ダーク・ファンタジー小説

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叛逆の燈火
日時: 2023/03/06 20:05
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)

 傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
 「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。

 ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
 傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
 そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。

 アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
 追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。

 ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
 黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。

 「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」

 果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?


余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞

2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止


目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」

Re: 叛逆の燈火 ( No.163 )
日時: 2023/01/13 22:22
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 そんな夢を見た次の日の朝。俺は中庭に出向いていた。
 師匠が死んだあの日からも、俺は一人で剣の修行に励んでいる。師匠に教わった事を忘れないようにってのもあるけど、やっぱり……習慣になってるのもある。師匠に教わった事を思い出しつつ、俺はなるべく自分の力だけで、目の前の修行用の人形に、木刀を打ち付けていた。
 右腕はエルの物。右目も。この身体の中にあるドライブはクラテルの物。今、心が軽くなっているのは、ラケルや母さんのおかげ。それらを噛みしめつつ、それに頼って驕らないように、俺は毎日人形を自分の手で倒すまで、ひたすら打ち続ける。

「朝から精が出るわね」

 俺が人形にくぼみを作ったところで、久しぶりに聞いた声がかかる。俺が振り返ると、そこには、黒髪のカウガール。……なんだか久しぶりに見た気がするよ。

「……ジェニー姉ちゃん」
「や、久しぶり」
「ああ、本当に。もう何年も会ってない気分だったよ」
「あはは、数か月程度じゃない」

 ジェニー姉ちゃんは笑い飛ばし、俺の頭をぽんぽんと叩く。俺も釣られて笑うと、彼女は「あら?」と首を傾げた。

「どうしたのよ。いつもなら怒ってるのに」
「ん、そだっけ。今はこうしてもらうと、なんか安心すんだよな」
「……へえ、ちょっと見ないうちに男前になったわね」
「そうかな?」

 俺が照れながら頬を掻くと、ジェニー姉ちゃんが嬉しそうに笑う。

「そうよ。ちょっと前までクソ生意気なガキんちょだったのが、今じゃなんていうか……私よりも大きな男に見えるわね」
「身長は姉ちゃんのほうが大きいけど」
「そう言う事じゃない。……って、いいかこれは」

 姉ちゃんが呆れて肩をすくめると、人形の方を見やる。

「だいぶ、自分を制御できるようになったみたいね」
「ん、どうして?」

 俺がそう尋ねると、姉ちゃんがまた笑った。

「だって、前は自分の中の何かに振り回されてたけど、今はなんかさ。自分の中に一本の太い柱を持って立ってる……って感じ?」
「不思議だよな。そこまで時間は経ってないはずなのに、そんなに変われるもんかな?」
「人はいつだって変われるわよ。ただ、それを認められない連中が多いだけ」

 姉ちゃんがそう言うと、寂し気に遠くを見ている気がした。
 姉ちゃんの過去はあんま聞いた事ないし、聞くつもりもないけど、きっと姉ちゃんも辛い過去があったかもしれないよな。
 ……ってあれ。今更だけど、姉ちゃんって何しにここに来てるんだ?

「なあ、姉ちゃん。なんでここにいるんだよ?」
「え? ああ。スティライア王国の国王陛下がね、私とディルクを正式な兵士として、任命してくれてね。奴もちょっと遠い場所にいるから、こっちに来るのは、陛下と一緒かな」
「二人とも、一緒に戦ってくれるんだ」
「もちろん。いろいろとあったからね」

 姉ちゃんがそう言うと、遠い目をしだす。

「じゃあさ、また。いろいろ教えてくれよ」
「いいわよ、時間があったらね」

 俺は再び人形に向き合って、木刀を打ち付けた。姉ちゃんは少し離れて、それを眺めている。俺は構わず、木刀を振り続けた。
 人形が変形して、歪な形になってきた。俺は構わず人形を倒すまで振っている。それを眺めていた姉ちゃんがふと、声をかけてきた。

「アレン、足をもっと踏んでみたら?」
「えっ」

 俺は思わず手を止めて姉ちゃんの方を見ると、姉ちゃんは「こうして……」と、足を一歩踏み出して、力強く地面を踏む。俺も同じようにし、足を踏み出した。そして、足に力を入れる。

