コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
日時: 2012/07/10 23:37
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

 ついについについに来ました! 

 どるさんとの合作!

 このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!


 今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。


 それではどるさんと読者さんに感謝しながら、

 このお話を書き進めていきたいと思います!
 
 そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!

  ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
 ↓レッツゴー!!!(^O^)/

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Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.63 )
日時: 2012/10/25 23:02
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

                 *

 わたしがその異変に気が付いた時には、もうすでに遅かったのかもしれない。
 どんどん山奥に入って行っているのだ。それはまあしょうがないことだとして、どんどん歩きにくい道に入って行っているという意味だ。
 ……おかしい。これはもしかして迷ったか?
 この男が現地の人間だということで案内を任せているが、もしかしてこいつ。この山に入ったことがないのでは……?
 それにこの尋常じゃない汗の量。そんなに高くないこの山を登っているだけでこんなに汗が出るのか?
 そう私がいよいよ不安になってきたころ。ふとある重大なことに気が付いてしまった。
 いや気付くのが遅かったんだ。
「なんだ……これは」
「え?」
 何も知らない呑気なミルクレープが、そう首をかしげた。
 わたしはそれに少し立たせたが、それどころではない。
「これはどうゆうことだ!」
 わたしは何も答えずに、何のことかわからないというように震える男に腹を立てて、胸倉をつかんだ。
 シフォンさんが目を見開いて。
「おいどうしたんだ!止めろ!」
 わたしの腕を引き離そうとしたので、わたしはその手を振り払い。
「シフォンさんまだ気付かないんですか!」
 シフォンさんは何のことかと困惑の表情を浮かべた。
 わたしは苛立ちながら、少し前にとおってきた道を指さす。
 シフォンさんはそこをじぃっと細い目をして見つめていたが、ハッとしたように大きく目を見開いた。
 薄く開いた唇が「まさか……」と呟いていた。
 ……そうだ。ここは本来の道ではない。
 私たちが歩いてきた向こうの道には、幾つもの足跡が残されていた。それは私たちのものではない誰かほかのものだ。それは大きさからいって間違いないだろう。
 そして今私たちが向かおうとしている道には足跡がない。それはこの道が本来の道ではないことを物語っている。
 つまりこの男は私たちに嘘の道を教えていたということになる。
「お前!騙したのか!」
 シフォンさんが声を荒げてそう叫ぶと、男は顔面蒼白になりその場から逃げ出そうとした。
「まてっ!」
 わたしはすかさず男を追いかけて拘束する。
「まだ……聞きたいことがある」
 男はがくがくと震えながら、振り返った。
 わたしは生唾を飲み込み、あれを指さす。
「あれは……なんだ」
 そう尋ねた瞬間。ミルクレープの悲鳴が響いた。
「キャァァァァァァァァァァァァ!」
「ミルッ!……ヒッ!」
 この二人がそう悲鳴を上げるのも無理はない。わたしが指差した「あれ」とは、死体のことだった。
 茂みからぬっと出ている血だらけの腕。しかもあのか細さからして「あれ」は子どもの死体だった。
「あれはどうゆうことだ!」
 男はがくがくとさっきよりも増して震えながら。涙目でこちらを見つめている。いやそうすることしかできなかったのだ。怖くて。
 ついに我慢できなくなったのか、ミルクレープが茂みに飛び込んでいった。
 その後に胃液のすっぱいにおいがあたりに広まる。
「あれはどうゆうことだ!」
 わたしはもう一度声を荒げて男に尋ねる。
「ヒィィ!」
 男はそう情けない悲鳴をあげた後、震える声で答えた。
「人質だよ……。アニスの子供だ。あいつの父親は失敗したんだろうな。だから殺された」
「何に失敗したんだ!」
 その質問に男は冷笑を浮かべて。
「軍の重要人物を殺すことさ」
 わたしはその言葉にどっくんと心臓が激しく脈を打つのを感じた。
 軍の人間を……?ということは私が?嫌でも今日はシフォンさんに呼ばれたから来ただけだ。ということはシフォンさんもグル?いやそれはあり得ない。ということは……。
「俺が言われた仕事は、軍の中でも剣術がずば抜けてすぐれてるプレッツェルを殺すことさ」

