ダーク・ファンタジー小説
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- 叛逆の燈火
- 日時: 2023/03/06 20:05
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。
ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。
アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。
ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。
「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」
果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?
余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞
2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止
目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」
- Re: 叛逆の燈火 ( No.83 )
- 日時: 2022/10/24 21:10
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
「何やっとんねん、アレン君!?」
シャオ兄ちゃんの張り裂けんばかりの叫びが背後から聞こえてくる。今はそんなの構ってらんねえ。ややこしい事は後で何とかすればいいし。今はこいつの中にいる"やべえの"を、何とかするのが先だっての!
背後から姫さんから俺を引きはがそうと、バタバタと足音が聞こえるが――
「私に気安く触れるな、下賎な蛇の片割れ風情が」
姫さんの口からとは思えない低い声が、その場の空気を凍り付かせる。その静寂は一瞬で、掻き消された。姫さんが俺の右腕の拘束を、触手のようなものを使ってこじ開け、俺の顔に手を伸ばして、視界を塞いだみたいだ。
「貴様から先に始末してやろう」
姫さんの声が降ってきて、俺は床に叩きつけられたようだ。頭に衝撃が走る。細い腕、小さい手。だけど、女のものとは思えない力で、俺の頭を握りつぶそうと力が込められる。どんどん力が強くなり、俺は小さく悲鳴を上げる――こいつの好きにやらせてたまるかぁっ! 俺は無我夢中で足を振った。何かに命中すると同時に姫さんの悲鳴が上がって、視界が晴れる。俺は素早く、起き上がって姫さんから離れた。
「な、何がどうなってるんでござるか?」
周囲の皆を代表して、カズマサが剣を抜きながら困惑している。ごもっともな意見だ。
「アレン、一体何が?」
「詳しい事はデコイさんに聞いてくれ。そんなん言ってる場合じゃないんだよ」
団長に聞かれたので、ありのままを答えた。いや、本当に事情を説明している暇を与えてくれそうにない。エルは素早く近づいて剣となって俺に握られた。ホント、察しがいい奴で助かるな。そう考えて姫さんの方を見ると、彼女は俺に向かって肉薄してくる。多分、姫さんが剣を持っていたんだろう。それを構えて、俺に斬りかかった。
「やべえ!」
俺はその場から転がって避ける。姫さんが剣を振り下ろした場所を見ると、床は穴が開いていた。ああ、こういうのは慣れっこだけど、どうすればいいのかなぁ。と、思いながら立ち上がり、姫さんを見る。瞳は金色に鋭く光る。……蛇の目みたいで気味が悪い。顔にも変な赤い模様が浮かんでるし。影は8つの蛇が蠢いて伸びている。気持ち悪いな。これは一体?
「エル、一応聞くけど、アイツの正体はわかるか?」
『邪悪な蛇だ。今までは何らかの理由でチサトの中で眠っていた。だが、察しが付く。あの忌々しいネクとかいう小童に封印を破られ、徐々に生気を奪われていた……と、思う』
「珍しく曖昧だな」
『我とて、実際に目にしていない事はわからぬ』
エルが少しぶすっとした口調で俺を睨んだ。……悪かったよ。俺達が暢気に会話をしていると、再び姫さんが襲い掛かってきた。俺は必死に逃げる。
「貴様も私の"鬼ごっこ"で戯れてくれるのか?」
はあ!? やなこった! 俺は鬼ごっこなんか苦手なんだよ! なんて言ってる場合じゃねえや。俺は姫さんの攻撃を避けつつ、考えた。
姫さんは、黒く蠢いてる8つの蛇にに乗っ取られているって事はわかった。……だけど、どうすりゃ姫さんと蛇を引きはがせるんだ? と悩んでいると、エルが俺を見上げる。
『アレン、我は他者の魂に直接干渉できる。魂を分断することも可能だぞ』
「え、そんな事できんの?」
『あの小童ができるのだ。我ができぬはずがない』
意外に負けず嫌いな面があるんだなと思ってると、突然足に何かが巻き付いて、俺は派手にすっ転んで顔を強打する。姫さんの腕から伸びた蛇が俺の足に絡みついていた。
「そろそろ飽いた。貴様を食って終わりにしよう」
飽きるの早いっつーの! 俺はそう思いながら、絡みついてきた蛇を斬り落とす。蛇は頭部が落ちて、血がボタリと床を染めた。今がチャンスだ。俺はその場から離れた。俺が狙いなら、俺がこっから離れた方がいいに決まってる。そう思いながら命からがらその場から逃げ出す。背後から奴が追いかけてくる音がする。皆の事はデコイさんに任せる! あとで俺がお茶を淹れてやるから、そっちはそっちで何とかしてくれ!
