ダーク・ファンタジー小説
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- 叛逆の燈火
- 日時: 2023/03/06 20:05
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。
ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。
アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。
ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。
「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」
果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?
余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞
2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止
目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」
- Re: 叛逆の燈火 ( No.73 )
- 日時: 2022/10/13 21:00
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
この7年で何度も見てきた光景だけど、やっぱり慣れるなんてことは絶対にない。俺達は村に足を踏み入れる。生きている人間なんか一人もいない。野晒しになっている亡骸。……結構時間が経っているからか、ほとんどの人間が白骨化していた。
「こりゃあ、ひどい。残党狩りがこんな辺境まで及んでたのか」
副長が崩れ落ちた家屋の前で、炭になっている柱を持ちあげながらつぶやく。柱の下は骨が柱の下敷きになって、虫が群がっていた。……不思議とそれを見て嫌悪感とかは特に湧かなかった。代わりに、悲しいという感情が渦巻いて、俺の目に溜まってきていた。
「アレン、泣いているのか?」
いつの間にか隣にいたエルが、俺を見上げて首を傾げる。
「……わかんねえけど、この人たち、まだ生きたいって思ってたはずなのに。残党狩りなんて理由で殺されるなんて」
俺はぽつりとつぶやいた。
不思議だ。悲しみは湧き出てくるのに、いつものように魔王への怒りや憎しみと言ったものは何も浮かんでこなかった。ただ、目の前で無念にも倒れてしまった人たちへの、哀れみ。もっと生きたかったんだろうな、という憐み。そう言った感情がどんどん俺の瞳から零れて落ちて行く。
……俺、意外と感傷的だったのかも。不思議だ、自分の事なのに。
「君は優しい子だね、アレン」
唐突にエルの方から、ラケルの声が響く。エルの方を見ると、エルの胸元からひょっこりと顔を出した、ラケルの姿にそっくりなぬいぐるみ。だけど不思議と生物感があって、まるで命を持った人形だ。彼は「ラケル・デコイ」。――いや、「デコイさん」。ラケルの魂の一部がぬいぐるみに宿っている、囮役だった。今は俺達についてきているが、普段はエルの服にしがみついているようだ。
「……優しくないよ、別に」
「いや。死者を慈しむ心は、優しい人間にしかない。死者の為に涙を流すのは、優しい人間にしかできない。君は、優しくて温かい子だよ」
デコイさんはそう笑い、天を見上げる。彼は天候を見て慌てだした。
「ふぎゃっ! 雨降ってんじゃんか、エル、早く言いなよ!」
「知らぬ。雨が苦手なのか?」
「濡れると、乾くまで時間かかるし、最悪体の中にカビ生えちゃうんだよ」
へえ、ぬいぐるみだから、水なんか平気だと思ってた。
「びしょ濡れになったら絞ればいいじゃん」
俺が何気なく言ってみると、デコイさんはぷんすか怒り始めた。
「ぬいぐるみ絞るとか人でなし! 君らだって絞られたら痛いでしょ!」
そ、そういうものなのか。
