ダーク・ファンタジー小説
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- 叛逆の燈火
- 日時: 2023/03/06 20:05
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。
ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。
アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。
ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。
「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」
果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?
余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞
2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止
目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」
- Re: 叛逆の燈火 ( No.133 )
- 日時: 2022/12/13 23:20
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
いやぁ、傑作だね!
「聖者ミーティア」……持ち上げられることが苦手な彼にぴったりな肩書じゃないかぁ!
僕は笑い転げながらアレンの様子が見える部屋の外を覗き込んでいた。扉が全開になっており、そこからアレンがエルと話している声が聞こえる。僕とアシュレイ、それにクラテルは、ババ抜きで遊びながら、その様子を見ていたというわけ。
クラテルが「お前の番だぞ」と言いながら、トランプ2枚を差し出してくる。
「ん」
僕は迷わず右のカードを引くと、クラテルが目を剥いて「な、なんでだよ!?」と立ち上がって怒ってた。
「ぷくく~、クラテルはアレンと同じで、顔に出やすいんだよ~♪」
僕が「ぷくく」と口元をおさえながらそう言ってあげると、クラテルがジョーカーのカードをテーブルに叩きつけ、カードを集めてまとめ始める。
「畜生、もう一度だ! もう一度!」
「うぷぷ。もう499連勝だよぉ。勝てるわけがない!」
「だったら、連勝を止めてやる。次は勝つ!」
クラテルがそう怒りながら、カードを配り始めていた。
「あんた達もよくやるわ……アレンが大変だってのに」
アシュレイが、いつものお茶を口にしながら、呆れつつそう口を開いた。半目でこっちを見てくる。……でも、ババ抜きに参加するみたいだ。
「ん、アレンなら大丈夫だよ。あんなに素敵な仲間がいるんだもの」
僕はニコニコしながらカードを広げる。ジョーカーが配られていたようだ。僕は顔色変えず、カードのペアをテーブルに捨てていく。
「クラテルだって、アレンの事……もう大丈夫だって思ってるんでしょ? カティーア……じゃ、なかった。今はアストリアだっけ。あいつと剣を交えた後、一度も部屋を出てないじゃない」
「……悪いかよ」
クラテルはそう言いながら、カードを捨てる。
「悪くない。ただ……どうしたのかなって」
「別に」
「んふふ。まあ、君もエイトみたいにいつでも外に出て、アレンを手伝ってあげたらいい。そうしなくてもいい。それが自由だ」
「俺は……」
クラテルの手が止まった。彼も、アレンと共に生きてきた。認知はされてなくとも、彼もアレンのきょうだいみたいなものだ。
「俺は元々影みたいなもので、奴を乗っ取ろうとしてた。奴を食い殺して成り代わって、この大陸にのさばる人間を全部ぶっ殺す……そう思ってた」
「ま、それは聞いた」
僕がそう言うと、ジャンケンを3人で始め、僕が勝利したので、クラテルにカードを差し出す。
「俺、多分、アレンが羨ましいんだよ。大切な人、仲間、友達。どんどん周りに人が集まってきて……同時に、大切な人を亡くして葛藤するあいつに、どう声をかけたらいいかとか。急に輝きを増しているあいつに、どう接したらいいのか……って考えたら。俺、あいつの傍にいてもいいのかなぁなんてさ」
