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ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
日時: 2012/07/10 23:37
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

 ついについについに来ました! 

 どるさんとの合作!

 このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!


 今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。


 それではどるさんと読者さんに感謝しながら、

 このお話を書き進めていきたいと思います!
 
 そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!

  ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
 ↓レッツゴー!!!(^O^)/

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Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.123 )
日時: 2013/01/20 22:00
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)


                *

 それから何時間後もしない、今現在。
「……何ココーッ!?」
 私は自宅(先生宅)からさほど離れていない、城下町に来ていた。
 前にプレッツェル君が言っていた通り『ビーンズ』より遥かに人の数が多い。
 とゆうか、比べものにならないくらい? 
 結局無理やり着替えさせられ、連れてこられた私は、ただあんぐりと口を開けて、駅から見える光景を瞬きも出来ずに見つめていた。
 そんな私の顎をプレッツェル君は軽くつつくと。
「何これだけで驚いてんだよ」
「これだけって……」
 これでも田舎者にとっては十分すごいですが。
 何せ止まることのない、人の波!
 それに誰もが皆オシャレだし。
 きらびやかな装飾と、どこからか聞こえてくる、鳴り止まない陽気な音楽。
 その音楽に合わせて、人々が楽しそうに踊ったり話したりしている。
 そんな人の波に流されながら。ワタシはまだ正気に戻れずにいた。
 だって、何もかもが衝撃的過ぎて……。
 だけど、今まで部屋に閉じこもって人には、こんな人の渦は正直キツイ。
 人にもみくちゃにされて、ずるずると流されていきながら。私は軽い吐き気を覚えた。
 これが人ごみに酔ったというやつだろうか。
「気持ち悪い……」
 ぽつりとつぶやくと、肩にそっと手が置かれた。
 驚いて見上げると、心配そうにプレッツェル君が私の顔を見つめていた。
「大丈夫か?」
「……大丈夫じゃない」
 青い顔を小さく振る。
「いきなりは辛かったか……ゴメンな」
 そう言いながら私の手を取って歩き出す。
「取りあえず人が少ない所に行こう」
 握られた手は温かくて、何故か少し震えていた。たまにぎゅっと強い力で握られるが、その後ゆっくりと優しくそしてぎこちなく。私の手をしっかりと握った。
 少しプレッツェル君の顔が赤いように見えたのは、このきらびやかな装飾に、私の目がやられてしまったせい?
「おーいっ!二人ともっ!」
 しばらく人波をかき分けて進んでいくと、こちらに向かって振られる手が見えた。
「シフォンさんっ!」
 プレッツェル君に腕を引かれるまま、私はシフォンさんの元へ走った。
 シフォンさんは腰に手をあてて、私達を叱る。
「まったく、急にどっかに行っちゃうんだから。心配したじゃないか」
「すみません」
 プレッツェル君は苦笑いを浮かべながら、軽く頭を下げる。
「まったくだ!今日はせっかく行こうと思っていたお店があったのに」
「シフォンさん行きたい店があったんですか?」
 それはシフォンさんだけの予定で。私は関係ないんじゃ……。
 という考えが浮かんだけど。マフィンちゃんが微笑みながら。
「ミルちゃんが好きそうな可愛いものがいっぱい売ってるお店ですから、ミルちゃんも楽しめると思いますよ」
「それに、城下町はいろんな店があるからなぁ。どうするミル?どこから回るか?」
 プレッツェル君が私に振り返って無邪気に笑う。
「そうだなぁ、最近お店にもお客さんが増えて来たし、実はお金も結構持ってきたし……今日はワタシがミルに何か買ってあげようか?」
 シフォンさん……マフィンちゃん……プレッツェル君。
 ……もしかして、私がずっと元気なかったから励まそうとしてこんなことを……。
 やっと皆の趣旨が理解できた私は、胸が急に熱くなって、涙が出そうになった。うれし涙が。
 皆……ありがとう。
 本当は私一人で立ち直らなくちゃいけなかったのに、こんなに心配して、励まそうとしてくれてる……。
 目元を抑えて、なんとか涙をこらえようとする私に。プレッツェル君が笑いかけた。
「行こうミル。どれが欲しい?」
 私は小さく頷いて、俯きがちで言う。
「じゃあ……あれが欲しいです」
「却下」
 シフォンさんは私の指さした方向をちらりと見ると、すぐさまそう答えた。
「……ケチ」
 私が指差したそれは、超高級ショップのガラスケースに飾られていた一億シュガの、これまた超高級な宝石がジャラジャラとついた首飾りだった。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.124 )
日時: 2013/01/20 22:01
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

