ダーク・ファンタジー小説
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- 叛逆の燈火
- 日時: 2023/03/06 20:05
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。
ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。
アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。
ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。
「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」
果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?
余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞
2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止
目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」
- Re: 叛逆の燈火 ( No.98 )
- 日時: 2022/11/09 19:09
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
私はため息をついて窓の外を見る。今日は雨。ガラスが雨粒で濡れている。そして、雷も伴う悪天候。雨は好き。嫌な気持ちを流してくれるもの。
<行ったね、彼女>
「彼」の声が聞こえる。「セイリオ」だ。私と二人きりの時に語り掛けてくれる、父上によく似た声の……私のもう一人の味方。
窓に反射した彼の姿が映る。灰色の髪と青い瞳……まるで父のような容姿。なぜ彼がそのような姿なのか、彼がしゃべっている間はネクは黙り込んで動かなくなったりするのか。不明だけど……ネクやバーバラと同じで私を否定する事はなく、味方でいてくれる。父のようで、父ではない。彼が何者かはわからないけど、でも。彼は私を否定せず、私に助言をしてくれるわ。ネクの包むような優しさとは違って、彼は導いてくれて、間違っても咎めたりしない。まるで父のような優しさで、私に接してくれる。
そんな彼はイルミナル領が消えたあの日から後、唐突に現れて私に語り掛けてくる。どうやら他の人には声も姿も見えないみたいで、私の疑問を全て答えてくれた。彼は、「神竜グラディウス」と母の魂が混じり合い、私が強く記憶に残っている人の姿を模しているんだと。そして、私と悪魔は、作り物で人間のマガイモノだって事も教えてくれた。案外私はすぐにそれを受け入れた。バーバラもそれを知っていて、私に隠していたんだろうけど、気持ちだけでとても嬉しい。全てを受け入れると彼女に伝えると、バーバラは全てを教えてくれた。知った真実に驚きも衝撃も、ショックすら感じない。むしろ、人類を全て消すという目的に躊躇も柵も、全く無くなった事は、とてもありがたい。
彼――「セイリオ」は、私が名付けた名前だ。バーバラから古代語で「光輝くもの」という意味があると聞いたことがある。彼は私にとって光そのもの。なぜかそう感じる。根拠はないけど、きっと彼が私の道を照らしてくれていると、そう感じる。
眉をひそめ、心配そうに私を見る彼に、私は笑みを浮かべた。
「そうね。でも、やっと視界から消えてくれて、あなたとこうしてじっくり話す事もできるようになった」
<……いいのかい? 「傀儡術」を使えば、君の目的も早く達成できる>
「いいのよ。……あいつはどうせ、私の言う事なんか無視して、こそこそ行動を始めると思うわ」
<それを放置しても大丈夫なのかい?>
セイリオは困惑したように首を傾げる。
「ええ。私は「指示」を出しただけで、「命令」は出していない。命令さえ出さない限り、奴は止まる事はない。ここはね、敢えてあいつが傀儡術を使ってあの忌々しいお姫様を使って、アレンの首を持ち帰ってくれるのを待つのよ。失敗したら、その時は切り捨てればいいだけ」
