自殺サイト『ゲートキーパー』

作者/羽月リリ ◆PaaSYgVvtw



ー第三章ー No.03



「なぁ、黎。あの転校生、メッチャ可愛いよな!」
 明が三森ほのかを遠目に見ながら言ってくる。
「お前はああいうのがタイプなのか?」
「え? あー、だって可愛いじゃん、顔!」
「お前は顔しか見てねーのかよ」

 黎はスクールバッグを持って立ち上がった。
「あれ? 黎、もう帰んの?」
「………そりゃそうだ。もう授業無いだろ」
「部活は?」
「帰宅部だよ」
 半眼でそう返して、「ばいばい」と別れを告げ、教室から出ていく。
 教室のドアを閉めるときに、明が「バイバーイ」と大きく手を振っているのが見えた。

 黎は大きく欠伸をして、歩いていく。
 昇降口へ行き、靴を履き替えていると、ぱたぱたと軽い足音が聞こえた。ふとそちらを見ると、三森ほのかが立っていた。
「やっほー」
 こちらに向かって、にこにこと笑う三森ほのか。
「……転校生か」
 小さく呟いて、そのまま立ち去る。

 後ろで、「三森ほのかさん」と女子生徒の声が聞こえた。肩越しに振り返って見ると、三人の女子生徒が笑顔を浮かべて立っていた。
「何?」
 三森ほのかが首を傾げる。
「ちょっと話があるんだけど良いかな?」
「……? うん」
 こくりと頷いた三森ほのかは、三人の女子生徒のあとを付いていった。

「……どこ行くんだろ」
 黎はぽつりと呟いた。

 あの三人の女子生徒は、黎や三森ほのかと同じクラスの生徒だ。
 派手めの女子生徒は、三森ほのかの隣の席の涙湖麗を虐めている。黎が知っている限り、そこまで酷いことはされていないようだが、無視をされたり、冷たく扱われている。彼女の持ち物を隠されたりしたこともあった。
 黎が知らないところで、もっと酷いことをされているかもしれないが。

 だからといって、黎は特に何もしない。助けようとも思わない。向こうが助けを求めてきたら、助けないこともないが。

 面倒なことには足を突っ込みたくない。だから、何事も一歩引いて見ている。
 それは、本当のことを見るため。
 全てを客観的に見て、何が正しいか、何が間違っているか、判断するために。

「……あーぁ」
 大きく伸びをして、黎は校門を出ていった。

 三森ほのかが涙湖麗のように虐められなければ良いが。
 まぁそれも、自分には関係の無いことだが。




No.04



「……眠い」
 小さく呟きながら、校門をくぐり昇降口へと向かう。
 今日はたまたま早く目が覚めたから、授業が始まるまで時間がある。
 ゆっくりと歩いて靴箱へ行き、上履きに履き替える。

 その時、三森ほのかがやってきた。
「おはよー!」
 相変わらずにこにこと笑っている彼女に「……おはよう」と小さく返して、黎は自分の教室へと向かう。

「あれ?」
 後ろで、三森ほのかの声がした。

 黎は気にも留めずに進んでいたが、次の言葉で思わず足を止めた。
「なんで下駄箱の中にハトさんの死骸があるんだろう?」
「……ハト?」
 驚いて振り返ると、靴箱の前で、三森ほのかが首を傾げていた。
 気になって、その靴箱の中を覗くと、上履きの上に鳩の死骸が一つ、置いてあった。ハエが二、三匹、飛び回っている。

 黎が渋い表情になった時、三森ほのかがぽんと手を叩いた。
「あっ、分かった! ハトさん、誰かに埋めてもらいたくて、 死ぬ前に私の下駄箱に入ったのね」
「は……?」
 黎はポカンと口を開けて三森ほのかを見詰めた。

「放課後埋めてあげよう!」
 一人でそう言って納得した三森ほのかは、こくりと頷いて、鳩の下にある上履きを取った。

 黎はそれを見て、半眼になった。
 そして、もう一度靴箱の中を見た。やはり鳩の死骸がある。

 ――これは、虐めではないのか?
   昨日、涙湖麗を虐めてる奴等に話しかけられてたし。

 そう思った黎だが、当の本人である三森ほのかはまったく気にしていない――と言うよりは、虐めということに気付いていない様子だ。

「……んー、でもハエさんが飛んでるなぁ。どうしよう?」
 スニーカーを靴箱に入れ、その上にハトを置いた三森ほのかは首を傾げた。
「……」
「殺虫剤無いしな……あ、虫除けスプレーで良っか!」
 そう言うと、スクールバッグを探り、虫除けスプレーを取り出した。

「ハエさん、どっかに飛んでけー」
 プシューッと音を立てて、虫除けスプレーを靴箱の中に吹き付ける。
「よし、これで良いや!」
 ハエがどこかへ飛んでいったのを見た三森ほのかは満足げに頷いた。

「じゃあ、放課後まで待っててね、ハトさん」
 三森ほのかはそう言うと、靴箱を閉め、教室へと歩いていった。

 それを一部始終見ていた黎は、「……何だよ、あいつ」と半眼で呟いた。