                *

 それから私は半ば振り回されるようにしていろんな店に連れていかれた。
 それはシフォンさんの趣味だったりマフィンちゃんの趣味だったり。予想通りマフィンちゃんの趣味は、私が胸やけするほど可愛らしいものだった。反対にシフォンさんは大人っぽくてクラシック調のものが好みらしい。
 私はそんな二人に、プレッツェル君と共に翻弄された。
 マフィンちゃんが好きそう物が並ぶお店の店長に、さんざんな目(それは言えないほど可哀想なものだった)に合されたプレッツェル君はげっそりとして店から出てきた。
「もう二度と……こんなとこ来ねぇ……」
 その時には私も笑えるようになってきて、まぁ本当に心の底から笑うことはまだ無理だったけど。
「でも意外に似合ってたよ、プレッツェル君の女……」
「言うなっ!」
「はいはいっ」
 クスクスと笑いながら私も店から出てくると。そのお店の前を……バニラちゃんとそっくりな姿をした女の子が走っていった。
「バニラちゃんっ!」
 私は反射的にその名前を叫んで、その子の跡を追って走り出そうとした。
「ミルッ!」
 しかしその手をプレッツェル君に引かれて、私はハッと我に返る。
 あの女の子の姿は、こうしている間にもみるみるうちに小さくなっていってしまった。
 その姿をじっと見つめている私に、何を思ってか、プレッツェル君はとても辛そうな顔をした。
「ミル……バニラはもういないんだ」
 その言葉に、何だか今までの夢のような時間から、一気に現実に引き戻された感じがした。
「……分かってるよ」
 そうだよ。分かってるプレッツェル君に言われなくたって。もうバニラちゃんは戻ってこない。死んだんだってことぐらい。私にだってちゃんと……。
「手……放して」
 そう言うと、プレッツェル君は無言でゆっくりと私の手を放してくれた。まるでこの手と手が離れることを惜しんでいるみたいに。
 
 それからいろいろ面白いことがあった。パレードみたいなものを見たり。変な仮面を買ったり。
 さっきのように、素直にはしゃげなくはなってしまったけども。
 でもまぁ、一番面白かったことは。
「この町の安心は私達にお任せを……っていうキャッチコピーは良いと思うんだけど。なんでコイツなの?」
 不満そうにそれをバンバンと叩くプレッツェル君。
 シフォンさんはほとほと呆れたように、腕を組んだ。
「まぁアイツは顔だけはいいしな、兵士の中でもアイドル的な存在になってるのはアイツくらいだぞ」
「そっ!……れっは、兵士とか関係なくね?」
「こんなことをするくらいなら、真面目に仕事をして欲しいな」
 そうたまたま路地裏に張られていた、この国の兵士のポスター。兵士の存在をアピールするとともに、兵士の募集も呼びかけているもののようだ。下の方にほんっとうに小さな文字で『こんな良い男になるなら君も兵士になろうっ』と書かれていた。
「つか良い男時点に、もともとこんな顔じゃなきゃダメじゃ?」
 そしてそのポスターにでっかくどーんっ!と写っていたのは、なんとなんと、クレソンさんだった。
 鋭い瞳を向けて、見事にポーズを決めている。
 そしてその姿が様になっていたことも、なんとなくイラッとした。
 なんだかこの前まで普通に話していた人が、こうやって大々的にポスターに写っているというのは、なんだか不思議な気持ちだ。
「クレソンさんってそんなに人気があったんだ」
「アイツ、昔一気に百人以上の女子に告白されたことがあるそうだ」
「百ッ!?」
「それ返事どうするのっ!?」
 聞いたこともない話に、私達は思わずシフォンさんにツッコんでしまった。
 ワタシに言われても、と言いたげな瞳でシフォンさんは見てきたが、うんざりとした表情でこう続ける。
「告白してきた女の子全員集めてその場で全員振ったんだと……いうことを昔自慢された」
「「自慢かよっ!」」
 声を合わせて思い切り突っ込み、私は……なんだか精神的に疲れてしまった。
 同じくプレッツェル君もほとほと呆れたように大きくため息を吐く。
「わっかんねぇ……なんでアイツがそんなにモテるんだ?なぁ?」
 と、いきなり私に問いかけてきた。
「えっ!?私に聞かれても……でも」
 驚いた私だけど。いい機会だ、ここは素直にプレッツェル君に物を言ってみることにしよう。恐らくは彼もそれを望んでいるから。
「私もあの人のどこがモテるのか分かんないけどねっ」

 そのころ王宮でせっせと仕事をしていたクレソンは。
「真面目かいっ!」
「うわぁ、びっくりした。変なくしゃみですね風邪ですか?」
 一人の部下に聞かれて鼻の下を擦りながら答える。
「そうだな……昨日の夜は少し寒かったからな」
「でも僕、『ま』から始めるくしゃみって初めて聞きましたけど」
「奇遇だな。俺もだ」
「でも昔言ってませんでした?風邪は無能な馬鹿がひく……」
「ウルサイ」
何げにツッコミレーダーを発揮していましたとさ。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.125 )
日時: 2013/01/20 22:02
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)


