コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
- 日時: 2012/07/10 23:37
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
ついについについに来ました!
どるさんとの合作!
このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!
今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。
それではどるさんと読者さんに感謝しながら、
このお話を書き進めていきたいと思います!
そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!
ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
↓レッツゴー!!!(^O^)/
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- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.118 )
- 日時: 2013/01/20 21:56
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
第十三魔法 一筋の光
*
あぁ、ほらまただ。
最近不思議な夢を見る。
私は何故か暗い闇の中にいて。そこはだだっ広い、闇。だた深い孤独の闇。
私は怖くていつもそこに蹲って泣き出してしまうんだけど。そうやって一人で泣いていると。
ふと一筋の光が私の濡れた頬をほんのりと照らして、そう問いかけてくる声が聞こえる。
責めるのでもなく。ただ優しい響きを残す。
私はその問いにいつも答えることは出来なかった。
だって、ここでずっと泣いていてはいけない。
ちゃんと分かっていたから。
だから私は黙り込む。だけど声はふふっと笑いを漏らすと。
「君はそこで泣いてちゃだめだ。早く顔をあげて立ち上がるんだよ」
そっと頬に温かい手が触れたと思うと、光は急に強さを増し。薄らと目を開けるとそこには見慣れた天井。
涙で視界がぼんやりとしている。
一体何なのか。この夢を見だしたのはごく最近のことで。そう、思い出したくもないあの時の出来事のすぐ後だ。
一度は不思議な夢だったな。その程度のことしか思っていなかったけど。こう毎日のように同じ夢を繰り返すと、逆に誰かにこの夢を見せられているんじゃないかと。そう非現実なことまで考えてしまう。
チャリ。
金属が擦りあわされるような音がして自分の左手にふと目を落とすと。そこには確かに彼女との友情の証が握られていた、
あの炎の中で、彼女が一生懸命に腕を伸ばして渡してくれた。お揃いのネックレス。
そんなことない筈なのに、まだこのネックレスにあの時の温度が、残り火が残っているような気がして。左手が疼いた。
忘れようと、もう泣かないと。そうしなくちゃいけないと。そう強く思っている筈なのに。
朝起きて手の中にある、証を見てしまうと走馬灯のようにあの時の記憶が蘇ってきて。涙が止まらなくなる。
バニラちゃん。
彼女の名前を思い出しただけで、苦しくて苦しくて死んでしまいそう。
それは一体彼女の死を悲しんでいるのか。それとも彼女を殺してしまった自分を深く憎んでいるからなのか。それは分からない。
どちらにせよこの世にはもうバニラちゃんはいない。その事実だけが変わらない。
死者が蘇ることは決してない。そんな奇跡など起きる筈ない。
それでも少し、バニラちゃんが普段通りに「こんにちは」と柔らかい笑みを浮かべて、お揃いのネックレスをぶら下げて現れるんじゃないか。
そう思ってならないのだ。
その時。
コンコン。ノックの音がした。
何が起こるのか。何を言われるのかだいたい見当はついている。慣れてしまった。こんな朝に。
「ミル。朝ご飯を持ってきたゾ。少しでもいいから食べロ。体に悪イ」
分かってるよ。そんなこと。もう何回聞かされてきたか……。
コトッ。地面に食器類が置かれる音がする。
私はうんと頷く代わりに先生にこう尋ねた。答えは別に期待してない。今日もまたどうせうまくはぐらかされるだけ。
「先生……今日こそ答えてよ。私は……一体誰の子なの?」
ずっと。ずっと気になっていた。なによりもずっと。あの日からずっと。マジョラムの「さすがあの女の娘」その言葉が気になって仕方がなくて。
どうしてマジョラムが。人形遣いが私のお母さんを知っているの?
あの女の娘ってどうゆうこと?