背後からの衝撃音と、建物が壊れるような音、そして奴の触手攻撃を避けながら神社の中を徘徊する。神社の中は意外に迷路みたいだ。なんか、白い紙を張りつけた扉がいっぱいあって、なんか……同じような部屋ばっかりで。俺はとりあえず目の前にあった部屋に入る。本気で走った事なんて、今まで生きてきて数回くらいしかないから、心臓がドクドクと激しく音を鳴らして動いてるし、呼吸も乱れに乱れまくって息が苦しい。
息を切らしながら落ち着こうと座り込んでいると、背後から足音が聞こえた。――姫さんか!?
「鬼ごっこの次はかくれんぼか?」
俺は息を殺しながら、その部屋にあった箱を開ける。……衣装箱か? とりあえずその中に入ってやり過ごそう。と、俺はすぐさま衣装箱の中に入った。
ふたを閉めるとその中は真っ暗になり、俺は小声でエルと会話を始める。
「で、どうやったら姫さんとあいつを引きはがせるんだ?」
『簡単な話。我を奴の心臓に突き立てればよい』
「そんなんでできんの? 死んじまわねえのか?」
『心臓と魂は直結している。保証はないが』
「……ないのか」
『やってみる価値はある。我を突き立てろ。あとは我がやる』
「それまでは俺がやれってか」
俺は小さくため息をつくと、エルがふっと笑った。……こいつが笑うのは多分初めてだ。
『我は一人では何もできん。だから、頼りにしているのだよ、お前を』
……俺はその言葉に、何かこう、胸のあたりが熱くなるのを感じた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.84 )
- 日時: 2022/10/25 19:25
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
疑問は、奴を動けなくしてから聞けばいいか。奴が何者なのか、今はどうでもいい。姫さんなんて見ず知らずの人ではあるし、何の感情も湧かないけど、目の前で死んじまったら寝覚めが悪いし。……そんだけだ。
俺の位置はわかっているのか、衣装箱に近づく気配を感じる。――よし!
俺はエルを強く握り、右手を変形させた。不意を突くために、こちらから仕掛ける。
「うおぉりゃあ!」
毒に染めた右手で姫さんに腕を振り下ろす。だけど読まれていた! あいつ、俺の攻撃を読んで後退りやがった! そう思った瞬間、姫さんから伸びた黒い触手が俺の右手を絡めとり、そのまま床へ叩きつけられた。俺は身体が強い力で床を滑る。けど、すぐに持ち直し、左手に握る剣で斬り上げた。
「まるで童の遊戯だな」
姫さんがそう言って俺の剣を避ける。……くそっ、チョロチョロ鬱陶しいったらありゃしねえ! そう思っていると、目の前に黒い蛇が大きな口を開けて俺の上半身をに食らいついた。拘束されて身動きが取れない……! その間に緑色の大蛇が、俺を喰らおうと俺の二回りくらい大きな顎を開いていた。
「やらせるかよ!」
俺はやられまいと、影に意識を集中させて、姫さんの影から無数の剣山を突出させた。……ぶっつけ本番でもうまくいくもんだな。俺はそう思いながら、力が緩んだ黒い蛇を斬って、緑の大蛇も連続で真っ二つにする。体中傷だらけの姫さんは、まだ余裕そうな顔だった。蛇みたいに口が裂けていて、にいっと口角を上げて笑っている。そんな笑みを見て、俺はぞっとした。
「くふっ、面白い。下賎な蛇が私に傷をつけるとは」
『下賎とは。我は我だ。上も下もない』
「いちいちムカつく奴だ。お前は俺達を見下す程上にいんのか?」
俺が反論すると、姫さんは俺に飛び掛かり、首を細い腕でつかみ、そのまま俺を押し倒した。呼吸をしようと俺は必死に口を開け、姫さんを見る。蛇のような冷たい瞳が俺を捉えて離さない。苦しい……!
