コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
- 日時: 2012/07/10 23:37
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
ついについについに来ました!
どるさんとの合作!
このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!
今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。
それではどるさんと読者さんに感謝しながら、
このお話を書き進めていきたいと思います!
そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!
ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
↓レッツゴー!!!(^O^)/
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- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.103 )
- 日時: 2012/12/31 22:01
- 名前: 緑野 柊 (ID: Me0ud1Kf)
*
アイツは結局大きなホテルの屋上に姿を消すと、そこから姿を現さなくなった。
恐らく屋上で私たちを待ち受けているのだろうと、私達はホテルに入り込んだ。
宿泊客を装って、クレソンさんはロビーの女の子たちに愛想よく笑いかけると、女の子たちは皆ぽうっとした熱を帯びた顔でクレソンさんを見つめた。
私達はその隙にロビーから階段を上って二階に上った。
なんだか随分と安い女の子たちだと思ったと同時に、私はさすがだとクレソンさんに感心してしまった。
でも今この場に、女の子たちの心を容易く射止めることのできる魅力的な男性がいることは、そうとう便利だった。
事実、クレソンさんが周りに愛想のいい笑顔を振りまいたことで、私達はそう過染まれることもなく、屋上にたどり着けてしまったのだから。
プレッツェル君は素直に「スゲェ……」とクレソンさんを褒めた。
クレソンさんは得意げに前髪を掻き上げる。
「まぁ、これくらい朝飯前だよ」
とまぁ、自慢げなのはいいんだけども、やはりすんなりと屋上に入ることは難しかった。
人とは違い、色気も情けも通用しない。屋上には頑丈なカギがかかっていた。
私は何度も無理やり開かないかと、ガチャガチャとドアノブを回すがピクリともしない。
そんな私に痺れを切らして、「どいてろ」とプレッツェル君が思い切り蹴飛ばしても、扉はビクともしなかった。
プレッツェル君は焦ったように、舌打ちをする。
焦る気持ちは分かる。私だってそうとう焦ってる。
でもこれは焦ってどうにかなる問題ではないんだ。
私がどうしようかと考え込んでいると、ついに頼れる大人、クレソンさんが右腕の手袋をはずして。
「離れていなさい」
そう忠告して、私達がドアから離れたところでクレソンさんの様子をうかがっていると、ふとクレソンさんの右手の甲には魔法陣が書かれているのが見えた。
……魔法陣!
私はちょっとクレソンさんの右手の魔法陣に興味を持ち始めると、私の視線に気が付いたのかクレソンさんはニヤリと笑って。ドアに右手を押し付けた。
するとその途端ドアはぐにゃりと変形し、見る見るうちに溶けてしまった。
高温で少し赤くなったドアの残骸に触れないように私たちは注意しながら屋上に出る。
屋上ではやはり思った通り、アイツが手すりに腰を掛けて、余裕ぶった態度で私たちを待っていた。
「意外と速かったね」
アイツはにっこりと笑って、私達にそう言った。
クレソンさんは高熱を放つ右腕に手袋を被せながら、「貴様を待たせていた覚えはない」と冷たく言い放った。
アイツは可笑しそうにククッと喉で笑う。
私は確かにそいつの横に倒れているバニラちゃんを確認して、焦りから唇をぎりりと強く噛んだ。
「さすがですねぇ。クレソン兵士。高熱の右腕を持つとは聞いていましたが、ドアをここまで溶かしつくしてしまうほどの高温とは」
そして奴は次に私とプレッツェル君を交互に見ると、驚いたようにプレッツェル君に指を差した。
「あれっ!?お前死んだんじゃなかったけ!」
「人を勝手に殺すなっ!」
プレッツェル君は拳を握りしめて言い返す。
アイツは目をぱちくりとさせたが、頭をぼりぼりと掻いてあきらめたかのように。
「まぁいっか」
私はこのセリフはプレッツェル君を殺すことを諦めてくれたのだと思ったのだが、やはりそこまで甘くなかった。
