コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
- 日時: 2012/07/10 23:37
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
ついについについに来ました!
どるさんとの合作!
このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!
今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。
それではどるさんと読者さんに感謝しながら、
このお話を書き進めていきたいと思います!
そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!
ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
↓レッツゴー!!!(^O^)/
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- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.93 )
- 日時: 2012/12/11 22:29
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
元気に声を合わせる私たちにプレッツェル君は、ほとほと呆れた声を出す。
「……お前らなぁ」
「プレッツェル君にはこのネックレスの可愛さが分からないんだよっ!」
私はベーと舌を思いっきり出してやった。
プレッツェル君は少し困ったように眉をひそめてから。
「いや、分かったら逆にキモいだろ」
「……そうなんだけどさ。別にそんなに真剣に答えなくてもいいじゃん」
小母さんに一五〇シュガを渡しながら、そう言うと、ふと綺麗な指輪が目に留まった。
それを手に取ってまじまじと見つめる、別に私が好きそうな可愛いものではないけど、十字架のついたそのアンティーク調の金色の指輪を見たとき、何故かお婆ちゃんの顔が頭に浮かんだ。
あ……これお婆ちゃん好きそう。
そう思ってついついまじまじと眺めていると。
「それも欲しいのかい?二五〇シュガだけど」
「あ……いえ。別にそう言う訳では……」
一度は断って、テーブルの上に指輪を置きかけたけど、ふとなんだかここで買わないと後に後悔するような気がして、その手を止めた。
小母さんは「どっちにするんだい?」と言いたげに首を傾げている。
頭の中でお婆ちゃんの懐かしい顔が幾つも幾つも浮かんでいく。
そして気が付いたときには、「買います……」と口を零していた。
小母さんはにっこりと笑って「それじゃあ二五〇シュガね」と手を差し出してきた。
こんなに優しそうなのにちゃっかりしてるなぁこの人。
と思いながらもなんだか憎めないこの人に二五〇シュガを渡す。
「ありがとね」
とにこやかに笑う。小母さんに軽く会釈をして出店を後にする。
「何を買ったんですか?」
そう尋ねられて先に店から離れていたクレソンさんとバニラちゃんは、私が何を買ったのか知らないんだと気が付く。
別に大したものでもないんだけどね。
「お婆ちゃんにお土産です」
「お婆さんに?ミルクレープさんは優しいですね。………ところでお母様は?」
まぁ、普通親離れしてここまできた娘が買うならば、お婆ちゃんではなくお母さんに買うと思うのが道理だろう。
何故お婆ちゃんにお土産を買うのかと不思議に思うのも分からなくない。
でもこの話題はそんなに他人に知られたくなかったんだけどなと私は小さくため息を吐く。
「お母さんは、私が小さいときに町に出て、今でもどこかで魔法使いとして立派にやっているとお婆ちゃんから聞いていますけど、本当はどうしているのか分かりません。お父さんも行方不明です」
「……そうか」
クレソンさんは少し悲しそうに目を伏せる。
なんだろう?憐れんでいるというよりも、その瞳は酷く悲しそうな悲壮さを感じた。
「ところでプレッツェル君はさっき何をあの小母さんに尋ねてたの?」
私より少し後に駆け寄ってきたプレッツェル君は、少し気まずそうに視線を逸らして。
「なんでも……ねぇよ」
「……ふぅん」
この時私は特にこの微妙な反応を気にはしていなかったんだけど、どうやらプレッツェル君はあの小母さんに「本当にこの値段は負けてくれた値段なのか?」と尋ねたらしいんだけど、小母さんは怪しく笑っただけだったらしい。
結局このネックレスは安く売ってもらったのかは分からなかったし、この事実はプレッツェル君だけが知っていることなので、もちろん私たちはこのことを知らない。
でもまぁ、知らないほうがいい事実ってあるよね?
