コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
日時: 2012/07/10 23:37
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

 ついについについに来ました! 

 どるさんとの合作!

 このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!


 今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。


 それではどるさんと読者さんに感謝しながら、

 このお話を書き進めていきたいと思います!
 
 そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!

  ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
 ↓レッツゴー!!!(^O^)/

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Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.78 )
日時: 2012/11/10 22:58
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)


                *

 先生は急に静かになったかと思うと、ぽつりぽつりとこんなことを呟き始めた。
「……バァーっとしてギュッて感じだが……本能に任せるってことダ」
 先生の瞳は光がうつってはいなく、どこか朦朧としていた。 
 私はそんな先生を少し心配しながらも「……分かった」と返事を返した。
 もう一度私は炎に向き直る。
「本能に……任せるっ!」
 私は炎をキッと見つめて熱い炎に手を翳した。
 ……バァーっとしてギュッ。
 バァーっとしてギュッ!
 何度もその言葉を繰り返す。
 本能に任せる。
 ……なんでだろう。こうやってさきっと同じように炎を操っているだけなのに。
 バァーとしてギュッ……。
 なんだか、いけそうな気がする。
 私は目を固く閉じて、力を一気に開放するように両腕を大きく広げた。
 その瞬間鎖から解き放たれたように炎は勢いを、今までで一番強く増した。
 それを感じた私は、炎を急激に小さくするように、胸の前に腕を持ってきて、自分を抱きしめるようなポーズをとった。
 そうするとなんなく、大きなエネルギーが自分の周りに凝縮されるような気がしたのだ。
 ……少し火の熱さが弱まった気がする。
 私は恐る恐る瞳を開けた。
 もし瞳を開けたその先でも、異常なまでに炎が燃え盛っていたとしたら。それが怖かった。
 しかし瞳の先に待っていたのは、通常の大きさの炎だった。
 炎は風に揺られて右に左にゆらりゆらり悠長にゆられていた。
 ……あれ?
 私は思わず魔法の効果が切れたのかと、一瞬焦る。
 それを確かめようと、慌てて右の手をくいっと動かしてみると、ごおおおおっとさっきよりも明らかに勢いの増した業火が私の顔の寸前までやってきた。
 私は大きく悲鳴を上げて、慌てて意識を炎から逸らした。
 すると炎は操られる糸を切られたように、急激に強さは弱まり、さらにだんだんと勢いをなくしていった。
 私は小さくなっていく炎に安堵の息を漏らし、自慢げに先生の方へ振り向く。
「どうだっ!」
 そして親指を立ててみせ、ウィンクまでしてやった。
 先生はその様子をあんぐりと口を開けて見ていたようで、得意げな私を見ると。苦笑をした。
「あぁ、まいったヨ」

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.79 )
日時: 2012/11/11 15:19
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

  
 その後先生はすばやく薪や燃えカスを片付けると、仁王立ちをして今度はこんなことを言い出した。
「次はお前が初めてやる、風の魔法ダ」
「えぇ!初めてって……無理だよぉ。風の魔法なんか」
 ぶんぶんと私は激しく首を振ったが、先生は何故か自信ありげな笑みを浮かべる。
「大丈夫ダ。ボクがなにも教えていないのにあんな大魔法をやってのけたんダ。それにお前にはもうこれくらいのことが出来るほど、知識を与えたろウ?」
 ……確かに、毎日夜中まで魔法書とにらめっこしてたけど。
 でもいざやってみるとなると、ものすごい緊張で……成功しないような気がしてきた。
 先生はどこから持ってきたのか、少し大きめの石を私の前に用意して。
「風魔法でこの岩を持ち上げてみロ」
 ……岩?岩なんてどこに……?
 岩と言われてそれらしきものを探してみるが、やはり岩に近いものは目の前にある少し大きめな石しか見当たらなかった。
 私は無礼を承知で。
「岩って……この石のことですか?」
「石じゃなイ!岩ダ!」
 先生は可愛らしく……なんて言ったら殺されそうだけど、頬を膨らませてやけに激しく否定した。
 やっぱり、先生もこれが石だということはうすうす気が付いてたんだ。
 でもどうしてこれを激しく岩と言い張るのか、その理由が分からなかったのだが。理由はずいぶんとどうでもいいことだった。
 先生はこれが岩だということを見せつけるように、岩?らしきものを持ち上げようとしてみせた。
 だが大きめの石とは言っても、小さな先生には十分な重さで、よろよろとバランスを崩して、尻餅をついてしまった。
 先生は「イテテ……」とお尻をさすりながら、私に「ほらッ!岩だロ?」と呼びかけた。
 その姿が健気すぎて、私はほろりと涙を流しながら「……うん」と答えるしかなかった。

