ダーク・ファンタジー小説

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叛逆の燈火
日時: 2023/03/06 20:05
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)

 傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
 「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。

 ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
 傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
 そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。

 アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
 追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。

 ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
 黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。

 「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」

 果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?


余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞

2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止


目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」

Re: 叛逆の燈火 ( No.3 )
日時: 2022/08/22 22:20
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 次に目を覚ましたのは、どこかの小屋のベッドの上だった。
 あんなに痛かった腕や目は、まるで何もなかったかのように綺麗さっぱりなくなっている。俺は体を起こしてみる。どこかの小屋……かと思ったけど、個室のようだ。ベッドとテーブルとイス、それに窓から差してくる陽の光以外は何もない、殺風景な部屋だ。
 いや、ベッドの傍らで椅子に座っている赤い髪の女の子以外は、ごく普通の部屋って言えるだろう。
 この女の子、変なフリフリの服に、青い竜のツノが頭から生えてるな。それに顔……どことなく、ルゥに似てるような。なんて考えてると、女の子もこっちを見ている。起き上がった俺に向かって

「気分はどうだ?」

 と尋ねてくる。
 その声はしわがれていて、まるで老人だ。見た目は女の子なのに。

「あ、ああ。そこそこかな」

 俺はそう答えた後、思考を巡らせていた。
 修道院が焼け落ち、シスターが殺され、エレノアとルゥはさらわれた。……全部夢だったんじゃないか。なんて思いもしたが、俺の右腕をふと見てみる。光を吸い込むような漆黒に、まるで赤い雷が走ったような模様が浮き出ていて、気持ち悪い見た目の腕だ。……見ていて不安になる。

「なん、だよ……これ」
「我の腕を移植した。それに、お前の右目も」
「右目も?」

 俺は右目に手を当てる。確かに右目がある。鏡が見たいな……そう思いながら俺はキョロキョロと周りを見回した。

「何をしている?」
「鏡がどっかにねえかなと思ってな」
「顔は問題ない。違和感のないようにしたからな」
「どういう意味だよ」

 女の子の答えに俺は尋ねる。違和感のないようにって、どういう事だろう?

「どういう意味も、そのままの意味だ」

 ダメだ、答えになってない。

「わけわかんねえ。わかるように言えよ」
「……ふぅ」

 露骨にため息ついてやがる。
 俺がどうしたもんかと頭を抱えていると、部屋のドアが開いた。ドアの向こうから姿を現したのは、黒い服を来たオッサンだった。絵本で見たユニコーンみたいな太いツノと、紫色の長い髪が特徴的だ。……獣人か。背が高くて天井まで届きそうだ。大男じゃん。

「起きたか、坊主」

 オッサンは太い声で俺に尋ねる。安堵したような表情だ。

「……ああ。ってか、オッサン誰だよ」

 俺はぶっきらぼうに尋ねる。オッサンは困ったように笑い、俺に近づいてきた。

「俺はアルテア。「アルテア・エクエス」。エクエス傭兵団の団長をやってる。お前さんは?」
「……アレン。「アレン・ミーティア」」

 俺がそう答えると、オッサンは目を細めた。

「そうか、アレン。お前が無事でよかったよ」

 オッサンの答えに、俺ははっと気が付いた。シスター達の事を確認しねえと! あれは悪い夢だったのかもしれない。夢だったに違いない! そう思った。

「そ、それより! 俺はなんでここにいるんだ? シスターとか、エレノアは、ルゥは!? オッサン、なんか知ってんだろ!?」

 俺が急に畳みかけるように質問するもんだから、流石のオッサンもたじろいでいた。俺の問いには、赤髪の女の子が答える。

「現実逃避をするな。修道院は燃え尽き、シスターとやらは首を落とされ、エレノアとルゥとやらは帝国軍に連れ去られた。目にした事実は、真実であり、決して幻想などではない。前を向け、受け入れろ」

 彼女が諭すようにそう言うと、俺もその現実を受け入れる他ないようだった。……夢だったら。俺も死んでいれば。なんて後ろ向きな考えが脳裏を巡る。そして俺はその場で項垂れて顔をベッドに突っ伏した。