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.94 )
- 日時: 2012/12/11 22:31
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
「でも可愛いなぁ〜このネックレス」
私は胸元にぶら下がる可愛いお花のチャームをちゃりちゃりといじって、笑みを漏らした。
バニラちゃんも自分の胸元に垂れ下がる、色違いのお花を見つめて「そうですね」と笑った。
「それに、これは私に似合うっていうプレッツェル君のお墨付きだし」
「ミルさぁ、オレなんかに褒められてそんなに嬉しい?」
プレッツェル君は私にそんな、すっとんきょんな質問を投げかけてくる。
そりゃあ、褒められたら誰でも嬉しいに決まっているのにね。
私は大きく頷きを返す。
「もちろん。すっごく嬉しかったよ!ありがとうねっ」
「……へぇ〜」
プレッツェル君は少し目元を赤くして、照れてることはバレバレなのに、わざと興味がなさそうにそっけない返事を返してきた。
……可愛いな。なんて思っちゃったけど、口にしたら相当本人から怒られそうなのでやめた。
クレソンさんは顎に手をあてて、「ほう」と私に顔を寄せてくる。
この顔は、明らかに妙なことを考えているときの顔だ。
私はクレソンさんに警戒心を抱いたまま、近づいてくるクレソンさんの顔を見つめ返す。
「それならば、俺が貴女に数えきれないほどの褒め言葉を囁いてあげようか?もちろん……それ以外も」
「結構です。鬱陶しいんで」
私はげんなりとして冷たくそう言いかえす。
この人は……突然何を言い出すのやら。酔ってるのかな?
クレソンさんはその言葉を聞くと、顔を遠ざけて全然残念じゃなさそうな表情をして。
「それは残念だ」
……何を仰いますやら。だ。
プレッツェル君は実に子どもっぽい嫌味な顔を浮かべて。
「フラれたな」
この二人は、とことん子どもっぽい。
まぁ、年上の人にそう思うのはどうなんだろうって思うけども。
クレソンさんはプレッツェル君に軽い睨みを向けると、業とらしい大きなため息を吐いた。
「今のは冗談だよ。まったくそんなことも分からないほど君は馬鹿なのか?」
「なんだとっ!?」
クレソンさんもクレソンさんだ。こんあ子どもじみた挑発なんて無視しちゃえばいいのに。まぁ、それくらいクレソンさんもまだ子どもっていうことか。
私はこんな馬鹿な二人はほっておいて、バニラちゃんに話しかける。
「でも嬉しいな、お揃いだねっ!」
バニラちゃんは恥ずかしそうにはにかみながら。
「……そうですね」
あぁ、可愛いなぁ〜。
思わずにやけそうになる頬を、軽く抓ってから、また私はバニラちゃんに話しかける。
「バニラちゃんはピンクとか似合うよねっ!」
「そうですか?でもまぁ、私こんな色の服しかもってませんし……」
そう言って、バニラちゃんの服装に目をやると。
フリルがたくさん施されたブラウスに、ピンクと白のしましまのふんわりとした大きなスカート……。
おぉ……。これはまた他の服装が気になる……。
やっぱりバニラちゃんの私生活も「小鳥さんとお喋りができるの❤」って言い出しそうなファンシーさが漂ってるなぁ。
「そう言えばさ、バニラちゃんって私のことミルクレープさんって呼ぶよね」
「はい?そうですね」
バニラちゃんは突然何を言い出すのかと、首を傾げる。
そんなバニラちゃんに、なんか自分で言うのもなんだけども。
「それ長くない?噛まない?」
「いえ。大丈夫ですけど」
バニラちゃんがさらに意味が分からないと、眉間に皺を寄せる。
もうっこの流れで読み取ってよぅ。
私は頬を膨らませて、不機嫌さを露わにする。
だけど、さらにバニラちゃんの眉間の皺が深くなっただけだった。
しょうがないなぁと、私は息を吐いて。
「あだ名で呼んでよ」
「……え?……あぁっ!」
バニラちゃんはやっと理解してくれたようで、手を叩いて、大きな声をだす。
それをもっと早い段階でして欲しかった。
バニラちゃんはその後うんうんと何か考えるように唸っていたけど、突然私に振り返って、明るい笑みをみせた。
「じゃあ……ミルちゃんって呼んでもいいですか?」
ミルちゃん……なんだろう。こうゆう可愛い系統の人たちは皆その名前で私を呼ぶんだね。
私が微妙な顔をしていると、バニラちゃんは心配そうに顔を覗き込んできた。
「あの……駄目ですか?」
「いやっ!別にいいよ!これからは絶対その名前で呼んでよねっ!じゃないと返事しないからっ!」
「はぅっ!頑張ります……」
「そこ頑張るとこっ!?」
私が驚いていると、バニラちゃんは恥ずかしそうに俯く。
「実は……今まで友達と呼べる人がいなくて」
「そうなのっ!?……もしかして、今まで小鳥さんがお友達だったりしないよね?」
もしそうだったら、ちょっと友達の件はどうしようか迷うんだけど……。
バニラちゃんは良いことに、「はい?」と小首を傾げて。
「別にそんな痛い子じゃないですよ」
「あっ……だよねぇ〜」
良かったぁ〜!バニラちゃん痛い子じゃなくて良かった!