「で、こう……」

 姉ちゃんが説明してくれたように、俺は構えた。木刀を両手で握り、頭上に振り上げて、一気に振り下ろす。……カズマサが前にちょろっと教えてくれた構えと同じ。あの時は聞き流してたけど。

「なるほど」

 俺がそう言いながら、言われたとおりに木刀を振ってみる。

「なんか、東郷武国の剣の構え方らしくて、こうすると結構足腰に力が入りやすい気がするのよね」
「確かに」

 なんだか、さっきより身に力が入るような感覚のまま、俺は改めて木刀を人形を打ち付けた。

 スパン! と音がしたかと思うと、人形を覆っていた布が破れてしまった。……と、同時に人形が割れて崩れる。

「……ああ、もう終わったのか」

 俺がそう言いながら、人形の残骸を集めた。

「あんまり効果が解らなかったわね」
「いや……でも、さっきより力強く剣を振れたかも。ありがとな」

 俺が何気なくそう言うと、姉ちゃんが目を見開いたままこっちを見つめていた。

「……どうした?」
「あ、いや。あんたもお礼を言うようになったのね」
「……」

 またそれか……いや、そうだよな。俺、本当に嫌な奴だったんだな……。なんだか俺はショックを受けて俯いた。

Re: 叛逆の燈火 ( No.164 )
日時: 2023/01/14 22:27
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 ……感じる。アレンが目を覚ました。
 私は椅子に座って居眠りしていたみたいだ。夢をみていたようで、そう。――アレンがあのお姫様に手を引いてもらって、闇の中から出ていく夢。

 やっぱり、あいつには仲間がいるから、どんなに絶望の淵に立たされても、這い上がる。仲間という希望、希望の光に照らされた星。その星も、自ら光を放って、道標となる。……つくづく、腹が立つ。
 あいつには……あいつだけ。あいつの周りに、なぜああも人が集まっていくんだろう。

「羨ましい」

 私はそうぽつりとつぶやいた。
 本心だ。心の底から、あいつの事を羨ましいと思っている。

「羨ましい」

 一度思うと、止まらなくなる。
 ほんのちょっと前まで、仲間なんていらない。私が信じる私の大切な人が、私の傍にいてくれるだけで、とても嬉しい。満足していた。
 ……でも、最近はよくわからなくなってきた。一人でいると、寂しくて、寒くて。
 バーバラやネク、セイリオが近くにいるはずなのに、とても遠く感じる。それどころか、私の中に何かどす黒い大きな何かが、私を食らおうと近づいて、どんどん自分自身が遠くなっていっているような感覚すらする。

「……私はどうしたら」

 どうしたらいいのか。当然だけど、誰も答えてはくれない。

「……セイリオ」

 私が彼の名を呼ぶと、いつも彼は微笑みながら出てくる。
 ――はずだけど、最近はセイリオの声も、ネクの声も聞こえにくくなってきた。なにか、雑音に阻まれて声が良く聞こえないんだ。

<そりゃあそうよ。あなたは、元々ひとり。7年前のあの頃から、ずっと>

 私の声が頭に響く。

<でも、それはあなたが招いた結果でしょ。それとも、今更。ひとりは嫌だ、なーんて言うのかしら?>

 その声を聞くたびに、視界が黒く染まっていくような気がする。……私はその声を否定しなかった。

「ひとりか……私はあの日からずっと一人だった。なんだか、今は」

 今は……

「空虚」

 虚しい。とても。

「空虚に感じる」

 何もかもが空虚。

<……そう。何もかもを否定して、奪って、好き放題している魔王の台詞とは思えないわね>
「でも、「世界の人間にんぎょう達から何もかも奪ってやる」って思っているわ。今も。で、好き勝手に奪ったりしてたらいつの間にか、私の周りには好き勝手な連中だけが残った。もちろん、私に殺されたくないとか、国の為の下らない義務感だけで残ってる連中もいる」