「……じゃあ行きますよ」
 私は炎を操るときと同じように、両手を前に突き出す。
「……風よ」
 私は風に囁くように、小声で呟く。
 そして私はそっと瞳を閉じた。
 瞳を閉じれば、そこは暗闇の中。
 風が私の周りをくるくると舞い、体の中を通り抜けていく。
 風の存在を確かに感じた。
『……風よ。風よ。』
 そう心の中で呼びかけると、風は嬉しそうにざわざわと騒ぎ出した。
『風さん……お願い。私と踊って!』
[ミル……よ@¥#Д……ろぉИηЖうこぉ……んぅЖでぇ]
 また人の声とは思えない声が耳元で鼓膜を揺らし、それにつられるように瞳を開けると、木の葉と舞う、神秘的な顔をした美しい女の人が私の手を取って、きれいに微笑んだ。
 私はその美しさにぽっと頬を赤く染めたが、ハッと我に返ればそこにあの女の人はいなく、だだっ広い草原が広がっていた。
 しかし私は感じてていた。内から溢れ出る言い表しようのない。この力を—!
 私は静かに岩に向かって手を翳した。
 ……大きく息を吸う。
 まるで体の中に風を吸収するように。
「……上がれ」
 そう風に命令を下し、私は岩を持ち上げるようなポーズをとる。
 先生はその光景を固唾をのんで見守った。
 私も緊張で手にじんわりと汗が滲んだ。
 岩はがたがたと揺れたと思うと、ごごごっと重苦しい悲鳴を上げて岩は宙へ登って行った。
 岩は私の伸長をゆうに越したところまで順調に上がっていった。
 まぁ先生には悪いけどそこまで大きいものでもないので、ここまでは普通だろう。
 だけど先生は口を無防備にもあんぐりと開けて岩を見上げていた。
 そして岩の高さが私の身長の二倍の高さまで上昇した時、ついに私にも限界が来た。
「……もうムリッ!」
 そう喉の奥底から叫ぶと勢いよく岩を地面に叩きつけた。
 どぉんと軽い衝撃が足元を襲って、私はよろめく。
「うわッ!」
 という悲鳴が聞こえて振り向くと、後ろで先生がまた尻餅をついていた。
 私はそれを見て、無意識にいじわるそうな笑みを浮かべると。無性に自慢したイという気に駆られた。
「……どうだっ!」
 先生はそんな私を見上げて、少し恐怖を滲ませた苦笑を浮かべると。
「……お見事」
 まぁそれは仕方がない。
私だって、ちょっとだけ自分が怖くなった。


Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.80 )
日時: 2012/11/12 22:33
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