そう一人心中で喜んでいると。
バニラちゃんが照れくさそうに、ネックレスを私の方に掲げて。
「じゃあこのネックレスは、友情の証ですね」
と言って、はにかみながら笑った。
私もニカッと笑い返して。
「うんっ!私達友達だねっ!」
これで、私達は知り合いレベルから友人レベルに格上げされたんだ。
そんなちょっと映画の盛り上がりシーンにもなりそうな、感動的な場でクレソンさんが小さく咳払いをする。
「なんだか、青春の一ページを見ているようで。まぁ別にそれは良いんですけど。貴方たち本来の目的忘れてませんよね?」
「目的……あ」
私がハッと声をあげると、クレソンさんの呆れかえった視線が飛んできた。
「……やっぱり」
すみません。完全に忘れてました。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.95 )
- 日時: 2012/12/12 21:26
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
「イタタ……」
のっそりと樽の中から出てきた人は、どうみたって豪華な服装に、只者ではなさそうな気品あふれる雰囲気。
そんな場違いな雰囲気を漂わせる青年は、どうやら頭を打ったらしく。後頭部を摩りながらゆっくりと顔をあげた。
「申し訳ない……お見苦しい姿を見せてしまったのである」
「い……いえ?」
である?
青年はサラサラの前髪を掻きあげて、にっこりとほほ笑む。
「実はある人物から逃げていたのだ」
「だから樽の中に……」
「まぁ、それもあるのだが。私は樽の中が好きなのだ!」
まばゆい笑顔でそう言い切るその人に、私の頭は一瞬ぴしりと固まる。
「……はい?」
何を言っているのか理解できずに、聞き返す私とは正反対にプレッツェル君は私の隣にしゃがみ込むと。
「そんなんじゃいつか窒息死するぞ。キル」
「キル?」
この人も何を言っているのやらと首を傾げると、キルと呼ばれたその青年は「あぁっ!」突然大きな声を出して。
「真かっ!?……ん?もしかしてプレッツェルではないか?」
「えっ」
何故この人がプレッツェル君のことを知っているの?しかもフルネームで呼ぶということは相当親しい仲にも見える。
私はプレッツェル君に勢いよく振り向く。
プレッツェル君も爽やかな笑顔を向けて、片手をあげた。
「よっ」
なっ!?
「久しいであるな。しかしこんな場所で出会うとは、運命を感じてしまうなっ」
嬉しそうにそう言う青年に、プレッツェル君は少々青い顔を向ける。
「……感じないでくれよ」
ちょっと。待ってよ!なんか勝手に運命の再開的な場面になってるけど。私まったくもって何が何だか理解できてませんよっ!?
だいたいなんでさっきからクレソンさんは気まずそうに顔を隠しているんですか!
