コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
日時: 2012/07/10 23:37
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

 ついについについに来ました! 

 どるさんとの合作!

 このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!


 今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。


 それではどるさんと読者さんに感謝しながら、

 このお話を書き進めていきたいと思います!
 
 そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!

  ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
 ↓レッツゴー!!!(^O^)/

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Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.36 )
日時: 2012/08/24 23:12
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

                * 

 駄目ね……私も。
 あの時シャルロットの表情を見て、「嘘よ」と言ってあげたくなってしまった。
 たとえ彼女がそれを望んではいないと知っていても。
 彼、良い仕事するのよ……なんて、そんな明るいニュースをあの子に伝えてあげたかった。
 ……これが母性って奴なのかしら。
 シャルロットは今でも自室にこもりっきり。
 あれからもう結構時が経つというのに。彼女の声を聞いたという者は、私以外誰もいない。
 周りによく気配りができて、評判のいい彼女の事だ。ここで大声を出したら迷惑がかかるとでも思っているのだろう。
 そんなこと気にしなくても良いのに。
 そうこちらが思っていても。それは彼女自身が許さないのだろう。
「……似てる」
 今日此処を出て行ったプレッツェル君とそっくり。
「誰がですか?」
 ふと声をかけられ、我に変える。
 どうやら知らぬ間に声に出ていたらしい。
「なんでもないのよ」
 と微笑みかけると、部下の一人は不満そうに「……はぁ」と呟くが、上官の私には逆らえないと思ったのだろう。そろそろと部屋を出て行った。
 部下が部屋を出ていったことを確認すると、机に眼を落とし書類の整理を始める。
「あら」
 そう声を上げたのは、いつの間にか机の上においしそうなホットミルクティーが置かれていたから。
 どうやらさっきの部下の一人が、気を利かせて態々此処まで持って来てくれたらしい。
 まだ、冷めていない。淹れたてのミルクティー。
 カップを鼻の前まで持ってくると、ほわほわと立ちこめる湯気に鼻先を擽られた。
 甘いミルクの香りが鼻から入り、胸を幸せでいっぱいに満たしてくれる。
「……おいしそう」
 呟くと、自然に頬が緩んだ。
 大の大人も甘い物。おいしい物には逆らえないものね。
 カップに口をつけ、熱々のミルクティーを喉に通す。
 ミルクティーは食道を通り胃に到達し、お腹をほっこりと温める。
「……ふぅ」
 小さく、幸せそうにそう吐息を吐いたその時だった。
 ポツポツポツ
 雨音がノックしたのだ。
 やがてポツポツとまだ可愛らしかった雨音も、ざぁざぁと激しいものに変わり。
 窓の向こうで町人たちが大急ぎで雨宿り出来る場所を、探し回っていた。
 私は部屋で一人呑気に。
「雨ね……」
 しかしそんなサフランに突如驚くべき出来事が。
 ばんっ!
「サフラン幹部!」
 乱暴扉が開かれ、ずぶ濡れのままずかずかと部屋に入ってきたのは、サフランの部下であった。
「いきなりなんです?」
 私は突如上官の部屋にやって来た部下に不満を露わにしながら、取りあえずは用件を尋ねる。
「実は先程……」

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.37 )
日時: 2012/08/25 00:15
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