 好き勝手にやってたツケが回ってきたっていうのもある。
 あちこち壊して奪って、それで反抗してくれば、即座に潰す。……それがいつの間にか、人類を消滅させるに変わっていて。

「この思いは、本当に私の物なのだろうか?」

 とさえ疑問に持っていた。
 ああ、だけど一つだけ私の思いが、空虚な心の中に残ってた。

「アレンを殺す」

 あの忌まわしい星の光が、どうも目障りで、邪魔で。消してしまいたい。

<それはずっと変わってないわね>
「あの時、お姫様の邪魔さえ入らなければ、確実に消せていた」
<ま、アレンを消したら、人類にんぎょう共を消滅させるなんて、簡単にできるわ>


 頭に響く声は、きっと私の本心だろう。だからそれに従おう。私の心に。
 私は立ち上がり、暗い自室のドアに歩み寄る。

「傭兵団は、アレンを聖者として祭り上げて、本格的に革命を起こすみたい。バーバラがそう言ってた。だから、こちらも歓迎してあげましょう」
<そうね。あなたはこの城で待っているといい。疲れ切ったアレンに止めを刺す。その方が楽できるわ>
「もとより、そのつもりよ」

 私は部屋から出る。足元に、誰かがいた形跡があった。

<……だけど、アストリア。あいつだけは早めに始末しておかなきゃね。きっと邪魔になる>
「そうね」

 私はそれだけ短く呟くと、玉座に向かって歩き出した。

Re: 叛逆の燈火 ( No.165 )
日時: 2023/01/14 23:15
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)


 玉座に座ると、眼下には私の言葉を待つ兵士達が、規律よく並んで立っていた。私の隣にはバーバラが。珍しくマギリエルの姿もある。……私が呼んだんだから、彼女がここにいるのは当然か。私は無表情で、それを眺める。彼らは、帝国の何を守る為に、ここに戦うのだろうかと、ふと思う。
 この国は、皇帝が――いえ、父上が死没した時から、もう意味を成していない。それどころか、守るべきモノなんか、もう既に滅んでいる。それでも、彼らは何を守ろうとしているのか。さっさとこの国を捨てて、アレンの味方になってくれた方が、私もこんな風に考えなくていい。障害なく彼らを塵に変えられる。
 そう考えながら、私は口を開いた。

「アレン・ミーティアが、この国を目指し、進軍を開始するようです」

 私の言葉に、その事を知らない兵士はざわめき、なんとなく察していた兵士からも声やため息が漏れる。当然の反応か。

「皆さん、アレン・ミーティアとそれに与する烏合の衆から、死力を尽くし、この城を守りなさい。逃げたい者は逃げればいい。その代わり、"この世から"という意味にもなりますが」

 私がそう冷たく言い放つと、ざわめきが強くなる。私は有言実行する。その事は、彼らもよく知っている。私を裏切った者が今までどうなったか、私は何度も彼らに見せつけてきたもの。
 私を裏切って、暗殺しようとしてきた者も、私に喧嘩を売ってきた者も、何百何千という大軍で押し寄せてきた時も。私は一人残らず塵にした。
 この期に及んで、私を裏切るというのなら、私に同調して好き勝手してきた報いを受けるべきだわ。まあ、どうせ。私は人間を一人残らず滅ぼすつもりだから、順番が後になるだけだけど。

「あなた達は守るだけでいい。あっちから出向いてくれるのですから、相応の歓迎の準備をするように。それでは、最後の一人になるまで、武器を握り続けてくれることを期待していますよ」

 私はそうせせら笑う。
 もちろん、最後の一人は私になるのだろう。……それとも、私以外の誰か? どちらにせよ、皆死ぬのは間違いない。
 どんな理由で何を守るのか。そんなのは知りもしないけれど、せいぜい最期まで生にかじりついて、人間らしく醜く朽ち果てればいい。


「バーバラ、マギリエル。話があります。後ほど、会議室に来てください」

 私は、バーバラ、そしてマギリエルに耳打ちをして、彼女たちを呼び出した。その後、アストリアの方を見る。アストリアは腕を組んでこちらを覗き込んでいた。
 やはり、奴は生理的に受け付けない。寒気もする。私の視線に気づいたのか、奴はこちらに歩み寄ってきた。