奴はにたりと気味の悪い笑みを浮かべて。
「ボクが殺せばいいだけの問題だよね?」
プレッツェル君は怯えたように、数歩後ろに後ずさった。
「なっ!?」
しかしそれが幸いだった。
奴はその瞬間腕を大きく振って、それに操られるように何かがプレッツェル君に襲い掛かったのだ。
私の横を猛スピードで通り過ぎたそれは、プレッツェル君を押しつぶそうとするがプレッツェル君も剣でそれを受け止めて弾き返そうとしている。
「くっ……そっ!」
しかし両方とも互角の力らしく、なかなか弾き飛ばせないし、押しつぶされもしない。
「プレッツェル君!」
私が振り返った先で、プレッツェル君が戦っていたそれは、やはり。先ほどクレソンさんの言った通り。
クレソンさんはそれを横目で確認すると、ニヤリと笑ってみせた。
しかしその笑みには余裕などなく、相手に自分の心境を読ませないための、作り笑いだった。
「……やはり貴様っ!」
腰をかがめて戦闘態勢に入るクレソンさんに、アイツは笑い返して。
「そう、ボクが選ばれし種族。人形遣いのマジョラムです」
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.104 )
- 日時: 2012/12/19 19:44
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
……人形遣いっ!
クレソンさんはクッと笑って、だが眼だけは真剣そのもので次の攻撃を読もうとしているようだった。
人形遣いのマジョラムも、笑みを崩さずに、じっと私たちを見つめた。
プレッツェル君はその間にも潰されないように、意志の持たない人形と葛藤をしていた。
……すいっとマジョラムの視線が右に一瞬動いた。
クレソンさんもその一瞬の合図を見逃すほど、戦い慣れしていない訳ではない。
クレソンさんは自分の右側に注意を向ける。
するとやはり狙い通りというように、プレッツェル君と戦っていた人形がプレッツェル君から離れてクレソンさんの右側から攻撃をしようと襲い掛かってきた。
クレソンさんは人形が襲い掛かってきた瞬間、それを思い切り蹴飛ばす。
人形は柵まで吹き飛ばされたが、相手は痛みもかんじることのない。
そうただの人形なのだ。
人形は素早く体制を立て直すと、再度クレソンさんに向かって突進してくる。
クレソンさんはその人形だけに注意を向けていた。
つまりは、そう。人形はほかにもいたのだ。
私は背後に視線を感じて、振り返ると。目にもとまらぬ速さで人形は私の脇を素通りしていった。
「クレソンさんっ!」
私がそう悲鳴を上げても、もう時すでに遅く。
クレソンさんは前からの攻撃は防げても、後ろからの攻撃には避けきれなかった。
「ぐはぁっ!」
クレソンさんは苦しそうなうめき声をあげて、壁に思い切り叩き付けられた。
「クレソンさんっ!」
私は慌ててクレソンさんに駆け寄ろうとしたが、プレッツェル君の背後からものすごいスピードで人形が近づいているのに気が付いて。
「プレッツェル君!」
自分と同じようにクレソンさんに唖然とした表情を向けるプレッツェル君を抱きしめて倒れこんだ。
私はプレッツェル君を強く抱きしめながら、地面を転がる。
人形は的を外れて、壁にもう突進したため、半分つぶれた顔をゆっくりと上げた。
「……大丈夫か?」
「なんとか生きてる……」
私とプレッツェル君はゆっくりと起き上がり、半分顔のつぶれた人形を睨み付けた。
「危ないなぁ〜。君だけはあのお方の命令で殺しちゃいけないって言われてるのに」
マジョラムは私を指さして。困ったように眉をひそめた。
「私だけ殺しちゃいけない……あのお方?」
私は訳が分からなくて、そうオウム返しをする。
マジョラムはその問いには答えずに、ニタニタと気味の悪い笑顔を浮かべるだけだった。
「それじゃあ……そのあのお方とかいう奴について、詳しく聞かなきゃなぁ……」
そう背後から声が聞こえて、驚いて振り向くとクレソンさんがゆっくりと立ち上がっていた。
その口元には微かに血がこびり付いている。
「クレソンさんっ!」
「あらら〜生きてたんですか?」
クレソンさんは口元についた血を袖でこすると。ニッと笑ってみせた。
「伊達にいくつもの戦場を生き抜いてきた訳じゃないからな」
それを聞くとマジョラムは肩をすくめて。
「ふぅんそうですか〜。でもまぁいいや。あなたはあのお方の命令で殺しちゃいけないんですよねぇ〜。ま。手足の二三本はなくなってもいいとのご命令ですけどねっ!」
そう言ったそばからマジョラムは手をクレソンさんに向けて人形を突進させてきた。
人形は壁を凹まさせるくらいの勢いでクレソンさんに突進してきたので、私は思わず悲鳴を上げた。
どおんっ!