聞きたいことは山ほどあるが、あまりの急展開に、私はアホみたいに口を開けているしかなかった。
そんな私を見てプレッツェル君はやっと気が付いてくれた。
「オレとキルは昔からの仲なんだよ」
「……へぇー」
私はプレッツェル君の格好と青年の格好を見比べて、なぜこの人たちの仲がいいのか疑問に思ってしまった。
この青年が身に着けているのはどれも豪華で派手な、うん千万はかかりそうな物ばかり。
反対にプレッツェル君の身に着けているものは、どれもボロボロで、ところどころ色落ちしてしまっているし、明らかに庶民って感じだ。
ますます訳が分からない……。
そんな私の前にすっと出された手、ふと見ると腕にもそうとう豪華そうな腕輪がじゃらじゃらとしてあった。
「名乗るのが遅れてしまったであるな。私はシュヴァルツべルダー・キルシュトルテ。花の十八歳である」
そう爽やかに、ものすごく恥ずかしいことを口走ってしまうこの人に、私が恥ずかしさを感じながら。
「はぁ……」
と差しのべられた手を握り返す。
「私はミルクレープ……十六歳です」
名乗られたならばこちらも名乗るしかない。それに向こうは何故か年まで言ってしまったので私も年を言うしかなかった。
キルシュトルテさん……言いにくいからキルさんでいいか。
キルさんは業とらしく体をのけ反らせて。
「なんとっ!」
酷く驚いた態度をとった。
でもその反応一つ一つがどこかお芝居っぽいんだよねぇ。
「年下であったか。大人っぽいであるな」
「そんなこと言われるの、初めてなんですけど……」
「なんとっ!」
と奇妙なやり取りをしていると、プレッツェル君は少し心配そうな眼差しをキルさんに向けて。
「て言うかキル大丈夫なのか?こんなところにいて」
「え……?」
別にキルさんがどこにいても問題はないでしょ?一国の王子ならまだしもキルさんが貴族とかだったら別に……。
「キルシュトルテ王子—!」
どこから聞き覚えのある声が。
て言うか、いま王子って言わなかった?
そう思っていると、遠くからかけてくるのはもう見慣れてしまった軍服を着た、濃い赤毛色の髪の毛ってあれ……?
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.96 )
- 日時: 2012/12/12 21:26
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
「シャルロットじゃん!」
私は驚いてそう声をあげると、どうやら向こうもこちらに気が付いたらしく。さらに小走りになって近づいてくる。
その姿が大方分かるようになると、はやりそれはシャルロットだった。
「あれっプレッツェル様……それにミルクレープと」
そこまで言うとシャルロットは目に力を込めて。
「休暇中の筈のクレソンさんまで……」
クレソンさんはそう言われると微かに肩を揺らした。
なるほど、それでさっきから顔を隠していたんだ。
でもそうなるとなんでキルさんの前でも顔を隠す必要があったのかという疑問が残ってしまう。
「あれっクレソンだったのであるか?」
キルさんは少し驚いた顔をして、クレソンさんに指をさした。
クレソンさんは気まずそうにそろりと、顔が見えるようにこちらに向けると。
「……どうも」
「って……あれ?て言うことは」
そうキルさんがふと何かを思いついたようなことを口走った直後。
「待ってくださいよぉー!シャルロット幹部!」
「まったくシャルロット様はいつも惚れ惚れするほど足が速いんですネ」
「そんなプリンも走り方可愛いよぉ。短い脚で頑張っているんだねぇ」
と、軟弱そうな女なのか男なのかはっきりしない奴と、これまた先生と同じ種族の兵士。それとどこかふざけた雰囲気の女の人が駆け寄ってきた。
「遅いですよ皆さん」
シャルロットは後ろを振り返り、少し責めるようにそう言った。
軟弱そうな兵士は、息も絶え絶えになって。
「……すみません」
先生と同じ種族の兵士は、軽く目を伏せて。
「すみませン。なんせこんな体なのデ」
と明るく冗談めいた言葉を言ってみせた。
女の兵士はニヤニヤと笑って。
「でもそんなプリンちゃん可愛いよぉ〜」
シャルロットは大きなため息を吐いて。
「まったく……貴方たちは」
そしてふと気が付いたように私達に振り向くと。
「あ、この人たちはわたしの部下なんです」
「シャルロット部下なんていたの!?」
「わたしこれでも結構上の地位にいるのよ」
シャルロットは自慢げに腕を組んでみせたが。
「シャルロット……お前すごいなっ!」
とプレッツェル君に素直に褒められてしまったので、恥ずかしそうにはにかみながら「……はい」と頷いた。
この反応の差は一体……。
「申し遅れました!僕はスノーボールと申します」
「ワタシはプリン・ア・ラ・モード」
「アタシはサンデーよ」
「「「以後お見知りおきをっ!」」」
そう言って三人の兵士さん達は私達に深々と頭を下げてきた。
「あっはい。こちらこそ……」
私は少し戸惑ってから深々と頭を下げ返した。
そこでふとシャルロットが「ブランさんは?」と部下達に尋ねた。
スノーボールが言いにくそうに視線を逸らして。
「それが……途中で見失ってしまいまして」
「またですかっ!」
シャルロットは珍しく大きな声を出して、疲れ果てたように額に手をあてた。
「……まぁしばらくしたら帰ってくるでしょう」
そしてちらりとプレッツェル君を見ると、すぐにまた視線を外した。
……なんだろ?
