コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
日時: 2012/07/10 23:37
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

 ついについについに来ました! 

 どるさんとの合作!

 このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!


 今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。


 それではどるさんと読者さんに感謝しながら、

 このお話を書き進めていきたいと思います!
 
 そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!

  ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
 ↓レッツゴー!!!(^O^)/

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Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.53 )
日時: 2012/10/20 01:01
名前: 緑野柊  (ID: xy6oYM/9)

「……うっわ」
 これがシフォンさんが私を見たときに発した第一声だ。
 普通の私なら「今日一番似合って第一声がそれですか……」なんて突っ込むだろうが、私は今日だけはそんな気分にはなれなかった。
「……あぁ。おはよーございます」
 なんてたって頭はガンガン痛いし、吐き気はするし。もう最高に気分が悪い。
 マフィンちゃんだけが唯一私を心配して駆け寄ってきてくれた。
 あぁ。なんて優しいんだろう。もうマフィンちゃんが女神さまに見えてくるよぉ。
 私は真っ青であろう顔をマフィンちゃんに向ける。
「だっ!?大丈夫ですか……?」
「うん。たぶん大丈夫KANA?」
 私は震える声でそう答えたが、さらに心配をかけてしまったようです。
「本当に大丈夫ですか!?」
「うん。うん」
 私は無理に口角を上げて、微笑む。
 だが心はブルーというよりもう紫とか黒とかが混ざり合った汚い色だった。
 私はまたこみあげてきた吐き気に、慌てて口元をふさぐ。
「……何やってるんだ」
 シフォンさんは心配するよりも呆れた感じで深いため息を吐く。
 私はその問いに「アハハハハ……」と乾いた笑いで返す。
「本当に大丈夫ですか?」
 マフィンちゃんが眉根を寄せ、心底私の事を心配してくれてるのだろう。少し首をかしげて私の顔をのぞいてきた。
 ああ、そのしぐさがなんとも可愛らしい!
 なんて自分の女らしさのなさに少しショックを受けたので、もう考えるのはやめた。
 こう見えても意外にガラスのハートなんです……。
 私だって「まぁ……」とマフィンちゃんに心配をかけないような応答を返したかったが。私が答えるより先に。
「どうせまたティラミスのやつが寝かせてくれなかったんだろう」
 シフォンさんが先にそう答えてしまった。
 まぁ、間違ってはないんだよ。むしろ大正解なんだよ?
「えっ!?そうなんですか!?」
 ほらもう、マフィンちゃんに知られたくはなかったのに!
 しかしもう知られてしまったからには隠せるものでもない。
 私は小さく頷いた。
「……うん」
「で、なんだ昨日は。どうせまた勉強が嫌になって逃げてきたんだろ?」
 ……うっ。これまた鋭い。
 シフォンさんが言っていることは、まるで私の事を昨日一日ずっと見張っていたかのように今のところすべて正しい。
 そのうち昨日の夕飯のセロリ残しただろとか出だしそうな気がしてきた。
 私はふぅっと大きく息を吐き。
「……そうですよ」
 となげやりに言った。もうどうにでもなりやがれ。
「えっ!駄目ですよそれは!」
「えっそんなぁ、マフィンちゃんまで……」
 そのあとの言葉は、決まっている「そっちの味方なのぉ?」だ。
 シフォンさんは何故か自慢げに鼻で笑い。
「さすがマフィンだ」
 そううんうんと頷いている。
 私はシフォンさんのシスコンぶりをしかと確かめた後。「だって」と言い訳を言い始める。
「だってさぁ、魔法なんて。魔法陣とかそうゆうことを勉強するんじゃないの?飽きてくるんだもん。魔法使いにおける三つの理を覚えろとかさあ」
「そんなの、この世界に入る者は誰でも通る道だぞ?」
 シフォンさんが当然だという姿を見て、私は心底驚いた。
「ええっ!?ていうことは、シフォンさんも全部覚えているんですか?」
「もちろん」
 答えがくるまでその差0,1秒。
 私は顎か外れるほど、驚愕しないわけにはいかなかった。
