ダーク・ファンタジー小説
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- 叛逆の燈火
- 日時: 2023/03/06 20:05
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。
ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。
アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。
ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。
「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」
果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?
余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞
2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止
目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」
- Re: 叛逆の燈火 ( No.138 )
- 日時: 2022/12/18 23:06
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
次の日の朝。俺達は帝国に向かうため、スティライア王国の広大な森を歩いている。木漏れ日が木々の隙間から俺達を照らしていた。この森は帝国へ向かうための街道になっていて、草はところどころ生えているものの、石が敷き詰められていて、森の中だというのにとても歩きやすい。
ところで、姫さんとの関係はと言うと……まあ、仲良くなれとは言われたけど……無理だ。姫さんに話しかけようと何度も声をかけたけど、いない者扱いするように、俺と目を合わせようともしない。で、宣言通りヘクトとずっと一緒にいる。俺はと言うと、モーゼス兄ちゃんとスカイ兄ちゃんが両脇にいて、なんか同情してくれてる。
「うーん。まあ、難しいオトシゴロって奴ッスね。アレン君もモノをはっきり言うタイプッスから、お互いぶつかり合っちゃうのも無理ないッス」
スカイ兄ちゃんはそう言いながら、俺の頭をぽんぽん叩いた。
「子供扱いすんなよ!」
「俺より年下なんスから、子供ッス」
スカイ兄ちゃんがそう言いながら、尚も頭をぽんぽん叩く。
「まあ、今更言う事なんかないんだけど。アレンだって子供扱いされるのが嫌じゃない? それと同じで、チサトちゃんだって、お姫様扱いが嫌なのよ」
そう諭すように俺ににっこり笑いかけるモーゼス兄ちゃん。……確かに、俺はまだお姫様として、姫さんを見ているかもしれない。
でも、だって。なんかわからねえけど、苦手意識が俺の中であるんだ。苦手なものを好きになるなんて、結構難しいんだぞ。いや、これがいけないのか? でも……。
俺は頭の中で思考を巡らせて、どう姫さんに接すればいいのか、余計にわけわかんなくなって、両手で頭をぽかぽかと叩く。
すると、副長が近づいてきた。
「頭が悪いお前に、すぐに答えが出るわけがねえや。子供は子供らしく、感情的でいろ」
副長はそう言い放つと、いつものように、手に持っているボトルの中身を口にした。
「だから、子供扱い――」
「大人だったら、そう喚いたりしてんな。だからお前は子供なんだ」
副長の言葉に、「うっ」と声を漏らす俺。言い返せず、俯いた。
「アレンは、チサトちゃんとどうしたいの?」
俺がしょんぼりしているのを見かねたのか、モーゼス兄ちゃんが優しく聞いてくる。
「……わかんねえ。でも、このままじゃダメな気がする。だって、居心地悪いし……」
そう曖昧な答えを出すしかない。
本心だと、姫さんと仲良くなりたい。だって、あの子は……俺が拒絶しても手を握ろうと追いかけてきてくれた。だから、その思いに応えたい……けど。俺の中でまだ、あの子を拒絶してる何かがある。それの正体は何なのかはわからない。本当にどうしたらいいんだろうか。なんて、俺はそう思う。
「わかんねえや……」
「やっぱ子供だな、お前は。どんなに背伸びしたって、ガキのままだ」
「……」
副長はついに背中を向けたまま、俺の前を歩く。