                 *

 その後も水を使う魔法。木を使う魔法。何種類の魔法をやらされて、ふと気が付くとは時計の針はもうすでに夜の八時を過ぎていた。
 長時間外に出ていたために、洋服もボロボロの泥だらけになってしまった私たちを、ティラミスさんは呆れたように、でも優しく出迎えてくれた。
「お帰りなさい」
 その一言が。心に染みた。
「……ただいまです」
「たただいマ」
 私達はそれぞれに答えて、手を洗い。うがいを済ませてから食卓に着いた。
 その時にはもう午後八時半を回っており、それからティラミスさんの食事の支度を待つこと約三十分。
 私は腹の虫を抑えるのに必死で、それでもぐぅーとおなかがなってしまったたびに先生に笑われた。
 思えば魔法の訓練に必死でろくに水分も食料もとっていなかった。
 よくそれでも生きてられたなと、我ながら少し驚いた。
「できましたよぉ」
 だからティラミスさんのその声が聞こえた時、私たち二人は目を輝かせてまるで猛獣のようにテーブルの上に置かれる料理をじっと睨んだ。
 今か今かと私の腹がぐぅぐぅと激しく鳴り始める。
 それを見てティラミスさんはクスクスと笑うと。「そんなに睨まなくても料理は逃げないですよぉ?」と言った。
 いやでも違うんだ。私たちが料理を睨んでいたのはそうゆう訳じゃなくて、ただその姿だけでも見て腹を膨らまそうとしていたんだ。
 結局は何の効果もあらわれなかったけど。
 最後にティラミスさんが身支度を終えて、席に座ると、私たちは待っていましたというように、姿勢を正して椅子に座りなおした。
「いただきまぁす」
 ティラミスさんののんびりとした掛け声とともに、私たちは正反対の勢いの良さで食べ物に食らいついた。
 ティラミスさんの一つ一つ丹精を込めて作った手料理が、喉を通り胃の中に入っていく度、私は幸福感でいっぱいになった。
 特にこのお肉なんか、口の中に入った瞬間とろけていって……美味としか言いようがない!
 私は頬に手を添えて。
「おいしぃ〜!」
「おいミル。そんなに食べたら太るゾ!」
「あっひどい先生!女の子が一番気にすることをサラッと言っちゃって!」
「お前は女の子の分類に入るのカ?」
 突然先生が真面目な顔をしてそんなことを言いだしたものだから私の怒りはさらに頂点に近づいていき。
「私は純100%女の子です!」
「何ッ!?そうだったのカ!?」
 先生は知っているであろうにわざと大げさに驚いたふりをした。
 私は更に怒りで肩をわなわなと震わせる。
 先生はそれに気が付いて、慌てたように「冗談冗談ッ!」と言ってきた。
 ……まったくもう!先生はデリカシーってものがないのかな!?
 私は怒りにまかして、コップに入っていた水をぐいーっと一気に飲み干した。
 それを見てまた先生が「おぉ……オヤジっぽイ」と聞こえるくらいの大きさの声でぼそっと呟いたので、私は今度こそ言ってやろうと、コップを力強く握りしめた。
「……せんせぇ?」
「悪かったっテ!冗談だよッ!だからその振り上げてる手を下ろそうカ?」
 私はコップで先生の頭を殴りつけてやろうかと思ったが、先生の隣から秘かな殺気を感じたので大人しく腕を下ろした。
 危ない……ティラミスさんがいたんだった。
