ダーク・ファンタジー小説
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- 叛逆の燈火
- 日時: 2023/03/06 20:05
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。
ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。
アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。
ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。
「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」
果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?
余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞
2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止
目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」
- Re: 叛逆の燈火 ( No.93 )
- 日時: 2022/11/04 22:40
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
チッ――
こんな弱い奴の子守りをしなきゃなんねえんだ。あの時、俺は変な女と黒い鎧の野郎共の拘束術を受けて、倒された。……魔物は人間に狩られる運命。それだけならまだしも、奴らは俺の身体を二つに分けて、存在全てを使って双剣を作り、赤子の身体に組み込みやがった。
今思い出すだけでも奴らをぶっ殺したくてしょうがねえ。俺は俺を玩具みてえにしやがった人間共を絶対許さねえ、全員皆殺しにしてやる。……と、思ってたんだが。だけど、ラケルが死んでからかな。俺もなんだか心変わりしたかもしれない。アレンの失った物に対して、悲しいと感じるし。アレンが触れてきた物に対して、愛おしいと感じ始めた。……だからか。アレンに拒絶されたことがとても悲しくて仕方なかった。こんな弱い奴に拒絶されたところで、何も感じなかったはずなのに。
……ああ、もう、アレンの野郎がいつまでも弱いから、俺が守ってやんねえといけねえじゃねえか! あんな奴、どうだっていいはずなのに! だが、今ここで死ぬのはもっと嫌だ。だから、特別だ。特別に手を貸すだけ。利害の一致。ラケルの野郎の思い通り動くのは癪だが、仕方ねえ。
目を開ける。ザリガニ野郎が俺を何度も蹴っている最中だった。俺は手を伸ばし、奴の足首を握りしめた。
「――あ?」
「調子に乗んなよ、ザリガニ野郎」
俺が睨んでやると、奴は一層口角を吊り上げて笑う。俺に会いたいとか言ってたなこいつ。きめえ。お望み通り、俺が遊んでやるよ。クソッタレが。俺は掴んだ足首を強く握りしめ、奴を振り回し、地面に叩きつけた。つっても階段の角に叩きつけてやったから、多少のダメージは――ねえな。期待してたんだが。
「ヒャハッ! お前がグラディウスかよ!」
「俺は……アレンだ。二度と間違えんな」
俺はアレンを名乗る。「クラテル」って名前は、あいつらとの間での名前にしておこう。俺はもう「グラディウス」なんて名前じゃない。
そういや、ヤマタノオロチを食ったおかげで、8つの力が使えるようになったんだった。アレンは振り回されてたみたいだが、しゃーねえ。俺がお手本を見せてやるか。
俺は倒れている奴に向かって、剣を振り下ろす。素早く下ろしたはずなのに、奴はゴキブリ並の瞬発力で剣を避けた。無言で俺は追撃する。火炎を纏わせた剣を振り、奴に向かって火炎の斬撃を飛ばしてやる。炎の刃が奴を襲うが、奴はアレンに斬られた胸の傷口から、血の結晶を射出させて斬撃を消し貫く。
