コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
- 日時: 2012/07/10 23:37
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
ついについについに来ました!
どるさんとの合作!
このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!
今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。
それではどるさんと読者さんに感謝しながら、
このお話を書き進めていきたいと思います!
そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!
ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
↓レッツゴー!!!(^O^)/
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- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.148 )
- 日時: 2013/03/18 17:15
- 名前: 緑野 柊 (ID: UgGJOVu5)
同刻、ミルの方はと言うと。
「やっと着いた〜!」
ずっと固い木の上で寝そべっていたからだろうか、バキバキに固まった体をうんと伸ばして、サンサンと輝く太陽に目を細めた。
青い草の匂いと、気さくな人々。
……帰ってきたんだなぁ。
腕をぶらりと垂れ下げて、大きく息を吸うと改めてそう確認した。
何も変わってない。ここはド田舎。城下町グランマイルと比べれば大きな建物もないし、派手な格好をした若者たちもいない。
この私の格好でさえここでは目立つくらいだ。
「……ミルクレープ?」
「……お婆ちゃん?」
一体私がこの島から出てどれくらい月が立ったのだろう。私が記憶している辺りには五、六か月くらいだったと思う。
お婆ちゃんは相変わらずしわしわの顔。驚いたように私を見上げていた。
お婆ちゃんはゆっくりと私に近づいてくると。そっと頬に手を触れてきた。
その手も乾燥しきっていて、いかにもご老人の肌って感じがしたけど。私にはそれが酷く懐かしくて、とても心地よいような気がした。
「……久しぶりだねぇ」
「うん。お婆ちゃんも久しぶり、長いこと会ってなかったけど元気そうで良かった」
言いながらお婆ちゃんは優しく頬を撫でてくる、昔もよくこうしてもらったっけ。と、私は思わず目を瞑った。
「何が元気そうだい、最近は腰痛も激しくなってきたし。ここまで来るのもやっとだったのよ」
皮肉げに言うお婆ちゃんは軽く額を突いてきた。
「そうなのっ!?」
それは初耳だ。元気なお婆ちゃんとはいえ老人なのには変わらない。私がいなくなってから身の周りの世話も全部一人でやって、負担をかけ過ぎたのかな?
そう心配になっていると。お婆ちゃんはふっと優しく微笑んで。
「ミルクレープがいなくなってから、寂しくて死にそうだったわ」
見つめてくる瞳が、少し潤んでいるような気がした。
その言葉に私も涙がこぼれそうになる。
「お婆ちゃん……私も寂しかったよ」
頬に触れるその手に、自分の両手を重ねて、私も微笑み返した。
「お帰り。ミルクレープ」
「ただいま。お婆ちゃん」
それから二人並んで久しぶりにクーヴェルテイルの街を歩き回った。
本当にお婆ちゃんは腰を痛めたらしく。歩くのもすごく遅かったけど。やっぱりこうやってずっと一緒に暮らしてきた人と、久しぶりに並んで歩くのは、嬉しかった。
「おっ!ミルクレープじゃねぇかっ」
「あっ!小父さん〜!」
久しぶりに会う顔に出会っては、私は走って駆け寄った。
「小父さんも変わらないね」
「ミルクレープこそ変わんないじゃねぇか。もうこっちに帰ってきたのかい?」
「ううん。クーヴェルテイルには二,三日くらいしかいないんだ。すぐに帰るよ」
小父さんは少し寂しそうに目を伏せた。
そんな顔は止めてほしい。私まで帰る決心が揺らいじゃうじゃないか。
「そうか。残念だなぁ、実は五日後に俺の孫が生まれる予定なんだけどなぁ」
「えっ!?そうなの!?すごいっすごいっ!」
私は目を輝かせて小父さんに顔を近づけた。
小父さんはニヤリと笑い、自慢げにこう提案してきた。
「ちょっと見てみるか?」
そんな闇金でも取引する時みたいな邪悪な顔して、とても喜ばしい出来事なはずなのに。
そう思いながらも、私は赤ちゃんというものはどういうものかに興味があった。
「いいのっ!?」
これは頷かずにはいられないっ!!