「……何の用ですか?」
「いいえ、死力を尽くせなどと、半ば脅迫に近い命令であると、そう思いましてね」
「脅迫ですよ」

 私は即答する。

「皇帝の為に死ねとでもいえば良かったですか?」
「……ふっ。あなたは、未だ幼いですね。7年前から何も変わっておられない」

 アストリアは挑発するように笑う。いつものやり方だ。そうやって神経を逆撫でするように言えば、私が冷静さを欠いて、奴の思い通り動くとでも思っているのか。……何にせよ、思い通りに動くつもりは――。いや。そうか。思い通りに動くつもりはないと、そう考えること自体、奴の掌で踊らされているのかもしれない。

「……そうですね。私はまだ十六。皇帝としては幼いと思います」
「……」

 アストリアは無言で私を睨み始めた。思い通りの返答ではないのだろう。

「アストリア、あなたは城で待機です。あなたにはやってもらいたい事がありますので」
「それは、"命令"ですか?」

 アストリアがそう尋ねてくるので、私は答えてあげた。

「いいえ、"指示"です」

 私の答えに、奴は満足気に笑う。……意外と扱いやすいのね、こいつ。

「承知いたしました」


 私に頭を垂れ、踵を返して離れていく。ま、どうせ奴は私の指示を無視し、アレンの下へ直接出向くだろう。命令ではないから。……次にアレンを殺せなかったら、その時は本当に奴を殺してやろう。どうやって始末するか。その時に考えるか。
 できるだけ、奴がアレンが見せたような、絶望の色に染まった表情を見せてくれるように、奴の期待を裏切るような方法で。

 私は今から楽しみにしながら、バーバラとマリギエルを呼び出した会議室へ向かう。

Re: 叛逆の燈火 ( No.166 )
日時: 2023/01/15 04:36
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)


 バーバラとマギリエルが待つ、会議室へと赴く。二人が待っていたが、やはりマギリエルは私の顔を見ると、露骨に嫌そうな顔をしていた。……まあ、今となってはどうでもいいか。私の期待通りに動いてくれれば、後はなんだっていい。好きにすればいいんだから。

「陛下、お待ちしておりましたわ」

 バーバラがそう首を垂れると、マギリエルももちろん同じく頭を下げる。私は「頭を上げなさい」と一言。

「二人に来てもらったのは他でもない。全ての合成魔物キマイラを投入しなさい」
「承知しました。あのアレンという小僧を消耗させるには、十分すぎるくらいの数がいます故、陛下の手を煩わせるまでもないでしょうな」

 マギリエルがククッと笑う。だけど、私は首を振った。

「その程度で止まるような雑魚ではありませんよ、あいつは。例え、全てを一斉に嗾けようとも、奴は立ち止る事などありません。油断や慢心は、敗因となりえる。慎みなさい」

 私がそう指摘すると、やはり明らかに不機嫌そうな顔をする。だけど、バーバラがマギリエルを宥めた。

「陛下の言う通りね、マギー。あなたは少し慢心するところがある。今後は気を付けなさい。特に、アレン達と対峙する時は、ね」
「……バーバラ、君がそう言うのなら」

 彼女はバーバラに友人以上の感情を抱いているのだろう。傍から見ても、そう理解できる。……まあ、理解できるだけだわ。

「バーバラとマギリエルには、帝都を守る要塞についてもらいます。あそこが、帝都の最後の砦。あそこさえ守り切れば、我々の勝利は確実です。……相手は元騎士団長、副長、教団騎士がいるのだから、要塞を必ず叩こうと攻めてくる。命の限り、何を犠牲にしてでも守るように」

 私はそう二人に命じた。

「ハッ」

 二人は力強く返答し、会議室から出ていく。
 私は会議室を見回した。あの日、アスラとの戦闘で破壊しつくされたこの場所は、放置してあの時のままだ。私がそうさせている。理由なんて、あってないようなもの。別にここ、頻繁に使うわけでもないし、軍議なら私が参加せずとも、バーバラがなんとかする。……私が軍議に参加したって、畏縮してしまうし。

