コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
- 日時: 2012/07/10 23:37
- 名前: 緑野 柊 ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)
ついについについに来ました!
どるさんとの合作!
このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!
今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。
それではどるさんと読者さんに感謝しながら、
このお話を書き進めていきたいと思います!
そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!
ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
↓レッツゴー!!!(^O^)/
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- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.73 )
- 日時: 2012/11/08 18:14
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
「正気か!?」
初め。ミルクレープに魔法を教えることを告げた時、シフォンは「止めたほうがいいと」ボクに強く言い聞かせた。
だがボクはその案には乗らなかった。なぜなら、あんな状態を見てしまうと、次暴走を起こしたらミルクレープの身が持たないと判断したからだった。
だったら魔法を教えてミルクレープの命を守るほうが何倍もマシというものダ。
「ミルは、あの人と同じ素質を持つかもしれない人間だ。もしまた昔の過ちを犯してしまったらどうする?ワタシたちでアイツを殺すとでもいうのか!?」
シフォンは辛そうな表情をして僕にそう言った。
自分で言っていることが嫌だというような表情だった。
ボクらがこの手であの子を殺ス。
そんなこと考えるだけで、吐き気がした。
「せんせぇ。もうすこし様子を見ても……」
ティラミスが遠慮気味に僕にそんな提案をしてきた。
要はミルクレープが悪の道に落ちるかそれを見極めるために、もうしばらく監視していようと言っているのだ。
ただボクはそんな必要はないと思ったのダ。
「いや平気ダ。もう明日にはボクはミルに魔法を教えるつもりなんダ」
「明日って……お前いくらなんでもそれは!」
「早いカ?心配するな、昔の過ちなんか犯すもんカ」
……いや犯してたまるカ。
「せんせぇ。どうしたんですかぁ、そんなにぼうっとしてしまって」
ティラミスに呼びかけられて、我に返ル。
ティラミスは心配そうにボクのことをじっと見つめていタ。
ボクは小さく笑っタ。
「少し考え事をしていただけダ」
「……そうですかぁ」
ティラミスはボクの言葉をまだ信じてはいないようで、ボクの隣にそろーっと近づいてくると、僕の身長と合わせるように膝を抱え込んダ。
ティラミスは何かを言おうとすると、口をつぐみ、目をそらす。それの繰り返しだっタ。
きっとティラミスは言いにくいことをボクに言おうとしているんだろウ。
だけどボクはあえて何も言わずに彼女が口を開いてくれるのを待っタ。
それから約二分後くらいたった後だろうカ?
ティラミスはようやく口をおずおずと開いた。
「せんせぇ。やっぱりわたしはまだミルに魔法を教えるのは早いと思うんです」
「ティラミスが何度言ってもボクは止めなイ」
「せんせぇ!」
ティラミスは珍しく焦った様子で、ボクの腕を力強く掴んだ。
ティラミス程度の女性の力でも、細くて子どもみたいなボクの腕はメキメキと音を立てて痛んダ。無念ダ。
ティラミスはボクが痛がっていることにすぐさま気が付き慌てて掴んでいた手を離しタ。
そしてすまなそうに「ごめんなさい」と小さく頭を下げル。
ティラミスは辛そうな目をしてボクをじっと見つめた。
ボクもティラミスの辛そうな瞳をじっと見つめ返した。
ティラミスはふいに目をそらし、震える唇を開いた。