「貴様程度、このように捻り潰すなど、赤子の首を折るより容易い。図に乗るなよ」
「……かはっ」
首元の掌に力が込められたと思ったら、力を緩める。……こいつ、俺の反応を楽しんでやがる。俺は奴の瞳から目を離せなかった。俺は必死に奴の腕を掴んで、引きはがそうとはしてるけど、こいつの力は、毎日鍛えているはずの俺の力を遥かに上回っている。全然敵わない!
この状況を打破しなきゃ……でも、どうしたら……!?
心臓がバクンバクンと外に聞こえるくらいの大きな音を鳴らして脈打っている。視界が黒く染まっていく。……まただ。あいつが出てくる前兆。またあいつか。俺が弱っている時に限って奴は現れる。姫さんの背後に誰かが腕を組んでニヤニヤしながら俺を見下ろしているのが見えた。……金髪、青い瞳。黒い服。……毎日鏡で見てる顔。俺だ。いや、俺じゃない。あいつだ。
<なあ、本格的に死んじまうぞ、お前。抵抗しねえの?>
奴が俺の声で話しかけてくる。俺は無視した。こんな奴の声、聴く必要もない。
<俺に任せろよ。そしたら、こんな奴すぐぶっ殺してやるよ>
返事をしない。奴から目を離した。
だが、奴はいつの間にか俺の目の前に来て、視界に無理やり入ってくる。俺の顔でニヤニヤ笑い、俺の肩を叩いてきた。
<こんなのに負けて死ぬなんて悔しいだろ? つーか、お前ってまだやる事あんじゃん。あの女を殺すんだろ? じゃあ、ここで死んじまう訳にゃあいかねえだろうがよぉ>
こいつは俺の中にいる神竜の意思。俺じゃない。俺の意思でもない。俺がこんなこと考えるはずない。
<お前が俺に身体を渡してくれるだけで、こいつを捻り潰せる。簡単だ。すぐ終わるぜ?>
……そんな事したら。
「姫さんが死んじまうだろうが」
<ははっ、いいだろ。別に他人だし。俺達には関係ない奴だよ>
「うるさい。俺は誰も殺したくも、殺されたくもないんだよ」
<綺麗事言ってんじゃねえよ。お前は今までどれだけ傷つけて、殺してきた?>
俺の視界に今までの記憶が映る。傭兵団と初めて会った時、俺は帝国軍の連中を殺した。ソフィアがクルーガー公達を襲った時、俺は奴を玩具みたいにして高笑いを上げていた。森で帝国軍の罠にかかった時、俺は奴らが死ぬまで毒で苦しめていた。カズマサが襲ってきたとき、彼を踏みにじって笑っていた。そんな記憶達が走馬灯のように流れていく。俺は涙を流していたみたいで、目から雫がとめどなく零れていく。
<泣くほど苦しいんだろ? だったら俺に任せろ。あとは俺が何とかしてやる。何度も言ってるだろ? 俺に任せりゃ全部解決するんだよ>
……そうかもしれない。こいつに全部委ねりゃ、俺は苦しまなくて済むかも。辛くてしんどい思いをしなくて済む。悲しまなくて済む。……全部投げ出して楽になれるんだ。いいかもな、それ。この7年間、ずっとずっと帝国軍と戦って、失って、悲しんで、泣いて、辛くなって。……やっと解放されるってんなら、もういいかなとは思うよ。俺も。
――だけど。俺は必死にしがみついて生きてきたこの7年間を否定しねえ!
