ダーク・ファンタジー小説

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叛逆の燈火
日時: 2023/03/06 20:05
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)

 傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
 「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。

 ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
 傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
 そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。

 アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
 追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。

 ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
 黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。

 「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」

 果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?


余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞

2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止


目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」

Re: 叛逆の燈火 ( No.38 )
日時: 2022/09/07 19:35
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)


 あの日からもう、7年の時が過ぎた。私ももう16歳。あの宣言の日から、世界は変わった。私に対する皆の視線ががらりと。畏怖、憎悪、媚、殺意。それらの視線が私に集中している。
 いいのよ。それでいい。どうせあなた達は"そう"なんだから。
 私はあれから宣言通り、恐怖で人々を縛る政治を続けている。それに便乗する奴もいるし、それに反発する奴ももちろんいる。ま、反抗的な人は即座に死んでもらうんだけど。無理にでも従わせないといけないのよ、こいつらは。人間なんかちょっと甘やかしただけで、すぐに堕落するんだから。
 好き勝手に生きてきて、誰かが悲しむ事に見てみぬふり。聞こえないふり。感じないふり。

 そんな自分勝手に生きてきた奴らを、正しい道へと導いているの。この私がね。


 私は、自室の窓から雲一つない空を見上げながら、ある事を考えていた。
 「合成魔物キマイラ」の開発。
 バーバラの部下である「マギリエル・ダスピルクエット」のおかげで……数年前、やっと一匹目の完全体ができあがった。それからは目まぐるしく事が運び、今は初の人型も完成間近なんだとか。
 あれの欠点をあえて挙げるなら、開発者であるマギリエルかバーバラが近くにいないと勝手に動き回ってしまう事ね。まあ、元の人格が子供達だから、言う事をなかなか聞いてくれないのもあるけど。それは及第点かしら。

 「マギリエル・ダスピルクエット」か。度々私に対する視線に嫉妬が混じっている事以外は、非常に優秀で、今後の働きに期待ができる"駒"だ。


 私は彼女との出会いを思い出す。

 まず私はこの帝国の遥か西。なんでも、昔は「魂の流刑地」と呼ばれる島に、バーバラとネクを引き連れて訪れた。絶海の孤島だけあって、人の気配はない。……でも、今はただ一人、この島に幽閉されている一族。「人」の形、無機質で完全な人形(ヒト)を創造する目的で、禁忌とされていた人体実験を繰り返して、祖父の代でこの島に送られたという、「狂気の錬金術師」の子である「死の魔女」が研鑽を積み続けている、らしい。なんでも、魔女が父の思いを汲んで、一族を父を含めて人形に変えてしまった。なんて噂もあるらしい。ま、それならそれで会ってみたいものだわ。
 その話は父の手記にあったから、興味本位もあったけど、何よりバーバラの手が足りていないというので、その魔女に会って従わせようと彼女が言い出した。
 それは57年も前の話で、もう既に息絶えている可能性もあるけど。魔女と呼ばれる者が、そう簡単に死ぬはずがない。らしい。

 島は手入れも管理もされていない木々に囲まれている。……でもおかしい。獣や魔物の気配もない。骨は転がっているけど、鳥一匹すらいないなんて。「魂の流刑地」だからって、動物や魔物の一匹すらいない事なんてある? そう考えながら進んでいく。
 森の奥には、一族が幽閉されているという洞窟を発見した。女神「エターナル」と調停者「エンブリオ」の――ってバーバラから聞いた。とにかくそのレリーフが描かれた重い扉を見上げる私達。

「変ね。この扉、何もついていない」

 私は呟く。一族は幽閉されていたのでしょう? なら、鎖が巻き付いていたり、厳重に閉ざしているはずだわ。だけど、この扉は……何もない。むしろ、扉の周辺に、無理やりちぎったかのように変形している鎖の残骸や、折れてしまった鉄の閂が落ちている。

「どうやら、中にいる者は、この扉を出入りしているようね」

 バーバラがふっと笑いながら扉を見上げる。そして、扉に描かれた女神と調停者を眺めていた。

「女神が世界を創り、調停者は命を創った。でも、女神に創られた調停者は、創った命に世界から追放されたそうよ」

 彼女が腕を組みながら、扉を見上げて続ける。

「かつて、調停者は命を創造し、世界を文字通り調停して、善悪の天秤を均等に保って、世界に安寧をもたらしていた。だけど、時間が経つにつれ、人々は弱き者を蹂躙し、争いが絶えなくなり、次第に悪意が満ちる混沌の世界へと変貌していった。それでも、調停者は天秤を均等に保とうとしていたけれど……天秤は悪に傾き続け、次第に人々は調停者こそ"争いの元凶"であると言い始め、調停者に憎悪の矛先を向けたそうよ」

