コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜
日時: 2012/07/10 23:37
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

 ついについについに来ました! 

 どるさんとの合作!

 このお話はどるさんのキャラクタ—設定を元に、私緑野が文章を作らせてもらってファンタジーギャグ(シリアスもたまに)のお話です!


 今までの作品を見てきた方たちは少し驚くくらい作風が変わりましたが、みなさん楽しんでくださいね!あ、お話を。


 それではどるさんと読者さんに感謝しながら、

 このお話を書き進めていきたいと思います!
 
 そして出来れば感想が欲しいです!待ってるよー!!

  ここからギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜の世界に……
 ↓レッツゴー!!!(^O^)/

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Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.21 )
日時: 2012/07/25 19:42
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

                *

「……どうゆう事だ!勘違いでこんな事が済まされると思うなよ!?」
 時はさかのぼり昨日の夜。
 息も絶え絶えに城にたどり着いた時には、もう午後十一時になっていた。
 つまり少年は二時間余り走り続けていたのだ。
 その時点ですごいねと拍手をおくってあげたいところだけど、国王様はそこまで優しい御方ではなく。
「……すみま……せんっ」
 息も絶え絶えにプレッツェルはひたすら頭を下げた。
 自分の良くない頭に腹を立てながら。
「今回の件は全て自分の責任です。どんな罰でも……」
 そこで国王は首を振りそこから先を制す。
 あぁ、オレはこんなに呆れられて、もはや言葉さえも聞いてはくれないのか……。
 悔しさ恥ずかしさ、その他諸々の感情が混ざって、目頭がじんと熱くなっていくのが分かった。
「いや、今回ワシも良く説明しなかった。ワシにも責任がある」
 しかし極悪人という訳でもなく。
「……国王様っ!?」
 プレッツェルは衝撃的な国王の御言葉に大声を上げる。
 国王の横に立つ護衛の「ここは国王様の御前の前であるぞ」と鋭い目線が向けられる。
「……すみません」
「よいよい。……ただし今回だけだぞ。次はないと思え」
 普通ならここは喜ぶシーンだと思うのだが、プレッツェルの気分は反対に沈んでいった。
「……申し訳ありませんでした」
 再度頭を下げる。
 前髪で隠れたその表情は一体どんな顔をしていたのだろう。
 どこにぶつければいいのか分からない情けなさで、プレッツェルは奥歯を強く噛みしめた。
 自分の失態を許されるということが、許せなかったのだ。他でもない自分自身が。

 時は立ち、今日の早朝。
 結局昨日は一晩中考えていた。同じ事をずっと。エンドレスに。
 オレはずっとこの職に付きたかった。
 国王のために身をつくし、この国を守って行きたかった。だからあの日決めた。国王の手から直々に手渡された軍服をこの手のひらにしっかりと確かめた時。
 今度こそ失敗はしない。
 今度こそ馬鹿な事はしない。
 そう心に強く誓った。
 ……なのに初日から、あんな失態を犯してしまって。恥ずかしい。
 オレは国王の役に立つどころか迷惑をかけてしまった。
 そして、隣国のお偉いさんはというと、もの凄い剣幕で、怒鳴りながらこの城に一人で来たらしい。
 まあ、そうなるのが当り前だろう。
 それに「あの人のご機嫌をとるのは、まったく骨が折れたよ」と先輩が言っていた。
 そうやって先輩は笑っていたが、口調や表情から本当に苦労したんだという様子がうかがえた。
 オレは先輩たちにも迷惑をかけた。
 そしてその大半は責めるでもなく「俺らも昔はよくやったよ。そんな失敗事は」と励ましてくれたのだ。
 その優しさが痛い。
 駄目だ、こんなあったかく包んでくれるまるで毛布の様なところにずっといたら。きっとオレは甘えてしまって……きっと。
「あ、サフラン幹部」
「あら、プレッツェル君じゃない。どうしたの?こんな早朝に」
 廊下をとぼとぼと歩いていると、見つけてしまったお目当ての人が。
 ずっと探していた筈なのに。いざ出会ってしまうと会わなければ良かったのにと後悔の念が湧きあがる。
 いや、駄目だ。覚悟を決めなくては。
「……サフラン幹部。渡したいものが」
 オレは覚悟を決め、ポケットから白い封筒を出す。
 それは少ししわくちゃになってしまっていたが、中身はまぁ、読めるだろう。
 サフラン幹部は不思議そうに小首を傾げ、封筒を受け取る。
「良いけど。何これ?」
 と呟きながら封を切り、中身を確認する。
 表情が変わった。
「……これは!」
 そうオレは今望んでいた筈の未来を、自らの手で捨てようとしている。
「いいの?」
 サフラン幹部は声のトーンを落とし最後に確かめるよう尋ねる。
 そう、ここで頷いたらもうすべてお終い。
 でもオレは決めた。もうここにはいられない。オレ自身のプライドが許さない。
「……はい」
 オレは今日。兵士を止める。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.22 )
日時: 2012/07/25 20:16
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

