コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
- 日時: 2012/07/10 23:37
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
ついについについに来ました!
どるさんとの合作!
このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!
今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。
それではどるさんと読者さんに感謝しながら、
このお話を書き進めていきたいと思います!
そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!
ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
↓レッツゴー!!!(^O^)/
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- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.11 )
- 日時: 2012/07/14 13:44
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
*
なんとかマフィンの頑張りもあってスカートの染みもとれて戻ってくると、私は目の前に立つその人を目を丸くして見つめることしか出来なかった。
「……どうしたの?」
「いや、なんでも」
プレッツェルの髪はボサボサになり、服も部分的に少しちぎれている。
しかしプレッツェルは断固その質問には答えず。恐ろしいと震えているのだ。
一体何があったのやら……。
あとでこっそり聞こうと、ミルクレープは気にはなるが取りあえずその話題は置いておく。
「それでシフォンさん」
シフォンは少しスッキリした顔で、「何だ?」と目も合わせてくれた。
この短時間で一体何が!?
プレッツェルが何をされたのか想像して、ぶるりと身を震わせた。
「……えーと、さっき銃を構えてましたけど、そっちの経験が豊富で?」
その問いにシフォンが答えようと口を開きかけるがその前に。
「そうなんです!お姉ちゃん、年に一回の武術大会で優勝するくらい強いんですよ!」
マフィンに先手を打たれてしまった。
「ね?」と同意を求めるマフィンに、シフォンは「え?」と戸惑うが、マフィンがこんなに嬉しそうに自分の事を話してくれるのがまんざらでもなく嬉しいのか、顔を赤らめた。
「……まあな」
うわー……シスコン炸裂ぅ〜。
でも武術大会で優勝するほど強いのか、それはすごいな。
そこでふとある考えが浮かんだ。
まてよ。そんなにこの人は強いのか。それにさっき銃を構えてたし……もしかしたら!
「シフォンさんはもしかして銃を使った魔法をお使いで!?」
あまりの興奮に身を乗り出して、大声をあげる。
「あ、ああ」
突然ミルクレープが詰め寄って来たので、シフォンは目を点にして頷く。
……やっぱり!
待っていましたと言わんゲにミルクレープは目を輝かせ、
「私を弟子にしてください!」
深々と頭を下げた。
舞い降りる沈黙。
シフォンは周りの者たちに、「何これ?誰か説明して」と目配せをするが、残念それは誰も答えない。
まあ誰もミルクレープが魔法使いになるためにガナ—ドへやって来たとは知らないだろう。自分が話していないから当たり前のことだが。
シフォンがわざとらしいため息を吐いた。
これは渋々の了解と言う合図か!?
しかしシフォンの答えは予想を、いや期待をおおきく裏切るものであった。
「嫌だ」
再び舞い降りる沈黙。
その沈黙を破ったのは他の誰であろう、ミルクレープであった。
「えぇ!?何で!?」
「何でって、面倒くさいから」
またまたの沈黙。
マフィンはお姉ちゃん面倒な事は嫌いだもんね、と苦笑をする。
また、プレッツェルはそんな理由で!?と唖然とする。
そして、当の本人のミルクレープもまた唖然としていた。
えええええええええええええ!?
「だから無理なものは無理。はいこのお話はこれでお終い」
ぽんぽんと軽く手を打つ。
その音にハッと我に返る。
「いやいやいや!ちょっと待ってくださいよぉ!」
「何。ワタシは忙しんだけど?」
不機嫌を隠しもしないまま、ぎろりと睨まれた。
「じゃあいいです」と出かけた言葉を飲み込み、もう一度シフォンに頼み込む。
「お願いします!」
「無理」
即答!
少しひびの入ったハートを、勇気を奮いたたせるように、胸元をぎゅうっと握りしめると、
「お願いします!」
もう一度私は深々と頭を下げた。
シフォンさんは私をまるで試すかのように、じっと見つめていた。
冷汗が頬をつたう。
心臓が強く脈を打つ。
どうしよう……これでまた断られたら。私はこれからどうすれば……。
耳が良く冴えていた。
シフォンのやれやれという息づかいに、私は心が凍りついた。
「……悪いが、無理だ」
……あぁ、やっぱり。
その途端私の頭の中に『絶望』の文字がでかでかと、はっきりと浮かび上がる。
しかし運命の神様は私に微笑んだ。
「だけど、私よりも良い先生を紹介してやっても良いぞ?」
……え?