 先生は大人しくなった私を見てほっとした顔をする。
 いや安心するのもまだ早いよ。今度はティラミスさんのいない場で殺ってやるだんから……。
 まだ私は先生に恨みを持ってはいるが、今日のところは止めておこうかな。殺られる前に殺られそうだし。
「……ティラミス。悪いが塩をとってくれないカ?」
「はい。せんせぇ」
 目の前の二人は幸せそうに食事を満喫している。
 この光景を見るたびにいつも思うんだけど、私もずいぶんとこの家庭になじんできたなぁ……。
 本当に始めの頃は、毎夜毎夜不気味な子守歌(?)を歌われ、食事中には殺気を向けられ……あの時は本当に毎日が地獄だったな。
 どれだけマフィンちゃんたちと暮らしたかったと嘆いたことか。
 しかしそんなこともこの二か月の間でほとんどなくなり、今ではこうしてこの家族の皆と普通にお話ができるようにまでなった。
 きっとこの二人は今までどれだけ私が血と汗と涙の滲む苦労をしてきたのかなんて、思ってもいないんだろう。
まぁ人に言えるほどの多くの苦労もしてないけど。
 だがここまでティラミスさんや先生と仲良くなって、分かったことがある。
 ティラミスさんは、ご覧のとおり、先生……いやノエルloveだ。そして先生に近寄るそれがたとえ宅配に来ただけのお姉さんだとしても、すかさず喉元に剣先を向ける〜!
 さすがにその時は先生もティラミスさんを止めたが、秘かにティラミスさんによってダメージを受けていた私のことは助けてくれなかったね☆
 まぁ本当にちまっちまっしたことだったから気付かなかったんだろうけど。
 そして先生は、族種のせいなのか……長生きが出来ないらしい。
 先生の種族ルクミー族は体も大きくなれずに、寿命はせいぜい四〇歳ぐらいらしいのだ。
 そのためにティラミスンさんは兵士兼学者として国に仕えている。
 何を研究しているのかと言われれば、それは先生を長生きさせるためにくすりやらワクチンやらを研究をしているのだろう。
 それは私だって先生と早くさよならするのは悲しいから長生きしてて欲しいけど、たまに二階を異臭で充満させるのは止めてほしい。
「そう言えばミルちゃん。せんせぇに魔法使いの素質を認められたんですってぇ?」
「あ……はい」
 いつの間にか。まぁ、奥さんなんだから当たり前か。先生は昨日のことをティラミスンさんに話したらしい。
 ティラミスさんは心の底から嬉しそうに目を細めた。
「そう……良かったわぁ」
 私はなんだか照れくさくなって、鼻の頭をぽりぽりとかいた。
「えへへ……」
 別に照れ隠しではないが、私はニカッと笑って。
「これで私も立派な魔法使いですね!」
 しかしティラミスさんは首を傾げて。この気分を一気に落とす言葉を口にした。
「違うわよぉ。ミルちゃんはまだ魔法使いの試験に合格してないでしょう?」
「えっ!?試験なんかあるんですか!?」
 ティラミスさんは知らなかったのというように目をぱちくりとさせた。
 私はどうして教えてくれなかったのかという視線を先生に向けるが、先生は「あレ?言ってなかったカ?」とふざけた調子で返された。
「せんせぇ!」
「いやァ。悪い悪イ。言ってなかったケ?魔法使いを名乗るには試験を受けてこの国の王と王子に認められなくてはならないんダ」