 シフォンさんは私が覚えていないとでも思ったかと機嫌が悪そうに眉間に皺を寄せる。
 そして少し得意げに魔法使いにおける三つの理をすらすらと言って述べる。
「第一に魔法使いたる者、自然を破壊してならない。我らが自然から力をもらっていることを忘れるな。第二に死者を生き返らせてはならない。人が死ぬことはこの世の理。それを捻じ曲げるようなことはしてはならない。第三に自分がただの人間であることを忘れてはならない」
 シフォンさんはそこまで早口言葉のようにすらすらと言ってのけると、苦しそうに息を吸い込んだ。
 そしてニヤッとして私を見る。
「お……おぉー」
 私はその言葉しか出なかった。
 思わずシフォンさんに拍手を送る。
 しかしシフォンさんは全くもってうれしそうではなく。むしろ心配の眼差しで私を見てきた。
「何を拍手しているんだ。これくらいできて当然だ」
「あ……そうですよね」
 ああ、なんでこんなこともわからないんだという視線が痛い。
 覚えなくちゃいけないのもわかってるし、最初の方なんか結構乗り気なんだよ?ただ……、気が付いたら逃げ出してるだけで。
「何やってんだよお前ら……」
「あ、プレッツェル君。気が付かなかった」
「お前……ミルなぁ。そういうことは心の中で」
 とプレッツェルが言いかけたところで。
「あ、プレッツェル。いたのか」
 少し遅れてシフォンさんに言われてしまった。
「……もういいよ」
 プレッツェルは肩をがっくりと落として、力なくそう言う。
 マフィンちゃんはひきつった笑いをプレッツェルに向ける。いや少し同情も入っていたかな?
 プレッツェルは私の隣に腰を下ろすと。
「で?」
「で?って何が?」
「さっきの話だよ」
 あぁ……。さっきシフォンさんが言ってたことかな?
「あれは魔法使いの掟みたいなものだよ」
 私がそう答えると、プレッツェルは「掟……?」と首をひねった。
 プレッツェルは魔法使い志望ではなく剣士一筋なので知らなかったのだろうか。しかし剣士にも魔法使いのように理はなにのだろうか?
 しかし私がそれを聞く前に、シフォンさんにプレッツェルにだけは知られたくなかった事実を言われてしまった。
「こいつ魔法使いに一番重要な、理をあだ暗記できてないんだ」
「えっ!?それってやばいんじゃ?」
「そうだろう?そんなに長くもないのに」
 あっ!それ一番言ってほしくなかったことなのに!
「ちょ!シフォンさん!」
 私は散々プレッツェルを馬鹿にしてきたので、自分がそこまで頭がよくない事を知られることが恥ずかしかったのにぃ!
「へぇー、そうなんだー」
 プレッツェルは少し演技がかった返答をすると。
 くるりと私の方へ振り返り、なんとも言い表しにくい馬鹿にした表情をした。
 あっ、やっぱり今馬鹿にしたよね!?
 耐え切れなくて思わずシフォンさん!と勢いよくシフォンさんの方へ振り返ると。
 シフォンさんもプレッツェルと同じようななんとも表現しにくい、腹が立つ馬鹿にしたような顔をしていた。
「えっちょっ!?シフォンさんまで!?」
 今はもう隣に立つマフィンちゃんの顔すら見るのが怖い。
「しかしまぁ」
 と良心なのかプレッツェルが話を変えてくれたので私はほっと胸をなでおろした。
「オレ兵士の仕事辞めたじゃないですか。それで、今お金がなくてすっごく困ってるんですけど」
「あ。それには酷く同感」
 私はなんとなく手を挙げてそう主張する。
 シフォンさんはガラスのコップを洗おうとした手を止めて、にんまりと笑う。
「良いじゃない。若気の至りってやつよ」
「ものすっごい他人事じゃありません?」
「まぁ、どうでもいいからな」
 せめてそれは言わないで下さいよ……。
 私が少しシフォンさんのそっけなさに本気で傷つき始めた。—と、その時だ。
「うわぁぁ!ごっ、強盗じゃぁ!」
 突然お爺さんの悲鳴が聞こえてきたのだ。
 驚いて振り返ると、お爺さんは床で尻餅をつき、店を飛び出していったいかにも怪しい黒いフードをかぶったそいつは小脇にもともとお爺さんが持っていたと思われる鞄を抱え、振り返ることもなくただひたすらに走っている。
 私たちがあっけにとられ呆然としている間にもそいつはどんどん遠くなっていく。
「くそっ!」
 その言葉でハッとなった時には、いつの間にかシフォンさんが愛用の銃を持ちカウンターを飛び越えて店を飛び出していた。
「ちょっ!シフォンさん!?」
 私はその時、ただ一人あの場で行動をお越し、強盗犯を追いかける見慣れた後姿を、ただの口の悪いシスコン娘ではなく。カッコいい女の人に思えたのだ。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.54 )
日時: 2012/10/19 23:25
名前: 緑野柊  (ID: xy6oYM/9)