ああ、こいつの力。血を結晶化、射出、操作ができるみたいだ。しかも、自分の血だけじゃない。多分他人の血液も。力の名前は「ブラッドスパイク」。……血トゲ野郎って呼ぶか。
「ハハハッ、なんだよそりゃあ。面白えじゃん!」
「お前は気色悪いな。さっさと斬られて死ね」
俺は顔をしかめながらそう吐き捨てると、血トゲ野郎はさらに笑う。狂ってるみてえに笑うなこいつ。
「もっと見せろよ、例えば、魔王陛下をやった時のヤツとかさァ!」
奴が笑っている顔がムカついたから、俺は奴を黙らせる為に掌で奴の顔をつかむと、そのまま地面に叩きつけた。流石にこれなら痛がって悶え苦しむはず――これもダメだ。奴はヒャハハと笑い続けて、後頭部からの流血を利用して、俺の身体に血の槍を打ち込んでくる。咄嗟に交わしたが、右肩と右の横っ腹を貫いたようだ。……左肩だったら腕が使い物にならなくなってたな。
「俺を斬ったって、出血する限り無駄だぜ。俺は血を武器にできる」
「そうみたいだな。だがお前が人間である限り、それも有限だ」
「無駄だって。俺は痛覚がぶっこ抜かれてんだからさあ!」
血トゲ野郎がそう言い終わる前に、俺に向かって指を鳴らす。ジャキンという鋭い音と共に、右肩と横っ腹から血の槍が射出し、貫いた。結構いてえな。こりゃアレンも激痛で立てなくなるか。……ま、こんなのは俺の力でなんとでもなる。俺は血の槍を引っこ抜くと、引っこ抜いたところから多量の血が噴き出した。
「返すぜ」
俺はそう奴に向かって血の槍を投げつけた。奴の頭を狙ったが、奴は怯むこともなく、それを頭を逸らして軽々と避ける。その隙を逃さず、俺は剣を構えて奴に向かって突撃した。まあ、隙なんてなかったわけだけど。血トゲ野郎は涼しい顔で両手の剣で剣の軌道を逸らす。俺はすかさず、自分の足元に意識を集中させ、影から数匹の影蛇を伸ばした。蛇たちが顎を開いて奴の四肢に噛みつく。
噛みつかれても尚、奴は笑みを崩さない。……こいつのムカつくニタニタ顔を、どうやったら歪められんのか。そう考えるくらいには腹が立つ。痛覚がないからこいつは怯むことも動じる事も、怯える事もない。痛覚が無いのは便利だ、死に恐怖する事もない。
「無駄だって。俺は魔女のせいで痛覚がねえ。だから、こんなのどうって事ねえんだよ」
「じゃあ、血を全部抜き取ればお前は確実に死ぬな」
俺がそう言うと、噛みついていた蛇達を勢いよくひっこめた。蛇達が奴の腕を食いちぎる勢いで引っ込んでいき、食いちぎられた奴の腕からは大量の出血。……やっぱり奴の笑みは崩れない。
「できるもんならな!」
血トゲ野郎がそう言い放つと、右腕を振り上げた。血が水滴のように舞い散り、トゲだらけの結晶の柱が立ち上る。俺は避けたはずだったが、足元まで血液が広がっていたのか、足が結晶に飲み込まれて動きが封じられる。その間にも、血がどんどん結晶化していき、俺の周囲を固めて俺の身体を拘束した。まるで血の格子に捕らわれたようだ。抜け出そうとしていると、正面から奴が双剣を構えて迫ってきた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.94 )
- 日時: 2022/11/04 23:33
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
俺は奴の双剣を右腕で受け止めた。右腕は双剣に貫かれ、血液がブシュリと噴き出す。普通の人間なら、これだけで何らかのショックで気を失うか、最悪死んでしまいかねない。だが、それは生身の人間だったらの話だ。俺の腕は、この程度の刺し傷でどうにかなるような代物じゃない。
足元の影に意識を集中させる。影から「アジ・ダハーカ」を射出させ、血トゲ野郎の心臓に向けて剣を突き刺した。流石の奴も驚いて目を見開いていた。奴の胸に剣が刺さると、そのまま地面に縫い付けた。
アジ・ダハーカも俺の一部だ。影に解け込ませて自由に操る事だってできる。アレン、せいぜい俺の戦い方を参考に、死なない事だ。俺に身体を奪われたくないなら、猶更な。
