自殺サイト『ゲートキーパー』

作者/羽月リリ ◆PaaSYgVvtw



No.38



「さぁて、仕事成功に…乾杯!!」
 漆のその言葉に、黎と上弓は元気よく言った。
「かんぱーい!!」

 三つのグラスが、カチンと良い音を鳴らす。

「…いっやー、仕事の後のビールは旨いねー」
「良いなー、おれもビール飲みたいです」
「黎はコーラで充分」

 ムッとしながらも、黎はコーラをぐびぐびと飲む。

「ほら、食え食え! お祝いだ!」

 目の前には、寿司やピザやおつまみなど、とにかくたくさんの食べ物が置いてある。

 黎は寿司を口に入れて、ふと思った。
「…そう言えば、叢雲剣はどうなったんすか?」
「あいつなら、オレが退治しといたよ!」
 ニコニコと笑って上弓が言う。

「…そうなんですか?」
「うん!」
 笑顔で頷く上弓。

「…で、叢雲剣は何で月影冬夜を殺そうとしたんですか?」
 黎が問うと、上弓は口にピザを頬張ってから言った。
「うん、何か色々あったらしいよ?」
「………何ですか、その簡単な説明は」
 黎が半眼で上弓に突っ込む。

「…うん、まぁ、もう大丈夫だよ」

 その時、ピロリンと電子音がした。

「………何の音すか?」
「メールだ」

 上弓はノートパソコンを開き、メールを確認する。

「誰から?」
 漆の問いに、上弓が答える。
「欅潤です」

 黎と漆は顔を見合わせて、それからパソコンの画面を覗いた。

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          自殺するのは、止めました。

     もう一度生きてみようと思うことが出来ました。



       だけど、少し気になることがあります。

        自殺サイト『ゲートキーパー』は
      本当に自殺の手伝いをしてくれるのですか?

        これは自分の勝手な憶測ですが、
        自殺サイト『ゲートキーパー』は
      自殺を止めてくれたんじゃないかと思います。

         変なことを書いてすいません。



      今回はご迷惑をおかけしてすいませんでした。

        そして、ありがとうございました。



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 それを読み終わった三人は、目を見合わせた。

「どうします? 返信します?」
 上弓の問いに、漆は頷いた。
「パソコン、貸して」

 漆は上弓からノートパソコンを受け取ると、イスに座ってタンピングを始めた。




No.39



 ふと気が付くとパソコンにメールが届いていた。

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       自殺サイト『ゲートキーパー』は
   あなたの自殺を“止めるのを”手伝うサイトです。

   ただ、このことは他人には言わないでください。

    そして、これからは自殺など考えないように。



              自殺サイト『ゲートキーパー』


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「自殺を止めるのを手伝うサイト――か」
 メールを読み終わった少年は小さく呟いた。

 そのとき、後ろからコンコンと何かを叩く音が聞こえた。
 振り返ると、ベランダに幼馴染みが立っていた。

「潤、一緒に勉強しよ!」
「…冬夜、また来たの!?」
「うん!」

 欅潤はパソコンの電源を切り、ベランダまで行き鍵を開けた。

「さ、勉強教えて!」
 にっこりと笑う幼馴染み。
「…うん――!」

 二人は笑いあった。



 自殺サイト『ゲートキーパー』。
 本当に、ありがとう。
 こんな命を救ってくれて、ありがとう。




No.40



「はい、玄。パソコンありがとう」

 上弓は閉じたノートパソコンを漆に手渡された。

「なんて書いたんすか?」
 上弓の問いに、漆は答えずに部屋から出ていってしまった。

「……?」

 上弓がノートパソコンを開くと、電源は入ったままだった。

 黎も画面を覗く。

 そこに映し出されていたのは。

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         ・月影冬夜

         ・欅潤

         ・叢雲剣



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