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.64 )
日時: 2012/10/25 23:21
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

「プレッツェル様を!そんなこと貴様にさせるか!」
 わたしはさらに声を張り上げて男に向かってそう叫んだ。
 男はびくっと肩を揺らして。
「知らないよ。俺はそういわれただけだ」
 プレッツェル様は驚きすぎて、理解ができないというように、わなわなと体を震わせていた。
 ミルクレープも口元をぬぐって、顔を真っ青にして男を見つめていた。
「……させない」
 そう呟いたのは一体誰だったのか。一瞬誰だったのかわからなかった。
 その声に驚いて振り向くと、プレッツェル様をかばうようにミルクレープが立ちはだかり、男に睨みを飛ばしていた。
「この町で出来た初めての友達を殺させはしない!」
 プレッツェルも驚いたように、ミルクレープをパチクリと見つめている。
 ……何を言っているんだか、さっき嘔吐したのはどこのどいつよ。
 わたしは半分呆れながらも、その強気な態度に半分拍手を送ってあげたい気持ちになった。
 確かに……殺させてはいけないな。
 わたしは静かに男から手を離した。
「……状況は分かった。お前も脅されている身なんだろう?息子は本当に連れていかれたんだな?」
「あぁ……」
 男は呆けた状態で頷く。
 わたしは「よし分かった」とうなずき返す。
「ではこれからシャスール君救出作戦を決行する」
「まっ!待て!」
 男はその言葉を聞いた途端慌てたように、わたしの腕をつかんだ。
「なんだ?」
「やめてくれ!そんなことした息子の命も俺たちの命も!」
「なくなると?フンっ。馬鹿にしないでよね」
 わたしは鼻で笑うと、余裕の笑みを浮かべる。
「ここに兵士と剣士と魔法使いがいるんだ。なめてもらっちゃあ困るね」
 そう笑いながら言ったのはシフォンさんだった。
 わたしもくすりと笑うと。
「まぁ、安心しろ。絶対お前たちは殺させない」
「約束するよ!おじさんっ!」
「あぁ。俺たちは約束は破らねぇんだ」
 いつから元気になったのか、ミルクレープとプレッツェルがガッツポーズをしてそう言った。
 おじさんはまだ心配そうにしながらも。
「でも本当にいけるのか?息子が死んだらどうするんだ?」
 とまだそんなことをうじうじと言っていた。
 情けない奴め。わたしが大丈夫と言ったら大丈夫なのに。
 しかしそれに反抗的な言葉を投げかけたのはミルクレープだった。
 これにはわたしも驚いた。
「おじさんの馬鹿っ!まだそんなこと悩んでる!考えてみてよ!シャスール君が誰かの命が犠牲になってまで生きていたいと思う?」
 おじさんはしばらく黙りこんで、力なく首を振った。
「思うでしょ?だから助けなくちゃ。みんなが生きていたいと思えるように!」
 ミルクレープはそういうと、ニッと笑ってみせた。
 本当にこいつには……。
            勝てないな。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.65 )
日時: 2012/10/27 19:44
名前: 緑野 柊  (ID: 5Fq5ezeC)