               第三魔法 

              栗色の王子様

 その人はまるで王子様のようにわたしの瞳に写って。

               八年前

「きゃあっ!!」
 空ももう赤くなり、夜が近づいて来ている頃。
 急に襲いかかろうとしてきた野犬に、わたしは足がすくんで逃げ出せないでいました。
 ぐるるるる……
 鋭くとがった犬歯に、ねっとりとした涎がさらにわたしの恐怖心をあおりました。
「こっ、来ないで!」
 しかし獣に、しかも理性を失ったかのように凶暴な獣に人間の声など届く筈もなく。
 がるるるるる……
 あっと思った時には、黒い犬は大口を開けて私に向かって飛びかかってきたのです。
 スローモーションのようにゆっくりと犬はわたしに近づいてくる。
 犬歯も歯茎もむき出して、わたしの喉笛を噛み切ろうとするかのように。
 絶体絶命。
 必死に逃げろと自分に言い聞かせるがあまりの恐怖に体が反応しない。
 犬はあと数センチいうところまで近づいてきている。
 ……あぁ、もう駄目だ。
 死を覚悟して、潔く目を瞑る。
 きゃうん!?
 と、突然「ごっ」と木の棒で殴るような音と、犬の甲高い鳴き声がした。
 ……何?
 恐る恐る目を開けると、そこには。
 そうあの人が立っていた。
「おい、大丈夫か!?」
 その人はこちらを振り返り、わたしを心配そうに見つめた。
 まだあの時の光景はわたしの目の裏に鮮明に焼き付いている。
 夕日の色に混ざって水性絵具のように優しい色に輝く茶髪。活発そうな大きな瞳。泥だらけの洋服。
 そんなのどこにでもいる、普通の男の子。なのに、その時のわたしには王子様が白場に乗って現れた。本当にそんな風に見えたのだ。

 そんな彼ももう十七になる訳で、今はわたしと同じ職場に付いている。
 彼がずっと幼い頃から憧れていた、この職場。
 やっと同じ所で働けると思うと、嬉しくて……少し恥ずかしい。
 確か昨日正式に彼はこの城の兵士として認められたんだったけな。
 早く……早く彼に会いたい。
「シャルロット幹部。仕事です」
「えぇ。分かっています」
 今日もまた彼にもらったバンダナを身につけて、この町に出る。
 いつか貴方がわたしの隣で働けるように、幹部長代理はまだ空席よ?
 ねぇ、だから早く……早く来てよ。ここまで。ずっとずっと
                      

                      ……待っているから。

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.23 )
日時: 2012/08/21 22:41
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

