コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
- 日時: 2012/07/10 23:37
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
ついについについに来ました!
どるさんとの合作!
このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!
今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。
それではどるさんと読者さんに感謝しながら、
このお話を書き進めていきたいと思います!
そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!
ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
↓レッツゴー!!!(^O^)/
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- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.108 )
- 日時: 2012/12/31 21:54
- 名前: 緑野 柊 (ID: Me0ud1Kf)
*
粉々になってしまった人形をマジョラムは呆然として見つめた。
もはや操れることが出来なくなったのは一目瞭然。
……勝った。
私は勝利を確信して、ひそかに心中でガッツポーズをした。
力なく両膝をつき、唇を震わすマジョラムにクレソンさんは近づく。
「これで勝敗は決まった。大人しく眠っていてもらおうか」
耳元で囁くと、静かにマジョラムの首元に手刀を振り下ろした。
トッ
マジョラムは抵抗する気配すら見せずに、地面に倒れこむ。
クレソンさんは地面にあたるかあたらないかギリギリなところでマジョラムの体を支えた。
「あ……そう言えばバニラちゃん。バニラちゃんは無事っ!?」
きょろきょろと辺りを見回し、私はマジョラムの近くで倒れているバニラちゃんに駆け寄る。
慌ててその細い体を抱き起して肩を揺する。
「バニラちゃん!バニラちゃん!」
強く何度も肩を揺さぶると、バニラちゃんはうっすらとその瞳を開けた。
その瞳は虚ろ気に宙を彷徨うと、しっかりと私をとらえる。
バニラちゃんは弱弱しい笑みを浮かべた。
「ミルちゃん……」
私の名前を呼んだその声は、まだしっかりとしていた。
バニラちゃんが無事だと分かると、どっと疲労が襲い掛かってきて、私は大きなため息を吐いた。
良く考えてみれば今日一日中、町中を歩き回ったのにその疲れを癒すことくここまで走ってきたんだから。無理もないか……。
プレッツェル君もクレソンさんも私のすぐ近くまで寄ってきて、私の肩越しにバニラちゃんの顔色を窺った。
「無事みたいだな……」
プレッツェル君もほっと胸をなでおろす。
「しかし油断は禁物だ。早くこの場から離れるぞ。この場は俺達にとって不利だ」
確かにクレソンさんの言うとおり、マジョラムは気絶させたとしても、気を許してはいけない。
なんせ奴は私達を殺そうと襲い掛かってきた奴だ。またいつ襲い掛かられるかもしれない。
でもその前に、私にはどうしてもバニラちゃんに尋ねたいことがあった。
聞きたくない……。
本当はそう思っているけど、でも今絶対に聞かなくちゃ。あとで絶対に後悔するし、取り返しがつかないことになるかもしれない。
……覚悟を決めなくちゃな……。
私は体を起こしてじっとこちらを見るバニラちゃんの肩に手を置いた。
「……どうしたんですか?」
顔色が悪い、バニラちゃんが困ったように微笑んだ。
ずきり
その笑顔を見た瞬間、胸が痛んだ。
本当は否定してほしい。
そう思いながら、私はゆっくりとバニラちゃんにこう尋ねた。
「ねぇ……バニラちゃんは人形なの?」
掴んでいたバニラちゃんの肩が微かに震えた。
私はバニラちゃんの顔を見るのがなんだか怖くて、ずっと俯いていていた。
「……どうして……」
掠れた声でバニラちゃんは呟いた。
その声に反応してバッと勢いよく顔を上げたその先には、バニラちゃんがとても辛そうに顔を歪めていた。
「どうしてそのことを……」
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.109 )
- 日時: 2012/12/31 22:23
- 名前: 緑野 柊 (ID: Me0ud1Kf)
第十二魔法 〜悲しい決断〜
*
私はマスターによって、今から四年ほど前に作られた。