「……修道院にもう少し早くたどり着いていれば、シスターの命を救えたかもしれないし、お前さんの大切な者を守れたやもしれん。すまない……」

 今更謝られても俺だって困る……これからどうすればいいのか。道を示してくれていたシスターはもういないし、エレノアとルゥは帝国の連中に連れ去られた。
 そういや、なんで帝国軍の連中があんな辺鄙な場所に来てたんだろうな。

「……なんで帝国の連中は修道院を襲ったんだ?」

 俺は顔を上げてオッサンに尋ねる。オッサンはというと、苦虫を噛み潰したような顔で答えた。

「「子供狩り」ってのは知ってるか?」
「は?」

 俺は首をかしげる。

「帝国に所属する「魔女ゴーテル」は、孤児の子供を各地から集めて、非人道的な人体実験を行っているらしい。……なんでも、子供を二人以上合成させて、強力なキマイラを作るため。だとかな」
「……なんだよそれ。そんなことの為に、エレノアとルゥが連れ去られたってのか?」
「ああ。帝国の皇帝が「ソフィア」って悪魔に代わって以来、手下の魔女ゴーテルは、この大陸の人間を恐怖で縛り付ける為に、様々なモノを作っている。それは、非人道的な人体兵器にまで至っているんだ」

 ……なんだよそれ。なんなんだよ!

「そんなことして、なんで誰も止めねえんだよ!」
「止められる人間は皆死んだよ。ソフィアが悪魔を召喚してから、あいつを止められる人間は誰一人いなくなった」

 悪魔が何だってんだよ。そいつを止めなきゃ、俺みたいな人間が増えていく一方じゃないか。そいつのせいで、今もどこかで悲しんでいる人間がたくさんいるし、増えてるってことじゃないか!

「オッサン、今すぐ帝国に乗り込んで、そいつを止めないと! でなきゃ、まだ殺される人間が増えるって事だろ!」
「無理だ、帝国の勢力はこの大陸一だぞ。それに、各国も帝国に屈服している。今はまだ動く時ではない」
「はあ? そんなこと言ってらんねえだろうが! だったら俺一人で行くよ! エレノアとルゥを取り戻さないと――」
「落ち着け」

 オッサンと俺の間に割って入ったのは、女の子だった。先ほどから黙って聞いていたと思ってたら、突然大声で俺達を黙らせる。

「アレン。お前は冷静になれ。感情を昂らせ、冷静にモノを考えられなくなっている」
「俺は冷静だ」

 俺が苛立ちを抑えながらそう口にすると、彼女は首を横に振る。 

「アレン……お前の気持ちはわかる。大切な者の安否が気になるのは人間だれしもそうだ。だが、お前のような小僧に何ができよう? 一人で行けば、必ず死ぬ。そうなれば、シスターとやらも、エレノアとルゥとやらも、悲しむだろうし、何よりそれは犬死だ。それでも行くのなら、我は止めぬよ。面倒だからな」

 彼女の言い分に、俺は少し頭が冷えた。確かに、俺一人じゃどうしようもない。でも、このまま指をくわえて見ているだけなんて……

「アレン。お前の気持ちは痛い程わかるよ。俺も大切な家族を帝国の連中に殺されたからな。……だからこそだ。まずは俺達と行動しよう。独りで行動するよりはマシだ」
「つーか、傭兵団みたいな小さい連中で何ができんだよ」

 俺はなんだか素直に慣れなくて皮肉めいた事を言ってみる。オッサンは笑い飛ばすと、俺の頭をわしゃわしゃとかきまぜた。

「今は小さいが、同士が集まればなんとかなるはずだ。先ほど言ったろう。今はまだ動く時じゃない。だがいずれは、革命を起こそうと思う。その為には、お前の力も必要だ」
「俺、戦闘経験ねえんだけど」

 俺は今まで戦った事はない。ずっと、シスターが守ってくれたから……。

「そんな事、今から戦えるようになりゃいいだけじゃないか」

 オッサンはそう笑うと、俺の背中を叩く。いてえ……力強すぎだっつーの。

「ま、今日はゆっくり休むといいさ。明日からまた移動するからな。寝てるもいいし、出てきて外の空気吸うのもいいもんだぞ。引きこもってると、気が滅入っちまうからな」

 オッサンがそう言い終えると、すくっと立ち上がり、部屋を出ようとする。

「オッサン……」
「オッサンはやめろ、今から団長と呼べ。でねえと、鼻の穴から指ツッコんで奥歯ガタガタ言わせてやるからな」
「……こえぇ」

 俺が何も言えなくなると、オッサ……団長は部屋を出て行った。

Re: 叛逆の燈火 ( No.4 )
日時: 2022/08/22 22:16
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 俺はふと女の子の方を見る。ツノを生やした女の子……でも顔は、ルゥの物だ。でも髪の色や目の色は全然違う。それに変なフリフリは着ていない。それに声も違う。顔つきだけ同じだけど全部違う。

