コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
- 日時: 2012/07/10 23:37
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
ついについについに来ました!
どるさんとの合作!
このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!
今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。
それではどるさんと読者さんに感謝しながら、
このお話を書き進めていきたいと思います!
そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!
ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
↓レッツゴー!!!(^O^)/
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.88 )
- 日時: 2012/12/10 14:38
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
その瞬間、ぞおっと背中には鳥肌が立ち、私の中では危険信号が発令されていた。
何か……背後にいる。
迷う暇なんてなかった。私は勢いよく後ろを振り向き、そして……呆然とした。
「キャッ!」
そう可愛らしく悲鳴をあげて、怯えた瞳でこちらを見ていたのは、まるでお人形のように可愛らしい少女だったのだ。
まるであの耳元で聞こえた、男か女かも捉えられない不気味な笑い声とは正反対の可愛らしく、いかにもか弱い女の子な、その少女は恐怖を滲ませた声色で。
「あの……」
私は改めてその声を聞いて、さらに訳が分からなくなってしまった。
その少女の声はどこか凛としていて、声も高くて少女らしくって、あの耳元で聞こえたあの声とはまるで違った。
それじゃあ、あの声は一体何?幻聴?ううん。そんな訳ない。だって確かに聞いたんだもん。あの腹の底に響くような、どこか陰湿でねっとりとした笑い声を。
今にも「将来の夢は小鳥さんと空中散歩をすることなの❤」なんてことを言い出しそうなファンシーさが漂う少女にシフォンさんは驚いた様子もなく声をかけた。
「あ。今日も来たんだ」
少女はびくりと肩を揺らして「はっはいぃ!」と答えた。
「おはようございます。バニラさん」
「あっ。おはようございます……」
マフィンちゃんも気軽にバニラという少女に声をかける。
なに?この子はそんなにこの店に馴染んでいるの?
「よっ」
「あっどうも……」
あのプレッツェル君でさえ、挨拶をしてる!?
何?なんなんだ?全然状況がつかめないんだけど!?
私が一人、この突然の状況を飲み込めていないとシフォンさんは気が付いてくれて。
「あぁ。バニラちゃんは、ミルが寝込んでいる間、ずっと一日も欠かさず店に来てくれているんだ」
「え!?」
驚いて思わずバニラちゃんの顔をまじまじと見つめる。
バニラちゃん少し泣き出しそうな顔をしていたが「おはようございます……」と挨拶をしてくれた。
「……おはよう」
なんとなく直観的に判断した。この子はいい子だ!可愛いし!
私は身長が小さいので撫でやすい高さにあるバニラちゃんの頭を、優しく撫でた。
バニラちゃんはまだ怯えているようで、恐怖を滲ませた瞳で私を見つめていたけど。
……うっ。ちょっと傷つくなぁ。
「私はミルクレープよろしくねっ!」
そう傷ついた心を隠すようにニコリと笑いかけると、バニラちゃんもにっこりと笑いかけてくれた。
これは……マフィンちゃんに劣らないほど可愛い!
「バニラちゃん可愛いー!」
「ちょっと。なに興奮してんの。バニラちゃんが怖がるでしょ?」
確かにバニラちゃんはびっくりしたように、大きな瞳をさらに大きく見開いていた。
私は頬を膨らませて。
「だからってそんな言い方ないじゃないですかぁ〜」
「……まったく」
シフォンさんは呆れたように小さくため息を吐いた。
私はもうそんなことは気にせずに、バニラちゃんに向き直る。
「それにしても毎日って大変だねぇ。そんなにここの料理好きなの?」
そう尋ねると、バニラちゃんは小さく首を振った。
「……違うの?」
「はい」
「えー?じゃあ何??」
私は本当にそれ以外は何も思い浮かばなかった。それ以外だったら、このカフェに好きな人が通ってるとかそんなこと?
と私が頭を悩ませていると、「馬鹿」とシフォンさんの冷たい一言が飛んできた。
「ギルドよ。バニラちゃんはギルドに頼みごとがあって毎日来てくれていたのよ」
「……あぁー!」
やっと理解のいった私をみて、シフォンさんがほとほと呆れたように頭を抱える。
「そもそもお前らが勝手に始めたたくせに……」
「いやぁ……。でもギルドなら内容を話してくれれば別に毎日通わなくても……」
まぁそう思うのも当然だと思うのだが、バニラちゃんは困ったように笑った。
「……ん?どうしたの?」
「ミルッ」
プレッツェル君に呼ばれて私は「何?」と振り向くと、プレッツェル君はシフォンさんの後ろの壁を指さしていた。
「ん」
……それは見ろってことかねぇ?