               *
 

 ……駄目だ。どんな事にも手が付かない。
 気力が出ない。
 原因は分かってる。つい一時間前くらいの事だ。

「本当にいいの」
「はい。覚悟は決めました」
 サフラン幹部は本当に残念そうに、目を伏せた。
「……そうなの」
 まだ頭の中で整理が出来ていない様で、サフラン幹部は深いため息を吐く。
 しばらくの間があった。
 その後絞り出すような、サフラン幹部の弱弱しい声がした。
「分かったわ。これはシャルロット幹部に渡しておくから」
「ありがとうございます……」
 オレは最後の気持ちをこめて、今までで一番深く頭を下げた。
 顔を上げるオレを、サフラン幹部の悲しそうな笑顔が待っていた。
「短い間だったけど、貴方は優秀な兵士だったわ。これからも、がんばってね」

 そしてオレ達は「またどこかで会いましょう」と握手をした。
 あの手の温かみも、サフラン幹部の悲しそうな表情も、もう随分と昔に起きた出来ごとに感じる。
 そしてそれは今日起きた事なんだと、思い返しては、さっきからため息を吐いているのだ。
 本当に駄目だ。オレはこうしている間にも……また、ここ来ちゃうなんて。
 さっきとは違う緊張感を覚え、またあの扉の前に立つ。
 コンコン
 木製の扉を叩く。木の軽くて響く音がした。
 それから数分もかからず、柔和な雰囲気を漂わせた、上品そうな女性の顔が出てくる。
「はぁい……あら」
 言葉とは間逆に、さほど驚いた様子でもないティラミスさんに、オレは頭を下げる。
「……どうも」
 ティラミスさんは、ここに戻ってきたオレが意気消沈しているのも、どうしてここに戻ってきたのかも尋ねず、ただ微笑んでオレに温かい紅茶と焼き菓子を出してくれた。
 こうやって何も聞かないで、暖かく迎えてくれる。この環境が今のオレにはありがたかった。
 まだ入れたての、湯気が漂うティーカップに口をつける。
 ……温かい。
 そこで自分の体が酷く冷めきってしまっていた事に気が付く。
 喉に通る、この程良い甘さの紅茶が、あの時のサフラン幹部の温かい手に似ていて、涙が出そうになった。
 あの人の手は、長年多くの人を守ってきた。綺麗で優しくて、そして力強い手だった。
 駄目だ。その先を思い出しちゃ、また悔しさや虚しさが込み上がって来て、何とも言えない悲しさにおぼれることになる。
 しかし人間は意識するほど、駄目な訳で。
 嫌でも先程の光景が脳裏に浮かび上がった。
 ……オレは兵士を止めた。やっぱりあれは過去でも、ましては夢でもなかったんだ。
 ここでオレが顔を歪ませたのは、ティラミスさんも気が付いている筈。
 なら、いっその事訳を聞いたり、一括してくれたり派手なリアクションをとって欲しいものだ。
 その無言の、優しい頬笑みが……苦しい。
 目頭がじんわり熱くなる。
 もう限界だと、目元を抑えて、俯いた。……その時だった。
「プレッツェル!?」
 今この場で重要な役割をしてくれる、活発な声がした。
 涙目で見たその顔は、妙に歪んで見えた。
「どうしたの!?」
 ミルクレープ様……いや、あいつは心配そうにオレに駆け寄ってくる。
 そっと温かい手が、肩に触れた。
 その温かさが、今朝握ったばかりのサフラン幹部の手の温かさと似ていて、さらに涙が溢れそうになる。
 なんとしてもコイツだけには見せまいと、顔を逸らすと、コイツはオレの予想に反して、オレの顔を覗きこんできやがる。
 見るなよ。こんな姿。いくらコイツだからって、こんなの誰にも見せたくなんかない。
「……オレさぁ」
 気付いたら震える、情けない声でオレは語り始めていた。
 あいつはティラミスさん同様、何も言わずにただ真剣な眼差しで見つめてくれていた。
 ため息を吐くように、先を続ける。
「……兵士止めたんだ」

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.24 )
日時: 2012/08/21 22:42
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