「わたしは、せんせいぇを失いたくはないんです……」
……ティラミス。
正直。こんなにボクのことを思ってくれているのはとてもうれしい。それに危険も承知だ。
ボクは何倍も自分の体より大きい、優しいティラミスの頭をそっと撫でタ。
ティラミスは驚いたように目を見開いた。
「ティラミス。ボクは君の気持ちもよく分かル。もしミルが悪の道に堕ちてしまったらボクがどうなるカ。それが怖いんだナ」
ティラミスは少しすまなそうな顔をして、コクリと頷いタ。
それはきっとミルクレープに向けてだろウ。
あんなに素直で元気いっぱいなミルクレープが、いつか人を分け隔てなく殺しまくる残虐者になるのでハ。そう疑っている自分が嫌なのだろウ。そしてそう思ってしまっているミルクレープにもすまないと感じていル。そう、ボクと同じようニ。
「でもボクは決めたんダ。ボクはあの子を信じるヨ」
「ミルは絶対に道を踏み外さないと……?」
ボクは真剣な眼差しをティラミスに向け、そうだと頷ク。
ティラミスは「あ……」と何かを言いかけたが、言葉を飲み込んで暗い表情をした。
「信じよウ。ボク達が信じなければ何も始まらなイ」
ティラミスは何も答えなかっタ。
だけど彼女も決意を決めたらしイ。迷いはもう感じられなかっタ。
ティラミスはボクを、じぃっと見つめタ。
おそらくそれは、「そうですねぇ」とボクに語りかけたのだと、ボクは思ウ。
「それに……あの人との約束もあル」
ボクは独り言のようにそう呟いたのだが、ティラミスも横で複雑そうな顔をしてしまっタ。
ボクは優しく彼女に笑いかけて。
「どうしてお前が気にするんダ?これはあの人とボクとの約束だ」
「……そう……でしたねぇ」
ちょうどその時、明るいミルクレープの声が上から聞こえてきタ。
「先生っ!用意はできたよっ!早く早くっ!」
無邪気さで一杯のミルは、待ちきれないというように早口でボクにそう言っタ。
ボクは思わず呆れかえってしまっタ。
「分かっタ。今行ク!」
「やったぁー!」
ミルの本当な嬉しそうな声が聞こえてきて、ボクは彼女が今どんな顔をして笑っているのかを想像しタ。
これからもずぅっと、ミルのあの無邪気な笑顔が失われないようニ。
それだけをボクは今もこれからも強く願っていル。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.74 )
- 日時: 2012/11/08 22:38
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
「ねぇ、これは一体なんなの?」
私は先生に「これを着ロ」と言われた、民族衣装のような服を身に着けて、くるりと回った。
「これは儀式に必要な準備なんダ」
「準備?」
私がそう尋ねると、先生は「うム」と頷いて。
「気を引き締めろよミル。この儀式でお前に魔法使いの素質があるかどうかが分かってしまうんだかラ」
まぁ、確かめる以前に。確実にお前には魔法使いの素質はあるんだけどナ。と先生はひっそりと苦笑していたが、私はそうとは知らずに。
「……そうなんですかっ!」
身を緊張でガッチガッチに固めてそう答えた。
私は先生に連れられて、先生の研究室へと向かっているところだ。
私は少し魔法の研究というものを始めてみるので、少しわくわくと胸を躍らせなが先生の後を追って歩いていた。
先生の自室は二回の先の方に、ひっそりと存在していた。
先生は扉の前までくると、小さな体をさらに縮ませて、ドアの床付近にある小さな鍵穴。それはもう私が目を凝らしてやっと見えるくらいに小さい鍵穴に、中指を突っ込んだ。
私が何をしているのだろうかと疑問に思っていると、先生は中指をぐいっと時計回りに回す。
すると驚いたことに、扉が自動的に開いて行くではないか!
そうこの扉の鍵自体が、先生だったのだ。
私が思わず感嘆の声を上げていると。中にもさらに驚くものが。
「何をしていル。早く来イ」
先生がそう言って招いてくれた研究室はいたるところに紙の束が積まれており、部屋のあちこちには魔法陣の研究資料やその結果がいたる場所に張られている。
……これが魔法!
私は息をのみ、辺りをぐるりと見渡した。
「……これ全部先生が?」
「あぁ、そうだけド?別に普通だヨ」
普通デスト!?