村を見て回ったが、やはり生きている人間なんかいなかった。……他の村も、こんな惨状なんだろうと、シャオ兄ちゃんは言う。
俺達はとりあえず、雨宿りを作って、その中で雨を凌ぐことにした。即興の小屋の中で火を焚き、冷えた体を温めている俺達。しかも、陽も沈んで周囲は真っ暗になった。雨が降っているから、余計に真っ暗だ。
火を囲んで、とりあえず食事をする俺達。その後は次の目的地や補給の場所、それから、この国について。シャオ兄ちゃんが話してくれた。
「多分、東郷武国は滅びたんやろね。首長の死と共に」
「……そうか」
団長が表情を一切変えず、頷く。
元々この国は他国との干渉を嫌がり、帝国との最後の交流が数百年前単位らしい。まあ、この国の海域は年中嵐なんかで荒れているし、隣の国であるフォートレス王国、ル・フェアリオ王国も厳しい環境の山脈を超えなくてはいけない。あとは、独自の技術で「結界」? ってのを張って他国の人間を完全に拒絶していたんだとか。その独自の技術も、俺達の知っている「術式」にそっくりらしい。よくわかんねえ。でも、術式を作った奴って多分、この国の技術を参考にしたのかもしれない。……って、デコイさんがこっそり耳打ちしてくれた。
「これはうちの予想やけど、この国は多分再建されないやろうね」
「どうして?」
師匠が首を傾げた。
「正直、この国の政治って結構複雑なんよ。国のトップは毎年の投票で決まっとったんや。幕府も国民が選んで、選ばれた人が国の在り方を決めとった。……この国を再建しようと思ったら、相当な人間やないとむずいやろね」
相当な人間……所謂、上に立つに相応しい人。そう言う事かな。
「ん。でもッスよ。首長さんのお子さんとかおるんやないの?」
スカイ兄ちゃんは顎を撫でながらシャオ兄ちゃんの方を見る。その問いにシャオ兄ちゃんは首を振った。
「うちはあの子が上に立つに相応しいかはちと疑問やね」
「なんでッスか?」
「なんちゅーか、心優しいで有名なお姫サンなんやけど。物を切り捨てる事ができへん。ホラ、王様とか、上に立つ人間は、心優しくて抱え込むだけじゃあできへんやろ? ……甘いだけの人間なら、アレンクンでも王様とか将軍とかできるがな」
「……ちっ」
俺はそう言われて舌打ちをした。いや、確かに。上に立つ人間ってのは責任を伴う。抱え込むだけじゃいずれ破綻する。だから切り捨てる必要がある。その判断も、上に立つ人間がしなくてはいけない。優しいだけなら、誰にだってできる。ってのは、そう言う事なんだろ。
「篭国も反対しとったらしいけど、国を守る為に他国との交流を切り捨てるっちゅー判断ができんのは、うちは今後。姫サンが国を再建する時、破綻せえへんか心配や。あん人が「お姫サン」である限り」
優しいだけの人間っていうのは付け込まれる。副長が言っていた事がある。裏切られても怒る事は出来ない。攻撃されても怒れない。それは「優しい」のではなく、「他人に嫌われることを恐れる弱さ」。
……上に立つ人も大変だなぁ。と、俺はそう思いながら、メラメラと揺らめく火を見つめる。火は静かに、だけどめらめら。ゆらゆらと燃え続けていた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.74 )
- 日時: 2022/10/15 16:31
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
翌朝、目を覚ますとエルが既に小屋の外に出ていた。デコイさんと何か話していたようだ。会話の内容は多分他愛のないものだと思うけど。デコイさんが俺に気が付いて、こちらに振り向き、手を振って満面の笑みを見せた。エルは相変わらず無表情。
「ん、おはよ、アレン」
「お前は起きるのが遅いな。皆もう起きて出立の準備をしているぞ」
……起きて早々お小言かよ。
「べ、別にいいだろ。寝坊したわけじゃねえし」
「そうだな。寝坊していたら、またレベッカに頬を叩かれるか、フィリドラに吹っ飛ばされていただろう」