                *
「待て!」
 畜生。出るのが少し遅れた!
 ワタシはしょうがないと愛用の拳銃に全神経をささげる。
 ワタシの愛用するこの拳銃はただの拳銃じゃない。魔法弾が打てる。ちょっと特殊な拳銃だ。
 そもそも魔法というものは、この世界の自然エネルギー。たとえば炎や雷なんかがワタシの得意とする魔法だが。少しその膨大なエネルギーから力をちょっとだけもらえばよい。そうすればあっというま小魔法が完成するというからくりだ。
 黒いフードはワタシの前をえっほえっほと必死の形相で走っている。
 たがしかし、相手が悪かったな。とワタシは内心ほくそ笑む。
 ワタシは走るスピードを少し早めて拳銃をそいつに向ける。
「古よりこの地に光の鉄槌を下してきた雷光よ、今悪を排除すべく我に力を与えたまえ」
 そうワタシが早口で言った瞬間、空から一筋の光が落ちてて来たかと思うと、拳銃の中にその光はアッという間に吸い込まれ、途端に銃口付近に幾重にもかさなる魔法陣が出現する。
「悪いけど。うちのカフェで問題ごとを起こした罰だから」
 ほんとは悪いなんてこれっぽっちも思ってないけど、ワタシは迷いなく引き金を引いた。
 ズガァァァン!
 ワタシの放った雷魔法はすさまじい音を立てて、フードに直撃した。
「ギャァァァァァァァァ!」
 フードはすさまじい悲鳴を上げたかと思うと、ピクリとも動かなくなりその場に垂れこんだ。
 まるで痙攣を起こしたかのように、その指がピクピクと動いている。
 ワタシは何事もなかったかのようにそのフードの手首をつかみ、もう片方の手にはさっきのご老人の鞄とみられる皮の鞄を持ち、店へ戻ろうと踵を返した。
「ゲッ!」
 とワタシが思わず零したのは、店の前で唖然と立ちすくむご老人はともかく。プレッツェルとミルが尊敬のまなざしでワタシを見ていたからである。
 あぁ。なんだか面倒くさい質問攻めにあうような予感がするなぁ……。
 ワタシは深いため息を吐くと、重い足を動かして店へと戻って行ったのである。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.55 )
日時: 2012/10/20 00:47
名前: 緑野 柊  (ID: xy6oYM/9)