<……お前の戦い方、センスがあるのは認める>
アレンの声が頭に響く。ちゃんと見てたんだな。
さて、目の前に縫い付けられている血トゲ野郎は、先ほどの驚愕の表情から一変、ニタニタ顔で笑っていた。心臓を狙ったつもりだったが、こいつ、急所を逸らしたようだな。ただの狂犬かと思ってたが、認識を改めた方がいい。
「オイオイ、これで勝ったつもりかよ」
「いや、まだ首を潰してない」
俺は右腕を変形させる。双剣が突き刺さったままだったので、とりあえず抜いた。抜いた瞬間、血液が噴水のように飛び出るが、大した傷じゃない。首を潰すって言ってるのに、こいつはやはりニタニタ笑ってる。……こいつ、死を恐れていないみたいだ。
「お前、俺ばっかに構ってて大丈夫か?」
奴はニタニタ笑いながらそう言うと、後ろの方を指さす。つられて振り返ると、山の麓の方が見えた。……交戦中なのか、ざわざわと声が。怒号や悲鳴、様々な負の感情が伝わってくる。
<おい、皆が――>
アレンの声が聞こえるが、今はこいつを野放しには――そう思っていると、背後から鋭利なモノが俺の身体を貫いた。両肩、両足を縫い付けるそれは、血の槍。
「敵に背後を見せるなんざ、殺してくださいと言ってるようなもんだぞォ?」
……ああ、こいつクソウゼエ。こいつから殺してやらねえと。
「ああ、そうだな。まずお前からなぶり殺しにしてやる」
俺はそう言い、右腕で槍をへし折って奴を影から伸びた蛇で奴を拘束しようとする。だけど、ニタニタ笑いながら奴は、地面の血だまりから風車のような刃を射出し、回転しながら俺の右肩を切り裂いた。幸い、斬り落とされる程深い傷ではなかったが、右腕から感覚がなくなり、右腕が元に戻る。こいつ、縫い付けられてもまだ動けるのか。思わず俺は膝をつく。
「ヒャハッ、俺の隠し玉の味はどーよ!?」
「……」
俺は無言でその場に崩れ落ちた。……くそっ、身体が動かない。指先から冷えてくる感覚がする。失血がひどいのかもな。アレンにお手本を見せるとか言って、このザマか。こいつの底が見えない。……どうすりゃこいつは――。
俺は意識を保とうと、必死に目を閉じないようにしていると、奴の笑い声が弱弱しくなってきていた。……奴も限界に近いみたいだな。相打ちか……こいつもだいぶ失血したんだ。
そう思っていると、びゅわぁという音と共に、風魔法の気配を感じた。俺は顔を上げ、気配のする方を見る。青い髪の女。青い帽子と両腕が黒くて、左目が竜のように鋭い。ピンクのマントを羽織り、デカい帽子を被ってる。……誰だこいつ?
「……ご苦労様、目的は達成されたわ、狂犬」
腕を組みながら女は俺達を見下ろし、血トゲ野郎に向かって言い放つ。
「あ……ああ……。魔女か……」
弱弱しく呟く血トゲ野郎は、意識が朦朧しているようだ。
「……「アジ・ダハーカ」、持ち帰りたいのは山々だけど、グラディウス。あなたに返すわ」
魔女がそう言うと、アジ・ダハーカに近づいて奴の胸から抜き去ると、俺の目の前に投げ捨てた。そして、奴らの足元が光輝いて、魔女は腕を組みながら俺を見下ろす。
「それじゃあ、これで死んだと思うけど。生きていたらまた会いましょう、アレン・ミーティア。それとグラディウス」
そう言い残し、奴らは光に包まれて空高く飛び去ってしまった。転移魔法か。……奴は万能魔法の使い手だって聞いたな。目的は達成された……ってどういう事だろうか。ま、いいか。
<クラテル>
アレンの声が聞こえる。
<このままじゃ死んじまうぞ。情けないな>
「うるせえな……」
俺はまともに反論もできなくなっていた。
<……ごめん>
アレンの突然の謝罪。
「なん……」
<ごめん……>
2度目の謝罪。よくわかんねえけど、こいつ。また泣いてるのか。しょうがねえ野郎だ。お前はエレノアとルゥの兄ちゃんだろうが。泣いてばっかで情けないのはお前の方だな。そう笑いたいと思いつつ、身体は冷えていく。……そろそろ終わりか。ラケルとアシュレイに協力してもらったってのに、情けねえ話だ……。