これが普通だとしたら私はどれだけ血と涙を流して魔法を所得しなければならないのだろう。
楽しみではあるが、一瞬げんなりとしてしまった。
先生は大きな机の前に置かれている小さな椅子に腰かけて、何やらインクと筆を引き出しから取り出した。
「ミル。悪いが背表紙が赤い本をそこの本棚から上から三番目、右から六番目から取り出してくれないカ?」
私は先生の的確な記憶力に少し驚きながら、「……分かった」と答えた。
えっと……上から三番目、右から六番目。
しかし本棚と言っても、右から左まではみ出んばかりにぎっしりと本が詰め込まれていて、こんな的確な位置を教えられても探すのは一苦労だ。
私は三段目の右端からゆっくり一つずつ本の背をなぞるようにして、確認していく。
「……あ。これかな?」
上から三段目、右から六番目の背表紙が赤の本は、思ったよりもおっきく、だがそこまで厚いものではなかった。
「はい、先生」
私は先生の目の前にその本を置く。
「ありがとウ」
先生はそう短く告げると、何を思ったのか自分の親指を強く噛んだ。
「ちょっ!?なにやってんの!」
先生の親指はがりっと音を立てて、唇を離すとすぐにどくどく血が流れ始める。
「うぃ!?」
私が驚いた声を出したのは、別に流れ出した血が怖かったとかそういう訳ではない。私が驚いた理由は、先生の血が人間とは違うどろっとした茶色の血液だったからだ。
「あぁ……ごめン。説明してなかったナ。ボクの血は人とは違う。姿も寿命も何もかもナ」
私は先生が人と違って悲しいのかと感じた。だが先生は笑って。
「何やってるんダ?こんなこと滅多にない。その眼見開いとケ」
すると先生はその血をインクに一滴、ぽとりと落とした。
そしてそのインクを筆に滲ませて、本の初めのページ。名前を書くところに先生はそのペンで自分の名前を書いた。だが先生の書いた文字は一瞬で消えてしまい。さらに突然風が巻き上がったと思えば、不思議なことにページは自然とめくれていって、風がやんだ瞬間に開いたページには、自然と「あなたを我が主、ブッシュ・ド・ノエルと認めます」と書かれ始めた。
「……すごい」
私が素直な感想を述べると、先生は少し得意げに笑った。
私はなんだかそれが癪に触って、それ以上は褒めなかったけど。
「ミル……こちらにおいデ」
先生は席を立ち、私をそこに座るようにたした。
少しそこに座れるかどうか心配になったけど、なんとか座席部分におしりを付けることに成功した。
「この本にほんのすこぅしの魔力を込めるんダ」
先生にそう言われて、やっと私は今から先生が何をしようとしているのかを理解した。
……これで私のすべてが決まるんだ。
そう思うと心臓は壊れそうなくらいに緊張でバクバクと動き出す。
私は深く息を吸うと、震える手でそっと開いたページ部分に触れる。
……これですべてが決めるんなら。悔いがないように行動すればいいんだよね……。
私はそう自分に言い聞かせると、そっと魔力を込める。
いや実をいうとそんなイメージをしただけなんだけど。
しかし空気は一気に冷え込み、本にすべての力が集まっているような。そんな錯覚に陥る。
私はそっと目を閉じ、ほんの少しの魔力を放つことに集中した。
ぱらぱらぱら……
本がめくれていく音が部屋に響く。
まだ……音はやまない。
つまりはまだページがめくられているのだ。
しかしあの本はそんなに分厚くなかったはずだ。ということはそろそろページがなくなるのでは?
私はひっそりとそんな不安を抱えつつ、やまない本のめくれていく音に耳を傾けた。
ぱらぱら……ぱら……
……音がやんだ。
私がそっと目を見開くと。そこには何もないページが開かれていた。
……空白?
