コメディ・ライト小説(新)
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- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
羅紗さん
流沢藍蓮さん
ひなたさん
氷菓子さん
アンクルデスさん
白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: エンジェリカの王女 《2節スタート!》 ( No.34 )
- 日時: 2017/08/06 21:08
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: lyEr4srX)
25話「和む空気」
「さーて!じゃ、今から王女の誕生日パーティーの計画を立てよーうっ!」
ジェシカが拳を突き上げ、高らかに宣言した。
私の自室にはジェシカとノア、エリアス、ヴァネッサ、私を含めて五人。それほど大人数ではないが私の部屋に入るにはやや多い人数だ。
「わーい。立てようー」
ジェシカの掛け声にノアだけが返事をした。ただし、とんでもない棒読みで。
エリアスとヴァネッサの間にはまだ奇妙な空気が流れている。一応喧嘩は落ち着いたものの、そう簡単に仲良くはできないようだ。いや、そもそも二人は仲良くなかったか。
「確か、ヴァネッサさんは歌手と手品師を雇ったんだよね!」
ジェシカは張り切って芯を取っている。
「ええ。まもなくエンジェリカに到着する頃と思われます」
ヴァネッサは素っ気ない淡々とした調子で答えた。表情も笑みのない冷淡なものだが、それは彼女としては普通のことだ。機嫌が悪いわけではない。
「じゃあ歌と手品の出し物はできるかな!うーんと、それ以外に何か……」
「しりとり大会とかはー?」
ノアが安定のまったり口調で提案する。
「しり、とり?」
私はしりとりなんてものは聞いたことがない。気になったので尋ねてみた。
「しりとりはしりとりだよー」
適当な返答をしかけたノアの頭をパシッと叩くジェシカ。
「適当な答えダメ!王女様、しりとりっていうのはね、人間の娯楽なの」
そういえば前にヴァネッサから、ジェシカとノアは地上界へ言っていたと聞いた。だから地上界の文化に詳しいのだろう。
「人間の娯楽?」
王宮の外を出歩くことすら滅多にない私からすれば、地上界へ行くなんて夢のまた夢だ。地上界へ行きたいなんて言っても、まず王が許さないし、ヴァネッサも危険だからと止めるはずだ。
「そうそうっ。地上界じゃ有名な遊びで、相手が言った言葉の一番後ろの文字から始まる言葉を言うの!それと最後に【ん】がつくのも禁止ね!」
そして、早速やってみよう、という流れになる。
「さっ、王女様からどうぞっ」
ジェシカに振られたので取り敢えず言ってみる。
「アンナ!」
その直後。
「エリアス」「ヴァネッサ」
ほぼ同時に二人が言った。
いやいや、順番を守ろうよ。しかも二人ともしりとりできていないし。
「うーんとねー……」
ノアが頭を押さえて言いにくそうな顔をしつつ控えめに口を開く。
「二人ともしりとりになってないよー」
「違うのか?」
エリアスは首を傾げる。
「相手が言った言葉の一番後ろの文字から始まる言葉を言う!だからアンナの次は【な】からの言葉じゃないといけないってこと!」
改めてもう一度説明するジェシカ。
「そうか。ではどうするか……よし。ナイン、でどうだ」
「【ん】で終わるものはいけないと言われたじゃない」
的確な指摘をしたのはヴァネッサ。今回は彼女が正しい。
「ルール説明ぐらいちゃんと聞きなさいよ」
ヴァネッサが一言余計なことを付け加える。だがエリアスは怒ることなく、逆に、ふっと笑みをこぼした。
「……その通りですね」
いつも真剣なエリアスが笑みをこぼしたことで場の雰囲気が一気に和む。
「これで大丈夫だねー。ジェシカ、もう誕生日パーティーの話し合いしていいよー」