「お前なんか消えろ。俺は俺だ」
<……っ!?>
俺の返答に、奴が目をひん剥いて驚いた。笑える。あんな表情するんだなって。
<お前、なんでわざわざ苦しむ道を選ぶんだよ!? 苦しいんだろ? 辛いんだろ? だったら――>
「うるせえな。俺はそんな弱い人間じゃない」
<お前は人間じゃないんだよ!>
「俺は人間だよ、ラケルも言ってたんだ!」
<お前……なんで! 楽になりたいんじゃねえのか!?>
奴の姿がどんどん消えていく。俺が否定する度に、奴の姿が見えなくなる。
「わかったから、とっとと消えろ。俺は俺の道を行くから、お前はそこで立ち止まってろ」
俺は何事もなかったように立ち上がり、その場から立ち去る。背後から、俺の必死な叫びが響くけど、もう何を言ってるのか理解できなかった。耳障りな音だなあ、とだけ思ったよ。
視界が戻ると、金色の蛇目が俺を捉えている。
俺は目を見開き、奴の腹に思いっきり蹴りを入れた。腹にクリーンヒットし、奴は綺麗に弧を描いて吹き飛ぶ。床に倒れて俺を見上げていた。突然の事に目を白黒させ、何が起こっているのか、理解できないようだった。
「姫さん、待ってろ。今、解放してやっから」
俺は、姫さんに近づいて、姫さんの心臓あたりにめがけて、剣を突き立てた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.85 )
- 日時: 2022/10/26 19:35
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
「ひぎああああああぁぁぁぁあああっっ!!」
姫さんは耳を劈くような悲鳴を上げ、黒い靄が姫さんから湧いて出る。靄はどんどん大きくなっていき、実体を現していく。見上げる程の、いや、建物を圧し潰してしまう程の大きさになっていく!
俺は姫さんを肩に担ぎ、とにかく外に出ようと走った。メキメキと音を鳴らしながら神社自体が揺れている。俺は思いっきり床を蹴って外へ飛び出した。――と同時に神社が完全に崩壊する。俺は振り返ると、様々な色と8つの頭を持つ大蛇……もう大蛇ってレベルじゃねえ。空を仰がないとてっぺんが見えないデカさを誇る、蛇みたいな長い首を持った竜が、そこにいた。四本の足で体を支えてる。ってか、こんなのが姫さんの中にいたってのか!?
