自殺サイト『ゲートキーパー』

作者/羽月リリ ◆PaaSYgVvtw



No.6



「――で、仕事、どんなですか?」

 全員がアイスを食べ終わったところで、黎が口を開いた。

「あー、うん、玄、説明して」
「えー、面倒です」

 口を尖らせる上弓に、しかし漆はもう一度、笑顔で言った。

「説明して」
「 …はい」

 渋々ながら、上弓は立ち上がって漆の側までいき、机に置いてあるパソコンを操作した。
 数秒待ったあと、上弓が「こっち来い」と、黎をパソコンの画面が見える場所に移動させた。

 上弓の言う通りに移動した黎は、パソコンの画面を覗いた。

「今回のターゲットはこいつ、月影冬夜。聖音高校の二年生だ」

「じゃ、同じ学校の同じ学年ですね」
 上弓の言葉を聴いていた黎が口を挟んだ。

「あ? そうなの?  …じゃ、動きやすいな」

 ニヤリと笑った上弓だが、黎は怪訝な表情をした。

「でも、月影なんて名前、知りませんよ」
「それはお前が人付き合い悪いからだろ」
「人付き合い悪くてごめんなさいね」

「良いからとっとと説明しろ」
 漆にたしなめられ、上弓は説明を続ける。

「まぁ、こいつが『死にたい』と言ってきたわけだ」

 そこで上弓はパソコンの画面を指差した。
「こんな感じでな」

 パソコンの画面には、一通のメールが映し出されている。
 送り主は月影冬夜。

「『死にたいです。僕を殺してください』――殺してくださいって、ここは自殺サイトだぞ? おれらが殺す訳じゃねーし… 」
 メールの内容を声に出して読んだあと、黎は呆れたように言った。
「 …ったく、なんなんだよ、こいつ」

 そんな黎を見て、漆は何か言いかけたが、上弓の言葉に遮られた。

「で、これが月影冬夜の写真」

 ピラリと出された写真をまじまじと見る。

 遠くから隠し撮りしたようで、顔は横を向いているし、画質も荒い。それでも、分かる。
 男子にしては長めの黒髪。そして、学校の制服を身に纏っている。無表情――否、その顔には憎しみが感じられる。
 しかし、表情は今はどうでと良い。この月影冬夜という人物。こいつは、こいつは。

「いや、いやいやいや」
 写真を見た黎は半眼になって呟いた。

「どうした?」
 上弓が怪訝に思って訊いてくる。

 この顔。この表情。
 間違いない。

「おれ、こいつ、知ってます… !」

「知ってんのかよ !?」
 上弓が半眼で突っ込んでくる。

「だから、一緒の高校なら顔ぐらい知ってて当たり前――」

 呆れたように言う上弓の言葉を遮って黎は言った。

「こいつ、さっきコンビニで万引きしてました!」




No.7



「おれが漆さんにパシられて、コンビニでアイス買って帰ろうとしたら、こいつとぶつかって、メロンパンとあんパンとおにぎり二個とポテトチップスと十円チョコ四個とサイダーとお茶が鞄から落ちたんですよ」

 万引き事件のことを一通り話し終えた黎は、漆と上弓の二人の表情を見た。
 漆は何かを真剣に考えている様子だが、上弓は黎の観察力に感心していた。

「どうして、メロンパンとあんパンと… 何かだったの覚えてんの?」

 「そんな状況じゃないでしょ?」と問う上弓に、「まあそうでしたけど… 」と曖昧に返す。

「ぱっと見れば分かりますよ」
 黎にとって本当のことを言っただけだが、上弓は舌を巻いている。

「あぁ、因みにおにぎりは、梅干しと鮭でしたよ」
「そんなことまで覚えてんのかよ!」

 上弓が本気で驚いている。

「その観察力と記憶力、オレにも分けてほしいね!」
「分けれませんけど、もし分けられたとしても分けてあげませんよ!」

 笑顔で言ったあと、黎は顔を引き締めて漆を見た。

「で、どうします? 月影冬夜」

 漆は腕組みをして考える素振りを見せた。

「そうだな… 。まぁ、黎は月影冬夜と同じ学校だから、様子を見ててくれ」
「了解」
「玄は一時待機」
「えー、つまんなーい」
 上弓が不服の声を上げたが、漆は何も言わなかった。