                * 

 しばらく無言でさっきとは違う少しだけ整備された、歩きにくい砂利道を歩いていると。シャルロットがふと思い出したようにおじさんに尋ねた。
「お前はわたし達をあそこに連れて行って何をしようとしていたんだ?」
 おじさんはその質問に言いにくそうに視線を逸らして。
「あの向こうには毒の湧き出す沼があるんだ」
「なるほど。わたし達をそこに突き落とす気だったんだな?」
 おじさんは申し訳なさそうに力なく頷いた。
 そして震える声でこう続けた。
「でも皆結局殺すことはできなくて、だから拉致された子供たちと一緒にそいつらも……」
 おじさんはその先を言わなかった。
 でもそれはしょうがない。私もその先につながる言葉をなんとなく想像して、気分が悪くなった。
 シフォンさんがため息を吐くように。
「本当にマフィンを置いてきて良かった」
「そうですね。マフィンちゃんなんかパニックおこしそうですよね」
 そしてその後に過呼吸で倒れちゃったりね……。
 シフォンさんは遠い目で空を見つめて。
「大丈夫かな?マフィン」
「大丈夫でしょう。マフィンちゃんならうまくやってますよ」
 私が心配ないですよと答えると、シフォンさんは違うんだというように首を振った。
 私はじゃあどうゆう事ですかと首をかしげる。
「……ワタシのいない間に変な男に絡まれてなくちゃいいけど」
「あぁ……」
 それは確かに心配だ。男の人の方が。
 お願いだから逃げて!マフィンちゃんに惚れちゃった男の人たちシフォンさんに殺される前に。

 そして一方ギルドカフェは……。
「いらっしゃいませ〜」
 マフィンはいつもカウンターに立っている姉に代わり、お店をいつも以上に繁盛させようと、意気込んでいた。
 いつものように花のように愛らしい笑顔を浮かべて振り向くと、そこには……。
「ここって結構有名なお店だって聞いてけどさ。本当か?」
 マフィンが一番苦手とするような、厳つい態度のお兄さん。
 マフィンは一気に血の気が引いていくのを感じた。
 途端に体はがたがたと震えだして、冷汗がだらだらと頬をつたう。
「あぁえっと……その通り……です?」
 マフィンは最後が疑問形になりながらも、なんとか笑顔を浮かべる。
 それがきっかけだったのだろうか?
 その瞬間その青年は恥ずかしそうに眼を伏せて。
「……そうか」
 と呟くようにそう言った。

 ここにいたのだ。マフィンちゃんに惚れてしまった可愛そうな男が。

 さて場所は変わりまたコニャック山に戻る。
 私達は先ほどよりもグラニュー党のアジトへと近づいて来ていた。
「ここから先は気を付けてください。何があるのかわかりませんから」
 おじさんは額に脂汗を浮かべてそう言った。
 さっきよりも緊張したその様子に、私も自然と緊張状態へとおちいっていった。
 生唾をごくりと飲み込む。
 シフォンさんもそんな戯言なんかいっている暇はないなと、急に静かになった。
 いやシフォンさんだけではない。皆自然と口数が減っていった。
 途端におじさんがぴたりと立ち止まり、唇に指を当てて静かにとゼスチャーをしてきた。
 私達は動きとよべるすべてを止めた。
 おじさんは指先であっちをみろと言ってきたので、私たちはそちらに視線を向けた。
 そこには武装をした、厳つい男が四人。辺りを見渡していた。
 奴らは見張りと考えていいだろう。
 おじさんはさらに顔を青ざめて、「どうしますか?」と口をパクパクと動かした。
 シフォンさんは小声で。
「敵は四人か。うん。問題ない」
 そして懐から拳銃を取り出した。
 それを見たおじさんが慌てたように。
「何やってんですか!音でばれてもいいんですか!?」
「大丈夫だ。これはただの拳銃じゃない。魔法弾が入っている特別な拳銃だ」
 おじさんはそれに眉根を寄せて。
「は?」
「まぁ。見ていろってことだ」
 シフォンさんは自信満々にそう言うと、拳銃を身構えた。
「古より大地に光の鉄槌を下す雷光よ。今我の願いを聞き届け、かの者たちにしばしの休眠を与えよ」
 そう小声でつぶやいた瞬間。確かにシュッというごく小さな音がした後に、男たちがバタバタと倒れだした。
 おじさんは隠れるのも忘れて、立ち上がると。
「何をしたんですか!?」
「あいつ等の神経をマヒさせた。ただの雷魔法だ。気にするな」
 確かに男たちの横を通り過ぎると、男たちは口から泡を吹いて。
「ギ*+@<ギ*@……」
 そう意味不明な言葉を呟いていた。
「行くぞ。準備はいいか?」
 シフォンさんのその掛け声に私は我に返る。
 そうだそんなことを気にしている場合じゃないんだ。いまはシャスール君の救出の方が先だ。
「はい」
 私はシャスール君が生きていることを祈りながら、その開かれる扉の先を見つめた。
 鼓動は信じられないくらいに速くなっていた。心臓が痛くなるほどに。
 そして少し開いた扉の間から、男の声が聞こえてきた。
「やあ。待ってたよ」
 その余裕な態度にも驚いたが、私はその扉の先の光景に絶句することになるのだ。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.66 )
日時: 2012/10/28 22:47
名前: 緑野 柊  (ID: OAdxRzGu)