あ、そういや皆は!? と思って周りを見る。副長がデコイさんを肩に乗せてこっちに剣を構えながらやってきた。
「アレン、無事か!」
「なんとか。……みんなは?」
「神社にいた連中を安全な場所に運んでた。今は俺しかいねえけど、じきに来るはずだ。しかし、こいつは一体どうなってやがる?」
俺が聞きたいよ。と、思ってると、俺の疑問に答えてくれるかのように、目の前の八つ首の蛇がゲラゲラ笑いながら答えた。
<クハハハハ、童よ誉めてやろう。私をその娘から引き剥がし、顕現させるとはな!>
身もよだつ様な恐ろしい声。想像通りだし、強者の威厳すら感じる。こんなすげえのを倒せるのか、若干不安になってくるが、不思議と頭は冷静だ。
絵本で見たことある。八つ首の蛇に8人の聖女を毎年一人ずつ生贄として捧げていた話。残り一人になったところで、旅の勇者がその聖女を救い、蛇を封印した話。そんな話を思い出させる見た目だ。
「こいつは、「ヤマタノオロチ」。我らの国を苦しめた忌々しい「邪竜」と呼ばれる魔物でござる」
「うおぉっ!?」
俺はいつの間にか隣にいたカズマサの声に驚いて、思わず彼の方を見た。
「おま、いつの間に――」
「拙者、これでも風のように速く動けるでござる。……レベッカ殿のように小回りがきかんのが玉に瑕でござるが」
カズマサの答えに「へ、へえ」と答えると、目の前の大蛇が大声で笑い始めた。
<然り。我が名は「ヤマタノオロチ」。巫女によって16年程の刻をその娘の中で眠っていたが……先刻、妙な白い童が封印を破り、私はその娘の身体を奪おうとしていたが……童よ。貴様が現世に顕現させてくれるとは。ご苦労であった>
『莫迦め。実体があるというのなら、遺恨なくお前を斬れるという事だ』
なぜかエルが勝ち誇ったような声を出す。……こいつ、最近感情が豊かになってきたな。と、思うと同時に、エルの言う通り。こいつを斬る事ができるようになったわけだ。
<愚かな。私は不滅だ>
大蛇はそう言うと、緑の頭の蛇が俺達に襲い掛かった。顎を開いて噛みつこうとするが、俺達はそれを避ける。俺は副長に向かって叫んだ。
「副長、姫さんを頼む!」
「もうやってる、安心して思う存分やれ!」
流石副長と、顔を大蛇の方に向ける。俺が副長の方に顔を向けている間に、赤色の蛇が俺の方へ向かって口を開いていたようだ。口から熱……ブレス攻撃!? 燃え盛る火炎が奴の口から飛び出し、辺り一帯を焼き払う。背後の木々が一瞬で炭と化した。ブレス攻撃を避けたって、青色の蛇が俺を狙い、今度は吹雪のブレスを吐いてきた。今度はそこら一帯が銀世界に変わる。
俺は地面を蹴り、蛇の首の根本を狙うが、白色の蛇が俺の前に現れて、斬撃を防いだ。剣が当たると「ガキン」とまるで鉄を叩くような音が鳴り響くだけで、傷を与えられない。そのまま白蛇は俺に体当たりし、俺は宙に身を投げ出された。
「アレン殿ッ!」
カズマサの声が聞こえるが、俺はどうしようもなく地面に叩きつけられるのを待つのみ――だと考えてる最中にエルが俺を見た。
『アレン、飛べ!』
「はあ!?」
エルの言葉の意図を考えてる暇はない。俺は背中に意識を集中させると、ぶわあっと身体が宙を舞った。背中から黒い影の翼が生えている!
「なんだこれ!?」
『驚いている暇はない。来るぞ』
エルの言う通り、飛んでいる俺に向かってヤマタノオロチが口からブレスや炎の弾、氷の弾、風の刃を射出して、俺を打ち落とそうとしていた。それを慣れない飛行で何とか避けつつ、俺はヤマタノオロチに剣を構えながら急接近した。剣で刺突……と言うわけにもいかず、再び白い蛇が斬撃を防いで、俺の剣ははじかれてしまった。
<その程度か、童よ>
ヤマタノオロチが笑う。カズマサも剣で奴を斬ろうとしてはいるが、やっぱり白い蛇が邪魔してダメージを与えられない。……俺達がダメージを受けてばっかりで、ワンサイドゲームって奴だ。何とかなんねえのかよ、畜生! と俺はまた飛翔して奴の弱点を探している。
