し、「承知しております」と言った。
エリアスは私に絡むことにはとても厳しい。この一件も例外ではない。
そこで親衛隊員は、それでですね、と話題を切り替える。
「実はディルク王から、アンナ王女を呼び出すようにと申し付けられておりましてですね。ご同行願いたいのですが……」
どうやらこちらが本題のようだ。
「構いませんか?」
真面目そうな風貌に丁寧な話し方。王に仕える以上、これが親衛隊員の理想的な言動なのだろうが、肩が凝りそうだ。こういうお堅い空気はあまり好きでない。
そこで、お堅い空気を振り払うべく、私は弾むような口調で返す。
「はい!行きます」
それと同時に笑顔も忘れない。私が深刻な顔をしていては、ますます堅い空気になってしまうからだ。
私も同行します、とベッドから下りようとするエリアスをヴァネッサが制止する。動こうとしたのを止められたエリアスは、何か言いたげな顔をしつつもベッドの上へ戻った。
「エリアス、心配しないで。アンナ王女には私が同行するわ」
「構いませんが……何かあった場合はどうするつもりです?」
「まさか。カルチェレイナが消えたのだから、もう何もないわよ」
確かにヴァネッサの言う通りだ。カルチェレイナがいなくなった今、私を狙う者はいないだろう。
「そもそもエリアス。貴方はその体でアンナ王女を護るつもりでいるの?聖気すらまともに出ていないじゃない」
ヴァネッサは挑発的な目つきでエリアスを見る。
「もちろん。生きている限り、王女は私がお護りするのです」
エリアスは微塵の迷いもなく答えた。ヴァネッサを見返す瑠璃色の瞳は、真っ直ぐな嘘のない色をしている。彼が発する言葉に嘘はない。それは端から見ていた私にさえ分かる。
エリアスはこの戦いで、大切な弟を失い、健康な体も失った。致命傷にはならなかったものの、それに近しい傷を受けている。いつになれば彼の体は元通りになるのか。それすら分からない状態だ。
それでも、彼の瞳が濁ることはなかった。
「……王女、どうかなさいましたか?」
唐突にエリアスが尋ねてくる。少し不安げな表情だ。
「えっ。私、変だった?」
何かおかしかったかと一瞬焦る。それほど親しくない親衛隊員もいるところでおかしな顔をしていたら、さすがにちょっと恥ずかしい。
「いえ。ただ少し……何か考え込んでおられるような表情をなさっていましたので。どうなさったのかなと気になっただけです」
「そっか。心配かけてごめんなさい」
私は苦笑しながら言った。おかしな顔をしていなかったことが分かり安堵する。
「いえいえ。謝らないで下さい。私は常に貴女の傍に寄り添える者でありたい。ただそれだけですから」
エリアスはベッドに座った体勢のまま、ふふっ、と柔らかく笑みを浮かべた。
羽のように軽やかな長い睫、一片の曇りもない宝玉のような瞳。神々しい聖気はなくとも、彼は十分美しかった。
だが、その美しさは容姿だけのものではない。
どんな困難にも打ち勝てる強さ。自身が選んだ道を信じ、ひたすらに歩める強さ——それらが滲み出た結果の美しさなのだと、私は思う。
「ありがとう、エリアス。私もこれからは貴方に寄り添うようにするわ」
「もったいないお言葉です」
「当然のことよ。貴方が私に寄り添ってくれるなら、私も貴方に寄り添う。お互い様というやつね」
そんなたわいない会話を交わし、私たちは笑い合う。
こんな風に笑いながら穏やかにすごせる時間。それがどれほど幸せなことなのか、今の私になら分かる。
「アンナ王女、お話は済みましたか?そろそろ参りましょう」
「そうね。ヴァネッサ」
振り返ればここしばらく、本当にいろんなことがあった。その中で失ったものは多いけれど、それ以上のものを手に入れられたと思うから、私は過ぎた日々を後悔してはいない。
「それじゃあエリアス、また後で!行ってくるわね」
そしてこの先も、ずっと後悔しないだろう。
- Re: 《3章終了!》 エンジェリカの王女 ( No.150 )
- 日時: 2017/10/03 17:53
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: ae8EVJ5z)
〜最終章 未来へゆく〜
111話「一歩ずつ一歩ずつ」
私は親衛隊員に案内され、ヴァネッサと共に、ディルク王のところまで向かった。彼のいる簡易的な王の間は救護所からそれほど離れておらず、十分もかからないうちに着いた。私の歩くスピードでこの時間だから、わりと近い。
王の間に入ると、ディルク王と一緒に、親衛隊員と思われる男性天使が数名立っていた。その中には絆創膏を貼っている者や包帯を巻いている者もいる。しかし、支えもなく立てているところを見ると、比較的軽傷の者たちだと思われる。
「お待たせ致しました」
案内してくれた男性天使はディルク王の前まで進み出ると、挨拶のような感じで軽めにひざまずく。それに対してディルク王は「ご苦労」と短い言葉で労った。
それからディルク王は私に視線を移し、口を開く。
「アンナ。無事でなにより」
重厚感のある落ち着いた声色だ。表情は穏やかなので怒ってはいないように感じる。