<そうか。だが、君はアレンを自分の手で殺したいと、そう考えているのに。彼女に任せてしまってもいいのかい?>
私は肩をすくめ、鼻を鳴らした。
「あいつ程度に負けるような奴じゃない。彼は悪魔なのだから」
外では稲妻が走り、一瞬だけ部屋に閃光で部屋が光に包まれる。その後、雷鳴がとどろいた。
お姫様が相手だからって、その程度で死ぬような奴なら、今まで煮え湯を飲まされた私は、それ以下になってしまう。そんなはずはない。
……とはいえ、お姫様の手で終わるのなら、それでよし。障害はなくなる。失敗したら、もちろんアストリアは捨てる。どっちに転んでも私の得にしかならないわ。
といった説明をセイリオにすると、彼はふむふむと言いながら顎を撫でた。
<君が望むなら、きっとその通りになるだろう>
彼の言葉に頷きながら、私は背後にある椅子にもたれかかる。
<ソフィア、君はその間にどうするつもりなんだい?>
「ああ、ル・フェアリオにムシが紛れ込んだみたいだから、それの駆除でもしようと思ってね」
<ムシ? それなら、ル・オーエン王に任せればいいのに>
彼がきょとんとした顔で私を見ているので、私は「ふふっ」と笑った。
「そのムシはル・オーエン王じゃ手に余るのよ。なんせ、父上ですらそいつに手を焼いたそうだから」
<あ……もしかして、「クーゴ・フェイカー」の事かい?>
「そう。三千近い人数のならず者集団。面倒だから放置していたけど、そろそろ目障りになってきたし、ここいらで消えてもらおうと思ってね」
私はくつくつと声を出しながら笑う。こんなに笑ったのは久しぶり。……きっと、セイリオが傍にいてくれてる御蔭ね。
<なるほどね。だけど、彼は強いはずだ。くれぐれも気を付けてくれよ>
「……ええ、どんなに小さなムシの群れでも、烏合の衆でも。油断は禁物だって、アレンが教えてくれたわ。死んでくれと望んだけど、今は彼に感謝してる。……油断なんてしない、彼らは確実に根絶やしにするわ」
私は言葉を重ねる毎に声が低くなっていくのを自覚した。憎悪が混じってきて、自分でも腹の底から、憎しみで黒い炎が灯って、ごうごうと音を立てながら大きくなっていく、そんな気分。油断をしてるつもりはなくったって、どこかで慢心してしまうかもしれない。あいつらは時に予想外の行動を起こす。だから、確実に間引かないといけない。確実にね。
そんな私に、セイリオはいつも言ってくれる「魔法の言葉」をかけてくれた。
<ソフィア、僕がついている。だから、君は君の望むとおりに動けばいいさ>
不思議と、セイリオの声を聴くと、憎悪がすっと消えていくような感覚になる。私は彼の方を見て微笑みを浮かべた。
「ありがとう、セイリオ」
私の感謝の言葉に、セイリオはただにっこり笑っていた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.99 )
- 日時: 2022/11/10 19:56
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
今、私達はチサト姫をどう救うか会議中であった。
私達、エクエス傭兵団は団員を数名失うという痛手、泣きっ面に蜂が刺すように、チサト姫までさらわれた。シャオの提案で、一度東郷武国を離れ、隣の国のスティライア王国のある領主の居城のいくつかの部屋を借りている。
団長とアレンが生死を彷徨うな深手を負い、二人まで同時に失うかと不安に思ったけれど、唐突に現れた「シビル=アストロロギア」という、なんとも胡散臭いを体現したような人物が、珍妙な武器を使って負傷者を応急処置をしてくれた。助かったけれど、なぜタイミングを見計らったように現れたのか。そう聞いても、「偶然偶然」などと言い、はぐらかす。目的は不明だけど、とりあえず、私達の敵ではない事はわかる。悪意を感じないからね。
……まあ、でもあの性格はきっと、アレンも嫌悪感を示して、彼女を拒絶するかもしれない。ああいう嘘は言わないけど本当の事も言わないってタイプ、アレンが一番嫌いな人だもの。
さて、私達は団長の回復を待ちながら、今後の動きをどうするか考えていた。チサト姫を救うべきだと、カズマサは声を上げ、今にも一人でも行ってしまいかねない勢いなんだけど。副長が首を振った。
