自殺サイト『ゲートキーパー』
作者/羽月リリ ◆PaaSYgVvtw

No.29
高いビルの前で車は止まり、欅潤はそこで降ろされた。
「…ここは――?」
目の前に建っているビルを見た欅潤はぼんやりと呟いた。
何階建てか分からないような、高いビル。
「ここが、死に場だよ」
少年はそう言い、そのビルの中へと入っていく。
「…勝手に、入って良いの?」
欅潤は少年に手を引っ張られながら、訊いた。
「大丈夫」
少年はそれだけ答えると、どんどん進んでいく。
中は全く明かりが点いていなく、不気味な雰囲気が漂っている。
エレベーターに乗り、上へと上がる。
ガラス張りに作られたそのエレベーターは外の様子がはっきりと見えた。
夜遅いというのに、たくさんの人々が歩いている。たくさんの車が行き交っている。
これも最後なのか、とぼんやりと思った。
――だって、自分はこれから死ぬのだから。
No.30
全速力で走ってきた月影冬夜は、肩で息をしながら、目の前に建っているビルを見上げた。
「ここは、一体――?」
乱れた呼吸を整えながら、月影冬夜は呟いた。
「潤、一体、何考えてるんだよ――」
月影冬夜は辺りを見回した。
欅潤どころか、辺りには誰もいない。
「…どこに――」
月影冬夜が歯噛みしたとき。
チリン、と。
鈴の音が聞こえた。
月影冬夜が慌てて辺りを見回すと、一匹の黒猫がいた。
「――猫…」
その黒猫はニャアと鳴くと、開いた扉からビルの中へ入っていった。
「…あ、おい…、入ったらだめだろ」
月影冬夜は黒猫を追うようにして、ビルの中へ入った。
No.31
「月影、冬夜――っ!」
月影冬夜の姿を見つけた叢雲剣は、暫く彼の様子を伺っていた。
チリン、と小さな鈴の音が聞こえたあと、月影冬夜はビルの中へ入っていった。
「月影冬夜――」
そう言う叢雲剣の手には、不気味に光るナイフが握られている。
「殺してやる――!!」
月影冬夜に向かって走り出した。
その時、ビュンと風を裂く音がした。
叢雲剣の目の前を何かが横切った。
「え……………?」
すぐ目の前に、一筋の棒。
叢雲剣がそろそろと右を見る。
横にある壁に、一本の矢。
続いて、左を見ると、弓矢を構えた男性が一人立っていた。
その矢の先は、完全に叢雲剣に向いている。
「…お前――叢雲剣。何故、月影冬夜を殺そうとしている?」
何故、自分の名前を知っているのか。
もし、あの青年が手を離せば、矢は放たれ、自分の顔を射る。
――殺される。
「叢雲剣。もう一度、問う。何故、月影冬夜を殺そうとしている?」
「……あいつの、せいで、お…おれは、退学になったんだよ…!」
「…退学?」
青年は弓矢を構えたまま、軽く目を見張った。
「…だから、だから、――復讐をしてやろうと思って…!」
ビュンと風が唸り、矢が叢雲剣のすぐ横を通って壁に刺さった。
青年は新たな矢を構え、言う。
「もう二度と人を殺すなど言うな。言えば、オレがお前を射る」
つまりは、殺すと言うこと。
「……………っ――」
叢雲剣は、恐怖で声が出なかった。
「とっとと帰れ。次、また殺すと言ったら、本当にお前を射るぞ」
そう言って、青年は手を離した。
「オレはお前の全てを知っているんだよ。叢雲剣」
矢は真っ直ぐに飛んで、叢雲剣の頭上の壁に突き刺さった。
「…あ…っ、うわあぁぁぁっ!!」
叢雲剣は、その場から逃げるように去っていった。
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