               * 

 私は今にも悲鳴をあげそうな口を手で覆った。
 それはあまりにも衝撃的な光景で、しばらく誰も口を開けなかった。
 おじさんが小さく嗚咽を始めた。
 シフォンさんは気分を悪くしたように下唇を強く噛みしめた。
「お前……」
 絞り出すようにシャルロットがそう言った。
 男は愉快そうに笑いだした。
 そこはまるで地獄のようだった。
 子どもたちは布で口をふさがれ、ろくに叫ぶこともできずに、両足両手を縛られて、動けない状態だった。
 一人の少年は瞳にうっすらと涙を浮かべて、こちらに助けを求めれば、男の部下に殴られた。
 なんということだ。この子たちは助けを求めることも許されないの?
 私はまた気分が悪くなってしまった。
「いやぁ〜、遅かったね。待ちくたびれちゃったよぉ」
 その男はまるで友達にでも話しかけるように陽気な態度でそう言った。
 男は長すぎる髪を掻き上げて、ニヤリと歯を見せる。
「待っていたつもりも待たせていたつもりもないのだが?」
「いやぁ、そちらがそうでもこっちはずぅっと待ってたの」
「そうか。貴様の都合など知らないがな」
「考えてよぉ〜」
 なんなんだこの人は……。
 私はこの人の調子についていけずに、ただただ蚊帳の外。
 シャルロットはため息を吐き。
「単刀直入に言う。子どもたちを解放しろ」
 冷徹にそう言った。
 それに男は鼻で笑い。
「馬鹿じゃん?そんなことするわけないじゃん」
「痛い目、合いたくないだろう?」
「合わないよ。合うのはお前の方」
「それはどうかな」
 途端に敵に向かって突進していったのはプレッツェルだった。
 プレッツェルは電光石火の速さで、敵の持っている拳銃を蹴り飛ばしてしまった。そしてその反動でこちら側に向かって飛んできた銃を空中でキャッチして反対に敵に向かって銃を向けた。
 銃を向けられた男は唖然と両手を上げるしかない。
「へぇ。この程度か。なら十分この人数で足りるな」
 これに男は失笑し。しまいには腹を抱えて笑い出した。
 プレッツェルは頭でもおかしくなったのかと、訝しげな表情をする。
 男は涙を拭いながら。こう言った。
「この程度のもンと思ってもらっちゃあ困るな」
 そして指を鳴らすと、どこに隠れていたのやら、銃やナイフを手に持った男たちがぞろぞろと出てきた。
 私たちは完全に囲まれてしまったのだ。
 これにはさすがのシャルロットもシフォンもなす術がなかった。
 こんな大人数を相手に、この五人。しかも一人は全く役に立たないし。
 敵の数はざっと数えても二十、いや三十はいた。
 おじさんはがたがたと震えながら。
「どうして……」
「いやぁね。もうさ、君たちには絶望したの。君に何を言ったって絶対君は人を殺さないでしょ?だからさ、もう直々に僕が殺しちゃおっかなって」
「じゃあ息子は!?子どもたちは!?」
「大丈夫。僕が責任を持って殺してあげるから☆」
 おじさんはその言葉を聞いた途端。力なくその場に崩れ落ちた。
 それもそうだろう。町の子供たちは全員殺されることになる。私の知る限りだけど。
 しかしそれよりもこの状態だ。私がどうするかと思考を張り巡らせていたとき。
「皆服をこすってくれ」
 シフォンさんが唐突にそんなことを言い出した。
 もちろん皆は目を点にする。
「は?」
