ダーク・ファンタジー小説
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- 叛逆の燈火
- 日時: 2023/03/06 20:05
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。
ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。
アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。
ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。
「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」
果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?
余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞
2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止
目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」
- Re: 叛逆の燈火 ( No.158 )
- 日時: 2023/01/07 23:36
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
俺が眠っていた時間は、意外と短く1日程度。目が覚めた時にはまだ陽が高かった。
実際、あっちにいた期間は数週間とか、それぐらい長く感じてたけど、そうでもなかったのか。俺は身なりを整えて、皆の前に立つ。
「ごめん、迷惑かけて。……俺、もう大丈夫だから、心配しなくてもいいよ」
「挫折なんざ、後で立ち直れるなら、いつでも何度でもしたらいいさ」
団長がそう言うと、副長も頷く。
「落ち込んだらいつでも俺に言え、ケツに火ぃつけてやる」
「そ、それは勘弁」
副長は俺の返事を聞いてカカカカッと大笑いした。その後、スカイ兄ちゃんが肩を組んできて、俺の頬を人差し指で突いてくる。
「まあ、でも。今回はチサトちゃんがうまくやってくれるって信じてたッス。ヘクト君も、同じようにアレン君を引っ張って戻ってきてくれるって、言ってたッスよ~」
「ヘクトも、心配してくれてたのか?」
「モチのロンッスよ~!」
スカイ兄ちゃんが笑いながらそう言った後、モーゼス兄ちゃんが近づいてくる。
「いい仲間を持ったわね、大事になさいな」
「当たり前だ。でなきゃ、シスターに枕元に立たれる……」
俺がそう言うと、モーゼス兄ちゃんが「うふふ」と笑った。
「大丈夫よ、あの子なら心配してないと思うわ」
さて、そんな話をしながら、俺はふと思った事があった。
「なあ、団長」
「どうした?」
「エイリス王女様は? 無事か?」
当初の目的、エイリス王女様を救う事。それが達成できなかったなら、俺があの古城で、エレノアとルゥを自分の手で殺めてまで守った意味がなくなってしまう。……苦手な王女様を助ける為に、俺は――。
ああ、嫌だ嫌だ。性格悪いじゃないか、こんな考え方。
「……エイリス王女様は無事だ。今は別室をマークに用意させた」
団長がそう答えると、俺は歩き出す。
「ちょっと会ってくる」
「いいのか、苦手な奴だろ?」
副長が呼び止めるので、俺は扉の前で振り向いた。
「ん、大丈夫……だと思う」
俺がそう言って、扉を開け、部屋の外に出る。エルも当然ついてきて、俺の後ろを歩く。
「案内するぞ」
「あ、悪い。頼む」
「部屋もわからないのに進もうとしていたのか」
「……」
俺は答えられず俯く。
「まあ、いい。しかし、お前からエイリスに会いたいなどと。正直意外であった」
「……チサトの事、信じられるようになったし。王女様も大丈夫だと思って」
「そうか。お前がそう思うなら、それでいい」
エルはそう言ってある部屋の扉の前で立ち止まる。そして振り向いて。
「ここだ」
と一言。俺は扉にノックをすると、男性の声がする。
「どうぞ」
最初はびっくりして飛び上がりそうになったが、俺は「し、失礼します」と冷静を装って扉を開けた。中には、金髪碧眼の、白衣を着ているエイリス王女様と、彼女がいるベッドの前の椅子に腰かけている、紫色の髪のお兄さんがこちらを見ていた。お兄さんはすらっとしていて、翠色の瞳が綺麗だ。眼鏡をかけているのがもったいない。その後ろには、灰色のローブを着込んだ子供が立っていた。フードに隠れて顔が見えない。