私もプレッツェル君に目をやるが、プレッツェル君は「さぁ?」と肩を竦めるだけだった。
「さぁ、では帰りますよキルシュトルテ王子!」
そう言ってシャルロットはキルさんの腕を強く引っ張る。
キルさんは涙目になって「嫌だー!」と駄々を捏ねるが。え……て言うか。
「王子ぃっ!!???」
狭い路地裏に私のすっとんきょんな叫び声が響き渡る。その途端シャルロットの伊掌が私の口元に直行してきた。
「むふっ!?」
口元をふさがれて、ろくに声の出なくなった私にシャルロットは鬼の形相で「しーっ!」とジェスチャーをする。
私が分かった分かったとコクコク頷くと、やっと口元が解放された。
「ぷはっ」
と思い切り息を吸い込む。
でも驚いたな……確かに随分と豪華な格好はしてるとは思ってたけど、まさか本当に王子様だったとは。
「嫌だー!私は広いところは嫌いなのだー!」
「我儘を言わないでください!早く貴方も一国の王としての自覚を持ってくださいよ」
「嫌だぁー!」
相変わらず嫌だ嫌だと体を捻じらせるキルさんにシャルロットは最後の手段と言うように。
「これはティラミス様の命令なのですよ!破ればどうなるか分かっているでしょう?」
私は驚いて、口元に手をあてると。
「ティラミスさんの命令っ!?」
ティラミスさんが兵士なのは知っていたけど、結構上の立場にいるというシャルロットに命令を下せるなんて、そうとう上の立場にいることになる。
スノーボールは目を見開いて。
「ティラミス様をご存じで?」
「え……あ。はい」
曖昧な返事を返しつつ、私はティラミスさんが相当偉いという事実にとても驚いていた。
「そうですか」
スノーボールはにっこりと私に微笑んで、兵士なんてものにまったく知識のない私にも分かりやすいように説明をしてくれた。
「僕たち兵士の中で一番偉いのは、それはもう国王様とは決まっていますが、その国王様の部下、我々にも地位というものがあるのです。そして国王様の次に権力があるのは、ティラミス様のいる医療班。というかほぼティラミス様しか活躍していませんのでほぼティラミス様に権力があっていいと言っても過言ではありません。そしてその下にあるのは『北の班』『南の班』『西の班』『東の班』と呼ばれる四つの班なのですが、僕たち『南の班』は少し他の班よりも地位が上でして、『南の班』をまとめる幹部長ティラミス様は事実兵士の中で四番目の権力のあるお方なんですよ」
長々とした説明の後で、私は「はぁー」と呆けた声を出してしまった。
こんな詳しい説明を聞いた後で分かったことは、ティラミスさんが確かに私が思っていたよりも偉かったことだった。
「そして」
と突然出てきたのは、得意げなクレソンさん。
クレソンさんは胸に手をあてて、高々とこう言った。
「そして俺が、そのシャルロット幹部不在の時に、幹部長代理として勤める者。つまりは五番目に権力のある男ってことです」
……この人は。
シャルロットは嫌な記憶でも思い出させられたように、眉をひそめると。
「そうですよ。まったくティラミスさんにでもこんな命令されなければ……ブランさんとなんか……いえ。気にしないでください」
シャルロットはふと我に返り、頭をぶんぶんと振ると。ずいっとキルさんに顔を近づけると。
「ですから!国王が「キルがいないから寂しくて仕事できない〜」って泣いていて正直なだめるのが面倒くさいので、キルシュトルテ王子を連れて帰るようにとのティラミスさんの命令なんです!」
「嫌なのだー!」
キルさんはそれでも一向に帰る気などおこらないのか、懸命に逃げ出そうとするが、シャルロットとその部下に勢いよく引っ張られて、力でずくでは逃げられないと直観したのか。
突然呆然としている私を指さして。
「僕はミルクレープとこれから……そのっかっ……駆け落ちする約束なのだ」
「そんなバレバレな嘘を吐いたって意味ないですからね。それにもしそれが本当だとしても全力で阻止させてもらいます」
いきなりそんなに顔を赤くして、ここから逃げる理由に使われても……。
キルさんは「うっうっ……」と嗚咽をしながら、ずるずるとシャルロットに引きずられていく。
「たすけてぇ……」
そうこちらに助けを求めるも、誰も彼に救いの手を差し伸べるものはいなかった。
