ダーク・ファンタジー小説

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叛逆の燈火
日時: 2023/03/06 20:05
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)

 傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
 「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。

 ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
 傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
 そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。

 アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
 追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。

 ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
 黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。

 「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」

 果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?


余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞

2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止


目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」

Re: 叛逆の燈火 ( No.23 )
日時: 2022/08/24 22:43
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 俺は……一体。

 目を覚ますと、いつぞやのように天井が眼前に広がる。……2度目か。俺がそう思い、上体を起こすと、身体全体に軋むような痛みが走った。

「いってぇ!」
「起きたか、アレン」

 しわがれた老人の声……ああ、エルか。

「この莫迦者が。憎悪に身を委ねてどうする!」

 痛みに苦しんでいる俺に向かって、エルは眉を寄せて怒っていた。珍しい。いっつも無表情だったから、そんな表情もできんだな。

「お前って怒るんだ」
「茶化すな。お前はもう少しで本当に化け物になるところだったのだぞ! 忠告したはずだろう、その右腕に呑まれれば、お前はお前でなくなるのだ!」

 ……確かに、師匠の亡骸を見てから、なんか俺……俺じゃない俺になってた気がする。よく覚えてねえけど……。

「なあ、師匠は?」

 俺は師匠を守れなかったことに怒りと悲しみで頭ん中がいっぱいいっぱいだった。……師匠、俺なんかを守って――

「アレン、起きたかしら?」

 タイミングよく部屋に入ってきたのは……えっ師匠!?

「ひぎあっ! 幽霊!?」
「誰が幽霊よ、足ついてるわよ!」
「えっ、師匠!? 死んだはずじゃ……」
「もう、勝手に殺さないで頂戴。私、素人相手に急所を外すくらいの芸当は得意なんだから。ふふっ」

 師匠は悪戯っぽく笑うと、俺の寝ているベッドへと近づく。

「アレン、大丈夫だったの? その……あなたの姿が、あんな禍々しいものになってたから」

 彼女の表情が一変、俺を心から心配するような声と態度と表情。……俺もそう思うよ。
 あの時の俺、どうなっちまってたんだ? 
 という疑問を解消してくれるかのように、エルが咳ばらいをする。

「あれは、お前の憎悪がそうさせた。我の右腕は、持ち主に寄生して、負の感情を糧とし浸食する。いずれ、宿主の魂を食らいつくす為にな」
「うえぇ」

 気持ち悪いな。なんだよそれ。あぶねーじゃん。

「元々の持ち主であるあなたは、一体何者なの?」

 師匠が当然気になる事をエルに聞いてくれた。代弁ありがとうございます、師匠。

「知らん」

 ま、当然の答えだった。

「でしょうね」

 師匠も肩をすくめて苦笑いする。
 いや、それよりも……

「師匠、大丈夫なのかよ。あいつに斬られただろ」
「ん」

 師匠は短く声を出した後、両手を挙げてにっこり笑った。いつもの笑顔だ。

「この通り、無事よ。ま、オーラごと斬られたし、多分魂に直接干渉する斬撃だから、しばらくは養生しなきゃ、だけどね。所謂「オーラ切れ」って奴?」
「オーラぎれ?」

 俺は聞いたことのない言葉を口にした。師匠ははっと気づいたように目を見開く。

「あ、そっか。「オーラ切れ」っていうのは、身体を守るオーラのバリアが消えた状態の事よ。滅多な事じゃならないんだけど、限界までドライブを使い続けたり、オーラに直接干渉するようなドライブの攻撃、魔法による攻撃を受けすぎたりするとね、オーラが消えてしまうのよ」
「オーラ切れになったらどうなるんだ?」
「まあ、ドライブが使えなくなるのはもちろん。身を護る鎧が消えるわけだから、丸裸ってわけ」
「ま、まる!?」

 俺は多分顔が真っ赤になってると思う。丸裸だなんて……。俺がそういった反応を見せると、師匠は大笑いした。

「もう、ウブなんだから! 大丈夫よ、オーラ切れを起こしたら休めば元通りになるから。……ただ、魔法による傷は結構深いから、治りが遅くなるし、治る保証もないんだけどね」
「師匠は、治るのか?」
「当たり前じゃない。伊達に何年も剣士やってないわよ。だから安心して♪」