珍しく弱音を吐いてる。まあ、羨ましがってるのはわかるし、事実、アレンの周りには、星の輝きに吸い寄せられるように、皆が集まっている。極星を道標に迷宮から脱出しようとする、人々が。
ふむ。クラテルも変わったもんだ。アレンを食い殺そうとしていた頃と全然違うじゃないか。まるで人間だ。彼も、心を持つ存在なんだな。いや、まあ、人間を憎む時点で、彼は心を持っているんだ。そんなのわかりきってる。
ここはあえて意地悪してみるか。そう思い、僕はにやりと口元を吊り上げた。
「簡単。傍にいてあげなよ。彼の魂と繋がっているなら、離れられない運命だ。まさに運命共同体だね! なんなら、もう混ざり合って彼と一つになればいい! そしたら僕もアシュレイも楽できる!」
「どういう意味だ?」
クラテルがキッと睨んでくる。僕は気にせず、2枚のカードをクラテルに差し出した。僕は、カードを交互に混ぜながら、クラテルに笑いかける。
「ん、例えば、さ。溶けたアイスとアイスが混じり合ったって、それがもう食べられなくなるってわけじゃないでしょ。紅茶と緑茶が混ざったって味がひどくなるだけで、二つの主張が消えるわけじゃない。現に、君達は魂が混ざり合ってるけど、どっちも死んでないじゃない。だったらさ」
僕はカードを混ぜる手を止めて、クラテルの瞳を見据えた。
「彼と一つになる事で、1(アレン)+1(クラテル)=2になって、さらにパワーアップだ! ま。君達の魂の波長が完全に一致しないと無理だけどね。そこは互いの心が一つに合わさらないとだめだ。できる?」
僕がそういいながら首を傾げると、クラテルが、カードを指でつかんでひょいと天井に掲げる。そのカードは、「ハートのエース」。
「あいつの事は、俺が一番よく知ってる」
そう言い放った後、クラテルは、カードをテーブルに捨て、部屋を出ようと踵を返した。
「答えをくれてありがとな」
そう言い残して、彼は部屋を出て行った。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.134 )
- 日時: 2022/12/15 22:24
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
次の日。
俺達は昨日の話も含め、今後の計画を決める会議を開いた。
俺達の事を整理すると――。
今いるこの領地……メリューヌ領地は、スティライア王国の、ル・フェアリオ王国国境付近に位置する、最も帝国に近い場所にある。俺達はメリューヌ領主……「マーク・メリューヌ」の居城を現在拠点にしている。前までの拠点は、あの死霊術師……マギリエルの放った合成魔物によって壊滅した。残っていた人員諸共……。
何をしようにも、裏をかこうとも、奴らは俺達の動きを読むように、確実にこちらを出し抜いていく。それはもう、嘲笑うようにな。今までは本当に幸運が重なっただけ。こっちに致命傷は与えられて生き残ってはいるものの、こっちからの攻撃は奴らにとって、かすり傷程度だ。こんな事で本当に奴らに勝てるのか? ……師匠が濁流にのみ込まれたあの日。傭兵団……いや、この同盟の士気は著しく下がっていた。そりゃあそうだ。師匠だってこの同盟の大事な戦力で、存在自体が希望となっている人も大勢いた。俺だってその一人だ。そんな師匠が死んだと知らされたなら。当然の結果だろう。
だけど、ここ1か月で失ったものは大きくとも、得たものだってその分大きい。まずはシビルばあさん。この会議で、友人である団長、デコイさん、先代と同じく親しくしていたエスティア公が説明してくれた。ばあさんの正体は「パメラ・メガリ・アルクトス」。俺は知らないけど、過去にあった「ナインズヴァルプルギス」の第七位「メラムプース=ザ・セヴン・メガリ・アルクトス」の養子であり弟子なんだとか。それになんと、ラケルや母さん、帝国先代皇帝である父さんの親友であり、帝国を離れた後は持ち前の力で団長やラケルや他友人の領主たちや、スティライア国王と連絡を取っていたそうだ。で、ラケルから生前指示があったようで。
「もし僕が死んだら、僕の代わりにアレンを助けてあげてほしいな」
と言われたので、遺言を果たす為に、老体に鞭打ってここまで来たんだと。