「ねえ、アレン」
「ひゅわっ!?」
背後から突然声が聞こえたので、驚いて俺は振り向く。……が、誰もいない。
「おい、こっちだアホレン」
「……デコイさんか。誰がアホレンだ」
デコイさんが俺のフードから顔を出す。……いつの間にか俺のフードの中に入っていた――ああ、副長が近づいてきた時か。
「奴の弱点は多分、尻尾だと思う」
「なんでわかんだよ」
「奴の尻尾、崩れた建物の中に隠してるのが見えるからさ」
俺はそう言われて改めて奴の身体を見る。デコイさんの言う通り、崩れた建物の中に奴が尻尾の部分を隠しているのがわかる。隠してるってことは、そこは触れられたくないって事かもしれない。弱点を狙ったらちょっとは勝機が見えてくるか? ……そもそもどうやって奴の尻尾を狙おうか。なんて考えながら、俺は射出されるブレスや弾を避けている。それに、だんだん疲労感で身体が重くなってきてる気がする。
『アレン。長時間の飛翔は推奨できん。この翼は、お前の精神力をどんどん削っているのだから、休憩しなければいずれ意識を失い、墜落する』
「早く言えよ!」
『聞かれなかった』
エルはいつもの調子で他人事のように言う。……だけど、弱点が分かったなら、もう一度地上に降りて、カズマサとも協力しねえとな。俺は背中の影の翼を消し、地上へ降り立った。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.86 )
- 日時: 2022/10/26 23:38
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
俺が降り立ったと同時に、カズマサが瞬時に俺の隣まで来ていた。
「カズマサ、ちょっと協力してくれ。あいつの尻尾を狙いたい」
「……おお、アレン殿。流石でござるな。奴は尻尾を弱点としておる。なぜかは知らぬが、そこを狙えば動きを止める、はずでござる」
「はず?」
「……奴の尻尾は硬くて斬れぬのだ。拙者らも――」
肝心なところで紫色の首と黄色の首が、俺達を飲み込もうと顎を開いて襲ってきた。
そこで、エルが俺を見る。
『アレン、我なら尻尾を斬る事ができよう』
「一応聞くけど、根拠は?」
『我が魂に干渉できるからだ。我なら、魂を両断するなど容易い』
「……お前白い首は斬れねえじゃん」
『あれの鱗は我自身では無理だ。恐らく、白い小娘の方でないと斬れぬ。だが、それ以外なら我なら斬れるぞ』
「ああ、もう。今はお前を信じる事にする」
俺はエルの提案を呑んだ。あとはどうしてこの一方的な状況を打破するか。カズマサもなんとか尻尾への道を切り開こうとしているが、やっぱり二人だけじゃ足りない。……どうするかな。まずはあの白い首をどうにかしないと、俺達の体力が削られていくだけだ。
思考中ってのは目の前に集中できないものだ。俺は目の前に緑色の首が顎を開いて、俺を丸のみにしようと迫ってきていたのに気が付かなかった。
「やべえ!」
俺は避けようとするが、黒い首が目を赤く光らせていたのが目に映る。その瞬間、俺の影から触手のような蛇が身体に絡みつかせ、動きを封じられてしまった。もがいている間に赤い口が俺の目の前まで迫ってきた。
だが、ヒュンっという風の切る音が鳴り響き、緑の首の両目を貫いた、一筋の光。あれは……スカイ兄ちゃんの弓銃の矢だ! 俺が驚いて口をあんぐりと開けていると、誰かが俺の背後から現れ、触手を素早い動きで切り裂いた。拘束が解けると、俺は緑の首に向かって握っていた剣を振る。横に一閃。緑の首が顎から切り裂かれて、鮮血を吹き出しながら動かなくなった。
<……貴様!>