プレッツェル君に指さす方向に、視線をたどっていくと。
「あっ」
そこには「ギルド 本日お休み」と書かれた看板がぶら下がっていた。
「そっか……休みだったんだぁ」
「まぁ、仲間が足りないんだったら開くわけにはいかないだろ?」
「……シフォンさん」
シフォンさんが私のことを仲間だと意識してくれていることが嬉しくて、私が顔色を輝かせていると、シフォンさんは少し照れくさそうに頬をぽりぽりと掻いて。
「だから、今日からギルド開始だ。待たせたね、バニラちゃん」
バニラちゃんにそう話しかけた。
バニラちゃんは嬉しそうに、にっこりと笑った。
それほどまでにギルド再開を待ち望んでいたんだろうか?
「ここがお休みだったら他のギルドに頼みに行けばよかったのに」
なんて……思わず思ったこと口にしちゃったけど、そのギルドに所属してる人が言うセリフじゃないか。
それを言うなと言いたげなシフォンさんの視線が痛かった。
バニラちゃんは、一瞬きょとんとした顔を見せたが、ゆるく首を振って。
「ここじゃなきゃ……嫌だったから」
「バニラちゃん……」
ここじゃなきゃ嫌か……それは一番待ち望んでいた言葉ですよ!
私はにっと笑って、なるべく頼もしく見えるように親指を突き出した。
「じゃあ随分と待たせちゃったね!でも、もう大丈夫!さっそくバニラちゃんの悩みを言ってよ!私たちがさっとすばやく解決しちゃうよっ!」
「誰のせいで待たせたと……」
そう小さく嫌味が聞こえて、私はその声の主であろうプレッツェル君をきっと睨んでから、またバニラちゃんに笑いかける。
「ねっ?」
「……ミルクレープさん……」
バニラちゃんは私を大きな瞳で見つめると、本当に嬉しそうに目を細めて。
「ありがとうざいます……」
小さく頭を下げてきた。
そんな、そんなことされたら照れちゃうよぉ……。
「いいよ、そんなことしなくても」と言いかけた瞬間にバニラちゃんは頭をあげて、私をじっと見つめた。
なんか……切ない気もするけど、その表情はどこか硬く、なんとなく私にまで緊張感を伝染させた。
生唾をごくりと飲み込む。
「……実は、私の住む町に住む、悪しき人形使いを懲らしめてもらいたいのです」
「……悪しき人形使い?」
私は上手く状況が飲み込めず、バニラちゃんの言葉をそのまま言い返した。
「はい」
バニラちゃんは力強い瞳で私を見ながら小さく頷いた。
悪しき……魔法使い。
私達はこの時はまだ何も分かっていなかったのだ。
このバニラちゃんとの出会いで私たちの運命ががらりと変わってしまうことも。
この出会いから私たちがアイツらと対峙することになることも。
この世界が終るかもしれないほどの、大きな戦いが待っていることも。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.89 )
- 日時: 2012/12/12 12:16
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
第十魔法 外道の道に落ちた魔法使い
どうもミルクレープです。そうですミルクレープですよ。
突然ですが場所は変わり、私達は馬車の中にいます。そしてついでに言うとこの場にはマカロンさんもシフォンさんもマフィンちゃんもいません。
そしてなぜか私の隣にはプレッツェル君と、その前には緊張でがちがちなバニラちゃんと、胡散臭い空気を放つ男の人、クレソンさんがいます。
クレソンさんは黒髪の少し長い軽いウェーブのかかった髪の毛に、左目には眼帯、右腕にだけ手袋というなんとも胡散臭い格好をしていたが、その優しげな微笑みがどこかその胡散臭さを柔和させていた。
「大丈夫ですか?そんなに緊張しなくてもいいんですよ?」
「あっ!はいっ!すみません……」
さっきからバニラちゃんもあの調子だ。毎回毎回声の調子が裏返っている。
クレソンさんはそんなバニラちゃんに優しく微笑みかけると、私の方を向いて、小さくため息を吐いた。
「それにしても……シフォンから珍しく連絡が来たと思えばまさか貴女たちのお守りを任されるとは……彼女も随分と人使いが荒い」
「……すみません」
私は自分がどこが悪いのかよく分からなかったけど、シフォンさんに良いように利用されているこの人がなんだかかわいそうでつい謝ってしまった。
あれ……でも?