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.81 )
日時: 2012/11/12 22:36
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

 
 え?
 まず始めに襲いかかってきたのは、そんな間抜けな驚き。
 そして嘘……という疑念。
 そして次に襲いかかってきたのは……。
「そんな大事なこと最初に行ってくださいよおおおおお!」
 底知れない怒りの感情だった。
 私は机を強く叩きつけて、そう叫んだ。
 先生は「すまないすまなイ」と言いながらもまったくもってすまなくなさそうな態度はなく、手のひらをひらひらと振った。
 先生はこんなに私が怒っているというのに、何故か爽やかな笑みを浮かべて。
「大丈夫大丈夫。あと丁度二カ月後に魔法使いの検定試験があル」
「そこで合格すれば、ミルちゃんも魔法使いを名乗れるようになるわよぉ」
 私を安心させるようにティラミスは微笑みかけるが、先生はうーんと唸って。
「……まず試験が開始されるかどうカ」
 そう呟いた。
 私は先生の言っている意味が理解できずに、ハテナマークを浮かべるが。ティラミスさんは言っている意味が分かったようで、眉間に皺を寄せた。
「ああ……そうですねぇ。というよりミルちゃんは検定試験に受けたいの?」
 ティラミスさんはふと気が付いたように、私にそう尋ねた。
 私は「え?」と質問を質問で返したが。ああそういう意味かと勝手に理解して。
「もちっろん!だってかっこいいじゃないですか!なんか魔法使いミルクレープ参上!みたいな??」
 私は一人で盛り上がって、適当にかっこよく見えるポーズをとってみた。
 先生とティラミスさんは少し引き気味に「そう……」「そうカ……」と言った。
「でも試験が開始されないかもしれないってどうゆうことですか?」
「それはね。この国の王子様のせいなのよぉ」
 ……王子?
 王子様というのは試験の監査員という、あの王子様のことだろうけど……。問題児の王子様?
 ティラミスさんはほとほと困っているようで、眉間の間を指で摘まむと。
「あの王子様しょちゅうしょっちゅう、脱走するんですよねぇ……」
「……ナルホド」
 ティラミスさんは王国に仕えている身だから、その点については苦労が多いのだろう。
 あ、そういえばティラミスさんといえば。
「そう言えば。ティラミスさんとも明日からはしばらく会えなくなりますねぇ……」
 ティラミスさんはそう言う私を少し驚いたように見つめながら、寂しそうに目を細めた。
「……そうですねぇ」
「そうだナ」
 ティラミスさんは私が急に居候を始めたことや、私の大怪我のせいで城に戻るタイミングをずるずると引きずっていってしまったのだ。
 さすがに休みすぎだと偉い人から釘を刺されたティラミスさんは、明日城に戻ることになった。
 そして今まで休んだという分も含まれ、いつもよりも三倍ぐらいの長期間城で住み込みで働くことになったのだ。
「寂しくなりますね」
 私がそうぽつりと言葉を零すと、皆持っていた食器をテーブルの上において、誰ひとり口を開かなくなった。
 ティラミスさんは目頭を押さえて、俯く。
 ただ部屋には時計が針を刻んでいく音が響いた。
 カチッカチッ……カチッ
 一際大きい音で時計は時を刻んだ。それはちょうど午後十時を刻んだ音だった。
 私にはまるでその音が背中を軽くぽんっと後押ししてくれたように感じて、自然と口を開く。
「……いつ帰ってきてくれますか?」
「え……」
 ティラミスさんが意外そうに目を見開いて顔を上げた。
 私はその瞳をじっと見つめて。
「早く帰ってきてくださいね……。待ってますから!」
 そうニッと笑ってみせた。
 ティラミスさんはその瞬間瞳を潤ませて、滲む涙を見せまいと、目元を隠してそっぽを向いた。
「はい……そうねですぇ」
 先生は優しい微笑みでそんなティラミスさんを見つめていた。
 こうしていると本当に二人は夫婦なんだなって感じる。
 ティラミスさんは涙を拭って、ちょっと皮肉気味にこう言った。
「そうですねぇ。早めに帰って来ますよぉ。ミルちゃんにせんせぇを取られたらたまったもんじゃないですものぉ」
「えぇ!?しませんよ!?」
 先ほどまでの感動的な展開を急に壊された私は、焦ってそう否定したけど、先生は呆れたようにため息を吐いて。
「アイツの話は真面目に聞かなくてもいいゾ。ミル」
「ええ!?」
 ティラミスさんはそうわたわたとしている私を見てクスクスと笑ったが、その顔があまりにも幸せそうなので。私はそんなティラミスさんを咎める気は失せてしまった。
 私も仕方なく、「えへへ……」と笑みを漏らす。
 そんな笑顔の絶えない、もうこの先きっと当分は来ない。三人の夕食。
 私は笑顔で見送ろうと頑張ろうとするのに、その反対でやっぱりティラミスさんがいなくなるのはひどく寂しいと、今でも泣き出してしまいそうな自分がいるのに気が付いて。私はこんなにもこの人たちの間に馴染んでいたのかと驚いた。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.82 )
日時: 2012/11/13 22:06
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

