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ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
日時: 2012/07/10 23:37
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

 ついについについに来ました! 

 どるさんとの合作!

 このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!


 今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。


 それではどるさんと読者さんに感謝しながら、

 このお話を書き進めていきたいと思います!
 
 そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!

  ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
 ↓レッツゴー!!!(^O^)/

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Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.83 )
日時: 2012/11/18 14:43
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

                *

 一方その頃、ノエルたちの住むガナードから遠く離れる小さな町も、ちょうど午後十二時を迎えていた。
 民家の屋根の上に立つ、美しい長髪を風になびかせる少女は楽しげに鼻歌を歌いながら業火に焼かれる街並みを見つめていた。
 そしてその少女の脇にはこれまた美しい毛並みを持つ黒猫が、可愛く「にゃん」と一声鳴いた。
 少女はその猫の頭を軽く撫でてやった。
「今宵もいい夜になりそうだね。グルコース」
 少女は楽しそうにそう語りかけるが、黒猫は何を思ったのか突然少女の中指をがぶりと噛んだ。
 幸いそこまで強い力ではなく、出血まではしなかったが、少女はその瞬間別人のように怒り狂った表情をして。
「……何すんだよっ!」
 そう叫ぶんだと思えば、迷う間もなくその黒猫を燃やし尽くしてしまったのだ。
 黒猫がいた場所には、黒い炭しか残らず、あの可愛い顔も凛とした姿も美しい毛並みもすべて灰と化してしまったのだ。
 なんと残酷なことだろうか。
 少女は特に悲しい様子も見せず、指の腹にこびりついた炭を「ふっ」と息を吹きかけて飛ばす。
「……この町も終わりだねぇ。ねぇ?」
「そうですね」
 そう少女が尋ねると、暗闇から答えが返ってきた。
 少女はにやりと笑う。
「じゃあ戻ろうよ。ここは寒いから、風邪をひいちゃう」
「そうですね」
 暗闇はそう同意を示すばかりだった。 
 少女は楽しそうにくるりと一回その場で回ると、片手に持っていた傘をバッと開いた。
 そしてその足元には炭の後。
「……また。殺したのですか」
 暗闇が珍しく少し声を低くしてそう言った。
 だが少女は明るい声色でこう答える。
「うん。そうなんだぁ。だからさっ、また新しいグルコース買ってねっ☆」
 そう言った表情は恐ろしいほど美しく、そして悲しみの感情など微塵も感じられないものだった。
 少女が傘を一回転、ぐるりと回すとそこにはもう彼女の姿も、暗闇に潜む男の姿もなく、そこには猫だった灰が虚しく風に吹かれて散っていった。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.84 )
日時: 2012/11/18 14:44
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

                *
 

 朝早くティラミスは家を出ていこうとしていた。
 朝一番の汽車に乗って城下町に向かおうとしていたのだ。
 夫ノエルもはやりしばらく会えなくなる妻ティラミスを見送ろう朝早くから起きていた。
「ミルちゃんはやっぱり起きてこなかったわねぇ」
「起こしてこようカ?」
 寂しそうなティラミスを気遣ってか、そうノエルは尋ねたがティラミスはふるふると首を振って。
「いいわよぉ。昨日もあんなに疲れていましたしぃ……可哀そうですよぉ」
「それも……そうだナ」
 ティラミスはそうは言ってもまだ寂しそうにミルクレープが眠る部屋がある二階をちらりと見つめた。だがそうしてもミルクレープが起きてくる訳はない。
 ティラミスは少しがっかりしたように小さくまとめた荷物を肩にかけた。
「じゃあ行ってきますねぇ……」
 ティラミスはドアノブに手をかけ、まだ冷たい朝の空気に飲み込まれようと足を一歩踏み出した。
 すると、最後には聞きたいと、望んでいた彼女の声が聞こえてきた。
 まだ呂律のうまく回っていない、今起きましたと言っているような、ほにゃりとした声。
「……いってらっしゃぁい〜」
 驚いてティラミスが振り向くと、いつの間に来たのかノエルの隣で、ミルクレープがまだ重い瞼をしぱしぱとさせて、軽く手を振っていた。
 ティラミスは驚いたように目を見開いてから、とても嬉しそうに目を細めた。
 ティラミスも嬉しそうに「エヘヘヘ」と歯をみせて笑った。
 ノエルもとても楽しそうにミルクレープと一緒に、ティラミスに手を振った。
「いってらっしゃイ」
「……いってきます」
 