 あとは、待つのみか。……古来より、魔王は勇者を城で待っているもの。まあ、ただ待つのも面白くないから、たまにちょっかいでも出してみるか。
 特に、アストリア。あいつの動きには注意しないと。まあ、アレンに性懲りもなく喧嘩を売っているのなら。その時はまた笑い飛ばしてあげましょうか。

<随分楽しそうね>

 私の声が脳裏に響く。

「そう見える?」
<ええ>

 まあ実際、少しは楽しんでいるのかもしれない。
 ……楽しい? 楽しいってなんだったっけ。
 唐突にそう考えると、今私は何をどう楽しんでいるのか、よくわからなくなってきた。また、心を襲ってくる虚無感。胸に手を当てる。

「楽しいって、なんだっけ……」

 私がそうぽつりとつぶやくと。

<だいぶ、自分を見失って来てるわね、ソフィア>
「……」

 どんどん、自分すら見えなくなってきてる。視界も黒く染まってきて、どんどん闇が広がっている。脳裏に響く、私の声も大きくなってる。

<大丈夫、あとは私がやってあげるから。私に身を委ねなさい>
「……あなたに身をゆだねる?」

 私はよく理解ができないので、そう聞いた。

<何も心配はいらない。楽になれるわ。安心して眠ってるといい>
「……そうね。そうする」

 私がそう答えると、浮遊感を感じて、自分が遠くなった気がした。

「ねむい」

 すごく眠くなってきて。目を開けていられなくなってきた。疲れてるわけでも、まだ昼間で、夜でもないのに。彼女の言葉が理解できなくなって、認識すらもできなくなったけど、何か言葉を発している事はわかる。多分、「おやすみなさい」と言ってくれてるんだろう。子守歌にも聞こえてきている。

 ……ここは、彼女の言葉に甘えて、眠らせてもらおう。
 私は、瞳を閉じた。

Re: 叛逆の燈火 ( No.167 )
日時: 2023/01/15 22:59
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)


 それから数日が経って、予定通りスティライア王国の国王陛下が、メリューヌ領の居城へとやってきた。とは言っても、側近と護衛が数名。王国軍の本隊は、国境付近を守る要塞に駐屯させているらしい。いつ攻められても守れるように。って。
 とはいえ、帝国には魔女がいるし、兵力だってまだ負けてる。状況は何一ついい方向とはいえない。むしろ負け戦の可能性だってある。と、陛下は言っていた。
 俺達は現在、フォートレス王国の国王陛下がこちらに来るまでの間に、顔合わせ程度だけど、話し合いを開いている。傭兵団、メリューヌ公と側近のアサヒ。そして、国王陛下と王女様。あとは数人の重鎮。会議室に集まり、長机を囲っていた。まあ、王女様をどう扱うかって話だけなんだが。

「負け戦であれば、これ以上の犠牲を出さないために、降伏するべきでは」

 王女様がそういう。

「殿下、そういうのは無しの方向でお願いします」

 俺がきっぱりと言い放つと、やはり不満げな顔。……何度も説明してるんだがな。戦い抜きの、話し合いじゃ誰も止められない。血が流れるのは必至だって。ため息交じりにそう、わかってくれるように丁寧に、なるべく冷静に伝える。

「ですから、何度も言っているように! ソフィアもヒトです。ヒトである限り、話し合いで解決できるはずなんです」
「……人間じゃねえよ」

 俺は、いい加減腹が立って、思わずぽつりとつぶやいてしまった。無意識に。

「はあ。殿下、もうやめましょうよそう言うの。今、あんたみたいな中途半端な考えで来られるのが、一番迷惑だし、一番邪魔なんだ」

 もう嫌われてもいいか。いや、もう嫌われてるか。俺はそういうしかなかった。それに同調するのは、メリューヌ公の隣にいたアサヒだった。アサヒはぷっと吹き出しながら、肩をすくめる。