「……うわぁ」
初めて真近で見てみた妊婦さんというものは、本当にお腹が大きくて、まるでお腹の中に巨大な風船を隠しているようだった。
「すごい……」
なんだか怖くて入り口の前で突っ立っていたけど、小父さんに背中を軽く押されるように妊婦さんに近づいて行った。
妊婦さんは幸せ一杯のオーラで微笑みかけてきた。
「触ってみる?」
いや、触りに来たのには間違いないのだけども。なんだかいざ目の前にしてみると、触るのが躊躇われる。
手を宙に彷徨わせて、どうしても躊躇していると後ろからその様子を眺めていたお婆ちゃんがそっと私の手を取って、優しく妊婦さんのお腹に押し付けた。
「あ……」
暖かい。
そう感じた瞬間に感じる、命の鼓動。
トクン、トクン、トクン。
確かに妊婦さんのお腹には命が宿っていた。
なんだか不思議だ、一人の体の中にもう一つ体があるなんて。
「……どうかしら?」
「えっ?……あっ」
ぼうっとしていた私は突然尋ねられて動揺してしまう。
妊婦さんはそんな私ににっこりとほほ笑みかけていた。
なんだか恥ずかしくなってしまって、私は俯いた。
「不思議でしょう?こうやってミルクレープも生まれてきたのよ」
耳元でお婆ちゃんが懐かしそうに笑ったのが聞こえた。
そっか。こうやって私も生まれて来たんだ。プレッツェル君も、シフォンさんもマフィンちゃんも、ティラミスさんも、先生も。そしてお婆ちゃんも。
全員全員、こうやって誰かから生まれて来たんだ。
いつかこうやって触れてるこの子だって大きくなって、この世界に生きていくんだろう。
ふと、瞼の裏に浮かんだバニラちゃんの後姿。
少しだけ胸が痛んだ。
妊婦さんはお腹の子を、大切に大切に愛おしそうに、ゆっくりと撫でている。
小父さんだって、今から生まれてくる命を待ち遠しそうに、妊婦さんのお腹を優しい瞳で見つめている。
こうやって、望まれた命が、人形遣いや、あのお方って呼ばれる人たちによって消えようとしているのかもしれない。いや今はその可能性が高くなってるんだって。クレソンさんが言ってた。
まだそれが本当の真実かどうかは分からないけど。
この場の雰囲気が暖かい。ほっこりとする。
皆皆が。このお腹の命が生まれてくる瞬間を待ち望んでいる。
部屋中を見渡して、このお腹の子に向けられる笑みを見た瞬間、私は大きな間違いに気が付いた。
この世界には、私が思っていたよりも、もっとずっと多くの命があって。望まれて、大切にされている命が何万とあって。
私はもうあんな思いはしたくないから、自分の都合で、エゴのために戦おうって決めたし、本当に彼らがこの世界を一度滅ぼそうとしているのなら。
この世界に望まれて生まれてきた幾選もの命が、たくさん奪われようとしている。
だとしたらこの場にいる人たちは、その時どんな顔を浮かべるのだろう。
皆泣いて、泣いて。泣き叫ぶのかな?悲しくてたまらなくて。まるで私がバニラちゃんを喪った時のように。
なんだか。それは嫌だな—。
皆こんなに幸せそうなのに、こんなに幸福そうな笑顔を、私は悲しみに明け暮れる涙でぐしゃぐしゃにさせたものに変えたくない。
……守らなくちゃ。この子が安心して生きていける世界を。未来を。
改めて命の尊さを知った私は、この時そう強く思った。
だから。君は生まれてきて、この世界で精一杯生きていくんだよ。
ひっそりと心の中でお腹の子に、語りかけて。私はふっと微笑んだ。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.149 )
- 日時: 2013/03/18 17:16
- 名前: 緑野 柊 (ID: UgGJOVu5)
*
それから日も沈み、客の姿も少なってきた頃。オレは緊急ということでマカロンさんの制服を着ていた。
「あ〜びっくりした」