ほかの人たちとは違い何の魔法も使えないマスターにとっては、自分の意志で動ける私は、今までで一番の最強の武器らしかった。
マスターは確かに優しいし、私に良くしてくれた。
でも、私はマスターのしていることが正しいのかは分からなかった。
ある日の夜。
「町を一つ消しますよ。バニラ」
マスターが微かに笑いながら、そう言った。
「町を……消す?」
その日はとても月が綺麗だったから、ちょうど逆光で顔は見えなかったけど、マスターはとても楽しそうにこう言った。
「えぇ、そうです。ついにボク達の野望が達成される日が近づいてきたんですよ!」
興奮気味にマスターはそう言ったけど、私には何がなんだかさっぱり分からなかった。
なにしろ姿は十代でも私はまだ四年間しか生きていないのだ。
そんなに知識も豊富ではない。
マスターは苦笑を浮かべて。
「すみません。そうでしたね、貴女は知りませんでしたよね。我々人形遣いと、あの方には四〇〇年前からの大きな野望があるんです」
「……野望?」
マスターは小さく頷くと、また窓辺の方に向いた。
マスターはクールを装って、しかし内心わくわくとしたように。椅子に手をかける。
「そうです。……それは」
そして今、私の肩に手をかけて悲しそうな顔でじっと見つめてくるミルちゃん。
あぁ……どうやら、私はマスターを裏切る覚悟を決めなくてはいけないようです。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.110 )
- 日時: 2013/01/12 23:59
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
私達がここに来るまでの間、クレソンさんが真剣な表情で話してくれたのは、兵士の中でもクレソンさんや、ティラミスさん。そしてシャルロットぐらいの上の位の人たちしか知らないような、超重要事項。
そして何故そんなに大切なことを私達に教えてくれたのかというと、私たちがその事件の鍵を握る重要な人物になるかもしれない。という意見がなんとティラミスさんからあがったからということ。
私にはまだそんなに大事なことを握っている自覚はないのだけど。
まぁ、私は楽観的にこの事件を見てたのだけど、事態は意外と深刻なようで。クレソンさんが言うにはここのところ、つい二か月ほど前から町が消えているという事件がてんてんと起こっているということだった。
二カ月ほど前というのが、私が丁度上京してきた時期と重なることにも驚いたけど、ましてや町が消えているなんて、非現実じみたこと私にはとうてい考えられなかった。
しかし地図でも目立たないような、本当に小さな町が消えている。というかその町からは人がいなくなり。建物はすべて燃え。戦争でも起こったのかという荒れようだったというのは、クレソンさんが確かにその眼で見たらしい。
だとしても、この町の人間は生きている。普通に日常を生きているんだ。
この町だけじゃない、私が通ってきた村や町の人々たちは皆穏やかな日常を生きている。
やっぱり私には、村が消え、人が消えているなんてことは簡単に信じられるものじゃなかった。
プレッツェル君もやはり私と同じようにそのことを信じられなかったようで。
苦笑して「そんなことあるわけないじゃん」なんて言っていたけど。
クレソンさんが「じゃあその事件を起こしているのが、あのおとぎ話に出てくる七人の人形遣いと、最強の魔法使いと言ったら?」なんて意味深な表情をして言うものだから、私達は黙り込んでしまった。
おとぎ話に出てくるような、それこそ夢のような出来事が、今この世界で起ころうとしているなんて到底考えられない。
でも、私は確かに人形遣いに出会っているのだ。
あの気味の悪い笑みを思い出して、ぶるりと身震いをする。
おとぎ話の登場人物が。この世界に確かに存在している時点で、それは本当におとぎ話と言えるのか。
だんだんと不安の念が、胸に膨れ上がっていく。
クレソンさんはそんな私の不安を感じ取ったのか、少し言いにくそうに顔をしかめた。
しかしやがて、言わなくてはいけないなと心を決めたのか、真剣な眼差しを私に向けて。
「そして恐らく彼女は……あの人形遣いが操っていた人形だ」
そう静かに言い放った。
ショックだった……。
あのバニラちゃんが、私達を操られた心無い人形だなんて、信じたくなかった。
もしかしたら初めて会った時から私はバニラちゃんに騙されていたんだろうか。
あの時の、声はやっぱりバニラちゃんだったんだ。
あの優しい笑顔も、「ミルちゃん」そう呼んでくれたバニラちゃんも、全部全部作られたニセモノ。
そう思うと悲しくて涙が出そうだった。
でも私は、確かにバニラちゃんの心を感じた。
「ミルちゃん」