俺は最後になんて思ったんだろうな。わからない。……静かに眠るように。瞼を閉じた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.95 )
- 日時: 2022/11/07 23:53
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
俺、死んだのか。
……周りは濁っている水の中みたいに白い。その空間を頭から落ちているような。死んだら何もないとは思ってたけど、本当に何もないんだな。俺はそう考えながらぼうっと虚空を眺めている。沈んでいるのか、浮かんでいるのかわからないけど、その空間を漂っているみたいだ。音も感覚も無い。
俺は瞼を閉じると、突然何かが額に覆いかぶさる。誰かの手だ。それを掴むと、多分大人の女性の手だろう。結構細いし年齢を重ねているのか、意外としわがある。でも、とても小さい。
「お、おい」
聞き覚えのない声。突然腕を掴まれたもんだから、きっと驚いているんだろう。そう思いながら瞼を開けると、あの白い空間はない。代わりに知らない人の顔がそこにある。隣にはエルが俺の顔を覗き込んでいた。エルはお決まりのあの台詞を口にした。
「……五度目か」
「ああ、数えなくて――いっ!」
俺は起き上がろうにも、体中に走る痛みでままならず、指を動かすにも激痛が走った。俺……いや、クラテルは確か、ブラッドスパイクにやられて。で、魔女があいつを連れ帰って。確か最後に、「目的は達成された」って――。
「エル、皆は?」
俺は麓にいたはずの皆の安否を尋ねる。確か、あいつが襲ってきたと同時に、麓で戦闘の音とか声が聞こえたんだ。でも俺達は見知らぬ場所にいる。どういうことかわかんねえけど、俺がここにいるってなら多分、皆は無事かもしれない。
「麓は帝国軍の襲撃を受け、傭兵団の数名は死んだらしい。……なんだったか。赤いバンダナで口を隠した男がいたそうだが、その男がアルテアに深手を負わせたようだ。ついでに、人質として、チサトが連れ去られた」
「は――ってえ!」
大声を出そうとすると身体に痛みが走って、叫ぶ事もできない。……つうか、姫さんさらわれたって……絵本に魔王が姫をさらうって話があったが、まるでそれだ。それが魔王の命令なのか、それとも別の誰かの目論みか。
いや、それも大事だけど、団長が深手を負ったって……マジかよ。団長程の人が――いや、団長の事だ。きっと姫さんを人質に取られている間に、深手を負わされたんだ。7年前にも同じことがあった。それに、数名が死んだ、って! クソッ、早く動かないと。俺は痛みに耐えながら起き上がろうとするも、上半身を起こすだけでも、身体に軋むような激痛が走った。
すると、頭にごつんと衝撃が走る。その衝撃のせいで俺は再びベッドの枕の上に倒れてしまった。
「これ、儂の事を無視するでないわ」
あれ、こんな人いたっけ。なんて思いながら、声を出した人物の顔を見る。ああ、さっき見てた白い三角帽子を被った知らない白い人。一瞬、魔王かと思ったけど、目の色が違う。銀色? ……いや、灰色だ。エルより小さくて幼い女の子か? だけど、肌は幼い少女にしてはしわがある。耳は尖ってるから竜人かと思ったけど、多分妖精族かな。モーゼス兄ちゃんもそうだけど、妖精族は見た目は若いまま年を重ねるんだとか。だけど、人間である以上はどうしても年齢に勝てないらしく、毎日朝晩に肌のケアをしないとしわや染みが気になって~みたいな愚痴を聞かされたことがあったな。この人の場合、白髪が気になるなぁ。白く長い髪がまるでおばあちゃんみた――
「うぉい、年寄扱いするでない!」
「我は世間一般では90歳は所謂老婆であると認識する」
エルはいつもの調子で指摘すると、目の前の女の子は「ぐぬぬ」と声を出す。エル、なんでお前はこの人の年齢を知って……って、あれ、三角帽……こいつ、魔女の手下か!?
「お前、魔女の手下か――あだだだだっ!」
「だーれーがー魔女の手下じゃい!」
「ちょ、待って待って、マジいてえんだって!」
俺の耳を引っ張ってくる女の子。いや、冗談抜きで痛い! マジもんの魔女じゃねえか!!