「俺達の目的は、チサト姫を救う事じゃない。魔王を討ち、この大陸の自由を取り戻す事。チサト姫はあくまで協力を得るだけに過ぎん。一国の姫とはいえ……女一人を助けに行く事に、余計な時間を割くなどできない」
副長は冷たく言い放つと、カズマサは顔を真っ赤にして、今にも腰の刀――って言うんだって。それを抜こうとする。
「貴様ァ! 姫を見捨てるというのかっ!」
「ああ。姫さんには悪いがな。俺は一国の重鎮より、仲間を守る方が大事だ」
「斬る!」
カズマサが副長に飛び掛かろうとするのを、私、モーゼス、シャオで取り押さえる。
「私も、チサト姫を救うべき……だとは思うけど、人質にされてしまうくらいなら、見捨てるという道もありとは思うわ」
「レベッカ殿! お主はもう少し賢明だと思っていたが……姫君一人を救えずして何が自由を取り戻すか!?」
私に向かって唾を吐く勢いで喚くカズマサ。……あなたの言う通りだとは思うけど、私達傭兵団はまだ、そこまでお姫様とは親しくもないし、助けたいと思う程情も湧いてない。団長もこの場にいたら、きっと副長と同じく……いや、もしかしたら、助けに行こうと言い出すかもしれない。「弱きを守り、強きを挫く」が、私達傭兵団の信念みたいなものだもの。でも、今は本当に余裕がないから……だから、たった一人の女の子を助ける為に動くわけにはいかない。
「カズ、気持ちはわかるんやが……うちらかて、姫様一人の為に戦力を割く余裕はないねん」
「シャオ! 貴様、それでも馬廻衆か!?」
「元や。うちはもう滅びた国に忠誠の欠片もねえんやわ」
「やはり西京の人間はこうだ! 貫き通す仁義もないのかぁ!」
「……違うで、仕えるべき人間はもうおれへんっちゅー話や。東賀の人間は、死人に仕えるような連中なんか? 目を覚ましいな。あの国は首長の死と共に終わったんや。姫さんかて、もう姫と呼べるかどうかもわからん。ただわかるんは、あの子はたった一人の女の子に戻ったっちゅー事くらいやなあ」
「き、き、き、貴様ァッ!!」
ますます興奮するカズマサに、モーゼスは「落ち着きなさい」と連呼しするも、ますますヒートアップする。
「おのれ、もうこんな連中には頼れん! 拙者だけでも姫様をお救いに――」
「ストップ。落ち着きなさい、カズマサ君。冷静に」
「これが落ち着いて――」
カズマサの首筋にモーゼスが素早く手刀を入れる。ゴッという音と共にカズマサは糸の切れた人形のようにだらりと崩れ落ち、モーゼスがそれを受け止めてあげると、彼はにっこり笑った。
「あらあら、カズマサ君ったら。こんなところで寝ちゃったら風邪ひいちゃうわよ~。とりあえず、休憩室で寝かせましょうね」
と、まるで彼が勝手に寝ちゃったみたいに扱い、彼の肩に腕を回して部屋から出て行った。
「おお、こわ」
とシャオがそれを見守りながら、引きつったような笑みでこちらにも目配せする。
「しかし、実際問題。姫サンはどうすんねん? 本当に見捨てるんか?」
その問いに、副長は腕を組んで唸った。
「少なくとも俺は、姫を助けようとは思わん。帝国軍に連れ去られたってなら、放置するしかないな。なんせ、傭兵団は姫の家来でも従者でもない。さっきも言ったが、俺は仲間が大事なんだ。冷たいと思ってくれても構わんぞ」
「冷たいとは思った事もないわ。ただ……チサト姫の戦力は惜しいけれど、今帝国軍と事を構えるのは得策でもない。むしろ、人質を盾に無茶苦茶な要求とか、敵の庭に飛び込むのは愚行よ。こっちだって、害を被って何人か失ったんだから、今、たった一人の為に戦力を割くわけにはいかないわね」
私も本当は、チサト姫を助けに行きたいのは山々。だけど、その為にまた犠牲者が出たら、目も当てられない。私達は慈善団体じゃない。むしろ傭兵の集団なんだから、助けに行くにも見返りがないとね……。良心が痛むけれど、今の私達じゃ、彼女を救うどころか、逆に犠牲者を増やしてしまいかねない。
……あら? そう考えると彼女が攫われたのは、何か別の理由でもあるのかしら。だって、私達と彼女の接点は協力する直前でヤマタノオロチと帝国軍の襲撃を受けたんだから。まあ、ヤマタノオロチと帝国軍の襲撃が重なったのは、ただの出来すぎた偶然か、魔女の仕業だと考えるも。チサト姫を誘拐ところで、私達が動くわけもないのに……いいえ、もしかしたら、元々帝国側がチサト姫を回収しようとしてたのかもしれないわね。