突然の嬉しい報告に、私は潤わせた瞳をシフォンさんに向ける。
シフォンは「どうだ?」と私に尋ねる。
……シフォンさん。
涙を堪えるように、ぐっと下唇を強く噛みしめ下を向く。
「どうだ?」
再度シフォンはミルクレープにそう尋ねた。
そんなの聞かれる前から答えは決まっている。
私は顔を上げ、何度も何度も頷いた。
「はい!もちろん是非お願いします!」
マフィンもプレッツェルもその表情からして、まるで自分の事のようにこの幸せな出来事を祝ってくれていた。と、思う。
シフォンの頬は自然と緩んでゆく。
「じゃあその人の住所を書いたメモを渡すから。ちょっと待ってて」
「はい!」
……やった、やった!予定よりも随分と早く、いい先生(ひと)を見つけられた!これで私も魔法使いの一歩を踏み出せたんだ!
ぴょんぴょん飛び跳ねたい気持ちを抑えて、平常心を保とうと努力するが、ミルクレープのその顔はだらしないほどにやけていた。
その様子をついさっきまでの自分と重ねながら、プレッツェルは残りのコーヒーをすべて喉の奥に流しこみ。
気付かれないように、ひっそりと笑った。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.12 )
- 日時: 2012/07/14 13:45
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
*
もう夜も更けてきたということで、目的地までと帰り道をプレッツェルが送り迎えしてくれることになった。(その格好からして預けても安心だと考えたんだろう)
「それにしても。本当に良かったぁ」
未だににやける頬をうにうにもみながら、ミルクレープは誰にともなく呟いた。
「何がだ?」
「良い先生(ひと)が見つかってね!」
にんまりと上機嫌で笑い返すと、少しプレッツェルは頬を赤くして自分の前髪に触れた。
それが照れ隠しだったのかは、この時の私は気が付かず。いやお構いなしにこの先の出会いに胸を弾ませていた。
「あっ、ここだ!」
いきなり大声で叫んだのに驚いたのか、プレッツェルはびくりと肩を動かし、ぎろりと睨みつけてきた。
いきなりなんだと言いたげに。
ごめんと、少し可愛こぶって舌を出すと、呆れたように首を振った。
コンコン
良く凝って出来た木製のドアは、この先中から出てくるのは小人なんじゃないかという考えを浮かばせた。
このたった一分程度の時間が、今は一時間にも感じられる。
「はい」
と声がして、ゆっくりとドアが開かれていく。
高まる心臓。
プレッツェルも緊張しているようで、顔が強張っていた。
ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込む。
出てくるのはどんな人なんだろう。シフォンが言うには男の人らしいが。どうせならイケメンで若い男性が良い。
ほんのちょっとだけそんな期待もして、中から出てくる人物を待っていると。
「どちら様……?」
私は目を疑った。
え……これ、どうゆう事?夢?
そうとまで思うほど今目の前で、私を見上げるそれを私は信じることが出来なかった。
え、だってこの人。
「ちっさ……」
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.13 )
- 日時: 2012/07/20 20:01
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
第二魔法
騒がしいノエル家
「何だってェ!」
目の前のその、耳と尻尾の生えた生き物は金切り声を上げた。
ブッシュ・ド・ノエルという人物はシフォンさんにもすすめられた偉大な魔法使い。
私の中ではダンディな白い髭の生えたお爺さんか、黒髪長髪の怪しげで、色気漂う素敵な男性……といったイメージだったのだが。
これはいくらなんでもファンシー過ぎる!
唖然とした表情でそれを見つめていると、少し不機嫌そうに方眉を吊り上げた。
「何ダ?」
……あ。
この時やっと私は理解した。
この子。言葉がなまってるし。それに加えてこの小ささ……。きっとこの子は、
「分かりました。ノエル先生の息子さんですね?」
「……ハ?」
それは意味が分からないと首を傾げる。
そんな惚けた態度をとっても無駄ですよ!と私は秘かに馬鹿にする。
「魔法使いごっこですか?面白そうですね。それでノエル先生はどこにいらっしゃるのか知っているかな?僕?」
なるべく怖がらせないように、笑みを絶やさずそう尋ねる。
しかしそれはますます不機嫌そうに顔を歪ませていく。
……あ、やばい。もしかして、泣かしてしまったかな?