そして今、得意技である未来予知を使って、この同盟を確実に有利な方向にもっていく。と自信満々に語っていた。普段の口調や様子からは全然想像つかねーけど。とりあえずばあさんのおかげで、クーゴ兄ちゃんは死なずに済んだし、傭兵団だって犠牲者を出したものの、生き残る事が出来た。
「しかし、云千もいた義賊団を失ったのはかなり痛手じゃなぁ。相手は理すら超越する魔法の使い手もおるし、その他にも厄介な敵が勢ぞろいだぞい。年齢もあるが、儂の力や予知能力を以てしても、出し抜く事はほぼできんじゃろて」
ばあさんがらしくない弱音を吐く。
「あの、魔法と言うのは、それほどまでに強力なのですか?」
姫さんが恐る恐る手を挙げて、ばあさんに尋ねると、彼女は頷いて団長の脇腹を小突く。説明しろと言わんばかりに。
「魔法ってのはな……本当に世界の概念すら無視するような代物だ。その力は、もう何百何千何万何億にも遡る程の過去。女神エターナルの使者である、調停者エンブリオが人類に与え、当たり前にあるようなものだったんだ。だけど、今の俺達と魔王のように人類は争い、愚かにも調停者に与えられた力を向けたんだ。調停者は絶望しながら、この世から追放され、人類は一度魔法で絶滅した。……そんな話をバーバラ……いや、あの魔女から聞いたんだ」
なんというか、スケールのでかすぎる話だなあと、俺は思っていると。エルはまた考え事をしているのか、俯いていた。その後、カズマサが腕を組んで首を傾げる。
「絶滅したのに、魔法が使える人間が存在するのでござるか?」
「ああ。ある意味先天性の病みたいなものだよ。こっちじゃ文献に載っていたり、詳しい事は王族なんかが知ってる話だが……そういや東郷武国では魔法の存在はどういうものなんだ?」
団長の問いには、シャオ兄ちゃんが答えてくれた。
「魔法……は、多分「神術」の事やんな。前にも言うたやろ、東郷武国ではいろんな神サマを信じとる。「神」を自分の中に憑依させる「術」。本当に一握りの人間くらいしかできんくてな。それに該当するんは……ああ、姫サンのそれが一応「神術」や言うて、首長から直接聞いたんよ」
「えっ!?」
シャオ兄ちゃんの言葉に、姫さんが思わず声を出してシャオ兄ちゃんの方を見た。
「わ、私の巫術が、神術だったのですか!?」
「誤解せんといてな。あんさんの母様が神術使いだったんや。それを何割か受け継いで、姫サンの力になってるだけや」
「母上の……」
姫さんが胸に手を当てて俯くと、カズマサは感動したように「すごいでござるなぁ」と言っている。
「……だいぶ話が脱線したな」
と、エスティア公が咳ばらいをした後にそうつぶやく。
「つまり、魔女がいる限りは我らに勝ち目はないと?」
続けてそうばあさんに尋ねる。
「勝てない事はないぞ。アレンがいる限りな」
「えっ」
ばあさんが俺を指さすので、思わず間抜けな声が出る。
「アレンの力は魔法のように、理を超越する力。我々が持つオーラを貫通する事ができる。無論、魔王に唯一勝てるのは、アレンしかおらん。断言するぞ」
ばあさんがそう言い放つと、ヘクトが手を挙げた。
「だったらアレンさん一人で魔王に立ち向かえるよう、お膳立てすればいいという事ですか?」
「そりゃ、アレン一人でもいいんじゃないかなとか、そう思う時期が、私にもありました」
ばあさんは咳ばらいをしながら続ける。
「よいか。戦争っちゅーのは一人でやるものではない。ましてや少人数で勝てるわけもない。どんな精鋭部隊とて、1000人が10万人に勝てるわけがないじゃろ?」
「極端すぎますが、まあそうですね」
ヘクトは納得する。
「じゃあ、どうすってんだ? どうやって俺達は帝国に勝つことができる?」
副長は手に持っているボトルの中身を、口に入れながらそう尋ねた。当然の疑問。帝国に勝てなきゃ、最後は皆仲良く冷たい泥の中だ。
「儂らが勝つための……「策」は、ある。」
ばあさんは、再び口を開いた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.135 )
- 日時: 2022/12/15 23:07
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
ばあさんの策とは、まず帝国に向かっているという、スティライア王国の王女「エイリス」姫を救う。ばあさんが見える範囲では、姫を救うか否かで俺達の運命が変わるんだという。……久しぶりに聞いた名前に、俺は「うげっ」と声を出した。