「ぷん。かわゆい儂があの残虐非道の魔女ゴーテルの手下なわけないじゃろ。しかも、魔女の手下じゃったら、お主なぞ木っ端みじんの粉微塵の粉吹き芋になっとるじゃろい」
まあ、冷静に考えりゃそうだが……。じゃあ――
「ばあちゃんはいった――いギャアッ!」
「お・ね・え・ちゃ・ん、な。リピートアフタープリーズ!」
「おねえ、いや、まず名前を名乗れよ!」
俺がそう叫ぶと、心底面倒くさそうに肩をすくめる。……既視感かなぁ。ラケルも同じような感じなんだよなぁ。あいつも小うるさいし、よくしゃべるし、やたらとテンションたけーし。
「儂の名はシビル。「シビル=アストロロギア」。「偉大なる占星術師シビル」とは儂の事じゃ」
シビルはそう言い放って、腰に手を当て、「どうだ」と言わんばかりのどや顔で俺を見下ろしていた。……けど、俺達は真顔のまま薄い反応を示してしまう。
「……ふーん、シビル・あすとろろろ……? 長いな」
「我は知らぬ、どこでどう偉大なのだ?」
「世間知らずの小僧らが。新聞にも載ったことあるっちゅーに」
新聞にも、って。俺、新聞なんか7年前のあれ以来呼んだ事ねえや、そういや。というか、最近は世間の事もゆっくり調べてなかったな。……うん、知らない人だ。
「で、その偉大なるナントカって人が、俺達を助けてくれたの?」
「そうじゃ。たまたーま。ほんっと~~~にたまたま! 通りがかったら、麓じゃ血みどろフィーバーになっとったし、上の方じゃお主が血みどろフィーバーになっとったし。仕方な~~~~~くわしが手を貸した訳じゃよ」
……こいつ、多分俺達を尾行してたな。そうでなきゃ、あの辺境に現れるはずもない。しかも、俺達がヤマタノオロチと戦っていた時は、静観していたんだろうな。しかも、姫さんをみすみす連れ去られるのも、指をくわえてみてたって事だ。
「なあ、お前、姫さんがさらわれるのをぼーっと見てたのかよ」
「ああ、そうなってしまうな」
軽くそう言うと、近くにあった椅子にどかりと座り始めるシビル。
「団長が傷つくのも、団員が何人か死ぬのも、黙って見てたのかよ」
「そうじゃなぁ、そうにもなるのかの~」
悪びれた様子もなく、罪悪の色もない。なんだか無性に腹が立ってきた。俺は舌打ちをした後、シビルに吐き捨てるように言った。
「お前、信用できないな」
「そりゃあな。初対面の人間は信用せん方がええぞ。儂も信用せえへんもん」
俺の悪態を軽々と躱すシビル。……こいつ、一体何なんだ。その疑問は早くも解消する。
<こいつ、奴の――昔、俺を封印した「メラムプース」が拾ったって言う、奴の養子か>
クラテルの声が突然頭に響く。……エルが目の前にいるのに、こいつも喋れるんだ。と思いつつ、俺はため息をついた。
「あんた、通りすがりとかじゃないだろ。はぐらかさないで、真実だけ言えよ」
俺はそう静かに、シビルの奴に言ってやると、欠伸をしながら椅子をガタガタと揺らしていた。呆けた表情でそっぽまで向きやがる。
「さーて。なんのことかの」
「俺さ、お前みたいな胡散臭い奴は信用しない主義なんだよ。隠し事も嫌いだ」
「そうか。ならば、儂をどうしたいんじゃ?」
挑発するように奴は言い放つ。俺の顔を見ず、前髪をくるくると回し始めた。……なんだか無性に腹が立ってくる。
「どうもしねえよ。だけど、あんたが通りすがりじゃなくて、俺達が被害を被るのを、意図的に見ていたってのが許せない。今こうしてお前がここにいて、同じ空気を吸ってるのも嫌で嫌で仕方ない。反吐が出る」
痛みに耐えながら、部屋の扉を腕を持ち上げ、指をさす。……俯いて、表情を見せないようにした。すると、シビルは「ふん」と鼻を鳴らしているようだ。ため息交じりに呆れるような声で、俺に向かって口を開いたと思う。
「感謝はされても、拒絶される謂れはないんじゃが?」
「はぐらかして真実を言わない、あんたの顔を見てると腹が立って仕方ない。早くでてけよ」
「随分嫌われたもんじゃ。儂、なんかやっちゃいましたのかのう?」
「早く出てけつってんだろっ!」
俺の怒声が部屋に響き渡ると、奴は「ふむ」と一言、立ち上がって部屋から出て行った。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.96 )
- 日時: 2022/11/07 19:12
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