 師匠が笑いながら、俺の頭を撫でる。……なんだか、こうしてもらうとすごく安心するな。
 そう思っていると、エルが俺達の間に入ってくる。

「だが、アレン。今はそんな事はどうでもいいのだ。重要な事じゃない」

 あ? なんだよ、改まって。

「あの白髪の女。……お前の顔にそっくりだったな」

 ……あいつの顔か。確かに気持ち悪かった。あいつは俺を拒絶してたけど、俺だってあんな奴……嫌いだし消えてほしい。本当に気持ち悪いぜ。

「……その事だけどね、アレン。団長がその事で話があるんですって」
「えっ?」
「ま、私も一足先に事情を聞いたわ。本当に驚いちゃって、今でも信じられなかったくらいだもの」
「な、なんなんだよ……」

 信じられないような事実って一体……絵本とかでよくある、自分の影とかだったりしてな……ハッ、なわけねえか。我ながらしょうもない。

「団長を呼んできてくれよ、師匠。俺、この通り動かねえんだよ、身体」

 俺がそう言うと、師匠は頷いて「ちょっと待っててね」と言い残して部屋を出ていく。……つーか気づかなかったけど、この白い壁に綺麗な床とか壁とか天井。それに無駄にデカい窓。……ここ、クルーガー公爵の居城じゃなかったっけ。よく見たら、ベッドも無駄に広くて、シーツの質もいい。あ、ダジャレじゃねえぞ。

「俺、こんな高そうなベッドで寝てていいのかよ……」

 貧乏育ちの俺には敷居の高すぎる部屋だぜ。

「人間の価値観は我には理解できん。だが、良いのではないのか? アルテアもしばらくここに滞在すると言っていたし、お前が寝ている間、同盟も結んだようだぞ。ただ、この領地は捨てるらしいな」

 え、聞いてねえよ。いつの間にそんなに話が動いてたんだ?

「なんだそれ、聞いてねえ」
「そりゃそうだろう、お前は寝ていたのだから」
「ちなみに、俺……どれくらい寝てた?」
「今日で4日目になるところだった」
「そんなに……」

 結構体の負担大きいな、この右腕……。

「アルテアが来たぞ」

 エルは扉の方を指し示し、そう言った。

Re: 叛逆の燈火 ( No.24 )
日時: 2022/08/24 23:39
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)


 目を覚ますと、ベッドの脇で今にも泣きだしそうな顔のバーバラが、私をずっと見つめていた。バーバラの身体は傷だらけの包帯だらけ。ボロボロだった。だけど、私が目を覚ますのを確認すると、一気に涙をポロポロと流し、私を両手で抱きしめた。強く。

「ソフィア……! 良かった、目を覚ましてくれて……」

 バーバラは涙をこらえながらも、目から止め処なく流れて落ちて行く。私はというと、そんなバーバラに、「心配かけてごめんなさい」と言う。その言葉を聞いた彼女は首を振って、私の目を見て強く言った。

「なぜ謝るの? 謝るべきは私よ! あなたを危険な目に遭わせて、あなたまで失ったら、私……私は、あなたのお母上やお父上に顔向けできないわ!」

 ……ありがとう、バーバラ。あなただけでも私の味方でいてくれて、本当に嬉しい。
 そんな私達の様子を見て、隣に立っていたネクが口を開いた。

「ソフィアちゃん、よかったね。ずっとねつがひかなかったから、わたしもしんぱいしてたの」

 ネクは微笑んだ。……わたしはネクの頭に手を伸ばし、優しく撫でた。傷だらけの腕。包帯に巻かれたそれは、自分で見ていても痛ましいものだ。撫でられたネクはというと、無邪気に笑みを浮かべていた。