「お前、名前なんてんだ?」

 俺が女の子に尋ねると、彼女は首を傾げた。

「名前? 我にそんなものはない」
「あ、そう」

 俺はそう答えると、女の子の方を見る。華奢な見た目だなぁ。

「お前、何者なんだよ」
「我もそれはわからん。ただ、お前が我を強く望んだから、我は生まれた……」
「意味わかんねえ」

 俺、お前なんか知らないし、強く望んだってなんなんだよ一体。

「じゃあ、俺の腕や目は? 移植したって、なんかその、魔法みたいなもんなのか?」
「マホウ……は知らぬ」
「知らない事だらけじゃん」
「知らぬ事は知らぬし、知っていることは万事一切合切天地明察有象無象神羅万象なんでも知っている」

 そう言うと、彼女は俺を見る。表情は変わらないが、多分「どうだ」と言わんばかりなんだろう。

「なんだそれ、当たり前だろうが。それに意外によくしゃべるんだな、お前」
「我は喋る事が好きなようだ。言葉を口にするのが楽しいと感じている」
「なんか客観的にモノを言うんだな」

 つくづく変な奴。本当に何者なんだ?

「まあ、いいや。それにしても名前無いと不便だな。なんか呼んでほしい名前とかねえの?」

 俺が女の子に顔を近づけると、彼女は鼻を鳴らして腕を組む。……右腕がないからか、左腕で自分の胸を抱いているポーズになっているが。

「ないな。我は我だ」
「じゃあ俺が付けてやるよ」

 俺がそう言うと、女の子はこちらを見つめ返してくる。

「ほお、我が気に入る名前をつけようというのか?」
「なんでそんなに上から目線なんだよお前は」
「早くしろ」

 彼女は急かしてくる。名前をつける……つったのはいいけど、別に思いつかねえなぁ。でも、顔はルゥ、全体的な雰囲気はなんとなくエレノアに近いかもしれない。だったら……。
 俺は腕を組んでしばらく悩み、顔を上げた。

「"エル"」
「エル……か」

 彼女は初めて表情を変えた。どことなく口元が緩んでいるような気がする。

「では、我の名はエルだ。エルと呼ぶがいい」

 エルがそう言うと、なぜか名前を連呼している。よっぽど嬉しかったんだな。と俺はちょっとにやついていた。

「何がおかしい」
「なんか子犬が名前を付けてもらって喜んでるみてえで、かわいいなぁと思ってさ」
「莫迦な。子犬とは」

 エルが少しむくれているような感じがした。こいつ、表情がないかと思ったら、意外に感情豊かなんだな。そう考えながら、思わず吹き出す。

「……アレン。一つ言っておくが」
「なんだよ」

 エルは思い出したかのように俺の顔を見る。そして、右腕を指し示しながら口を開いた。

「その腕と右目は我の物だが、我もその右腕と右目がどんな副作用をもたらすのかは、知らない。……そもそも、我も生まれて間もない。だから、その腕と目はどのような影響を及ぼすのかは全くの未知のものなのだ」
「どういうことだ? この腕、それに目は、そんなに危険なものなのか?」

 エルは頷く。

「その目と腕の力を、決して自分の物と思うな。でなければ……人という器が壊れ、お前は人ではなくなるかもしれぬ」
「わけわかんねえよ。お前は人間じゃねえってのか?」
「我はヒトではない。それだけはわかる」

 エルの言葉には何か、真剣さが伝わってくるような気がする。怖えな。そんなものが俺の体の一部になったってのかよ?