紫色の人が「マーク・メリューヌ」領主様。隣は……確か前に聞いた時、「アサヒ・キド」って名乗ってた気がする。東郷武国出身だとも聞いた。詳しい事は知らねえけど、あの国の生き残りらしい。
「やあ、アレン殿。ようやく起きたようだね」
メリューヌ公がそう言うと、にっと笑いかけるもんだから、つられて笑う。王女様の方を見ると、暗い顔をしている。なんかあったんかな。と思っていたら、アサヒがこっちを見てくる。
「今、閣下がお話の最中にござあます。しばしお待ちを」
「そうだったんですか。すみません……」
「おやま?」
アサヒが首を傾げる。
「アレン殿、ちょっと前まで閣下や私相手に無礼な振る舞いをしとったクソガキだと思っとりましたが、前とは全然違うでござあますぇ。どうしました?」
「……アサヒ、失礼だぞ」
「いえ、閣下に失礼だったこのクソガキが悪ぅござあます」
「全く……」
アサヒの毒舌にため息をつくメリューヌ公。……いや、確かに俺、以前はメリューヌ公にすごく失礼な態度をとっていた気がする。エルもそれに同調した。
「確かに、アレンは未熟であった。ここで詫びよう。申し訳ない」
エルが頭を下げると、アサヒは「んま、ええんでござあますけどもね」と顎を撫で始めた。……なんか惨めな気分だ。
「いや、しかし……本当に変わったね、アレン殿。以前はこう……未熟な面が見え隠れしていたのだが」
「……いや、俺の話はいいんですよっ!」
俺は慌てて話を戻す。
「すみません、俺、後から来ますんで。お話し中だったみたいでしょ?」
「あ、いや」
俺が部屋を出ようとすると、メリューヌ公は俺を引き止め、アサヒの方を見やる。アサヒは頷いて、右手を掲げて指を鳴らした。
パチンと音と共に煙がボワンと出てきて、メリューヌ公の隣に椅子が二つ、煙の中から落ちてきた。
「お座りを」
アサヒがそう促すので、驚く暇も無くその椅子に座る事になった。……意外と座り心地がいいな、これ。何でできてるんだ? そんな疑問を持ちつつ、メリューヌ公は話をつづけた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.159 )
- 日時: 2023/01/09 22:48
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
メリューヌ公は、王女様にも目を配せつつ、話を始めた。この先の戦いに、王女様を巻き込む訳にはいかないので、できれば安全な場所にいてほしい。……と、いう話をさっきまでしていたらしく、二人で説得していたんだそう。まあ、でも、王女様は頑固で、二人の申し出を断っていたみたいだ。
「私は、一人で安全な場所にいるなど、できません」
「しかしですねぇ、我々はあなたを守る為の戦力を割く手間すら惜しいのでござあますよ。今回、アレン殿がああなったのは、あなたが軽率な行動を取ったからで。あなたが大人しくしていれば――」
「アサヒ、そうやって毒を吐くのは良くない。」
「んふぅ」
アサヒの毒舌を見かねたメリューヌ公が、アサヒを諫めるが、不服そうな顔をしている。
「……確かに、私の軽率な行動で、皆さんを危険に巻き込んで、アレンも弟妹を手にかける事となってしまい。本当に、取り返しのつかない事をしたと思っています」
王女様は頭を下げる。だけど、王女様が頭を下げたって、エレノアとルゥが戻ってくるわけじゃない。という思いがよぎった。
前の俺なら、きっとこの人の話を聞いただけで、怒り狂って怒鳴っていただろう。……でも、今ここで彼女を怒鳴って、貶めても、何かが変わるわけでもねえ。
エレノアとルゥの件は、いずれこうなってた。いつか決着を付けなきゃいけない事だったんだ。それが早まっただけ。覚悟が足りてなかっただけなんだ。
そう頭で整理して、俺は王女様に口を開く。
「自覚してるなら、それでいい。この話は終わりだ」
俺がそう言うと、アサヒが口をとがらせる。
「終わりにはできんのでござあますよ。今後、殿下が同じような事をしないという保証がないのでござあます故」
「はあ……じゃあ、どうしたらいいと思うんだ?」
「我々の目の届く場所で静かにしてもらうのが一番いい」
「軟禁か?」
「それも一案でござあますわね」
王女様がそれを聞いて反論した。
「軟禁!? あなた、王女である私を軟禁するというのですか!?」
「あくまで一案でござあます。陛下に許可をいただければ、すぐにでもこの城の一室に閉じ込めておく。そういうのもアリでござあますとね。大人しくしてもらえないなら、大人しくさせるのが、大人のやり方でござあます」
