自殺サイト『ゲートキーパー』

作者/羽月リリ ◆PaaSYgVvtw



No.15



「漆さん、月影冬夜は何で自殺をしようとしているんでしょうか?」

 ソファに座って呟く黎に、漆はしれっと返す。
「さぁな。自殺志願者の考えることは、いかれてるんだよ」
「……………そうですか」

 黎はソファにもたれ掛かって、天井を見つめた。

「おれ、月影冬夜が自殺をしようとしているようには思えないんですよ」

「…へぇ?」
 漆が興味深げに黎を見た。

「月影冬夜に自殺をする理由が見当たらないんです」

 「うん」と漆が相槌を打つ。

「だのに、何で月影冬夜は自殺なんかを――」

 そのとき、部屋の扉が開き、上弓が入ってきた。

「黎、正解!」

 突然の言葉に、黎はぽかんと口を開けた。
「……………何を言ってるんですか?」

 上弓は意味ありげに笑い、黎の向かい側のソファに座った。

「月影冬夜が送ってきた、あのメール」
「…はい」
「あれ、気になったから調べたら、送り主は別の人物だった」

  黎と漆は目を見開いた。

「それ、どういうことですか?」
 黎が早口に訊く。

「つまり、成り済ましメールってやつ? メールを送ってきたのは月影冬夜ではなく、こいつ叢雲剣」
 そう言いながら、上弓は一枚の写真をピラリと見せた。
「月影冬夜は自殺なんてしようとしていないんだ」

「こいつが、むらくもつるぎ…」
 じっと写真を見て呟いた黎は、はっと目を見開いた。

「こいつ――」

 見たことがある。
 そう、月影冬夜が万引きしたコンビニで。
 そして、今日の屋上で。

 そこで、黎はふと思った。
 なら、月影冬夜に万引きをさせたのはこいつで、それに気付いた月影冬夜はキレて殴ったのだと。

「万引きを仕組んだ奴…」
 小さく呟いて、黎は必死に考えた。

 送ってこられたメールには『殺してください』。そのメールを送ったのは月影冬夜ではなく、彼に万引きをさせた叢雲剣。
 つまり、月影冬夜は自殺など考えていない。
 月影冬夜は死んでほしいと思われている――叢雲剣に。




No.16



「じゃ、この件どうするよ」
 上弓が溜め息をついた。

「月影冬夜を殺すわけにはいかないし、だからと言ってこのままにしとくのもいけないと思います」

 黎が言うと、漆は頷いた。

「上弓、その叢雲剣にメールを送ってくれ」

「何て書きますか?」
 上弓の問いに、漆は低い声で答えた。

「『ここは自殺サイトで、人を殺すことは出来ません』――って」

「解りましたー」
 そう言って、上弓は早速パソコンを起動させる。

「あ、あと黎はもう一つの依頼、欅潤について調べてくれ」
「了解っす」

 黎は少し考えたあと、出掛けていった。




No.17



「…ここが欅潤が通ってる高校――」
 目の前に建っている学校を見て、黎は呟いた。

 特におかしいところもない、どこにでもありそうな高校だ。

「…けど、どうすっかなぁ」

 勢いでここまで来てしまったが、欅潤がまだ学校にいるかどうかも解らない。
 もしや、ここに来たのは無駄足だったのではないか。

「いや! ここまで来たからには、絶対何かを掴んでやる!」

 そうでないと、ここまでやって来るのに使ったバス代が勿体無いではないか。

「…つってもなぁ――」

 学校の中に入ることは出来ないし、どうするべきか。

 黎はポケットからケータイを取り出し、電話をかけた。

 呼び出し音が何回か鳴った後、『もしもし?』と声が聞こえる。

「もしもし。上弓さん。調べてほしいことがあるんすけど…」
『急に何なんだよ…』

 上弓が電話の向こうでうざったそうな表情をしているのが容易に想像ができる。

「欅潤の家の住所、解ります?」
『解りません』

 即答で上弓が言ったのに対して、黎もすぐに言った。

「なら、調べてください。三分以内で」
『…三分? そんな短い間で調べられると思ってんのか!?』

 呆れたような、怒ったような声に、黎は笑いながら言う。

「大丈夫です。カップラーメン待ってるときの三分は長いですから」
『いや、意味解んねーな!』
「ま、頑張ってください」

 そう言うと、ぶつぶつ文句を言いながらも、パソコンをタイピングする音が聞こえてきたので、調べてくれているのだろう。

 調べ終わるまでの三分間、黎はぼんやりと考えていた。

 欅潤は、あの日コンビニに居て、月影冬夜に万引きをさせた。月影冬夜はそれを知って、キレて殴った。
 しかし、本当にそれだけだろうか?
 自分が「何で、キレたの?」と訊いたとき、彼は「ちょっと、色々あって――」と答えた。あれは万引きのことを隠して言ったのだと思ったが、どうもそれだけではない気がする。
 ――自分の思い過ごしだろうか?

『もしもし、もしもーし。黎?』
 ケータイから聞こえてくるその声で、黎は我に返った。

「…あ、はい。何ですか?」
『何ですか、じゃねーよ。欅潤の住所、解ったぞ』
「あ…、ありがとうございます」
『学校の近くの住宅街だ。メールで地図送っといたから、それ見て』

 黎は通話を終了すると、早速欅潤の家へと向かった。