ノアは右サイドの髪を指で触りながら何食わぬ顔で言った。 もしかして空気を和ませるためにしりとりなんてさせたのか?と思ったが、本人に尋ねてみても軽く流されて終わりそうなので聞くのは止めた。場が和んだのだからそれでいい。
「よっし!じゃあ気を取り直して……」
ちょうどその時、ドアをノックする軽い音が聞こえた。ヴァネッサが静かに立ち上がる。
「様子を見て参ります」
ドアを開けたヴァネッサの向こう側に平凡な女性使用人が立っているのが見える。きっと連絡でも伝えに来たのだろう。少しするとヴァネッサはその使用人との話を終え戻ってきた。
「何だった?ヴァネッサ」
私は尋ねてみた。
「雇っていた歌手と手品師が到着したそうです。一度こちらへ呼ぶように指示しました」
「おーっ。いいねいいねっ」
ジェシカは楽しそうに体を揺らす。少女の姿と相まって子どもみたいで可愛らしい。
「あたし、生の歌手を見るのって初かも!楽しみっ。王女様も初めてじゃない?」
私は式典や晩餐会の余興で見たことがある。
「ジェシカさん、私は見たことあるわ」
「え、そうなの?いいなーっ!あたしも早く見たいよ!」
そんな他愛ない話をしばらく続けていると、少しして再び軽いノック音が響いた。
「これはもしかしてっ!?」
「ジェシカ、落ち着きなさい」
キラキラと瞳を輝かせ今にも飛び出ていきそうなジェシカをエリアスが押さえる。
だが私もどんな人か気になっていたので、ついドアの方を凝視してしまっていた。
「ヴァネッサー!久しぶりネ!元気にしてたー!?」
急に騒がしいぐらいの大声が聞こえる。それとほぼ同時にヴァネッサに抱きつく影があった。
「アンナ王女、それから皆さんにも。紹介します。彼女が歌手のラピスです」
紹介されたのは色気のある大人びた女性だった。
「アタシはラピス。皆さん、これからしばらく、よろしくお願いシマス!」
- Re: エンジェリカの王女 ( No.35 )
- 日時: 2017/08/07 18:59
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 9j9UhkjA)
26話「手品師は魔道士」
ヴァネッサが雇った歌手ラピスは色気のある大人びた女性だった。サラリとした長い金髪に瑠璃色の長いワンピースが似合っている。一方声は快晴の空みたいに晴れやかで、表情はとても明るく華やか。とにかく外見と中身のギャップが激しい。
「今は宮廷歌手をしてマス!ヴァネッサとはもうずっーとの友達なのデス!つまり、一番の大親友ってやつデスヨ!」
エンジェリカの天使たちとは一味違う世界観がある。
「単に天界学校時代の知り合いなだけです」
「エーッ!?ヴァネッサ、何を言い出スノ!お風呂入ったり、ご飯食べたり、一緒に寝たりしてたデショー!」
ラピスは外見に似合わず騒々しい。よく喋るうえ声が大きく、しかも独特な発音。本当に歌手なのか……?と疑ってしまいそうだ。
「お互いに羽のマッサージしたり、口紅を塗りあったり、一緒にダンス踊ったりしたデショー!もしかシテ、忘れたのッ!?」
……後半が意味不明だ。
ラピスにあらゆるところをペタペタ触られ、ついにヴァネッサの怒りが爆発する。
「そんなことはしてないっ!!」
「痛イ」
ヴァネッサは口を歪めてラピスをバシバシしばいた。彼女がこれほど躊躇いなく他者をしばくのは初めて見る。そこから二人の親しさが窺えた。
「止めテー!相変わらず冗談が通じないネ」
なんというか……いろんな意味で凄い関係だ。今まで何人もの歌手を見てきたが、こんなタイプは初めてかもしれない。こんなに活発だとは想像していなかった。
「二人が親しいのはもう分かったよ。それで、後ろにいる男の人は誰なの?」
ラピスとヴァネッサの騒がしいやり取りに注目してしまい気づかなかったが、よく見ると二人の後ろに男性がいた。黒いスーツに身を包んだミステリアスな雰囲気だ。
「初めまして!あたしはジェシカ。アンタ誰?」
もはや気が散っているジェシカが男性に近寄り尋ねる。
「……フロライトという」
黒ずくめの男性は無表情のまま低い声で小さく答えた。
「ふぅん、なんか感じ悪いやつだね。ま、よろしく」
さすがにストレートに言いすぎでしょ!