「悩み多きは若い証拠よ、アレン」
モーゼス兄ちゃんがそう言ってくれた。……でも、さ。
「やっぱ俺、成長しきれてねえや。子供のままだよ。皆が言う通りさ。すぐ感情的になって、嫌いなものに寄り添えない。それどころか、拒絶する。こんなんじゃ、ダメなのはわかってんだけど……」
そう、今考えている事を口にした。
「嫌いなものは嫌いなままで、何が悪いんスか?」
そうスカイ兄ちゃんがきょとんとした顔で俺に尋ねる。
「……ダメだろ」
「いやいや。人間誰しも、苦手なものや嫌いなもの。たくさんあるッス。俺も、ピーマン苦手ッスよ。それって悪いッスかね?」
「そんな事はない、けど……」
「でしょ。じゃあ、いいじゃないッスか。チサトちゃんが苦手なら無理に好きにならなくたって」
「一緒に戦う仲間だろ……苦手なままじゃ……」
「じゃあ、利用すればいいッス」
スカイ兄ちゃんがそう笑いかける。
「苦手なら苦手で、その人を利用するカンジでいけばいいッス。それなら好きにならなくて済むし、悪いオトナのやり方ッスよ~」
そう邪悪な笑みを浮かべる兄ちゃんを、モーゼス兄ちゃんが脳天にチョップを軽く食らわせた。
「ハイハイ、イケない事は教えちゃダメよ~? まあ、でも。苦手なら苦手なりに、付き合い方も考えていけばいいわ。無理に仲良くなろうとして空回りしても、関係が悪化するだけ。だったらちょっとずつ、互いに歩み寄っていけば、いつかお互い良好な関係になれる……かもね」
「かもかよ」
俺は兄ちゃんの言葉に「ぷっ」と吹き出すが、まあ……でも。参考程度に考えるか。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.139 )
- 日時: 2022/12/19 22:28
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
アレン達が背後で何か話している。……多分、私の事だろう。そりゃあそうだ。だって、私が原因なんだし。
はあ……。私もアレンの事、言えないのに。
私も、アレンを最初見た時。……いや、正直今も、彼の事を好きになる事ができない。苦手だ。だって、父を殺した魔王の顔にそっくりだから。でも、性格は全くの正反対なのよね。アレンは誰かの為に常に一生懸命で、傷ついてああやって苦悩する。自分の事は二の次で。付き合いは短くても、そういう人だって、話を聞いたり、実際見たりしてわかった。優しい人なんだって。
そんな事を隣に歩きながら本を読むヘクト君に、吐露していると。ヘクト君は心底面倒くさそうに、目だけこちらに向けてくる。
「アレンさんもそうですが、チサトさん。あなたも相当不器用で面倒な人ですね。悩むくらいならぶつければいいでしょう」
正論だ。
私は「うぐっ」と声を出して俯く。
「それができたら、どれだけ楽か」
「じゃあ楽になればいいですよ」
「……無理」
「なんでです?」
ヘクト君が目を丸くしながらこっちを凝視してくる。黒い髪と黒い服に映える赤い瞳が、こちらを捉えて離さない。
「だって、頬引っ叩いて、すごい事言ったんだもん。……アレンの涙を知ってるはずなのに、突き放すような言い方しちゃったし……」
私が項垂れながらそう言って、深いため息をつく。
「羨ましいですね。僕はそういったものを感じる事ができないので、とても羨ましいと思います」
「えっ?」
ヘクト君がさらっと重要な事を言っていたもんだから、私はヘクト君に顔を向けた。相変わらず彼は本を読みながら歩いている。
「どういうこと? 感じられないって――」
「言葉の通り。僕は、7年前から何かが欠如したように、何かを感じることができなくなってしまいました。……これは傭兵団の皆さんにしか話してませんけどね」
ヘクト君はそういうと、ちらりとこちらを見る。
「チサトさんは、食べ物を食べるとおいしいと感じますか?」
「え? そりゃあ、もちろん」
「じゃあ、ほっぺをつねると、痛いですか?」
「そりゃあね」
ヘクト君の言いたい事は少しだけわかったような気がした。私の考えている答えを、ヘクト君が口にする。
「僕の故郷は帝国軍の襲撃によって、崩壊しました。パパとママを目の前で殺され、その時の記憶が無くなったようです。僕はその瞬間から何かが壊れたように、何も感じることができなくなってしまったんですよね。何が起きたのか、なんでこうなってしまったのか。よくわかりません」
ヘクト君が本を閉じると、脇に抱え込んで、続けた。