そう呼んでくれたり、一緒に笑ったりしたときの彼女は、本物だった。そう思えるから。
心なんてものはないんだろうけど、私はバニラちゃんの感情が伝わった。だから、ほんの少しだけ希望を抱いて、ここまで来た。
だけどいざ目の前にして、そう尋ねるとバニラちゃんはとても辛そうな顔をして、「どうしてそのことを……」そう呟いた。
きっとその後に続く言葉は、「どうしてそのことを知っているのですか?」
希望は完全に打ち砕かれた。
バニラちゃんは本当に人形だったんだ……。
下唇を強く噛んで俯くと、バニラちゃんはハッとしたように口元を抑えた。
「あっあの……っ」
「……やはり、そうか」
クレソンさんは大きなため息を吐いて、腰を下ろす。
バニラちゃんは驚いたように、目を丸くしてクレソンさんはまじまじと見つめた。
まるで信じられないというように。
「……どうして。まさか知って……」
そう言いかけたバニラちゃんに、クレソンさんは首を振る。
「いいや、知っていたわけじゃなかった。でもそうじゃないかとは、薄々感じていた」
クレソンさん、なんとなく気づいてたんだ。すごいな……私なんか全然。
いや、おかしいと思えることはたくさんあった。特にバニラちゃんの家。
あの家は、バニラちゃん以外の人間が住んでいる気配はないのに、彼女一人住むにしては大きすぎる。
家具はどれも新品で、いかにも随分前からここに住んでいたというようには思えなかった。
そして、あの湯上りに出された紅茶。あの人工的な味は、おそらく睡眠薬やなんかの薬だろう。
だから私も眠気に耐え切れずに、眠ってしまった。そしてその間にバニラちゃんを……。
「そうですか……」
バニラちゃんはふっと悲しみの滲んだ笑みを浮かべて、暗い表情の私に困ったように笑った。
「……ばれちゃった」
なんて、冗談めかして言うけど。私は胸が痛くてたまらなくて、その笑みを返そうという気にもならない。
「バニラ……お前」
プレッツェル君は呆然と呟く。
彼も私と同じようで、まだこの事実を信じられないようだ。
「これで……決定してしまったな。本当に人形遣いは実在する」
クレソンさんは誰にともなく、自分に語るようにそう言った。
だけどクレソンさんの言うとおりだ。
これで確かに人形遣いがいることが分かってしまった。
そしてその事実は、あのおとぎ話が、この世界で実現されようとしているということもさしている。
「教えてくれ。今この世界では何が起きようとしているんだ?」
クレソンさんがバニラちゃんの瞳をまっすぐに見つめた。
バニラちゃんもその瞳をまっすぐに見つめ返し、しょうがないと小さくため息を吐く。
「そうですね、是非お話ししたいところですが。私はマスターの命には逆らえません」
マスターの命……?
それを聞いて、私の中の悲しみの感情が爆発した。
私は涙目でバニラちゃんを睨みながら、唇を震わせる。
「じゃあ私と友達になったのも……マスターの命なの?」
「違いますっ!それは断じて違います!……本当です信じてください」
バニラちゃんはどうしてもそれだけは否定したいようだった。
バニラちゃんは、じっと私の瞳を見つめ。何か言いたげに口を開いたが。すぐにその口を閉じて、力なく項垂れた。
「……私は本当にミルちゃんとお友達になりたい。そう思ったんです。だから……私は」
ポツリポツリと悲しげに言葉を漏らす。
私はそんなバニラちゃんの頭を優しく撫でる。
バニラちゃんは驚いた瞳で私を見上げた。
人形は悲しくても涙を流せないから、その顔は悲しみで溢れてぐちゃぐちゃで、見ているこっちが辛くなる。
「そう思ってくれているなら、せめて私と、私達といる時だけは、マジョラムの人形としてじゃなく。バニラちゃんっていう人間として接してくれないかな?」
私がこうやって、楽しくお喋りしたいのは。マジョラムの人形じゃない。
バニラという名前の女の子とお話がしたい。
そう思ったから、私はバニラちゃんにそうお願いをしてみた。
「ミルちゃん……でも私は人形ですっ!その事実は変わりませんっ!」
確かにその通りだ。バニラちゃんの体はしょせん何の温かさもない。ただの蝋で出来ているのには変わりない。
「それでも。私はバニラちゃんには心があるって、そう思ったから。ただ操られて感情のない人形とは違うよ」
ニッと私はバニラちゃんに笑いかけた。
私はバニラちゃんが人形と知っても、絶対に嫌いにならないよ。そう思いを込めて。
「ミルちゃん……」
その時、人形からは出ない筈の涙が、大きな二つの瞳からぽろりと零れ落ちた。
塩分の含まない人形の涙は、とても透きとおっていて綺麗だった。
バニラちゃんは慌てて両目を抑えると。
「嘘……」
涙を流せることが、信じられないと瞬きを繰り返した。
「ほら、やっぱりバニラちゃんは人間だよっ!」