 調停者エンブリオ……女神エターナルに創られた人形は、自身が作った人形に憎悪を向けられ最期を迎える。ってオチだったかしら。まるで、今の大陸の愚かな人間達みたい。調停者も、人形の管理ができないなんて、愚かね。

「人間は何度でも繰り返す。創造主に感謝するどころか、牙を向けるなんて。愚かだわ」
「……むずかしいことわかんないよ、ソフィアちゃん」

 ネクが私達の話をずっと聞いていたが、そろそろじれったくなったようで、私の服の裾を引っ張った。

「ごめんね、ネク。早く済ませて帰りましょう」
「うんっ!」

 ネクの笑顔を見て、私は重い扉に触れ、体重を乗せた。扉は重い音を立てながら開いていく。

Re: 叛逆の燈火 ( No.39 )
日時: 2022/09/08 23:45
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 扉の奥は予想通り暗がりが広がっていた。中は普段は閉め切っているせいか、臭いがこもっている。カビと土と湿った臭い、そして腐敗臭が充満しているんだわ。一歩前に出ると、バーバラが「足元に気を付けて」と一言。私は彼女に向かって頷くと、再びその暗がりを進む。
 バーバラの光魔法であたりを照らしているので、一本道を光が示すまま歩いていく。湿った空気が漂い、陽光が入らないせいかひやりとしている。足元も水を含んだコケが生えているのか、歩くたびにべちょべちょと深いな音を鳴らしていた。私の服、白いから、帰ったら漂白しないとね。なんて我ながらくだらない事を考えながら、道が続く限り前へと進む。
 洞窟なのだから、コウモリの一匹や魔物なんかがいるかと思ったけれど、やはりいない。どんどん進んでいくと、壁に異変があった。赤い液体がべっとりと広がっているんだ。

「血?」

 近づこうとする私を制して、バーバラが人差し指でそれを撫でる。

「血液ね。しかも、新鮮な」

 と言う事は、最近ついたものか。
 そういえば、私達の前に使者を向かわせたんだっけ。それがこれか。魔女は人嫌いの様子。なら、話は簡単……さらに力で捻じ伏せるまで。バーバラの魔法と、ネクの力さえあればすぐに終わるわ。今までもそうやって来たんだから。
 私達は奥へと向かう。すると、すぐに洞窟の開けた場所にたどり着いた。どうやら最奥地のようね。もう道が無い。代わりに、何かの研究施設のようなところに来てしまったようだわ。
 大きな魔法陣の描かれた床、何やら見ていて不安になる不気味な瓶詰に、散らばった分厚い本、そして目を引くのは、洞窟内だというのに、緑の液体の中で眠らされている、"化け物"の入った機材。よく見ると、動物の一部や魔物が継ぎ接ぎの人形みたいになっていた。形はとても不格好だけど。
 私が一歩前へ出ると、突如ネクが私の服の裾を思いっきり引っ張る。

「あぶない、ソフィアちゃん!」

 その刹那。私の目の前に天井高く紫色の火柱が、竜が昇るように立った。奥から、ひたひたという裸足で歩み寄ってくるような、そんな音がする。
 奥からは、本を抱えた、艶が無くボサボサの白銀の長い髪を揺らした、顔色の悪い女がこちらの光魔法に照らされて、姿を現した。服はボロボロで、ただの布きれを巻いているんじゃないかと言うくらいに薄く、所々破れて白い肌が露出している。

「誰だ、私の研究所ラボを荒らす不届き者は?」

 光魔法を反射する金色の目がこちらを捉えた。警戒しているようね。当たり前だけど。
 私は恐れずに一歩前へ出ると、彼女に向かって口を開いた。

「「マギリエル・ダスピルクエット」、死の魔女。狂気の錬金術師の娘であり、父とその一族と共にこの「魂の流刑地」に送り込まれた。そうね?」

 私の問いに、小馬鹿にしたように鼻を鳴らして、肩をすくめるマギリエル。

「よく知っているな。一体何年経っているのかはわからんが、そうだ。私こそ、狂気の錬金術師にして完璧な人形ヒトを造る事に人生を捧げた男「ファウスト=ザ・ワン・ダスピルクエット」の子。名を「マギリエル・ダスピルクエット」と言う」