私は一体誰の娘なの。
疑問は消えることはなく。また一つ。また一つと、増えていくばかり。
不安で仕方なくて、自分という存在が。一体誰から生まれたのか。
もしかしたらマジョラムたちのような人形遣いから生まれてきたのだとしたら。
それはさすがにないと思うつつも心配で。早く真実(答え)が知りたい。
だから、先生の答えに期待して耳を傾けているのに。
「……それは今のミルには話すことは出来なイ」
少しの間をおいて聞こえてきたのは、そんな回答。
私はそんなものこれっぽっちも期待してないのに。
「……そっか」
でもこれ以上聞いたって、先生は断固として答えてくれないのは知っていたから(前二時間以上問い詰めて結局話してくれなかった)。こうやって私も返すしかない。
先生は一息置いて、厳しい口調で私に語りかける。
「もっとお前は強くならなければならなイ。それはお前が一番よく分かっているはずダ。だから駄目なんダ。どんなに苦しくても、もがいて足掻いて、そこから抜け出さなくちゃいけなイ。そこから抜け出せたら……ミル。お前にすべてを教えてやル」
「……分かった」
分かってる、分かってるよ。こんなことでいちいちくよくよしてちゃ駄目だって。もっと強くならなきゃ。精神的にも肉体的にも。魔法のスキルをもっと上げて強くならなきゃ。
私が、もっと強かったら。きっとプレッツェル君もクレソンさんもあんなにボロボロになっていなかった。
そしてあんな結末にはならなかった。
自分の不甲斐なさが悔しくて、涙がこみ上げる。
それでも先生にだけは泣いていることを悟られまいと。下唇をぐっと噛んでなんとか涙をこらえた。
しばしの沈黙。
先生が立ち去っていく、小さな足音が響く。
そしてふと音が鳴り止む。
これも、いつものこと。
「……ただしこれだけは言えル。ミル。誰が何と言おうと、誰から生まれてこようとお前はお前ダ。それだけは変わらなイ。お前はボクの立派な弟子だヨ」
「……ありがとう」
呟くと。今度こそ先生は私の部屋の前から立ち去っていった。
一気に人気がなくなり。周りが静かになる。
先生の言葉は嬉しいよ。ちゃんと私を弟子として認めてくれてるの、本当はすっごく嬉しい。私は私だって。誰が何と言おうと私は私だって。そう言ってくれることが嬉しい。
先生はもし私が人形遣いの子どもだとしても。その真実を受け止めて。尚私は私だとそう言ってくれている。ちゃんと私の中身を見てくれて。それでいて大切に思ってくれている。
嬉しい。嬉しいけど……。
私は私自身が怖かった。
なんだか急に自分が何者なのかが分からなくなって。
私が、私自身が、私のことをよく分からなくなってきてる。
夢の中で聞いたあの声が、再び私に話しかける。
「ミル。君はそこで泣いていてもいいのかい?」
駄目だ。ここにずっと閉じこもってちゃ。立ち上がらなくちゃ。早く。早くいつもの私に戻らなくちゃ……。
きっとあの夢の声は私の心の叫びでもあるんだ。
頭では分かってる。起き上がって歩かなくちゃいけないって。それくらい馬鹿な私にでもよく分かってるよ。
でも足がすくんで、そこにある真っ暗悩みが怖くて。私はまだここから一歩も動けだせない。ほら、今だって私の周りは黒い沼で覆われていて。一歩歩くだけで飲み込まれてしまいそう。
「つくづく駄目だねバニラちゃん……私どうしたらいいのか分からないよ」
ねぇ。バニラちゃん。私はまだこの大きな不安の渦から。抜け出せそうにないや。
一筋の涙がまた頬を流れた。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.119 )
- 日時: 2013/01/20 21:57
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
今日もミルは泣いているのだろうカ。
ボクは結局大事な弟子が悲しんでいるときに、何も出来なイ。
ご飯を作って話しかけて、なんとか元気を取り戻そうと頑張るっているけド……。
シフォンからバニラという名の、ミルの友達が死んだと聞いてショックだっタ。でもボク以上にその場にいたミルの方が傷は深かった。
あれからもう十日は過ぎただろうカ。ちゃんと顔を見たイ。もうあの笑顔が懐かしく思えるくらいに、ボクはまだあれからちゃんとミルの顔を見ていなイ。
意識せずともため息が出る。
家に戻って部屋に籠りっきりになってから、始まった質問。
「ねぇ、先生。私は誰の子どもなんだろうね」
その言葉を聞いて胸が苦しくなっタ。答えてあげたイ。そう強く思っタ。
でもダメダ。きっと母親のことを聞いたら、ミルは今度こそ壊れてしまウ。
バニラという少女以外にも、母親も亡くしていル。大切な人が二人も死んでしまっていル。
そんな事実を聞いたらきっと今度こそミルは……壊れてしまウ。
だからと言って、このまま何も答えないのは可哀そうだしト。情けをかけたのがまずかっタ。
「そうだナ……でもミルのお母さんは強くて美しイ。皆の憧れの的だった人ダ」
「……先生、まさか私のお母さんのこと知って……」
しまっタ!