                *

 昼時に入ったカフェは、城下町でも個性的な味の料理があると人気らしく、多くの人で賑わっていた。
 テラス席でなんやかんやと騒いでいる若者たちを、ぐったりとして見ていると。
「ミル、何かオレが頼んできてやろうか?」
「ありがとう……」
 プレッツェル君が気を使ってくれて、私の食べる物を頼みに行ってくれた。
 でもさっきプレッツェル君、この店で自称一番人気の「鶏肉&カスタード&アボガドバーガー」に興味津々だったから……、ちょっと心配。
「お姉ちゃんっ!レタス照りアジバーガーですよっ!トッピングには唐辛子を使用……ってどんな味なんでしょうねっ?」
「マフィン。頼むからそれは止めよう」
「え?」
 マフィンちゃんも独創的なメニューに興味津々だなぁ。
 そのうち「わたし達のお店でもこうゆう物を出しましょうよっ」なんて言い出さなきゃいいけど。
「……疲れたなぁ」
 でもこうやって皆でいるのは楽しいし、好きだと思う。
 それに皆ほんの少しの間でも、私の悲しみを和らげようとこうしてくれている。
「ありがとう……」
 誰にも聞かれないように、ぼそりと感謝の言葉を呟くと、自然と涙が溢れそうになった。
 皆の優しさが、すっごく嬉しかったから。
 しかしそんな私の幸福感も、すぐに打ち砕かれることになる。
「みぃつけた。ふぅん。アンタがミルクレープね」
 驚いて振り向くと、そこにはショートカットをした、強気な女の人が私を不躾にもじろじろと見つめ。それから不敵に笑って見せた。
「……誰?」

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.126 )
日時: 2013/01/27 21:58
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

          十四魔法  バニラちゃんへ

 その人は私を上から下まで舐めるように見ると、ニヤリと笑ってみせる。
「本当にアンタがアイツを殺った奴なの?」
「……なんのことですか」
 背筋がぞくりとした。
 アイツと言われたとき、マジョラムのことしか頭に浮かばなかったけど。そのことをこの女の人が知っている筈ないし。
 それになんだろうこの感じ。すごく嫌な予感がする。
 警戒心を強めながら、女の人を睨みつけていると。急に腕を取られてしまった。
「あらっ腕随分と細いじゃないっ!本当にアンタがやったの!?」
「……え?」
 ものすごく驚いた顔をして、まじまじと私の腕を眺めた。
 いきなりの態度の変化っぷりに、私は驚いてしまう。
 そして次に女の人は、私の顔をじっと見ると、優しく頬に触れてきた。
「頬もこけているし……ご飯しっかり食べてんの?」
「あ……いえその……」
 本当いきなりなんなんだろうこの人、いきなり答えにくい質問をかけてきたと思えば、急にこんな心配してきて。
 でももしかしたら、そんなに悪い人ではないのかも。
 と軽く警戒心を弱めた。その時だった。
「ま。どっちにしたってアタシには関係ないけど」
 女の人が、ボソリとそう呟いたような気がした。
「え……」
 私が固まっていると、女の人は私の腰に手をかけてきて。
「よっと」
 気が付いたときには。天と地が反対になって私には見えていた。
 見えるのは煉瓦で出来た道路だけ。
「なっ!?」
 私はあの一瞬の間でこの女の人に、肩で担がれてしまっていたのだ。
 この年になって女の人に担がれてるのも、恥ずかしかったけど。私はまずこの状況についていけなかった。
「何するのっ!」
 一応声を荒げてはみたものの。女の人は愉快そうに笑うばかり。
「いやぁちょっとね。どれだけアンタが強いのか、アタシも試したくなっちゃって☆」
「試す?どうゆうこと?」
 女の人は私の質問を完全に無視して、ニコリと笑うと私を担いだままその場から走り去ろうとする。
 えっちょっと待ってよ!皆と離ればなれになっちゃうっ!
 そう思うと、一気にこの状態が危険なのかが分かって。ドクンドクンと心臓も騒ぎ始める。
 私は無事に帰ってこれるのか。いやそれよりも私はこれからどこに連れていかれて、一体何をされるのか。
 さっきの会話でだいたい見当はついているけど、その予想が当たってしまったら当たってしまったで、すごく嫌だ。
 助けを求めようと、顔を出来るだけ上にあげると。
「ミルッ!」
 焦りの色を浮かべたプレッツェル君が幸運なことにも私に気づいてくれた。
「プレッツェル君っ!」
 声の出る限り名前を叫ぶと、シフォンさんもマフィンちゃんも慌てたようにお店から出てきた。
「ミルッ!」
「ミルちゃんッ!」
 シフォンさんの驚いた声と、マフィンちゃんの悲痛な叫び声が耳に届く。
 そしてその声は当然、この女の人にも届いている訳で。
 女の人はぴたりと足を止めると。プレッツェル君たちの方へゆっくりと振り返り。
「この子を返して欲しければ、ついていらっしゃい」
 そう言い残して、また走り出した。
 また急速していく地面の景色。
 不安や恐怖で押し潰れそうで、涙がこみ上げそうな私の視界に。
「ミルッ!」
 それでも必死になって私を追いかけてきてくれる皆の姿が映った。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.127 )
日時: 2013/01/27 22:00
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)