「あぁ、オレらが友達になったのは。バニラっていう普通の女の子だ!」
「ミルちゃん……プレッツェルさん」
その後ろでクレソンさんも、優しい微笑みを浮かべて、私達のことを温かい目で見つめていた。
バニラちゃんは涙で頬を濡らしたまま、こぼれんばかりの笑顔を浮かべた。
「ありがとう……」
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.111 )
- 日時: 2013/01/13 00:00
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
「じゃあ、すべて。話してくれますね?」
クレソンさんは、膝を折ってバニラちゃんと目線を同じにするとそう問いかけた。
バニラちゃんも、静かに頷き返す。
「はい。私はミルちゃんといるときだけは。バニラという名の人ですから」
言いながら私とプレッツェル君に視線を向ける。
私達は顔を見合わせてから、微笑み合ってバニラちゃんを見つめた。
「……そうですか」
クレソンさんも優しい笑みをバニラちゃんに向けた。
あぁ、そんな顔もするんだな……。
そう素直に驚いていると、クレソンさんはキッと表情を引き締めた。
「何か知っている情報は?」
「……私が知っていることは、本当にごく一部だと思うのですが。マスターが言っていたことはあの方と我々人形遣いとの四〇〇年前の野望を、ついに叶える時が来たと」
「四〇〇年前!?」
驚いて声を上げると、耳元でプレッツェル君がこそっと耳打ちをしてきた。
「きっとあのおとぎ話のこの世を滅ぼし新たな世界を作るっていうやつだろうな」
「えぇ〜!?」
それだったら、超大問題じゃんっ!?
しかし焦っているのは私だけなようで、クレソンさんもプレッツェル君もそこは予想していたというように、真面目な顔をしてバニラちゃんの話に耳を傾けていた。
「なるほどな……、それで今俺達が倒したのが、その七人の人形遣いの中の一人だと」
そしてニヤリと口角を持ち上げる。
なんだか、その様子がよくやったな自分って言ってるみたいで。私にはそんなクレソンさんの姿がやけにウザく見えた。
イラッとして、顔をしかめていると、バニラちゃんが「えっ?」と不思議そうに首を傾げた。
そして、衝撃的なことを口走ったのだ。
「人形遣いは、マスターを含めて六人しかいませんよ?」
空気が、一瞬固まった。
「六人……だと?」
クレソンさんはぽつりとそう呟き、焦ったようにバニラちゃんの肩を勢いよく掴んで揺さぶった。
「それはどういうことだっ!?」
「きゃっ!?」
バニラちゃんは急に肩を掴まれたことに驚き、小さく悲鳴をあげた。
掴まれた肩が痛いようで、くっと顔を歪ませる。
「しっ。知りませんよっ!ただ私はそうマスターから聞いただけで……」
バニラちゃんがちょっと怯えたように、クレソンさんを見上げた。
しかし今のクレソンさんにはそんなことに配慮する余裕がないらしく、さらに肩を掴む手に力を込めていく。
「何を聞いたんだっ!?」
「クレソンさんっ!!」
私はついに見てられなくなって、クレソンさんをバニラちゃんから引きはがそうとすると、クレソンさんはハッと目を見開き。
ゆっくりとその手をバニラちゃんの肩から離した。
「……すまない」
まだ頭が混乱しているクレソンさんは、小さな声で謝ると頭を抱えてくるりと向こうを向いてしまった。
「……でもオレだって聞いたことないぞ。人形遣いが六人だなんて、残りの一人はどうしたんだよ?」
プレッツェル君が眉間に深い皺を寄せて、疑問を口にした。
バニラちゃんはこればっかりはと、肩を竦める。
自然と私たちの口からは大きなため息が零れた。
その時、バニラちゃんがバッと勢いよく顔をあげて、瞬く間に顔色を青くさせた。
「バニラちゃん……?」
「そんな……どうして……だって、マスターは……」
バニラちゃんは私の問いかけに答えずに、呆然と向こうを見つめていた。
ぞくり
なんだか嫌な予感がして恐る恐る振り向くと、マジョラムが薄く目を開いてこちらを鬼の形相で睨みつけていた。
「マジョラム……!」
驚いて立ち上がると、「ミルちゃん!」と声をかけられて腕を引っ張られた。
「どうして?マスターは死んだんじゃ?」
「いや、気絶していた。俺には人を殺す趣味はない……」
クレソンさんも立ち上がり、腰を低く落し戦闘態勢をとる。
「くっそぉ……起きるのが早いだろっ!」
プレッツェル君も腰の剣に手を添えて、ゆっくりと立ち上がるマジョラムを睨んだ。
バニラちゃんは更に顔を青くさせて唇を震わせた。
「ミっ……ミルちゃん……」
「バニラちゃんどうしたの?」
いつもより力のないバニラちゃんの声に、心配した私は視線だけバニラちゃんの方に向けるが。
え……?