私達は苦笑いをしながら、小さくなっていくキルさん達を見送るしかなかった。
プレッツェル君は頭の上で手を組み。
「それにしても偶然こんなところで会うとは……」
「キルシュトルテ王子の言う通り、運命なんじゃないのか?」
ニヤニヤしながら嫌味っぽくそう言うクレソンさんに、プレッツェル君は軽い睨みを飛ばすと。
「それにしても随分と時間を食っちゃったなぁ……」
「そうだねぇ。ごめんねバニラちゃん」
「いえいいんですよ。楽しかった……」
「バニラちゃん……良い子っ!」
そうやんややんやと、人形遣いの住む家へとまた歩みを進めようとする私たちを、まさか後ろからつけている不審な男がいるなんて、誰が。誰が思っただろうか—。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.97 )
- 日時: 2012/12/16 21:19
- 名前: 緑野 柊 (ID: wZGUtZTa)
第十一魔法 人形
「……着いた。ここが人形遣いの館か……」
人形遣いの館と呼ばれる建物は、建物全体に蔦を生やさせて、見るからに不気味な雰囲気を漂わせていた。
私は身震いをさせ、その館を見上げる。
「確かにこれは……なにか陰険な空気を感じるな」
プレッツェルも、薄寒そうに腕を摩って建物を見つめた。
「今すぐにでも飛び込みたい気持ちは山々なのだが……こんな時間じゃなぁ」
クレソンは顔を歪めて、そうぼやく。
そう、なんせ今はもう午後八時くらいになるのだろうか。
辺りはもう真っ暗闇だった。
クレソンさんは深いため息を吐いて、私達を指さすと。
「まったく貴様らはどれだけ問題ごとに巻き込まれれば気が済むんだっ!」
まぁそう思うのも無理はない。
私達はあれから疲れた足を癒すために、喫茶店に寄ればそこで客と客との殴り合いが起きてしまい。それを中和させるのに随分と時間がかかってしまったのだ。
「この暗さでは、まったく情報のない敵の懐に突っ込んでいくのも危うい。どうするか……」
クレソンさんは考え込むように、顎の下に手をあてた。
とその時、遠慮がちにバニラちゃんが手をあげ。
「あのぅ……良ければ家に泊まっていきますか?」
という訳で、私達はバニラちゃんの家に一泊することになったのだ。
「……ふぅー。いい湯だったぁ」
私は風呂上りで火照った体を、手で仰ぎながら。感謝の言葉を口にする。
「ありがとうね、バニラちゃん」
バニラちゃんは「いえいえ」と言いながら、親切にも湯上りの私に温かい紅茶を出してくれた。
なんて優しいんだろう。ここまで優しい人はそういないに違いない。
私はそう感じながら、紅茶の置かれた前の席に腰を下ろす。
「良いのにここまでしてくれなくても……」
「いえ。元はといえば私が皆さんをここまで連れて来たんですもの。これくらい普通ですよ」
「……そっか」
そう言われると妙に納得してしまう。
確かにバニラちゃんがここに連れてこなければ、変なチンピラの喧嘩を止めることをなかったし。
でも逆を言えばバニラちゃんにここまで連れてこられなければ、私はあのちょっと(?)変わった王子様にも会えなかったし、陽気なシャルロットの部下とも会うことはなかった。
だから結果的には私に起きたことは良いことの方が多かったのに……。
私は胸元で光るバニラちゃんとおそろいのネックレスをじっと見つめた。
「冷めないうちに早く飲んじまえよ」
そうプレッツェル君に話しかけれて、顔をあげた私は呆気にとられる。
プレッツェル君は仮にもここに泊まらせてもらっている身だということをもはやすっかり忘れてしまっているかのように、とてもリラックスとした状態だった。
どうやら風呂上りにバニラちゃんから牛乳を出されたらしい、口の周りを白に染めていた。
「……何風呂上りの一杯やってんのよ」
「別にいいだろうが、人が何やってても」
「私はここが他人の家だから言ってるの!」
ちょっとムッとした表情で言うプレッツエルにカチンと来て、思わず机をたたいてそう抗議すると。
「まぁまぁ、ミルちゃん。いいんですよ別に」
あくまでも他人の家であるのにこんなにリラックスしまくっているプレッツェル君を、バニラちゃんは笑って許してくれているというの!?