「この傭兵団に拾われてから、食事は味を感じず、受けた痛みも感じない。それに、なんだか何をされても何も感じなくなってしまったんです。全てを失ったはずなのに、悲しくも無く、怒りも湧いてこない。傭兵団の皆さんや、イルミナル領が消えたあの時も、ずっと一緒に仲良くしていただいたレーチェさんの死も。悲しいと感じられない。虚無感だけが残っています」
彼は出会った時から、どことなく、年齢の割に大人っぽいなとは思っていたけど。何も感じていないから、そんな態度にならざるを得ないのだろう。
そういえば食事の時も淡々としていたし、怪我をしても顔色一つ変えなかった。彼の両親が目の前で亡くなった瞬間に、感情そのものが壊れたのか、それとも別の理由があるのか。
一つだけわかる事がある。ヘクト君は、両親を亡くした事も、仲間を失った事も、悲しいと感じられなくなってしまったのは。とても寂しい事だと思う。
「ああ、でもですね」
ヘクト君は少し笑みを浮かべた……のかも。口元を綻ばせてる。
「アレンさんと一緒にいると、なんだか、冷たかった心が、とても温かく感じるんです。不思議ですよね、アレンさんは子供っぽくて、感情的で、すぐ怒鳴るし、すぐ泣くし、そのくせ見栄っ張りで、よく笑って」
彼は心なしか楽しそうにアレンの事を話していた。彼にとって、きっとアレンは、大切なお兄ちゃんなんだろう。ヘクト君が止まらず口にする彼の姿は、「ちょっぴりかっこ悪いけど大切なお兄ちゃん」だ。
ヘクト君の話を聞いててわかる。彼にとっても、アレンは道を示してくれる「星」であることを。
「……チサトさんは、やはり、アレンさんが嫌いですか?」
ヘクト君がこちらを見据える。
「……わかんない。嫌いじゃないと思う。でも、なんだろう……」
私が言い淀んでいると、ヘクト君がまた本を開く。
「嫌いならそれでいいと思います。嫌いなものを好きになる事なんてできません。ですが……アレンさんは、どんくさいですが、誠実で。誰かの為に必死になれる人です。それだけはわかってください」
彼が、顔を見せずにそう言いながら、前へと歩いて行った。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.140 )
- 日時: 2022/12/22 22:11
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
森を抜けたところだろうか。
俺の頭に突然痛みが走った。……なんだこれ!? 俺は立っていられなくなり、その場にしゃがみ込んだ。周りの皆は俺の様子に慌てて、声をかけてくれるが、何を言っているのかよく聞こえない。
その代わり……聞き覚えのある声が響く。忘れもしない、あの女の声……ソフィアだ。
<こんにちは、アレン。貴様が私の国に来ている事はもう把握していますよ。何をしにきたかもね>
ひどい頭痛と共に、ソフィアの声がわんわん響いて聞こえる。その声が周りの音を掻き消しているかのようだ。
「な、んだ……てめえ……ソフィア……!」
<いえ、伝えたい事がありましてね>
ソフィアの声は上機嫌だ。声が弾んでる。
……いや、わかりきってる。俺達もそのためにここまで来たんだ。期待通りに、ソフィアは答えてくれた。
<エイリス王女殿下をこっちで預かってるのです。引き取っていただけませんか? ……いえ、そちらに、優秀な占い師さんがいるようですので、既に把握しているとは思います>
「だったら、解ってんじゃねえか。俺達の目的が……!」
<ええ。まあ、多人数で押しかけられても困りますから。……アレン。一人で来なさい>
「……なっ!?」
俺は驚いて声が出た。一瞬痛みを忘れてしまうくらいに。
「どういうことだ!? 罠だろ、そんなの!」
<いいえ。私は皇帝です。下賎な傭兵団相手だろうと、約束は守りましょう。私が一人、ある場所で待っています。だから、貴様もそこに一人で来なさい。場所は……>
「……もし、俺が一人じゃなかったら?」
俺はそう尋ねると、ソフィアは「ふふっ」と笑うと、ただ一言。
<エイリスを殺す>
「……友達じゃないのか? その子は、お前の事を慕っていたってのに」
俺は思わず反論すると、突然ソフィアの声が低くなり、まるで怒っているかのように、怒声を上げた。
<友達? 友達だったら……私がこんなになるまでに止めてくれたはずよ。だけど、こいつはそうしなかった。友達って名乗ってる割には……私の傍にもいてくれなかったわ! それが友達? 笑わせないでっ!! 私を助けてくれなかったヤツなんか、友達じゃない。こいつは、私じゃなくて、私の立場にすり寄ってきていたのよ、気持ち悪い!>