心配になり、顔を覗き込む。
「大丈夫?僕?」
私はてっきりそれが馬鹿にされたことに傷ついて泣いているのかと思っていた。が、真実は違う。
「……ボクが」
それは小さすぎて聞き取りにくく、「何?」とさらに近寄って聞き取ろうとすると、
「ボクがノエルだァー!!!!」
耳元で鼓膜が破れそうなほど大きな声で叫ばれた。
一瞬目がチカチカとした。
人類の体ってすごい。耳も目と繋がっているのだろうか。
いやしかし、
「えええええええええええええええ!?貴方がノエル先生ですか!?」
ノエルと名乗ったそれは身長は一メートルもなく。耳がひょこひょこと動き。なんとも可愛らしい外見を……いや、やっぱり信じられない。
私はまだ子どもが意地を張って嘘をついているんだろうと思い、にっこりと意識した笑みを浮かべると、
「そっかぁ、まだ小さいのに凄いねぇー、僕」
と言って柔らかいその頭を優しく撫でた。
その時、彼の堪忍袋の緒が切れた。
「嘘ではナイ!ボクが正真正銘『ブッシュ・ド・ノエル』ダ!分かったカ、このチビ!」
「……あ」
いや、自分より大きい人にチビはちょっときついんじゃないかと……。
でも大先生を子ども扱いしていたんだ。ここはやっぱり謝るのが妥当だ。
「すみません」
ノエルは鼻息を荒くして、「フンッ」と言った。
やはりこの態度からして彼が本物のノエルだというのは本当なんだろう。
いや、まてよ!じゃあノエルさんは。
途端にある事に気が付き。ミルクレープは何かたくらんでいるように、にたりと笑う。
「ではノエル先生はまだ幼いのに、大先生と呼ばれているんですね!凄いです!尊敬します!」
「ハ?」
こうやって褒めておけば、この人も調子に乗って私をすぐに弟子にしてくれるのでは?
黒い考えを胸に秘めておきながら、形では本当にそう思っているように装う。
これで私もこの人の弟子になれる事間違いなし……!
しかしノエルは顔を真っ赤にして、
「ボクは幼くナイ!バカにするナ!」
「え〜?」
反論をした。
馬鹿にするなって、してないし。むしろ褒めてるじゃん。
まだキーキー喚いているノエルを見下ろしながら、ミルクレープは頭を悩ました。
……この人。分からない。
「せんせぇ……どうしたんですぅ?」
ほんわかとした声が聞こえ、奥から綺麗な女性が出てきた。
まだ若いんだろうが、そこからは落ち着いた、大人の雰囲気が醸し出されている。
「あ……こんばんは」
女性はキーキー喚くノエルと、しゃがみこんでいる私を見て、ハッとしたように口元に手を当てた。
私は、不審者と思われたんだろうな。まあこんな遅くに尋ねたんだからしょうがないか……。と思っていた。
誰でも普通はそう思うだろう。しかしこの人は違った。
「ノエルから離れなさい」
どこに隠し持っていたのか、きらんと光り輝く刃を、私の喉元に当て目を光らせた。
その行動に私の笑顔は凍りつく。
「聞こえなかったの?離れなさいと言ったのよ。さもなければ、今ここでお前を……殺す!」
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.14 )
- 日時: 2012/07/20 20:02
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
*
さっきとはうって変わった低く、冷たい声でその人は耳元で囁く。
背中にぞわりと鳥肌がたった。
「ミルクレープ!」
「わー!止めロ止めロ!!ティラミス!頼むカラ!」
慌ててそうノエルが止めさせようとする。
「はい。せんせぇ」
ティラミスは途端に、さっきのようなふんわりとした雰囲気に戻ると、素直にミルクレープの喉元から剣を離した。
圧迫された喉からは、ひゅーひゅーと乾いた息と咳がこみ上げてくる。
ノエルは苦しさに顔をしかめるミルクレープを心配そうに覗きこむ。
「大丈夫カ?」
掠れた声で答える。
「はい……なんとか……」
ほっとノエルはため息を吐き、それから少し責めるような視線でティラミスを見た。
「お前も、一般人にそう易々と襲いかかるナ」
「……はい」
ティラミスは悲しそうに、しゅんと肩を下ろした。
なんだかこちらもすまない気持ちになってくるが、己の軽率さが理由だ。しょうがない。
しかしノエルもそこまで悪人ではないようで、やれやれとため息をひとつ吐くと、
「取りあえず、この人達にお茶を入れてくれないカ?」
ティラミスの表情に明るさが戻っていく。
「はい!」
元気よく返事をすると、慌ただしく台所へと走って行った。
あーあ、でもそんな動きにくそうな服でツルピカなフローリングなんて走ったら……。
……転んだ。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.15 )
- 日時: 2012/07/20 20:06
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
*
「すまなかっタ」
ノエルは改めてまずは私に頭を下げた。
「あぁ、いえ……私も……」
と口にして、その後の言葉をつなげるか迷う。
あれ、私はなにか悪いことしたっけ?