「メリューヌ、あなたも同じ考えなのですか?」
「……ええ、概ね」
メリューヌ公の返答を聞いて、王女様は項垂れる。
……ばあさんはなんで、王女様を助けようなんて言い出したんだろう。いや、かといって一国の王女なんだから助けないわけにもいかないんだろうけど。
王女様の力が目当て、ってわけでもないし、王女様を失うと国王陛下が半狂乱になって、後先考えずに特攻を仕掛けるとか。そういう事かもしれない。
「王女様、あなたのできる事ってなんですか?」
俺はふと疑問に思った事を口にする。
「え?」
「今は皆、自分のできる事を必死に探して、それを役立てようと頑張ってる。もしくは、今は帝国との戦争の準備をするために……これ以上血が流れないようにするための時間なんだよ」
「……血が流れない為の戦争って……矛盾してるじゃない」
確かに。
「でも、戦う以外、何もできねえよ。それとも……他に何か方法でもあるのか?」
「話し合う。……ソフィアを説得して――」
「それができなかったから、今、メリューヌ公やこの城の皆は、こうしてあんたを閉じ込めようとしてるんだろ」
「……」
王女様は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、こっちを見てくる。話は平行線。どうしたらいいんだろう。と頭を抱えると。
それまで沈黙していたエルが口を開いた。
「エイリス。お前はどうすれば納得ができる?」
エルの問いかけに、王女様は目を見開いた。
「え……っと」
「ソフィアの説得は失敗し、お前は人質に取られ、命からがら我々はお前を取り戻して戻ってきた。はっきり言わせてもらうが、お前の軽率な行動で、要らぬ被害を被ったのだ。……お前の行動一つで、この大陸の命運が傾く事を、自覚しろ」
「……」
エルの包み隠さない説教に、流石に王女様も考えるところがあったんだろう。王女様は俯いて黙ってしまった。アサヒもエルの言葉に同調し、頷く。
「……ま、それは陛下がこちらに来てから考えるとしようではありませんか」
メリューヌ公がそう言うと、王女様は顔を上げた。
「お父様がここに!?」
「ええ。向かって来てます。なんせ、この城が今後の戦いの最前線となりますからね」
「え、何それ俺も聞いてねえそれ」
俺が思わず声に出すと、アサヒが俺を睨む。
「ははっ、まあ、アレン殿は眠っていたからね。無理もない」
アサヒを制しつつ、メリューヌ公は笑い飛ばした。
「……もう、長かったこの戦いも大詰めってところだ。これから忙しくなる。シビル殿も、本格的にフォートレス王国の国王と同盟を結ぶために出向いているからね。あと1週間で帰ってくる。そして、スティライア王国国王陛下も、あと数日程で辿り着く予定だ。それまでにやる事はやっておかなきゃね。アレン殿、手伝ってくれるかな?」
メリューヌ公のにっこりとした笑みを見て、俺は「いよいよ……」と身体が武者震いし始めた。
「もちろん、俺にできる事なら」
俺は頷いた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.160 )
- 日時: 2023/01/09 23:41
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
「お邪魔します」
そこへ部屋に入ってきた人物が。チサトが顔を出したんだ。
「お前、もう大丈夫なのか?」
俺が驚きつつも、そう聞いてみると、チサトは頷く。
「うん、平気。ちょっと寝たらスッキリしたわ。……あっ」
チサトはメリューヌ公とアサヒの存在に気が付いて、慌てた様子で顔を引っ込める。
「も、申し訳ありません! お話し中とは露知らず!」
「ああ、構わないよ、チサト殿。後ろの彼も入ってくれたまえ」
チサトが顔を真っ赤にさせながら、「エイト、入ってきていいって」と一言言うと、チサトとエイトが揃って部屋に入ってくる。
「……失礼する」
エイトの姿を見るや、アサヒはぎょっとしたように目を剥く。
「や、ヤマタノオロチ!?」
「……お前は、あの国の者か」
「驚きでござあますわね。ヤマタノオロチがこんなところに……」
アサヒはフードをぎゅっと深く被り、エイトを警戒する。……だが、エイトは首を振った。
「私はもう、昔の私ではない。案ずるな、剣を向けられぬ限り、私は敵となりえぬ」
「……ま、確かに。すっかり悪い気が抜けきってござあますねえ」
アサヒがそう言った後、パチンとまた指を鳴らす。同じように、煙と共に椅子が二つ落ちてきた。