「それは俺のセリフだ。まったく……なんで俺が」
マカロンさんはぶつぶつと言いながら、片づけをしている。
「本当にごめんなさい……プレッツェル君」
「いや、びっくりしたけどもういいよ」
すまなそうに肩を落とし続けるマフィンを見てなんだか可哀想に思ったオレは苦笑して彼女を許してあげた。
シフォンさんが奥から出てきて、口を開く。
「それにしてもマフィンがこんな失敗をするなんて意外だな。何か悩み事でもあったのか?」
「うん。ちょっと気になることがあってね」
マフィンは少しぼんやりとした口調で答えた。
確かに何か思い悩んでいることがあるようだ。
「何を悩んでいるの?良かったらワタシに何でも聞いてくれていいのよ?」
マフィンは驚いたように目を丸くしてから、少し戸惑うように視線を左右に彷徨わせる。やがて覚悟を決めたように少し吊りあがった目で見上げてきて。こう言った。
「じゃあ、お姉ちゃん……全部。話してくれますか?」
……あ。
そうかマフィンはまだ、何が起きているのか知らないのか。
言い訳は通じないと言いたげな。強い目。
本当は全てかくしておきたかったのだけど、ここまでバレテしまえばもう隠すことは難しいだろう。
オレは慌てたが、シフォンさんは覚悟を決めたように力強く頷いた。
「……分かったわ」
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.150 )
- 日時: 2013/03/18 17:17
- 名前: 緑野 柊 (ID: UgGJOVu5)
*
ワタシは出来るだけ自分の知っていることを、グロテスクな表現は差しぬいて、簡潔にマフィンに説明した。
ワタシは全てを伝えてしまえばマフィンは壊れてしまうんじゃないか。それだけが怖くて。ずっと伝えられずにいた。
ワタシ達しかいない店内に、重苦しい沈黙が舞い降りる。
誰もが心配そうにマフィンの事を見つめていた。
しばらくして。
「……そっか」
マフィンはそう静かに頷いた。
イメージしていた反応と違って驚いた。
だってワタシのイメージではもっと泣いたりとか。守れなかったプレッツェルやそれこそ理不尽にもミルクレープを責めるくらいの。そんなか弱い少女の印象しかなかったから。
でもそれはもうワタシの記憶の中のマフィンの話で実際には彼女はもう立派な大人になっているのかもしれないな。そう思うと少し寂しかった。
「それであの時ミルちゃんはあんなに……そっか。これでようやく納得できました」
マフィンは小さく何度も頷くと、私を見上げた。
「全部教えれてありがとう。お姉ちゃん」
ふっと微笑んだ。
その時。ワタシは分かってしまった。長く傍にいたからこそ分かる。彼女の小さな嘘に。小さくとも頑固な嘘に。
思わずため息を零す。
そんなワタシを二人は不思議そうな顔で見てきた。
軽くプレッツェルの肩を叩いてカウンター越しから小声で囁く。
「行くぞ」
「行くってどこに?」
「良いから来い」
コイツにはどうやら分かっていないらしいな。だがいちいち説明するのも面倒くさい。
不服そうな彼の腕を無理やり引っ張って厨房に連れて行く。
「ちょっ!シフォンさん!?」
「来い!いいからっ!来ないと痛い目に合わせるぞ」
「そんなぁ!」
空気を読まないプレッツェルをずるずると引きずるようにして厨房に連れて行く。と空気を読んだマカロンまでワタシについてこようとした。
が、ワタシはそれを止める。そんなことをしてしまったらプレッツェルを連れて行く意味がなくなる。
「お前はここにいろ」
「は?でもシフォンさん……」
「いちいちうるさい!このワタシが良いと言ってるの!大人しく甘えてろっ!」
「でも……」
それでも何かまだ言いたげなマカロンを見てワタシは、はぁと大きなため息を吐いた。
彼の耳元に唇を寄せてそっと囁く。