私は思ってもいなかった結果に、大きなショックを受けた。
私は動揺を隠せずに。
「え……?どうゆうこと?」
そう誰かに尋ねた。
怖かった。私には魔法使いの素質がないんじゃないかって。本気で焦った。
だけど先生はそんな私に優しく笑いかけて。
「おめでとウ。ミル、君には十分魔法使いの素質があったよ」
……嘘。いやでも……本当?
「……本当ですか?」
私は本当であってほしいと強く願いながら、そう尋ねた。
先生は私に心配をさせまいというように大げさに頷く。
「本当ダ」
……本当。
私はその言葉の意味をやっと脳で理解したとき、涙が止まらなくなってしまったのだ。
ただただ嬉しくて、安心して、私は先生の研究室でこれでもかというくらいの涙を流した。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.75 )
- 日時: 2012/11/08 23:27
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
人々の叫び声や、鳴き声。喚き。ざわめきの中で、あの人は信じられないくらいに美しく笑った。
「正気ですカ!」
「……だって、私があの子を止めなくちゃ。この世界。滅んじゃうんでしょ?」
あの人はさも当然だというようにこちらに振り返り、そう言った。
その言葉には何も返す言葉は思いつかなかった。
確かにあの人を止められるのは彼女しかいない。
だけど……。
「そんなことしたら貴女の命が!」
「そうね。私死んじゃうかも」
あの人は舌を軽く出してそう無邪気に笑った。
そんな……そんなに軽いことじゃないのに!
「何笑ってるんですカ!そんな自分の命を捨てるような真似……ボクが許しませんヨ!」
ボクは声の限りそう叫んでやった。
涙をこらえて、ボクはグッと奥歯をかみしめる。
あの人はそんなことを言われても、にっこりと笑って。
「ノエル君は優しいねぇ」
その言葉にボクの心はぎゅっと締め付けられて、苦しくなったのを今でも覚えている。
「優しくなんかないですヨ……」
「そうなの?」
「そうなんですヨ!」
だからボクは優しくなんかないから……ただの弱虫だけド。役になんか立たないかもしれないけド。
「貴女になんて言われようと、ボクはどこへでもついていきますラ」
そう告げた時、やっとあの人は驚いたような顔を見せた。
だけどすぐに彼女はくすりと笑って。
「死の間際まで?」
「お供しまス」
「それはダメ」
「なんデ!」
「ノエル君には頼みたいことがあるもの」
そう言って彼女がボクに取り付けた約束は突拍子もなく、あり得ないような内容のものだった。
「もし私が死んだらね……娘のこと、ノエル君に託すわ」
……娘?もし、死んだら?
その単語がボクの頭の中をぐるぐると回っていく。
シンダラ?
「……何言ってんですカ」
一生懸命考えて、ボクの口からこぼれたのは、そんな言葉だった。
「なんで死ぬことが前提なんですカ!」
「……もしよ。もしもの話」
もしも……でも、貴女のような偉大な方がこの世からいなくなってしまうなんて。
そんなこと、そんなこと。
絶対に嫌だった。
「待っテ!」
遠くなっていく背中に慌てて手を伸ばすが、伸ばした先は見慣れた天井だっタ。
ほんの少しの間、頭の中がぼうっとして、状況がいまいちつかめなかったガ。
……夢。
そう気が付くと一気に虚しさが襲ってきタ。
ボクの中ではあの時の思い出も、あの人のきれいな髪もあの凛々しい後姿もすべて鮮明に覚えているのニ。
あの人はもう……この世にいないなんテ。
そんなこと、ボクはまだ信じれなイ。
昔、あんなに苦労をかけられたことも、もうすぎさった思い出だなんて。ボクは信じたくはなかったのダ。
そういえば昔もよく、宿題を手伝わされたっケ……。