「……!?」
突然のヒステリックな声に、俺は驚いて声が出なかった。いつも、無機質で機械みたいな姿しか見た事なかったから、こんなに感情的になるのが、すごく……驚いたんだ。
<……とにかく、一人で来なさい。でなければ、お姫様の首がどうなるか。まあ、見捨てても構いませんよ。その程度の男だっただけの事ですからね>
しばらくの沈黙の後、怒りを抑える震えた声で、それだけ言い終わると、ブツンという何かが切れる音と共に、頭痛が引いた。痛みから解放されると、俺はゆっくり立ち上がる。
周りには、俺を心配してくれた皆が、口々に「大丈夫?」と声をかけてくれる。その中には、姫さんもいて。俺の顔を見ると、「あっ」とだけ声を出してそっぽを向いた。
「皆、ごめん……俺、魔王に呼ばれた」
「うえぇ!?」
スカイ兄ちゃんが声を出して目を見開いた。
「ど、どゆコトッスか!?」
「今、ソフィアの奴が俺の頭に直接声をかけてきて……えっと、それで。エイリス姫を預かってるから一人で引き取りに来いって、さ。一人で来ないと、エイリス姫の命はない、って」
俺の説明に、皆はざわつく。
「だ、だ、だいじょうぶなんスか……?」
「……アレンさん一人で? 罠ですよ、絶対」
ヘクトがそう言いながら、俺の服の裾を握る。
「いや、罠だってのはわかってるが……でも、俺が来ないと、姫さんが……」
「ったく、面倒だなぁ」
副長がそう言いながら、頭を掻きまわす。
「……そう言う事なら、俺達は何もできないけれど……でも……」
モーゼス兄ちゃんも不安げに困り顔をしている。
他の皆も、その話を聞いて心配そうだったり、不安げだったり。あまり良くない空気だ。でも、俺一人じゃなきゃ、あいつは確実にあのお姫様の命を奪うだろう。あいつに慈悲の心はない。……いや、人間の心も無いかもしれない。
ヘクトの言う通り、罠だろう。それは理解してる。だけど一人で行かなかったら、お姫様の命は……クソッ、こういう時どうしたらいいんだよ……っ!
「アレン」
そんな空気を破るかのように、俺の名を呼び、エルが近づいてくる。
「我はお前の半身のようなものだ。お前が呼べば……いや。お前の危機を察知すれば、我は、お前の傍に行こう」
「……エル、珍しいな。そんな事を言うなんて」
俺がエルを見下ろしてそう言うと、エルもこちらの瞳を見つめ返してくる。
「我も、なぜそのような事を考えているのかは理解できぬ。……だが、我自身が、お前の力になりたいとそう思ったのだ。だから、安心しろ。一人ではないぞ、お前は」
エルの口からそんな言葉が聞けるなんてな……。
「エルの言う通りね。俺達はアレンを信じてるわよ」
「ま、モーゼスと同意見だ。アレン、俺達は姫さんを救う事が目的だ。姫さんの生死を確認次第、帰還する。だから、必ず連れて帰ってこい。それまで待っているぞ」
「そうッスよ。アレン君、応援しかできないッスけど、アレン君は絶対負けないッス!」
「当然です。アレンさんが帰ってくるまで、僕は待ちますよ。夕飯までには帰ってきてください」
エルがそう言った後は、モーゼス兄ちゃんも、副長もスカイ兄ちゃんもヘクトも。頷いたり、口々に同意してくれた。……まあ、当たり前だけど、姫さんは除いて。
「ごめん、ありがとう」
俺はどういう顔をすればいいのかわからないけど、そう言うので精いっぱいだった。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.141 )
- 日時: 2022/12/21 23:15
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
皆が森で待機すると言ってくれたので、俺は一人……ソフィアの待つ、指定の場所へと向かって行った。正直、俺一人ならなんとかなる。だろうか? あいつは約束を守るとは言ってた。でも、あいつが約束を守るような奴かは怪しい……。
いや、俺の中には頼れる仲間がたくさんいる。一人じゃない。俺は胸を握りこぶしでとんとんと叩いた。
<恥ずかしい事を言いやがる>
ぶっきらぼうな態度で、面倒くさそうな声が脳内に響いた。クラテルだ。……なんか久しぶりな感じがする。
「なんだよ、悪いか?」
<悪くはない。ただ、青臭いなと思った>
「いいじゃないか。別に」
<……アレン>
ん? なんだかこいつもいつになく声が沈んでる。どうしたんだ?