強い衝撃が起きて、クレソンさんの輪郭がぼやけた。
私はどうなったのかと早まる心臓を抑えて、クレソンさんの無事を確かめるために目を凝らす。
クレソンさんは無事だった、人形の頭を左手で抑えつけてなんとか攻撃を防いでいる様子だ。
このままでは危ないと、誰でも分かる現状だった。
「くっ……!」
クレソンさんはここで死ぬかと言わんばかりに、精一杯人形を押し返そうとするが、相手が悪かった。何せ相手は人ではないのだ。限界というものが存在しない。
マジョラムさんは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「あらら〜。頑張ってるけど負けそうですねぇ。でもそれはしょうがないですよ。なんていったって僕は最強の人形遣い。選ばれし者ですからね」
「……ふん。その高飛車な態度。気に入らないな」
クレソンさんは人形をギッと睨んだまま、そう吐き捨てる。
だが今ここで何を言ったって、負け犬の遠吠え程度にしか聞こえない。
マジョラムはニッと笑う。
「へぇ。まぁ貴方の意見なんか聞いてませんよ」
「そうかよ。じゃあこの後に耳にタコができるほど、お前に俺の不満を聞かせてやるよっ!」
クレソンさんはどこか自信ありげに見えた。
私はひたすら不安でしょうがなかったが、よく考えるとクレソンさんはただの戦い慣れた兵士じゃない。彼は……。
「俺の特技を忘れたか……?」
そう。私達はクレソンさんの言うとおり、すっかり忘れていた。彼の右腕はただの右腕ではない。
クレソンさんはニッと笑うと、いつの間にか手袋を外した右手を人形の頭部に押し当てた。
じゅうう……
人形の頭部が溶けていく、少し焦げ臭い臭いがする。
クレソンさんの高温を放つ右腕は、あっという間に人形の頭を溶かしてしまった。
首から上のない人形は、音を立てて地面に崩れ落ちた。
マジョラムは驚いた顔をしたが、すぐに悔しそうに醜く顔を歪めた。
「……クソが。僕が丹精を込めて作った人形になんてことするんだよっ!」
「はっ。それはご愁傷さま」
今度はクレソンさんが勝ち誇った、意地の悪い笑みを浮かべてマジョラムを見下ろした。
マジョラムは小さく舌打ちをする。
「お前、殺しちゃいけないけど。ムカつく」
「お前のような脳の腐った奴の言葉なんて、耳に入らないな」
「あぁっ!?どっちが脳の腐った野郎だよ!」
マジョラムは完全にクレソンさんに意識を向けていたと思ったので、私達はその様子を見守っていたのだが、マジョラムは少し油断した私たちを狙って、今度はこちらに人形を向かわせてきた。
いや、マジョラムが言うにはあのお方の命令とやらで私は殺してはいけない。しかも手足の二三本もなくなってはいけない存在らしいので、私には何の攻撃もなかったのだが。
「プレッツェル君!」
大切な親友を失いたくない一心で、私は素早く呪文を唇の中で唱えた。
「かの昔からこの大地に幾多の災害をもたらした風よ。今こそ我に力を貸したまえ—!」
すると風がまるで鎌のように鋭利な刃物の形に変わり、それを構えるように掴むと、私は風の鎌をもう一体の首がある人形に投げつけた。
だが人形はひらりと風の鎌を交わすと、迷いなく一直線にプレッツェル君に向かって行った。
早い!こんな小魔法じゃあ避けられちゃう。
私は覚悟を決めて、大きく息を吸い込む。
それじゃあすべてを巻き込むくらいの大きな竜巻を作ってしまおうかと、天に両手を掲げようとした。その時。
背後に気配を感じ、振り向く隙もなく私は首を後ろから押さえつけられた。
とっさに首元に両手を持ってきたため、わずかな隙間が出来てかろうじて息はできたけど。
新手—!?