バニラちゃんは何かを決意したような瞳で、私を見つめていた。
しかしその強い瞳とは裏腹に、顔は青く、膝もわなわなと震えていた。
そしてバニラちゃんはその唇を微かに動かしてこう言った。
「見る限り……マスターが使える人形は私しかいません。かといってこのままだとミルちゃんたちが死んでしまうかもしれない」
どくんどくん
私の心臓はそう強く脈を打つ。
戦いの恐怖じゃない。なんだろう、この昔味わったことのあるような、この恐怖心。
「だから……」
嫌だ、その言葉の先を聞きたくない。
「私を……」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!
「……殺してください」
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.112 )
- 日時: 2013/01/13 00:01
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
あぁ。思い出した。この感情は、昔プレッツェル君を亡くしたと思った時に味わった、恐怖感だ。
もう二度と味わいたくないと思っていた感情なのに、今度はそれよりもさらに辛いお願いをされている。
殺す……亡くすどころか、私がこの手でバニラちゃんを亡くせっていうの?
そんなことが、私に……。
「そんなことできるわけないじゃんっ!!」
出来る筈がなかった。
「お願いしますっ!私はミルちゃんを死なせてくありませんっ!」
バニラちゃんは、「死」に恐怖心を抱いていた。
だけど、バニラちゃんはその恐怖心まで抑え込んで、私達を守るために、自ら「死」を望んだ。
こんなに震えて、本当は怖くてしょうがないくせに……。
「時間がありませんっ!早くっ!」
言われてマジョラムに目を移すと、マジョラムは半分起き上がって、荒く息を吐いていた。
口の端からツーと涎が垂れた。
「バニラは僕の作ってきた人形の中でも最高傑作なんですよ?壊させるわけないでしょう?」
ニタァッと笑った顔を見た瞬間、こいつが正気じゃないのはすぐに分かった。
狂っている。
ゾッと鳥肌が立つのと、バニラちゃんが焦って私の腕を強く引っ張ってきたのはほぼ同時だった。
「お願いしますミルちゃん!私を……どうかっ殺してくださいっ!」
どくんどくんと心臓は、嫌な音を立て始め、私は悪寒と焦りで気が狂いそうだった。
「……そんなこと。出来るわけないじゃん」
そして、これが私の導き出した答え。
これは私の自己満足だけど。私は人を殺めることをしたくなかった。
それがたとえ世間では人形と呼ばれる存在であっても、彼女はまぎれもなく私の友達だから。
「そうだっ!馬鹿なこと言うんじゃねぇぞバニラっ!ここはオレ達がなんとかしてみせるっ!」
「この俺がいるんだ。君たちには指一本触れさせないよ……」
二人ともそう言って笑いかけてくれたけど、気の狂ったマジョラムは、さっきとは違うただならぬ殺気を放っているし、こんなボロボロの二人が応戦したって勝てるかどうか……。
そして二人ともそれは分かっていたようだ。額に玉のような冷や汗をいくつも浮かべて、苦笑をした。
「おい、少年。両足の調子はどうだ」
「はっきり言って全快じゃないな……。今でも走っただけで倒れそうだ」
そして先ほどの戦闘で人形のすさまじい勢いの攻撃に耐えていた、プレッツェル君の両足は限界を迎えていた。
このままではこちらのほうが完全に不利なのは、この場にいる全員が感じていた。
確かに見栄を張って、私達はまだいける的なオーラを醸し出してはいるが、その内側はボロボロ。
それでもバニラちゃんが自分の命を捨てないような行為を起こさなければ、私の中では結果オーライと言えた。
その願いが通じたのか、バニラちゃんは諦めたようにフッと頬を緩めると。
「そうですね……皆さんを信じます」
……そう言ってくれた。
その言葉が嬉しくて。本当に嬉しくて「バニラちゃん……」私も思わず頬を緩ませた。その時だった。
ぱぁんっ!