「バーバラ、私はどれくらい眠っていたの?」
「今日で4日目になるところだったわ。すぐに食事を――」
「いいえ、必要ないわ」

 私に気をきかせてくれたのだろうけど、今は必要とはしない。なぜなら、それより気になることがあったから。

「ねえ、ソフィアちゃん。わたし、きになってたけど」
「なあに?」

 ネクは私に向かって首を傾げた。彼女は私も気になって仕方なかった事を代弁してくれる。

「あのきんぱつのくろいやつ、なんなの? ソフィアちゃんのかおとおなじかおしてた」

 バーバラがそれを聞くと、少し悩んだ後、口を開いた。

「……冷静になって、聞いてくださる?」

 彼女の言葉に、私は頷く。




―――




 この国、「アルゼリオン帝国」では9年前に皇帝と皇后の間に双子が生まれた。双子の誕生に、両親である皇帝と皇后は手を取り合って喜び、双子の姉弟の誕生に周囲は祝福と歓喜に包まれていた。
 姉には古代語で「永遠不滅」を意味する「ソフィア」、弟には古代語で「絶望からの再生」を意味する「アレン」と、それぞれ名をつける。二人がいつか皇帝となった時、支え合って生きて行けるように。そういった願いを込めて……。
 だが、双子の子供たちは、宰相一派の目論みにより引き裂かれる。
 彼らは、いずれ皇帝になるのならば、扱いやすい女の方がいい。と結論を出し、弟の方をさらったのだ。
 その事をいち早く気づいた教団騎士である「モーゼス・クレイセント」は、宰相一派からアレンを奪還し、皇后の元へ帰そうとした。だが、彼らはむしろ好機であるとし、モーゼスを皇子を誘拐した極悪人として告発したのだった。
 教団からも皇帝からも糾弾を受け、モーゼスは妹のいる修道院へ身を隠したのだった。

 この真実を知るのは、現在ではバーバラとアルテア、フィリドラ、そしてこの騒動の中心人物であるモーゼスのみである。

 アレンはその後、死んだものとされ、現在の帝国では闇に葬られている。





―――





 ……団長の話が終わると、ため息をつく。
 俺はと言うと、そんな話を聞かされても、嫌に脳は冷え切っていた。嫌に冷静になれていたわけだ。

「ま、お前は皇子だったんだ。「アレン・アルゼリオン」。それがお前の本当の名だ」
「……ふぅん」
「まあ、俺も倒れていたお前を見て驚いたもんだ。モーゼスって悪党がアレン皇子をさらって殺した。なんて聞いていたからな。……隠すつもりはなかったんだが」

 団長は俺の目を見る。

「で、あいつ……ソフィア様はお前の姉なんだ」

 俺の反応を伺っているみたいだ。そういや、部屋の扉が少し空いてて、団員たちがこっちの様子を見てる。その中に、もちろんモーゼス兄ちゃんもいる。

「……で?」

 まあ、俺の答えはそんな簡素なものだった。

「……え?」

 団長はやはりというか、目を丸くした。そりゃそうだ。そんな壮大な話の後の感想がこれだもんな。俺は団長と同じようにため息をついた。

「だからなんだよ。俺は「アレン・ミーティア」。古代語で「再生の星」って意味らしい。それはシスターが名付けてくれたんだ。で、妹の「エレノア・シャムロック」。弟の「ルゥ・ハンナ」。母さんはシスターの「レーナシャニィ・クレイセント」だ。ソフィアなんて女、知らねーよ」

 俺がそう言い放ち、団長やその隣にいる師匠、扉の奥の団員たちを見た。皆各々目を剥いたりと驚愕の表情を見せていた。……ただ一人、モーゼス兄ちゃんだけは、目頭を押さえているようで、俯いていた。