流石にヤマタノオロチも怯んだようだ。俺が後ろを見ると、スカイ兄ちゃんが手を振っており、隣にはヘクトが澄ました顔で、手に持っているナイフを指で回しながらこちらを見ていた。
「お待たせッスよ、アレン君」
「全く、この程度のデカイだけの魔物に苦戦して。僕より年上なのに情けない事この上ないですね」
スカイ兄ちゃんは笑みを浮かべているし、相変わらずの減らず口のヘクト。今は二人に感謝しかない。
「ありがとう、二人とも。来てくれたんだな」
「……あ、アレンさんが感謝の言葉を!? 頭でも打ちました?」
「お・ま・え・なぁっ!」
い、今は喧嘩してる場合じゃねえ。俺はヤマタノオロチの方へ向き直ると
「全員、奴の動きを止めろ! いいか、アレンを攻撃させるな!」
団長の叫びと共に、傭兵団の皆が各々の武器を持って残り7つの首に攻撃を仕掛け、必死に喰らいついていた。と、同時に俺は背中からぐいーっと引っ張られた。振り返ると、師匠が俺の背中から担いでものすごいスピードで奴の尻尾部分まで走っていたんだ。
「師匠!?」
「ぼーっとしない! 話はもう理解したわ。皆あなたの為に戦ってるの。このチャンスを逃さないで。私も援護するわ」
「は、はい!」
師匠のおかげで奴の尻尾部分まで一瞬だった。崩れそうな建物が空洞のようになっていて、見上げると奴の尻尾が目に入った。尻尾部分は様々な色を持った光を放っていて、確かに何かがありそうだ。
だが、ヤマタノオロチは俺達に気づいたのか、黒い首を俺達に近づけてくる。
「ここは私が。早く尻尾を――」
師匠の言葉はそこまでで、黒い首にさらわれた。……畜生、マジで早くしないと!
『アレン、いくぞ!』
俺は地面を蹴り、駆け出す。剣を握り締める手にも、足にも、全身にも、髪の先まで。全てに力を込めて剣を縦に振った。
尻尾は見事に斬れる。尻尾の断面から眩い光があふれ、俺は「うっ」と声を上げて目を瞑り、顔を両腕で覆う。同時にヤマタノオロチが悲鳴を上げた。耳を劈くような声は、山を揺らしていた。
<おのれおのれオノレオノレオノレェェェェェェェッ!! 小癪な人間共がああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!>
ついに余裕がなくなったのか、ヤマタノオロチが叫んで暴れ始めた。7つの首をデタラメに動かして、周りを揺らして破壊する。大きな地鳴りと轟音。揺れる度に瓦礫が落ちてきていた。俺の脳天に、崩壊して崩れてきた瓦礫が迫ってくる。やべえ!
――が、また背後から強い力で引っ張られ、間一髪でその場から離れることができた。師匠が乱暴に俺を地面に放り投げる。投げ出された俺はすぐに起き上がった。師匠は手をパンパンと叩きながら手についた埃を落とす。そして鞘に納めていた剣を抜いた。
「アレン、まだ仕事が残ってるわよ。奴を完全に沈黙させる。私と、あなたでね」
師匠が剣を振って、奴の方へ向き直る。俺は大きく頷いて立ち上がり、剣を構えた。
冷静さを失って暴れまわってる奴を倒すなんて、魔王を倒すなんて事より簡単だ。やってやる。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.87 )
- 日時: 2022/10/28 20:45
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
「つーか、デコイさん。尻尾を斬ったら大人しくなるとか言ってなかったか?」
「言ったっけ。まあ実際に戦うのはアレンだし、とりあえず頑張ってよ」
他人事みたいに楽しんでいるデコイさんに、呆れを通り越して笑いがこみあげてくる。いいさ、言いたい事はまず目の前の大蛇を倒してからにしよう。
