【三次元】運命の人が男と女とは限らない【ナマモノ注意!!】

作者/ 枝豆豆腐

〝君を好きな理由〟-2-    ※ドS×毒舌王


その後はもう、有吉は話しかけてくれなかった。
まぁ自業自得かぁ…………。
でも、有吉を抱きしめた時は暖かだった。
そしたらもっと惚れてしまう。有吉という人間に

収録が終わった後、有吉はすぐさまスタジオを出ていった。
まるで何かを隠すように、俺を避けるかのように

「あのさぁ………俺未だに把握してないんだけど、設楽どうしたの?」

三村さんに尋ねられ、ぎくっとする。
あぁそうか、あんなにメンバーが居る中で俺は自爆してしまったのか。
何でもないです、と三村さんに言い返す俺。ならいいけどさ、と
冷静に言う大竹さん。

日村さんはドンマイと俺の耳元で言いやがったし
ザキヤマには背中をばんっと叩かれる。
…………何故、俺は慰められてるんだ?

「設楽さん」

振り向くと、矢作の姿があった。

「あ、矢作」
「いや~~~~」

「なんだよ」
「見事なアッパー、くらいましたね」

笑いを堪えながら矢作が言う。

「うるせぇな、馬鹿にするなら帰れよ」
「違いますって、自動販売機で缶コーヒー飲みませんかっていう
僕なりのお誘いですよ、お誘い」

いつもの俺ならウザイと思ってしまうのだが
今日の俺は傷心になっているのもあり、ほんと涙が流れそうなくらい
めっちゃくちゃ嬉しいお誘いだった。

「………………矢作~~~~!!」
「……まぁ……色々と聞きたいこともありますし……」
「なんか言った?」
「……いいえ!!行きましょうか?」
「行こう!!!」

俺はすぐに衣装から私服に着替えて、待ち合わせしている
自動販売機のとこへ向かった。誰ともすれ違うこともなく。

着くと、そこにはもう矢作が椅子に座って待っていた。

「お待たせ、ごめん遅くなったな」
「大丈夫ですよ。はい、設楽さんの分」

矢作がポケットから缶コーヒーを取り出した。
えっ?と俺は少し驚く。

「ありがと………あ、お金返すよ」
「いいですって、今日は……」

今日は?
…………あぁ、俺の気持ちを考えてる訳ね

「それにしても……なんであんなことしたんですか?」
「……俺にもよく分かんねぇんだよ。なんか急にさぁ……
有吉に胸をどきゅーと撃たれちゃったんだよなぁ」

眠っている有吉を初めて見たからかは分からないけど
あの時の俺は確かに惚れていた。今だってそう
有吉のことを少し考えただけでも、動悸が止まらない。
こんなにも近くに居たのに

全く気付かなかったなぁなんて、後悔しちゃってるくらいです。

「日村さんから聞いたけど、今心から惚れた人を探してるらしいって
………それが有吉さんってことですか?」
「断言は出来ないけど、そうかも知れないって話」

矢作は、はぁとため息を吐いた。

「それはね設楽さん、勘違いですって。
ただ結婚して長くなるから、マンネリみたいになってるだけ」
「それとこれとは話が違う」
「何が違うんですか?あなたはただ、奥さんが飽きたから
有吉に乗り移ろうとしてるだけでしょ?」

怒るように矢作は言い放った。有吉の味方の様に
まるで俺がやってはいけないことをしてしまったように

「矢作、俺はな別に嫁に飽きた訳じゅない
俺にとって嫁は酸素みたいなものなんだ。つまり…………」

無くなったら 生きていけないもの

ここまで自分の嫁のことを話したことはない。
子供だってそうだ、酸素だ。
もう好きとか嫌いとか、そういう話じゃない
必要なんだ。日常的に

「だから、最後に一回ぐらい
心から惚れた人と一緒に……恋人みたいなことをしたいなぁって」

沈黙が続く。
矢作は何か物事を考えているような顔になっていた。

「………本当ですか?」
「うん。本気と書いてマジだよ」
「女だと浮気ってバレるから、男にしとこうとかじゃなく」
「お前ほんと失礼な。ちげぇーよ」

すると、矢作の顔がほっとした顔になる。
なに?俺はなにを疑われてたわけ?

「……よかったぁ~~~~」
「あのさぁ、さっきから何をチェックしてたの?」

あぁ、そのことね。と矢作が言うと
すぐさま本題に入った。

「僕ね、実は違う人からお悩みを聞いてた訳です」
「誰?」
「かの有名な毒舌王からです」

矢作の話からすると
有吉は矢作にある相談をしていたらしい。その内容は
『設楽さんのこと好きなんすけど、どうしたらいいっすか?』と
顔を真っ赤にして、タジタジと話したそうだ。
結婚してない人ならまだしも、既婚者を好きになってしまうなんて……

「人生の汚点だっ!!!!って叫んでました」
「………ひでぇ」
「だから僕は、諦めればってアドバイスしてあげたんです。」

そしたら、それが出来ないから人生の汚点なんだよってよ。
矢作はそれで有吉に言ったらしい
「僕みたいな人に相談せず、有吉自身で決めて下さい」……と。

「………それが出来たら、矢作に相談しないよね?」
「あの人が恋で弱くなっているのを見たくなったんですよ。
そうしたら、毒も吐かなくなるだろぉみたいなね」

何気に性格悪いなぁ…………。

「でも、今日の設楽さんの行動を見たら
物凄く有吉が可哀相に見えてしまったし、設楽さんには
物凄い憤りを感じてしまって、こうやって話してるんですけど」
「どういう意味?」

抱きしめられた後の有吉は、顔を真っ赤にしていた。
矢作には見えていたらしい。
どーせ叶わない恋なのに、俺に抱きしめられた有吉は
感情を内に秘めることが出来なくなっていたと矢作は言う。

「じゃあ、収録中は………?」
「全部演技ですよ。多分心の中は涙でずぶ濡れですって」

俺はとんでもないことを、アイツにしてしまっていたのか。
分かるわけないじゃん、だっていつもと同じ毒舌で
機嫌の悪い顔だったんだからさぁ。
そして、矢作は俺の行動を見て、有吉をからかっていると
勘違いしていたらしい。

「そういうことか」
「………どうするんですか?」
「何を?」
「有吉、多分まだ楽屋に居ますよ」
「えっ?帰ってないの!?」
「…………あの人は、設楽さんが思っているよりも弱いですよ」

地獄を見て這い上がった男ってよく聞く。
その間有吉は裏切りを経験してきたのかもしれない、多分。
今でもその傷は癒えてないんだろうな
毒を吐いたり、悪口言ったり、性格悪いと言われたり
俺はまだちゃんと地獄を見たことはない。

でも、有吉は目の前で見ていたのだろう
いろんな恐ろしさを知ったから
ああやって、吐き捨てて
何もなかったようにしたかったのかなぁ。



見てみたいものだ 地獄というものを



「………有吉のとこ行ってくる」

俺は缶コーヒーをポケットに入れて、走った。

「いってらっしゃーい」

矢作の、のんびりとした声を後にして。