「……そうか。ならいい」

 団長は驚愕の表情から一変、満足げに微笑み、俺の頭をかきまわした。初めて会った時みたいに。

「でも、あなたが敵に回しているのは、実の姉なのよ?」

 一応という感じで、師匠が尋ねてくる。俺は半目で師匠を見つめ返した。

「しらねーよ。あんな物騒な姉貴なんか。つーか、血がつながってるだけの他人じゃねえか」

 師匠がその言葉を聞いてどういう顔をすればいいのか困っているようだった。複雑そうな感じだ。

「つーかさぁ……」





「あの男が私の弟? 馬鹿言わないでください。私に弟などいません。私の家族は、父上とバーバラだけ」

 私は迷いなくそう言い放った。バーバラは期待通りの私の返事に頷いた。





「アレンは――」
「ソフィアは――」



『敵だ、あれは生かしてはおけない』



 少年と少女は、憎悪に満ちた瞳でそう口にした。まるで吐き捨てるように。

Re: 叛逆の燈火 ( No.25 )
日時: 2022/08/29 22:09
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 それから7年の月日が流れる。
 7年っていうのはあっという間で、俺はあの頃よりも背が伸びたし、筋肉もついた。師匠のおかげで剣術もそこそこ。並の剣士なら余裕だ。あとは、右腕の力にあまり頼るんじゃないと、エルには何度も叱られてる。俺も右腕に頼らないようにしているつもりなんだが……やはり未だに右腕から聞こえてくる声は小さくなるどころか、俺が帝国軍の連中を見かける度、戦闘する度に、声が大きくなってきている気がする。「奴らを憎め、殺せ、滅ぼせ」ってさ。その声に身を委ねたらきっと、俺は……帝国の連中を民間人諸共滅ぼしてしまうかもしれない。だけど、時々思うんだ。帝国のあの悪魔皇帝――いや、今は「魔王」なんて呼ばれてるあの白い悪魔「ソフィア」をあそこまで好き勝手にやらせてた、この大陸全土の奴らでさえ、憎くてたまらない。ってさ。

「着替えは済んだか」

 部屋の中で鏡を見ながら身なりを整えていた俺に、ドアを開けてずかずかと入ってきた赤髪の少女――エルが声をかけてきた。初めて出会ったあの時から、全然変わらない。まるで仮面でもつけているのかってくらい、張り付いている無表情。それも相変わらずで、赤い瞳を俺に向けていた。

「ああ、済んだよ。もう行くって?」

 俺が腰のベルトを締めると、エルは頷いた。

「だから呼びに来た。アルテアが、次はスティライア王国に向けて出発すると言っていたぞ」
「スティライア王国……なんで今更?」
「なんでも国王との正式な同盟が決まったそうだ。まあ、秘密裏だが」
「ふーん」

 俺はなんとなく口にした。

「強力な協力の同盟って……か」
「……ふぅ」

 エルはなぜか俺を心底呆れたような眼差しを送ってくる。……俺が悪いんだろうけど、なんかムカつく。

「下らん事を言ってないで、早く出てこい。皆待っているぞ」
「わかってるよ、うるせえな」

 俺はやり場のない苛立ちをどこへぶつけるわけでもなく、部屋を出る事にした。





―――





 ま、とりあえずスティライアへ向かうアルテア傭兵団の面々。数は7年経ったというのにほぼ変わらず。確か、団長が勧誘したっていうカウガールとカウボーイの姉ちゃん兄ちゃんは別行動してるって話だし。ま、いつ協力してくれんのかは知らねえんだけど。俺の背が低いからって、いっつも子供扱いしやがる。正直苦手な部類だ。
 だけど、そういった協力者ってのは、本当にありがたくて助かるもので。この7年間はずっとソフィア達帝国軍との小競り合いが続くだけで、決定的な打撃は未だ与えられていない。でも、なんつったかな……「からめてぇ」? だっけ?

「「カラミティ・ジェニー」ね。噂の賞金稼ぎ。所謂バウンティハンター」

 隣にいた師匠がそう言いながら微笑んでる。

「そうそう、それ。結構強いんだよな。俺も敵わねえし、帝国の連中をドカンとやっつけてたしな。あと、兄ちゃんはなんだっけ……なんかちょっとキザっぽくて、あとちょっと獣っぽい」
「さっきからなんか悪口ばっかりじゃない? 本人に聞かれたら拳骨されちゃうわよ」

 俺の物覚えの悪さに師匠が呆れてしまって肩をすくめている。そんな会話に、緑髪の兄ちゃん――モーゼス兄ちゃんが割って入ってくる。

「いやはや、この前なんかアレン君ってばさ、ゴンッていい音鳴らしながら倒れたよね。あれはちょっと面白かったわよ~」
「面白がんなよ……」

 モーゼス兄ちゃんはケラケラ笑いながら、自身の感想を述べる。

「でもあの人も強いわよね。お兄さんホントびっくりしちゃった」

 頬に両手を当てて女の人っぽくくねくねくねらせる。……モーゼス兄ちゃんって驚いたりテンション上がったりすると、なんか女の人みたいな口調と仕草になるんだよなぁ。

 ま、そんな話で盛り上がっている中、俺はふと思い出したことがあった。

「あ、そういや、スティライア王国といやあ、あの王様の娘の王女……あいつ苦手なんだよなぁ」
「ん、そんなこと言ったらまた不敬罪よん?」

 俺の発言にモーゼス兄ちゃんが自分の口に指を当てる。いや、わかってんだけどさ……
 「不敬罪とは何をしたのだ?」と、俺に向かって首を傾げるエル。俺は肩をすくめて答えた。