そう聞くと、この傭兵団の女ってこえぇ奴しかいねえな。……つっても、傭兵団に所属している女の人は、副長と師匠だけだ。副長は女を捨てている感じだし、完全に男みたいな言動だ。この前風呂上がりの裸の副長を見て、俺が慌てても副長は「なんでそんなに顔を赤らめてんだよ」と首を傾げている始末。俺だけが一人騒いでて、損してる気分だ。つっても、俺は……ん。そういや、そういう事考えた事ねえな。年上のねーちゃんは、あれだよな。シスターが一番だったから、何とも思えないし、年下もエレノアがちらついてる。かといって同年代。同い年なんか何にも魅力的に感じられない。……つーか。こんな不毛な事考えてる自体無駄な気がしてきた。やめるか。
そう考えながら俯いていると、背後から師匠ががばっと抱き着いてきた。俺は思わず驚いて声を上げるが、師匠はお構いなし。
「うおあっ!?」
「おはようアレン。あ、エルにデコイさんも。おはよ♪」
「おはよ、レベッカ」
デコイさんは手を挙げて挨拶、エルも同じように手を挙げた。いつものように挨拶が済むと、師匠は俺の肩を叩く。……ああ、いつものか。
「今日もやりましょ」
「ああ、お願いします」
俺は頷くと、エルを見た。
今日は昨日の強雨と打って変わって雲一つない快晴。訓練には打ってつけの天候だ。俺達は広い場所へ向かう。ちょうどいい場所に開けた場所があったので、俺達はそこで剣の訓練を始める事にした。毎日朝起きると、朝食ができあがるまで剣の打ち合いと言う名の準備運動。師匠や俺が朝食当番の時は、どっちかがどっちかの当番を手伝う事にしている。
……最近じゃ、俺も手先が器用になって、芋の皮めくりなんか簡単にできるようになったんだ。――ってそりゃ今関係ねえか。
俺達は互いに向かい合う。周囲はいつものように暇そうな団員が、俺達の様子を眺めていた。シャオ兄ちゃんも既に準備を終わらせたのか、俺達の打ち合いを見ている。
「師匠、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
いつものように互いに挨拶を交わし、俺は手にエルを握る。師匠も木刀を握っていた。
師匠は鞘から剣を抜くと、瞬時に目の前まで肉薄してきた。今日はいつもと違って、師匠からの先制攻撃。予想外だったけど、俺は冷静に両手で剣を握り、師匠の斬撃をはじく。……重い! 俺は一歩後退った。それがいけない。師匠は続けて、二連撃目。三、四、五と。上から、横から、下から。目にも止まらぬ速さっていうのか? 目では追いつけない速度で俺に木刀の斬撃を加えてくる。これでも師匠は力を使用していないってんだから、本当に尊敬するよ。
俺だって成長している! ……と同時に、師匠だって成長してるんだ。師匠は訓練だろうがなんだろうが、手は抜かない。だから、俺もそれに応えなくっちゃ。
「でやあっ!」
俺の反撃。師匠の連撃が終わった事を見越して、俺は師匠の肩に剣を振る。手応えはない。師匠は瞬時に身体を捻らせ、俺の背後までくるくると回ってきた。そして、背中に木刀の柄を強く打ち付けてくる。
「がはっ」
「今ので死んだわよ」
師匠の言葉通り、俺は膝をついた。
『連撃を見抜いたまでは良かった。だが、昨日と全く同じミスだな』
エルが俺を見上げ、呆れるようにそうお小言を零す。……ちっくしょう……まだ終わってねえし!
「うっせえ!」
俺はそう言いながらも、冷えた頭で狙いを定める。師匠の腹に向かって剣を刺突。師匠は当然それを身体を翻して回避した。また俺の背後に回ってくる。俺は二度も同じミスはしまいと、肘を振り上げて、師匠の腕に打ち付ける。師匠は読み通り、俺の攻撃に対して怯んだようで、動きを止めた。そのまま俺は剣を持って横へ回転する。
「せぇいっ!」
怯んでいた師匠に剣が当たる。剣の刃はないけど、それでも結構な力で当てたもんだから、師匠が倒れてしまった。
「師匠!?」
俺は慌てて倒れた師匠に近づくと、師匠はにこりと笑う。
「はい、隙あり」
師匠は俺の胸に向かって木刀を突き刺した。……やられた! また師匠の演技に騙された……。
「今のはいい感じね。まだやる?」
師匠が起き上がって、服についた土を払って落としている。余裕の笑みだ。……くそっ、まだやるかって!?
「とーぜん! 今日こそ一本は絶対とってやる」
今まで一度も師匠に勝てた事はない。だから、今日こそは絶対師匠に「参った」って言わせてやるよ!
