ダーク・ファンタジー小説

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ライトホラー・ショートショート(最終更新8月12日)
日時: 2015/08/12 16:54
名前: あるま (ID: Ba9T.ag9)

参照してくれて、ありがとうございます。

続き物じゃないので、お好きなところから読んでいただけます。

最近に更新したものはこちらです。
「隣町のカラオケ」>>167(2015年8月12日アップ)



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「隣町のカラオケ>>167
「操り人形」>>156 >>157
「日常はかけがえのないもの」>>158 >>159
 あとがき・おまけ怪談>>162



一言でもなんでもいいので感想くれると嬉しいです!

「クラスメイト」1/3(3月25日アップ) ( No.123 )
日時: 2013/03/30 16:15
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第29話「クラスメイト」 1/3

三月の初旬——三年生たちは体育館で、近日に迫った卒業式の予行演習を繰り返していた。

「俺が教師になって初めて受け持った生徒たちも、いよいよ卒業か。できれば全員を卒業させてやりたかったなあ……」

平岡は生徒ひとりひとりの顔を思い出すと、感慨深かった。
みんなは卒業し、離ればなれになってしまう。
そして四月になれば、自分はまた新しい生徒たちを受け持つ。
いちいち未練なんか残していられない。
教師というのは、そういうものなのかもしれない。

平岡は、放課後の誰も居ない教室を見渡して、溜息をついた。
ふいに、頬を冷たい風が撫でた。

「先生……」

「わっ!」

突然聞こえた声に、平岡はおどろいた。

声の主を探すと、ひとりの女生徒が、教卓の陰に座り込んでいた。
寂しそうに、膝をかかえている。

「お前、岸本じゃないか。一体どうしたんだ、こんなところで」

平岡は不思議に思って、あたりを見渡した。

自分と岸本以外に誰の姿もなく、音もない。

止まった時の中に居るみたいだった。


「先生、わたしもみんなと一緒に卒業したかった」

膝を抱えて座り込んだまま、岸本が言った。

「仕方ないさ。でもみんなだって、きっとお前のこと忘れないと思うよ」

平岡は平常心を保ち、教卓に肘をついて、岸本を見下ろした。
岸本の真っ白な顔が、こちらを見上げて目が合った。瞳が透き通るようで、とても美しかった。

「おほん」

平岡はひとつ、咳払いをして、

「せっかく来てくれたことだし、大っぴらにはできないけど、お前とみんなの最後の思い出作りの方法でも、考えてみるよ」

「ありがとう。先生大好き」

岸本がニッコリ微笑んだ。

平岡が岸本からこう言われるのは、初めてではなかった。
その度に平岡は「はいはい」と流していたが、今日は少し違った。

今ならもういいだろう、という思いで、平岡は岸本の頭に触れた。
触れることができた瞬間、ずっと胸に秘めていた思いがどっと溢れ出しそうで、鼻の奥がツンとした。



二年の月日が経った。

平岡はあの時の卒業生の連絡先をできる限り調べあげ、同窓会を開いた。

「みんなが大学を卒業して忙しくなる前に、一回だけでも集まりたい」
そんな思いを伝えた。

夏期休暇中で暇なひとが多かったし、男子も女子も酒が飲める年齢になって、そろそろ高校時代の異性が恋しくなってきた頃に違いなかった。

ほとんどのひとが集まってくれた。

(つづく)

Re: ライトホラー・ショートショート ( No.124 )
日時: 2013/03/30 16:22
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第29話「クラスメイト」2/3

会費は一人三千円。テーブルには何種類もの飲物やごちそうが並んだ。
みんなが思い思いの席に着き、隣り合ったひとと初めは探りながら会話をしていたが、酒も入って、だんだん話が弾んできた。