心の中でそんな突っ込みを入れつつ不安を抱いて様子を見ていたが、フロライトは怒ったり不快な顔をしたりは一切しなかった。ただ眉一つ動かさず真顔のままだ。
「……よく言われる」
そんなことを言うものだから、実はいい天使なのかもと思ってしまった。いや、本当にいい天使なのだろう。
だから私は勇気を出して話しかけてみることにした。
「初めまして、アンナです。よろしくお願いします。フロライトさんは手品師なんですか?」
フロライトはすっかり黙り込んでしまう。でも怒っているのではないと分かるから怖くはない。きっと彼は今頭の中で何を言うか考えているのだ。
かなり長い時間が経過した後、彼はようやく口を開いた。
「魔道士……でもある」
これだけ時間をかけて出てきた言葉はこれだけだった。
「そうなの!魔道士ってことは魔法が使えるの?」
彼は小さく頷く。つまりイエスという意味なのだろう。
それにしても魔法だなんて、何だかウキウキしてくる。
「じゃあ手品師っていうのは、魔法で手品をするということなのね?」
フロライトはまた少し考え込み、さっきよりは短い時間で頷いて答えた。
「……手品には魔法も多い」
さっきよりは延びているもののまだ一文だった。
「貴方って何だか可愛いわね」
たいして会話していないのに不思議なことに段々愛着が湧いてくる。男性に対する感情というより、臆病な動物を可愛がる心境に近い。
「……初めて言われた」
嬉しさと恥じらいの混ざったような顔で視線を逸らす。
「おぉ!王女様、扱えてる!」
私とフロライトがぎこちなくも意志疎通できているのを見たジェシカが驚いている。
「もう離れて!」
「うー、やっぱつれないネ」
ヴァネッサとラピスはまだ騒いでいたようだ。
「とにかく、パーティーは明日です。ラピス、それとフロライトさん。お二人には客室を用意しておりますので、そちらへ」
フロライトはヴァネッサに視線を向け一度だけ小さく頷く。
「ヴァネッサが直々に案内してくれると嬉シイナ!」
「使用人に案内させます」
ヴァネッサが淡々とした口調ではっきり言ったのでラピスは肩を落としてがっくりした。
「すぐに呼びますからしばらくお待ち下さい」
フロライトは黙ったまま、また小さく顎を引いた。本当にどこまでも口数の少ない天使だ。
ヴァネッサはフロライトにだけ軽くお辞儀をしてそそくさと部屋から出ていく。
「ヴァネッサは相変わらず冷たいデスネーッ!」
ラピスは頬を丸く膨らませて大きな声で冗談半分に愚痴を漏らしていた。
そして待つこと数分、特徴のない平凡な女性使用人が一人部屋に現れた。
「お迎えにあがりました」
彼女は部屋の外で一言二言ヴァネッサと言葉を交わし、それからその場でラピスとフロライトを呼んだ。
「わざわざ離れたあそこから呼ばなくても、普通に入ってこればいいノニネ!それじゃあ王女様に皆さん、バイバイデス!」
ラピスは明るい笑顔で大きく手を振り、女性使用人の方へと歩いていった。
彼女がいなくなってから私は思わず息を吐き出した。華やかで美人、それでいて気さく。悪い人ではないし嫌いではない。だが騒がしいので、得体の知れない疲労感を感じた。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.36 )
- 日時: 2017/08/08 01:50
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: nEqByxTs)
27話「エンジェリカの夢」
その夜、また夢を見た。
見上げた空は赤く、辺りには灰色の煙が立ち込めている。建物だったのだろうと思われる石片がところどころに散らばっている。荒れ果てた廃墟に私一人だけが立っていた。