「そう言えば、クレソンさんはシフォンさんのことを知っているんですか?」
この人の話を聞いている限り、随分とシフォンさんと深い関係を持っているように思える。別にそっちの意味じゃないけど。
「あぁ……貴女はまだご存じではありませんでしたね。彼女とは古い仲なんですよ」
私はその回答が意外で、「へぇ……」と間の抜けた返事をしてしまった。
なんだかあの人も軍人さんの中に親しい人がいるとか、昔は何をやってたんだか。
「でも今回ばかりは彼女に感謝しましょう。おかげで、やっとこんなに可愛らしいミルクレープさんに出会えましたし。しかしこんなにもお美しい女性だとは思ってもいなかったですよ」
「可愛らしいなんて……そんな」
なんだか男の人から褒められたのもそうだが、女性と言われたことがなんだか恥ずかしくて、思わず否定してしまったが、本当は結構嬉しかった。お世辞だとは分かってはいても。
「嘘ではありませんよ。それに貴女も十六歳ではないですか、もう立派な女性ですよ」
クレソンさんはまるで私の考えたことを見透かしたように、そう言ってほほ笑んだ。
私は自分の頬が赤くなっていることを、なんとなく感じながら、思わず顔を背けた。
「あれ?でもやっとって……?」
私はふとクレソンさんの言う「やっと」という言葉と、昔から私のことを知っている風な口調が気になりそう尋ねた。
クレソンさんは優しく微笑むだけで、その問いに答えてくれたのは不機嫌さMaxなプレッツェル君だった。
「ミルが気絶した時に、あの犯人を捕まえに来たのが……この人だったんだよ」
あぁ、それで……。
やっと理解が出来た。どうりで私のことを知っていると。
「あの時ミルクレープさんは寝ていましたしね。しょうがないですよ。それに貴女の可愛らしい寝顔も拝見できましたし」
寝顔……ですと!?
それはも見ず知らずの男性に、なんとも無防備な顔を見られたということですか!?どうしよう……よだれとか垂らしてたら死にたいくらい恥ずかしい!
私は何とも言えない、いたたまれなさで耳まで赤くなった顔を両手で覆い隠した。
そんな私を横目で見ながら、プレッツェル君が不機嫌そうにクレソンさんに言った。
「どんな女にもそんな風に褒めて、口説いてんですか?」
「まさか、俺は本当のことを言っているまでだよ。……それに少年、焼きもちはよくないなぁ」
「誰が焼きもちだ!」
プレッツェル君は声を荒げて、この狭い馬車内でそう叫んだ。
クレソンさんは業とらしく耳の穴に指を突っ込んで。
「馬車内ではもう少し静かにしたらどうだ?」
プレッツェル君はカッと頭に血が上ったらしく、悔しそうにクレソンさんを睨んだが、さすがにもう叫ぶことはしなかった。
次叫べばどんな嫌味が返ってくるか分からないしね。
私は苦笑して。
「そんなにプレッツェル君をからかわないで下さいよ」
クレソンさんは「そんなつもりはないのですが」と肩を竦める。
「それにほら。彼女も怯えています」
「彼女?」
クレソンさんは「彼女」に同情の視線を向ける。
この場で彼女といえばバニラちゃんしかいなかった。確かにただえさへビビりのバニラちゃんだ、バニラちゃんは今にも泣きそうな顔で、スカートの裾をぎゅっと握っていた。
「あぁー、もうバニラちゃん泣きそうだよ?謝ったらプレッツェル君?」
そう話しかけるも、プレッツェル君はだんまりを決め込んで、こちらすら向いてくれない。
さっきからこんな調子だ。
なんだか今日はプレッツェル君が不機嫌なのだ。
クレソンさんは、少し悲しそうに笑いを漏らして。
「なんだか嫌われているようだね」
「……そうですね。なんだかすみません」
「あ。いやだから貴女のせいでは……」
と苦笑するクレソンさんに、不機嫌なプレッツェル君は冷たく「女ったらしは嫌いだ」と言い放った。
なっ……!?