「ま、それはいいや。今日はあのオッサンもゆっくり休めつってるし、お言葉に甘えてゆっくりするついでに出かけようぜ」
「休むのに出かけるのか?」
「外が気にならないのか? 俺は気になるよ。それにまだ昼だしな」
「そういう事なら、我も同行しよう。外出というのは、心躍るものだ」

 エルは心なしか嬉しそうだ。
 俺はベッドから飛び起き、部屋のドアに近づいた。

Re: 叛逆の燈火 ( No.5 )
日時: 2022/08/05 23:45
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)


 外に出ると、団長、その隣の赤い髪の姉ちゃん、それに服装や人種や性別年齢はてんでバラバラの人達がいた。部屋から出る俺はそんな人たちの注目を浴びる。

「起きたか」

 団長がそう言うと、姉ちゃんと一緒に俺に近づく。近づいてくると、団長程ではないけど背が俺より一回りも二回りもデカい。俺を見下ろしてくるもんだから、デカさがより際立ってるのか? 赤い長い髪と瞳が蛇っぽい。竜人か? それより、なんか酒臭いな、この姉ちゃん……。

「お前が「アレン」か。なんか右腕と右目が変な事になってんな」

 姉ちゃんは俺の全身を見てからそう言う。俺、そんなに変な見た目なのか?

「俺は「フィリドラ・ソレイズ」。このエクエス傭兵団の副団長みたいなもんさ。ま、事務的な仕事は"レベッカ"に任せっきりだけどな」

 カッカッカと笑い飛ばすフィリドラのねーちゃん。名前を呼ばれたからか、黒くて長い髪の牛の姉ちゃんがこっちに歩み寄ってくる。フィリドラ姉ちゃんよりは背は低いし、身軽そうな見た目だ。額から2本の角が生えてる。それに穏やかそうな見た目だなぁ。

「うふっ、まあそれもまた仲間の務めって奴じゃないかしら。ああ、私は「レベッカ・リジア」。ヨロシクね、アレン君♪」

 レベッカの姉ちゃんは笑みを浮かべて、俺に手を差し伸べる。握手を求めてるようだ。俺は頷きながらその手を握った。

「右手……なんだか、嫌なカンジね」

 レベッカ姉ちゃんはぼそっとつぶやく。俺もそう思う。
 フィリドラ姉ちゃんが俺に自己紹介をした事を皮切りに、傭兵団のみんなが次々に名前を名乗り出し、レベッカ姉ちゃんみたいに握手を求めてくる。俺もそれにこたえるが、エルはというと、首を振りながら握手に応じない。……いや、応じられないんだ。

「我の右手は今、アレンの物だ」
「あら、そうなの?」

 エルの答えに、レベッカ姉ちゃんは「ふぅん」と興味深そうに見つめている。

「あ、アレン君。これからヨロシクね」

 大体みんなの顔と名前を憶えてきたころ、最後に黒髪の男の子が俺に声をかける。帽子と服装からして、所謂吟遊詩人と言った感じだな。声も綺麗だけどなんか消え入りそうな感じだ。

「ああ、よろしく。……えーっと」
「ば、「バロン・ブラギアス」。吟遊詩人だよ」
「バロン、よろしくな」

 バロンは「えへへ」と言った後、皆と同じように俺と握手を交わした。その様子を見ていた団長が俺に近づいてくる。

「バロンは14歳。傭兵団では一番お前と年が近いはずさ。仲良くしてやってくれな」

 へえ、俺の5歳上なんだ。そう聞くと、なんだかバロンに親近感みたいなのが湧いてくる。

「あと、剣はレベッカから教えてもらえ。いいな、レベッカ」
「了解ちゃん。任せてちょうだいな」

 レベッカ姉ちゃんが俺に剣を教えてくれるのか。……言っちゃ悪いけど、姉ちゃんみたいに細っこい人が剣を振れるのか? 俺がそんな心配そうな目で姉ちゃんを見上げていると、それを察したかのように、姉ちゃんは俺の目を見てふふんと笑う。

「アレン君、そんな目で私を見てるけど、これでも私はこの傭兵団の中では一番の腕利きよ。未経験のアレン君でも、きっと私並……いいえ、私以上の剣士になれるわ。あなた次第だけどね」

 姉ちゃんの言葉に、俺は「本当か?」と疑問を抱いた。
 でも……まあ、何もしないより、教えてもらって自分のモノにできりゃ……早くエレノアとルゥを取り戻せるかもしれねえ。