                *             
 
 すごい……。あれが魔法!
 今でも脳裏で鮮明によみがえるのは、さっきシフォンさんが目の前で使った雷魔法だ。
 ものすごくかっこよかった……。
 今から私がなろうとしているものはあいうゆうものなんだって、実際目の当たりにすりと、体が震えた。
 シフォンさんはダルそうに店に戻ってくると。
「マフィン。悪いけど、兵士か誰か……誰でもいいから連れてきてくれないかな?」
「うん!分かったすぐにつれてくるねお姉ちゃん!」
 そして一番弱そうでビビりだとおもっていたマフィンちゃんが全く驚いていないことに驚いた。
 やはり姉妹としてずっと一緒にいた人にとってはあれは普通の出来事なんだろうか。
 マフィンちゃんはすぐに人を呼ぶために店を出て行ってしまった。
 シフォンさんはその後ろ姿を見送って。やれやれと首を回す。
 私は感動のあまり口を動かすことはできても、声が出なかった。
 言いたいことがいっぱいありすぎて、何から言っていいのかわからない!
 そしてやっと掠れた声も出始めて、シフォンさんに言いたいこともまとまってきて、「あのっ!」と話しかけたその横からさっきのお爺さんがやっと正気になって、シフォンさんに深々と頭を下げたので、出端を折られてしまった。
「ありがとうございました」
 お爺さんは曲がった腰をさらに曲げ、シフォンさんにそう言った。
 シフォンさんは「いえいえ、とんでもない。ウチのトラブルを解決したまでですよ」と苦笑いを浮かべた。
 だがお爺さんはふるふると首を振り。
「この中には孫がくれた大事なお守りがはいっとったんじゃ。本当にどうもありがとうございました。これはささやかな気持ちじゃ」
 そう言って「いや、べつにワタシは……」と遠慮気味のシフォンさんの腕をつかみ、無理やり手に握らせたそれは……。今もっとも私が喉から手が出るほど欲しい。お金だった。しかも見たところ結構な金額だ。
「こんなに!?いえ、いいんですって本当に」
「いいからいいから。ささやかな気持ちじゃから。な?」
 そう言ってお爺さんは聞こうとしない。
 結局シフォンさんが何度断ってもお爺さんは聞こうとせず、結局お金を受け取ることになってしまったのだ。
 シフォンさんはどうしたものかという顔をしていたが、おかげで私はいいことを思いつてしまった。
 隣で頬杖をつくプレッツェルに「ねぇ」と声をかけてこっそりと耳打ちをする。
 すると私がまだ言い終わらないうちにプレッツェルはいいねそれというようにニヤリと笑った。
 これで決まった。この笑みはきっとOKの意味だろう。
 私は少し疲労気味のシフォンさんにこんな提案をしてみる。
「シフォンさんこの店って結構お客さん来るんですよね?」
「あぁ。そうだけど?」
「じゃあちょっと商売したくないですか?」
 シフォンさんは「はぁ?」と私を睨んだ。
 商売ならやっているし、何か変な事でも考え付いたんだろう。あぁ、面倒だ。なんて思われているんだろう。
 ただ今回の私たちは結構本気だ。
 こんないい場所はないし。何が何でも決行してもらう。
 私はすぅっと息を吸い込み、不敵な笑みを作る。
「私たち、ギルド作ろうと思うんですよ」
「は!?ギルドってまさか、ワタシ達のこの力を使って問題を解決するとかそんなものじゃないよな!?」
 シフォンさんは目を大きく見開き、しばらく口をあんぐりと開けて私たちを見たと思うと、がっくりとうなだれた。
 たぶんこの沈黙が彼女には「はい、そうです」と答えたように思えたのだろう。
 まぁその通りなんだけど。
「またお前はそんなくだらないことを……」
「結構本気ですよ。私たち実際今金欠ですし。こんな方法しか金儲けできないんですよ」
 私の言葉にプレッツェルがうんうんと頷く。
 シフォンさんはそれには確かに一理あると、一瞬悩みかけたが、ふと我に返り。
「いやでもやっぱり……」
「はい決定!」
 このままでは雲行きが怪しいので私は強行作戦に出た。
「はっ!?なっ、まだいいなんて……」
「お姉ちゃんギルドつくるの!?」
 そこでなんともナイスなタイミングで帰ってくるマフィンちゃん。
 私は心の中でグッジョブマークを送っていた。
 このクールなお姉さまでも妹の言葉には逆らえない。
「わたしはそんなに魔法は使えないけど。わたしもサーポートするから!」
「だからワタシはまだやるなんて……」
 そうシフォンさんが振り返ってみるのは、最愛の妹のキラキラと楽しげに煌めく大きな瞳。
 シフォンさんは少し頬を赤らめてうっと言葉を詰まらせた。
 さすがに妹が期待の目で見てきたとしてもさすがにすぐに決断できる問題ではないので、しばらくうんうんと唸っていたが。やはり周りの期待には負けたようで。
「……分かったよ」
 渋々といった様子で、シフォンさんは頷いた。
「「やったぁぁぁぁぁ!」」
 私たちが思わず席を立ちあがりハイタッチを交わしている隣でシフォンさんはやってしまったというようにカウンターに一人うなだれていた。
 そこはまぁドンマイ★というところだが、私たちはどこかワクワクとしていた。
 いったい私たちにはどんな厄介ごとが迷い込んでくるのだろうかと。