俺と師匠は顔を見合わせ、無言で頷く。何をするべきか、何をさせたいか。そんなの、ずっと一緒に戦ってきた俺達なら、何も言わなくたってわかってるさ。俺が暴れるヤマタノオロチに向かって走り出すと、師匠は一瞬で消えた。……いや、消えたというよりは、俺の目で追えなかった。ヤマタノオロチが無茶苦茶に炎やら氷のブレスを吐いてくる。俺は走りながら剣を振り、それを切り裂いた。狙いの定まらない攻撃なんか、避けるのも斬って無効化することも簡単だ。
「アレン、奴の腹に目玉があるでしょ。あれがコアだ、あれを狙って!」
デコイさんが俺の髪を引っ張り、指示をしてくる。俺は「おう!」と元気よく返事して、奴の懐に潜り込もうと近づいた。だが、足元が膨れ上がる。岩の槍が突出して俺を狙ってきたんだ。
「アレン!」
師匠が俺のフードを引っ張り、その勢いで俺は尻もちをつく。今度は黒い影が俺達の周りを囲い、俺達を飲み込もうと広がった。
「必殺、回転斬りってね!」
師匠が叫びながら目にも止まらぬ速さで、周囲の影を切り裂く。影が消滅すると、師匠が俺の腕を握って引いた。彼女が走り出すと、確実に蛇の懐に近づく。奴の腹部は大きく裂け、真っ赤な目玉がこちらを捉えていた。白目の部分が真っ黒で、まるで穴の中に真っ赤で不気味で冷たい瞳が浮かんでいるようだ。
<やらせぬぞおおおオオオオオッ!!>
やっぱり懐のあの目玉は、突かれたらまずい場所何だろう。ヤマタノオロチが全部の首を俺達に集中させ、7つの頭が俺達に向かって襲い掛かる。だが、師匠がこちらを見てウインクをすると、俺を思いっきり投げた。また宙に投げ出され、勢いよく懐の目玉に近づいた。
『今が好機だ、アレン!』
「わかって、るよおおおおおおおおぉっ!」
エルの声にそう答え、俺は勢いのまま目玉に向かって、体中の力を込めて剣を突き立てた。
静寂が訪れ、ヤマタノオロチが沈黙する。……それは一瞬で。その後すぐに奴が周囲を震わせるほどの悲鳴を上げていた。俺は思わず耳を塞ぐ。空気がビリビリと震え、地鳴りも怒っているのか、足元に振動を感じた。
俺が突き刺した場所から奴の身体にヒビが入り、どんどん広がっていく。ビキビキと音が響き、奴の身体は、ガラスが衝撃を受けて崩れ去っていくように、どんどん消滅していく。
奴が消滅した後、俺の目の前に黒い炎のような靄が、燃え盛るようにゆらゆらとその場で揺れていた。
<……無念だ>
炎がそうぽつりとつぶやく。
「お前、たくさんの人を苦しめたんだ。じゃあもういいだろ、十分暴れまわったんだからさ」
俺は瓦礫の中に埋まっていた剣を拾い上げ、エルについていた土埃を払いながら、炎に向かってそう言う。
こいつはきっと、何度も何度でも復活して、何年も何十年も、何百年だって先の人間を苦しめる。だから今このまま放置すれば、きっとまたすぐに復活して、誰かの身体を乗っ取って、今回みたいなことになる。……と思う。
『もっと優しく扱え』
「へえへえ、すまんね」
エルは叩かれるたびに小言を言うが、俺はこの方法しか埃の払い方を知らない。だから我慢してもらおう。と思いつつ、パンパンと音を立てながら埃を払う。
炎が弱弱しく、だが未だに身もよだつ恐ろしい声で、俺達に言い放った。
<私は不滅だ。……私は、亡びぬ>
「そうかよ」
俺はそれだけ言うと、剣を構えた。
<何をするつもりだ?>
「エルがお前を食うってさ。不滅ってなら、腹の中に入れて大人しくさせる」
<……>
炎が沈黙した。奴が何を考えてるなんて知らないし、別に聞きたくもない。でも、最期の言葉くらいは聞いてやるか。と思ってる矢先、エルが突然こんな事を言いだした。
『下賎な蛇に食われる気分はどうだ?』
……こいつ、意外と根に持つんだな。そう思いながら、炎の返答を待った。
<ああ、本当に。無念だ>
それだけ聞くと、俺は炎を斬った。
これで、ヤマタノオロチは滅びたはずだ……。
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