俺はふうっとため息を吐いて、ボスっと音と共に枕に倒れ込んだ。天井を見上げる。……見た事のない天井。ここは一体どこなんだろう。あいつに聞けばよかったけど、あいつとは顔を合わせたくない。平気で人が死ぬところや、斬られるところをぼーっと見てるような奴、信用できるはずがない。あいつも言ってた。「初対面を信用しない方がいい」ってさ。そりゃそうだ。あんな胡散臭いが服を着たような女なんか――。
俺の様子にエルは首を傾げる。
「……信用に値しないか?」
俺はエルの顔を見ないでそっぽを向いた。
「できねえよ。あんな奴」
「そうか、我もあの女の意図は読めない。迂闊に信用せぬ方が、賢明であろうな」
「お前もそう思うのか?」
「……我には何とも言えぬ。しかし、お前が信用しないと決めたのなら、異論はない」
そう言った後、エルは俺に近づいて、俺の腕に触れてきた。
「かなり深い傷とひどい失血だった。……生きているのが不思議なくらいだ」
「クラテルが、俺の代わりに全部受け止めてくれたからな」
「……名前を付けたのか」
「ラケルがな。俺一人だったら、多分、クラテルを拒否して死んでたと思う」
エルは頷くと、俺の腕を徐に撫でた。
「和解したのなら、我からは特段言うべき事は皆無だ。これでお前は憎悪に苦しむことは無くなるだろう」
「どうして、そう言い切れる?」
「右目と右腕から、憎悪を感じない。それどころか、お前の魂の波長に同調しているのか? とにかく、うまく混ざり合っている」
よくわかんねえけど、エルがそう言うなら、そうなんだろう。なんとか、クラテルと手を組む事で、クラテルからも憎悪が消えたんだろうか。……こいつの事はまだ嫌いだけど、互いが生き残る為だったら、協力してやらなくもない。
「お前は不思議な奴だな」
「……な、なんだよ、急に」
突然、エルがつぶやいたもんだから、俺は驚いて目を見開き、エルを見つめる。
「自分を食らおうとする存在とまで和解するとは、なかなかできぬ事だ」
「……俺だけの力じゃないよ。ラケルと母さんのおかげでもあるし……」
俺は最後らへんは小声になり、エルが首を傾げて、俺に顔を近づける。
「ラケルと、もう一人いるのか?」
「いるよ。お前の中にも」
「我に?」
「ああ。「アシュレイ」って人」
エルが胸に手を当てて瞳を閉じる。何か考えているのか、それとも何かを感じ取っているのか。よくわからんが、しばし静かになっていた。そして、突然目を開いて俺の方を見る。
「我にも理解はできぬが、我はその「アシュレイ」という者のおかげで存在が成り立っているようだ」
なんだか嬉しそうに声が上擦っていた。
「俺の母さんなんだ、その人。その人がいなかったら、きっと俺達は出会わず、俺は7年前に死んでただろうな」
俺の言葉に、エルは首を振る。
「お前だけではない、あのソフィアも同時に死んでいた。……きっと、全てが始まらず、このような悲劇が起きる事も無かった。もちろん、誰もが平穏に生きていた事だろう」
そういえば、そうか。母さんが生きていたら、きっと俺はあいつと仲良く暮らしてて。きっと二人で国を支えようと努力したはずだ。ま、そんなのは幻想にすぎない。現在、その二人は憎しみあってるんだから。
「エル、もうやめようこんな話。幻想を語り合ったって、時間を戻さない限りは、犠牲者を無かった事にできない」
「……それもそうだな」
エルはそう言うと、あの女が座っていた椅子にちょこんと座る。
「お前は休め。どちらにせよ、動けぬがな」
「俺的には今すぐ姫さんを助けに行きたいんだけど」
「ダメだ。動けぬお前がいても足手まといだ」
ぴしゃりと俺に言い放つ。……そこまではっきり言われると、なんかショックだな。でも、エルの言う通りだ。今の俺じゃ何もできない。俺はシーツの中に潜り込むと、見かねたエルが首を傾げた。
「絵本でも読み聞かせるか?」
「い、いいよ」
エルはどこから持ってきたのか、絵本を取り出して開き始める。器用に片腕で。俺が断ると、「うーん」と唸り、再び俺に尋ねてきた。
「退屈ではないか?」
「……じゃあ、絵本。「騎士と水の精霊の話」。それでいいや、それ読んでくれ」
俺はそれだけ言って顔を出すと、エルは心なしか嬉しそうに絵本を手に取って開き始めた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.97 )
- 日時: 2022/11/07 21:18