「いいか?マフィンのあの顔は。絶対に何が何でもワタシの前では泣くもんかって、泣くのをこらえてる顔なんだ」
「え?」
マカロンは驚いたように目を見開いた。
まぁそれもそうだろう。一見しただけではそんなに辛そうな顔にも見えない。でも姉妹だからこそ分かる。そんな嘘だってあるだろう。
「そんな時には傍に誰かがいてやるのが良いんだ」
「でもそんな重要な事だったらオレじゃなくて……」
マカロンが襟を掴まれて困惑しているプレッツェルに向く。
……呆れた。
「それはお前が許さないだろ?だからワタシが譲ってやってるんだ。本当は心底嫌だけどな!」
最後の方を強調して言う。
だって心底本当に嫌だからな。こんな男と二人っきりにするなんて。あぁ、あとでどんなふうにしてマカロンをボッコボコにしてやろうか。
なんて……まぁ今回はしょうがないからそんなことも言ってられないけど。
「だから今回だけ。特別許す。だから甘えとけって言ってるんだ」
「シフォンさん……」
マカロンが驚いたような嬉しそうな顔をしてじっと見つめてくる。
「気持ち悪い。そんな目でワタシを見ないでくれ。鳥肌が立つ」
ワタシはそう冷たく吐き捨ててまたプレッツェルを引きずる。
「えっ!ちょっ!シフォンさんいったい何だったんですかっ!?て言うかちょっ……マジで首絞まる……」
プレッツェルが後ろでギブッ!と喉元を抑えて喚いていたが。無視してワタシは彼を厨房まで引きずってやった。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.151 )
- 日時: 2013/03/18 17:17
- 名前: 緑野 柊 (ID: UgGJOVu5)
*
「マフィンちゃん……」
恐る恐る彼女の名前を呼ぶ。
さっきシフォンさんに言われたことは相当な大役だった。
これで俺がもしマフィンちゃんを傷つけるようなことを言ったらどうしよう。確実にシフォンさんに殺される!でもそんな事よりも、俺自身が彼女を傷つけたくない。
でも自信がない。だって俺はここにいる皆とは違う。昔は結構荒れてた。今だって……。
「あ。マカロンさん。どうしたんですか?」
「あ……いや。そのぉ」
どうしたのですかと聞かれて君を慰めに来ましたと答えるのも、どう考えてもおかしいし。
俺は思わず回答に詰まった。
マフィンちゃんは不思議そうに可愛く小首を傾げたけど、幸運なことに自分から話題を変えてくれた。
「そう言えばお姉ちゃんどうしたんでしょうか?プレッツェル君をあんなに引きずって」
「さ……ぁ?どうしたんだろうなぁ?」
それは俺に気を使ってくれた為です!なんて言えない!!
俺は少しぎこちないながらも、マフィンちゃんの隣の椅子に腰を掛ける。
「プレッツェル君も苦しそうにしていましたし。大丈夫でしょうか?」
「あぁそれは彼は屈強だし。大丈夫。心配いらねぇよ」
なんとなく他の男の話題を持ち出されたのにムカついて。即座に否定してしまった。
恥ずかしいな……この年で嫉妬なんて。
そもそもプレッツェルはマフィンちゃんの事絶対好きじゃねぇし。アイツが好きなのはミルクレープだろうし……本人は認めねぇけど。
「そうですか。そうですね」
たぶんマフィンちゃんもプレッツェルの事をそうゆう目で見てもないだろうし。
それなのにそんな奴に嫉妬だなんて。
「……そうだよ」
恥ずかしい!!
答えながらだんだん恥ずかしくなってきて、俺は真っ赤だろう顔を隠すために机にうつ伏せた。
それから会話が途切れる。
どこからか(恐らく厨房)まだ何もやってないのかという無言の威圧オーラを感じた。
焦りを感じる。
早く何か切り出さなくちゃ。でも何を言えばいい。単刀直入に聞いちゃうか?でもそれでマフィンちゃんを傷つけちゃったらどうしよう。
でもそしたら何て言えばいい?