あの姫さんの事が嫌いだから。
なんて思っていると、姫さんが俺の服の裾を引っ張った。
「なんて声出してるの。誰かを助ける時に出す声じゃないわ」
「……」
俺はフードを深く被って、姫さんから顔を逸らす。姫さんは「どうしたの?」と聞いてくるが、俺は無視をした。
「姫さん、そいつがなんで「お姫様」が嫌いか、わかるか?」
副長がふと姫さんに向かってそう尋ねると、姫さんは「いいえ」と答える。そりゃそうだ。だって、言ってねえし。副長、俺の方を見ると、頭をぐしゃぐしゃと掻きまわした。
「同族嫌悪だよ、結局」
「半分当たってるけど、半分違うよ」
同族嫌悪……いや、それもある。俺自身が皇族ってのも、もちろん理由だ。姉とも思ってねえけど、奴も俺の姉で、皇女で。あいつも自分のワガママをごり押して、世界を苦しめてる。
まあ、それもあるけど……王女様ってのは無駄にプライドが高くて、すぐに決めつけて、上から目線でモノを言う。そういうところが嫌いだ。あの人――エイリスも俺の話を聞かず、俺をソフィアソフィアと連呼して、話を聞かない。で、知らない事は知らない。知りもしない。世間知らずで、その立場に胡坐をかいてふんぞり返ってる。……これのどこを好きになれってんだよ。
俺がそう言い終わると、姫さんの方を見る。
「俺、世間知らずって嫌いだ。知ろうとしない、知らない事を知らないままでへらへら笑う奴って、昔の俺みたいで。知ろうとしないで、閉じこもってる奴と同じじゃないか」
ラケルに会うまでは、俺も何も知らない子供だった。クラテルに食われそうになりながら、怯えて、逃げて、知らないままでいようとしていた。
「同族嫌悪って言われちゃ、それでおしまいだよ。実際、俺、自分と同じような人間の上に立って、優越感に浸ろうとしていたかもしれない。そんな自分も嫌いだ。嫌な人間じゃないか」
「そんなことは」と言う姫さんの方に振り向いて、俺は彼女の瞳を見据えた。
「彼女が、あんたみたいな人だったら、きっと……俺はあんたにひどい事を言わずに済んだかもな……」
俺がそうため息交じりに言うと、突然、俺の頬に衝撃が走った。パアンと乾いた音が鳴り響き、俺は何かに叩かれたような痛みを感じて、頬に手を当てる。
目の前には、怒ったように目を吊り上げて、唇を尖らせる姫さんの顔があった。本気で怒っている事はわかるんだけど、なんで怒っているかは理解できなかった。なんで、怒ってるんだ?
「このアホ。アホレン! あなたやっぱ何もわかってない! 私の事……まだ「チサト」じゃなくて、「お姫様」のカテゴリで見てるんじゃないっ! 最低。昨日のエイトとの会話を聞いて、「この人って中身はとても繊細なんだな」って思ってたけど、違うわ。あんたは繊細じゃない。自分の嫌いなものを受け入れようともしない! ましてやそれを見下してる! それは繊細じゃなくて、「傲慢」よ。このクソガキ!」
姫さんの口から「クソガキ」と言葉が出たので、カズマサとシャオ兄ちゃんが驚いて、姫さんを落ち着かせようと宥めるが……
「あー、もう。あんたなんか私も嫌いよ。この……タコ! 一生引きこもってなさいよッ!」
そう言い放つと、会議室から勢いよく飛び出していく姫さん。
しん。読んで文字の如く静寂に包まれた会議室。皆顔を見合わせて、この状況をどうすればいいのかわからないでいるみたいだ。
「……ま、僕も概ねチサトさんに同意しますよ」
ヘクトが会議室のその静寂を破るように、そう声を出す。
「……俺が間違ってるのか?」
「間違っちゃいないですよ。人間誰しも、嫌いなものや好きなもの。十人十色ですよ」
「じゃあ、なんで姫さんは出て行った?」
「それは自分で考えるべきッスよ」
そこにスカイ兄ちゃんが口を挟む。
「アレン君、チサトちゃんってどんな人カナ?」
突然の問いに、俺は少し言い淀んでから、答えを言う。
「えーっと、気の強いお姫様?」
その答えに対して、ヘクトは深いため息をつき、スカイ兄ちゃんは頭を抱えて困り顔。……意味が解らない。
「……「クソガキ」」
と、副長が腕を組んでそうぼそりと言った。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.136 )
- 日時: 2022/12/18 22:05
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