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.105 )
- 日時: 2012/12/19 19:45
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
ちらりと首を押さえつけている敵を見ようと、視線を向ける。が……そこにいたのは新手でもなく。そこにいたのは……頭のない人形—。
「なっ—!?」
私は絶句する。だがよくよく考えてみるとそれも不思議なことじゃない。
私が戦っているのは、人でも兵器でもない。私が戦っているのは、命のない人の形をしたカタマリなのだ。
「……僕のお人形と、哀れな人間をいっしょに考えないでくれるかな」
つまりは首から上を無くしたら、即死する人間と人形を同じに考えないでくれと彼は言っているのだ。
なるほど実に理にかなっている。そもそも人形になど脳などない。内臓もない。心臓もない。息もしていない。私達は死人を相手に戦っているも同然なのだ。
そんなゾンビの首を吹っ飛ばしたって、彼らの動きが止まるわけなどない。
「ミル殿!」
クレソンさんは心配してすぐに駆け寄ってくれたが、それを見たマジョラムはにぃっと笑う。
私はその不審な笑みに気が付かなかったわけではないけど、その笑みの理由が分からずに不審そうに片眉を吊り上げただけだった。
しかし私はすぐにその不審な笑みの理由を知ることになる。
なんと私の首を抑える人形の下半身だけがぐるりと一八〇度回転したと思うと、心配して駆け寄ってきてくれたクレソンさんを蹴飛ばしたのだ。
クレソンさんは寸でのところで気が付いて、胸の部分に手をクロスしてなんとか受け止めたので怪我はなかったのだけど。
「……何!?」
クレソンさんはとても驚いた顔をして、首のない人形を見つめた。
「だから人間と同じように考えないでくれってさぁ。お願いしたでしょう?」
私は後ろをちらりと確認する程度にしか見れなかったので、人形の蹴りがどれくいの威力だったのかは分からないけど。クレソンさんが悔しそうに舌打ちをしたのは分かった。
マジョラムはまるでクレソンさんの心情を読んだように、ニヤニヤと笑う。
「そうだよねぇ。人形をその高熱の右腕で溶かしたとしても、ミルクレープちゃんに被害が及ぶかもしれない。それにミルクレープちゃんもミルクレープちゃんで、むやみに魔法を使えば自分の身がどうなるか分からない」
「……くっ!」
確かにマジョラムの言う通りだ。何せこの至近距離、炎系の魔法を発動させても、自分まで巻き込まれないとは断定出来ない。
しかしこうしている間にも、私の喉元を締め上げる力は増すばかり。
「くっそ……」
クレソンさんも今回ばかりは手の打ち所がないようだった。
だがこちらでこんな葛藤が繰り広げられている間にも、プレッツェル君はもう一体の人形の相手をしているのだ。このままでは今度はプレッツェル君の身が危ない。
何か……何かいい案はないの!?