「お座りを」
「し、失礼します」
アサヒに促されるまま、二人は椅子に座ると、エイトが周りを見回す。
「……自己紹介をした方がいいか?」
「ん、一応」
メリューヌ公が頷くと、エイトも頷いた。
「私はヤマタノオロチ、改め。「エイト」だ。今は以前ほどの力は無いが、チサトの剣となり、彼女を守ることくらいはできる。チサトが危ない目に遭わぬ限りは、私は味方だ」
「……随分チサト姫に肩入れするのでござあますのね」
アサヒがまだ信じられないという態度に、エイトは頷く。
「今の私は、チサト無しでは生きていけぬからな。当然だろう」
「ふぅん。一旦は信じましょう。妙な真似をしたら、頭上から岩でも落としますが」
アサヒがそう恐ろしい事をさらっと言う。ほんとこえぇ。
……アサヒの力は、「引き寄せの法則」。物質を任意の場所に転移させることができる。一見便利なものだが、生物を転移させたり、遠くへ送るなんて事は出来ない。自分の視界に引き寄せるのが限界なんだと。だけど、物を引き寄せられるなんて、便利だな。そう思いながら、アサヒを見ていると。
「……えっと、話は聞かせてもらいましたが」
チサトが口を開く。
「あの、先ほど終わった話をぶり返すようで恐縮なのですが。エイリス様と仰いましたっけ。あなたは何がしたいのですか?」
「……」
王女様は何も答えず、俯くのみ。
……できる事は何か、どうすれば納得できるのか。散々聞いたが、全然答えてくれない。じゃあどうしたいのか? 現実的に考えれば、何ができるのか。そう聞きたいんだろう。
チサトは真っ直ぐ王女様を見る。
「私、正直あなたの事は存じ上げないので、無神経な事を口にしてしまう事をお許しいただきたいのですが……あなたには自分の芯が見えません。私も、同じように悩んだことがあります。敵の手中に落ち、自分の落ち度で皆に迷惑をかけてしまった。その事や、この、アレンに言われたことを必死に考えました。考えて、考えて。出した結論は……アレンや皆と戦う事です。……今は戦う以外の選択肢は無いと思うのです。魔王は、人間を滅ぼそうと画策し、全てを蹂躙しようとしている。ならば、私達は手を取り合って、重圧を押し退けなければならない」
そこまで言うと、チサトはふうっと息を吐き、再び王女様を見据えた。
「……エイリス様。あなたは人の上に立つ、「王女」という立場。あなたの命令一つで、人は死ぬ選択を強いられる。……それを理解した上で、お尋ねいたします。あなたは、何がしたいのですか?」
チサトが再びそう聞くと、王女様は頭を抱え、泣き声を上げる。
「……わかりません。私は……私は。良かれと思った事が悉く否定され、誰かが傷つく結果になって……。私は、これからどうすればいいのですか。私にできる事なんて……」
王女様は蹲って泣き出してしまう。
俺は無意識に、思わず口に出した。
「いいよな、人前で泣ける奴って」
「……アレン、もう少しエイリスの気持ちを考えた方が良いのではないか」
エルが珍しく他人を気遣う発言をするので、俺は驚いてエルの方を見る。
「……お前がそんなことを言うなんて」
「エイリス、気にせずとも良い。アレンは空気が読めん。ウォーレンがこの城に来るまで数日はある。それまで、自分のすべきことを考えればいいだろう」
……エルがこんな事を言いだすなんて。この後、槍でも降ってくんじゃねえか? とか思いつつ、エルも変わったんだな、と少し嬉しくなった。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.161 )
- 日時: 2023/01/10 23:17
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
その後も王女様は黙ったままで、埒が明かないと判断したアサヒは、
「とりあえずこの場はお開きに致しましょう。本格的なお話は陛下が来られてからでも遅くないはずでござあますわ」
と言ったので、それに同意する俺達。とりあえず、一旦解散となった。俺は部屋から出ていくチサトを追いかける。
「チサト!」
俺が呼ぶので、彼女は立ち止り、振り返る。
「何、どうしたのアレン?」
「話がある。ちょっと時間いいか?」
「……いいわよ、私も話したい事があったし」
チサトが隣を歩くエイトに、「いい?」と聞くと、静かに頷いた。
とりあえずこんな場所ではゆっくり話ができないと、俺は城のバルコニーまで歩いた。すぐ近くなので、その間に何かを話したりって事はない。バルコニーから眺める、メリューヌ領の景色は、とても綺麗で……嫌な事を忘れられる。俺は、風を感じられるこの場所が好きだ。
