コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
日時: 2012/07/10 23:37
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

 ついについについに来ました! 

 どるさんとの合作!

 このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!


 今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。


 それではどるさんと読者さんに感謝しながら、

 このお話を書き進めていきたいと思います!
 
 そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!

  ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
 ↓レッツゴー!!!(^O^)/

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Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.128 )
日時: 2013/01/27 22:01
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

 一瞬の静寂。
 戦う……ってどうゆうこと?
 胸いっぱいに溢れた疑問。
 そしてそれを代弁してくれたかのようにシフォンさんがこう尋ねる。
「どういう意味だ?何が目的なんだ?」
「愚問ね。さっきもミルクレープちゃんに言ったような気がするけど」
 そんなこと一度も言われていませんがっ!?
「興味があるの。あのマジョラムの最高傑作の人形を倒せる子ってどれだけ強いのかしらってね」
「その名前を知っているということは貴様やはり……」
 シフォンさんは太ももにまきつけたベルトから魔法銃を取り出して構える。
 私達もそれに続くように戦闘態勢を取り始めた。
 プレッツェル君は腰に掛けた剣に手を。
 マフィンちゃんはせめて自分の身だけでも守れるようにと、護身術の構えを。
 そして私はというといつでも大魔法が使えるように、口の中でばれない様に呪文を唱える
 女の人は愉快そうに顔を歪めてこう言った。
「そう私こそが、人形遣いのシブレット。またの名を……業火の人形遣い」
 言いながら胸の前で腕をクロスさせる。
 本当だったら、もう二度と戦いたくなかった奴らだ。
 だってこの人たちと戦ったら、嫌でもあの時のことを思い出してしまう。
 シブレットはマジョラムと同じように、どこからか二体の人形を出してきた。
「さぁ……お手並み拝見といきましょうか」
 ニタリと、あの優しさのかけらなんて微塵もない不気味な笑みを浮かべる。
 お手並み拝見というか、拝見させたくすらないのだけど。
 私はもう、人形遣いたちと戦いたくなんてない。
「……よ……この……たまえっ」
 私はとても小さな声で詠唱を唱えると、指を丁度人形とシブレットの間に向ける。
「風鋭鎌ッ! (スウィングシックルッ)」
 すると見えない風の刃がその名の通り鎌のように、指さした方へ飛んでいき。あっという間に人形にくっついていた糸をプツンと切ってしまった。
 もちろんその姿が見えていなかったシブレットはガラガラと音を立てて崩れる人形に。
「あれっ!?」
 驚きを隠せなかったようだ。
「ミル何今のっ!?すごいじゃん!それに風鋭鎌って何?」
「今適当に思いついた」
「逆にスゲェッ!」
 シブレットは床に転がったただの人形を拾い上げて、不思議そうに頭を転がしたり、腕をチャカチャカと動かしたりしている。
「風の鎌か……だから術者にしか見ることが出来ない……か」
 人形の頭を掴みながら立ち上がる。
「すごいね」
 シブレットは微笑みながら、私を素直に褒めた。
 力のない人形はぶらぶらと揺れて、たまにつなぎ目がぎしぎしと音を立てる。