「どうしたんだよ、クラテル。なんか元気ねえな」
<いや、その……>
いつも強気で、口を開けば喧嘩腰のクラテルが、今回はしおらしい。本当にどうしたんだ? 最近は全く出てこないから、あの部屋にいるかと思ってたけど。
クラテルはしばしの沈黙の後、やっと声を出した。
<俺って、必要か?>
……は?
俺は思わずそんな声が出た。まさかクラテルの口からそんな言葉が出てくるなんて。
「いや、突然どうしたんだ――」
<答えてくれ。お前にとってはどうでもいい事だろうが、俺にとっては、重要な事なんだ>
「……」
俺は黙り込んだまま、前に進み続ける。指定された場所までまだ全然遠い。それは、少しの間ならクラテルと話してても問題はない。と言う事だ。
そう思って、俺は口を開く。
「お前は必要だよ。そりゃあ、最初は憎かった。それに怖くて、嫌いだった。……でもさ、お前の事を知れば知るほど、好きになったよ。なんだかんだ、お前は俺に力を貸してくれて、俺の代わりに嫌な事を引き受けてくれようともしてくれた。そんな奴を必要ないとか必要とか。そんなん思わない。いてくれて嬉しいし、感謝もしてる……それじゃ、だめか?」
俺は思った事をそのままクラテルに言ってやった。
こいつは俺を食って乗っ取ろうとしていた敵。……でも、こいつも、居場所を求めていただけで。居場所を誰かから奪う事しか知らなかっただけだ。って、俺が解釈してる。クラテルからはもう、前みたいに悪意や敵意は感じない。だから、今はこいつを信じることができる。
俺の言葉に、クラテルは戸惑った。
<……俺、そうやって他人からそういう言葉を聞いたのは初めてだ。どう言えばいいんだろうか。どうしたらいいんだろう?>
えらく戸惑った声で、そう言う。
<俺は、お前の傍にいてもいいのか?>
「当たり前だろ」
俺が即答すると、クラテルはまた押し黙ってしまった。
しばらく沈黙が流れ、その静寂は、クラテルの笑い声で掻き消えた。
<ハハハハッ! なんだ、悩む必要なかったんだなぁ、俺>
クラテルが続ける。
<俺、さ。どんどん仲間が集まってくるお前を見て、すごく寂しかったって言うか、俺の事を忘れられるのが怖かったんだ。正直言ってさ。だから、俺がお前の傍にいても大丈夫なのかって、すごく不安だった。……だけど、そんな風に羨ましがって、遠くから見てるのって、すごく、ダセエよな。ああ、よかった。お前にまた拒絶されるんじゃないかって、ずっと不安だったんだ>
「……なんか、お前って。俺にそっくりだな。そういう、抱え込むところとかさ」
そう言うと、クラテルは照れながらも、声を弾ませていた。俺も、嬉しい時はこういう声を出す。やっぱ似てる。
<ああ、前まではうざいだけだと思ってたけど、今はそうじゃない。お前の傍にいられて、良かったって思える>
クラテルがそう言った後、何かに気が付いたみたいで、俺に声をかけてきた。
<おい、ソフィアの奴が言っていた場所って、あれじゃないか? 今にも崩れそうな、古クセエ城だな>
「……廃城、か。最後は崩れそうだな」
<縁起でもねえ事言うんじゃねえよ>
クラテルに鋭く突っ込まれながら、俺はその古城へと足を運んだ。崩れそうな城。何の植物かはわからないけど、様々な種類の蔦が、城壁に絡みついて、まるで植物の城みたいになってる。……中には問題なく入れそうだが。
中は、絡まっている蔦が日光を遮って、とてもじゃないが、人が暮らせる場所じゃ、到底なかった。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.142 )
- 日時: 2022/12/22 22:52
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
ここが、件の城か。なんつーか、主を失って何十年も経ってるような。そんな古城だ。中は一応足場はある。まあ、足場も蔦やら木の根やらが絡まり合ってるし、水もしみだしてるのか、床が抜けて水たまり……いや、水たまりってレベルじゃない。その水たまりは井戸かってくらい、深い。とにかく、それができている。目の前に湖があったし、そこに半分くらい沈み込んでるんじゃないかな。
<おい、アレン。気を付けろ。お前は泳げないんだから、落ちたら溺れるぞ>
クラテルが注意を促す。クラテルの言う通り、俺は泳いだことはない。修道院の近くにそういった深い川なんかはなかったし、傭兵団に入った後も、水の中には縁がない。
そういや、獣人の中には、水の中で暮らす種類もいるらしい。俺はまだ見た事ないけどさ。でも、水の中で暮らすってどんな感じなんだろうか。
俺が考え事をしていると、クラテルは痺れを切らしていたようで。
<早く行こうぜ、奥の方に誰かがいる。色が見える>
「……ソフィアだろ?」
<いや……わからん。複数いるみたいだ。色はそれぞれ違うようだが>
「便利なんだか、不便なんだか。よくわかんねーな」
俺はそう悪態をつくと、クラテルはしゅんとしたように、<確かに、そうだな>と沈んだ声でつぶやく。……あれ、こんな繊細な奴だったか?