「馬鹿。静電気を起こすんだよ。ワタシの得意魔法は雷と炎。雷の小魔法ぐらいは使えるだろう」
 そう言いながらシフォンさんは持っていた水筒の口を軽く開いた。
 なるほどここにいる人たちを感電させて動きを止まるのね。
 私たちは敵に気付かれないように、こっそりそれぞれの服の袖などをこすり始めた。
 シフォンさんが目で合図をくれるまで。
 そしてそれからほんの数秒後。シフォンさんと目があった—。
 今だ—!
 私たちは腕を前に差し出した。
 その瞬間シフォンさんは水稲の中身をぶちまけて、濡れた床に銃を向ける。
「眠れ—」
 シフォンさんは雷をまとった魔法弾を撃った。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
 近くにいた数人の男たちは悲鳴を上げて、ばったりとその場に倒れこんだ。
 だがそこで気を抜いては行けない。だってこの男たちはこの大勢の人たちのほんの一部なのだから。
「残り三九人〜」
 男がふざけたように言った。
 子どもたちは後ろの方でがたがたと震えているのだろう。時折小さな悲鳴が聞こえてきた。
「シャスール!」
 おじさんは悲鳴にも近い声を上げた。
 その横顔は子どもの事を心配する父親の顔そのものだった。
「お父さん!」
「シャスール!」
 子と親との感動の再開。だがこの再開に水を差す、甘ったるく気持ちの悪い男の声が。
「あららぁ。駄目よぉ。あなたたちは死ななくちゃいけない運命なんだから」
 男がにんまりと笑うと、さらにどこにいたのやら、ぞろぞろと多くの武装化した若者たちが出てきた。
 ……この状況は、良い状況とはいえなかった。むしろ悪い状況だ。
 プレッツェルは汗まみれになりつつも一生懸命に剣を振りかざし戦った。
 シフォンさんはできるだけの体術で戦った。
 シャルロットも……。
 おじさんは後ろでがたがたと震えていただけだけど。
 私は何をした?私だってこの弱虫のおじさんのように何もしないで震えていただけじゃないのか?
 私には……何ができる?
「あがぁっ!」
 突然の悲鳴に、私はハッと我に返る。そこには……。
「……プレッツェル君!」
敵の拳銃で右腕を貫かれ、だくだくと止まらぬ血を必死に止めようと、撃たれたところをつよく握っているプレッツェルの姿があった。
 私はサーッと一気に青ざめていくのを感じる。
 こうやって私が何もできない間にも人は死ぬ。大切な人は傷つく。
「プレッツェル君!」
 私が慌てて駆け寄ろうとすると、大声で怒鳴られてしまった。
「ミルッ心配するな!前にも出てくるな!」
「そうだ。ミル。お前はワタシたちの後ろに隠れていろっ!」
 え?どうしてシフォンさんもそんなに必死な顔をして。私が前に出ていくことを止めるの?
 私が困惑していると、プレッツェルがすごい剣幕でこちらを睨んでそう言った。
 もしかしたら痛みをこらえてこちらを睨んだのかもしれないが。
「それにお前、まだ魔法が使えないだろ」
 その途端私の頭の中は真っ白になってしまった。
 ばれていた。私がまだ何の力を持っていなかいことに。私が何の役にも立たないことに。
 それでもシフォンさんもプレッツェル君も私を守るために傷ついている。
 皆、皆。私のせいで死んでいく?死ぬ?死んじゃうの?
 死—?
 そんなの……嫌だ!