そんな昔のことを思い出すと、よけいに悲しみがボクに襲いかかってきタ。
ボクはベッドの上で、一人起き上がって、涙をこらえようと目頭を押さえタ。
「……本当にもウ。恨みますヨ……」
そんなことを呟いても、もう恨む相手など、この世には存在していないのダ。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.76 )
- 日時: 2012/11/09 19:32
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
第八魔法 魔法使いミルクレープ
「ではミル。お前には今日から本格的に魔法を学んでもらおうと思ウ。意義はないナ?」
次の日の朝早くから、先生は私を庭へと呼び出して、高らかに私にそう宣言した。
もちろん私には異論などない。
私は声を張り上げて、返事をした。
「はいっ!」
先生は私の返事に満足そうに「うム」と頷くと。
「と、その前ニ。まずお前のその溢れ出る魔力をコントロールする術をマスターしなくちゃナ。ボク達まで巻き添えをくらって死ぬ可能性もあるからナ」
「えっ!?そうなんですか?」
私はあの場で誰ひとりもの死傷者が出なかったことが、本当に奇跡的だったんだと、この時初めて知った。
しかしよくそんな不安定な力の中にプレッツェルはつこっんで来たものだ。
あとでよぉくお礼を言わなくちゃな……。
私がそう、ふぅっとため息を吐いていると、先生はどこから持ってきたのか薪をいつの間にか庭に積み重ねていって、持っていたマッチで炎をつけた。
まぁその時点で何となく何をしようとしているのかは予想が付いたが。私は取りあえず先生に質問を投げかけてみる。
「先生……何やってるんですか?」
先生は一仕事終えたというように、さわやかに額の汗をぬぐって。
「何って……実際にあの時の魔法を見せてもらおうかと思っテ」
やっぱりぃ!
私は何となくの予想が当たってしまったことが、半分嫌になりつつも。
額を手のひらで押さえて「そんなの無理ですよぉ」と泣き言を呟いた。
しかしそれで「分かっタ」だなんて言うような先生ではない。
先生はくるりとこちらを振り返り、今だけはやけに腹の立つ愛くるしい顔で。
「そうカ。じゃあがんばレ」
そう私に冷たく言った。
「ヒドッ!」
あぁ、それだけで心が折れてしまいそうだ。
「そんなぁ先生……」
私が先生の小さな背中にそうなんども呼びかけても、話すら聞いてくれなかった。
……私は苛立ちとかそんな感情よりも先に、寂しさや悲しさに心が潰れてしまいそうでした♪
私は結局最後の最後までを、聞いてもらえなかった。いや最後どころではない、もう本当に無視をされ続けたのだ。
私の心に五〇のダメージ!
私の心に六〇のダメージ!
そうなんども心のHPを削られ、……もう諦めた。
もういいよっ!やってやるもんっ!もう庭なんかコゲッコゲにしちゃうんだから!(ヤケ)
そんな適当な気分になって、私は両手を炎にかざす。
もうこの庭なんか焼きつくようなイメージで力をこめたのだが。
「……あれ?」
何分たっても何も起きやしない。
私は急な不安に襲われて、意地も何もかもすべて放り捨てて、先生に助けを求める。
「ちょっ!どうしよう魔法使えないよ!」
私は涙目で先生を見つめるが、先生は呆れたように肩を竦めて。
「頼んでみロ。炎達ニ」
「……何を?」
「ほんのすこぅしだけでも、力を貸してくださいっテ。昔の偉大なる魔法使いも言っていただろウ?自然を理解し、自然を愛せバ。彼らは必ず私たちにその力を分け与えてくれる……ト」
先生はそう言いながらも、だんだんと顔を曇らせていった。
私はそんな先生に少し疑問を抱きながらも。
「分かった」
私は炎に向き直り、赤くごおごおと勢いを増していく炎を見つめる。