さすがにそれは酷すぎるし無礼が過ぎるのではないだろうか。
「プレッツェル君!」
「さすがにそれは否定させてもらおうか、俺にだって心に決めた女性くらいいる」
クレソンさんまで何をおっしゃるので!?
心に決めた女性ということは、心から愛している女性がいるとい訳だろうか!?
突然のカミングアウトに、呆気にとられる私と同じく、プレッツェル君も酷く驚いた顔をしていた。
クレソンさんの隣に座るバニラちゃんなんて、顔から火が出るほど顔が真っ赤に染まっている。
まだ幼げな彼女は恋愛トークは苦手なのだろうか?
まぁ、私も得意とは言わないけど。
とんでもないことを言ったにもかかわらず、平然としているクレソンさんは、プレッツェル君に挑発的な笑みを向けた。
プレッツェル君は少し気まずそうに視線を逸らしてから、本当に小さな声で「……悪かったな」と呟くように謝罪した。
クレソンさんはやれやれというように、肩を竦めて苦笑した。
「あっ……あのっ」
私はドキドキと収まらない心臓を抑えながら、クレソンさんに話しかけた。
別に何か話題があるわけじゃなかったけど、ここで話が途切れてしまうとなんだか気まずい雰囲気になるような気がしたから。
クレソンさんは少しニヤリとした後に口元に人差し指をあてて薄ら笑いを浮かべた。
なんだかとんでもないことをカミングアウトしたにも関わらず、その落着き用というか、まったく恥ずかしそうじゃないのが、私達子どもと大人の違いなんだろうか……。
私にはそんなクレソンさんが、少しかっこよく見えた。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.90 )
- 日時: 2012/12/10 21:35
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
クレソンさんのとんでもないカミングアウトの後、丁度いいタイミングで外の景色を窓のから覗いていたバニラちゃんが、「私の住む町まであともう少しですよ」と言った。
良かった町につくまでの長い間この気まずい雰囲気のまま過ごすと思うと……気が重くなる。
「よし。じゃあその人形遣いについて俺が調べてきたことをざっと説明してしまおう」
「おっ調べてきてくれたんだ」
「お前な……兵士なめるなよ」
クレソンさんは少し癪に障ったのか、そんなクレソンさんのことを馬鹿にするようなことを言ったプレッツェル君を睨みつけた。
プレッツェル君はまったく動じた様子も見せず、ちょっと楽しそうに歯を見せて笑った。
クレソンさんは大きなため息を吐いてから。
「まぁ、取りあえずだが。その人形遣いというのは五か月ほど前から、ビーンズという町に住み着いたらしい」
「ビーンズ?」
「あ、私が住んでいる町です」
「……らしいかよ」
プレッツェル君が唇をとがらせてそう抗議した。クレソンさんは珍しく頬を痙攣させて。
「住み着いた!」
軽く怒りをあらわにしてぶっきらぼうにそう吐いた。
……プレッツェル君、そうとうクレソンさんのこと嫌いだな。クレソンさんにちょっと同情。
クレソンさんは小さく咳払いをすると、気合を入れなおすように髪をかき上げた。
「話を進めるぞ!その人形遣いが犯している悪事は、人さらい。盗みなどその他もろもろであり……」
私はクレソンさんから今出た言葉を疑った。
人さらい?盗み?
「それだけでも、随分な犯罪じゃないですか!なんで兵は動かないんですか?」
私の中でまず始めに浮かんだ感情は兵への不満だった。
クレソンさんは大きくため息を吐くと。
「俺たちもコイツのことは前々から見張っていたんだ。だが誰一人も奴のことを見た奴がいない、一人なのかも集団なのかもわからない。どんな武器を持っているかもわからない。そもそも奴が本当にこんな悪事を働いているのかも分からない。そんな状況で奴の身柄を拘束できる訳ないじゃないか」
「誰一人もその人形遣いの姿を見た人はいないんですか!?」
クレソンさんはぐったりと頭を垂れて。
「……残念ながら……な」
そんな!だったら私たちは一体だれを倒すためにここまで来たの!?