「参った」
と、俺は降参した。
ち、畜生! 師匠速すぎて追いつけねえ……。俺はその場に座り込んで、肩で息をしながら空を仰ぐ。全然時間は経ってないはずなのに、疲れたぜ。
そんな俺に、師匠は手を伸ばした。
「うふっ、今日は今までで一番良かったかもね。私ももう少しで負けちゃってたかも」
それ、いつも言ってるだろ。
俺はそう思いながらも、差し伸べられた手を握り、師匠に引っ張られて立ち上がる。でも……多分。俺も成長できているかも。昔は剣に振り回されていたけど、今は物になってきているかもしれない。実感はあるのかないのかわかんねえけど、昔よりは筋肉もついて、剣を振りまわせるようにはなってきたはずだ。……もっと強くならなきゃいけない。もっと。
「よし、今日はここまで。朝ごはん食べましょ。私、お腹ペコペコ~」
師匠は腹が減ったと言わんばかりに、腹を摩っている。俺も同時に、「グゥ~」と大きな音を鳴らし、恥ずかしくて俯く。
「朝から元気ね、男の子。お腹空いた分、いっぱい食べましょう♪」
と、師匠は俺の隣まで来て、背中をバンっと叩いた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.75 )
- 日時: 2022/10/15 18:49
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
出立の時間になり、俺達はシャオ兄ちゃんの案内でカグツチへと向かう。道中、俺達の国では見ないような植物を見かけ、それを見る度に、俺とヘクトは「この植物はなんだ」と質問攻めしていた。シャオ兄ちゃんは困った顔なんて一つもせず、丁寧に答えてくれる。
「サクラ」とか、「スイレン」、「レンゲソウ」だったり、「ヤマユリ」なんてのもあった。昨日の雨に濡れて、花弁が散っている花なんかもあったが、それでも残っている花びらの色は綺麗だったな。
そういったものが珍しいもんだから、話に夢中になっていると、いつの間にか次の目的地へとたどりついたようだ。
……やっぱり、そこも焼き焦げていた。生きている人間はいないけど、代わりに白骨が転がっていた。
「一応生きている人間を探してくれ、皆」
団長がそう言った後、俺とエルも焼けた後の村を回ってみる事にした。誰もいない。いるのは……骨。白骨死体だけだ。俺は白骨死体に近づく。
「また、埋葬してやるのか?」
エルがそう聞いてくる。
「ああ、野晒しじゃあ、浮かばれないだろ」
……幽霊なんて信じてないけど、浮遊して行き場のない魂が魔物化するとか、そういう話は聞いたことがある。というか、俺達の身体に魂が宿っているってことも知ってるし、その魂を可視化する技術もある。デコイさんがその技術はフォートレス王国が保有している。って言ってた。事実、その可視化できる技術をさらに進化させた、「魂の具現化」なんてのも、帝国側が保有してるらしい。詳しい事はよくわかんねえけど、「具現化」させて「合成魔物」が生まれたのも、納得できる。人間ってそんな不確かなものを確かなものにできるっていうのは、正直すごいなぁって感心するぜ。
まあ、そういうわけで、亡骸を埋葬するのは意味がある。こっからは不確かな話ではあるけど、魂はどんなに罪を犯していようが、無関係に浄化される。女神エターナルによって。行き場がないっていうのは、魂が女神の御許に行くのを拒否しているか、魂が何らかの理由で留まっているせい。
ラケルの力は、そんな行き場のない魂を自分の中に溜め込んでいたそうだ。本人に聞かなきゃならんけど……。でも、魂を体内に宿して、魂が身代わりになって死を受け入れたり。謎は多いけど、ラケルの意思に応えてくれる程に、ラケルの中にいた大勢の魂は、彼を信頼していたのかもしれない。あるいは別の理由か。それはもう知る事は出来ない。
俺は手当たり次第に白骨死体を拾い上げて、名も知らない人たちの墓を作った。
俺は、彼らの苦痛も、悲痛も、わかってやる事は出来ないけど……でも、こうして墓を作る事で。彼らに対して無念を鎮めてやる事はできるんじゃないか。って思う。
「死者は死者。そこには何もない。彼らは死んだ時点で、もう既に魂はどこかへ逝ってしまったのだから」