クラテルの言う場所まで俺は歩く。途中、城に住み着く魔物をとりあえず、護身用のナイフを使って蹴散らしていきながら。師匠にもらったこのナイフ。毎日手入れは欠かさず、エルが近くにいない時や、敵の足止め程度には役に立つんだ。
<刃渡りはそこまで長くないから、人の動きは止められても、オーラを貫通できないから致命傷にはなりえない。貧弱な武器だな>
「それには同意。あくまで護身用だって」
俺がそう言うと、丸っこいオタマジャクシみたいな魔物が、ぽよんぽよんと音を鳴らしながら、俺に突撃してくる。俺は、ナイフを握り、素早く魔物を斬った。その勢いに任せ、後ろにいた仲間も切り裂いていき、確実に全滅させる。背後を見ると、真っ二つに斬れた魔物の死骸が転がっていた。
俺はそれを見ると、その魔物達を抱き上げて、柔らかい土が露出しているところまで歩く。俺がこれから、何をするのかわかっているクラテルは、ため息をついた。
<いっつも思うが、魔物相手にも人間と同じように埋めて弔うの、正直言って無駄じゃないか?>
俺が魔物を埋葬する度に誰彼構わず、そう言われるけど……
「俺がそうしたいんだよ。魔物だって、元々動物で、命だ。命に差なんかない、色も無い。平等なんだよ。だから、こうして弔うんだ」
<……俺も、そう思ってくれてるのか?>
「当たり前だ。もちろん、エルやエイトも。俺の仲間だよ」
俺がそう答えながら、土を掘り、魔物達を埋めていく。
この世界では強い奴が勝つ。弱い奴は強い奴に媚びて生き残るか、気まぐれで殺されるか……何にせよ、強い奴は全てを自由にできる。弱い奴は従うしかない。おかしいとは思わないさ。それが今の世の理なんだからさ。
だけど、誰だって皆何かを守る為に戦う。それに強いも弱いもない。ヒトも魔物も動物だって、何かを守る為に戦ってる。守る為に戦った人達、魔物達をこうして弔うのも、勝者の役割だと、俺は思ってる。
俺がそんなことを言いながら、簡素な魔物達の墓に向かって、シスターの十字架を握りながら手を組んで、跪いて神に祈る。そして、シスターに教えてもらった祈りの言葉を、神に捧げた。
<神は信じてねえんじゃねえのか?>
クラテルがそう尋ねてくる。
「信じてない……ていうより、嫌いだよ。神は毎日祈りを捧げてたシスターを殺したからな」
<じゃあ、なんで、祈りを神に捧げてる? 矛盾してるぜ>
クラテルの言う通り、確かに俺のやってることは、矛盾してる。でも……
「俺は別に天罰を下してくれてもいい、それだけの事をやったってのは、自覚してるさ。……俺はどうなってもいいよ、でも。誰かを守る為に戦った勇敢な魂を、神の御許に見送るのは、別に許してくれたっていいだろ」
俺は恥ずかしくなって、頭を掻きまわした。
なんつーか、改めてこんな事聞かれたこともねえから。
「もういいだろ、進もうぜ」
俺はそう言って、恥ずかしさを誤魔化す為に、駆け出した。つーか、急いで奴のところに向かわねえと!
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