自殺サイト『ゲートキーパー』

作者/羽月リリ ◆PaaSYgVvtw



No.24



 欅潤は家に帰ると、ポストの中を確認した。すると、一枚の封筒が入っていた。

「…?」

 それを手に取って、眉をひそめた。

 真っ黒な封筒には、何も書かれていない。
 封はされておらず、中には同じように黒い便箋が二つ折りにされて入っている。

 それを封筒から出し、そこに書かれている文字を読んだ。

「…自殺サイト『ゲートキーパー』――」
 小さく呟き、欅潤は微かに口端を吊り上げた。

「これで、やっと、死ねる…のか――」



   ーーー



 それとほぼ同時刻。

「…何なんだよ! 月影冬夜……!」

 彼から届いたメールを読んだ叢雲剣は、ギリッと歯噛みした。

「こうなったら、おれが、自分で――!」




No.25



「じゃー、行ってきます。漆さん」

 そう言う黎は、背にリュックサックを背負っている。
 その隣に立っている上弓も、背に黒い筒状の物を背負い、手には細長い棒状の物を持っている。
 二人とも大荷物だ。

「何か怪しい人にしか見えないけど、まぁ頑張って」
「………何なんすか、それ」

 パタパタと手を振る漆を一人残し、黎と上弓は欅潤の自殺決行場所へと向かった。

「…で、あのビルは何のビルなんですか?」
 夜道を歩きながら、黎が口を開いた。

「あー、知らね。どっかの企業の建物じゃね?」

 「ふわぁ…」と大きな欠伸をする上弓を横目で見た黎は、上弓が手に持っている物を指差した。

「上弓さん、それって――」
「うん?」

 上弓は「それ」をひょいと黎に見せた。

「これのこと?」

 「それ」は二メートル程はあると思われる、細長い棒状の物で、現在は布に包まれている。

「もしかして、あれですか?」
「もしかしなくても、あれだねぇ」

 ニッコリと笑う上弓に、黎は半眼になった。

「………気を付けてくださいね」
「オレのこと心配してくれんの?」

 上弓の問いに、黎は溜め息をついた。

「違います。逆ですよ」

 その言葉を聴いて、合点がいった上弓は再びニッコリと笑った。

「オレに任せろって!」

 そんな雑談をしながら歩いていると、軈て目的地へとたどり着いた。

「よし、着いたぞー。自殺決行場所!」

 目の前に建つ高層ビルを見上げ、黎は呟いた。
「…すっげー高いっすね」
「そりゃー、これぐらいじゃないと死ねないって、漆さんが言ってたからね」

 かと言って、これは高すぎるのではなおだろうか。
 と思ったが、それは口に出さずに、中へ入る上弓に付いていった。

 中には誰もおらず、しんとしている。
 更に電気も点いていないので、不気味だ。

「まずは屋上に行くかな?」
 上弓は呟いて、屋上へ向かって歩き出す。

 しかし。

「誰だ!? お前たち!」

 驚いたような声が聞こえるのと同時に、明かりを照らされた。

 声のした方を見ると、一人の警備員がこちらに懐中電灯を向けていた。

「何でここにいる!?」
 警備員は訊いてくるが、どこか怯えている。

「…あーぁ、上弓さん、見つかっちゃいましたよ」
 黎が大して慌てずに、むしろ落ち着いて言うと、一方の上弓もゆっくりと頷いた。
「そーだね」

「話してないで、こっちに来い!」
 警備員の言葉通り、黎はゆっくりと警備員に近付いていく。

 そして。

 ドスッという音と、「がは…っ」という呻き声。
 膝をついた警備員の首の後ろに手刀を叩き込んだ。
 警備員は完全に気を失い、ばたりとその場に倒れる。

「いやっはー、黎君、強ーい!」
 上弓がピューッと口笛を吹いた。

「この警備員が弱すぎるんですよ」
 うつ伏せに倒れる警備員を見下げて、溜め息をついた。
「こんなんだったら、このビルに泥棒が入ってき放題じゃないですか」

 そして、背負っていたリュックサックを上弓に預けると、警備員を背負った。

「どこに連れてくの?」
「警備員室です」
「どこか知ってるの?」
「上弓さんが見せてくれた地図に書いてありました」

 そう言う黎だが、地図は本の数秒しか見ていなかった。それなのに、覚えていると言うのか。

「…もしかして、全部覚えた?」
 上弓の問いに、黎はさも当たり前と言った体で頷いた。

「…その能力、普通じゃないね」

 渋面を作る上弓を横目で見て、黎は警備員室の扉を開けた。

「……………げ」

 すると、そこには休憩中と思われる二人の警備員がいた。

「何者だ!」
「不法侵入者だ!」

 口々にそう言い、警戒心を顕にして、こちらに向かってくる。

「うっわ!」
 黎は背負っていた警備員を落とし、前から来る警備員の攻撃を避けた。

「おらぁっ!」
 もう一人の警備員の攻撃も躱わす。

「上弓さん、任せましたー」
 気を失った警備員を背負ってきた黎は上弓に二人を任せることにする。

「…うへ、黎、酷ーい」
 そう言いながら、警備員の顔に回し蹴りを食らわした。

「な…っ」
 驚いたように目を見開くもう一人の警備員にも、回し蹴りを決めた。

「うわー、上弓さん、すごーい」
 ぱちぱちと拍手をしてくる黎を、上弓は半眼で睨んだ。
「何だ、そのすごいと思ってなさそうな拍手は」
「すごいと思ってますよ?」

 気絶した三人の警備員を警備員室に閉じ込めた黎と上弓は、時計を確認した。

「十時半ですよ、上弓さん」
「おー、そーだな」
「つーことで、おれは欅潤のところに行ってきます」

 そう言うと、リュックサックから、ノートパソコンを取り出し、上弓に渡した。

 他にリュックサックの中に入っているものは、黒いコート。それと、暗い茶色の髪――カツラ。

「………うーん、夏に黒のコートはないでしょ」
「どうでも良いでしょう」
 渋面を作って、それから黎は「では」と言った。

「いってきます」
「いってらっしゃい」

 黎を見送った上弓は先程渡されたノートパソコンを開き、電源を入れた。

「よし、じゃー、月影冬夜君にメール送るか」