何にせよ、チサト姫を助けに行くのは、諦めた方がいい。私はそう考えると、副長に向かって自分の考えを伝えた。
「――というわけで、チサト姫を助けに行くのはやめた方がいいわ。やるべきことが他にあるんだもの」
「……そうだな。まあ、姫さんには悪いが――」
タイミングを見計らったかのように、会議室の扉が勢いよく開く。
「邪魔するぞ~」
扉の向こう側から会議室に入ってきた人物。「シビル=アストロロギア」はそう言いながら、軽快な足取りで私達の目の前に現れた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.100 )
- 日時: 2022/11/10 21:44
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
私達は驚く事もなく、彼女がどうどうと入ってくるのを見守っている。副長は腕を組むと、ふうっとため息をついた。
「部外者が何の用だ?」
「部外者とは。命の恩人に対して冷たい態度じゃの~」
副長が睨みつけるも、口笛を吹きながらそっぽを向くシビル。何をしにここへ来たのかと思っていると、彼女はその疑問に回答してくれるように口を開いた。
「先ほどの話、ちとひどくはないかえ?」
「……何の話だ?」
「とぼけるでなぁい。チサトとやらの救出をせぬっちゅー話じゃよ」
ニヤニヤと笑いながら副長を見上げる彼女は、副長に近づいて顔を覗き込む。本当に食えない人だわ。私はふうっとため息をついて、彼女に向かって口を開いた。
「命の恩人とはいえ、あなたは部外者でしょう。お客様であって、この件に関しては無関係のはず」
「そりゃそうじゃ。儂はお主らの仲間になった覚えもないし、入れてくれともいっとらんわな」
「じゃあ口出ししないで頂戴」
「第三者の話も聞くべきじゃと思うがな」
尚も食い下がる。……正直、助けてくれたことは感謝しているけれど、老人一人がこの件に加わったところで、何か変わる事もないだろうと思う。事は単純な事じゃない。
「まあ、老婆心で一つ提案してやろうと思っておるんじゃから、とりあえず聞くだけ聞いてみい。老人の戯言か、おばあちゃんの知恵袋か。判断するのは聞いた後でもええじゃろう」
肩をすくめながらシビルが言うと、シャオが「う~ん」と唸りながら腕を組み始める。
「フィリドラサン。とりま話だけでも聞くっちゅーんはどうや? うちら、今は猫の手かて借りとう状況やし」
シャオの言葉に副長は渋い顔をし始める。青筋を立てて、何か言おうと口を開こうとしたけど、私が遮ってシャオの援護をした。
「……シャオに賛成するわ。話だけ聞いて、判断するのはどうかしら」
私の言葉を皮切りに、他の皆も私に賛成する旨を発言し始める。今は藁にも縋る思い。こんなところで燻っていたって、何も変わらないんだから。きっと皆もそう思っているんでしょうね。私達の言葉に、「あ~もうわかったわかった」と頭を掻き上げながら副長が叫ぶ。
「ったく、俺一人が悪者じゃねえか。……で、シビルさんよ。提案とは一体何なんだ?」
「よかろう、耳をかっぽじってよく聞くがいい」
――シビルは咳払いをした後、提案を語り出した。
「儂とアレンで姫を助けに行く。なんせ、ル・フェアリオ王国では今とんでもない事が起きそうだと、儂の勘がそう囁くんじゃ」
「とんでもない事?」
私は首を傾げる。
「今、「クーゴ・フェイカー」じゃったか。彼の者が「ユートピア」を引き連れて王国に向かっておるじゃろ。そこで魔王は待ち構えており、クーゴを残して全滅する。残されたクーゴも深手を負い……ああ、その先は儂の勘も見えないのう。とりあえず、お主らが今向かう事で、何人かは確実に助かる、はずじゃ」
「確かなんか?」
「儂がこの事を口にしたことで、未来は変わってしまったかもしれんし、変わらずその男一人を残して壊滅するかもしれん。女神エターナルすらわからぬ未来を、儂が知る由もない」