 それからティラミスは駅に向かい、当初の計画通りに朝一の汽車に乗り込む。
 固い椅子に腰を掛け、暇つぶしにと窓の外の風景に目をやる。
 少しぼうっとしていると。
「……ティラミス様」
 唐突にそう声をかけられ、ティラミスが振り向くとそこには、帽子を目部下に被った男。
「クレソン様からお手紙をお預かりしています」
 そう屈みこみ手紙を差し出してくる男の首元には金のプレートのネックレスがキラリと光った。
 ティラミスはそれを見た瞬間何もかもを悟った。
 大きなため息を吐くと、男から手紙を受け取り。封を開けた。
 手紙には「ティラミスさん。お久しぶりです。ミルクレープの様子はどうですか?城についたら幹部室へ来て下さい。クレソンより」と書かれていた。
 ティラミスはそれに素早く目を通すと、やれやれと肩を落とした。
「あの人……また出世したんですねぇ」
「まぁそれがあの方の趣味のようなものですから」
 男は苦笑いを浮かべてそう言った。
 どうせまたミルクレープについて細かい情報が欲しいだけだろうと、ティラミスは心の中でぼやきながら、また外の風景に目をやった。
 もう汽車は発車しようとしていた。
 ガタンガタンと揺れ始める車内。
 ティラミスは男にこう尋ねた。
「それで、あなたはどこまで行くんですかぁ?」
「……そうですね。城下町まで。ですかね」
 男はそう答えた。
 ティラミスはその答えを聞いて、少し口角を上げ笑う。
「そうなんですかぉ?じゃあわたしと同じですねぇ」
 汽車はそんな二人を乗せて、城下町へと走り出していった。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.85 )
日時: 2012/11/19 22:51
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