「姉ちゃん、俺――」
「師匠と呼びなさいな。今からは私の弟子になるんだから」
「え、あ、し、師匠!」

 師匠と呼ぶと、姉ちゃんは満足げに笑う。……なんだかこそばゆいな。

「よし、傭兵団の紹介も終わった事だし、ちょっと村でも散策するか。アレン、ついてこい」

 団長が俺を手招きすると、フィリドラ姉ちゃんの方に向かって手を振った。

「てことでフィリドラ、少し出てくる。その間なんかあったら対応してくれ」
「あいよ」

 姉ちゃんは二つ返事で答える。
 そのすぐ後、バロンは「ぼ、僕もついてく!」と団長に走り寄ってきた。団長は笑い飛ばす。

「いいぞバロン。ついでに買い物でもするか、荷物持ち頼むぞ」
「う、うん。僕、頑張る」

 バロンは両腕を振り上げる。なんというか、バロンは頑張り屋なのか? なんとなく、気弱なところがルゥに似ている気がした。

Re: 叛逆の燈火 ( No.6 )
日時: 2022/08/06 23:05
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)


 俺と団長とバロン、そしてエルは村へと出てきていた。村と言っても活気はあるし、人もいる。俺も修道院にいたころはたまにだけど、ちょっと歩いた先に街があった。そこもかなり人がいたけど、そこに比べると少ない。
 村には広い田畑があった。農具を使うオジサンやオバサンが、汗を流しながら忙しそうに畑を耕している様子が見える。……シスターやエレノア、ルゥと一緒に畑で野菜を作ってた時を思い出すな。今年も野菜を育てる予定だったんだけどな。俺がそう暗い顔をしていると、エルが俺の顔を覗き込んでくる。

「どうした、アレン。浮かない顔だな」
「え? いや、俺も畑で野菜を作ってたんだけどさ」
「野菜……何を作っていた?」
「え、トマトとかトウモロコシとか、あとナスとかパプリカやピーマンとかも――って聞いてねえ」

 俺が話している途中で、エルは畑の方を見ていた。聞いてるのか聞いてないのかわからないが、そっちに興味を持ってかれたみたいだ。

「聞いていた。とにかく野菜を育て、それで自給自足していたのだろう」
「もちろん、それだけじゃ足りねえから、近くの街まで麦とか肉とか買いに来てたよ。なんて街かは忘れたけど」
「ちゃんと食べていたのか、お前」
「食べてたよ」

 エルは俺の身体を見るや、首を振る。

「年頃の子供にしては痩せている。これから戦う力を得ようというのだ。もっと体を鍛え、筋肉をつけろ。でなければ、弟妹を取り戻そうなど、夢のまた夢物語という奴だ」
「う、っせーな。わかってるよ言われなくても」

 俺達がそんなやり取りをしていると、俺とエルの間に団長が声をかけてくる。

「エルの言う通りだな、アレン。食事は身体を作る為に必要な事だ。今夜は豪勢にしてやるから、食べて飲んで寝て、明日から訓練を重ねりゃいい!」
「そりゃわかってるけどよ……隣にいるバロンも俺と同じくらい細いだろ」
「ん、僕……?」

 バロンを指さすと、彼はびくっと体を震わせ俺を見る。

「バロンは俺達みたいな戦士じゃないからいいんだよ、適材適所だ」
「ちぇっ、俺もぎんゆーしじんになりたいぜ」

 俺が冗談交じりに言うと、エルは表情と声音を変えずに俺に突っ込んでくる。

「お前の頭では無理だな」
「なっ……お前、俺がバカだって――」
「違うのか?」
「くっ……確かに座学は苦手だけどよ……」
「座学も子供の内にやるべきだ、我も付き合うぞ」

 エルの言葉に何も言い返さず、そっぽを向くと、団長が立ち止まる。

「行きつけの店だ。ちょっと待ってな」

 団長がそう言うと、店の中へと入っていった。
 残された俺とエルとバロン。バロンは困ったように「ま、待ってよ?」と一言。俺も頷いて、その場で待つことにした。だけど、なんか待ってるのにも飽きてきたし、バロンと会話することにした。バロンの事をもっと知りたいしな。