                *

「……え」
 長い長い……オレにだけそう感じたのかもしれない。沈黙が下りた。
 ティラミスさんは、なんとなく予想していたらしく、頬に手をやって、「やっぱり」と呟いた。
 ミルクレープからはなんの音もしなかった。
 多分大きな目をさらに大きく見開いて、顔面蒼白になっているに違いない。
 そうだお前もオレと同じ、夢を追い続けていたんだろう?
 お前が魔法使いなら、オレは兵士。
 オレは自ら夢を捨てたんだ。
 お前なら分かるだろう。「そんなの馬鹿のすることよ!」とか「なんでそんな事をするの!」とか、叱ってくれよ。
 その方がオレも幾分か楽になれるってもんだ。
 しかし、コイツはオレの思い通りには動かない女で、コイツは、なんとはらはらと涙を流し始めたのだ。
「なっ!なんでお前が泣くんだよ!?」
 泣きたいのはオレの方だ!
 内心そう強く思いながら、おどおどと動揺する。
 アイツは肩をしゃくりあげながら、目元を拭い。
「だっ……だって……それって……私のせいなんだよね……」
 ……コイツ……。
 コイツは自分が勘違いされているのに気付いていながらそれを言わなかった事に、罪を感じているのか。
「……確かにお前が早く言ってくれば、こんなことにならなかったのかもな」
 ミルクレープが唇を強く噛みしめた。
 そんなに、自分の事責めてんのか。
「……でも、これはオレの勘違いから始まったんだ。お前のせいじゃない」
 ミルクレープがゆっくりと顔を上げる。
 その瞳は悲しそうにも驚いたようにも見てとれた。
「でも……!」
「オレのせいだ。なにもお前が気に病む事じゃない」
 兵士を止めたのも、お前とお偉いさんを勘違いしたのも全て自分の決断、自分のせい。
 だからお前は、笑ってり、怒ったり、悲しんだり。そのままでいてくれればいい。
「うっ……」
 突如ミルクレープがおかしな声を発し始めた。
「おっおい?」
 赤ちゃんが嗚咽しすぎて吐くみたいに、コイツの体にも何か異常が?
 まあ、さすがにそれはないだろうと思いつつ、心配になったので、肩に手を置く。
「……おい?」
 と体を近づけたのがいけなかった。
 とんっ
 無防備なプレッツェルの胸めがけ、ミルクレープが抱きついてきたのだ。
 恐らく感きわまってつい、とかだろうと思うがなにしろ今まで女性に抱きつかれたこともないものだから。
「なっ、何で抱きつくんだよ?」
 顔面蒼白、ではなく顔面を赤面させて、プレッツェルは叫んだ。
「ごめんね、本当にごめんなさい……」
 丁度ミルクレープの顔当たりの所が濡れていくのが分かって、ミルクレープが泣いている事が分かった。
 そう思うと、叱る気にもならなくなり。
 かと言って、ミルクレープの細い体を抱きしめるのも、心臓が持たないと自負していたので。
 プレッツェルはミルクレープの頭に手を乗せた。
 そしてそのやわらかい髪を、優しく撫でる。
 しばらくして、まだ涙で潤わせた瞳が、オレの瞳に飛び込んできた。
「……なんつー顔してんだよ」
 ミルクレープの目元は、クマがあるくせに泣き腫らして真っ赤に腫れあがり、酷い現状になってしまった。
「……うるざい」
 まだ鼻水を啜りながら、鼻声でそう反撃されても、笑い沙汰。
「ざい」なんて、またなんてベタな。
「アハハハハハ」
「わっ……笑うな!」
「……てか何でお前、目にクマ出来てんの?」
「えっ!?それは〜そのぅ」
 ミルクレープが言いにくそうに口もごり、視線を右に(ティラミスさんがいる方)に向けると、長いため息を吐き。
「秘密という事で」
 と答えた時、右から異様な威圧感を感じたのは気のせいだろうか

Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 ( No.25 )
日時: 2012/08/21 23:48
名前: 緑野 柊  ◆5Qaxc6DuBU (ID: DnOynx61)