「ありがとう、お父様。それで……何の用事?」
怒られるのではないかという不安が一瞬よぎる。
「実はな」
ディルク王はここで言葉を一度切った。
こんな時にもったいぶらなくていいのに。内容が余計に気になるじゃない。
「二週間後、改めて建国記念祭を開くことにしたのだ」
その言葉に私はとても驚いた。少なくとも来年のいつもの時期まで行われないと踏んでいたからだ。こんな微妙な時期に行うとは考えてもみなかった。
だが、壊されてしまった建国記念祭をもう一度やり直せるなら、それはとても嬉しいことだ。建国記念祭が再び開催するなら、あの時企画していてできなかった色々なイベントも改めて行われることだろう。こんな良いことはない。
「そこでお前の戴冠式も行おうと考えている」
「戴冠式っ!?」
思わず大声を出してしまった。親衛隊員たちから見られて、少し恥ずかしい。
でも仕方ないわ。いきなり戴冠式なんて言われたら、誰だってびっくりしないはずがない。戴冠式をするということはつまり、私が王になるということだもの。突然言われて「へぇ、そうなんだ」と流せるような話ではない。
これは、私の人生もエンジェリカの未来も大きく左右するであろう、とても重大なことだ。ディルク王の一人娘である私がいずれ女王となることは周知の事実だが、まさかこんなに早くとは誰も思っていないだろう。
「どうして?お父様はまだそこまで老いていないわ。それなのに王座を退くというの?」
私が知る限りでは、王がその地位を退くのは亡くなる時だ。いくつか例外はあるが、その例外ですら、何らかの事情で王が務めを果たせなくなってしまった場合である。
ディルク王はまだ健康だ。心身共に健康なまま王座を譲るなど前代未聞。言うなれば「あり得ないこと」である。
「これからのエンジェリカには新たな光が必要だ。アンナ、お前がその光となれ」
……本気で言ってる?
振り返ることはできないが、背後にいるヴァネッサも恐らく驚いていることだろう。顔を見合わせたい気分だ。
「そうだとしても二週間後だなんて……いきなりすぎるわ。第一、そんな短期間で戴冠式の準備ができるの?」
戴冠式を執り行うなら、その時に着る衣装も含め、色々な準備をしなくてはならない。エンジェリカ中の国民に告知することも必要だ。それらすべての用事が二週間で終えられるとは到底思えない。
「準備は既に少しずつ始めている。お前が今ここで了承してくれれば良いのだ。準備は必ず間に合う。……どうだろうか」
大概自分で勝手に決めて押し付けてくるディルク王が、私の意思を確認するなど、驚きの珍しさだ。これはそれほど大事なことだということか。
私が女王に——。
まだ信じられない。実感が湧かない。
いずれこの日が訪れることは理解していたが、まさかこんなに早いとは。私が女王になるのは、いつかディルク王が年老いて亡くなったその後だと思っていた。
「私は……」
女王は王女とは本質的に異なる。王女は半ばお飾りのようなものだが、女王となるとただのお飾りでいるわけにはいかない。このエンジェリカを治め、より良い国になるように導かねばならないのだ。そこには多大な責任が生じる。
本当に私にできるだろうか。数百年の歴史を持つこのエンジェリカを導いていくなんて。
「私は賛成です」
突然口を開いたのは、私の後ろにいるヴァネッサだった。
礼儀を重んじる彼女が王の前で口を開くのを見たのは、これが初めてかもしれない。
彼女は侍女という地位故に、いつも表舞台へ出ようとしなかった。侍女は表舞台へ出さないという決まりなのもあるが、それ以前に、彼女自身が公的な場へ出ることを拒否していたのだ。
そんな慎ましい彼女が今ここで意見を述べるとは、実に不思議なことが起きたものである。
「……ヴァネッサ?」
あまりの珍しさに思わず首を傾げてしまった。
「ディルク王、侍女の身で言葉を発することをお許し下さい。私はアンナ王女が女王となることに賛成します。今は亡きラヴィーナ妃もきっとお喜びになることと思います」
ヴァネッサの発言を聞いたディルク王は、それもそうだな、と深く頷く。とても満足そうな表情だ。周囲に立っている親衛隊員たちも納得したような表情をしている。
徐々に断れない空気になっていく。今さら「断る」なんて言い出せるわけもない。選択肢が奪われていく……。
「……分かった」
腹を括ってそう言った。
私に務まるか分からないが、早かれ遅かれいつかはこの日が来るのだ。それなら早く就任して慣れておいた方が賢いかもしれないと思ってくる。
——大丈夫。きっとできる。
「私、女王になるわ」
こうして私の運命は、一歩ずつ一歩ずつ、着実に前へ進んでゆく。
- Re: 《最終章突入》 エンジェリカの王女 ( No.151 )
- 日時: 2017/10/04 14:24
- 名前: いろはうた (ID: osGavr9A)
はじめまして。
いろはうたと申します。
この新しいコメディライトの中では
ずばぬけた参照数でいらっしゃるので
ずっとずっとお邪魔したいなぁと思っていたのが
今日やっと実現しました!!