 彼女の名乗りにバーバラは少々驚いたのか、目を見開いた。

「「ザ・ワン」。懐かしい名前ね。かつて帝国を支えていた9人の統制機関「ナインズヴァルプルギス」の頂点だった男。私も9番目として所属していたけど、顔を見るのは1度だけ。当時の皇帝陛下に告発された時だけだったわ」

 バーバラ、そんなすごい人だったのか。だけど、「ナインズヴァルプルギス」は既に解体された。宰相一派が一枚噛んでいるとは聞いていたけど、まあ……あいつらにとっちゃ、そんな組織がいても邪魔なだけよね。

「それはそうと、何用だ? あいにく、茶は出せんよ。代わりに――」

 マギリエルが手を仰ぐ。手の先から青い炎が集まっていく。表情は殺意に満ちている。……なんだ。意外に話が分かるじゃない。

「貴様らにくれてやれるのは――」
「ああ、そういうのいいですよ」

 私はバーバラに視線を送る。バーバラは視線に応じるように、彼女に集まる炎に向かって手を握り締める。すると、炎がはじけ飛び、マギリエルは驚いて、自分の手を広げて目をぱちくりとさせていた。面白い反応するわね、この子。

「何をした!?」

 マギリエルの叫びと共に、バーバラは彼女に向かって拘束魔法をしかける。金色の鎖が四方八方から飛び出し、彼女を捻じ伏せてギリギリと縛り上げる。状況が読めないようで、彼女は目を剥いている。

「これは、この光にしろ、先ほどの風、それに……この拘束術。ありえん……一人の人間が複数のドライブの行使など見た事ない……一体何なのだ!?」

 マギリエルの問いに、バーバラが答える。

「魔法よ。私はこの大陸でも稀な、真の魔法使い。……まあ知らなくて当然ね。私達、初対面だもの。一応名乗るけど、「バーバラ・ゴーテル=ヤーガ」。それが私の名よ」
「ご……ゴーテルだとぅ!?」

 彼女が今までにない声を張り上げ、完全に戦意を喪失させた。

「まさか、「ナインズヴァルプルギス」の9番目のゴーテル卿か!? く、クククク……」

 驚いたかと思えば急に笑い出して、変な人。

「素晴らしい。逸材ではないか。実験体としてはこれ以上ない……!」

 ああ、そういうこと。

「私の人形よ、こいつを捕らえよ! 白い女と銀色の小娘は殺して構わんッ!」

 マギリエルの叫びがその空間を駆け巡る。その叫びに呼応して、箱の中で眠っていた数体の化け物が全て覚醒を始めた。目をカッと開いて、すぐに目の前の箱を壊しだす。バリンという破裂する音と、液体がじゃばじゃばと流れ出て、あいつらが外へと歩き出す。
 気持ち悪い見た目の化け物。複数の人間の顔が苦悶の表情を浮かべて張り付いて、魔物の腕や足、それに肉が露出して気持ち悪い。人形……って、人の形なんかしていないじゃない。これが人形なのであれば、とんだ失敗作ね。

「くだらないわね」

 私がそうつぶやくと、化け物達は私に向かって口を開け、触手を伸ばしてくる。

「私に触れるな」

 私は瞬時にネクを握り、剣を振り回す。意外ね。化け物を一匹だけでも斬れるかと思ったら、全部斬っちゃったわ。まあ、いいか。
 ぶしゃあという液体が飛び散る音と共に、多量の血液が床を、壁を、その空間を赤で染め上げる。これにはマギリエルも驚いたみたいで、口を開けたままこちらを見ている。

「服が汚れちゃったわ。これは漂白コースね」

 私がそういいながら、顔についた返り血を袖で拭き取りながら、剣に付いた血糊を振り払う。

Re: 叛逆の燈火 ( No.40 )
日時: 2022/09/09 23:25
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)


「ば……馬鹿な!? アレを一瞬で斬り伏せただと? オーラ増強の術式を刻み、並大抵のものでは傷をつけることなど――」
「答えは簡単です。私は並大抵ではありません」

 私は冷静に彼女を見下ろし、説明してあげる。その後、彼女に剣を向けて、"いつものように"命令する。

「「マギリエル・ダスピルクエット」。私に従いなさい。でなければ、ここで死んでもらう事にします」

 私はそう言い放った。ま、代わりなんかいくらでもいるし、彼女が従わなくても、別の物を探せばいい。まあ、多少時間がかかるだろうけれど、それは仕方ないわね。許容範囲内だわ。