「いやー、今日は楽しいれす。おれ、三月まれ補習を受けてどうにかみんなと一緒に卒業れきました。だから今日はこうしてみんなに会えたんれす。ありがとうと言いたい!」

「はは。ありがとうって誰にだよ。でもほんと、留年確実かと思ってたのに、奇跡の追い上げだったよな、お前」

「俺だけ同窓生じゃないって、嫌だもんな!」

酔いのせいもあって、意味もなく笑い声がおこった。真昼間から、がんがんに日の差した部屋で飲むのは、気分も格別だった。

「本当は、岸本さんも一緒に卒業できたらよかったのにね……」

一人の女子が、高校時代の岸本の面影を思い出しながら、悲しそうに言った。

同窓の三年生は三十一人。そのうち卒業できたのは三十人。
岸本だけが、卒業することができなかった。

「かわいいひとだったよ。実を言うと俺、あのひとのこと好きだったんだ」

「ずるいぞお前、酔った勢いで急にぶっちゃけるなんて。俺だって岸本さんのこと好きだったのにずっと黙ってたんだ」

男たちは火がついたように、岸本の話で盛り上がり始めた。
みんなが、あの時の、十七歳の岸本のイメージを思い浮かべて。

「いやー、ほんと、どうして俺たちの記憶の中に居る岸本さんは、こんなに美しく輝いているんだろうな」

「ああ。かわいいとか、愛らしいとかを超えて、もはや神々しいぐらいの美しさで」

「うん。おそらくきっとそれは、その儚げな美しさが、十七歳で時を止めたことにより、老いを見ることのない永遠の美しさを手に入れたからであろう」

一人の、大学で西洋哲学を専攻している、大きな黒ぶち眼鏡の男子がタバコをふかしながらこう言うと、さすがに周りの女子からは「キモい」の声があがった。

「二十歳よりやっぱ、十七歳だよな」

また一人の男子が、同窓会に来ている女子たちを見回しては、こう言った。
まるで、二十歳を迎えた同級生女子と、十七歳の岸本を比較するように。

「二十歳だってぜんぜん若いよ! あんたら、いい加減にしなさいよ!」
一人の女子がキレる。

「岸本さんだって、あんな事故にあいさえしなければ、今日みんなとここに集まって、お酒を飲みながらゲラゲラ笑ってたに違いないわよ!」

「岸本さんがそんなことするわけないだろ」

「ああ。あの岸本さんが、そんなことするわけない。俺らの岸本さんが」

岸本がすっかり神格化されたころ、元担任の平岡が、みんなに声をかけた。

「今日は集まってくれて、本当にありがとう。渡しそびれる前に、先生からみんなにこれを渡しておきたい」

平岡は、手紙一枚くらいの小さな白い封筒を配った。
同窓生たちは中に何が入っているのか気になり、その白い封筒を天井のあかりにかざしたりしている。

「帰ったら見といてくれ。これが本当の、クラス全員の集合写真だ」

(つづく)

Re: ライトホラー・ショートショート ( No.125 )
日時: 2013/03/31 18:01
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第29話「クラスメイト」3/3

封筒に入っていたのは、二年前の、あの卒業式の日に、クラス全員が教室に集まってから撮った最後の写真だった。

卒業アルバムに載る写真は六月には撮っていたため、岸本も写っていた。
しかし卒業の日に撮る写真には、岸本の姿はなかった。

そのはずだったが、同窓会が終わり、各々が平岡からもらった封筒を開けると、驚きの声をもらしたに違いない。

写真には、平岡と卒業生たちが横三列になって写っている。

最前列には椅子が並べられ、担任の平岡を真中に、背の低い女子たちが並んで座っていた。
二列目のみんなは、腰をかがめて写り、三列目には、背の高い男子たちが立っていた。みんな、卒業証書の入った筒を手に持ち、良い笑顔だった。