          第九魔法   出会いは始まり

 朝、目覚まし時計が鳴るより十分前に起きる。それがワタシの日課。
 起きたらカーテンを開けて日光を浴びる、これをするとすぐに目が覚めるような気がするのだ。
 その後に顔を洗って、服を着替える。
 そして階段を降りて、店に異常がないかを確認する。
 今日もいつも通り、埃すらない綺麗で自慢の店舗がそこにはあった。
 店に置かれるカウンターや机たちは朝の光に包まれて、そこにあるかないかのように、家具たちの輪郭はぼやけているのに。不思議ととても美しく。ワタシ自身も朝のこの光景がとても好きだった。
 カウンターを指でなぞって、冷たい木の感触を確かめると、ワタシは厨房へ向かった。
 パンとイチゴのジャムを取り出して、それを客用のテーブルに並べる。
 だからって別にお客様に出すとかそういうんじゃない。
 ワタシ達は朝食、昼食、夕食はお客様が普段使っているテーブルを使って食事をしているだけだ。
 でもこのテーブルはワタシが買ったんだ。利用権限はワタシにあるんだから。ワタシがどう使おうと勝手だろう。
 あとは野菜を適当に盛り付けて、塩を横に置いてやる。
 そしてあらかじめ沸騰しておいたお湯を、茶葉の入ったティーポットに入れてば、温かい紅茶の出来上がり。
 いやでもマフィンは猫舌なんだ。マフィン用のカップだけ少し冷たい水を入れる。
 こうしているとお店に、食べ物のいい匂いが充満していった。
 これがワタシの日常。普通の朝方。
 あとは寝坊助なマフィンを起こしてあげるだけ。
 しっかりしているように見えて、マフィンは朝にだけはめっぽう弱いのだ。
 マフィンの部屋はワタシの部屋の向かいにある。
 階段を上がって、マフィンの部屋を叩くと。はやりいつも通り返答はなかった。
 ワタシはやれやれと肩を竦めて、マフィンの部屋の扉を開ける。
 別に不法侵入じゃないぞ。こうしないと起きてこないんだからしょうがないんだ。
 マフィンはベットの上で気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。
 マフィンの枕元にある時計をちらりと見ると、もう七時半になっていた。
 このままではまずい。あと一時間半で店は開店時間となってしまう。
 私は焦りを感じて、慌ててマフィンを揺り起こす。
「マフィン!マフィン起きて!」
 しかしマフィンは迷惑そうに寝返りを打っただけで、口元をむにゃむにゃとさせるだけだった。
 一時間半で朝ご飯を終え、身支度を整え、店を軽く掃くのは正直開店時間にはぎりぎり間に合うか間に合わないか、微妙なところだ。
「マフィン!マフィンってば!」
 ワタシはさらに激しくマフィンの体を揺さぶると、さすがのマフィンもまだぼんやりとしているが、重い瞼をうっすらと開いた。
 ワタシはすかさずと言わんばかりに、声を張り上げてマフィンに話しかける。
「マフィン!もう開店時間まで一時間半だよ!起きて!」
「……うん?」
 マフィンは虚ろな瞳をワタシに向けると、本能的かにか、ゆっくりと起き上がった。
 そしてボサボサの髪を揺らして大きな欠伸をする。
 確かに大切な妹を無理やり起こすのはかわいそうだが、仕事だから仕方ない。
 ワタシはまだぼんやりとしているマフィンの腕を掴むと、半分引きずるようにして朝食の用意の出来ている机にと向かった。
 こうしないとマフィンはまたベットの上で寝転んでしまう可能性が大きいのだ。
 実際過去に、このままマフィンをほっておいてしまい大失敗をしたことがあるし。
 もう見慣れてしまった光景だけど、ぽけーと口を半開きにさせたままのマフィンを無理やり椅子に座らせる。
 ワタシも椅子に腰を下ろすと、手を合わせて。
「いただきます」
 それにつられたように、マフィンも手を軽く合わせて。
「いただきます……」
 呟くようにそう言った。
 それからワタシはパンをかじり、野菜を食べて、紅茶を一気に喉に通した。
 初めはゆっくりゆっくりと食べ物を口元に運んでいたマフィンも、だんだんと脳が覚めてきたのか、スピードを上げてパンを食べ始めた。 
 焦っているというのに、一口が小さいせいか、リスのように見えてとてもかわいらしかった。
 マフィンもワタシに次いで早く朝食を食べ終わると、そこからが大変。
 急いで洗面所に駆け込んで、顔を洗い髪形をセットする。
 特に今日の寝癖は激しいから大変だろう。
 それから服を着替えて、バタバタと慌ただしく店に降りてくる。
 この時にはもうすでにいつものマフィンだ。
 もうワタシの中ではこれが日常茶飯事なので、この隙に食器を洗い、いつも新鮮な牛乳や卵を持ってきてくれるおじさんと雑談でもしながらそんなマフィンを待つ。
「お姉ちゃん!ごめんなさい!また寝坊しちゃって……」
「いや。いいんだ。まだ大丈夫……」
 ワタシはマフィンの方へ振り返りそう告げると、おじさんの方へ振り返り軽く会釈をする。
「いつもありがとな」
「いや……もう貴方たちがここにきてからずっとだから。お礼なんていいんだよ」
「……ありがとう」
 おじさんも軽く頭を下げると、帰っていった。
 見慣れた背中。でももうずいぶんと腰の曲がってしまった背中を見えなくなるまで見送って。扉を閉めようとすると、まだ随分と小さいが、その姿を見たくてたまらなかった懐かしいアイツの姿が確かに、そこにぽつんと存在していた。
 ワタシは今まさに掃除を始めようとしていたマフィンにこう呼びかける。
「マフィン……マフィンが一番会いたかった人がやってきたよ」
 そう言って少し微笑むと、マフィンは小さく首を傾げる。
「……会いたかった人?」
 そしてそれが誰なのかを考えて、眉に皺を寄せると、ぴんっとマフィンの頭の中でくる人がいたようだ。
 目を大きく見開いて「……まさか」と呟いた。
 そしてワタシを突き飛ばさんとする必死さで、玄関まで走ってくると。その人影を捉えた瞬間マフィンの瞳が心なしかうるっと涙で潤ったようにワタシには思えた。
「……ミルちゃん!」
 そこにはここの所見る機会はなかった。あの無駄に明るくてこちらまで元気になる無邪気な笑顔があった。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.86 )
日時: 2012/11/23 00:00
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