シビルはまた肩をすくめて、ため息をついた。……彼女、確か占星術師だとか言っていたけど、そんなにはっきりと見えるなら、彼女は占い師程度のものじゃない。予言者じゃない。
「で、姫をどうするかって話じゃが。儂とアレンの二人で助けに行けば問題なかろ。儂はまあ……強いとは言えぬが、帝国軍の雑兵を蹴散らすくらいの実力はあると自負しておる。アレンも、儂の超特急応急処置で、痛みに耐えれば多少は動けるようになるし。姫の事は儂とアレンで任せればよい。ル・フェアリオに向かうのであれば、今すぐ出た方がいい。1秒も惜しいくらいに切羽詰まっておるからな」
「……アレンを無理に動かすのは――」
「アレンなら先程話しておったが、まあ反抗的な態度じゃが何とか協力できそうじゃぞ。ああいうたん――おっと、元気な童程扱いやす――んんっ! 協力できる奴はそういない」
副長は今までで一番大きなため息をつくと、また頭を掻き上げた。
「……わかった、姫さんの方はあんたとアレンに任せる。……ただ、俺の大切な仲間を預けるからには、死なせたりしたらお前を絶対許さん」
「承知仕った。任せよ、子守りは師匠といた頃からやっとったからの」
シビルがにっこり笑いながら体をメトロノームのように揺らした。
「師匠?」
「気にするな。では、早速アレンにも話してこよう――おっと」
私の質問を華麗に回避すると、彼女は何かを思い出したかのように、手をポンっと音を立てて叩く。
「これをやろう」
「なんだこりゃ」
シビルから3枚の紙を受け取る副長。首を傾げた。
「名付けて、「三枚符」。1枚につき、1回願いを叶えてくれる不思議なお札じゃ。本当は師匠の形見じゃが、うぬらにやる」
「そんな大事なものを?」
私がきくと、シビルはふっと笑う。
「物は使うために存在する。使われない物は、形見だろうが日用品だろうがお宝だろうが、劣化して朽ちていく。だったら使うべき時に使える人間が使うべきじゃありゃせんか?」
よくわかんないけど、まあ使える物は使える時に使うべきっていうのは、おおむね同意ね。
「わかった。感謝するよ。お前も気を付けろよ」
副長が礼を言うと、シビルはにこりと笑って、ブイサインを私達に突き付けた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.101 )
- 日時: 2022/11/12 16:10
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
……というわけで、俺と目の前にいる、シビルばあさんと一緒に姫さんの救出に向かう事となった。
よりによってこいつとかよ……。俺は深いため息をついて項垂れる。さっきこいつを追い出したのに、またのこのこやってきて「儂と協力しろ」、だあ!? こいつには恥じらいとか躊躇いとかないのか? 嫌われてる相手に対して普通に接してくるのは一体何なんだ。本当にこいつの事がよくわかんねえや。
「まあ、そんな嫌がらんでもええじゃろ。儂とのおデートがそんなに嫌なのかや?」
「嫌に決まってんだろ。俺はお前の事が嫌いだっつってんだろうが!」
「けーっ、アレン坊やはお年寄りをもっと丁重に扱えよ。介護は若者の義務じゃぞ」
「介護されるくらい身体が弱ってるなら、戦場に出てくんじゃねえよ!」
「あ、手が滑った」
と、ばあさんが間の抜けた声でそう言った瞬間、俺の全身に電気が走ったような衝撃と痛みが駆け抜ける。言葉にならない叫び声を上げて、俺はそのままベッドに倒れてしまった。
「おーっと。これで大人しくなったか」
意識がある。ばあさんの声が聞こえる。……俺、死んでねえや。
「何をした?」
エルが俺の代わりに尋ねると、ばあさんはふっふっふと笑っていた。
「いや、つい手が滑って電撃を坊やに食らわせちゃった。……えへへへへへっ!」
珍妙な笑い方をする奴に、俺はもう呆れて声も出ない。……いや、それ以前に、なんか全身が痺れて声が出ない。エルは慌てる様子でもなく、ただいつもの調子で「早く戻せ」と言っている。ごもっともだ。
「しゃーねえのう。ほい、"スイヘイリーベボクノフネ・ナナマガルシップスクラークカ"っとな」
謎の呪文を唱えると同時に、今までの全身の痛みと痺れが嘘のように消えた。……いや、身体を動かしていない時だけの話だ。身体を起こそうとすると、鈍い痛みが全身を支配する。