『この世はすべて自然から成り立ち、自然なしでは私たちが生きていくことも不可能である。』……ヘット著。「すべての魔法使いが心得てはいけないこと」から。
これは私が魔法の勉強をしているときに、一番心動かされた言葉の一つ。
自然がなければ人も存在することはできない。
魔法使いの理を少しだけ言い換えたもののようにも聞こえるが、この文章はなによりも正しい。
川がなければ、雨が降らなければ、海がなければ、そして山がなければ、草がなければ。人は船も作れず魚もとれず異国に助けを求めることもできず、ただ植物は枯れ、家畜も死に、残された人は飢えて死ぬしかない。
私はその言葉を心の中で思い出しながら、もう一度炎に両手を翳す。
赤く燃える炎……。すべてを焼き尽くす炎。……とても綺麗。
私は深く息を吸う。
肺の中に吸い込まれた空気は、濡れた草。少し焦げ臭い木々の匂い。自然の香りがした。
私はそれを大自然の中に戻すと、静かに瞼を閉じた。
その瞬間、視界は真っ暗闇になり、先生がどこにいるのかも炎がどれくらいの距離にあるのかも分からなくなってしまったが。それでもこれだけは手のひらから伝わる温度で分かる。
炎の位置だ。
そしてそれは私の手を翳しているところにちょうどピンポイントであるらしく、私は手のひらから伝わる暑さを感じながら。心の中でこう念じた。
『炎、炎よ。赤く燃えさかる炎、汝はときに狂い、暴れ、ときに、美しい舞を見せる。その怪しくどこか儚げな、偉大な力……お願い少しでもいいからその力。私にわけて—!』
[アァ……ミルゥ……ミルダ!]
人の声とは思えない、何とも不思議な響きの声が耳に入ってきた。
私が驚いて目を開くと「カッ!」と辺りが眩しく輝く。
『何—!?』
その瞬間。私の体を炎に包まれる美しい女の人が通りすぎたと思うと。
何かが私の中で目覚めたような気がした。
私は無意識のうちに、右手を右から横に切るように動かす。
すると炎は私の動き通りに右から左に大きく揺れたのだ。
次に私は左手を高く上にあげると、炎も上に高く燃え上がり。ぐいっと引っ張るようなポーズをすると、炎もこちらに近づいてきた。
先生は呆然と私の姿を見つめるばかりで、思わず口からこぼれた「すごい」の言葉にすら気づかないくらいに圧倒されていたのだ。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.77 )
- 日時: 2012/11/10 22:49
- 名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)
*
「……これハ!?」
ボクは彼女の魔法に、美しいよりも、恐怖を感じタ。
ミルはまるで炎とダンスを踊るかのように、楽しげに炎を操ってみせタ。
これはボクみたいな奴じゃなくてもすぐに分かル。
彼女は異常ダ。
あれではまるで炎がミルに力を貸していることを喜んでいるみたいじゃないカ。
火の粉はまるで笑っているかのようにぱちぱちとはじけ、ミルはだんだんと動きを激しくしていっタ。
それでもボクはその美しさに心奪われ、見とれることしかできなかっタ。
しかしそこでボクを気付かせてくれたのかのように、火の粉が一つ、「バチン」と大きな音を立てて弾けタ。
「……ハッ!ミルッ止めロ!」
ボクは慌ててそう叫ぶと、ミルもハッとしたように動きを止めタ。
炎は通常通りにゆらゆらと左右に小さく揺れル。
ミルは力なく両腕をぶらりと垂れ下げて、ゆっくりとこちらに振り返っタ。
「……ごめんなさい」
「いや、別にお前のせいではなイ」
そうは言っても、ミルはどんどん顔を暗くしていっタ。
今の自分はどうかしていた。
そんな風に自分が理解できないという混乱の表情があいまあいまに見え隠れすル。
ボクは小さくため息を吐いテ。話を元に戻すことにしタ。