               *

 女の人はそれから無言で私を担ぎながら町中を走った。
 城下町の人々は私達を驚きの目で見つめながら、道を開けていく。
「待てっ!」
 そしてその後ろを追いかけていく、プレッツェル君たちの姿は、きっとこの町の人々には異様なものとして映っていただろう。
 そして女の人が結局私を下ろしてくれたのは、人が少ない路地裏の奥の開けた場所。
 そこで寝ていた野宿者たちも、この異様な雰囲気を感じてそそくさとその場から立ち去っていった。
 でもずっとぶら下げられていたわけだから、頭に血が上って……ちょっと気分悪い。
 頭を抱えて地面に座り込んでいると。ほんの数分の差でプレッツェル君たちも、ここへ駆け込んできた。
「ミルッ!」
 少し眩暈がして、ぐったりとしている私を見て、プレッツェル君はぎりっと唇を強く噛みしめた。
「テンメェ……ミルに何をしたっ!」
「別に何も。まぁ多少強引な目に合わせちまったとは思うけどね。それは悪いと思ってるよ。ごめんね」
 女の人は私に向き直って、肩を竦めながらそう謝ってくれた。
 なんだかこの人が優しい人なのか、悪い人なのか分からなくなってくる。
 プレッツェル君を覆っていた殺気も今は消えていて。代わりに不審そうな顔をして女の人をじっと見つめている。
「でもこうでもしないと、ミルクレープちゃんは来てくれないでしょう?」
 言いながら私の頭を優しく撫でる。
「はぁ……」
 本当にこの人、分からない。優しくしたりかと思えば急に荒く扱ったり。
 一体何がしたいのか。
「ミルを……返してもらおうか」
 プレッツェル君の前にシフォンさんは一歩歩み出て、率直に要件を述べた。
 さすがシフォンさん!そうゆうのも様になってるっ!
 なんて惚れ惚れしている時じゃないよね……。
 私は自分にそう喝をいれて、シフォンさんとこの女の人の様子を見張ることにした。
 そしてこの女の人の隙を付けば、あちら側に逃げることだってできる筈だ。
 女の人不敵な微笑みを浮かべてシフォンさんにゆっくり、一歩ずつ歩み寄っていく。
「ワタシ達はいま買い物中でね。こんな暇があったら他の店にも寄ってしまいたいのだけど」
「あらぁ、それは邪魔したわね。良いわよ。この子は返してあげる」
「「はっ!?」」
 意外とあっさり要件を飲み込んだ女の人に、私とプレッツェル君は同時に驚きの声を上げた。
 女の人は私に軽くウィンクをする。
 これは行ってもいいわよの合図だろうか……。
 私はそう解釈をし、恐る恐るその女の人から離れていく。
 いつ後ろから攻撃されるか、そうビクビクしながら。
 だけどその女の人は、私がプレッツェル君の元へたどり着く間何もしてこなかった。
 それどころか、私をにこやかに見つめていたのだ。
「ミル大丈夫かっ!?」
「ミルちゃん怪我はありませんかっ!?」
「うん……私は何もないけど」
 答えながら、だんだんあの女の人はただの馬鹿なんじゃないか。なんてそんなことを思ってきてしまう。
 シフォンさんもそんな女の人の思考が読めないようで、緊張した面持ちで女の人を観察していた。
 女の人の視線がゆっくりと私からシフォンさんに変わる。
 シフォンさんの警戒の色がさらに濃くなったような気がした。
「だけど……代わりに条件がある」
 その言葉で一気にその場の空気が緊張感で張りつめられた。
 皆緊張しながら女の人の次の言葉に耳を傾けている。
 どうしよう。もし私と引き換えにシフォンさんやマフィンちゃん。プレッツェル君の命と引き換えだなんて言われたら。
 私もそんな恐怖心で一杯で、ごくりと生唾を飲み込んだ。
 女の人がゆっくりと唇を開く。
 その時私の緊張感はMaxを超えていた。
 心臓がバックンバックンと高鳴って、今にも壊れてしまいそう。
「……その代り……アタシと戦いなさい」
 


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