「動かん方が良い。力での治療はあくまで治癒能力の促進。外傷はなんとか傷跡が残ってしまうが治りはする。だが、内臓へのダメージは医者に見せるか、治癒魔法でないと治すことはできん。あくまで応急処置と言う事は、肝に銘じておけ」
「魔女っぽい見た目なのに、魔法使えないのかよ」
俺は皮肉っぽく言ってやると、ばあさんは機嫌を損ねたように腕を組んで頬を膨らませる。
「魔法なんぞ、調停者の死と共に消えたと神話にある。魔法なんて使えるのは、数百万人に一人いるかどうかじゃぞ? 儂はありふれた哀れな一般ピーポーじゃもん。使えるわけがないじゃろ。考えろよ!」
ばあさんは仕返しとばかりに俺の額に指を当てる。
「儂の機嫌はとっといた方が良い。儂が応急処置とはいえ治療せんかったら、お主なんか血抜きされた鶏みたいに御馳走チキンになっとったかもしれんからのう~。今現在進行形で、お主なんぞ水風船みたいにできん事もないからなぁ」
それを聞いたクラテルが、俺の頭の中で声を出す。
<おもしれえ、こいつが言葉通りに俺を水風船にできるか、試してやろうぜ>
余計な事すんな。俺は冷静に突っ込んだ。
ああ、そういや、肝心な事を聞くのを忘れてた。
「そういや、ばあさんは――」
「お姉ちゃん、な」
「もういいだろ。ババア呼ばわりよりはマシだろうが。俺はあんたが嫌いだし、俺の好きに呼ばせてもらう」
「……ぷん。ええわい、好きに呼べ」
不服そうだ。……当然だけど、俺はこの人に対して好意を見せたくない。こいつは、なんか信用できないから。
「じゃあ、ばあさん。姫さんの所在を解ってんだろうな?」
「ん、解らんと思うのかえ?」
「質問で質問を返すんじゃねえよ。俺が聞いてるんだから、はいかいいえで答えろよ」
「……ふん、最近の若いもんは礼儀を知らんな」
ばあさんは肩をすくめて、半目で俺を睨む。
「解っておる。当たり前じゃろ。解らんかったらお主と協力して姫を助けに行こう! なぁんて言うわけないじゃろ」
「じゃあ、聞くけど。具体的にどこなんだ?」
「よかろ」
ばあさんがそう言って、腰から下げていた水晶玉を手に取って、俺の目の前に見せる。
「この甲冑女をご存じ、ないのですか!?」
「いや、見た事――ん?」
黒い鎧、黒い兜。しかもフルフェイスなので顔は全く見えない。もちろん、俺は知らない。……だけど、俺の中でこの女を見たクラテルが、明らかに憎悪の眼差しでこいつを見ていた。身体が彼の憤りでじわじわと熱くなるのを感じる。クラテルは独り言のようにぶつぶつと声を響かせてる。
<……こいつ、まさかカティ――いや、今は「アストリア・ベルフォーダー」とか名乗ってたっけか。この甲冑、見覚えがあるな。こいつ、魔王に殺されたと思ってたら、生きてやがったのか……>
「クラテル?」
思わず声を出すと、ばあさんは真顔になった。
「お主の中のグラディウス……いや、「クラテル」と呼んだ方がいいか。そいつは知ってて当然じゃろうな。なんせ、こいつの正体は……」
そこまで言うと、何か躊躇うように明後日の方向を見始めるばあさん。……そ、そこまで言ったならその先を言えよ! と思っていたら、俺の服の首元をぐいっと引っ張りよせ、俺の耳元で囁くように彼女は小声で言った。
「こいつの正体は、我が師である「メラムプース=ザ・セヴン・メガリ・アルクトス」の身体を何らかの理由で乗っ取り、若返った「カティーア=ザ・トウ・ラミアス」なんじゃ」
……へ~。と俺はそう思いながらばあさんからの次の言葉を待っていた。
………
……………
…………………えっ。
しばし黙ってよくよく考えると。……え、それ、ちょっと。どういう事? と疑問が脳裏を支配する。なんというか、突然言われた事を理解するのに時間がかかってしまったっていうか。
あれ、ばあさん、今なんてった? カティーアが別の人の身体を乗っ取って、今も生きているって――
「はああぁぁぁぁぁっっ!!!?」
俺は思わず外に漏れるぐらいの部屋全体に反響する叫び声を上げて、飛び上がった。
か、カティーアって仲間に殺されたって聞いたけど、奴がまだ生きてるんだって!? それも他人の身体を乗っ取って、しかも名前まで変えて!? つーか、その前に、メラムプースって確か……あれ、その人誰だったっけ?