慌てて口を塞ぐももう遅イ。
「ねぇどうゆうことっ!?先生は私のお母さんを知ってるの?お願い教えてっ!私のお母さんは誰!?誰なのっ!?」
羅列のように質問を浴びせかけられるが、ボクはその問いに断固として答えなかっタ。
可愛そうだが、今のミルには真実を語るわけにはいかなイ。ミルのためにもそれが良イ。
そう自分に言い聞かせテ。
なのに日に日にミルは、衰弱していっているように思えル。
ボクは一体すべてを話してしまうのが良いのカ。それとも……。
「……一体どうすれバ」
ボクはまた大きくため息を吐いて、いつもの場所に向かっタ。
ドアの隙間から見えた人のいない玄関は、いつもより何倍も寂しく思えタ。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.120 )
- 日時: 2013/01/20 21:58
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
ギルドカフェ。オレの行きつけのお店。最近新しいシェフも入ってきて。メニューも増えた。お客さんも増えて商売繁盛。いいことだらけだ。
なのに……。一人足りないだけでこんなににぎやかな店内も、酷く寂しい。
また……いない。
今日こそは会えるんじゃないか、期待に胸を膨らませてほぼ毎日この店に通っている。でも……。
ドアを開けてもミルはいない。こんなことがもう十回は続いてる。
ミルに会いたい—。
「ミルちゃん。また来なくなっちゃいましたね」
閉店後の店内、オレの前に温かい紅茶の入ったカップを置きながらマフィンが言った。
マフィンもやっぱり寂しんだな。
きっと傷つくだろうからとシフォンさんが配慮して、一人だけ事情を知らないマフィンは不思議そうに眉を潜めてばかりだった。
「何かこのお店に不満でも出来てしまったのでしょうか?どうしよう、店内をもっと可愛く飾り付けるとか、うーんそれともメニューの量を増やすとか……」
「ゲッ!これ以上は止めてくれよマフィンちゃん。さすがの俺でもこれ以上は……」
「そうですよね。すみませんマカロンさん」
マフィンが困ったように笑うと、マカロンさんは頬をほんのり赤に染めてそっぽを向いた。
分かりやすいな相変わらず……。
まぁ、隣で殺意むき出しのシフォンさんは置いておいて。
「オレはこの店の雰囲気好きだし、もっと違う理由だと思うぜ。多分魔法の修行とかで忙しいんだろ……」
今適当に考え付いた嘘だったけど、マフィンは素直に信じてくれた。
「そうですね。じゃあお邪魔にならないように応援しなくてわっ」
「……そうだな」
笑いながら答えていて辛くなった。
ミルは今魔法の特訓なんてしてないけど、ある意味戦っている。そう自分自身と戦っているんだ。
いつか自分自身との悲しみの戦いに、勝手またこの店にも来てくれる。そう信じたい。いや信じている。
でもこうも思う。俺は今苦しんでいるミルを応援して、見守ることしか出来ないんだろうか。と。
本当は今すぐにでも駆けつけて。思い切り抱きしめてあげたい。
「大丈夫だ」って言ってあげたい。傍にはオレが……オレ達がいるって。
でもその言葉はミルを傷つけてしまうかもしれない、それにそれじゃあまるでオレがバニラなんていなくてもいいだろって言ってるみたいで嫌だった。
いつになったら来るんだよ……。
机にうっつぶして瞳を閉じると。
カランカランカラン……
「ノエル。また来たの?」
少し疲れた表情をしたノエルが、そこにいた。
また今日もミルを連れてきていない。
ミルがああなってしまってから、気分転換のためかよくノエルがここを訪れるようになった。
オレとしてはノエルよりもミルに来てほしんだけど。そのことは黙っていよう。
シフォンさんが気を使ってかマフィンに「ノエルにホットミルクでも淹れてくれない?」とちょっぴり意地の悪い笑みを浮かべて呼びかけた。
案の定ノエルは眉間に皺を寄せて。
「ボクを子ども扱いするナ。マフィン、コーヒーで頼ム」
「分かりました」
そそくさと店の奥でコーヒーを沸かしに行った後姿を見送った後。
「それで、ミルの調子はどうなの?」
シフォンさんが声のトーンを落として尋ねた。
「やはりずっと引き籠りっぱなしダ。全然外に出ようとしなイ。ご飯はまぁ食べるけど……以前よりは明らかに食欲も減っていル」
どうやら現状はあまり良くないらしい……。
「……そうか」
シフォンさんもミルのことをとても心配しているようだった。
目を伏せて静かにノエルの話に耳を傾けている。
「ミルは、大丈夫なのよね?」
「分からなイ。しかしまぁこのままだと……確かに危険だナ」
オレはその言葉にゾッとし、思わず席を立ちあがり、机を強く叩いた。
「危険ってどうゆうことだよっ!」
「バカッ!……シッ!」
シフォンさんは驚いたように思い切りオレの口に手を当ててきてから。オレをぎろりと睨みつけた。
……すみません。
オレはしゅんと肩を下げ大人しく席に着くと。囁き声でもう一度。
「……危険ってどうゆうことだ……もしかして死んじゃうとか?」
言っておきながら、サーと血の気が失せていく。
バニラだけじゃなくて、そのうちミルも……。
そんな未来を想像してしまい、オレは忘れようと首をぶんぶんと振った。
「それはないだろうと思うガ……」
「思うがって……そんなの分かんないだろっ!」
もう一回声を荒げると、ノエルも黙り込んでしまった。
額に滲むのは人間とは違う、蛍光色の汗。
そしてオレの口にはまたシフォンさんの手が当てられているのは、言うまでもない。
その魔王のような邪悪な顔に、心臓がすくみ上った。
……ごめんなさいっ!