焦燥は、逆に私の考える脳を駄目にしていくだけだった。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.106 )
- 日時: 2012/12/19 21:57
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
カキンッカキンッ
剣と人形がぶつかり合う音が先ほどから鳴り響いている。
「はっ!せいやっ!」
プレッツェル君は必死に手を動かして人形からの攻撃を防いでいる。
たまにつば競り合いを含めながら、戦いはだんだんと激しさを増す。
しかし戦いの激しさが増すのとは対照的に、プレッツェル君はばててきているように見えた。しかし相手は都合よくばててくれる敵ではない。
このままでは本当に、プレッツェル君の命が危ない—!
そう感じた私は必死の思いで。
「クレソンさん!こちらは何とかしてみせます!プレッツェル君を援護してあげてください!」
息苦しさを我慢して大声で叫んだ。
クレソンさんは驚いて声をあげる。
「しっ!しかし……」
クレソンさんもそちらに向かいたい気はやまやまだが、それでも私が心配でこの場から離れられないようだった。
そんなクレソンさんに少しでも心配を取り除いてあげようと、私は精一杯笑ってみせる。
「大丈夫です!」
確かにこの場でクレソンさんに離れられるのは私にとっては更に不利な状態になるかもしれない。
それでも私はこの状況を何とかできる、してみせるという自信があった。
クレソンさんは小さく首を振って。
「……分かった」
絞り出すような小さな声でそう言った。
クレソンさんは私の横を通り過ぎてプレッツェル君の方へ駆けていった。
これで良かったんだ。大丈夫、私ならやれる。
その瞬間にどっと溢れてきた恐怖に、私は強く語りかけた。
だから大丈夫と—。
「……余計なことをっ!」
マジョラムは私の首元を締め上げる力を強め始めた。
「……くっ!」
苦しむ私を見てマジョラムは面白そうに笑い声をあげた。
……狂ってる—。
「それにしても細いですねこの首。あともう少しでポキッといっちゃうんじゃないですか?」
「……そんなことしたらあの方とやらに……怒られるんじゃない……?」
私は途切れ途切れに皮肉を言ってやった。
少しでも奴にこちらが余裕だと思わせてやりたかったから。
「そうですね……」
マジョラムは少しがっかりしたように肩を落とす。
「ミルッ!」
プレッツェル君は戦いの合間合間に私の無事を確かめるためか、私の名前を叫んだ。
プレッツェル君の額には玉のような汗が滲み、ぜいぜいと息も荒くなっていき剣も大振りになっていった。
マジョラムの悲しそうな瞳も、一気に怒りに燃えていき。
「お前は自分の心配でもしてろよっ!」
さらに人形の速さを加速させていった。
そろそろプレッツェル君が倒れてしまいそうだと分かっている筈なのに、なんて性格の悪い奴なんだろう。許せない。
「おいっ!」
クレソンさんもプレッツェル君だけに集中攻撃を繰り出す人形に少しでもダメージを与えられたらと右手を素早く動かすがかすりもしない。
人形の速さがさっきよりも何倍も速くなっていることは一目瞭然だった。
プレッツェル君……!
叫び声をあげたいが、もう小声もあげられないぐらいに私の喉は締め上げられて、肺は酸素を求めてヒーヒー燃えるように熱くなっていた。
クレソンさんは右手を押しつけようと人形に向かっていく。
しばらく攻撃が交わされやっとかすり傷程度与えられるくらいの接触があると思えば、ニヤッと笑ったのはクレソンさんではなく、マジョラムの方だった。
「……これは……!?」
クレソンさんはすぐに違和感に気が付き、数歩下がる。
よく見てみるとかすり傷を与えられているのは人形の方ではなく。クレソンさんのほうだった。
腕から血がぽたりぽたりと流れ、地面に落ちていく。
「その子をただの人形と思わないで欲しいな。なんて言ったってその子は僕が作った武器内装の人形なんだから」
「なんだって!?」
「……一体は体が三六〇度回るし、もう一体は武器が内装されているのか……これはもう人形と呼べるのか!?」
クレソンさんは苦笑気味に、自分の腕を見つめてそう言った。
人形の指先には小さくても切れ味ばつぐんの刃物、そして腕には鎌。足にはまるで人の首を切るためにあるような凹凸した刃物。
確かにこれは人形というよりは、兵器と呼んだ方がぴったりかもしれない。
だけどプレッツェル君がそんな兵器と戦っていると分かれば、さらに急がなければ。
今にも倒れそうなフラフラな状態のプレッツェル君が、この後もしばらく攻撃を避けきれるとは思わない。
少しでも攻撃に当たってしまえばプレッツェル君が死んでしまう—!