突然右頬に衝撃を覚えて、私はその場に尻餅をついた。
「ミルッ!」
「ミル殿っ!」
二人が驚いてそう声をあげたけど、私自身も何が起きたのか理解できずに、バニラちゃんを見上げた。
「……どうして」
右頬がじんと熱い。
「……あはははっ」
バニラちゃんはしばらく俯いて、その表情も前髪で見えなかったが。急に笑い出したものだから、私はとうとうバニラちゃんまで気が狂ったのだと思い。
「バニラちゃん!?」
そう焦った。だが違ったのだ。
顔をあげたバニラちゃんは、酷く辛そうな顔をして無理やりに笑っていた。
「だましてやったわよ!」
そして口調も変わってしまったバニラちゃんは、私を見下ろしてこう続ける。
「私はずっとアンタたちを騙してきたの!だからこんな裏切り者なんかさっさと殺しちゃいなさいよっ!」
……その瞬間。どうしていきなり殴られたのかも、こんなにもバニラちゃんの雰囲気が急にがらりと変わってしまったのかも。そのすべての理由が分かってしまった。
バニラちゃん、私が殺すことに負い目を感じさせないために業と……。
それは、誰がみてもバレバレな嘘で。
とても悲しい。嘘で。
バニラちゃんは両目に薄ら涙を浮かべて、それでも口元には冷たい笑みを浮かべた。
「さぁ!早くっ!」
これは、バニラちゃんなりの気遣いなんだ……。
私は……、それに答えてあげるべきなんだろうか?
「さあ!」
困惑する私の耳に、バニラちゃんの声が雑音のように響いた。
私はどうすればいいんだろうか。
「早くっ!」
バニラちゃんは金切声をあげる。
その顔は、とてもとても辛そうで、私の胸の奥底をぎゅっと痛ませた。
「うわああああああああああああああああああああああああっ!」
訳の分からない雑音が脳にこだまして、頭が痛くてたまらなくて、もう何をすればいいのかすら分からなくて、獣のごとく叫び声をあげると。
突然目の前で大きな火柱がごうっと勢いよくあがった。
「きゃあああああああああああああああああああああっ!」
そして火柱の中にいる一つの小さな影。
訳が分からなくて、口をあんぐりと開いてそれを見ていたけど、我に返った時、私は何をしてしまったんだろうと、大きな後悔の波が襲いかかってきた。
「バニラちゃん!」
起き上がって慌ててその火の中に手を伸ばすと、バニラちゃんもその手を伸ばしてくれた。
しっかりと掴んだその手は、熱くて。力なくて。
「バニラちゃんっ!!」
今まさに彼女のという存在が消えようとしていることを痛感させられた。
「ミルちゃん……」
風になびいて、炎の間からちらりと見えた煤だらけの彼女は悲しげに微笑んで。
「さよなら……」
そう告げると、さらに火柱は勢いを増し。どれだけ嫌でも私はとうとう彼女の傍には居られなくなってしまった。
「ミルッ!」
私は嫌だ嫌だともがいたが、プレッツェル君に無理やり引っ張られて、火柱から強制的に遠ざけられた。
瞬き一つ出来ない私を、プレッツェル君は見るなと言うように目元を腕で隠すように後ろから強く抱きしめる。
でもそんなプレッツェル君でさへ気にならないほど、私はショックで何も考えられなかった。
バニラちゃん……。バニラちゃん……。バニラちゃん……。バニラちゃん……。
いつの間にか目元から涙が溢れて。視界がぼやけた。
どうか、生きていて。
しかし、無念にも淡い祈りは天には届かず。
風が強く靡き、火柱が突然勢いを失くす。完全に火が消えてしまうと。そこにあったのは、目にも映したくない悲惨なモノだった。
「バニラちゃん……」
私は手の中にある、確かに彼女との友情の証を強く握りしめると悲痛な叫び声をあげたのだった。
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