「お前はすべてを滅ぼす」
どこからともなく静かな声でそんなことが聞こえてくる。この声には聞き覚えがある。あの黒い女だ。しかし今回は辺りを見回してみても彼女の姿は見当たらない。恐らく彼女はまた私に夢を見せるつもりなのだろう。何度目かなので大体予想はつく。
ふと足下に目をやると、二人の小さな子どもの天使が追いかけあって遊んでいた。無邪気に笑い声をあげているが、その体は本体がないかのように透けて向こう側が見えている。
それから顔をあげると、あちこちを体の透き通った天使が歩いていた。誰もが幸せそうに笑ったり話したりしている。忙しそうに荷物を運ぶ者、二人で喋りながら買い物をしている者。みんな普段通りに当たり前の日常を送っている様子が窺える。明らかに不自然な気になるところはない。ただ一つ、体が透き通っている以外には。
「アンナ。お前は選ばれた。それゆえにお前は、このエンジェリカを終わらせる天使となる」
また黒い女の声が静かに響いた。そして、その声が消えると同時に、辺りを行き来していた天使たちはいなくなった。
赤黒い世界の向こう側から誰かが歩いてくる。
「……誰?」
遠くてよく見えない。
誰かはゆっくりと重い足取りで進んでくる。その人物が十メートルぐらいの距離まで近づいてきた時、私は初めてその人物の顔を視認することができた。
「エリアス……?」
ところどころ破れた白い衣装には赤い飛沫と黒い煤がこびりついている。立派な羽も傷ついて見るにたえない状態だ。だがそれでもその青年がエリアスだと分かった。
彼はまだ直進してくる。負傷したらしい片足を引きずるようにしてゆっくりと歩く。
「エリアスなの?」
声をかけても反応はない。どうやら聞こえていないようだ。
距離が近づくにつれ、顔まではっきり目で認識できるようになる。肌は灰で黒く汚れ、額から細い一筋の赤が伝っていた。唇は少し開き荒い呼吸をしている。
「ねぇ、聞こえないの?」
もう一度声をかけてみても反応は一切なかった。
その時、不意に彼は立ち止まった。虚ろな瑠璃色の瞳が私を捉える。彼はしばしじっと私を見つめていた。すがるような瞳が私を捉えて離さない。
それから少しして彼は片手をこちらに伸ばす。まるで私に手を差し出すかのような位置に。 私は彼の手に触ろうと手を出してみる。しかし私の手は空を切るだけだった。彼もまた他の天使たちと同じ、透明だったのだ。
彼はしばらくすると伸ばし続けていた手を下ろす。そしてとても寂しそうに笑った。
「……そうか」
初めて彼が口を開く。今にも消え入りそうな微かな声だが確かにエリアスの声である。
「話せるのね!エリアス、こっちよ!私はここに」
「……貴女はもういない」
彼のかすれた声が遮る。私の言葉は届いていないらしい。
途端に彼は膝から力なく崩れ落ちた。
「……王女、私も貴女と共に……逝けたなら良かったのに」
一体何があったというの?私は確かにここにいるのに、エリアスには私が見えていない。
「……懐かしいな。あの時……貴女がこの場所で……」
エリアスは地面に倒れ込んだまま悲しそうな笑みを浮かべ、うわごとのように一人話す。
「……私の手を……とって、私に……未来を、希望を……護衛隊長に……なるようにと……」
そして彼は天を仰ぐ。
「王女の傍にいると……そう誓ったのに……。私は!なぜ私だけが!……私にはもう……何もないのに……」
どんな俳優より、どんな芝居よりも、彼の生々しい叫びは胸を締めつける。
「一度だけ……もう一度だけ、王女に……王女に会いたい。別れを告げる……それだけでも……それだけでいい……だから、だからどうか……」
彼はそれからもずっと同じようなことばかり繰り返す。叶うはずのない願い、届くはずのない想い。そればかりを一人で何度も繰り返す。目の前の彼は完全に精神が壊れていた。