「……一つ聞く」

 マギリエルは私を見上げ、尋ねてくる。

「なぜ私を必要とする? 私はかつて禁忌を犯した大犯罪者の子。罪人だ。そんな私に、従えと言う?」

 ……簡単な事を。

「この世界は腐っている。様々な人間が、様々な理由で弱者を虐げ、踏みにじり、醜く争う。理由は……例えば、「奪う為」。だったら、誰かが人間を統率し、無理やりにでも従わせるしかない。私が「世界」となり「秩序」となる事で、世界を安寧に導くしかないんですよ。……それが理由」

 私の話を聞いた後、しばしの沈黙が流れる。ま、こんな理由は建前でしかない。本当は、私がやられた事を世界に住む愚かな人間共に仕返すってだけ。従うなら何もしないし、反発すれば死ねばいい。私の苦しみを、痛みを知らない人間モノは、私以上に苦痛に悶えてしまえばいい。
 マギリエルはずっと俯いていたが、突如恍惚の表情で私を見上げてきた。

「……素晴らしい! なんという崇高なる理由なのだ!」

 生気に満ちた、輝かしい表情。と、例えたらいいのだろうか。
 この人のツボがイマイチよく理解できない……。バーバラも同じような考えなのか、半目で見下ろしている。若干引き気味で。

「はわわ、今までの御無礼、失礼いたしました!」

 態度が急変したかと思うと、頭をペコペコと下げたり上げたり。私はバーバラに向かって「解放してもいい」と言うように顎でしゃくる。バーバラは少々戸惑いながらも、マギリエルの拘束を解く。
 拘束が解けたマギリエルは、すぐに膝をつき、私に首を垂れる。

「この「マギリエル・ダスピルクエット」。陛下の御為に、私の知る全ての知力、技術を捧げましょう。どうぞ、陛下の御意のままに、私をお使いください……」

 当初の目的を果たすことができたようね。私は表情を変えず、彼女を見下ろしたまま口を開いた。

「今後の働きに期待します。バーバラ、これを連れて帰りましょう。帰ったらすぐに湯と服の準備をお願いするわ」
「御心のままに」

 私は踵を返し、その場から立ち去る。……あとはバーバラに任せるとしましょう。
 マギリエル……新たな駒として、理想の世界への贄となってもらうわ。血液一滴も残さず、絞り尽くしてあげる。

Re: 叛逆の燈火 ( No.41 )
日時: 2022/09/10 22:57
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)


 私は過去の事を思い出しながら、バーバラが入れてくれたお茶を飲む。隣では、ネクがバーバラの焼いてくれたクッキーをもりもりと食べていた。頬を膨らませている顔は、まるでリスのようだわ。

 ま、それはさておき……
 マギリエルが加わった技術参謀の技術の進化は目に見えて変わった。まあ、生体兵器はもちろんの事、武器の生産効率の向上、そして何より。まさに痒い所に手が届くといったところか。バーバラの助手として存分な働きを見せてくれた。長年、あの絶海の孤島で術式、生命力、魂。それらの研究を続けていたと聞く。やはり、あの時彼女を連れ帰ってきてよかった。正直言うと、彼女の代わりを探すのは難しい。

「あとは……」

 配下の動向か。元々信用なんかしてないし、恐怖だけではやはり士気に限界が来る。それは、数年前から考えていた。だから、私は彼らにある提案をした。

「粛清対象の街や人間モノは、自由にしていい。好きになさい」

 その一言だけで、兵士達は目の色が変わった。それからというもの、兵士たちの士気が向上したおかげか、反発勢力は徐々に、確実に減っていってる。やはり、ご褒美や見返りがあると人間ってやる気が出るものね。本当に愚かな生き物ばかりだわ。

 ああ、そういえば、見返りが必要のない男もいたわね。私はおもむろに、机の引き出しから翠色のファイルを取り出し、開く。

 ――「ブラッドスパイク」。
 通称、「狂犬」。本名が不明なので、彼の言うドライブ名で呼ばせてもらってる。彼自身もそれでいいと言ってたしね。長いから「ブラッド」って呼んでるけど。
 ブラッドは、確か7年前に初めて動かしたときに「エレノア」と「ルゥ」という子供を連れてきた。二人は私の少し下のようで、まあ一言でいえば頭が悪そうな感じだったわね。ぎゃーぎゃーうるさかったから、女の子の方の目を潰してしまおうとしたら、男の子の方が庇うように前に割って入ってきて、うっかり彼の両目を潰しちゃったけど。
 ……今はどこにいるのかしら? ま、いいか。どうせ私には関係のない事だし。
 あと、彼の持ち帰った、綺麗な青色の目玉。あれも悪趣味だからバーバラに預けたけど、今どうなっているのかしらね。