                *

 まだ開店時間前に来てしまったというのに、シフォンさんもマフィンちゃんも快く私をカフェの中へ入れてくれた。
 これが友情というものだろうか。
 それとも友情という権利を、利用しているだけなのだろうか。
 それは私には分からない……自慢するほどじゃないけど頭もそこまで良くないから。
 しかし何より驚いたことといえば、このカフェのメニューが増えていたことだろうか。
 この前までは「シェフ(シフォンさん)の気まぐれメニュー」程度しかなかったのに……。
 さすがプレッツェル君が言っていた通り、新人さんが入ってきただけはあるな。
「おいミル?何か飲んだりするか?復帰祝いだ。奢るぞ?」
「本当ですかっ!?シフォンさんやっさしぃー!」
 私は常に金欠であるため、できるだけ出費をしたくなかったのだが。そこはまるで私の心の中を読んだようにシフォンさんはそう言ってくれた。
 無論シフォンさんがそう言ってくれているのだ、私が断る理由などなにひとつない。
 私は目をランランに光らせて、メニューの上から下まで隅々に見た。
 いままでシフォンさんには悪いけど、悩むほどのメニューの多さではなかったため、久しぶりに来てメニューの内容が二倍ぐらいに増えていると、何を頼むか迷ってしまう。
 そんな私に痺れを切らせたように、シフォンさんがこう言った。
「いらないのかー?」
「いりますっ!いりますってちょっと待って!」
 私は早くしろと睨んでくるシフォンさんに、焦りを感じながら。メニューと睨めっこした。
「……あ。これいいかも」
「決まったか?どれだ?」
「じゃあ……カフェモカ下さい」
 カフェモカと表示されたメニュー版の横に書かれている、ミルクとチョコレートの入ったほんのりと甘いエスプレッソです。の文字が甘いもの好きの私を誘惑した。
 シフォンさんは小さく笑うと。
「了解」
 もしかしたら、子どもだな。なんて思われて馬鹿にされたのかもしれないな。
 私はそんなマフィンさんに少しムッとしたが、すぐに上機嫌のマフィンちゃんに話しかけられてそんな思いも吹っ飛んで行ってしまった。
「お姉ちゃんの淹れるカフェモカはおいしんですよ」
「そうなの?そりゃあ楽しみだなぁ〜」
「まぁ、ミルもマフィンと同じチョコレート多めだけどな」
 シフォンさんは腰に手をあてて、ニヤリと笑った。
 ……馬鹿にしてる。絶対馬鹿にしてる。
「いいじゃないですか!別に甘いものは脳にも良いんですよ?」
「……わたしまだ子どもなんでしょうか」
 そう一人だけ真に受けちゃってるマフィンちゃんに、さすがロリコン。いやひいきじゃないだろうか?
 シフォンさんは優しく微笑んで。
「いいんだよ。マフィンはそのままで、マフィンは甘いものが大好きな可愛い子でいいんだよ」
 マフィンちゃんは「へ?」というように首を傾げた。
 じゃあなんで私は馬鹿にされるのだろうか。
 もしや私が可愛い女の子ではないからなのか!?
 もしそうだったら相当侮辱されている気がする。
「私はどうなんですか!?」
 シフォンさんにつめ寄って、私は声を荒げてそう尋ねたけど。シフォンさんは鼻で笑って。
 は?みたいな顔をされた。
 もうこれにはさすがに堪忍袋の緒が切れた。
 私は腹から湧き上がる怒りをそのまま吐き出そうと、つまりは怒涛の暴言を吐き散らそうと口を開きかけた。
 その時、女の子なんだからそんなことしちゃダメでしょと、神様が語りかけてくれたかのような絶好のタイミングで、私が見たこともない青年がお店の扉を開けた。
 青年は黄緑色の瞳を、大きく見開いて私を見つめた。
「ちょっと。マカロン君。遅刻よ?」
 そんな私を気に掛ける様子もなく、シフォンさんは普通にその青年に話しかけた。
 どうやら彼はマカロンという名らしい。以外に可愛い名前だな。
 マカロンと呼ばれた青年は、気まずそうに視線を逸らすと。
「汽車が……遅れたんすよ」
「……へぇ」
 しばらく重い沈黙が流れる。
 シフォンさんはマカロンをじぃっとそれはもうしつこいほど睨みつけていた。
 マカロンもマカロンで、漫画だったら大量の冷汗が出てるであろう、緊迫感を醸し出していた。
 やがてシフォンさんは諦めたように、大きくため息を吐くと。
「……汽車が遅れていたんだな」
 自分に語りかけるようにそう呟いた。
 そこで黙っていればいいものの、馬鹿なのかドジなのか、マカロンはシフォンさんがそう言って後ろを向いた途端、ホッと溜息を吐いてしまったのだ。
 そしてそれをシフォンさんが不審に思わない筈もなく。
「……お前、今安心しただろ」