「これは本物ではない」
背後から女の声がして振り返る。そこにはいつもの黒い女がニヤリと笑みを浮かべて立っていた。
「一体何なの?こんなもの見せて……彼は誰なのよ」
「お前のよく知った男だ」
「じゃあ本当にエリアスなの?でも、どうしてあんなことに」
私はあんなエリアスを知らない。見たことがない。だからもしこれが仮に夢だとしても、あんなエリアスは見ないはずだ。
女は真っ赤な唇を動かす。
「言っただろう、これは本物ではない。だがその男ではある」
「意味不明よ」
私には彼女の言う意味がさっぱり理解できなかった。
「そうか。では分かりやすく説明しよう」
そして彼女は私の返答を待たずに続ける。
「ここは未来のエンジェリカ。お前が滅ぼした後の世界だ」
- Re: エンジェリカの王女 ( No.37 )
- 日時: 2017/08/08 23:54
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: sThNyEJr)
28話「夢から醒めて」
そこで目が覚めた。
視界には自室のベッドで目覚めた時に目に入る天井とヴァネッサの顔。
「おや、起きられましたか」
寝惚け眼を擦りつつ話す。
「うん。ヴァネッサはどうしてここに?」
「うなされているようでしたので様子を確認しておりました」
「確認って変ね」
「はぁ、そうでしょうか」
私は上半身を起こし、「やっぱりさっきのは夢だったのか」と頭を巡らせる。
「何か夢でもご覧になっていたのですか?」
「うん……おかしな夢だった」
するとヴァネッサは首を捻り若干興味を持ったらしく尋ねてくる。
「どのような?」
私は一瞬夢の内容について話すことを躊躇った。だが悪い夢ほど他人に話した方が良いという言い伝えを思い出し話すことにした。
「たった一人で荒れ果てた廃墟にいるの。そしたらそこにボロボロなエリアスが来てね」
ヴァネッサは興味深そうに聞きつつ意見を述べる。
「ボロボロ?それは想像できませんね。エリアスをそこまで傷つけることが可能な者は、天使にも悪魔にもほとんどいないでしょうから」
それはその通り。エリアスが負けるはずないことは私も分かっている。
「貴女と共に逝けたなら、なんて私が死んでしまったみたいなことを言うの。それからもずっと、もう一度会いたいとか同じようなことばかり繰り返して。まるで気が狂れたみたいに」
「それは……。確かに、妙な夢ですね」
彼女にも意味は分からないようだ。
「エリアスが心配ですか?」
ヴァネッサはそう言った。表情からバレていたのかもしれない。確かに私は彼を少し心配していたから。
「ヴァネッサには何もかもお見通しってわけね」
「長い付き合いですから」
私が赤ちゃんの頃から近くにいたヴァネッサだ、顔色で考えが読めても変な話ではない。むしろ当然と言える。
「エリアスを呼びますか?」
彼女は平淡な調子で問う。
「でも夜だし寝てるんじゃないかな。こんなことで起こすのは可哀想だわ」
「まさか。アンナ王女がうなされているというのに呑気に寝ているはずがないでしょう」
つい失念していたが、そういえばエリアスは私に関してだけは極度の心配性なのだった。
「外にいるので呼んできます。少し待っていて下さい」
ヴァネッサは椅子から立ち上がるとエリアスを呼びにドアの方へ歩いていってしまう。私はベッドの上で静かに待つことにした。
「王女!」
ドアが開くとエリアスが駆け込んでくる。歩幅が大きいのですぐにベッドまでたどり着く。
「王女、悪い夢を見ていたと聞きましたが、本当ですか。今はもう平気ですか?」
「えぇ、もう大丈夫。あのね、エリアス。聞いてもいい?」
彼は安堵の溜め息を漏らし、それから私に視線を向ける。