 そして私達がこのギルドを開いてしまうことで、もう付き合うのも面倒なほどの、大きな厄介ごとと向き合ってしまうことになるとは、このときは誰も思っていなかったんだ。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.56 )
日時: 2012/10/20 22:30
名前: 緑野 柊  (ID: S05OFeOF)

                *

「あら。珍しいわねぇ」
 ティラミスは少し驚いたように、少し開いた扉の向こうを見つめてそう言った。
「あぁ。ボクも驚いタ」
 ボクはもうこの状況には驚いていないというように言ったが、実はまだこの状況は夢なのではないかと、どこか少し疑っていタ。
 机に向かってひたすらにペンを動かし続ける姿。それこそボクが望んでいた弟子の姿。
 しかし突然、無理だろうとあきらめていた夢が叶えば、誰でもそれは本当に起きていることなのだろうかと疑ってしまうだろウ。
 今日のミルはほんとに別人ではないかと疑うほどに、勉学にいそしんでいタ。
 時折何かを呟く声が聞こえてくるほかは、紙にカリカリとペンで書く音しか聞こえて来なイ。
 あぁ、なんて気持ちの良い音なんだろウ。
 ここまでくるのにどれだけ大変な思いをしたことカ。そうしみじみ昔の事を思い起こすと、じんわりと苦労の涙が溢れた。
 ミルはやる気はだけはあるの二。本当に勉強だけは苦手で、ちゃんとやっているか確認しに行くと、そこはもぬけの殻……。なんてことが何回も続いたから、実は少しこの子は本当に魔法使いになりたいのかどうか心配になってきたところだったのダ。
 まぁその度その度。ティラミスからの痛〜いお仕置きがあったから、そのせいもあるかもしれないガ。ともかく良かった良かっタ。

 そうノエルが誇らしげな気分になっているというのに、ミルの心の中には早く魔法使いになりたいという思いより、早く魔法使いになって金儲けがしたいという思いの方が勝っていたなど、ノエルが知ればどんなにがっかりしたことか……。
 しかし他人の心の中など、誰も知らないことなのでこの事実はミルクレープと読者さんだけの秘密である。

  — 一方その頃。

「何作ってるんだマフィン?」
 マフィンは何かを作っていたらしく「うん。上出来!」と小さく頷くと、自慢げに作ったいたものを見せてくれた。
 ……だが。ワタシは次の瞬間、フリーズすることになる。
 マフィンが満面の笑みで見せてくれたそれは、木の板に可愛らしい文字で『ギルドカフェ〜Dolce Del Canard〜』と書かれていたものだった。
 ワタシは震える声で
「マフィン……それ……?」
「どうせならお店の看板も変えた方がいいかと思ったから……ごめんなさい。駄目でしたか?」
 マフィンはワタシが怒っているのかと思ったのか徐々に顔を曇らせていった。
 ワタシは慌てて首をぶんぶんと振る。
「違う違う!ただえーと……」
 しまったマフィンを悲しい気持ちにさせてしまった!何かいいごまかし方はないか?
「ええと、よくこんなに上手に看板が作れたな!これで店のお客も増えるってもんんだ!」
 ……なんて口走ってしまってからハッとする。
「そっかぁ。良かったです」
 マフィンは心底ほっとしたように頬を緩めた。
 その笑みにワタシの心はきゅうっと締め付けられる。
 あぁ。もうこれは飾らないわけにはいかなくなってしまった。
 どこかでまだこのカフェでギルドを作らなくてよい方法を探していたのに、自分で解決口を潰してしまうなんて……。 
 ワタシは今日のように自分の事を深く呪ったことはないだろう。
 ほんとに最悪。朝起きて今日の事がすべて夢だったらいいのに。
 