「いやっ!んなことねぇよっ!」
 マカロンは慌ててそう言うが、シフォンさんはマカロンの鼻先に指をさすと。
「またそんなこと言って!どうせまた寝坊なんだろ!汽車が遅れたぁ?そんな情報入ってきてないぞ!」
 ここまで言われてしまっては、もうどう弁解することも出来ない。
 マカロンは精一杯シフォンさんから視線を逸らして、これ以上追及されないようにしたが。それでもシフォンさんの疑心はなくなるわけではない。むしろ更に強まるばかりだ。
 そんなとき、やっとマフィンちゃんがマカロンに助け船をだした。
「ま、まぁお姉ちゃんも落ち着いて、ね?せっかくミルちゃんが来てくれているんですもの」
 ね?とシフォンさんにマフィンちゃんが同意を求めると、妹には弱いシフォンさんのことだ、あっという間に落ち着いてしまった。
 マフィンちゃんは胸を撫で下ろして、マカロンに向き直る。
 その途端マカロンが恥ずかしそうに頬を染めたのは……気のせいだろうか?
「マカロンさんも、これからは遅刻してこないように気を付けてくださいね?」
「お……おぅ……」
 ……ん?やっぱりマフィンちゃんと話すときは、この人の態度が少し違っているように思えるんだけど?
「おい、若造君」
「誰が若造だ!」
「別に嘘は言ってないわよ。年だって二歳ワタシの方が上じゃない。立場だってね」
 シフォンさんはふふんと笑ってみせると、マカロンに指示を下した。
「じゃあ遅刻したってことで、カフェラテを作りなさい」
 マカロンはうげぇという顔をしたが、上司の命令ならば断われない。
 やれやれといった様子で、厨房の奥に消えていった。
 やがて制服に着替えたマカロンが、カウンターに立つ。
 そこでまた私と顔を合わせることになったのだが、ふと疑問に思ったらしく。
「開店前になんでいるんだ?」
 と私に尋ねてきた。
 ……えぇー。今聞くぅ?
 シフォンさんはそんな礼儀知らずなマカロンの頭を思いっきり叩く。
 パシンッ!ととても清々しいが、痛々しい音がカフェ内に響く。
 マカロンは叩かれたところを、とても痛そうに摩りながら。
「なんだよいきなりぃ!」
「お前仮にもお客様だぞ!?もう少し礼儀正しくしなさいよっ!」
 ……シフォンさん、仮にもってひどくないですか?
 マカロンはそれでも私のことをじろじろと見る。 
 まぁ開店時間前なのに、自分の知らない人が店にいて。しかも、シフォンさん(上司)からカフェラテを貰おうとしていたら、だれだって不審がる。
 その気持ちは分かるのだが、それにしたって見すぎではないだろうか。
「あの……マカロンさん?」
「あぁ!分かった!」
「何が!?」
 マカロンは一人納得して、私に無礼にも指をさすと。
「お前ミルクレープだろ?」
 突然私の名前を言い出すものだから、私は驚いて。
「はいっ!?そうですけど……」
 この人に名前名乗ったっけ?
 そう疑問に思ったが、マカロンが私の名前を知っていたのはごく簡単な理由だった。
 マカロンは一人優越感を満喫しながら、嬉しそうにこう言う。
「やっぱりな。この前マフィンちゃんが嬉しそうに話してた」
「あ……そういうこと」
 私がふいとマフィンちゃんに目をやると、マフィンちゃんは照れ臭そうに頬を掻いた。
 私はそんなマフィンちゃんに思わず笑みを漏らしながら、マカロンに「私も貴方のこと知ってました」と話しかけた。
 マカロンは驚いた顔をしたが、頬をほんのりと染めて私に顔を近づけてきた。
 そして耳元でそっと囁く。
「それ……誰から聞いたんだ?マフィンちゃんか?」
 どうしてこのひとはそんなにマフィンちゃんのことを気にするのか?そう思いながらも私も小さな声で囁き返す。
「いえ……違います。私にそう教えてくれたのは」
「プレッツェル君です」と答えた途端、神的なタイミングで当の本人が呑気に登場した。
 遠慮なく「close」の看板を見ても入って来ちゃうあたり、そうとうこの店にお世話になっているらしい。
「……おはようー」
 妙に間延びした声を出したプレッツェルだったが、突然マカロンの頭グリグリ攻撃に急激に目が覚めた。
「いって!いてててってっ!えっ!?えっ!?何何何?急になんすかマカロンさんっ!」
「うるせぇ!お前よくも俺の淡い期待を壊しやがって!」
 マカロンは涙目でそうプレッツェルに話しかけるが、プレッツェルはさらに意味が分からなくなるばかり。
「ええええええ!?」
 ……ああ、かわいそう。
 私はそんな理不尽なプレッツェルに同情こそしたものの、プレッツェルを助けることはせず、離れた所から様子を見つめていた。
 だって面白いんだもん♪