そんなの、絶対に嫌だ。もう失うかもしれないって不安になりたくない—!
涙で霞んでいく視界の中で、そう強く思った私を裏切るようにプレッツェル君は片膝を付いて、動けなくなってしまった。
プレッツェル君—!
「おいっ!なにやっているんだ立て!」
私の心を代弁するようにクレソンさんは金切声をあげた。
プレッツェル君の瞳は虚ろで、私はその時に随分前から彼の疲労がピークに達していたことを悟った。
しかし今そのことに気がついても、もう遅い。
プレッツェル君も必死に立ち上がろうと四苦八苦するが、限界を超えた両足が言うことを聞かなくなってしまったようだ。
プレッツェル君—!
声にならない悲鳴をあげる。
プレッツェル君—!
嫌だ、嫌だ、嫌だ!
……死なないで—!
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.107 )
- 日時: 2012/12/27 23:04
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
その時、バチリと火花が散るような音がしたと思うと。
ガラガラッ!
私の首元を抑えていた首なし人形は、その場に力なく崩れ落ちた。
私も驚いたが、何より驚いていたのはマジョラムで、自分の左手を愕然とした表情でじっと見つめていた。
「……そんなまさかっ!」
焦げ臭いにおいが鼻をかすめ、ふと下を見ると、黒くなって灰っぽくなった糸のようなものが地面に落ちていた。
これが人形を操る糸!
私は何が起きたのか分からなかったけど、今がチャンスだということは分かった。
両手を静かに天に掲げる。
マジョラムは私が何をしようとしているのか、痛いほど分かったらしく。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
獣の咆哮の様に叫んだ。
マジョラムは焦って私の動きを止めようと、恐らく(私にはそれが見えなかった)人形を操るための糸を向けてきた。
だがそれをあの人は許さなかった。
突如マジョラムは動きを止め、酷く驚いた顔で私を見つめた。
「何っ!?」
どうやら視線と声だけは出せても、体だけは動かせないようだ。
私にしてはとても好都合なのだけど、一体誰がそうしているのか。それが問題だった。
「まったく……初めからこの能力を使っておけば良かった」
ため息交じりで、やれやれと苦笑して言ったのは—クレソンさんだった。
そしてニヤリと微笑む口元に、左目には……赤く光る魔法陣。
クレソンさんの眼帯の下には、魔法陣の描かれた、不気味な瞳があったのだ。
「お前……まさか」
マジョラムは悔しそうに、クレソンさんを睨みつけた。
しかしクレソンさんはそんなものなど意に介さず、にっこりとほほ笑むと。
「お前はそこで何もできずに、自分の大切な人形を壊されるのを見つめてな」
そうクレソンさんが得意げに吐き捨てた時には、もう私の頭上には大きな竜巻が出来上がっていた。
「やめろ……」
必死に懇願してくるマジョラムが、何だかとても滑稽に思えた。
同情なんてしてやるもんか。
「はああああああああああああああああああああ!!!」
私はマジョラムのことなんか無視して、思いっきり竜巻を人形に向けて投げつけてやった。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
虚しくもマジョラムの悲痛な悲鳴が辺りにこだます。
ごおおおおおっ
巨大な竜巻は大きく唸りながら二体の人形を飲み込んでいった……。
竜巻がゆっくりと消えていって、上からがらりと落ちてきたのは、もはや人形だったかけらだった。
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