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.57 )
日時: 2012/10/22 22:35
名前: 緑野 柊 (ID: DnOynx61)

 イエィ!新しいパソコンを買いました!もうちょうすいすいでやりやすい!
そんな絶好調の緑野の小説です(笑)←?

 
          第六魔法 シャスール君を探せ! 


「へぇ、そんなものをねぇ」
「はい。そうなんですよ」
 そう満面の笑みで常連のお爺さんに話すのは、ワタシの妹。マフィンである。
 そんなまた、いらない情報を……。
 と、ワタシはまた今日何度目かのため息を吐くことになる。
 ミルが急にこのカフェでギルドを作ろうだなんて言い出したのはつい三日前のこと。その日からなぜかマフィンの意気込みが前よりも増している。
 まぁ、仕事熱心なのはいいことなのだが……。
「そういえば今日わたしケーキを作ってきたんです?よかったらいかがですか?」
「ほう。マフィンちゃんが作ってきたのかい。それはうまそうだ。いただけるかね?」
 ワタシが少し考え事をしている間に、マフィンは嬉しそうにコクンと頷き小走りで厨房へ向かおうとするので、ワタシは慌てて止めに入った。
「マフィンやめろ!そんなおいしいものはお姉ちゃんが食べてあげるから!」
 するとマフィンは不思議そうに首をかしげて。
「どうして?」
「……えっとぉ。それはぁ……」
 その問いにはなんとも答えずらい。
 マフィンの頬はその間にも不機嫌そうにプゥッと膨れていく。
 ワタシは思わず苦笑いを浮かべながら、なんとかその場をやり過ごしたいのだが。マフィンはその理由を言わなければ許してくれなさそうだ。
 ……だって言えるわけないじゃないか。マフィンの料理は見た目は絶品だが、味は人の味覚を超えていると……。
「あのぅ……」
「あぁ!なんだ?」
 するとそこでいいタイミングで話しかけてくれたお客さんが……!
 ワタシがいつもより声を張り上げてそのお客さんに対応すると、マフィンはまだ不機嫌そうにはしていたがさっきよりは頬のふくらみは引いていた。
 ……良かった。
 話しかけてくれたお客さんは、見たことはなく。メガネをかけてボロボロの帽子を目深くかぶり、おまけにその顔はちりちりとした髭に覆われていた。
 一目見ただけで、豊かな暮らしができていないことが分かった。
 その男はおどおどとした態度で。
「あのっそのっ……ここって頼みごとを聞いてくれるんですよね?」
 ワタシはまた変な勘違いでもした客だろうと、この男を適当にあしらうことにした。それに面倒くさいことになったら嫌だし。
「あぁそうだけど。おつかいとか犬の散歩とかは引き受けてないから」
「いえ!違います!」
 けだるそうにそう答えると、強く否定されてしまった……。
 なんだこれは本格的に……。
「お願いします!誘拐されてしまった息子を……助けてください!」
 男はそういうとワタシに深々と頭を下げ……ってやっぱりかぁぁ! 
 その男の声は大きかったのでもちろん今の会話もほかのお客様には丸聞こえだ。
 周りにいたお客様は「誘拐!?」とか「息子さんが……」とか同情と驚きの言葉でざわめきはじめる。
 ……これはもう。引くことはできないな。
 こんな状況に陥っても、ワタシの頭は意外に冷静で、ここでもしこのことを断ってしまえば、ワタシの株も下がり、お店にも客が来なくなるのではないかという、最低の状況を想像し。もはや「お断りします」の一言が言えない状況になってしまっていた。
「……はい」
 そうワタシは答えるしかなかったのだ。マフィンに嫌われないためにも。


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