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.87 )
日時: 2012/12/08 20:53
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

 やばい(^_^.)まだ期末試験期間なのに更新してしまったよぉ〜!
 でもま。あと一日!月曜日にすべて終わりますから更新楽しみにしててねー!

                *

 急に頭グリグリ攻撃をくらったプレッツェルは、こめかみを抑えながら私の隣の席に座った。
「いってぇ……」
 そのぼやき方が本当に痛そうだったから、あぁ相当痛かったんだなぁと私は他人事のように思わず苦笑した。
 それを見てプレッツェルが眉を吊り上げて。
「お前なぁ、見てたなら止めろよぉ……」
「ごめんごめん」
 私がへらへらとして謝ると、プレッツェルはキッと涙目で私を睨んだ。
 あ。怒られるかも。と一瞬ビクッとした私をよそに、その睨みは優しい微笑みに変わった。
「まぁ、いいや。こうやってミルが元気にカフェに来られるようになって良かった」
 そう軽く頭を撫でられた。
「……うん。そだね」
 私は俯いてそう答えた。
 撫でられた頭が少しくすぐったかった。
 ふとプレッツェルの右腕が目に入る。
 少しその部分だけ服が盛り上がっていた。きっとその部分に包帯でも巻いているのだろう。
 あ……あそこあの時に撃たれたところだ。
「プレッツェル君こそ。右腕大丈夫なの?」
 私がせっかく心配して聞いたというのに、プレッツェル君はきょとんとした後に、呆れたように首を振った。
 なっ!人が心配してあげたっていうのに!
「お前なぁ……今頃かよ」
「う……」
 確かにそれはその通りだ。プレッツェルは毎日のように見舞いに来てくれたのに今頃気が付くとは、さすがに鈍感すぎるんじゃないのか?……自分。
 私は何も言い返せずに、唇を噛みしめていると。
「でも。ま、心配してくれてありがとな」
 プレッツェルはにんまりと笑って、さらに激しく私の頭を撫で繰り回した。
「ちょっと!やめてよぉ髪形がおかしくなっちゃうでしょう!?」
 私はほぼ反射的にプレッツェルの腕を払うと、プレッツェルが嫌味をたっぷりと込めた笑顔で。
「お前も一応髪形とか気にすんだな」
「なっ!当たり前でしょうっ!」
 まさかそこまで女子力がないと思われていたとは……。これは全力で否定させてもらおうか。
 しかしプレッツェル君は頬杖をついて「へぇ〜」と私をじろじろとそれはもう舐めるように見た。
 これは……確実に疑っているな。
「ちょっ……プレッツェル君……?」
「いやぁでもホント良かったなぁ」
 そうニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてそう言ったのは、マカロンだった。
 私はなんのことかと首を傾げた。
 だって突然話題変えられちゃうし……。
 マカロンはその笑みを私と同じく何のことかと目を点にするプレッツェルに向ける。
「お前のこ・い・し・いミルクレープちゃんが来てさ☆」
 マカロンは「こ・い・し・い」の部分をわざと強調させるため、区切ってそう言った。
 性格悪いんなぁこの人。と私はこの人にまず悪い印象を抱いた。
 プレッツェルはその言葉を真に受けて顔を真っ赤に染めると。大声をあげてそれを否定する。
「誰が恋しいだ!んな訳ねぇだろう!」
「そんなこと言ったってよぉ。そんな風にしか見えねぇぞ?コイツのこと話してるお前」
 マカロンは私を指さしながら、プレッツェルをからかう。
 ていうかコイツってひどくない?
 プレッツェルはそれはもう顔をさらに赤く染めて。
「そんなことだったらマフィンだってそうじゃんか!」
 マフィンを指さしてそう吠えた。
 突然そんなことを言われたマフィンは、「え?ええ!?」と慌てた。
 プレッツェルも今更ながら「やってしまった……」と言いたげな顔をしている。