「ほら、以前に王城に行ったろ、同盟のお願いにさ。そしたらその時、俺に向かって「ソフィアでしょ?」なんて言ってきやがんの。ムカつくったらありゃしねえ」
「それはアレンさんが魔王のそっくりさんだからなのでは?」

 ずっと黙って本を読みながら俺達の隣で歩いてたヘクトが、本に視線を集中させながら言ってくる。……俺とあの魔王が一緒の顔ってのも本当に腹立つな。俺、あんな奴の弟だったなんて、本当にさぁ……!

「やめろよ、それだけでも腹立つっつーのに……」

 俺は苛立ちを隠せず、あの時の腹立つ出来事を思い出していた。

Re: 叛逆の燈火 ( No.26 )
日時: 2022/08/28 22:06
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 それは確か先月の事。団長がスティライア王国の王様に謁見を申し込んで、謁見の間に……は通されず、会議室に通された。流石に全員は大所帯なんで、団長と副長、見学兼護衛でモーゼス兄ちゃんと俺。師匠は別にやる事があるらしいから、なぜか俺が選ばれた。いや、いいんだけどさ。
 会議室は奥に綺麗な大きな窓――兄ちゃんから聞いたけど、ステンドグラスっていうらしいな。とにかくそれがあって、白い服着た女の人が逆さになって、地上を眺めている絵が描いてある。神サマなんか信じていない俺でも、神々しさを感じる。
 でも確か、今ってソフィアの奴が神への信仰を規制して、教団も解散になったって聞いたけど。ステンドグラスはセーフなのかね。と、団長に聞いてみると、

「流石に城を建て替えるか、壊さない限りこれは変えられんだろう。これが信仰の証になるわけでもあるまいし」

 と言った。いや、確かに。冷血非道の人でなしでも、壁に穴開けるのは面倒だったんかもな。なーんて考えてると、隣にも副長がやってきて、ステンドグラスを一緒に眺めてた。もちろん、手に持つ酒の入った水筒を口にしながら。

「ま、こういった物が壊されなくて良かったよ。ヒトに罪はあっても、モノには罪はねえしな」

 彼女がカカカカッと笑いながらぐいーっと酒を飲む。酒クセエ。

 俺達がステンドグラスに夢中になっていると、会議室の扉が開く。中から金髪の青年? いや、団長よりは若い壮年の男の人が中へと入る。白を基調とした高そうなローブを身に着けてるな。隣にはそれまた金髪の、俺くらいの女の子が。……身長も俺くらい……いや、俺より低いな。服もこれまた高そうなドレス。顔は隣のオッサンと同じくらい整ってて、美男美女って感じ。……ま、顔の右半分が火傷を負ってるのか、肌が爛れてる。例えるなら……そう、火傷顔フライフェイス。昔読んでた本に載ってた主人公の顔みたいだ。――ってあれ、女の子が俺の顔を見て驚いてる。なんだろう?
 二人の背後には護衛の人かな。鈍く反射する銀色の鎧を着た人が二人の後をついていた。

「待たせて悪いね、お客人。どうぞ、かけてくれ」

 オッサンがそう言うと、団長も「では遠慮なく」と言い、俺達にも座るよう顎をしゃくる。副長は団長の隣に、俺はモーゼス兄ちゃんが座るのを見届けて、隣に座った。
 俺達が座ったのを確認すると、オッサンは奥の椅子に腰かける。その隣に、女の子も。……ってか女の子、部屋に入ってきてから俺の顔をじろじろ見やがって。なんなんだよ。