しばしの沈黙を、破ったのはマカロンさんだった。
「アイツ。本当に大丈夫なのかよ」
その問いに応えられる者は誰もいない。
ちらりと、まだマフィンが戻ってこないことを確認して、オレはずっと聞きたかったことを、今この場にいる全員に投げかけた。
「あのさ……人を殺したことって……あるか?」
空気が一瞬、ピシリと固まる。
「オレはそうゆう経験をしたことがないから……」
だからミルの苦しみを分かってあげられない。
オレ以上に傷ついている彼女を、見ていることしかできない。
それでもどこかでミルの悲しみに少しでも同情してあげれたら。その思いを和らげてあげられるなら。そうしてあげたいって、そう強く思ったから。
だってオレは結局ミルを守ってあげられなかった。あの日出会ってから、ミルの泣き顔を見てきた。傷つくミルを見てきた。もうそんな顔させたくないから、守ろうって誓っていたのに。結局はこうやってオレが未熟だったから。死者を出させてしまった。君を傷つけてしまった。
もしかしてミルも同じことを思って、苦しんで戦ってるのかな。なんてふと思った。
……そんな訳ないか。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.121 )
- 日時: 2013/01/20 21:58
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
「ボクは人を殺したことがないガ。大切な人を失ったことはあル」
やがてノエルは懐かしそうに目を細めて呟いた。
「だから少しミルの気持ちを理解することは出来ル」
「だガ……」とノエルはため息と一緒に言い。
「すべての悲しみを理解しては、あげられなかっタ……」
「そりゃそうだろ。人の気持ち、ましてや感性なんて人それぞれだからな」
当たり前だろと口を挟んだのは、マカロンさん。
「じゃあマカロンさんはどうだったんですか?」
「俺は初めて人を殺したとき—。自分の身を守れた。それしか感じなかった。悲しくもなんとも思わなかった、けど……」
言いかけてから、鋭く目を細める。
まるで嫌なことでも思い出させられたみたいに。
「あんな思いをするくらいなら、もう誰も殺したくはねぇな」
「……ふぅん」
何かマカロンさんにも昔、辛い過去があったんだろうか。
まぁそれもそうか、誰しも人に話したくない過去の一つや二つはあるか。
と。丁度その時。
「ノエルさんご所望のコーヒーをお持ちしましたよ」
満面の笑みを浮かべたマフィンがコーヒーを載せたお盆を持って戻ってきた。
その瞬間。空気がほんの少しだけ和らいだ。
「おォ。ありがとうマフィン」
「いえいえ」
ノエルの目の前にコーヒーカップを置いたマフィンは、嬉しそうにはにかむ。
でもまぁ、マフィンが来たからにはもうこの話題は……。
そう思っていると、その思いを察してくれたのかシフォンさんが。
「そう言えば。ノエルまだ朝ご飯食べてないんだってさ。マフィン、悪いけどノエルの分の朝食作って来てくれない?」
するとマフィンはすごく嬉しそうに目を輝かせた。
……何故?
「本当にいいんですかっ!?お姉ちゃん本当に!?」
キラキラとした瞳を向けられて、シフォンはぎくりとしたように目を逸らした。
「あぁ……まぁ今日は特別ね」
「わぁ!ありがとうございますっ!お姉ちゃんっ!」
答えを聞くとマフィンは浮き足気取りでまた店の奥にと消えていった。
何故そんなに嬉しそうだったのか。オレには理解できないけど。
その後ろ姿をシフォンさんがすまなそうに見つめていた。
「えっと……シフォンさん」
その熱い視線を向ける時間が長くて、おずおずと話しかけると。
「こほんっ」とシフォンさんは小さく咳払いをした。
「じゃあ、次は私の話だね」
「……シフォンさんの、話」
あんなに強くて、妹LOVEなシフォンさんの昔話。一体何がったのか……。
なんだろうっ!ものすごく気になるっ!