 そうだね、プレッツェル君やっちゃったね。確実にこの場にマフィンちゃんは無関係だったよね。
 その場の誰もがそう思っていたんだろうけど、この場の全員の視線がマフィンちゃんにと向けられた。
 マフィンちゃんはあわあわとしていたけど、やがてまるで可愛らしい花のようなそれはもう愛らしい笑顔を浮かべて。
「だってミルちゃんはわたしの大切なお友達ですから」
「……マフィンちゃん〜」
 私は素直なマフィンちゃんの言葉に、素で感動してしまい。目を潤ませながらマフィンちゃんに抱き着く。
 マフィンちゃんは驚いたように目をパチクリとさせたが、優しく微笑んでくれた。
「嬉しいよぉ〜ありがとねぇ〜」
「何を言っているんですか。当たり前のことを言っただけですよ」
「それが嬉しいんだよぉ〜」
 マフィンちゃんだけが素直で、私の本当の親友だ〜!だって私のこと苛めないし……優しいし。
 でも「大切なお友達」だって。嬉しいような、少し恥ずかしいような……。
 私がそんなあいまいな感情を抱いて、思わずクスリと笑みを漏らすと。
「え?なにマフィンちゃんとアイツそうゆう関係だったの?」
 マカロンが酷くショックを受けたように、誰にともなくそう尋ねた。
 その問いに淡々に「殺すぞ」と答えになってない答えを返したのはシフォンさんだった。
「殺すって……酷過ぎじゃねぇ?」
「煩い。今すぐ消えろ」
「……ひっでぇ」
 笑顔のままそう冷たく言い放つシフォンさんに、マカロンは傷ついたわぁと言いたげに胸元を掴む。
 その様子をみてついに、というかお約束というか。
「ならいっそワタシが消してあげようか?」
 と愛用の魔法銃に手をかけた。
「嘘!ちょっ待って!嘘だって!ちょっ店長!?」
 マカロンの言い訳に耳を貸すはずもなく、拳銃片手に近づいてくるシフォンさんにマカロンは涙目になりながら後ずさりをした。
「ワタシの大切な妹に変な妄想を抱く奴。あと下心がある奴は……殺す」
 その時のシフォンさんの表情はちょうど見えなかったが、多分ものすごく恐ろしい顔をしていたのだろう。
 マカロンが恥ずかしくも「ギャーッ!!!」と大きな叫び声をあげるほどだったから、多分そうとうなもの……だったんだろう。
 本当に見えなくてよかった。
「ちょっ!下心はねぇぞ!」
 それだけは否定しようとマカロンは声を荒げるが。
「煩い!嘘は通用しないぞ!」
 ぴしゃりと言い返されてしまった。
 マカロンは少し目元を赤くして。
「なっ!嘘じゃねぇよ……」
 ん?あれ?今反応おかしくなかった?
 私は不信感を抱いたのだが、どうやら私以外は誰もそんな思いを抱いているものはいないらしく。プレッツェル君もマフィンちゃんも、まるで何かのネタを見ているように、笑い声をあげていた。
 相変わらず……騒がしいな。
 このお店も、何も変わってない。メニューの量は増えたけど。
 それに人数も一人増えたし。
 さらに騒がしくなったような気もするけど。でもやっぱり私は……。
          何も変わっていないけど。
 私はやっぱり—
      皆好き勝手にギャーギャーやって。
 呆れるくらいに騒がしいけど
      プレッツェル君やマフィンちゃん、シフォンさん。それにマカロンさんもね
皆が好きだなぁ。
      この騒がしさが……好きだなぁ。
 しばらくベットの上の生活が続いて、プレッツェル君や、マフィンちゃんもちょこちょこお見舞いに来てくれたけど。こうやって皆であって、この場所で会話を交わすのは久しぶりだ。
        本当にこの場所に戻ってこれて良かった
 私は心の底からそう思い、みんなと一緒にこの場の雰囲気を楽しもうとした。
 こうやって皆で騒いでいられたら良かったのに。ずっとずっと……。 私が大きく笑いを吐きだそうと口を開けたその時。
『……ウフフ……』
 耳元でそう不気味に囁くように笑う声が聞こえた。


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