私はここまで私たちを連れてきたバニラちゃんを見つめた。
バニラちゃんはすまなそうに、じっと自分の手のひらを見つめていた。
私は彼女の口からこぼれ出る言葉に期待した。
何でもよかった。実際その村に住んでいるというバニラちゃんの確かな情報が欲しかった。
バニラちゃんは本当に申し訳なさそうに顔をゆがませると。
「ごめんなさい……」
小さな声で私たちに謝罪をした。
私はバニラちゃんに騙されていたショックと何のためにここまで来たんだという、喪失感に襲われて、力なく座席に凭れた。
そんな……じゃあどうして私たちはビーンズに向かっているの?
「やはり貴女もそいつの姿は見ていないんだな?」
クレソンさんの問いにバニラちゃんは小さく頷く。
「……はい」
「……やはりそうか。じゃあなんで人形遣いなんて分かったんだ?」
「……そう言う噂が流れているんです」
「噂!?噂だったの!?そんなの証拠がないんだから真実かどうかは分からないじゃない!」
私は思わず声を荒げて、バニラちゃんにそうきつく言った。
バニラちゃんはビクビクと怯えて、今にも泣きだしそうに目に薄らと涙をためていた。
「ごめん……ごめんなさい」
クレソンさんはそんなバニラちゃんの頭を、手袋をしていない方の手で優しく撫でると。
「まぁ、そんなに彼女を責めないで下さいよ。それにそんなこともともと我々も承知の上です」
「……じゃあなんでここまで来たんですか?」
バニラちゃんの言うことが事実のある確証的なものではないというのに、なぜクレソンさんは来たのか?そもそもその話題が出た時にシフォンさんは分かっていたんじゃないだろうか。この話には確証がないって。
クレソンさんは手を組んで、顎をその上に乗せると。
「人形遣い。このワードが出たので俺はミルクレープさん達に同行しようと思ったんですよ」
「人形遣い……?」
私が話の意図が掴めずに、首を傾げると、プレッツェル君は分かったようでぽんっと手を打った。
「あぁ!それ最初オレも思った!」
「え?どういうこと?」
一人で納得しているプレッツェル君に私は尋ねると、自慢げにプレッツェル君は腕を組んで、でもちゃんと分かりやすく教えてくれた。
「人形遣いだよ!ミルも知ってるだろ?」
「……知らない。そんなに聞いたことないなぁとは思ったけど」
「えっ!お前そんなことも知らないのか!?」
プレッツェル君は酷く驚いたように体までのけ反らせたけど、知らないものは知らないんだもん。しょうがないじゃん。
私がそう視線で訴えていると、プレッツェル君は鼻が高そうにこう言った。
「孤独の魔法使いと人形遣いのおとぎ話だよ」
「おとぎ……話?」
「自らの頭の良さと、生まれながらの魔力の強さ。彼女は生まれつき誰よりもすぐれ、そして誰にでも負けない最強の魔法使いだったため、この世の全ての事柄を小ばかにして生きてきた。だから彼女には誰も近寄らず、ただただ彼女は一人だった。彼女は孤独に慣れてしまい、人の心を失ってしまった。そして人間の情を捨ててしまった彼女はこの世に飽きてしまいある時こんなことを思いついた……この世を滅ぼし新たな世界を作ろうと」
「……それ、オレが言おうとしたことなんだけど」
先に越されたと、プレッツェル君は悔しそうにクレソンさんを睨みあげた。クレソンさんは反対にしてやったというようにニヤリと笑う。
「この世を滅ぼす?」
「あぁ、この世界を滅ぼしたいと願う孤独な最強の魔法使いと選ばれた七人の人形遣いのおとぎ話だよ」
ここぞと言わんばかりに、プレッツェル君はぐいっと身を近づけてきて自慢げにそう言った。
「でもそれはおとぎ話で……」
「だからだ。だからこそ気になってやって来た」
その先の重要なことは、クレソンさんは話してはくれなかった。
腕を組み座席に腰深く座って、思案するように黙り込んだまま。
私も無理には聞こうとは思わなかった。きっと何か重要な容態を抱えているのだろう。ならその秘密を無理にでも足掻こうなんて私はしたくなかった。
私も背もたれに寄りかかって、ふと外の風景に目をやった。
生い茂る森に、温かい日の光、それは特に何もなかったけど、私の故郷ガナードを思い出させた。
ついでにあの懐かしい、優しいお婆ちゃんの笑顔も。
……一体この先には何が待っているのだろう。