その後、カズマサに宥められた姫さんが、会議室に戻ってくる。だけど、俺の方へ顔を向けないどころか、俺の事を無視している。……関係修復はあとにしよう。今は、王女様を追いかける事が先決だ。と、ばあさんが、テーブルの上に地図を置いて説明していた。
既に王女様は帝国の国境を越え、城へ赴いている頃だろう。と。
「魔王は……お主を亡き者にしようと、あの手この手をなんだって使うじゃろな」
「……ん、まあ。そうだろうな」
「わかっておるなら話が早い」
ばあさんが肩をすくめると、クーゴ兄ちゃんが手を挙げた。
「しかし、シビルさん。オレも経験したからわかるんだがな。正直、あのこの世のものとは思えんあの力は、まさに魔王の称号にふさわしいものだったぜ。どういう風にして、魔王に勝つってんだ?」
クーゴ兄ちゃんは自分の経験したことを語りつつ、そう言うと。
「魔王に勝つには王女様の力も必要なんじゃよな~」
ばあさんがそう言いながら顎を撫でた。
「どちらにせよ、王女を救う事で、スティライア国王にも恩を売る事ができる。俺は賛成だな」
と、団長も頷いた。あんまり言い方は良くないが……でも、それが最善の選択なら。とも思う。
正直、今はなどんな些細なものでも、どんな細い糸でも、縋れるものはなんだって縋りたい状況だ。だから、ばあさんの言う通りにしてどんな結果になるかはわからないけど、今より一歩でも多く進めるのなら、進むしかない。それ程までに、追い詰められている状況だ。
「王女様を助けに行くのはいいですが、誰を向かわせるのですか?」
姫さんがそう首を傾げると、ばあさんは俺と姫さんを指さす。
「お主ら二人と、他傭兵団の諸兄姉」
「はあ!?」
俺と姫さんは同時に声を上げ、俺の顔を見た姫さんがバツの悪そうな顔でこっちを見る。
「こんな人と一緒とか……」
「……」
俺も同じような顔をしてる事が自分でもわかる。歯ぎしりをしながら、ばあさんに文句を言おうとしたんだけど、ばあさんはそれを制止した。
「気持ちはわかる。……じゃが、魔王に一泡吹かせられる奴が、お主と姫殿くらいしかおらんのも現状。お主と姫殿の次点で、アルテアかフィリドラかクーゴじゃが、この3人を失ったら完全に負け確じゃし。まあ、死ぬとは思わんが、死ぬんじゃないぞ♪」
「軽すぎるんだよ!」
俺が反論しても、ばあさんは口笛を吹きながらそっぽを向いてしまう。ああ、もうこれは何を言っても無駄だな。そう察した。
「……で、傭兵団の面々が帝国に向かう間。俺達はどこへ?」
「フォートレス王国に向かう。国王に謁見するから、ついてこい」
ばあさんが、クーゴ兄ちゃんの肩を掴むと、「せいぜいか弱い老婆を守る盾となれ?」といやらしい笑みを浮かべていた。クーゴ兄ちゃんはというと、その顔を見るなり、とても嫌そうな顔で半目になっていた。
「じゃ、出発はいつにするんスか?」
スカイ兄ちゃんがそう尋ねると、団長が答える。
「明朝だ。王女殿が帝国の国境を越えたという事は、急がねばならん……が、まだ準備ができていない奴もいる。特に、アレン。お前はチサトとなんとか仲直りしろ。命令だ」
「えぇ……」
俺は声を上げると、姫さんがこっちを見るや
「こんな小さい男と仲良くなるとか、ありえませんね! 私はヘクト君と組みます!」
「……」
姫さんがヘクトの手を引くと、何か言いたげにヘクトは俺の顔を見るが、そのまま姫さんは、会議室を後にして出て行ってしまった。モーゼス兄ちゃんがその後、「あらあら」と言って、俺の肩にぽんと手を置きながら。
「俺と組む?」
「……」
俺もヘクトと同じように無言で俯く。
「面倒だなぁ、ガキ共ってさ」
先ほどまで無言だった副長がそう言い、ボトルの中身を口にしていた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.137 )
- 日時: 2022/12/17 23:51
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
「お姫様、気分はどう?」
私の胸を踏みつけて、見下ろしてくる彼女の顔――ソフィアの口元が歪み、笑いながらそう問いかけてきた。
良い訳がないじゃない。そう答えようにも、さらに強く踏みつけて、私が呻き声を上げる度に、楽しそうに笑っていた。
「苦しそうね。そりゃあそうか。私が踏みつけているんだもの」