題名の通り、王女様が出てくる重厚なストーリー展開に
おおおおおおおおっと感嘆の言葉しか出ませんでした。
すいません。
マジで、おおおおおおしか出ませんでした。
ボキャの少なさ……
というか、いつ行こうかと機会をうかがっていたら
まさかの最終章に突入していらっしゃったのですね!!
……終わるまでに間に合ったので良しとしましょう。
しかも、女王になるシーンに間に合ったという。
凛とした決意。素敵です。
いろはうたのお話の主人公も王女サマなので
王女コラボとか……してみたら楽しそ……なんでもないです。
更新頑張ってください!!
- Re: 《最終章突入》 エンジェリカの王女 ( No.152 )
- 日時: 2017/10/04 17:30
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: Oh9/3OA.)
いろはうたさん
初めまして、コメントありがとうございます。
いろはうたさんの作品はとても人気だと耳にしたことがあります。
私はまだカキコさんに投稿を始めて一年も経たない初心者ですが、こうして温かなコメントをいただけると、とても励みになります!
長いような短いような不思議な感じですが、気がつけば最終章まで来ていました。そして私の夏休みも終わった……、「いつの間に⁉︎」という気分の今日この頃です。
いろはうたさんの作品も王女様が主人公なのですね。偶然で、何だか嬉しいです。
王女コラボ、何だか面白そうな企画ですね。
機会があれば、ぜひしましょう♪ (私はいちいち間に受ける残念な人間……)
二度目になりますが、今回はありがとうございました!
- Re: 《最終章突入》 エンジェリカの王女 ( No.153 )
- 日時: 2017/10/04 19:21
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: UruhQZnK)
112話「告げる時」
話はまとまったので、救護所のエリアスがいるところへ戻る。するとそこにはジェシカの姿があった。
「王女様!お帰りっ」
いつも通りの明るい笑顔で迎えてくれる。一切曇りのないその笑顔は向日葵のように眩しくて、少々目がくらみそうだ。
その後エリアスも「お帰りなさい」と声をかけてくれる。彼が言ったのはたった一言なのに、なぜかドキドキして、返答を詰まらせてしまった。
「ジェシカさん、ノアさんの調子はどう?」
ふと思い尋ねる。ノアはかなり重傷の部類だったので心配だ。
「大丈夫大丈夫!そのうち治るって言われたよっ」
「意識はあるの?」
「うーん、それは微妙かな。寝言みたいなの言ったりはしてたけど」
……安定ね。重傷の時にまで寝言とは、随分な余裕ね。
意識は戻っていないようだが、死に至るほどの深刻なダメージでないのなら、ひとまずは安心である。
その時、一人の看護師がやって来た。どうもジェシカを呼びに来たらしい。彼女に何やら話し、すぐに去っていく。するとジェシカは笑みを浮かべて、ちょっと行ってくるね、とだけ残して向こうへ行ってしまった。
エリアスと私、そしてヴァネッサ。急に三人になると少し気まずい。
「王女、何の用件でしたか?」
「そうだった。実はね……」
——女王になることにしたの。
そんなことをいきなり言えるわけがない。そんなことを言ったらエリアスとの距離が遠くなってしまいそうで……怖い。
私が女王に就任することを伝えれば、彼はきっと喜んでくれるだろう。けれど今まで通りにはいかないかもしれない。
「アンナ王女、なぜ仰らないのですか」
ヴァネッサが追い討ちをかけるように言ってくる。エリアスは心配そうな表情で私を見つめている。
このまま黙っているわけにはいかない。逃げることはできない。
「私、女王に……なるの……」
悪いことではないのに、なぜか胸が痛む。