 その音がたまらなく不気味だった。
「……そうです。だから私は何度だってその糸を切りますよ。貴女に勝ち目はほぼありません。退散してください」
「……ミル」
 これでいいんだ。これで。
 きっとマフィンちゃん以外は理解してくれているはず。
 私は戦いたくない。人形遣いともそうだし、もう誰とも戦いたくない。あんな辛い思いをするならもう二度と……。
「なぁ〜んだ。それじゃあつまんないじゃないっ」
 シブレットは人形を近くに抛り投げると、はぁと肩を竦めた。
「じゃあ……ミルクレープちゃんに本気。出してもらっちゃおうかな☆」
「……何をするつもりだ?」
 シフォンさんは眉間により一層深い皺を寄せて、警戒心のこもった声で尋ねる。
 シブレットは口角を上げてニヤリと笑う。 
 その瞳が怪しく光ったような気がした。
「……じ・つ・は。ミルクレープちゃんが苦労して戦ったマジョラム〜」
 シブレットは腰に手をあてて、少し屈みこみともったいぶるようにそこで言葉を切った。
 皆が緊張した面持ちで次の言葉を待っているのを見ると、満足そうに微笑むと、静かに口を開いた。
「あのお方が殺しちゃった☆」
 シブレットは片目を瞑って、はしゃいだ子どものように甲高い笑い声をあげた。
 殺した……?マジョラムが死んだ?嘘だ……。
 バニラちゃんが自分で生きることを捨てたから、私達はマジョラムを拘束することが出来た。
 だからマジョラムを使って、今この世界に起きようとしている異変も、どうにか探れることが出来たかもしれない。
 この世界を救うためにバニラちゃんは死んだって。
 なのに、マジョラムが死んだ……?それじゃあ元も子もないじゃない。
 あの時バニラちゃんがどれだけ怖がってたかも知らないで、震えてたんだよ。それでも何とか一生懸命私を守ろうとして……。
 マジョラムが操れる最後の人形(自分)を、自ら壊すような真似して。
 それなのにそれなのに……こんな結末じゃあ、バニラちゃんの死が無駄みたいじゃないっ!!
「記憶がないアイツなんかクズ同然だからね。まぁ記憶があったってなくたって変わんなかったけど」
 ウルサイ。黙れ黙れ黙れ……。
 耳障りだ、もう何も聞きたくない。
「そうそう……アイツが作ったバニラとかいう人形?最高傑作だなんだって自慢してきたけど、アタシ達には自分の意志で動く人形とか言われても、全然興味ないしぃ。てかいらないし、そんなモノなんか」
いらない?バニラちゃんがいらない?
ふいに浮かび上がったのは、バニラちゃんの満面の笑顔。 
あの笑顔の裏に隠されていた、重い心境。
 今更知ったって意味はない、もっと早く気付くべきだった。
 私が鈍感だったから、気付いてあげられなかった。もっと早くにバニラちゃんが人形だって分かってたら、何かしてあげられてたかもしれないのに。助けられたかもしれなかったのに。
 それなのに……私……私は……。
『いらないし』
 その言葉だけが何度も頭の中でリピートする。
 いらない。
 そうはっきり言えるのは、バニラちゃんに出会ってないからだ。
 あんなに健気で、可愛くて、優しくて。私の……良い友達だったのに。
『さよなら……』
 あの炎の中で見た、彼女の最後の笑顔。壊れそうなほど悲しげな笑顔。
 何度も手を伸ばした、彼女の手に触れられたら。そう思って。何度も。何度も。
 もう届くことはないのだと分かっている今でも、どうにもならないことを、どうにかならないかと、希望を抱いて。
 バニラちゃんを守れなかった自分を憎んだ、気付けなかった自分を悔やんだ。そして彼女の死を嘆いた。
 それなのに貴女は……元からバニラちゃんの存在をいらないと言うの?
「どれだけ……私が苦しんできたか……貴女は知らないだろうけど……それなのに貴女はバニラちゃんの存在自体すら否定するの?……バニラちゃんの死は無駄だったとでも言うの?……そんなの」
 いつの間にか手のひらに爪が食い込むくらい強く。両手を握りしめていた。
 何か腹の底から膨大なエネルギーが今にも爆発してしまいそうだった。
 怒りから体が震える。
「そんなの……許さない」