手を合わせて祈っている俺の背後で、エルがぽつりとつぶやく。
「わかってる。でも、意味のない事じゃないとも思う」
「……否定はしていない。ただ、他人からすれば、それはお前の自己満足ともみられよう」
自己満足か……間違っちゃいない。
「いいよ、俺がしたいだけなんだ。他人がどう思ったって、俺は考え方を改めない」
「……君は、ラケルにそっくりだ」
突然、デコイさんがエルの服の胸元から顔を出した。
「ラケルに?」
「彼も遠征に出た時に、見ず知らずの人の亡骸を発見した時は、何も言わずに埋葬していた。そして決まって彼らに向かって、「こんな世の中にして申し訳ありません。僕が生きているうちに必ず、あなた達の無念を晴らす、真の平和な世界を作って見せます」って言ってたんだ。……それは叶わなかったけれど」
「真の平和、か」
正直、「平和」で「いつもと変わらない日常」ってのは、人が一番求めていて、一番嫌っているものだ。俺も、多少はそう考えていたことがあったし。
……そもそも平和に何も起きず、俺とソフィアが何も知らないまま今日まで生きて、一緒に過ごしている未来があったとしても。皇帝の席の争いで、血を流していたに違いない。シスターの持っていた絵本にも、「双子の王様」という話が合った。その話の最後は……「互いの首を掻っ切り、双子の王様は共倒れ」。という何とも言えないものだった。席が一つしかない以上、俺達に戦う意思が無くったって、周りが騒ぎ立てる。どんなに仲良しこよしの人間だって、一つしかないものを二つに分けるなんてできない。
「真の平和」って一体なんなんだろうな。
「アレン。無い頭で必死に考えても結論は出ないぞ」
エルが考え込んでいる俺にそう言い放つ。……ムカつきはするものの、無い頭ってのは間違ってない。正直、頭がよかったら、きっと「真の平和」とは何かなんてすぐに答えられるだろうし。
「……そうだな」
俺は振り向きもせずそうつぶやいた。
「俺達、魔王を倒した後……その後は一体どう行動するんだろうな」
巨悪の根源を倒して、はい平和。なんて、世の中そんなご都合主義でもない。その時に考えるなんて楽観視もできない。あいつを倒したところで、また次の魔王が生まれる。「憎悪の連鎖」は早々断ち切る事はできない。
ないないづくしだな。
「ばっかだな、アレン」
デコイさんが肩をすくめて、呆れたようにため息をつく。
「そういう事こそ、全てが終わった後にみんなで考えればいいでしょ」
「それこそ楽観的だっつーの」
「いいじゃん、今は楽観的に考えたって。だって将来の不安を抱えたままじゃ、この後の事が全く何もできなくなるよ。じゃあ、難しい事は今は後回しでいいんだよ。わかった?」
俺をびしっと指さすデコイさん。……そういうものなんだろうか。まあ、いいか。
「わかった、今はそう言う事にしとく」
俺は煮え切らない思いを抱えつつも、そう返事をした。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.76 )
- 日時: 2022/10/17 20:04
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
各村を転々として、カグツチを目指す俺達。
……ここまで、生きている人に一人も会う事はできなかった。どこかで息をひそめているのか。それとも、皆死んじまってるのか……。それは俺にも、皆にもわからないし、事実生きている人は見つからない。シャオ兄ちゃんの言う通り、この国には未来は無さそうだ。
ただ、シャオ兄ちゃんの言う、「お姫さん」という人物が生きているのなら……。その人がこの国の未来を左右するんだろう。生きていればいいんだけど……。
俺達は王都に一番近いという村にたどり着いた。そこは今までとは違って、争った形跡がのこっていて、地面には穴やくぼみ、鞭で叩きつけたような傷。そして剣が地面に刺さったまま朽ちていた。だけど、不思議な事に骨は残っていなかった。……おかしい。こんだけ争った形跡が深く残ってるのに、亡骸が無いって事はねえだろう。俺はそう思いながら、歩き出す。もちろん、エルもついてきていた。
「……帝国に、死霊術師がいる事は知ってるよね?」