私はその優しさに涙が出そうになる。
「本当にうんざりしたらこんな奴殴ってやってもいいからねっ?」
「殴る……ですか」
「おいコラッ!オレだから殴ってもいいとかそんなルールねぇぞ!」
まぁ今勝手に作ったルールだからそう思うのは当然なんだけど。
私は声を張り上げてそう否定するプレッツェル君を無視してバニラちゃんに笑いかける。
「ね?」
「ね?じゃねぇっ!」
プレッツェル君は拳を握りしめてそう言いかえすが、バニラちゃんも私と同じようにプレッツェル君をガン無視して。
「力が足りるかどうかわかりませんが、がんばります!」
ちょっとたくましく言い切るバニラちゃんは、力強く拳を握りしめた。
「がんばるなっ!!」
プレッツェル君は眉をきつく吊り上げて、もう夜も遅いというのに大きな叫び声をあげた。
私はわざと耳の穴に指を突っ込んで、うるさいよアピールをした。
もちろんたくさんの嫌味を込めて。
そしてふとこんな状況で一番早く嫌味を言い出しそうな人がいないことに気が付く。
「あれ?クレソンさんは?」
「眠いからって先に寝たぞ」
「えマジでっ!?早っ!」
まぁもう時刻は午後十時を回ってはいたけども、大人の人から言えばまだまだ夜は長いぜっ☆なんて言うものだと思っていた。
それは私が大人の人に偏ったイメージを抱いているからなのか?
「でも意外だよな、あの人が早寝だなんてさ」
どうやら私と同じようなイメージをクレソンさんに抱いていたらしいプレッツェル君が腕を組みながらそう言った。
「まぁ東の国でも人も見かけによらずって言うみたいじゃないですか?」
「そうなのか?」
バニラちゃんが小首をかしげながら気を利かせたことを言ってくれたのに、プレッツェル君はどうやらその言葉を知らなかったようで、会話がそこで途切れてしまった。
……はぁ、まったく。なんてその言葉を知らなかった私が言えることじゃないけど。
バニラちゃんは引きった笑みを浮かべて。
「まっ、まぁそう言う言葉があるんですよっ」
「へぇそうなんだ。でももっともなこと言ってる気がするな」
「まぁこの世界本当に人は見かけによらず……だもんねぇ」
言いながら私は視線をプレッツェル君に向けた。
視線に気が付いたプレッツェル君は不思議そうに眉をひそめた。
「なんだよ」
「別に……」
本当意外だよね。まさかプレッツェル君が王子様と仲が良かったなんて。
でもまぁ今でもなんで仲が良いのかの理由は分かんないけど。
そうひっそりと思っていると、プレッツェル君は大きく欠伸をして伸びをした。
本当にここが他人の家だと理解しているのか不安になるリラックスのしよう。
この人は私達がここにいることをちゃんと理解しているのかどうか少し不安に思う。
「でも確かに眠くなってきたなぁ」
「今日はたくさん歩きましたしね。私も少し眠いです」
バニラちゃんも眠たそうに眼をこすって、口元を手で隠して可愛く欠伸をした。
この欠伸の仕方の差を見ると、生まれ育ち方がよく分かるなぁ。
でもまぁ二人がそう言いだしたら、何だか私まで眠くなってきてしまった。
私はバニラちゃんがせっかく出してくれたた紅茶を残したら悪いかなと思ったから、少し冷めてしまったその紅茶を一気に喉に流し込んだ。
ちょっと人工的な不思議な味がしたけど、私は気にせずにすべてを綺麗に飲み干した。
「じゃあ私も寝ようかな」
さてと、と席から立ち上がると、プレッツェル君も椅子から重たそうに腰をあげて。
「じゃ、オレも寝るわ」
「私ももう限界です……」
最後にバニラちゃんが今にも倒れこんで床で寝てしまうんじゃないかと思っちゃうほど、眠たそうに目をしばしばとさせながらそう言った。
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