                * 

 ……さすがに泣きすぎた。頭が痛い。ずきずきする。
 きりりと痛むこめかみを、手で押さえながら、シャルロットはベッドからのそりと起き上る。
 今は何時だろうと、近くに会った目覚まし時計を見てぎょっとした。
 午後三時。
 あれからもう七時間過ぎている。
 さすがに泣きすぎだろうと、自分でも呆れてくる。
 そして鏡の向こう側にいる人物に、呆気にとられた。
 髪はボサボサ。目元は赤く腫れあがり。鼻は赤く、決めては瞳の充血。
「……酷い顔」
 そっと頬に手をやり、深くため息を吐く。
 こんな顔じゃ、あの人に会うどころか、この外にでも出れない。
 再度落胆のため息を吐く。
 するといきなり扉が開き、今一番会いたくなかった人が大慌てで飛びこんできた。
「シャルロット!」
 私は一瞬頭の中はエラーの文字で一杯になり、目の前で肩で息をするその人を、目を点にして見ることしか出来なかった。
「えっと……サフランさん?」
 やっと声が出せたのは、多分一分ぐらい経った後。
 サフランはまだ苦しそうにぜいぜい言いながら、ちょっと待ってと手を突き出す。
 ……え、何?何が起きたの?
 なんとか目の前にサフランさんがいることは分かった。でもどうして?何で突然?しかも何で走って来たの?このそう広くない館内で!?
 やはりシャルロットの頭は、サイトを読み込み中だったのに突然バグってシャットダウンし始めたPCのごとく、もういろいろと……限界でした〜。
 えぇ、もちろんサフランがこんなに息切れしているのかも分かりませんしね。
 そして、重大なのが、サフランさんの部屋とわたしの部屋はそう離れていない事。
 わたしがもしサフランさんの部屋に向かって全力疾走したとしても……こんなに息切れはしない。
 結論→なんかもう色々と怖い。
「重大な知らせがあるの!」
 わたしがなんかもういろんな事を考えている間に、どうやらサフランは体力が戻ったようである。
 私も我に返り、いけないとぶんぶん首を振り、いつも通りの自分を装う。
 サフランさんは眉を顰め、いかにも深刻そうな面持ちだった。
 緊張で額に汗が滲むのが分かった。
 ごくりと生唾を飲み込み。
「何ですか……?」
 わたしは秘かに、自分が仕事をしていなかったせいで部下がトラブルにでも巻き込まれたのではと心配しながら、そう尋ねる。
 ……が、わたしの心配はどうやら無駄なものだったらしい。
 サフランは朗笑をすると。
「実は先程、私の部下がプレッツェル君を見かけたって報告して来たのよ!」
 ……プレッツェル?
 わたしは頭の中をそのワードで何度も検索をかけてみるが、該当者は見つからず。
 結局首を捻る事しか出来なかった。
 そこでサフランもやっと合点がいったらしく。「あぁ」と手を打つと。
「プレッツェル。貴女がずっと恋焦がれてきた男(ひと)の名前よ」
 その瞬間シャルロットは全身に雷が撃たれたかのような衝撃が走ったという。
 プレッツェル。それがあの人の名前……。ずっと知りたかったあの人の!
 興奮で紅潮する頬を抑えて、今すぐにでも飛び跳ねたい衝動に駆られたがそこまでしてしまえば、さすがにサフランでもドン引きされる事は火を見るよりも明らかなので、止めておく。
「それでっ、どこに居たんですか?プレッツェルさん!」
 サフランもそのままの調子で返してくれると思ったのだが、サフランは急に顔を曇らせてしまった。
「サフランさん?」
「……あのね。ものすごく言いにくい事なんだけど。プレッツェル君……」
 
              
 わたしは酷く言いにくそうにしていたサフランさんの態度を、その言葉を聞いてやっと理解した。
 彼は……あの人は……。
        「可愛い女の子と一緒だったんですって」

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.38 )
日時: 2012/08/26 21:10
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

