自殺サイト『ゲートキーパー』

作者/羽月リリ ◆PaaSYgVvtw



No.1



「死にたい死にたい死にたい」

 暗い部屋に響く、低い声。

 その声の主は、パソコンの前に座っていた。

 暗闇の中、不気味に光るその画面に映し出されているのは。

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「これでやっと僕も死ねる… !」
 どこか嬉しそうな響きを含んだ声。

 静かな部屋に聞こえるのは、パソコンのキーボードをタイピングする音だけ。




No.2



 夏の暑さにだらけきった学校に、授業の終了を告げるチャイムが鳴り響く。

「部活、行こうぜー」
「おーう」

 本日の授業はこれで終わりなので、生徒は帰る用意をして、部活へと繰り出してゆく。
 しかし、この学校は全員入部制ではないので、部活をしていない生徒は、校門を出て帰路へつく。

 その後者に当てはまる一人の男子生徒は、歩きながら携帯を確認していた。

「メール来てる」
 立ち止まって、内容を確認する。

「仕事か…」
 何とも言えない表情をして呟いた少年は、携帯を制服のズボンのポケットに突っ込んで、再び歩き始めた。




No.3



 七月に入ったばかりの今の季節は、じめじめしていて、少し歩くだけでもじっとりと汗が出てくる。

 そんなに賑わってもいない商店街を通り抜ける、一人の少年。

 短髪の黒髪。大きな目に、スラリとした鼻。背も高く、それなりに美形。着ているものは、近隣の公立高校の制服――黒色のズボンにカッターシャツ。

 彼は簡素な住宅街を歩いていたが、やがて一軒のアパートの前で足を止めた。

 『コーポ・テオティワカン』と書かれたそのアパートは、オシャレなその名前に似合わず、古ぼけた小さなアパートだった。

 そのアパートに入り、一階にある事務所のドアをノックした。
 このアパートにはインターフォンがついていないのだ。

「誰だ?」
 中から、女性の声が聞こえる。

「俺です。十六夜です」
 そう言うと、「入れ」と一言だけ返ってきた。

 今にも壊れそうなドアを開け、中に入る。
 辺りに様々な物が散らばっていて、その部屋の中央に置かれた机の上にいる黒猫と、一人の女性が見つめ合っていた。

 肩の少し下まで伸ばされている艶やかな黒髪を、現在ポニーテールに結っている。目付きの悪い、つり上がった目。服装は半袖のTシャツに半ズボンのジャージ。年は、二十代前半だと思われる。

「……………何やってんですか、漆さん」
 玄関に立ち尽くしたまま、半眼になった少年の問いに、漆さんと呼ばれた女性は簡潔に答えた。
「ムーンのノミ取り」
「……………」

 ムーンとは黒猫の名前で、漆のペットである。

 少年は何も答えずに、散らかった部屋の中へと入っていく。
 しかし、それを止められた。

「黎、アイス買ってこい」
「……………」
 黎と呼ばれた少年は物言いたげな表情をしたが、踵を返し、部屋から出ようとした。

「あ、アイスはソーダ味な」
「 …了解です」

 面倒臭いなぁ、と思いながら、黎はコンビニへと向かった。