「取りあえず、お前は魔力を無駄に放出しすぎダ。それじゃあすぐに魔力の限界でぶっ倒れるゾ」
ミルまだ少し元気なさげに「え……」と小さく呟いタ。
ボクは聞いていなかったのかと少し呆れながらも、また一から丁寧に説明をすル。
「だから、そんなに無駄に魔力を放出していると倒れるぞって言っているんダ」
ミルはやっと理解ができたのか「あぁ〜」と頷ク。
しかしそれから動きが止まってしまイ。ミルは何かを考えるように顎に手をあてた。
ミルは「うーん……」と困ったような声を出して、しばらく唸っていたが、やっと何か思いついたらしく自信ありげに大きく頷いタ。
「よしっ!」
ミルはそう言うとまた炎に両手を翳して炎を操ってみせる。
その瞬間炎は勢いを増してみるみるうちに大きくなっタ。
だが駄目なのダ。魔法は大きさなどは需要じゃなイ。なるべく小さな魔力でどれくらい威力の魔法が使えるカ。これが重要なのダ。
「……ふんっ!」
ミルは鼻の穴を膨らませるほどに力を込めて、なるべく炎を小さくしようと頑張るが、炎は右に左にゆらりゆらりと大きく揺れるだけだっタ。
ミルの額に汗がにじみ出るほど、ミルは何度も何度も炎を小さくしようと奮闘しタ。だが炎が小さくなることはなっタ。
ついにミルも諦めかけて、それをじっと見つめていたボクに助け舟を出ス。
「もう分かんないよぉ!先生も魔法使いなんでしょ!コツを教えてよっ!」
「……それは、バーッとやってギュッて感じダ」
ボクはわざわざジェスチャーまでしてミルに力説したのに、ミルは納得のいかない様子で「分かんないよぉそれじゃあ……」と唇を尖らせタ。
「もう魔法使えるんだからちゃんと説明してよねっ!」
……ヴッ!
ボクはその言葉にぎくりと肩を揺らス。
ミルはそんなボクを見て不審そうに眼を細めるが、ボクは冷汗をだらだらと流してそっぽを向ク。
「先生……?」
ミルがわざとゆっくりとした口調でボクに呼びかけたが、ボクが応答することはなイ。
魔法に詳しんだから魔法も使えるはズ!という考えに至るのは、まあボクも十分に理解できるのだガ。
ボクに魔法ではなく、魔法の使い方を教えろなどと言われてしまえば、それはきっとそう言いだした者よりも、ボクの方がもっとずっと魔法の使い方には知識が乏しい。
そうなんて言ったってボクは……魔法が使えないんだかラ。
そしてそれはボクにとっての最大のタブーであり、最大の恥部でもあル。
魔法を研究する実でありながら、魔法自体を使えないだなんて……本当に心許したもの程度にしか教えられなイ。
「ねぇ先生ってば!」
「うわっ!?……なんだヨ」
ボクは突然耳を引っ張られたことに驚いて、そしてそれをやられたことに少し嫌悪を抱きながら、ミルにそう言っタ。
ミルはそんな僕よりもさらに苛立ちを露わにして「だぁかぁらぁ!魔法のコツ教えてってば!」と耳元でこれでもかというような大声で叫ブ。
途端に耳の中はキーン響き、鼓膜が震えた。いや鼓膜が破れそうになっタ。
ボクはおかしくなってしまった片耳を抑えて、涙目でミルを睨んでやっタ。
「……だから!」
ボクも声の限りに叫んでやると、ふと脳裏にあの時の光景が蘇っタ。
「ねぇ、魔法ってどんな感じなの?」
するとあの人は楽しそうににんまりと笑った。
あの人は魔法のことになると、楽しくてしょうがないようでいつも目が星のようにキラキラしていタ。
もうその瞳も見れなくなってしまったのだけれド。
「そうだなぁ……バァーっとしてギュッて感じ?」
「……分かりませン」
ボクが眉間にしわを寄せてそう答えると、あの人は「うーん」と困ったような表情をして。
「本能に任せるってことなのかな?」
そう可愛らしく首を傾げて、にっこりと微笑んだ。
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