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.129 )
日時: 2013/01/27 22:02
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

               *

 ミルがまるで別人のようにシブレットを睨みつけた。
 まるで地獄の底から這いつくばってきた囚人のように、恨みの籠った目。
 オレは初めてミルを恐ろしいと感じた。
「そんなの……許さない」
 低く、響く声で小さくミルが呟く。
 その時、本当にオレは一瞬恐怖に駆られてしまって、シブレットものもとに駆け込んでいくミルを止めることが出来なかった。
「うわあああああああああああああああああああっ!」
 何の計画もなく、シブレットめがけてミルは拳を振り上げる。
 誰もが悟った、ミルは今。正気じゃないって。
 オレだってマジョラムの死には正直驚いた。でもきっとその時の驚きも衝撃も、ミルには比べものにならないくらい、大きかったんだろうな。
 だから今度こそミルは壊れてしまった。鬼のようになってしまった。ただ恨みに突き動かされて拳をふるう。
「はぁっ!」
 ミルは何度も何度も力を込めてシブレットに拳を向けるが、シブレットは笑ってどれもかわしていった。
「うあああああああああああっ!」
 今までで一番大きな振りで、勢いのついた拳さへシブレットはやすやすと手のひらで受け止めた。
 シブレットに手を掴まれたミルは、一瞬驚いた顔をする。
「これがミルクレープちゃんの本気?足りない。まだまだ足りないわ……アンタの怒りはそんなもの?」
「違う……まだまだ。私の怒りはこれの何百倍も大きい」
「じゃあ見せてよ、アンタの本気を……」
「言われなくても、もう見せてる……」
地帯踊グランドダンス
ミル小さく、そう呟いた気がした。
 シブレットは顔を、サッと青ざめさせた。
 その瞬間、ミルの周りの地面がメリメリと剥がれだした。張ったテープを剥がしたみたいに。
 分厚い地のテープはゆらりゆらりと動きながら、呆気にとられるシブレットをしゅるりと押えつけた。
 強い力に押さえつけられて、シブレットは驚きに顔を歪めながら「くそっ!」と悪態を吐いた。
 ミルは無言でシブレットに近づくと、馬乗りをする。
「……死ね」
 その光景は何とも恐ろしかった。
 オレはもう、アイツをミルとは思えなかった。
 ミルは無言でシブレットの顔を何度も、何度も殴りつけた。
 弱い力ながらも、シブレットの顔は何度も何度も殴られたため血だらけの痣だらけになり、意識も朦朧としてきている。
「……ミルちゃん……」
 ふと消えそうなほど弱弱しい声が、隣から聞こえてきた。
 恐怖で体が強張っていたから、視線だけそちらに向けると。
「ミルちゃん……?」
 ただ一人だけこの状況が理解できてないマフィンは、ボロボロと涙をこぼしながら、そう呟いていた。
 その顔は顔面蒼白で、唇も薄紫に染まり、がくがくと膝を震わせていた。

「……どうしてこんな……」
 どうしてこんな。その言葉は、まるで今のオレの心の声をそのまま表してるみたいだ。
 ミルが怖い。あんなのミルじゃない。でもアイツがミルなのは変わらなくて……だからオレは……。オレは……。
 そこまで考えて、スウッと脳が冴えわたっていくのを感じた。
 そうだよ……何してんだよオレは!
 あれがミルなのは、変わらない。どうしたってあれはミルだ。ミルなのは絶対に変わらない。
ミルが苦しくて辛くて、壊れてしまったのなら。
 オレはその破片を拾い集めて、元通りのミルに戻せばいい。
 割れてしまった花瓶を修復させるように。
 なんて簡単なことだったんだろう。
 だったら、今オレがするべきことは。一つしかない。
 ミルを助けるっ!こんなことを、本当のミルは望んでるわけないんだっ!
 ミルに人を殺させてはいけない。その後でどれだけミルが傷つくのかを、オレはもう十分知っているから。
「ミルッ!」
 喉の奥のつかえが取れて、やっと声が出た時にはもう、ミルが最後のとどめを刺そうとしていた。
「……これで終わり」
 

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.130 )
日時: 2013/01/27 22:02
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

