自殺サイト『ゲートキーパー』

作者/羽月リリ ◆PaaSYgVvtw



No.22



「姉ちゃんは、お母さんを殺したんだよ」

 黒樹草汰の突然の言葉に、黎は目を見張った。

「ぼく、その時はまだ小さかったから、ほとんど覚えてないけど…お祖母ちゃんから聴いたんだ」

 太陽が照りつけている。セミが煩い。
 ブランコに座って話しているだけなのに、汗が出てくる。

「お母さんが、離婚したのは姉ちゃんのせいだ…って、姉ちゃんを殺そうとしたんだ。それで、姉ちゃんは自分を守るために、お母さんを包丁で刺し殺したんだって」

 黎は目を伏せた。

「その時にね、ぼくも姉ちゃんに殺されそうになったんだって」

 哀しそうに笑う黒樹草汰。

「それを見たお祖母ちゃんが、必死に止めて…。それ以来、お祖母ちゃんは姉ちゃんに話しかけなくなったよ」

 そう言うと、黒樹草汰は右足をブランコに乗せ、半ズボンを少し捲り、太腿を見せた。そこには、引き攣れたような傷があった。

「…それは――?」
 黎が訊くと、黒樹草汰は答えた。
「その時に、姉ちゃんがぼくを斬ったんだ」

 黒樹草汰は半ズボンを元に戻し、足を下ろした。

「姉ちゃんはぼくを殺そうとしたけど、でも」

 黒樹草汰は俯いた。そして、小さな声で言った。

「ぼくは、姉ちゃんが大好きだよ。殺されかけたけど、姉ちゃんは姉ちゃんだもん」

 肩が震えている。
 泣いているのかもしれない、と黎は思った。

「だから、姉ちゃんに自殺なんてしてほしくない。死んでほしく…ない――!」
「……そっか」

 黎は微笑んだ。

「大丈夫。黒樹小枝は、おれたちが助けるから」
 小さなその声は、煩いセミの声に掻き消された。




No.23



「――ということでしたよ」
 黎が黒樹草汰から聴いたことを全て話し終えると、漆は腕組みをした。

「母親を殺した…か」
 小さく呟き、何かを考えている様子の漆。黎は邪魔をしてはいけないと思い、黙ってそれを見ている。

「……あ、そう言えば、昨日、お墓で黒樹小枝を見かけた時に――」
 それまで黙って話を聴いていた上弓が、思い出したかのように突然声をあげた。
「黒樹小枝が『人間なんて嫌い』って言ってましたよ!」
「………何でそんな大事なことを今頃になって言ってくるんだ!」
 漆が上弓を睨みながら言ったが、当の本人は「ごめんなさーい」と笑っている。

「まぁ、それで自殺動機は解ったな」
 そして、漆は言った。

「作戦をたてるぞ」

 その言葉に、黎と上弓は、にこりと笑って頷いた。




No.24



「…で、どうするんすか?」
「まぁ、手っ取り早い話、人間を好きになれたら自殺をやめてくれる…はず」
「『はず』って、漆さん………」
 黎の言葉に、漆は「うっ」と詰まった。

「煩い。それよりお前たちも何か考えろ!」
「はぁーい」
 上弓と黎が声を揃えて返事をした。

「お祖母さん……あの事件以来、黒樹小枝に話しかけなくなったって、言ったよな?」
「はい、言いましたよ」
 黒樹草汰から直接話を聴いた黎がこくりと頷く。
「なら、お祖母さんを使うか……」
 難しい表情をして「うーん」と唸る漆。

「お祖母さんと話が出来れば良いんですかね」
 黎の言葉に漆が答える。
「そんな簡単なことじゃないけど……でも、それで何かは変わるだろ」
「そうですか」

 事務机の引き出しを開け、そこに入っているものをじっと見詰めた。

「黒樹家は黒樹小枝と弟とお祖母さんだけだよな?」
「そうっすよ」
 ソファに横になってぼんやりとしていた上弓が答えた。

「なら、黒樹小枝の家に行こうか」
「…………は?」
 上弓と黎の声がハモった。

 漆は引き出しから拳銃を取り出し、それを構え、ニヤリと笑った。

 上弓と黎は、呆然とそれを見ていた。