「さて、アルテア。久しいね、7年ぶりかな?」
「ええ。もうその位になりますね」

 オッサンと団長が互いに笑いあう。そしてオッサンは俺達の顔を見る。

「ああ、はじめましてだね、諸君。私は「ウォーレン・アリア・スティライア」、スティライア王国の国王だよ。そしてこちらは、娘の「エイリス」」

 王女様……てか、エイリスはオッサ……じゃない。王様に紹介されて、軽く頭を下げる。頭を上げた後も、じーっと俺を見てる。本当になんなんだよ、居心地悪ぃ。

「で、アルテア、それに団員の諸君。今回は同盟を結びたいと言っていたね」
「ええ。打倒帝国……いや、「魔王ソフィア」の討伐。あれを倒さねば、この大陸全土の人間は……これから先も悪政による支配を強いられることでしょう」
「ふむ……」

 団長の言葉に、王様は何かを言おうと口を開こうとする。
 だけど、突如隣のエイリスがバンッと強くテーブルを叩いて、その場をバネが跳ね起きるみたいに立ち上がった。

「ソフィアを悪く言わないでください! そこにソフィア本人がいるというのに!」

 エイリスは俺をビシリと指さしながら高らかに叫ぶ。
 ……はあ?
 俺はと言うと、彼女の言葉に目が点になる。なんというか、俺は男だぞ!? というか、白い女と同じ顔ってだけでもムカつくのに、勘違いされるなんて!

「ふ、ふざけんな! 俺は――」
「いいのよソフィア。こんな人たちの言う事は気にしなくて。全てはあなたの事を気づけなかった私が悪いのだから……」
「人の話聞けよ!」

 なんなんだよこいつ……勝手に話を進めやがって!

「ソフィアでしょう? だってあなた――」
「俺とあんな悪魔を一緒にすんな!」

 俺は思わずその場を立ち上がって叫んでしまった。
 ……その場がしんと静まり返る。俺ははっと我に返って周りを見ると、皆俺に注目していた。……しまった、王様とか王女様に逆らったら「不敬罪」になるって、シスターが言ってたのに! 師匠とも、問題は起こさず黙ってるって約束してたのに! と後悔が頭の中でぐるぐるする。すると、モーゼス兄ちゃんが俺の服をつかんで、無理やり座らせた後、立ち上がる。

「申し訳ありません。この子はまだ若造なもので。私の監督不行き届きが原因です。大目に見てやってください」

 兄ちゃんが謝罪を述べて、王様とエイリスに頭を下げた。
 王様はというと、エイリスを窘めてから、こちらを見る。

「えぇっと、君。名前は?」

 唐突に俺は声をかけられたので、驚く。

「え、っとぉ、アレンです。「アレン・ミーティア」」

 俺はたじろぎつつも、名を名乗る。声が緊張で上ずってしまった。

「アレン……そうか、君が」

 ぼそりとつぶやくもんだから、王様の声が聞こえなかった。俺は首を傾げて、「あ、あの」と言うが、王様がそれを遮る。

「すまなかったね、うちの娘が無礼を。ここは私に免じて、許しては頂けないだろうか」
「え? あ、いや……それは別に大丈夫です。おれ……いや、私も失礼な事言っちゃって……」

 俺は慌てて頭を下げながら、慣れない敬語を使って二人に謝罪を述べる。よかった、不敬罪は免れたようだ。
 その後は団長と王様は何事もなく同盟の話へ移ったわけで、難しい話をしてた。半分も理解できなかったけど、まあ、お互い協力するって事は間違いねえな。それはそれでいい。
 だけど、エイリスの方は俺の顔をずっと睨んでいた。納得していない様子だ。……だけど、俺はあの悪魔とは違う。血がつながってるだけの、赤の他人だ。俺が奴と同じ血が流れてるってだけでも腸煮えくり返りそうだっつーに。ましてや勘違いされるなんて。
 本当にムカつく話だ。

Re: 叛逆の燈火 ( No.27 )
日時: 2022/08/29 22:06
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 俺達は話が終わったので早々に帰る事にした。まあ、長居は長話はあっちも迷惑だろうしな。外はもうすっかり夕陽が俺達を照らし、空も茜色になっている。そんな夕陽をバックに、城門の前でエルがこちらを見ていた。エルは何故か「待っている」と言ってついてこなかったけど。まあ、終わった事だし、いいか。俺はエルに手を振ろうと左手を挙げようとした。
 ――と思ったら、左腕をがしりと背後の誰かに捕まれる。小さい手だ。俺は驚いて思わず後ろを振り返ると、金髪の女の子。白いドレスを着た子……ああ、王女様。エイリスか。