<メラムプースはナインズヴァルプルギスの一人だよ。ラケルの友人でもある>
クラテルが補足すると、「はえ~」と感心する俺。
「でも、メラムプースって確か処刑された人なんだろ? それも大昔に。デコイさんからそう聞いたぞ」
「カティーアの奴、師匠の身体を何らかの方法で冷凍保存しとったらしい。それで、カティーアは何らかの方法を使って身体に魂を入れた。ラケルのような力を持たない限り、成功する確率なんて皆無だったはずじゃが、奴は鬼才だったのかもしれぬ。驚くほど簡単に成功させてしもうたわ」
「じゃあ、若返ったってどうやって?」
俺がそう聞くと、ばあさんはふぅっとあからさまなため息をつく。
「儂が知るワケないじゃろ。若返りなんぞ、魔人のメカニズムを利用した新たな技術を編み出したか、禁忌を犯したか。それくらいしか思い浮かばん。なんせ、若返りというモノ自体が、技師どころか、人類の夢であるからの」
確かに。それをホイホイやってのけてしまうカティーアは、ばあさんの言う通り「鬼才」だったわけだ。……まあ、それはそれとして。
「で、肝心のカティーア……じゃなかった。今はアストリアか。どこにいるんだよ?」
「慌てるでなぁい」
ねっとりとした声で水晶玉を指さす。水晶玉の中に、どこかの城が浮かび上がる。
「あ、ちなみにこの城、ここな」
「えっ」
ここなっつ?
「アホンダラ。んなわけないじゃろがい!」
「えーっと。つまりは……」
「アストリア・ベルフォーダー様は、こちらに向かっておいでです」
……言葉も出ず、俺は口をあんぐりと開けていた。もっと危機感を持ってくれよ……!
- Re: 叛逆の燈火 ( No.102 )
- 日時: 2022/11/12 17:10
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
「な、なんか対策とか無いのか!?」
「ない事はない。まあ、姫と「混ざり者」がこっちに来ている以上、ちょーいと苦戦するが、お主と儂さえおったら何とかなるはずじゃ……うぅん、多分な」
誰が誰と来てるなんて、簡単に予想できるもんなのか? 元知り合いだからってさ。……こいつ、予言者か何かじゃないか? だって、この人、偉大な占い師ってたって、占いなんかで未来が解るわけがない。師匠やモーゼス兄ちゃんが言ってた。「占いは所謂相談に乗って悩みを解決してあげる職業」だって。第六感の鋭い獣人だって、未来が見える程じゃない。情報を照らし合わせて、何が起こるかある程度予測する程度だ。
「このばあさん、一体何者なのか。と、考えておるのか?」
ばあさんは、俺の今考えた事をズバッと言い当てる。
「な、なんで?」
「ああ、主は単純じゃからな。うぷぷ」
とりあえず、変な笑い方をする変なばあさんだってことはよくわかる。
「まあ、儂、あやつとふっかーーーーーい因縁がある故、あやつの考える事など、ある程度予測できるわ。その間、魔王がどこに向かうか、も含めてな。お主らは姫を人質に攫ったと考えておるようじゃが、もち、それが目的ではありゃせんわ」
ばあさんはそう言って、腕を組み始める。
「アストリアの目的は、エルじゃよ」
「我か?」
「うむ」
奴の目的がエルって事は、姫さんを持ち帰るのを命じたのも奴って事になる。
あれ? ……じゃあ。
「じゃあ、魔女はなんであの時エルを手放したんだ?」
「ああ、お主は気づいとらんのか」
ばあさんがそう言うと、エルの肩を組んで、エルの頬を指でつんつんと突き始める。エルは嫌そうな顔はしていないが、暑苦しそうにしている。
「「アジ・ダハーカ」はお主か、こやつの影毒に耐えられる人間。はたまた、影毒に耐性、もしくは浄化ができる者でないと握る事は出来ぬ。ああ、ちなみに人間の姿の時はこうしてぶっちゅーってしても全然平気なんじゃがな。ふしぎ、ふしぎ」