オレは早く話が聞きたいと、目を輝かせた。
そんなオレの顔をシフォンさんは白い目で見てきて。
「言っておくが……暗い話になると思うぞ」
あぁ……そうでしたね。
シフォンさんは小さく息を吸い込むと。本当は誰にも語りたくないであろう。昔話を語ってくれた。
「ワタシは過去、人を殺めたことがある。自分の身を守るためだったとはいえ。怖くてしょうがなくてね。あぁ、ワタシはなんてことをしてしまったんだろう。ずっと殺してしまった自分を悔やんで。憎んで。あの時のワタシはまるで今のミルのようだったよ。血で汚れた自分の手を見るのが嫌で、ずっと布団にくるまって怯えてた。でもそんなときずっと傍で支えてくれた人がいた。こんな私に大丈夫って元気ずけてくれて」
そこまで言うとシフォンさんは、懐かしそうに笑い。
「最初はお前なんかに何が分かるって、そう思ったけど……今思えば、随分と彼に救われたよ」
「……シフォンさん」
オレはシフォンさんの話を聞いていて、なんとなくその彼が誰なのかが分かったような気がした。
「そうだ……こんな時誰かが傍にいてくれて」
ふとシフォンさんは何かに気が付いたように。そう独り言を呟いた。
「……シフォンさん?」
「そうだ……そうよっ!」
不思議に思って声をかけると、突然大声をあげたものだからオレは「ヒッ!」と小さく悲鳴をあげた。
そして何か良いことを思いついたような希望で溢れたその顔で。オレ達を見ると。
「プレッツェル、マフィン!こうなったら早く行くよっ!ついてきなっ!」
「「はい?」」
「「……あの、俺『ボク』達は?」」
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.122 )
- 日時: 2013/01/20 21:59
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
誰もいない。
それだけは何となくわかった。
先生は一体どこに行ったんだろう。買い物かな?
……私は今、この家に一人ぼっち。
一人……なんだな。
誰もこの悲しみを分かってくれる人はいない。いや、きっと私自身が悲しみを分かってくれる人を探していないんだろうけど。
「おい……本当にいいのか勝手に入っちゃって」
ふいに懐かしい声が、聞こえた気がした。
明るくて、元気な。落ち着く声。
「本当に良いの?お姉ちゃん」
「良いの良いの。こういうときは強制的にしなくちゃいけないのよ」
この声は、マフィンちゃんとシフォンさん。
相変わらず仲がいいなぁ。シフォンさんのシスコンはきっと何年たっても変わらないんだろうなぁ。
懐かしい皆のことを思い出すと、少しだけ心が軽くなる。
幻聴かな……私本当に疲れてるんだなぁ。
最初はそんな風に思っていたけど。何故だか声はだんだんと大きくなっていく。
なんか……煩い。騒がしい。これ本当に幻聴?
なんだか私も疑問に思ってきて、声が扉の前までやって来て、私はハッとした。
その瞬間。
バンッ!と思い切り扉が開かれ。
「起きろー!昼だぞーっ!」
なんて間抜けなことを言い出す、懐かしい顔があった。
「シッ……シフォンさん!?」
「ミルちゃん。お久しぶりです」
「マフィンちゃんっ!?」
その後ろから、ひょっこりと顔を出してすまなそうに笑うのはマフィンちゃん。
「よ……よう」
そしてさらにその後ろから、恥ずかしそうに目を伏せて挨拶をしてきたのは……プレッツェル君。
「プレッツェル君……」
プレッツェル君は私と目が合うと、照れたようにはにかんだ。
「突然で悪いわね」
私の前でシフォンさんが腕組みをして言葉とは裏腹に、まったく悪びれた様子もなくそう言い放つ。
「突然すぎますって!一体何をしに……」
言いかけた私の言葉を遮り、シフォンさんは無表情のままこう言った。
「じゃ、脱いで」
「……は?」
「着替えてって言ってるのよ」
「……は?え?」
状況について行けない私に、シフォンさんはテキパキと指示を下していく。
そして、あっという間に……。
「じゃ、着替えたら呼んでね」
シフォンさんはそれだけを言い残して、自分はさっさと一階に下りて行ってしまった。
一人取り残された部屋で、私は呆然と立ちすくむしかなかった。
「……え」
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