まあ、腹黒い考えをしたのは認めるけど……。
「ところで貴方達はここに何をしに来たのかしらぁ?」
何時の間に背後をとられたのか、ティラミスの「うふふふ」という怪しい笑い声が聞こえてきた。
私は出かけた悲鳴を飲み込む。
でも言われてみて気が付いた。そうだった、私は大事な用を忘れていた。
「ノエル先生!私を弟子にしてください!」
突然深々と頭を下げる私を見ても、二人は驚く様子も無くやっぱりかというように顔を見合わせた。
プレッツェルは隣で呑気に紅茶を啜っているし……まあ、これには少しイラッときたけどそこは置いといて。
今はノエル先生に気に入ってもらうことが優選です!
「……ふぅ」
びくん!
今はノエル先生のちょっとした動作だけで怯えてしまう。駄目だこのままじゃ、今回こそは弟子にとってもらわなくては!
「わ、私ノエル先生の事は本当に尊敬しているんですよ?そんな最年少で大先生なんて尊敬されてるのは!」
「だからボク幼くナイと言っているダロウ!?」
「え……でも」
思わずじとーと怪しげな視線を向ける。
ノエルは苛立たしげに頬をひきつかせた。
「せんせぇの言っている事は本当ですよぉ」
「ティラミスさん」
ティラミスは相変わらずの笑顔で、手作りだろうかおいしそうなクッキーをお皿に大量にのせてやって来た。
どうやらプレッツェルのおいしい物レーダーが反応したみたい。もの凄い形相で振り返ります。
あんたは飢えた野良犬ですか……。
呆れていると、ティラミスは少し照れたように微笑み、しかし自慢するかのように良く通るハッキリとした声で言う。
「だって私達は夫婦ですものぉ」
静寂。
プレッツェルはマンガみたいに持っていたクッキーをごとりと机の上に落とした。
ノエルは少し恥ずかしそうに耳をぴくぴく動かす。
「「……え?えええええええええええええええええええええええええええええ!?」」
二人の声が丁度重なると、まるで耳元で和太鼓を叩かれているかのような煩さだったよう。
ノエルは耳を抑えて蹲っていました。もちろんさすがに蹲りはしなかったけどティラミスも。
「な、ななななな何で!?」
「何でって……それ答える必要はあるのかしらぁ?」
うっ、確かに。
「でもでもでもよりによって何で!?」
「おい、それはどうゆう事ダ?」
非常に言いにくい事ですが、そのまんまの意味です。
取り繕うように私はこほんと咳払いをする。
「でも結婚できるのなら、ノエル先生は十八歳くらいですか?」
慌てて話題をずらす。多分それを言ってしまうと一生家の中にさへ入れてくれない気がするから。
しかしノエルは嬉しそうに尻尾を揺らすだけで、その問いに答えたのはティラミスだった。
「ふふっ、残念それに十を足してみてください」
十八+十。答えは簡単すぎて一瞬にして理解してしまった。
そんな計算七歳ぐらいの子でも出来る。
「ええっ!?二八歳ですか!?……見えない」
ノエルでも若く見られる事は嬉しいよう。
でもすみません。見えないと言うのは、幼く見えすぎてしまうという意味で。決して褒め言葉ではないんですが。……待てよ!