そんな私の不安をかき消すように、バニラちゃんが明るい声をあげた。
「みなさん!もうすぐビーンズに着きますよ!」
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.91 )
- 日時: 2012/12/10 22:29
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
馬車から降り立った先で待っていたのは、人でごった返す、わいわいと煩いほどにぎわった町だった。
私は今までに見たことない人の多さにしばし呆気にとられる。
「これ……なんかのお祭り?」
「いいえ。違います。ビーンズは年がら年中こんな感じですよ」
「年がら!?」
本当に!?と驚きを隠せない私の隣でプレッツェル君は馬鹿にしたように鼻で笑う。
「この賑わいさならレの故郷よりも人が少ないくらいだぜ?」
「うっそ!」
なんだかさっきから驚きっぱなしだな……。
「本当に人が多いな。私服で良かった……」
とクレソンさんは独り言をつぶやく。
嫌でも本当に人が多い。こんなところで軍服を着ていたら目立つ……いや逆にもっと派手な格好の人も多いから目立たないかも。
私は人人人でごった返す町を、見渡すと「ほぉ〜」と感嘆の息を漏らした。
この国には本当にたくさんの人が住んでいるんだな、と実感させられた一瞬だった。
「お前本当に田舎出身なんだな」
「……うっさい!」
私は田舎者と馬鹿にされたことに、少しムッとしてプレッツェル君のふくらはぎを軽く蹴ってやった。
だけど本当に軽くやったつもりだったのに、プレッツェル君は奇妙な声をあげて、蹴られて部分を抑えて座り込んでしまった。
え、でも本当にかるぅーくやったつもりなんだけど?
「えっちょっ……ごめん?」
プレッツェル君は蹴られたふくらはぎを抑えたまま、ぴくりとも動かない。
心配になった私は、プレッツェル君の肩にそっと触れる。
だって本当にアキレス腱でも切れてたら、町に着いただけで冒険は即終了なんて馬鹿馬鹿しいし。
あれ……でもアキレス腱はふくらはぎじゃないよね?
「……お前なぁ」
「あっ何?」
いきなり怒りで小刻みに震える声で話しかけられたものだから、思わず変な応答をしてしまった。
だけど今はそんなことほっておこう。だってこちらを振り返ったプレッツェル君の顔……なんかいろいろとすごかったんだもん(その表情はご想像にお任せします)。
「ここ……さっきからずっとつってんの我慢してたのに!」
プレッツエル君は涙目でそう私に訴えた。
でもそんな泣きそうになりながら言われたって……。
「知らないよそんなのっ!て言うかつってたの!?そこ?いつから!」
「……馬車降りた時辺りから」
どうやらプレッツェル君は馬車を降りて地面に足をつけたあたりから、ずっとつっているふくらはぎの痛みを我慢していたらしい。
でもそんなの……。
「気づくわけないじゃん!知らないよっ!」
「まぁまぁ、ミルクレープさんも。その人形遣いの住むと噂される家まで遠いですから、町を散策しながら行きましょう?ね?」
こうしていてもきりがないのでとバニラちゃんはなんとも面白そうな提案をしてくれた。
「散策……」
実はちょっと楽しそうだな、なんて出店などを覗き見ていた私。これは「いいえ」なんていう訳ないじゃない!
私は目を輝かせて、大きく頷いた。
「うん!見てみたいお店あるし!」
バニラちゃんはほっとした笑みを浮かべたが、クレソンさんは呆れた様子で。
「別に俺も構わないけど、本来の目的を失わないでくださいね」
「もちろんですよっ!」
と大声で答えたものの、もはや半分本来の目的を忘れかけている私☆
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.92 )
- 日時: 2012/12/11 22:28
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
「うわー可愛いー!」
私の目の前に広がるのは、キラキラと輝く可愛い雑貨たち。
私は目をらんらんと光らせて、出店に並んでいる小物たちを片っ端から手に取っていった。
「ミルさぁ、意外にこういうの好きだよな」
「意外って……」
まぁ、そんな風に見えてしまうんだろうか?