                *

「ティラミスさぁーん」
 いつもよりも呂律のまわっていない声が上から聞こえて、ティラミスがなんだと上を見上げると。
「おやすみなさぁーい」
 とろーんとした目をしたミルクレープが力なく手を振っていた。
 ティラミスも手を振りかえすと。「眠いのぉ?」と尋ねた。
「まぁ、朝早くから動いてましたし……」
 ミルクレープはそう言ったそばから、大きな欠伸をした。
 時計はもう午後十一時を過ぎている。
 なるほど朝早くからあんなに動き回っていれば、くたびれて眠くなってしまうのも当たり前だ。
 ティラミスはクスリと笑うと。
「じゃあ早く寝たほうがいいわよぉ〜?」
「そうですね。そうさせてもらいますよ」
 ミルクレープはまた大きな欠伸をして、部屋の中に入ろうとしたが、ふと立ち止まって。
「おやすみなさい」
 ティラミスに向かってまた小さく手を振った。
 ティラミスもまた手を振りかえす。
「おやすみなさぁい」
 ミルクレープはそれを聞くと満足そうに笑って、今度こそ部屋の中に入って行った。
 ぱたんと扉のしまる音がして、しばらくティラミスはミルクレープの部屋のある二階を見つめていたが、降りてこないのを確認すると、ノエルの待つ居間にと戻って行った。
「ミルハ?」
「……寝たわぁ」
 ティラミスはそう答えながら、静かに扉を閉める。
「……そうカ」
 ノエルは隠しているつもりなんだろうが、そう呟くノエルの顔はまるであの時と同じようで何か大きな壁。それこそ自分だけじゃ解決できないような。大きな壁に当たってしまった時のような。もうどうしたらいいのか分からないという不安が滲み出ていた。
 ティラミスはノエルとは正面の席に腰を下ろす。
「……それで。どうしたんですかぁ」
「……何ガ」
 ノエルはギクッとした表情を一生懸命に隠そうとしているが、残念。ティラミスには何もかもお見通しだ。
「何がって。ミルちゃんのことでしょうぉ?どうせ何かあったんでしょう?自分ではどうにもできないような」
 ティラミスは、嘘は通用しないと忠告するようにノエルを睨む。
 ノエルは今度こそギクリッと肩を揺らして、気まずそうに目を逸らした。
 ノエルは何か言い逃れようと、口を開きかけるが言葉を飲み込む。そんなことを繰り返したが、もうさすがに諦めたのか、小さくため息を吐いた。
「……分かったヨ」
 そう呟くと、強い意志のこもった瞳でティラミスの瞳を見つめた。
「昨日ミルに魔法使いの素質があるのかを調べたのは知っているだろウ?」
「ええ……まさかその結果が間違っていたの!?」
「まさカ!そんな訳ないだろウ!あの儀式は古代から続いているものダ!間違いなど在りえなイ!」
「そうよねぇ……」
 それでは何があったのだろうか?とティラミスは疑問に思ったが、その答えは予想もしていなかった、まさに予想外の答えだった。
「昨日。ミルが空白のページを引いタ……」
 ティラミスはそれを聞いた途端、恐怖で顔が一瞬引きつった。
 額に冷汗がじんわりと滲んでいく。
「それって……あの伝説の魔法使いと同じ?」
「……そうダ。何かの間違いかと思って話してなかったが、今日ミルに魔法の特訓をして確信が持てタ」
 そうか。これがノエルの抱えていた問題だったんだ。
 そうティラミスは納得して、それは一人で解決できる問題ではないなと、苦笑をした。
 自分でも嫌なくらいに、ティラミスの体は恐怖で強張っていた。
 生唾を飲み込み、ノエルが発する次の言葉に耳を傾ける。
「……ミルはあの伝説の魔法使いと同じ、自然に愛されて生まれた偉大な子ダ」
「そんな……この世の全ての物質から愛され、常人とは比べられないくらいの威力の魔法を使えるというあの、伝説の魔法使い?この歴史上にもたった一人しかいないですよぉ?それなのによりによってミルちゃんが……」
 あぁ、なんという偶然か。いや。必然なのか。
 ティラミスはそこまで早口で告げると、力なく椅子に凭れた。
 ……ありえるのだ。ミルクレープがこの歴史上で二人目の、自然に愛されて生まれ、この世の全ての力を操れるというあの伝説の魔法使いと同じ力をもつ者だということは—!
 ティラミスはそこまで理解すると、失笑を漏らした。
「ありえるのね……」
「あァ……」
 ノエルは小さな声で頷くと、ふと窓の外に目を向けた。
 窓の向こうには綺麗な満月が、まるでそこだけ世界が違うかのように怪しい光を纏って、ぽっかりと浮いていた。
「ボク達はこのことを、喜べばいいのカ。それとも呪えばいいのカ」
「さぁ。どちらなんでしょうねぇ」
 その時、まるでこの時を計らっていたかのように。この沈黙を埋めるかのように。時計の針はちょうど午後十二時を指して、「ボーンボーン」と心地よい低音が二人の鼓膜を静かに揺らした。


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