チサトが俺の隣に歩み寄る。
「チサト」
俺が名前を呼ぶ度に、チサトは恥ずかし気に顔を赤らめる。
「……名前で呼んでくれるのは嬉しいけど、なんか、恥ずかしいわね」
「いや、名前で呼べつったの、お前じゃんよ」
「それは、そうだけど……いざ呼ばれると、なんかねえ」
「意味わかんね」
俺がははっと笑うと、それに釣られたようにチサトも笑った。
「……チサト。その……」
俺は照れ隠しに頭を掻き回し、挙動不審に辺りを見回したりする。チサトは、そんな俺を見ながら、目を丸くしている。
「何?」
「……ありがとう、俺を闇の中から連れ出してくれて。感謝してる。すごく……お前は命の恩人だよ」
言わなきゃいけない事。それを、チサトの目を見て、自分の胸の内を打ち明けるように、披瀝する。感謝の言葉は、直接言わなきゃ伝わらない。そう思ったから。
「……それ、私の言葉でもあるよ。私も、二度も助けてもらって、今まで感謝できてなかったし」
「そだっけ?」
「……」
俺が首を傾げながらそう言うと、チサトはしばしの沈黙の後、吹き出して大笑いした。
「あははははっ! もういいわ、お互い貸し借りナシって事でね。ふう……本当、アレンといると調子が狂っちゃう」
「そりゃ俺の台詞だっつの。まあ、いいか」
チサトがふと、バルコニーの外を見る。
「……なんだかなぁ。故郷が滅んだのなんて、私の見た幻想なんじゃないかって、ちょっとふわふわしてる。今はまだ悪い夢を見てて、目を覚ましたら母上が、目覚めた私に微笑みかけてくれるんじゃないかって。本当に、そうだったらいいなって、現実を受け止めた今でも、心の片隅で考えてるの」
諦めたように笑うチサトは、そう吐露し始める。
「俺も、そうだったらいいなって思うよ。……俺の過去、覗いたんだろ? 全部、夢だったらいいなって思うよ、あんな出来事。誰も死んでほしくなかった。誰も苦しまないで欲しかった。誰も……」
俺がそこまで言うと、俯く。
「なんで、こんな事になっちまったんだろう。皆、幸せになりたいだけなのに」
「幸せになりたいからじゃない」
チサトがそうこぼす。
「皆が幸せになりたいから、皆自分勝手に動いて、自分勝手に奪って。人間ってのは自分勝手だから、こんな事になったのよ」
「悟ったように言うけどさ――」
「違う、私も自分勝手に動いてるから、わかるのよ。アレンは違うの?」
「……」
俺は押し黙る。
「あの魔王も……いえ、ソフィアも、自分の大切なものを取り戻したいとか、そういうのがきっかけだったんじゃない? 今はもう、暴走しちゃって、周りが見えてないみたいだけど」
「だからって、それが免罪符にはなりはしないだろ。……あいつは、ヒトを滅ぼそうとしている。もう、自分の意思なのか、中にいる神竜の意思なのか。それすらもわからなくなってんじゃねえか? わからないからって、それで許されるわけじゃない。誰が許すとかじゃない。俺が許さない」
チサトはこっちを見る。
「へえ、なかなか男前になってきたわね」
「そっちも、性格変わったよな」
俺達は顔を見合わせると、また大笑いした。こうして、誰かと一緒にいると安心する。誰かと一緒に笑うと、楽しい。これって、当たり前の感情なんだ。
そんな当たり前の感情すら、忘れてしまったように無表情でい続ける魔王は……まだ「楽しい」と思える「心」を持っているんだろうか。別に憐れんでいるわけじゃない。ただ――
当たり前の感情を忘れてしまっていた頃の俺と、今のあいつが重ねて見えて、なんだか……とても。
「寂しくないのかな」
俺は、誰にも聞こえないように、小さくつぶやいた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.162 )
- 日時: 2023/01/11 22:30
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
それから、その日の夜。俺は夢を見た。……またあの部屋に来ていたんだ。
「やあ、アレン。だいぶスッキリした顔だねぇ」
ラケルはニコニコしながら俺にお茶を振舞ってくれた。エイトがいなくなり、エイトのいた席にクラテルが座り、その隣は母さんがいた。
「いやはや、僕が君の中にいてよかったね。でなきゃ、君もチサトちゃんも、あぼーんになってたよ」
「なんだよ、あぼーんって……」
「んふっ、気にしなーい!」
ラケルは相変わらず楽しそうに笑う。
「それにしても、いよいよ帝国との全面戦争ってカンジ? ……ドキドキするね」