「あのさ……」
気づけば口が勝手に開いていた。
「何ですか?」
当然マフィンちゃんはそう答えてくれる。
でも俺はその先を全くもって考えていなかった。
「あ!いやその……さ。…………マフィンちゃんは……そのバニラちゃんのこと聞いて……どうだった?」
言ってしまってから。俺は死ぬほど後悔した。
「え……」
マフィンちゃんは驚いたように顔を強張らせた。
慌ててさっきの言葉を誤魔化そうとする。
「あっ!いや!そのっ!なんかさっ!以外と平気そうだなって思って!!」
何言ってんだ俺は!!!!
何が平気そうだ。だ!んな訳ねぇだろ!絶対仲の良かった友達が死んじゃったんだ。傷ついてるに決まってる!
それなのに俺は気の利いた言葉一つ出やしねぇ。
かっこ悪い……俺。
「そうですね。悲しくないという訳じゃないんですが。なんていうか……実感がわかないくて。なんかまだ夢を見ているような。そんな気がして」
マフィンちゃんは表情を変えることなく淡々とそう語った。
だけどその顔は酷く蒼白く。小刻みに手が震えていた。
「またいつか。ひょっこりとこの店に顔を出してくれるような。そんな気がしてしまって」
「マフィンちゃん……」
俺は震える彼女の手のひらに自分の手のひらを重ねる。
びくりと彼女の肩が震えた。
「だって……死。死ぬなんて……バニラちゃんが人形で死ぬなんて……そんなこと信じられなくて……だってそんなの……そんなの非現実的じゃないですか……だから……」
ポツリポツリと語っていた彼女の顔がだんだんと歪んでいく。
「わたし……わたしっ!!」
ついに我慢が出来なくなって、両目からマフィンちゃんは大粒の涙を流し始めた。
「マフィンちゃん……」
俺はそんなマフィンちゃんを強く抱きしめる。つぶれちゃわないように壊してしまわないように。優しくでも強く抱きしめる。
「わたしっ……わたしはっ……うっ……うぅっ!」
マフィンちゃんは俺の胸元に顔を寄せて。
「うわあああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」
声を上げて泣き出した。
子どもをあやす様に背中を優しくさする。
するとマフィンちゃんも俺の腰に手を回してきて。ぎゅっと抱き着いてきた。
「ああああああああああああああああっ!バニラちゃん……バニラっ……あぁぁぁあああんっっっ!!!!」
……おおっ。これは。これは……。
俺は初めてバニラちゃんが俺に甘えてくれたような気がして、嬉しくて。でもそんなこと思っちゃ駄目だって。自分を叱りながら。
ゆっくりと彼女が泣きやむまで背中をさすり続けた。
だって。俺に出来ることなんて。それくらいしかなかったから。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.152 )
- 日時: 2013/04/05 21:36
- 名前: 緑野 柊 (ID: UgGJOVu5)
*
「……良いにおいがする」
「あともう少しで出来るから。待っといてくれ」
「はーいっ」
久しぶりの我が家。
私は懐かしの居間でごろりと寝転がりながら、お婆ちゃんの作るビーフシチューが出来上がるのを待っていた。
お婆ちゃんの作るビーフシチューは昔から私の大好物で。小さいころは毎日「ビーフシチューが食べたい」と言って。お婆ちゃんを困らせた。
……懐かしいな。
そんなことを思い出しつつ、うとうとし始めると。
「出来たわよっ!お婆ちゃん特製のビーフシチュー!」
「うおおおっ!!!」
完成の声が聞こえて、私は喜びの声をあげながら急いで飛び起きた。
「おいしかったぁ……お婆ちゃんの作るビーフシチュー」
「ミルクレープはこればっかりはちゃんと完食するんだから」
「……あはははは……」