カカカカッと笑うばあさん。だんだんうんざりしてきたのか、エルはばあさんを押しのけた。
「確かに、我は剣の姿だと、影毒を持ち主に少なからず与えている。アレンは右腕と右目のおかげで何事もない。ついでだが、ソフィアが手にとっても平気だ。だが、常人が我を握ろうものなら、手から影毒が浸食し、やがて魂まで蝕むだろう。だから魔女は持ち帰る事が出来なかったと推測する」
「……そういや、師匠が前に拾おうとした時、なんか変な顔して拾わなかったな。そう言う事だったか」
そう、前の訓練の時俺が思わずエルを手放した時、拾おうと手を近づけると、怪訝そうな顔で「ごめん」と一言謝って俺が結局拾う事になったんだよな。これが原因か。
「まあ、アストリア……いや、カティーアは毒系統の力を行使できる。まあ、お主程ではないが、確実に人間を毒漬けにして殺してしまう程の威力はあるぞ。普段は隠しておるが」
「じゃあ、俺はそいつに負けないな。俺は毒に耐性があるし」
「バカモン!」
俺の軽口をばあさんは一喝して黙らせる。
「お主なんぞ雛鳥みたいなもん。何十年も経験を積んだ人間に勝てるはずもないじゃろうが。わかれよ!」
「じゃあ、どうすんだよ!?」
「そう慌てるでない。奴はできるだけ自分の手を汚さないという信念みたいなものを持っとる」
「……嫌な信念」
俺が冷静にぼそりというと、ばあさんもそれには頷いた。
「儂もそう思います。まあそれはさておき」
ばあさんは水晶玉を手に取ると、「テクマクマヤコン テクマクマヤコン」と変な呪文を唱えると、水晶玉に手をかざす。だけど、エルが俺も気になっていたことを尋ねる。
「その呪文のようなものは必要なのか?」
「ないに決まっとるじゃろ。道具を使うのに、何か必要な事があるかえ?」
「ないな」
エルは納得すると、それ以上は口出ししなかった。簡単に引き下がるのも、こいつの良いところでもあり悪いところでもあるんだが……ああ、いいか。そんなこと言ってる間に、宙に青い光が広がって何か形を作っていく。地図のようなものみたいだ。
「さて。こちらをご覧になってください」
ばあさんが青い地図に向かって指をさす。
「この地図はこの城の全体図となります。ちなみに、城の者には話を付けておるから、あとはお主だけ説明を受けておりませんのでご清聴くださいませ」
突然の敬語に俺は驚くが、「まあ、いいか」と腕を組んで大人しく話を聞く。
「ここを――」
ばあさんが話を進めていく。地図を指さしつつ、敵の動き。そしてこの城の主がどう動くか。俺達はどう動けばいいのか。この戦いの指揮はばあさんが務めている事とか。……このばあさん、一体何者なんだろうか。かのメラムプースってナインズヴァルプルギスの一人の弟子っていうのは聞いたけど、その弟子ってだけで、この城の主である領主様が、ホイホイ信用するとかあるのか?
ある程度の説明を終えると、ばあさんは「よし」と一言。
「説明は以上じゃ。ちなみに、奴の目的はもちろんエルを持っていく事じゃが、ついでにお主らの大将であるアルテアを亡き者にする事ってのもあるから、アルテアを守る事も忘れるんじゃないぞ」
「……まあ、ある程度予想はしてたよ。団長はこの同盟の要みたいなもんだし……」
俺は頷いた。
――その瞬間、城門の方から爆発音が響き渡る。俺は慌てて窓の外を見ると、城門のある方向から、黒い煙がもくもくと上がっていた。
「お、おい! もう来たのか!?」
「お客様の御来店じゃぞ。安心せい、儂の張った罠術にまんまとかかった。城を抜けて、敵の懐に行くぞ。ついてこい」
「め、命令すんなよな!」
俺はエルを握り、蹴り破る勢いで扉を蹴飛ばすばあさんの後をついて行った。
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