またしても私の中で腹黒い考えが思いつく。
いい事思いついたぁ♪
「本当、若く見えますよ〜。何か特別な事でもしているんですか?」
「へへっ。特にはしてないヨ……でもたまに化粧水とかぬってル」
プレッツェルのショックを受けたその顔がこう語っていた。
え……それ意味あんの?
……まあこのふさふさとした短い毛の生える顔に、化粧水をぬってどんな効果があらわれるのか。まあ、それは私も考えつかないけど。
しかしそこは黙っておこう。
「へぇ〜、そうなんですか……」
取りあえずの作り笑いで、さらにノエルを褒めたてる。
「でも二八歳なんてまだまだ若いですって!その年で大魔法使いになれるなんて本当尊敬します!」
「そうだネ。ボクもたくさんの苦労をしたヨ」
「ええ、そうでしょう……だから!」
勢いよく私はテーブルに手を叩きつける。
ばんっ!
驚いたのかノエルはその小さな体を微動させた。
手のひらがじんと痛んだが、そんなこと気にせず私はさらに思いのこもった口調でこう続ける。
「そんなノエル先生のもとで修業させて欲しいんです!お願いします私を弟子にしてください!」
これは私の本心だ。
ノエルの大きな可愛らしい瞳をじっと見つめる。
私の頬は僅かに上気していた。
心臓がどくんどくんと脈をうつ。
全身の血管が浮き出るのではないかと、それくらい私は興奮していた。
どれくらい時が経ったでしょう。ノエルは静かに瞳を閉じ、そして俯きました。
さっきまで呑気にクッキーをむさぼり食っていた第三者のプレッツェルでさえその雰囲気に乗せられ緊張した面持ちで、私達の行く末を見守っていた。
「……分かっタ」
「え?」
期待していた言葉ではあるが、思わず動揺して私は聞き返してしまう。
もう答えは分かっていたのに。
「そこまで言われて嫌な気はしなイ。それに君はやる気があるじゃないカ。喜んで弟子にとらせてもらうヨ」
その時私はどんな顔をしていただろう。たぶん他人には見せられないような顔だっただろう。
私は今までで一番口角が上がったんじゃないかと思うほどの、笑顔を浮かべて何度も頭を下げた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
嬉しい……嬉しいっ!
「……で、名前はなんと言ウ?」
「はいっ、ミルクレープです!先生!」
その時の顔を上げた私の瞳は、星がその中に入っているんじゃないかと疑われるほどに煌めいていたらしい。
まあ本当にそう見えたのだったら、やってる本人が見たいですよ……。
でもこの時私は本当に舞い上がってしまっていて、この後彼に振りかかる不幸(まあ、自業自得なんだけど)をすっかり忘れてしまっていたのだ。
彼とは言わなくても分かるよね?彼は『彼』しかいない。
「本当に良かったな」
プレッツェルもまるで自分の事のように、私がノエル先生の弟子になったことを祝ってくれた。
「うん!ありがとう!プレッツェルのおかげだよ!」
その表情のままくるりと振り返ると、プレッツェルは目を見開いて。
……ん?
そうまるで見惚れているかのように、じっと私を見つめていた。
「どうしたの?」
「えっ!?あっ、いっいやぁ……」
問いかけると、プレッツェルはハッとしたのか体をびくんと動かし、苦笑いを浮かべた。
何やってんだ、オレ。と口が動いていた気がするけど、気のせいだと思う。
多分頬が赤く見えるのも、照明のせい。
そしてタイミング良く。鳩時計が鳴りだす。
ポッポーポッポー
鳩の鳴き声に一番に気が付いたティラミスが、
「もう九時ね」
もう九時かぁ……。
多分、私達四人は同じ事を考えていた。
「じゃあそろそろ帰らなくちゃ……」
「そうだな……ですね。じゃあミルクレープ城に帰りましょう」
その一言がなければ、私は確実にその事を忘れていたのに……。
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