「ああ。それがどうした?」
エルの服の中にいたデコイさんが俺に話しかけてくる。
死霊術師。多分、数年前に戦ったマギリエルの事だよな。あいつの姿も声も、武器も戦い方も全部覚えてる。エルが言うには、「死者を操る」。敵味方関係なく、死者を使役することができる。……って、まさか。
デコイさんが大きく頷いた。
「まさかのまさかじゃないかな。ラケルは一度だけ会った事があるらしいけど、死者を操るだけじゃなく、力の使い方もラケルより上手で、自分の中の魂が取られないように敵前逃亡したくらいの相手さ」
「ラケルが逃げ出す程の相手か……」
俺も昔戦った事はある。だけど、副長と二人がかりで倒せたし、俺一人だったらどうだったんだろうか。
……とりあえず、王都に近いこの村なら、あいつがここに来ていても別におかしくないか。それとも、死体を回収して何かに使うとかしてるかもな。あのマギリエル。目がヤバかったし。
「アレン、我は喉が渇いた」
そのまま歩いていると、エルが唐突に声をかけてくる。……あれ、こいつ昔、「人間が必要なものは別に必要じゃない」的な事言ってなかったっけ。
「お前、水が無くても問題ないとか言ってなかったか?」
「……」
エルは珍しく黙り込み、何か考え込んでいる。あれ、こんな奴だったっけ?
「具合悪いのか?」
「違う」
「おいおい、俺はエスパーじゃねえぞ。口に出してもらわないと――」
「さっきから殺気を感じて落ち着かないのだ」
エルは突然俺のフードを強く引っ張り、俺の耳に顔を近づけて小声で囁いた。
……一瞬ダジャレかと思ったが、こいつがダジャレを言うような奴でもない。それに、デコイさんもなんだか落ち着かないようで。
「アレン、僕も川に行きたいな。いいでしょ?」
なんて言いやがる。
……俺は少し集中した。周囲には傭兵団の皆が生存者を探している。――ってあれ? なんか、傭兵団の皆やシャオ兄ちゃんとは違う何かを感じる。近くの木の陰からだ。……いや、ここじゃ分が悪い。エルやデコイさんの言うように、近くの川まで行ってみるか。
俺が川に向かおうとすると、背後から師匠が「アレン」と声をかけてきた。
「どうしたの? 何かあった?」
「ん、師匠。水が切れたから川に行こうと思ってさ」
「じゃあ私の水筒あげるけど――」
「生理現象だ、レベッカ」
エルがそう口を挟む。……いや、そう言う事にしよう。
「そう言う事だから、あとでね」
「あ、うん。それなら仕方ないわね」
師匠が困ったように笑うと、俺は踵を返してとりあえずいつも通りを装いながら歩きだした。近くの川は本当に近くて、すぐについた。だけど、村からは多少は離れているから、何が起きようと村の方には音は響かないだろうと思う。俺は村からずっとついてきている何かの気配を感じ取っていた。こっちに来てるって事は、やはり俺が狙いだろう。……他人に恨みを買うようなことは、帝国の連中以外にはしてないはずなんだけどな。
俺はたどりついた川を見る。川は穏やかな渓流。意外と浅く、かなり広い。ごつごつした岩があって、水面から顔を出していて。流れる水は岩にぶつかりながら、下流へと身を任せている。奥の方は結構深そうだ。水浴びができるかも。あとで皆も呼ぶか。なんて思いながら、とりあえず水筒の中に水を入れる。綺麗な水だなぁ。冷たくて、ずっと歩きっぱなしだったから、かなり気持ちいいや。
――その刹那、俺の背後から感じていた殺気が近づいてきて、俺に向かって持っている武器を振り下ろした。
「覚悟ッ!」
その叫びと共に白く閃く武器が俺に襲い掛かる。……いや、俺はそれを読んでいた。俺は影に手を当て、白い刃を伸びた影の腕で受け止めた。影の腕が剣を掴んで離さず、奴の動きを止めている。
「何!?」
「お前……不意打ちとか。恥ずかしくねーのかよ!?」
俺は苛立ちながらそう言い、俺を襲ってきたそいつの顔に向かって蹴りを入れてやった。奴の顔に俺の蹴りがクリーンヒット。奴は予想外の攻撃に怯んでいるようだった。
「エル!」
「承知した」
エルは返事をすると同時に俺に握られる。俺は奴に向かって突進し、剣を振った。奴は俺の攻撃に気が付くと、持っている剣で俺の攻撃を受け止める。もう少しフラついてくれると思ったんだけどな……!