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.67 )
日時: 2012/10/29 23:10
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

                * 

 自分でも何が起きたのか分からなかった。
 ただ大切な人がいなくなってしまうことを想像して、激しくそのことが嫌だと思うと、私の周りから炎が噴き出したのだ。
 その炎は敵の持っていた銃弾の火薬にでも反応してできたものなのかもしれない。
 ただ私は理解できなくて、自分の周りから轟々と出る炎を見つめていた。
 炎は唖然としているシフォンさんとプレッツェルの間を通り抜けて、さっきまで小馬鹿にした笑みを浮かべていた男の首元に、まるで竜のように巻きついた。
「ぐぅ……!?」
 男は苦しそうに顔を歪めるが、その体は見る見るうちに宙へあがって行ってしまった。
 男に雇われていた若者たちは、ただ驚くばかりで、そのざわめきはまるで水に小石を投げ込んだ時にできる波紋のように広がっていった。
 これが……魔法?
 私は呆然と自分の両手を見つめてから、視線を逃げ出そうと足掻く男へと向ける。
 ……すごい!これが!?
「今すぐその魔法を止めろ!ミルッ!」
「え……?シフォンさんでもこれって」
 私が意気揚々とそう答えたその瞬間だった。私の周りをゆらゆらと揺れていた炎が、突然ごおっと勢いを増して、私はあっという間に炎の中に飲み込まれてしまった。

「ぎゃあああああああああああ!」
 突然響いたのはミルクレープの悲痛な悲鳴。
 しまった。つい見とれてしまったが。まだミルクレープは自分の魔力をうまくコントロールできないんだ。
 自分が生み出した炎にこのままでは焼き殺されてしまう。
 しかしさっきので水はすべて使ってしまった。
「ああああああああああああ!」
 ミルクレープはカッと目を見開き、苦しそうに宙に手を伸ばしている。
「くるじいくるじいくるじい!たずけて……」
 このまま……見過ごすのしかないのか?
 ワタシが半分あきらめかけてしまったとき。その炎に臆することなく突っ込んでいく一つの影。
「ミルッ!」
 プレッツェルはその炎の中に突っ込んで行って、ミルクレープを力いっぱいに抱きしめた。
「大丈夫だ。大丈夫。もう苦しくないぞ」
 プレッツェルも熱いだろうに、そう優しく話しかけた。
 まるでミルクレープを落ち着かせるように。
 プレッツェルはミルクレープの頭を優しく撫でた。
 それが功を成したのか、ミルクレープの周りの炎はみるみるうちになくなり。ミルクレープはぐったりとその場で気絶してしまった。
「ミルッ!大丈夫か!?」
 ワタシも慌てて駆け寄って、息を確認する。
良かった。息はあるな……。
「おいっ!お前早く兵士を呼んできてくれ!」
「はっはいぃ!」
 ワタシが大声でそう指示を出すと、ワタシ達をここまで連れてきたおじさんは、大慌てで兵士を呼びに出て行った。
 これで良し。と言いたいところだが。疑問は残る……。
 それにしてもあの技は……。もしかして……?これはノエルに話す必要がありそうだな。
 ミルクレープが魔法を発動したあの一瞬。ワタシの中であの人と姿が重なってしまった。
 だけど、今はそれよりも……。
「さてと……」
 ワタシとシャルロットはこの男たちを逃がさないように、見張っていようと立ち上がるが、プレッツェルだけはその場に座り込んだままだった。
 だが誰も彼に声をかけなかった。
 プレッツェルは煤だらけになってしまったミルクレープをただじっと見つめていた。


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