しかしそこには、一人だけ、居るはずのないひとが写っていた。

大学受験を間近に控えていた正月に、家族と親戚の家へ行く途中、高速道路で玉突き事故にあって死んだ岸本だった。

まだ酔いも醒めないうち、写真を見た仲間たちは、メールや電話でこのことを確認し合った。

「先生の隣に、岸本さんらしきひとが写ってるんだけど」

「わたしのもらった写真にもだよ。他の子にも聞いたけど、みんなの写真がそうみたい」

「合成写真……だよな、間違いなく。にしても先生、どんな意図でこんな写真を作ったんだ。そりゃ、岸本さんが死んじゃって悲しかったのはみんな一緒だけど」

平岡先生は、おそらくみんなが喜ぶと思ってこんなことをしたのだ。

でもちょっとだけ、タチの悪いいらずらというか、趣味が悪いと言えなくもない。

先生の意図を読み取ろうにも、素直に喜ぶことはできない。若干、引いているひとも居た。

そしてほとんどの同窓生は、先生に、

「あの写真、驚きました。よくできてますね。岸本さんを含めての、本当の集合写真。うれしいです。ありがとうございました」

と、無難なメールを送っておいた。
みんなも二十歳を越えて、高校時代の担任に対しても礼儀を欠かせなくなっていた。

だが、中には、この写真を撮った時の状況を細かく覚えている者も居て、その彼だけは、こう思った。

「もしかすると、合成写真じゃなくて、本物かもしれないな。みんなで写真を撮ったあの時、確かに岸本さんは来ていて、先生も気づいていたのかもしれない」

彼は二年前の三月Y日の、あの時のことを思い出そうとした。


   *

「みんな。今日卒業できたのは、三十人だけれど、先生は、岸本を含めての三十一人こそが、本当の卒業生だと思っている。先生も教師になって初めて担当した生徒たちだ。特に思い入れが深く、一人だけでも誰かが欠けていると気になって仕方ないんだよ。そこで、アンオフィシャルだが、先生の持ってきたカメラで最後にみんなとの集合写真を撮りたい」

そう言うと平岡は、教室の教卓の前あたりの机をどかしてスペースを作り、椅子を並べ始めた。
見ていた生徒がすぐ手伝いにまわり、椅子の列を作る。

「一つだけ注文がある。椅子を一人分だけ、空けておいて欲しい。その空席が、岸本の居た証になると思うから」

平岡の言っていることに、各々は首をかしげそうになった。
しかし、卒業式直後の晴々とした気分であることや、まだ岸本の死の記憶が新しかったことで、全員がその演出に協力した。

ふいに冷たい風が吹いた。

「先生が、岸本の分の卒業証書も……本当は認められてないんだけど、自分で書いて持ってきたよ。書道には自信があったのさ。この証書を、岸本の椅子の下に置いてやろうな」

平岡は独り言のようにそう言うと、空いた椅子の足下に、その証書の入った筒を立てかけた。

そして三脚で立てたカメラのもとに戻り、ファインダーをのぞき込む。

用意した席に岸本はきちんと座っていてくれていた。

みんなからは見えていないが、遠慮がちに肩をせばめ、久しぶりの再会に、ちょっと照れ臭そうだ。

(岸本。お前が突然、夕方の教室に現れた時は、俺もびっくりしたよ。でもお前のその真っ白な肌に、透き通るほどキラキラした目は、この世のものとは思えないほど美しいから、やっぱり死んでるんだなって思った。ただ、お前の頭に触れた時は温かかった。いっそこのまま抱きしめてやりたいくらいだった。でもそれは言わないでおく。俺は教師だからな。)

平岡はセルフタイマーをセットすると、慌ててみんなのもとに戻った。

カメラの、タイマーを示す赤ランプが点滅すると、みんなの表情が静止する。それからパシャ、と確かな音がした。


「よし、うまく撮れたよ。この写真は、今日が思い出になった頃、みんなに配るから。その時にはきっと集まろうな!」

この写真を見たらみんな驚くし、恐がるひとも居るだろうから、今は見せないでおこう。平岡はそう考えていた。

撮影が終わると緊張感が解けて、みんなはまた思い思いに、がやがや騒ぎ始める。

教室がうるさくなったと同時に、平岡の耳元で、

「ありがとう先生」

と聞こえた気がした。

ふいに冷たい風が頬を撫でた。

廊下から吹き込んできた風は、カーテンをなびかせながら、開いていた窓の外へと抜けていった。

平岡が彼女のために用意した卒業証書は、教室内のどこを探しても見つからなかった。

Re: ライトホラー・ショートショート ( No.126 )
日時: 2013/04/01 10:17
名前: かの ◆XvC//cyygc (ID: P3.L1.aj)

わー、あるまさんすいません。
パソコン禁止指令が出てました。

いい怖い話ですねー。
やっぱり、いい霊もいるんですね。

Re: ライトホラー・ショートショート ( No.127 )
日時: 2013/04/01 20:21
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

コメントありがとうございます。
うん。パソコンやってると大事な用事も片付きませんからね笑

最近ますますネタ出しがきつくなってます。
ネタに困ってるのはもう数ヶ月前からですが。

明るいオチの方が、自分としては書き易いかな?
でもやっぱ「シリアス・ダーク」なので。
怖い話も、忘れずに書いていきたいです。

季節モノってことで、「卒業」をテーマに考えてみました。
無駄に長いのを、読んでくれて、ありがとうございます!!


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