奴の姿を捕らえる。黒い長い髪を一本に結わえた、深紅の瞳を持つ男。……俺より背が高いし、かなり体格もいい。変な帽子と変な服は、多分この国特有の民族衣装って奴かもな。年齢は何歳かわかんねえけど、多分副長と同じくらいだろ。奴は殺気立った瞳で俺を睨んでいる。
「貴様……よくも我が国を。我らが首長の首を……! 何が恥であるか。貴様の蛮行こそ、貴様にとって恥ではござらぬか!?」
「……はあ」
俺はあからさまな態度で、あからさまにため息をつく。まあ、わざとなんだけどさ。……予想通り、奴が激昂して俺に怒声を浴びせる。
「なんだその態度は! 拙者を愚弄しているのか!?」
「それもあるよ。……ただ」
俺は静かに奴を睨んだ。
「魔王と勘違いされたことにムカついてんだよ、こっちは」
- Re: 叛逆の燈火 ( No.77 )
- 日時: 2022/10/18 20:09
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
ラケルが死んだあの日以来だと思う。俺は自分でもわかるくらい怒っていた。……あいつと勘違いされたからじゃない。いきなり背後から不意打ちしてきて、挙句によく見もしないくせに決めつける事に腹が立ってる。……こいつもあの王女様と一緒だ。顔だけ見て判断しやがって!
「お前みたいなのは嫌いだ。話も聞かねえ、見かけだけで判断する奴なんか、ぶっ潰してやる!」
影から数本の黒い槍を射出して、目の前の奴を狙い撃つ。だけど、奴は全部見切ったように剣で斬り落とす。なら、これなら……! と、俺は影を蛇のように伸ばして奴の手足を狙った。やっぱり斬り落とされる。その隙をついて剣を構えて突進するが、やはりそれもいとも簡単に薙ぎ払われた。
一度膝をつき、下から剣を振り上げたが、やっぱり素早く回避された。……なんだよこいつ! 動きがまるでトカゲみたいにチョロチョロしやがる! 捕らえられねえ……。俺はうざったくてイライラしていた。……なんだか周囲が黒く染まっている気がする。気のせいかな。
「こちらの番でござるな!」
奴がそう叫ぶと、目の前まで迫ってきて納刀していた剣を、素早く抜刀。俺の腕の服に切り傷と、肌がぱっくりと割れて血が噴き出した。その後すぐに2回目の斬撃……いや、刺突だ。俺は握っている剣でなんとか軌道を逸らす。まだ続く。3回目がくる!