                * 

 突如降り出した大雨は、偶然にも、と言うかわざと神様がそうしたかのように、外出していた私達の上に容赦なく降り注いだ。
「ぎゃー!雨雨!雨だよぉー!」
「んな事言われなくても分かってるよ!」
 まったくあともう少しでカフェ「Dolce Del Canard」にたどり着くという時だったのに。
 運が悪いというか良いというか……。
「そうですか……大変でしたね」
 店内に入ってすぐに、私達を出迎えてくれたのは、花のように愛らしい笑顔。
「……うん。あともうちょっとってところで……びしょ濡れだよぉ」
 愛想も良く気配りも出来るマフィンちゃんが。ほかほかのタオルを用意していてくれた。
 もうこうなる事を予測していたように。
 プレッツェルも一生懸命栗色の髪を拭いている。
「プレッツェル君ってさ」
「うん?」
 そう私が話しかけると、プレッツェルは一度髪拭き作業を中止して、耳を傾けたくれた。
 私がその先、なんて言うのかも知らないで。
「普通だったら水も滴る良い男。なんて言うけどさ」
「……お、おぉ」
 プレッツェルは少し照れたように頬を赤くしたが。言葉の余韻に気が付いて眉を顰めて「ん?けどさ?」などと呟いている。
「どっちかって言うと、プレッツェル君は、水が滴るハムスターって感じだよねっ!」
「うっせぇ!誰がげっ歯類だ!」
 ナイスなツッコミを返すプレッツェルを、ミルクレープは褒めたたえる。
 もちろん馬鹿にした様子で。
「オー偉い偉い。よくそんな難しい事知ってたね!」
「なっ!」
 プレッツェルは悔しそうに、拳を握り締めたが。
 やがて意気消沈。
 がっくりとうな垂れてしまいましたとさ☆
「もういいよ…ミルとこんなことやってたら日が暮れちまう」
「まぁ、それも一理ありますけどね」
 マフィンは苦笑いをしながら、私達のそばに温かい紅茶の入ったティーカップを置いてくれた。
 ミルクレープは「ありがとう」とお礼を言うと、遠慮なくそれをいただく。
 温かい液体が喉元を通り、冷え切った体を心地よく温めてくれた。
「……おいしい」
「ホントだ……」
 プレッツェルも幸せそうに、その茶色の液体を見つめ、その甘くて良い香りに思わず瞳を閉じた。
 マフィンは嬉しそうに頬を緩めると。
「ちょっと待っていて下さいね」
 とととと……
 可愛らしい足音を立てて、店の奥へと入って行った。
 その瞬間シフォンの周りをどす黒いオーラがまとった事を、幻覚だと思いたい。
「……あのぅ、シフォンさん。何で不機嫌なんですか」
 一応確認のためそう尋ねると、むすっとした態度で「別に」と冷たくあしらわれてしまった。
 そうなる事はなんとなく予想していたけど、実際そうされると傷つく!
 ハートがひび割れ、泣きそうになっているところでなんともタイミング良く。
「お待たせ〜」
 マフィンちゃんが入って来た。
 マフィンは今にも泣きそうなミルクレープと、冷汗を流すプレッツェル。そして不穏な雰囲気を漂わせる我が姉を、それぞれ困惑しながら見つめると。
「……どうしたの?」
 そこで私達は有り得ないような場面に遭遇するのである。
「ううん。なんでもないわよ」
 あの。あのシフォンさんが爽やかな笑顔を浮かべたのだ。
 えええええええええ!
 という顔を二人して並べていると、またマフィンさんの睨みがとんできた。
 二人して「ひぃ!」と肩をすくめる。
 そんな様子を見て何を勘違いしたか、マフィンちゃんは羨ましそうに微笑んで。
「仲が良いですね」
 どこをどう見てそうなるんですか!?

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.39 )
日時: 2012/08/26 21:13
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