思わず乾いた笑いが出てしまう。そう言えばティラミスさんにも野菜を食べなさいって良く怒られてたっけなぁ。
なんだかあんまり自分が変わってないような気がする。中身はまだちっちゃなときのまんま。
しかし、お婆ちゃんはそんな私にこう言った。
「しばらく見ないうちに。こんなに大きくなっちゃって」
「そう?身長も中身も変わってないよ??」
ふるふるとお婆ちゃんは首を振る。
「変わったわよ」
「……ふーん」
自分ではまったくそうは思わないんだけどなぁ……。
むしろ全然変わらなくて悲しいっ……。
でもお婆ちゃんは私をすごく嬉しそうに、ニコニコ笑いながらじっと見つめてくる。
なんか恥ずかしい。
「……何?」
「んー?なんかね。……あぁ。ミルクレープがいるなぁって」
「しばらく会ってなかったもんねぇ……でも半年ぐらいでしょ?」
「馬鹿っ!その半年が老人には何十年にも思えるのよっ!」
「そんなっ!老人って……」
いきなり怒鳴られたことに驚いて、私は苦笑いをする。
「もう老人よ」
お婆ちゃんは目を細めて寂しそうに笑った。
目の皺が多くなったような気がする。腰痛も酷いって言ってたし。
「そっか……」
なんだかそう思うと、悲しくなってくるなぁ。私が一つ年をとるたび、お婆ちゃんも一つ年をとる。それが悲しい。もうどうすることも出来ないのに。
「そうだっ!私お婆ちゃんにお土産があるのっ!」
「私にぃ?」
お婆ちゃんは訝しげな表情をしてじっと見つめてくる。
うっ……酷いなぁ。
「本当だよっ!嘘なんか吐いてないよっ!」
「信じられないねぇ。ミルクレープはしょっちゅう私に嘘吐いてたじゃないか」
「それは昔っ!今は今だからっ!」
「……そうかい?」
なんだかここまで疑われると。だんだん腹が立ってくる。
私は自分のカバンを乱暴に引っ張ってきて。中身をあさり始めた。
そんな私をお婆ちゃんはやっぱりまだ信じきれない様子で、見ていた。
「あ……あった。ホラこれ!」
カバンの中から紙袋をえいやっと取り出して、お婆ちゃんに渡す。
「何だう?これ?」
「いいからっ!開けてみてっ!お婆ちゃん絶対好きだと思うの!」
「ふぅん……」
お婆ちゃんはそう言いながらも紙袋をべりべりと開ける。
そして中から出てきたのは。
「これ……」
「ふふんっ♪それ。好きでしょっ?」
十字架のついたアンティーク調の金色の指輪だった。
そう。私がバニラちゃんとお揃いで買ったあの時と一緒にビーンズで買ったものだ。
ちゃんと忘れずに持ってきたのだ。
私は得意気に笑って、尋ねる。「もちろん」と答えが返ってくるのを確信して。
だけどお婆ちゃんは。一言。冷たく。
「こんなもの老人にプレゼントしてどうするのよ」
「えっ……」
予想外の答えに思わず固まる。
「それはお婆ちゃんを喜ばせるため……」
「そんなのお金の無駄じゃない。そんな無駄してもいいほど貴女お金に困ってないの?」
「うっ……それは」
て言うかプレゼントしたのに文句言われるってどういうこと!?そんなに悪いことした私!?!?
いやいや。そんなはずないんだけど。なんだか混乱してくる。予想外のことが多すぎて。
「……でも」
お婆ちゃんが少し呆れたようにため息を吐いた。
「気持ちは嬉しかったわ……ありがとう」
「お婆ちゃん……」
泣きそうな顔をして、指輪をそっと右手の中指に入れる。
「このデザイン。気に入ったわ。ありがとう。ミルクレープ」
まったく。なんでそう泣きそうな顔で言うのかな。お婆ちゃんは。私まで泣きそうになってくるよ……。
ツンと鼻が痛くなってきて。泣き出しそうになるのを必死に堪えた。
「……ツンデレお婆ちゃん」
「…………なんですって」
軽く皮肉を叩くと低い声ですぐに返事が返ってきて。私は小さく笑った。
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