別にフリルも可愛いものも、女の子らしいものを好きなんだけどな。
バニラちゃんは私の隣にしゃがみ込んで、小さな手に乗っかっている可愛い首飾りをうっとりと見つめていた。
私はそれを可愛いなと思いながら、ふとこんなこの方が私の好きな可愛いものが似合うんだろうなと、少し悲しくなった。
まぁ、女の子らしい性格だとは自分でも思ってはいないけど!今更マフィンちゃんみたいな口調になっても絶対周りからは気持ち悪がられるだけだし。
特に……こいつは言いそうだな。
とプレッツェル君に冷ややかな視線を向ける、プレッツェル君はその視線に気が付いて「なんだよ?」と不思議そうに首を傾げた。
「別になんでもないけどさっ!」
「……そうか?」
私はぷいっとそっぽを向いて、また可愛い小物達に目を落とした。
キラキラと輝く可愛い小物達。
そしてバニラちゃんの小さな手の中で、キラリと光る可愛い首飾り。
……やっぱり私にはこんな可愛いものは、似合わないのかな。
一つ可愛い小物を手に取って、それを見つめて小さくため息を吐いた。
そんな憂鬱な気分になりかけた時、プレッツェル君に名前を呼ばれた。
「これさ、ミルに似合いそうじゃん」
「え?」
どれ?と振り返った私の首に突然かけられたのは、可愛らしいお花のついたチャームネックレスだった。
淡い水色が、なんだか虹色に輝いているようでとても綺麗だった。
「わぁー。可愛い……」
素直にそう感想を述べると、プレッツェルが少し恥ずかしそうに目元を赤らめて「うん、やっぱ似合う」と笑った。
「似合ってる?本当!?」
私は別に疑っている訳じゃなくて、その言葉が嬉しくて、ついプレッツェル君に聞き返してしまう。
「ホントホント」
プレッツェル君はそう言ってニッと笑ってくれた。
似合ってるか……。
なんだかそう言われると買いたくなってきちゃったなぁ……。
「あ。それ私が今持ってるのと色違いの奴です!」
そう思っていると、バニラちゃんの少し驚いたような顔をしてそう言った。
「えっ!?そうなの?」
バニラちゃんはコクリと頷いて。
「はい。偶然ですね」
私にさっきから手に持っていた首飾りを差し出してきた。
確かにその小さな掌に乗っていたのは、私と同じタイプのお花のついた首飾りだった。ただしバニラちゃんが持っているものは淡い桃色で、それもまた光の加減で虹のように輝いていた。
「可愛いですよね、これ」
バニラちゃんはにっこりと笑う。
「そうだね。バニラちゃんにならきっとすごく似合うと思うよ」
悔しいけどこれが私の本心だ。
バニラちゃんは「そんなことないでよぉ」なんて苦笑するけど、ほんとに似合いそうなんだもん。羨ましいけど。
さっきから私たちの様子を後ろから見守っていたクレソンさんが、私達の間からひょっこりと顔を出して。
「いやぁ、二人とも本当によく似合ってますよ。たまにはやるじゃないか。プレッツェル」
「なんでオレにだけはため口なんだよっ!」
歯をむき出してそう抗議するプレッツェル君に、出店の小母さんが呑気に笑う。
「いや、仲がいいね。ご家族かい?」
その瞬間プレッツェル君とクレソンさんは顔を青くさせた。
プレッツェル君は「オレとこの人のどこが似てるんだよ……」とクレソンさんに似ていると思われたことがショックだったようであり。
クレソンさんもクレソンさんで「俺がこんなに大きな子どもを持っているとお思いで……?」と見た目上に老けて見られたことがかなりショックだったようだ。
小母さんも随分と無理やりな解釈をするなぁ……。
だがものすごい勘違いをしたにもかかわらず、小母さんは相変わらず能天気で「あら。悪いねぇ」と笑うばかりだった。
なんだかこの町に住む人たちも呑気な人ばかりだ。
私がクスリと笑うと、小母さんは優しく私達に微笑んで。
「それにしても、本当にお二人さんはそのネックレスが似合ってるねぇ」
「いえ……そんな」
バニラちゃんは顔を真っ赤に染めて、ぶんぶんと首を振る。
そんなバニラちゃんを見て小母さんは、うんと目を細めて。
「そんな可愛いお二人さんにサービスしちゃう。その首飾り三五〇シュガのところ一五〇シュガに負けちゃうよ!」
「そんな二〇〇シュガも負けてもらって……いいんですか!?」
小母さんはにっこりと笑って、頷く。
私達は思わず顔を見合わせて、目を輝かせる。
「「買います!」」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32