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
「どういうつもり?」
私は彼女を睨みつけながら腕を組む。
私の傷は1週間ほどですっかり良くなった。……きっとネクのおかげでもあるんだろうけど、傷の治りが早いのは何よりではある。いや、それはそれとして。
私達は会議室にいる。目の前にいる女、アストリアはまた私の意に反する事をしでかした。会議室に呼ばれたので、仕方なく彼女の口から報告を受けていた。だけど、私は「傭兵団を殺せ」と言ったはずなのに、数人死に追いやり、アルテアとアレンを瀕死に追い込んだとはいえ、まだ奴らは再起することができる。しかも、別に命じてもいないのに、あの甘ちゃんの姫を持ち帰ってきたとまで言ってくる始末。私はそれを報告に来たアストリアを思いっきり睨んでやった。
「私の意に反するなんて。死にたいのでしたら先に言えばいいのです」
私は奴の首元にネクを突きつける。ああ、早くこうすればよかった。こいつを生かしておいても、百害あって一利ない。腐った果物は、周りをも腐敗させ、どんどんダメになる。私の判断は正しかったんだ。
だけど、やはりというか。アストリアは首が刎ねられそうだというのに全く動じていない。それどころか、私を小馬鹿にするように、にやりと口角を上げて笑っている。
「おや、私は常に陛下の御為に行動しています。陛下の障害を確実に排除する為に、必要な事なのです」
「詭弁を。あの女に利用価値はない。捨て置いても勝手に自滅しますよ」
地べたを這いつくばって、何もできなかった「お姫様」に、一体どのような価値があるのか。つまらない理由なら、即座に首を刎ねてあげる。私はそう考えながら、首筋を刃で撫でた。一筋の赤い線ができたというのに、やはり顔色一つ変えない。……こいつ、本当に気持ち悪い。
「陛下、無意味な駒など存在しませぬよ」
私はぴたりと手を止める。
面白い事を言うのね、こいつ。「無意味な駒は無い」……昔宰相一派の誰かが同じような事を言っていた。そいつはもう死んだけど、その言葉だけはよく覚えてる。
「あのお姫様が価値のある駒だと?」
「はい。私がゴーテルとダスピルクエットの協力を経て、「傀儡術」なるものを開発致しました。これは、他者の心を奪い、文字通り傀儡にして意のままに操る事ができる」
ふぅん、意のままに操る、ね。まさに傀儡のように使えるってわけか。こいつにしては機転が利くモノを作るわね。
「これを使い、姫君にアレン・ミーティアを始末させるのです」
予想通りの言葉。傀儡術を使い、エレノアとルゥも動かせば、あの悪魔といえど攻撃する暇もなく、無抵抗に崩れ去る。あいつが大事な大事な弟妹と、一度は救おうとした姫君に牙を向けられ、お優しい勇者のお兄ちゃんは、剣と牙をへし折られて首を垂れる。最高のシナリオね。あいつが地面に額を擦り付けて、無残に殺される。まさに私が望んでいる事だわ。
――だけど。
「勝手な真似を。私はそんなモノを作れと命じた覚えはありません」
こいつの思い通りに動くのは癪だわ。
それにバーバラから報告を受けた。奴の中にいる神竜をアレンは飼いならして、ブラッドスパイクと相打ちとなった。ということを。このまま素直にこいつの言う事を聞いて、さらにアレンに力を付けさせるのはかなりまずい。
そう考えると、この蛇女は、きっと私をも喰らおうとしてる。私達を相打ちにさせようとしているのかもしれない。だって、こいつは元宰相の中の一人だったのだから。こいつの思い通りに動くのは、私の目的に反する。
「次の指示があるまで、動くことは許しません」
私はそう言うと、出ていくよう顎でしゃくる。ここで殺してもいいが、殺意よりもこいつが汚らわしく気持ち悪いと、私の中の何かが拒否反応を示している。一刻も早くこの場から消えてほしいという気持ちが勝ってしまった。
「申し訳ございません。陛下のご気分を損ねてしまい――」
「私の目の前から消えろ」
私が一睨みすると、肩をすくめてアストリアは素直に会議室から出ていく。扉が閉まる前に、彼女の言葉が反響した。
「陛下、よくよく考える事ですな。この戦に勝つためには、全ての駒を有効活用するべきであると、私は思います」
よくしゃべる蛇女。首を刎ねても、また生えてきそうだわ。
私は舌打ちをした。
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