「バロン、お前はいつから傭兵団に?」
「ぼ、僕……その、ちょっと前からかな……」
「なんでこの傭兵団に入ってきたんだよ」
「え、っとぉ……僕の街が帝国軍に襲われて、それでっ、それで団長に助けられてって感じ、かな……」
「俺と同じ感じか。……じゃあさ、赤い髪の男、知らないか? 変な赤い剣を持ってるやつ」
「えっと、わかんない。僕、隠れてたから……」

 なんだ、街が襲われたからてっきりアイツもバロンを……とも思ったんだけどな。

「アレン、「赤い奴」とは?」

 エルが俺の方を見て赤い奴について聞いてくる。

「俺の腕と目を持って行った奴だよ。すげえ怖い奴で、俺の姿を見て笑ってたんだ……」
「腕と目を……?」

 バロンは俺の話を聞いて、ぎょっとしたように縮こまる。

「その、なんだか嫌な感じのする腕……エルちゃんのだって言ってたよね」
「ああ、そうだ」

 俺の代わりにエルが答える。

「エルちゃんは何者なの?」
「知らぬ」

 エルは即答した。まあ、俺にも知らんとか言ってたしな。

「でも、この黒い腕……きっと良くないものだよ。なんだか、怖い」

 バロンが俯きながらそう言うと、エルもそれに頷く。

「我もそう思う。今は腕の形をしているが、いつどうなるかはわからん」
「……この腕、一体――」

 俺が腕を見ていると、突然村の入り口の方で悲鳴が聞こえた。それに、何か血の臭い……血の臭い!?

「まさか!」

 俺はバロンが引き止める声が耳に入る前に、悲鳴の聞こえる場所へと駆け出した。急いで、なるべく急いで!

Re: 叛逆の燈火 ( No.7 )
日時: 2022/08/08 00:25
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)


 俺の目に入ったのは、村人が黒い鎧の奴らに襲われている、まさにその瞬間だった。俺はすかさず足元に落ちていた棒を手に取って、倒れこんでいるじいちゃんを襲う鎧のヤツの背後を狙った。
 コンッと軽い音が鳴り響くだけで、棒は折れる。背後に何かが当たったと気づいた鎧野郎は、俺の方を振り向くと、今度は俺に剣を振り下ろす。俺はその剣を間一髪で避けた。これでいい、じいちゃんがその間に逃げてくれたなら――
 そう思いながらじいちゃんの方を見ると、倒れこんでいたじいちゃんから赤い水たまりが広がっているのが目に入った。俺の血の気が引く……。
 いや、じいちゃんだけじゃない。周りから甲高い悲鳴と、肉を切る音がする。耳に入ってくる。この鎧野郎は何が目的で――
 俺が目の前に気を取られている隙に、俺の腹に衝撃が入った。鎧野郎が俺の腹に向かって蹴りを入れてきたんだ!

「ごぼぉ」

 腕を斬られた時の痛みほどじゃない。だけど、胃の中のモノがこみあげてくる、気持ち悪い。まだ昼飯食ってないはずなのに、俺の口からドボドボ音を立てて何かを吐き出す。クソッ、腹が……。

「こんのガキがぁ……」

 俺が必死に口元を抑えながら、鎧野郎を見ると、奴は俺に剣を振り下ろそうとしていた。

「アレン!」

 その時、背後から声がする。団長だ。団長は目の前の鎧野郎を手に持っている槍で貫いた。空を斬る音と風が俺の目の前を通り、赤いモノが舞い踊って地面に落ちる。

「アレン、お前は下がっていろ。俺がやる」

 団長は槍についた血糊を払って、一人鎧野郎たちの前に立ちふさがる。団長の目の前には、村人達が鎧野郎達に捕まっていたり、まさに首を斬り落とされていたり、赤と泥が混ざり合って直視できない光景が広がっている。団長は怒りで震えていた。

「貴様ら……! これも皇帝の意志なのか!?」

 団長がそう叫んで槍を握り、前へと突撃しようと構えた。
 だが――

「おおっと、動くなよ!」

 目の前の鎧野郎がそう言って後ろの方を指さす。後ろの方で子供の悲鳴がした。振り向くと、黒い帽子を被った黒い服の女が、いつの間にか子供の喉元に太いニードルを当てているのが見えた。……あれは、バロン?