                 *
  
 マフィンちゃんが焼いてくれたというスコーンは、ほっぺが落ちる程に美味しかった。
 焼きたてのスコーンはほろっと口の中で崩れて。バニラビーンズのいい香りが口の中で広がった。
「おいしい!」
 その驚くべき美味しさに、思わず声をあげると、マフィンは心の底から嬉しそうに。
「本当ですか?御気に召されて光栄です」
 しかし、私はそのマフィンの口調が気に入らなかった。
 なんだかこう。敬語使われているから嫌ではないけど。遠ざけられているような気分になる。
「マフィンちゃん。その言葉使い止めてよ」
 あ……ちょっときつい言い方になってしまったかもしれない。
 そう後悔してももう遅かった。
 あぁ〜顔を上げたくない。と私が思うのも必然だよね。うん。
 そうミルクレープが思ったのはシフォンとプレッツェルの睨みが、今までで一番、冷酷かつ鋭いものであったからである。
 とまぁナレーション風に言ってみても無駄な訳で。
「……ふーん。ワタシの妹によくもそんな冷たい事が言えるなぁ」
 冷たいのは貴女の方です!
 とツッコミ精神がうずきましたが。今は我慢。今そんな事言ったら確実に……殺られる!
「おいミル今のはさすがに……」
 シフォン程度ではないが、やはりプレッツェルも今の私の口調に不満があったもよう。
 私はぶんぶんと首を振り、懸命に誤解を解こうとする。
 私が言いたかったのはそう言うことではないと。
「違うのか……じゃあどうゆう意味だ?」
 シフォンも人の話をまともに聞けるよう成長したのか、一旦睨みを中止して話しに耳を傾けてくれた。
「私が言いたかったのは、そのマフィンちゃんの敬語だと……なんだかそのぉ……えと」
 その先がまとまらずに、うじうじと適当に言葉をつなげていると。
 面倒くさがりなシフォンさんの堪忍袋の緒が切れて……しまった。
 突然カウンターを両手で思いっきり叩いたと思うと。
「うじうじしていないで、さっさといいなさぁい!」
「「はい!」」
 情景反射的に返事を返すと。何故か重なる声があった。
 そして、しらーとした態度で横を向くと先程の声の持ち主と目がった。
「……つい」
 ……ついって。何も悪くないのに。つい謝っちゃう人とかいるんだよねぇ。たまに。可哀想というか……哀れというか。
 まぁ今はその話しは置いといて。本題は私の誤解を解く事だ。
 私は話しを始める前に、ひとつため息を吐く。
「つまり私が言いたかったのは、敬語を使われると他人扱いされているようで嫌だったんですよっ!」
 ……冷めた沈黙。
 ……と。私は急激な焦りを覚えた。
 あれ……伝わってない!?それとも私が変な事言ってたとか!?
 迷いに迷って結局シフォンさんに目線で助けを求める。『何か悪かった?』と。
 シフォンさんはわざとらしく大きなため息を吐き。ずいっと私の鼻先に人差し指を突き付けてきた。
 そのスピードと近さに、目をつかれるのではと思った私はのけ反る態勢になる。
「マフィンの口調は生まれつきなのよ」
「うっ、生まれつき?」
 そんな事があるのかと小さな疑問を抱きながら、その次の言葉に耳を澄ます。
「えぇ。そうよ。姉のワタシでさえ敬語なんだからね」
「本当ですか!?」
 それは確かに驚きだ。家族でさえ敬語!?そんな事が有り得るのか?有り得るのか。
「何かおかしいですか?」
 マフィンはこれが普通と言わんばかりに、首を傾げている。
 マフィンちゃんにとっては普通でも、世間様的に言うと特質なんだよ。
 しかし歳もそう離れてはいないしかも姉妹にさえ、敬語を使うとなれば、タメ口で話しをするのは極めて困難。いや、不可能だ。
 でもそれでも……これだけは出来るだろうということを、私は思いついてしまった。
 漫画的表現だと、ランプがピカーンと光るような感じな思いつき。
「じゃあさ。私達もう友達なんだからあだ名で呼んでよっ!」
「え!?」
 ……はいすぐこのリアクションが来た〜。
 なんかこう酷く驚かれるのは。私の事を友達と認識されていないとうことでは?
 真実を確かめたくないという気持ちと確かめなくてはならないという気持ちが、私の心で喧嘩をし。結局は確かめなくてはならないという気持ちが……勝ってしまったのである。
 望んでいた結末でもあるし望んでいなかった結末でもある。
 私はドキドキと逸る胸を抑えて。
「……友達だよね?」
 マフィンちゃんは目を丸くし。何度も瞬きを……。
 あー、やっぱりそう思われてなかったパターン?傷つくわ〜。
 しかし私を傷つけたマフィンちゃんのその行動は、私が思っていたものとはほぼ逆の意味を示していた。
「友達……?」
 マフィンは大きな目をさらに大きく見開いて。胸のあたりでぎゅうっと手を握り。ミルクレープをじぃっと見つめる。
 初めて見るマフィンのそんな態度に動揺を隠しきれずにいるミルクレープは戸惑いながらも頷く。
 その瞬間彼女は生まれて初めて海を見た幼女の様に、らんらんと目を輝かせたのだ。
 もちろんミルクレープは友達の意外な一面を知ってしまいぎょっとする。
「マ……マフィンちゃん?」
「友達!?本当に友達ですか!?」
 鼻の穴をふんがーと開いて、ずんずんと近づいてくる。
「う、うん」
「本当!?」
「うん」
「本当の本当の本当ですか!?」
「うん!」
 最後の方は私も喉に力をこめて大声で返事をする。
「やったぁぁぁ!」
 ミルクレープもそんなに小さな声を出していなかったと思っていたのだが、遥かにそれを上回る歓声をマフィンは上げた。
 その隣でシフォンも良かった良かったと涙ぐんでいる。
 私とプレッツェル君だけがその状況を理解できていなかったようだ。
 どうゆう事ですかとシフォンさんを目線で訴えると。
「あぁ。二人が驚くことも無理はない。ワタシだってこんなマフィン見るのは初めてだ」
 最後にだけ悲しそうに、声が暗く沈んだのは私の気のせいだろうか。
「マフィンには友達と言える人がいなかったんだよ」
「え……?」