「はい。何でしょうか」
こんなことを聞くのは躊躇いがあるが、一応確認しておきたかったのだ。
「もし、なんだけど」
「はい」
「私が死んだら、エリアスはどんな気持ちになる?」
するとエリアスは顔をひきつらせる。
「なっ……!王女、一体なぜそのようなことを」
「私が貴方を残していなくなったら、どう思う?」
「そんなこと!そんなこと、絶対にありません。あるはずがないでしょう!」
この反応を見て分かった。夢の中で黒い女が見せたエリアスはやはりエリアス本人だ。もし私がいなくなれば、彼があの状態になる可能性はかなり高い。
「これだけ覚えていて、エリアス。もし私が先に死んでも、貴方には生きてほしい。私はそう願うわ」
エリアスには生きて、ずっと覚えていてほしい。きっとそう願うだろう。
「そんなことは起こりません。私が生きている限り、貴女には傷一つつけさせません」
彼は真剣な表情で言った。
「分かってるわ」
あまり暗い雰囲気になるのも嫌なので私は笑みを浮かべる。
「私はもしもの話をしただけ。貴方の強さを疑っているわけじゃないのよ」
ヴァネッサも言っていたが、エリアスを倒せる者なんてそういない。だから彼が私を護ってくれる限り、彼より先に私が死ぬことはないだろう。
「はい。何でも私にお任せ下さい、私は貴方の護衛隊長ですから」
彼はやたらと護衛隊長であることを押し出してくるが、それを聞くたびいつも思うのだ。
もし護衛隊長でなくなったら、彼はもう私の傍にはいてくれないのか——、と。
「それではもう時間も遅いことですし失礼しますね。お会いできて良かったです」
彼は整った顔に柔らかな笑みを浮かべてお辞儀する。そして部屋から出ていこうとした——彼の服の裾を私は無意識に掴んでいた。
「王女?」
目を数回ぱちぱちさせるエリアス。長い睫毛のせいでただのまばたきが目立つ。
「エリアス……もうちょっとだけここにいてくれない?」
私は遠慮がちに口を開いた。こんな夜分に引きとめるのは望ましくないが、今は傍にいてほしいと心から思った。
エリアスは少し離れたところで様子を眺めているヴァネッサに目をやる。恐らく許可を得ようとしているのだろう。
「今夜は許可します」
エリアスの言わんとしたことを察したらしくヴァネッサは言い放つ。淡々とした声だ。
「では王女。許可が出ましたので、喜んで貴女の傍に」
彼はベッドのすぐ横にある椅子に腰かけて微笑む。それは、とても幸せそうな笑みだった。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.38 )
- 日時: 2017/08/09 19:47
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: b9FZOMBf)
29話「二人の夜」
「今日は星が綺麗ね」
ヴァネッサが空気を読んで出ていってくれたおかげで、夜の自室でエリアスと二人きり。暗い空に瞬く星たちを眺めながら何げなく話す。些細なことだがお泊まりイベントみたいで心が弾む。不思議な感じだ。
「はい。王女と二人で夜空の星を見る日が訪れるなど考えてもみませんでした」
エリアスは椅子に座ったまま覗き込むように窓の外を眺めている。まるで幸せな夢を見ているかのように。
「そういえば王女。もう貴女のお誕生日になっていますね」
言われて壁に掛けられた時計に目をやると確かに夜中になっている。少し寝ただけで起きたのでそんな気はしないが、もう誕生日の日が始まっていた。
「王女、お誕生日おめでとうございます」
エリアスは温かな声で静かに言う。そして優しく私の手を取ると、その手の甲に唇を当てて軽くキスをした。
「……っ!?」
え、何?一体何事?
