自殺サイト『ゲートキーパー』
作者/羽月リリ ◆PaaSYgVvtw

No.26
月影冬夜は、自室で学校の宿題をしていたが、ケータイが鳴ったので手を止めて、ケータイを手に取った。
「メール、――潤…から?」
月影冬夜は、目を見張り、カーテンを見た。
このカーテンの向こうには、このメールを送ってきた欅潤がいるはずだ。
――もう、何年も話していないのに、何の用だろう?
静かな部屋に、自分の心臓の音が響く。
月影冬夜は緩慢な動作でメールの内容を確認した。
そして、そこに写し出されている文字を読んだ月影冬夜は先程よりも更に目を見開いた。
「自殺――?」
潤は何を言っているんだ。
月影冬夜は自分の部屋から飛び出し、メールに書かれていた場所へと向かった。
No.27
その様子を、近くに止めた車から見ていた黎はポカンと口を開けた。
運転席に座った漆は勝ち誇った表情で言った。
「ほら、見ろ。言った通りだろ?」
漆の作戦とは、自殺すると書いたメールを読んだ月影冬夜は慌てて、鍵も閉めずに家を出ていく。その隙に月影冬夜の家へ入り、月影冬夜の部屋の窓から欅潤の家のベランダへ行く――というものだ。
「――つーことで、まぁ、行ってこい」
助手席に座った黎の肩をポンと叩いた。
「………不法侵入、ですよね?」
「気にするな」
これ以上ないほどの笑顔で漆が言う。
「さ、行ってこい!」
ドンと押され、黎は車から降りた。
その黎は、暗めの茶色の髪をしていて、長い前髪が目を隠している。更に、季節外れの黒いコートを羽織っている。短いズボンを穿いていて、黒いブーツがよく見える。
振り返った黎は渋い表情をして呟いた。
「……………何でおれ、こんなカッコしてるんですか?」
「変装!」
「絶対それだけじゃないでしょ!」
「まぁな。そっちの方が萌える!」
ウハウハしている漆を置いて、黎は月影冬夜の家へ入っていった。
しんとしていて、家には誰もいない。確か、両親は共働きで、帰ってくるのは夜遅くだそうだ。
それにしても、十一時まであと五分程だと言うのに、まだ帰ってきていないとは、大変
黎は月影冬夜の部屋に入り、窓を開けた。
そして、欅潤の家のベランダへと飛び移る。と言っても、さほど離れていないので、あっさりと入ることができた。
時計を見ると、あと一分だった。
少しだけベランダのドアを開ける。
鍵は閉まっていない。
時計を見る。
あと、三十秒。
気持ちを落ち着かせるため、深呼吸をする。
あと、十秒。
心の中でカウントダウンをする。
五、四、三、二、一。
十一時だ。
黎はベランダのドアを勢いよく開けた。
No.28
欅潤は自室で時間を何度も確認していた。
あの手紙に書かれていた時間まで、あと五分。
時計の秒針はカチカチと規則正しく時を刻んでゆく。
あと、四分。
それにしても、と欅潤は思った。
自殺の手伝いをすると書いてあったが、一体何をしてくれるのだろうか。
どうやって、死ぬのだろうか。
あと、三分。
迎えにくる、と書いていたあの手紙。
迎えに来た後はどうするのだろうか。
殺してくれるのだろうか。
あと、二分。
何故か心臓が全力疾走した後のようにバクバク鳴っている。
先程からずっとここで時計を見つめておるだけなのに。
あと、一分。
あぁ、どうなるのだろう。
まぁ、もう死ぬんだから、どうでも良いか。
欅潤は深呼吸をした。
あと、三十秒。
あと、十秒。
あと、五、四、三、二、一。
カチッと音をたて、秒針は真上へ上がった。
それと同時に、部屋に強い風が吹いた。
「――な…?」
驚いて、風が吹いてくる方を見ると、ベランダのドアは開け放たれ、そこに一人の少年が立っていた。
「―――誰…?」
その少年は夏だというのに、黒いコートを羽織っている。短めのズボンを穿いていて、黒いブーツを履いているのが分かる。そして、肩につくかつかないかの暗めの茶色の髪は夜風に遊ばれている。
「自殺サイト『ゲートキーパー』だよ」
長めの前髪が目を隠して、どんな表情をしているかは分からないが、口元には笑みが浮かべられている。
「君――」
その少年は欅潤を指差した。
「欅潤の、自殺の手伝いをしに来たんだよ」
指を差された欅潤は、ただ目を見張った。
「じゃあ、行こうか」
そう言って、土足のまま部屋に入った少年は、欅潤の腕を掴んだ。
「…どこに……行くの?」
手を引っ張られながら、欅潤は口を開いた。
「自殺するのに、取って置きの場所に」
玄関まで連れてこられた欅潤は、少年の「靴を履いて」という言葉に従い、そのまま家を出た。
「これに乗って」
そう言われた目の前には、紺色の車。
「早く」
急かされて、欅潤は車の後部座席に乗り込んだ。
少年は欅潤が乗り込んだのを確認すると、助手席に座った。
長い艶やかな黒髪の女性は運転席に座っており、二人が座ったのを確認すると、早速車を走らせた。
――どこに行くのだろう?
欅潤の心には、不安な気持ちが渦巻いていた。
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