                *   

「そうカ。お前兵士をやめたのカ」
 一番遅くに起きてきたノエルは、どうやらティラミスから事情を聴いたらしく。そう悲しそうに言った。
「……はい」
「にしてもお前、そんな悲しそうではないナ」
「え……」
 確かに言われてみればそうかもしれない。
 最初ここに来た時よりも、虚しさや悲しささが軽減されている気がする。
「……それは〜、ミルクレープちゃんとの愛の力よねぇ」
 ティラミスがニヤニヤとしながらそう言った。
 その途端、オレは一気に体じゅうが熱くなるのを感じ。
「なっ!違っ!」
「愛カ」
「だから違うって!」
 何故そこでそうなるのかと、叫び出したい気持ちを抑え、必死に抗議するが、相手はまったく聞く耳を持ってくれない。
 ノエルは相変わらずからかっているようだし。
 思わず立ち上がってまで、激しく否定したが。
「良いわねぇ〜青春って感じで」
「若いナ……」
 ……くっ。コイツら妙な所で息を合わせやがって。
 まぁ、夫婦喧嘩もせずに二人仲良やっているのは良い事とだけど……。
「……だから違いますからね!」
 この場に耐えきれなくなって、席を外そうとしたところで。
「何何?どうしったの?」
 コイツはやって来るんだよなぁ……。
 しかも上機嫌で。
 自分たちの話題で盛り上がってる事など、知っている訳もなく。ミルクレープは興味津々といった様子で尋ねてくる。
 しかしオレにとっては、今一番聞かれたくなかった事でもある。
「えっ!?えっとぉ〜」
 すっとんきょんな声を上げて、明らかに動揺しているオレを見て気が付いたのか、ミルクレープはニヤリとして。
「教えなさいよ〜」
 これは明らかに勘違いをしている顔だ。
 確実にコイツは、話題に上がったのはオレの恥ずかしい話しや、弱点の話だったと勘違いしている。
 今話題に上がったのは、オレのじゃない。オレ達の恥ずかしい話だ。
「……聞かない方が……良いぞ」
 と注意したのも関わらず。
「えぇ〜?じゃあ聞く」
 ミルクレープは逆にもっと強い興味を持ってしまい。
「なっ!?」
 怪しい笑みでノエルとティラミスの傍へ歩いて行く。
 ……軽い足取りで。
 無論言うまででもないが、二人はにたりと気味の悪い笑顔を浮かべて。
 オレは嫌な予感がした。
 ノエルとティラミスは互いを見合って、タイミングを合わせようとするように、頷きあった。
「……それは、ミルクレープちゃんと、プレッツェルの……」
 ちょっと!それ以上は!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「キヤァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
 突然大声で叫んだ挙句、荒々しく肩で息をするのを見て、皆オレにドン引きしているような空気が流れた。
 やってしまった。と思った時にはもう遅く。
 ミルクレープもティラミスも、ノエルも皆、眉を寄せてじりじりと後ずさって行く。
 オレはなんとかこの場を誤魔化そうと痙攣する頬で、無理やりに笑みを作る。
「えっ?あ、いや……あははははは……」
 特にミルクレープからの視線が痛い。
 頼むからそんな目で見ないでくれ。オレだって好きで叫んだ訳じゃない。と言いたいが言ったら言ったで理由を追及されるのは目に見えていたので、言える筈もなく。
「あはははははははは……」
 不自然な笑い声を上げるしかなく。
「……だっ、大丈夫?」
 そして完全に痛い男だと勘違いされた。
「だっ、大丈夫」
 大丈夫じゃないのは、オレの心の方です。
 それでもまだ白々しく見てくるミルクレープの視線に、もう心はズッタズッタに傷ついている。
 て言うか、ティラミスさん達は絶対何でオレが叫んだか気付いてるよね!?気付いてて知らないフリとか、悪魔かよっ!!
 ミルクレープに気が付かれないように、そうっとノエル達を睨む。
 すると、なんと二人はふいと顔を背けたのだ。
 ほらやっぱり気付いてるよ!


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