俺は集中し、その3連撃目の斬撃を見る。
――今朝、師匠も5連撃を俺に与えてきた。昨日も、一昨日も。……見切ってやる。
俺は素早く体を翻し、3連撃目の斬撃を見切って回避した。
「――ッ!?」
奴は、まさか避けられるとは。という顔で目を剥く。その隙は絶対に逃さねえ。俺は剣を振り上げた。両手剣の振りは大きい。奴の剣で受け止められるのは目に見えていた。
……こいつは殺す気でやらなきゃ、俺が死ぬ。だったら、殺す気でいるなら、殺されても文句はねえよな? 俺は奴を睨み、右腕を変形させた。
「死ね……!」
俺は右腕で奴の頭を掴み、そのまま地面へ叩きつける。小さく悲鳴を上げた。……なんだ、いい声で鳴くんだ、これ。俺は右腕に力を込める。その度に奴から声が漏れるので、なんだか面白かった。
……こいつ、俺を殺そうとしてるみたいだし。いいよな、死んだって。「誰かを殺すのはいつだって殺される覚悟がある奴だけ」。殺される覚悟のねー奴が、奇襲をかけたりしねえもんな。このまま握りつぶしてやるか。まだ虫みたいに動いてるし。この世界を穢す、人間に生きてる価値なんか
――はっ!?
「ち、違う! 俺の意思じゃねえ、こんなの!」
思わず右腕を戻して俺は頭を抱えながら後退した。
違う。これは神竜の意思であって、俺の意思じゃない。俺は誰かを殺そうなんて考えたくない! ……くそっ、俺、結局……!
俺は脱力感からか、その場に腰から地面に落ちる。頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。心臓も鼓動を激しく脈打ってきていた。息も乱れる。目の前が歪んでくる。
俺の様子を怪訝そうに見ていた奴が、俺に近づいてくる。……しまった、殺される。こいつ、俺を殺そうと――
「やめろ、俺は――」
俺は身体が震え、必死に声高に。叫ぼうと口を開いた。「俺は殺しも殺されたくもない」と。
だけど、そう叫ぼうとしたその時。目の前に波打った黒髪の女の人が、俺を庇うように割って入る。……師匠だ。
「誰、あなた? 私のかわいい弟子に何をしているの!?」
師匠は奴に剣を向けて、普段の温厚な彼女からは想像もつかない、威圧感のある声で叫ぶ。怒っているようだった。師匠の肩にはラケルが乗っている。……多分、デコイさんが師匠を呼んできてくれたんだろうな。俺は師匠の姿を見て安堵のため息をついた。
「……貴様こそ、その女の仲間でござるか?」
「えっ?」
師匠は思わず腑抜けた声を出して剣を落としそうになる。俺をあの女と勘違いしてるんだから、まあ女だと思ってるよな。そこで、肩に乗っているデコイさんが訂正することにした。
「いや、彼は男だ。「アレン・ミーティア」。それが彼の名だよ」
それを聞いて今度は奴が「はっ?」と同じく腑抜けた声を出して、ぽかんとした表情になっている。……まあ、双子だし、体格も似たようなもんだから、勘違いするのは無理もねえけどさ。
「……だ、だがっ! その禍々しくも面妖な巫術、それにその右腕! それにお主のその肩に乗ってる小鬼! 我らが首長の首をとった魔王とそっくりな顔が何よりの証明だろうに!」
「……はあ」
またわざとらしくため息をつく俺。……訳が分からんという顔で俺達を見るけど、小鬼呼ばわりされてカチンと来たようであるデコイさんが、なるべく落ち着いている風を装って説明した。
「僕は小鬼じゃないよ。むしろ、妖精さん扱いしてほしいな。名前は「ラケル・デコイ」。あとこっちの女の人は「レベッカ・リジア」。そして彼はさっきも言ったけど、「アレン・ミーティア」。魔王じゃない。むしろ、魔王を倒す為の極星だよ。顔は似てるけど、違う人だからね」
説明を最後まで聞き、奴は俺をまじまじと見る。……そして、はっとした顔をしたかと思うと、地に手をついて頭を地面にこすりつけながら大声で叫んだ。
「も、申し訳ありません、拙者の勘違いでござったぁっ!!」
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