どうしてこんなに辛いのか、私にはよく分からなかった。けれど、無意識のうちに視界がぼやけて、エリアスの姿がはっきりと見えなくなる。
「……そうでしたか」
彼の指が私の頬に触れる。ゆっくりと流れ落ちる涙の粒を、彼の指が拭った。
「おめでとうございます、王女。貴女ならきっと……国民から愛される立派な女王になられることでしょう」
彼は優しく微笑んだけれど、その声は震えていた。
私がこんなに早く女王になることに驚き動揺しているのか、それとも他の何かがあるのか、それは分からない。ただ一つ分かるのは、彼が平常心を保てていないということだけだ。
「とてもおめでたいことです。ただ……少し寂しくなります」
「エリアス?」
俯いた彼の顔は哀愁を帯びている。長い睫が物悲しさをひときわ際立たせていた。
「貴女はもう大人なのですね。王女。どうか、幸せになって下さい」
「え?何の話?」
エリアスの言葉の意味がさっぱり分からず戸惑う私に、ヴァネッサが声をかけてくる。
「女王になること、すなわち、大人になること。そういう意味で、エンジェリカでは昔からずっと、戴冠式と結婚式を兼ねるのですよ」
……え?ちょ、何て?
突然のことに思わずキョトンとしてしまう。
「この二週間の間に貴女は結婚相手を決めなくてはなりません」
「えっ!?そんな話、聞いていないわ」
「心配せずとも、ディルク王が良き花婿候補を連れてきて下さることでしょう」
ヴァネッサが珍しく微笑む。
……完全に騙された。結婚なんてまだ早い。私にはそんなこと考えられない。こんなことってないわ。どう考えても変よ!
「どうかお幸せに……っ」
エリアスは言いかけて言葉を詰まらせた。
「ねぇエリアス、大丈夫?」
私が手を掴もうとすると、彼はそれを拒否した。こんなことは初めてだ。彼が私を拒むなんて。少しショックだ。
「すみません王女……。どうかお許し下さい。今触れてしまったら、私は貴女をもう……二度と離せなくなってしまいます」
彼は震えながら言葉を紡ぐ。
こんなエリアスを誰が想像しただろうか。あれほど強く勇ましく戦い続けてきた彼が、今は信じられないほどに弱い。私が守ってあげたいと思うくらいに弱々しい。
「私は貴女を愛してしまった。それが間違いなのです。私は貴女を愛するべきではなかった。どうか……この情けない私を、この情けない感情を、一言で消し去って下さい」
エリアスは愚かだ。今初めてそう思った。彼は賢くて優しくて完璧な男性だと思っていたが、どうやらそれは間違いだったらしい。もしも彼が賢いのなら、「消し去って下さい」なんて私に頼むはずがない。
そんなこと、私にできるはずがないのだから。
「ねぇ知ってる?『エンジェリカの秘宝』はね、どんな願いも叶えるの」
いくら地位のある偉い男性だとしても、見ず知らずの相手と結婚するなんてごめんだわ。
「エリアス、貴方の願いを言って」
暫し沈黙が訪れた。
ヴァネッサは腕を組みながら様子を静観している。
一瞬のようにも永遠のようにも感じられるような時間が過ぎ、エリアスはようやく口を開く。
「……私は、ずっと貴女の傍にいたいです」
彼の口から出たそれは、私が待っている言葉でもあった。
「決まりね!」
エリアスは顔を上げて目をパチパチさせる。私の答えが予想外だったのだろうか。戸惑っているように見える。
「貴方は私の傍にいたい。私も貴方の傍にいたい。とても簡単な話だったわね」
「王女、一体どういう意味ですか?」
「結婚するの!そうすればずっと一緒にいられるわ。よし、早速お父様に言ってくる!」
私は飛びきりの笑みを浮かべてから、早速王の間へ行くことにした。善は急げ、ってね。
「待ちなさい!アンナ王女!話がまったく見えませんよ!」
ヴァネッサの怒った声に背を向け、私は迷いなく歩き出す。
明るい未来へと——!
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