「ラケル、遊びに行くわけじゃねえんだぞ」
俺の代わりにクラテルが突っ込む。ラケルは「てひひ」と笑い、舌をペロッと出した。
「ラケルは次の日に予定があると、眠れない性質なのよ」
「うん、だから今日はアレンをこの部屋に呼んだってワケ!」
「お前……自分は死人だから部屋に来ない方がいいって――」
「それはぁ、君からこの部屋に来るって意味! 僕が読んだから無問題! おっけー?」
ラケルは目の前にあるイチゴのケーキを、フォークで切り分け、それを刺して俺を指し示す。行儀悪いなぁと思いつつ、俺は俯く。
「屁理屈じゃねえか」
「それはさておき」
「さておくなよ!」
「まあまあ、眉間に皺が寄ってるよ? リラーックス♪」
相変わらずこいつは本当に、思考が読めない……なんか疲れる。そんな俺を尻目に改まって、ラケルは話を進めた。
「いよいよ数日後には、帝国と全面戦争なわけですが。こっからの戦いは本気で辛いよ。なんせ、厄介な力を持つ奴とかさ、独自の兵器を持ってる奴とかさ。いろいろ。いっぱい。たくさん。有象無象!」
「あ、うん……」
俺は何とも言えず、反応できなかった。
ラケルはそんな俺を見ながら、カップを口にする。
「まあ、これからは、死人も多く出ると思うよ。間違いなくね。その中には、君が大切に思っていた人もいる。だからさ――」
ラケルがカップをテーブルに置くと、カタンと音が響き渡った。その目は、今までで見せた事のない、鋭い瞳だ。
「弟妹を失った程度で引き籠るようじゃ、君はこの戦争で負けるだろうさ」
「……っ!」
弟妹を失った程度で……か。いや、実際そうだ。俺は師匠を失って、立ち直ったと思い込んでたけど、エレノアとルゥを自分の手で殺した。その事実を受け止め切れなかったんだ。
――きっと、こんなんじゃこの先、団長や副長、モーゼス兄ちゃん、スカイ兄ちゃん、ヘクト。そして……チサト。彼らを失った時にまた、こんな事が起きるかもしれない。大丈夫と自分に言い聞かせるように言ってたけど、まだ少し揺らいでる。
ラケルに指摘されて、こうして悩んでるのが証拠だ。
「全く、そんなんじゃ先が思いやられるな」
クラテルが足を組んで、鼻で笑う。
「……ああ、そうだな」
「反論しろよな……」
クラテルはつまらなさそうにため息をついた。
「俺が代わってやろうか?」
「……それじゃ意味ないだろ」
「じゃあ、どうするんだ?」
「うーん……」
「調子狂うなぁ」
クラテルが呆れ始めて、肩をすくめた。
それを見ていた母さんが、にこりと笑う。
「クラテルってば、「あいつの事は俺がよく知ってる」なんて啖呵を切って、アレンを守ってた割には――」
「お、おい!」
「あ、やっば。これ秘密だったわね」
えっ。
どういう事なんだろう。俺はクラテルの方を見る。
「なんだそれ、お前、今までどこにいたんだ?」
「なんでもねえ――」
「アレンの心が砕けた時に、アレンがなんで過去の記憶の中にいたと思う? ほら、前にさ、クラテルってアレンの心を砕くために嫌な記憶を見せてたじゃん。あれと同じ事をしたんだよ」
それを聞いて、俺は驚いて「マジかよ!?」と思わず立ち上がった。
「……まさかあの記憶を自分自身で砕くなんて思わなかったけど」
「あとまだあるよぉ」
ラケルがふひひひひと声を出して笑っていた。ニヤニヤといやらしい笑み。クラテルが項垂れている。
「アレン、エレノアちゃんとルゥ君を倒す時に、一瞬真っ白にならなかった?」
「……えっと?」
「ああ、覚えてないか。まあ、あの時、一瞬だけクラテルが君に成り代わってたんだよ」
……そうか、だから。
「お前が代わりになってくれたのか」
「もう、別に言わなくてもいい事をべらべらと。お前の口を縫い合わせてもいいか?」
「うひゃう、こわぁい」
ラケルは尚もケラケラ笑っていた。
「いいじゃん、クラテル。君、何もしてないとか思われちゃうよ?」
「別にいいよ、そんなんで」
「かっこつけ? だっせぇな」
ラケルがぷぷぷと、口元を押さえて笑っていると、クラテルはラケルを睨む。
「ま、クラテルもアレンのきょうだいみたいなものだし、何かと気にかけてるのよ」
「……手のかかるきょうだいだけどな!」
「素直じゃないんだから」
母さんも笑いながらカップの中身を口にする。
「クラテルのいじっぱり~ツンデレ~」
ラケルが追撃と言わんばかりに、からかっていると、クラテルはテーブルの上にあったスコーンを手に取って、ラケルの口に向かって投げつける。腹いせと言わんばかりに。
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