私は彼の突然の行動に戸惑い硬直する。恥ずかしさと気まずさで思わず視線を逸らす。
エリアスがこんな積極的なことをするのは初めてだ。今までは近くにいても触れてくることはほとんどなかったのに。
「えっと、これは一体、どういうこと?」
ようやく硬直状態が治り彼に視線を向けると、彼は頬を赤く染めて恥ずかしそうな顔をしていた。見たことのない表情をしている。
「……すみません。こういうことをするのは初めてなもので」
確かにエリアスから女性の話を聞いたことはない。だからキスなんてし慣れていないのだろう。それは分かるが、彼が言ったことでは私が尋ねた質問の答えにはなっていない。
「それは分かるけど、どういう意味でこんなことを?」
「……はい。実はですね、王女に何か特別な誕生日プレゼントを、と考えていたのです。護衛隊長として可能な範囲で珍しいプレゼントをできればと思いまして。この方法なら忠誠を誓うという意味にもとれますから、咎められることもないかと」
いやいや、二人きりの場所だとさすがにまずい気がするけど?だが確かに唇にキスをしたというよりかは言い逃れの余地がありそうな気もする。
「ですが……やはり恥ずかしさが拭えませんね」
一体何言ってんの?という感じだ。今日はエリアスは明らかにおかしい。いつもの彼ならこんなことはしない。まさか、二人きりになって箍が外れた?
「エリアス、今日は何だかちょっとおかしくない?」
まだ初々しく赤面している。
「……はい。少しおかしいかもしれません。女性と二人になるのは初めてなもので……それも貴女と、ですから」
「一応言っておくけど、そういうことをする気はないわ」
念のため言っておく。別にエリアスを信頼していないわけではないが本当に念のため。
「それはもちろん。確と承知しております」
彼はその時ようやくいつものように微笑んだ。
「私は王女に必要としていただけたことが嬉しかったのです。それ以上は望みません」
エリアスは護衛隊長で、いつも私を護ってくれる。大切にしてくれる。でもその関係は彼が護衛隊長でなくなった瞬間に失われるのではないかと心配していた。
しかし私たちの関係はきっとそんなに寂しいものではない。今はそれが分かる。こうして傍にいて話しているだけで心が温かくなってくる。立場だけの関係なのならこんなに温かくはないと思う。
「そういえばエリアス。今更かもしれないんだけど、首の傷は完全に治ったの?」
尋ねたのはライヴァンと初めて出会った時にエリアスが受けた傷のことだ。
「えっ?」
彼は微かに驚いた顔をする。
「ほら、ライヴァンにナイフで斬られたところ。深くなかったって言ってたけど、あのまま治ったのかなって」
本当に今たまたま思い出したので尋ねただけだ。
数秒間があって、彼は優しく天使のように微笑む。……実際に天使だけど。
「はい。ほぼ完治しました。もう忘れていたぐらいです」
答える直前ほんの数秒の沈黙が気になるが、恐らくそれに深い意味はないだろう。疑惑を抱く心はすぐに消えた。
「そっか。でも、良かったわ!私のせいで傷が残ったりしたら一大事だものね」
「それは男が女性に対して言うことでは?」
「一般的にはそうかもね」
私はエリアスの美しい容姿に傷がつくのは嫌だ。彼の魅力が容貌だけだと思っているわけではないが、その整った美しい容貌が彼の魅力をぐっと引き上げているのは確かである。
「でもエリアスはそこらの女性天使たちよりずっと綺麗だわ。例えば晩餐会に来るあの嫌な女!女だけどエリアスよりずっと品がないし不細工でしょ!」
エリアスは手を添えて口を隠すようにしつつ笑った。あの嫌な女のことはエリアスもよく知っている。
「ヴァネッサとかジェシカさんとかは綺麗だったり可愛かったりそれぞれの魅力があるけど、そこらの女性使用人たちなんてみんな同じ顔よ」
「私も見分けられません」
「やっぱり?でしょー!」
なんだかんだで私たちは他愛のない会話に戻った。
私の心の中にあったものが一つ消えた。それはいつかこの関係が終わってしまうのではないかという不安。しかし私たちには立場なんてものを越えた強い友情があった。私の不安は必要ないものだったのだ。
だから二人はこの先もずっと、こんな風に笑いあっていけるはずね。
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