「な、なんだよ、王女様」

 俺がぶっきらぼうに彼女に声をかける。

「あの、少し話ができませんか?」

 はぁ? 少なくとも俺は話す必要も。というか話もしたくねえんだけど!?
 助けを求めるように俺はモーゼス兄ちゃんや団長と副長、そしてエルに無言で目をやる。だが、団長はなんか微笑んでるし、副長は酒を飲みながらニヤニヤこっち見てる。モーゼス兄ちゃんは「あら~」なんて言って両手を頬に当てて、エルはそっぽを向いた。お、お前ら……! という目を送るが。まあ、なんだ。俺は見捨てられてしまったわけである。

 ま、そんなわけで、王女様に引っ張られて、中庭に来ていた。中庭は噴水を囲うように、石造りの通路があって、花やらなんやらの植物の植えてある花壇とかが彩りを飾っていた。俺達は噴水の前まで歩み寄る。俺はというと王女様を不満げに見ていたんだが、彼女はそんな俺の様子もお構いなしだった。

「ねえ、あなた。ソフィアでしょ?」
「いや、だから違います」

 俺は彼女の問いに即答した。さっき否定したばっかでしょうが! と言いたいがぐっとこらえる。今は俺一人。もし無礼を働いたら、俺はきっと首を切られて傭兵団を強制退団なんてことになりかねない。そんなことしたら俺の人生は終わる。物理的に。なんとしても、失礼のないようにしねえと!

「嘘。だったらなんで同じ顔してるの? ソフィアに姉弟はいないはずよ」

 ……なんも知らねえのか、このお姫様は。俺はそう思いながら俯く。

「知らないですよ。おっ……私は先ほども名乗ったでしょう。「アレン・ミーティア」だって。ソフィアなんて奴、知りません」
「ソフィア、ごめんなさい。私……あなたの事を本当に何も知らなくって。あなたが苦しんでいたのに、私は気づかずに……この傷だって、その報いだって事は理解してるし――」

 こいつ、マジで話聞かねえ!

「だーかーらっ!」

 俺はエイリスがまくしたてるように喋り続けるので、ついに大声を出してしまった。

「俺はソフィアなんかじゃねえ! 俺は、アレンだ! シスターに名前をもらったし、シスターやエレノア、ルゥと一緒に暮らしてたんだ! あんな悪魔知らないし、顔が似てるってだけで俺をあんな奴と同列にすんじゃねえッ!」

 もう無我夢中だった。ソフィアなんかと一緒にされて……俺はもう腹が立って腹が立って仕方ない! もう不敬罪で首を斬られたって構わない。だけど、あんな悪魔と同じように扱われるくらいなら……俺は否定し続けて死んだっていい。
 俺はエイリスの瞳を睨み据えた。まるで宝石のように真っ青な瞳がうるんで、俺の顔を映している。彼女が何も言わなくなったから、俺は踵を返した。

「……すみません、また無礼を。今度こそ消えます。もう二度と顔を見る事は無いと思います」

 俺は彼女の顔すら見ずにその場を立ち去ろうと一歩踏み出す。
 だけど背後から「待って!」と声をかけられた。俺は思わず足を止める。……別に話を聞かないでそのまま立ち去りゃあ良かったのにな。

「あなた……先ほどから「あいつとは違う」と、そう仰ってましたよね。では、あなたはソフィアの何なのですか?」
「敵です」

 俺は振り向かずにそう答える。

「敵……?」
「はい。あいつは俺から大切なモノを何度も奪いました。……俺だけじゃない、全ての大陸で暮らす人間から、「自由」を奪った。だから、あいつは生きてちゃいけない。あいつは、報いを受けなきゃいけない。だから、俺が――」

 俺がそこまで言うと、目だけを彼女に向ける。

「いや、いいや。……王女様。あなたもその顔の傷、あいつにやられたんでしょ。あいつを恨んだりしてないんですか? あんな奴、死ねばいい。いや、死ぬよりひどい目に遭わせてやりたい。そんなこととか考えた事ないんですか?」

 彼女の反応を見ないように、俺はそのまま歩みを進める。

「……失礼いたしました」


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