 誰しもが、終わりだと絶望した。
 また。オレはミルを守りきれなかった。
 どうしてまた……オレは大切な人が傷つくのをいつも見ていることしか出来ないんだろう。
 そう痛感させられて、最後の望みを込めてオレは叫けんだ。
「やめろおおおおおおおおっ!」
 ミルの拳がシブレットの鼻先に触れようとして、マフィンもオレもとっさに目を瞑った。
 ……ダメ。だったんだろうか。
 シン……とした静寂。
 オレはそんな恐怖心を抱きながら、恐る恐る目を開いた。
 瞳を開けた先には、一体地獄か天国。どちらの光景が広がっているのか。
「……くっ!」
 瞳を開けた先に待っていたのは。
「……そのくらいにしておけ」
 いつから恐怖という名の金縛りを解いていたのか、シフォンさんがその拳を力強く受け止めていた。
 ミル……良かった!
 オレは安堵の思いで泣き出しそうになるが。
「……離してください」
 ミルはまだ冷たい目をシフォンさんに向けて、低い声でそう言った。
「嫌だ。絶対にワタシはこの手を離さない。ワタシがこの手を離せば、ミルはコイツを殺すだろう?」
 ミルは答えなかった。
 構わずシフォンさんはこう続ける。
「バニラの時はミルにも殺意はなかった。あれは事故のようなものだったのよ。そう、悲しい事故。でも今は違う、ミルには殺意がある。これは立派な殺人だ。ワタシはそんなことをする人と友達になった覚えはない」
「シフォンさん……」
 一瞬ミルの瞳が迷いに揺れたように見えた。
「もう一回よく考えてみろ。本当にお前はコイツを殺したいのか?お前はコイツを殺して、本当に幸せになれるのか?本当はどう思ってる?」
「私は……」
 あぁ、今度こそ本当だ。
 ミルはだんだんと、いつものミルに戻りかけてる。
「私は……私っ、私はもう誰も……殺したくはありません」
 その言葉を聞いて確信した。
 あれはもう、いつものミルだ。
 明るくて、笑顔の似合う普通の女の子。
 ミルの瞳は再び輝きを取り戻し、ミルはそう呟くとわっと声を上げて泣き出してしまった。
 オレはそんなミルにそっと近づいて行く。
「ミル」
 出来るだけ優しい声を出して、呼びかけると、涙を目いっぱいに溜めたミルがゆっくりと顔をあげた。
「プレッツェル君……私何してたんだろう。この人を殺してもバニラちゃんは戻ってこない。きっとバニラちゃんをもっと傷つけちゃうだけだって……」
「……うん、うん」
「私……馬鹿だぁ、馬鹿だったよぉ!」
 そう泣き叫んだと思えば、突然ぎゅっとミルに抱きしめられる。
 ミルはオレの胸に顔を埋めて、わんわんと泣き喚いた。
「おっ!?……まえ……」
「うっ……うわああああああああああああああっっ!!」
 何か、昔にもこうゆうことがあったような気がする。
 抱きしめられて、ミルはわんわん泣きじゃくって。
 オレは驚きながらも、ミルの頭を優しく撫でた。
 こんなに泣きじゃくってるミルを、無理やり剥がすことはしたくない。
 ごめんな、一瞬でもお前を怖がったりして。どうなっても、ミルはミルで、変わることなんてないのにな。
 そんな思いを込めて、オレは優しくミルを抱きしめ返した。
 いつか出来なかった、抱擁を。
「ミルちゃん……」
 そしてそんなミルをマフィンも後ろからそっと抱きしめる。
「マフィンちゃん……ごめんね、私馬鹿だったよ。怖い思いさせてごめんね」
 涙でかすれた声でミルは何度も謝る。
「もういいんです……ミルちゃん、辛かったんですね。ごめんなさい、気付かなくて」
「私こそごめんね」
「そんなに謝るなよ……お前はがんばった」
 オレ達は互いに謝りあい、慰め合って、そして抱きしめ合った。
 泣きじゃくるミルを挟み込むように、オレとマフィンは苦笑して顔を見合わせる。
「うわああああああああんっ!」
 そんなオレ達を、シフォンさんが目を細めて優しげな瞳で見ていた。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.131 )
日時: 2013/01/27 22:04
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)