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.40 )
日時: 2012/08/26 21:15
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

                * 

 想像していなかったマフィンちゃんの友達がいなかったという真実。つまりは学校にも通わず、このカフェで小さい時から働いていた。ということだろうか。
 どうやらこの二人には、もっと暗い悲しい過去があるらしい。
「しかしマフィン。ワタシは友達じゃないのか?」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんでしょう。お姉ちゃんの事は大好きだし仲も良いですけど。姉妹ですもの。友達ではありません」
 それは真っ当なご意見で。
 シフォンはショックを受け目元まで真っ青にしたが、マフィンの大好きと仲が良いという単語に救われ。今は顔中ニヤけている。
「そうかぁ〜。仲が良いし。大好きなのか〜」
 マフィンはそんな我が姉に向かい、それはまぁ置いておいてとなんとも冷たい態度をとり。もはや言うまでもなく。シフォンは漫画的表現でいうと、ガーンと心に傷を負ったのでした。
 マフィンはそんな姉よりも私の方に興味があったらしい。
「それよりもミルクレープさん。わたしミルクレープさんの事を、なんと呼べばよろしいのでしょうか?」
 期待という言葉がぴったりな表情だった。
 私はその期待に答えるために。なるべく呼びやすく親しみやすいあだ名を思案し。ある結末に辿りついた。
「ミルちゃんは?」
 どうやら期待に応えられたようだ。
 その瞬間パァァァと音がしそうな、満面の笑顔で。
「ミルちゃん!」
「何?」
「ミルちゃん!」
「はい」
「ミルちゃん!」
「マフィンちゃん」
 少し落ち着きましょうか。と苦笑いを浮かべると。突然手を取られて。
「ミルちゃんはわたしの初めてのお友達です!」
 それは分かってるよ。とは流石に私も悪人ではないので口が裂けても言えず。
「そっか。良かった」
 と微笑む。
 目の前で幸せ全開オーラを漂わせている彼女を見ていると、何だかこちらも自然と心がほっこりとしてくる。
 笑顔ってすごいね。
「……ちょっと化粧室借りてもいいですか?」
 プレッツェルは目元を少し赤らめて、もじもじとした態度でそう尋ねた。
 何を恥ずかしがる理由があるのかと、シフォンは呆れながらも「あっちだ」と、案内こそしてくれなかったが指を指して教えてくれた。
 それからほんの数分後、プレッツェルがまだ憚りへ行っている時。事件は起きた—。
 私は最初ただの御客だと思ったのだが。
「すみません。こちらで緋色がかった金髪の少女を……」
 入るなりよく通る声でそう言い。ふと私に目をやると……突然目つきが変わったのだ。
 獲物を見つけた獣の様な。もしくは恨みを晴らしに来たとでも言う悪霊かのような。どちらにしろ、恐ろしい目つきで。


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