「バ、ロン!? おい、なぜお前が? 団員を連れて来いと言ったはずだ!」
「あ、うぅ……」

 バロンは答えようにも、女が喉元に立てているニードルが怖くて動けないのだろう。

「その女はお前ら傭兵団に紛れ込んで情報を流していたんだ。気づかなかっただろ?」
「……ふふっ」

 鎧野郎の紹介に、女はせせら笑う。スパイって事か。なんだよそれ……!

「貴様ら……!」
「動くなよ、その黒髪のガキを五体満足で助けたいのならな」
「……」

 鎧野郎が地面に指をさす。「武器を捨てろ」って事だろ。団長は従わざるを得なかった。構えていた武器を地面に捨てる。ゴトンという金属音が鳴り響き、槍が地面に転がった。その後、「伏せろ」と言われて、無抵抗に従う団長。
 悔しい……俺に力がねえから……!

「さて、まずはさっきやられた奴のお返しをしねえとなぁ」

 鎧野郎がそう言うと、団長の持っていた槍を手に取る。かなりの重量があるのか、重たそうにしていた。鎧野郎は、槍をの切っ先を団長の方に向ける。そして、振り下ろした。
 鎧の砕ける音、そして肉を貫くような嫌な音。そんな音達が俺の耳に入ってくる。

「ぐおおぉぉぉぉーーーっ!!」

 団長が悲鳴を上げた。吹き出す血液。団長の着こんでいる鎧を赤く染めていく。
 だが、一回では終わらなかった。鎧野郎が槍を抜いては刺し、抜いては刺し、抜いては刺し。何度も、何度も何度もそれをつづけた。鎧野郎達はそれを見て笑い転げている。
 俺は歯を食いしばりながら、涙を流し、その場で団長が傷つく姿を見せられている。多分、バロンも同じように震えているんだろう。

 クソッ、クソクソクソクソッ!!
 俺に力さえありゃあ……あんな奴ら……!
 あいつらが憎い! 憎い憎い憎い!!

 俺は目の前の光景に耐えきれず、目の前を思わず駆け出す。

「やめろ!」

 だけど、俺なんかが大人の男にかなうはずもなかった。
 俺が無謀にも鎧野郎に立ち向かったって、俺は蹴り飛ばされて吹っ飛んで終わるだけだ。身体が宙を舞って、地面に背中から落ちる。蹴られた痛みも、背中の衝撃による痛みも相まって、俺は今度こそ動けなくなった。

 ――目の前が真っ暗に染まっていく。
 団長の悲鳴も、バロンの泣き叫ぶ声も聞こえなくなってくる。



「アレン」

 もうすべてが闇に包まれたような黒い中で、エルの声が耳元で響く。俺は声のする方を見ると、エルが立っていた。

「エル……!? お前、どこ行ってた!?」
「そんな些細な事はどうだっていい。今重要なのは――」

 エルは俺の目の前に立つと、あの時の……雨に打たれていた俺を見下ろしていたように。そう、あの時と同じように俺を見下ろした。

「お前は何故戦わない?」

 エルは俺に向かってそう尋ねてくる。

「……戦えねえだろ。俺には何もない」
「お前は望んだはずだ。戦う力が欲しいと」
「俺にはどうにもできねえよ」
「それはお前の意志が弱いからだ」
「じゃあ、どうしろってんだ!?」

 俺は声を張り上げて、エルを怒鳴りつける。エルは多分相も変わらず表情を変えずに俺を見下ろしているはずだ。

「俺にはもう何も出来ねえよ! 大人に……あいつらに勝てっこねえ! 村の人も団長もバロンも助けられねえ……俺なんかにあんな奴らをどうにかしようたって無理なんだよっ!!」

 俺の絶叫を聞いたエルは黙っていると、俺の右腕を指さす。

「だが、その力があれば、或いは……」
「右腕?」
「そう、それは可能性だ。お前が皆を救うための」
「可能性……」

 俺は右腕を見る。黒くて禍々しい。何か、脈打っている気がする。……目が覚めてからは気づかなかったけど、この腕。この腕さえあれば……!

「今一度、お前に聞くぞアレン。お前、生きたいか?」

 俺はその言葉を聞いて、腕をついて立ち上がる。そして、エルの顔……いや、目を見てエルの問いに答える。

「ああ」
「ならば我に従うといい、お前に力を与えよう」


「あいつらから奪われたものを取り戻せるなら、例え……悪魔にでもなったっていい。力をくれ!」


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