ソフィアが嘲笑い、私の様子を伺っていた。
――私の鎧は砕け、肌が露出し、生傷だらけの身体を見ながら、どうしてこうなったのかを考えた。私は、ただソフィアと話し合おうと思って、父の反対を押し退けてここまできただけ……それがいけなかったの? でも、東郷武国もル・フェアリオ王国も壊滅し、戦死者が多数出たと聞いて、私はいても立ってもいられなくなって、ソフィアと話し合おうと思って、それで……! その結果が、兵を蹂躙され、私もこんな風にされてる。
「あなたの顔半分、素敵なお化粧ね。とても素敵よ。アハハハッ!」
ソフィアは笑いながら私を指さしていた。ソフィアの笑い声は久しぶりに聞いた。……だけど、昔のような無邪気な笑い声じゃない。他人を嘲笑う、下品な笑い声。
どうしてこんな事になってしまったんだろうか。
私はそればかりを考えて、ソフィアに反撃するなんてことができなかった。それをソフィアもわかっているのだろう。私を見下ろして、傍に落ちている、鉄製のロングソードを指さして言い放った。
「あなたがここに来た理由を当ててあげましょうか。どうせ、私と話がしたいとかでしょう。で、その剣は万が一の時の戦うためのもの。そうよね?」
私の考えが当てられ、私は目を見開いて彼女の顔を見る以外できない。彼女は突然怒りの表情を見せる。白い姿なのに、瞳だけが赤く、鋭い。それが私を冷たく睨みつけていた。
「マヌケな顔。今更話し合いなんか通じると思っているの? どれだけお花畑なの。そんな段階はとっくの昔に終わってるのよ。あなたが引き籠ってうじうじしている間にね。これは戦争。どちらかが死ぬか、あるいはどちらも死ぬか。そうしなければ終わらない。私を止めるには、私を殺す以外できないわ。やってみる?」
私から足を離し、ソフィアは一歩後退って、両手を広げて見せる。まるで、自分を殺せと言わんばかりに。
……私はよろよろと立ち上がり、落ちているロングソードを手に取る。でも、動けなかった。ソフィアは私を見て、馬鹿にするように吹き出す。
「あなた、ふざけてる? 今が恐怖を終わらせるチャンスだって言ってるのよ。その剣で、私のどこかしらを斬って、殺しなさい。そうすれば、全てが終わるわ。本当の、全てが」
挑発するような笑み。そして、言葉。私は震える手で、その場に硬直していた。
「できない……私達は、親友でしょ?」
私はそう言った。目からは熱いものが流れ出る。ソフィアは親友で、昔は仲が良くて、一緒にいて、それで、それで……!
「……つまらない」
ソフィアは吐き捨てる。
「親友なら私が止まるとでも? そういう段階はもうとっくのとうに過ぎ去ったのよ。本当に腹が立つわね。いい子ちゃんぶっても、状況はさらに悪くなるだけ。それも察せない?」
ソフィアの言葉に、胸にぐさりぐさりと突き刺さるように痛みが走る。ソフィア……本当に変わってしまった。本当に、昔のソフィアはもういないんだ……。悲しくて涙がまた零れた。
だけど、彼女は私の姿を見ても、同情どころか、軽蔑するように冷たく突き刺さる視線を送るだけだ。
「泣く体力はあるけど、私を殺す勇気もない。か。本当につまらない。アレンですら、私を殺す意思を見せて、私を何度でも追い詰めていたというのに……ああ、アレンと比べれば、あなたなんか羽虫程度だけどね」
またソフィアは挑発するように笑う。私は何度も侮辱されて、弾かれるように、剣を構えてソフィアに突進した。
――だけど、ソフィアは剣を握り締めて、私の動きを止める。まるで強い力に固定されるように、私がどんなに力を入れても、剣が微動だにしなかった。
「なんで!?」
「これがあなたとの差。お姫様、あなたでは私に勝つどころか、私が最大限に譲歩しても、私に傷つける事も出来ない。理解したかしら?」
ソフィアがそう言うと、握っていた純白の剣を、私の身体へと斬りつけた。お腹が剣で鎧ごと切り裂かれ、私の身体がぱっくり割れたようになった。
「あ……!」
大量に吹き出す、赤い液体。それを冷静な顔でソフィアは浴びて真っ赤になる。こんなに血が噴き出たら、私……死ぬかも。そう直感した。
「お姫様、あなたはまだ死なない。安心しなさい。あなたにはまだ仕事がある」
ソフィアは私の顔を覗き込んで、そう言った後、私は眠り込むように瞼が重くなっていった。
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