「……失礼、アレン殿と全くの同意見でござあます」
「控えなさい、アサヒ」

 アサヒを諫めるが、メリューヌ公も頭を抱えていた。多分、アサヒが代弁してくれた事を考えていたのだろう。

「……うちの娘が、迷惑をかけたようだね、アレン君。そしてチサト君」
「いえ、ご迷惑なんて」

 俺の隣にいたチサトが首を振る。

「でも、私もやはりエイリス様の御意見は、少々世間知らずにもほどがあると思っております」
「せけ――」
「私もそう思うよ」

 王女様が反論しようと声を上げるが、陛下がそれを遮り、頷く。

「この子は優しい。……いや、甘いんだ。「不殺の王女」と呼ばれて称えられる反面、「殺さずの弱者」の蔑称でも一部で蔑まれていた。自分を狙った刺客すら殺せない、むしろ許してしまう。覚悟が足りぬ「弱者」であると」

 陛下の言葉に、王女様は首を振った。

「……血を流す事は、誰かの憎悪を煽る行為です。憎悪は憎悪を呼ぶ。それはアレン、あなたもわかっているのではありませんか?」

 王女様は俺の方を見る。

「何もかもを奪われて、ソフィアに復讐したいと、一度でもそう思ったのでしょう?」
「ない」

 俺はその質問に首を横に振った。

「ないよ、一度も。ただ……殺したいとは思った。それは、復讐とかじゃなくて、あいつを殺せば何もかも取り戻せると思い込んでたんだ。でも、なんか違うんだよな。今は」

 俯きながら、今までの事を考える。
 いろんな人に出会って、いろんな人から教えてもらって。いろんな事に悲しんだり、喜んだり。

「いろんな人が教えてくれた事、いろんな人がいる場所を、いろんな人を。守りたいから俺はソフィアを殺す。あいつは生きていちゃいけない。俺はそう思う」

 生きていちゃいけない。あいつは、生きている限り、好き勝手に暴れる。誰かを悲しませる。だったら刺し違えてでも殺すしかない。
 俺がそう言い切ると、王女様はやっぱり俯いた。

「やっぱあんた、どこかに逃げた方がいい」

 俺は改めてそう言う。

「……嫌です、私だけ逃げるなど」
「戦えないだろ? 誰かを殺す覚悟もないだろ? ……守られるだけの、覚悟の無い「お姫様」がいても仕方ないんだよ」
「……っ!」

 悔しそうに顔を歪める王女様。……そんな顔されようが、戦いに参加しない方がいいに決まってる。多少突き放す言い方をしないと、優しい言い方をしても理解してもらえない。
 ……王女様はついに押し黙って、沈黙が流れた。

「殿下、ここから少し離れた場所に、離宮がござあます。そこでこの戦いが終わるまで避難していただきくござあますわ」
「……エイリス、心苦しいのは理解している。だが、戦えない者が戦争に参加しても、犬死するか、無用な犠牲を払う可能性だってある。離宮で待機をしていなさい」

 流石にそう父親に言われたら、頷く以外できなくなったようだ。しぶしぶ了承する王女様。
 ……王女様が言うように、話し合いで解決したいさ。そりゃあ。俺だってそう思う。だけど、話し合いじゃもう止まらないんだ、誰も。何度も話してる。理解できなくても、理解しないと。

「……気持ちはわかりますよ、殿下。私もついこの間まで、殿下と同じ考えでした」

 チサトは、王女様の目を見て、口を開く。

「ですが、もう。双方は止まらないし、止まれません。殿下のような人間ばかりであれば、止まるでしょうが……そうはいきません。それに、あなた一人が騒いで、我儘を通そうとしても、皆雑音が鳴ってる程度にしか考えないでしょう。……皆、死ぬ覚悟でこの戦争に挑んでいます。殿下も、覚悟をお持ちください。持てないのであれば、離宮で戦争が終わるまで、静かにお待ちください」

 チサトがそう言い終わると、王女様は泣き出してしまった。……やっぱり、泣きたい時に泣ける奴って、本当に羨ましい。多分、ここにいる全員が、この状況に泣きたいだろうに。
 泣く気力があるなら、今後の戦い迄温存しておかないといけない。だから、泣きたいけど、泣けないんだ。……正直、しんどいよ。そういうの。


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