自殺サイト『ゲートキーパー』
作者/羽月リリ ◆PaaSYgVvtw

No.31
「……あの様子なら、大丈夫そうだな」
二人の様子を離れた見守っていた漆が小さく言った。
「じゃ、オレらは帰りますか」
「そうだな」
漆と上弓、黎は車へ戻ろうとした。
しかし。
「おい、お前――」
一番後ろを歩いていた黎は、声がそれを聞こえ、ふと足を止めた。漆と上弓は気付かすに車まで歩いていく。
気付かないなんて鈍くさいぞ、いや敢えて先に行ったのかもしれない、と色々考えながら振り返ると、案の定そこには黒樹草汰が立っていた。
「……何?」
黎が振り返って無表情で訊くと、黒樹草汰はこちらを睨みながら言ってきた。
「お前、自殺サイト『ゲートキーパー』の奴だったのか?」
「……うん、そうだね」
本当のことなので、黎は素直に頷いた。
「だったら、何で姉ちゃんを殺さなかったんだよ。それに、姉ちゃんを助けるって言ったのは――」
「うん、だから」
黎は黒樹草汰の言葉を遮り、祖母と抱き合っている黒樹小枝を見た。
「黒樹小枝のことは助けたよ。多分、もう自殺なんてしない」
それだけ言って、車へ向かって歩きだそうとした黎に、再び黒樹草汰が声をかけた。
「……自殺サイトって、自殺を手伝うサイトじゃなかったのかよ」
黎は足を止め、黒樹草汰に背中を向けたまま、静かに言った。
「自殺サイト『ゲートキーパー』は、自殺を“止めるのを”手伝うサイトなんだよ」
「……え――」
歩きだした黎に、黒樹草汰が言った。
「あと一つだけ!」
しかし、黎は足を止めない。
それでも黒樹草汰は言ってくる。
「お前が持ってるそれ、本物なのか?」
黎は思わず足を止めた。
そして、右手に持っていた物を見詰めた。――拳銃。
先程、漆から預かったのだ。
「……これはね――」
振り返り、その拳銃を黒樹草汰に向けた。
「どっちだと思う?」
口端を吊り上げた黎が引き金に指をかけ、躊躇いも無く引いた。
「……うわっ!?」
黒樹草汰は驚いて声をあげた。
驚いたその顔は、びしょびしょに濡れている。
それを見た黎は、腹を抱えて笑った。
「これ、本物そっくりの水鉄砲だから」
ひとしきり笑ったあと、黎は黒樹草汰を見た。
「じゃあ、おれが君と会うことはもう無いよ」
車へ向かって歩きながら、黎は右手をひらひらと振った。
「ばいばい」
No.32
「それにしても、無事、自殺阻止出来て良かったな」
「だったら、漆さんは何でそんな不機嫌そうな表情をしてるんですか?」
「……それはだなぁ――」
漆は前に広がる光景を見た。
「こんなところに来たからだよ!」
青い空、白い雲。そして、キラキラと輝く海。
水着を着た人々が、楽しげに遊んでいる。
「何で海に来た!?」
「それはぁ、黒樹小枝の依頼が無事終わって、その打ち上げと言うか何と言うかぁ」
ビーチにパラソルを立て、その下にビニールシートを敷き、そこに座っている漆と上弓と黎。
「ね、漆さん、泳ぎましょうって!」
「嫌だ!」
「って言うか、海に来といて漆さんは何で水着を着てないんですか!?」
「煩い! 黙れ!」
そう、上弓と黎は水着姿だというのに、漆は水着を着ておらず、Tシャツにハーフパンツという格好だ。
その時、上弓がいくつかある荷物の中から、あるものを取り出した。
「オレ、漆さんの分の水着持ってきましたよ!」
上弓がパッと見せたのは、ビキニ。
「フッざけんな! 私がこんなの着るとでも思ってんのか!」
漆は上弓の頭を叩く。
そんな二人のやり取りを見ていた黎は、ふと視線を海へ向けた。
そこには、黒樹小枝と黒樹草汰、そして二人の祖母が居た。
三人で、何やら楽しげに話していて、黒樹小枝も笑っていた。
黎はそれを見て、僅かに微笑んだ。
どうか、もう彼女が自殺など考えないように。
そして、家族三人で仲良く暮らせるようにと願って。

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