                *

 私はプレッツェル君の胸に顔を埋めて泣き喚いた。
 冷静になって考えると、もの凄く恥ずかしくなるけど。
「……何、仲良しごっこしてんのよ。アタシのこと忘れないでくれない?」
 その声を聞いてハッとする。
 プレッツェル君も素早く身を離らかし、警戒心の籠った目でシブレットを睨みつけた。
「アタシ無視されるのだけは嫌ぁい……それにそんな偽善だらけの遊びなんて、見せつけられただけで吐き気がするわ」
 ぎろり、と向けられる視線に背筋が凍った。
 今までとは何かが違う、これが本気、というものだろうか。
「それにこれで終わりだなんて許さないわよ……もっと……もっと戦いあいましょう」
 言いながら、なんと力づくで私の拘束をシブレットは解いた。
 めきっ!と嫌な音がして傷だらけのシブレットはふらりと立ちあがる。
「なっ!?無理やり拘束を解くなんてっ!」
 シフォンさんも目を丸くして、得体の知らないものを見るような目をしてシブレットを見た。
 シブレットの体は無理やり強く拘束を解いたのもあってか、あちこち擦り傷だらけで、見ているこっちが痛々しかった。
 殺気だったオーラを醸し出して、肩で荒く呼吸をしている。
 それを見た瞬間、無理だと思った。
 もう私はこの人を止めることが出来ない、私はもうこの人と戦うことを逃れられない。
「さぁっ!」
 狂った笑みを浮かべながら、シブレットは先ほどの二体の人形を左右に立たせた。
 カタカタと人形は音を立てながら、先ほどまでだらりとぶら下げていた頭をゆっくりと持ち上げた。
 生気のないビー玉の瞳がやけに不気味に思える。
「……分かりました」
 でもどれだけ怖くたって、もう私は逃げられないんだ。
 だったら真っ向からぶつかってって、勝利を決めてやるっ!
 私は小さく頷くと、シブレットさんに向き直った。
 私はもう逃げないよ。バニラちゃん。
「私も真剣に相手をします。でも貴女を殺しはしません」
「そんなの勝負なんて言わないわ。生と死を掻けた戦い、それこそが争いごとの醍醐味じゃない」
「それでも私はもう、誰も殺さない。絶対に」
 私はもう誰も殺したくない。誰も殺さない、死せない。
 私はもう誰が死ぬとか生きるとか、そんなのは嫌だ。二度と誰かを失いたくないっ!
「ミル……」
「ごめんね。プレッツェル君、私は戦うよ。この人と。それはもうどうしようもないことだろうから」
 何か言いたげに口を開きかけるプレッツェル君に、私は大丈夫と微笑みかける。
「でもね、私はもう誰も死なせないから」
 ねぇバニラちゃん、私は決めたよ。
 バニラちゃんが命を懸けて守ってくれた、この命を何に使うか。今やっと分かったから。
 マジョラムは確かに死んでしまって、バニラちゃんの努力は無駄になってしまったかもしれない。
 でも私はそんなバニラちゃんの努力を無駄にしたくないから。だからこの命を使って私は人形遣いと、今この世界に起きようとしていることを解決しようと思う。
 そうすればきっと、バニラちゃんがやったことは無駄じゃないって思えるよね。
 いつかこの問題が解決すれば、バニラちゃんがやったことは価値のあったことなんだって、胸を張れるよね?
 だって、私が人形遣いと関わるようになったのは、バニラちゃんのおかげなんだもん。
 ……だから私は、この命を使って、この世界を、大切な人を。守るよ。いつかバニラちゃんが私にそうしてくれたように。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.132 )
日時: 2013/01/27 22:05
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

「殺さない覚悟……素敵じゃない。でもそんな甘い覚悟で、アタシに勝てるとでも思ってるの?」
「思わない。でもやるっ!必ずやってみせる!!」
 私はそう叫ぶと、早口で詠唱を唱える。
「乱猛火 (ウォーレイヂングフレイム)!」
 私はお得意の炎系大魔法を発動させる。
 ごおっ!と勢いよく燃え上がる炎。
「いっけぇえええええええっ!」
 シブレットの方へ指をさし、勢いよく叫んだ。
 炎は勢いを増しながらシブレットの方に向かっていった。
 普通の人なら焼け死ぬだろうけど、人形遣いがそうやすやすと死ぬはずもない。
 だってほら、今だって私の願いを裏切って。
 炎の勢いがなくなっていき、どうなったかと目を細めると。
「ミルッ!上だっ!」
 上っ!?
 驚いてプレッツェル君に言われたとおりに上を見上げると、シブレットはまるでサーカス団の人のように華麗に空を舞い。ストッと軽やかに地面に着地した。
「やるじゃな〜い♪」
「くっそっ!」
 次にプレッツェル君が剣を振りかざしてシブレットに向かっていく。
 反撃する暇さへ与えないように、取りあえず攻撃を繰り返す。
 私の詠唱はしばし時間がかかるので、こうゆう肉体的に戦える人物がいるのは、とてもありがたい。
「はあっ!」
 プレッツェル君は刀を右、左、交互に縦に振りかざし、シブレットの攻撃もくるりと回転したり、ぎりぎり避けたりと。なんとか対応していく。
 しかしそれはシブレットも同じだった。
 シブレットは余裕を見せた笑みを浮かべて、攻撃を全て交わしていく。そして一体の人形を使ってプレッツェル君に反撃してきたのだ。
「うおっ!」
 プレッツェル君はギリギリのところでそれを避けたが、前髪が少し切れた。あと一瞬でも遅れていたら危なかったかもしれない。
「マフィン下がってろっ!」
 シフォンさんはマフィンを庇うように立つと、拳銃を素早く構える。
 マフィンちゃんは怯えて両耳を塞ぎようにして蹲った。
 バンバンッ!
 人気のいない路地裏に銃声が響き渡る。
 シフォンさんの撃った雷系魔法の銃弾を、シブレットはひょいひょいとバク転をしたりして起用に避けていく。
 だが着地した時に少し足を滑らせて、バランスを崩した際にシフォンさんの銃弾が右の太ももに掠った。
「くっ……!」
 心なしかシフォンさんがニヤリと笑ったような気がした。
「今だっ!ミルッ!」
「はいっ!」
 私は元気よく返事をすると、全神経を手のひらに集中させた。
「乱猛火 スーパーバージョンッ!(ウォーレイヂングフレイム)」
 今までで一番広大で威力の大きい炎魔法を発動させる。
「いっけええええええええええええええええええええっ!」
 ごおおおおおおおおおっ!
 すさまじい勢いで燃え盛る火柱は、私の掛け声でさらに勢いを増してシブレットのほうへ向かっていった。
 身動きの取れなかったシブレットは、直に攻撃をくらう。
「きゃああああああああああああっ!!」
 悲鳴が聞こえる。確かにあてたという実感があった。
 これで気絶でもしてくれていれば、一番良かった。
 のだが、火の気が完全になくなり、立ち込めた土煙の中で、彼女は確かに立っていたのだ。
「……どうしてっ!?」
 私は思わず口元を抑えて、驚きの声を上げた。
 確かに攻撃は当たったはず、どうして彼女は立っていられるのっ!?
 その場にいた全員が信じられないという目をして、シブレットを見つめていた。
「……よくやってくれたじゃない。アタシもそろそろ……本気をださなくちゃねぇっ!」
 服も髪もチリチリになって、満身創痍なはずなのに。彼女は笑っていた。
「アタシが業火の魔法使いって呼ばれる意味を……教えてあげる☆」
 身を屈めて、びゅんっとあり得ないようなスピードで向かってくるシブレットさんに私は反射的に身構えた。
 ……くるっ!
 さっきの魔法で随分と私は体力を使ったらしく、本当は頭も痛くて朦朧としてきているのだけど。
 あとほんの少しだったら、まだ戦えるかもしれない。
「風鋭鎌ッ! (スウィングシックルッ)」
 魔力や体力をあまり使わない、風系の小魔法を発動させる。
 この風の鎌でシブレットを気絶させることが出来ればっ!
 そう思って顔をあげる、この人形だってバラバラにさせる気でいたのに。
 顔をあげた先にいた人形は……。
 私がずっと見たかった顔だった。
 その顔を見た瞬間、頭の中でいろんな思い出がフルスピードで再生させられる。
『貴女のお母さんは大きな町で今も立派な魔法使いとして活躍しているのよ』
 いつかお婆ちゃんがそう話してくれたのを思い出す。
 そんな……だって今もどこかで生きて……立派に活躍してるって。そう聞いてたのに……。
「お母さん……」
 目と鼻の先の距離、無表情なまま私を今にも殺そうと襲いかかってきたのは。忘れることのない、あの写真の中に写っていた紛れもない私のお母さんだった。
 何十年前に撮影されたという、写真の中と変わらない。同じ姿をして。


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