 ブラッドはとても気性が激しく、戦う事に身を投じていると言った感じ。確か、過去に何十人、何百人の命を奪った、殺戮者で。恐らく倫理観はとっくに壊れてる。
 初めて会った時は、「皇帝たる私に牙を向けなければ、全てを許す」とだけ言ったら、あいつ餌をもらった犬みたいな顔で喜んでいたわね。殺人者の気持ちはわからないけど、未だに好きにやらせてあげている。バーバラの監視下で、だけどね。

 ……ああ、噂をすればなんとやら。
 バーバラの姿とブラッドの姿が見えた。迎えに行かないとね。

「ネク、行きましょう。時間よ」
「ん!」

 ネクは手を挙げて短く返事をする。

Re: 叛逆の燈火 ( No.42 )
日時: 2022/09/13 18:49
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 私がバーバラとブラッドを出迎える。
 バーバラは外出用のローブを脱ぐと、私に向かって頭を垂れた。ブラッドはというと……別になんてことない。私の顔を見てチッと舌打ちをした。聞こえるように。
 赤い髪、ボサボサの頭、瞳も赤くて、鎧も着ていない薄着の男。一応、鎧は支給してあげたけど、彼には速度が落ちるという理由で受け取ってもらえなかった。
 私は彼の態度を無視して、バーバラに近づく。

「おかえりなさい、ゴーテル。帰還したばかりですが、早速報告をお願いします」

 バーバラは頷いた。

「なア、ゴーテル卿よォ」

 彼女が口を開こうとすると、ブラッドが口を挟む。バーバラは少しイラっとしたのか眉をひそめるが、毅然とした態度でブラッドの方を見た。

「何かしら」
「俺はもうこの後何もしなくていいだろォ? 1日働いて疲れたからもう寝るわ」
「ええ、好きにしなさい」

 その返事だけ聞いたブラッドは、すぐに私の隣を通り過ぎ、赤い髪を掻き上げながら、あくびをして、のっそりのっそりと奥へ姿を消していく。気まぐれで、何考えているかよくわからないけど、バーバラの監視下だし、犬は犬らしく尻尾を振っているなら、それでいい……。仮に、私に牙を向けた時は、容赦はしないけどね。
 ああ、そういえば。バーバラから報告を受けないとね。

「で、バーバラ。報告を」
「は……では、まずは会議室へ。ここでは兵士の目を引きます」

 彼女はそう言うと、私は頷いた後に会議室へ向かって歩みだす。



―――



 バーバラ達には、東郷武国の残党処理をしてもらっていた。先日――もう2週間も前にもなる話だけど。私自身が東郷武国に攻め入り、その国の王……いやあの国では「幕府」と呼んでいたらしいけど。まあ、それはどうでもいいか。
 そいつの首を取り、あの国の兵士達、そしてバーバラにその光景を拡散してもらい、国中の人間に見せつける事で、事はすんなりと運んだ。私の思惑通り、彼らは私にひれ伏したわけだ。
 まあ、全員が全員そうでもないわけで。もちろん、残党がいるのはわかっているから、バーバラに任せておくことにした。兵士達にも「反抗する者がいたら好きにしていい」とだけ伝え、私はバーバラの転移魔法を使って一足先に帰ってきた。
 バーバラは魔法でいつでも帰ってこれるし、実際2週間の間に何回か戻ってきてはいたわ。
 その最中、アスラという女傭兵を拾って、私と契約を結んだ。最初は反抗的だったから、死なない程度には痛めつけて。でも、それでも私に刃を向けるもんだから……まあ、私もそれが面白いと思ったから、「私の命が欲しければ、私に従いなさい。隙があれば、私の命などいつでも取れるんじゃないですか」と言った。一方的な口約束で、何の効力もないモノだけど。あっちは喜んでたみたいだし、別にいいか。
 ……魔王と呼ばれる私も、約束はちゃんと守る。それがバーバラから教わった礼儀の一つだし。別に、あいつの動きはもう読めてる。ネクが奴のドライブの内容を事細かに教えてくれたしね。

 あと、一人――いや、二人。バーバラが東郷の辺境の村で生き残りを拾ってきた。らしい。……らしいというのは、まだ会っていないからわからないのよね。
 なんでも、一人は村を守る為に果敢に立ち向かってきたから、返り討ちにしたら、もう一人がそれを守って死んでしまったんだってさ。でも、バーバラは「その子を生き返らせることができる」と言うと、目の色を変えて彼女に縋りついてきたとか。……生き返ると言っても、所詮は屍人ゾンビ。術式を刻んでおいて、魂の無い人形に成り下がるだけ。
 そういや名前は、その生きている方が「シラベ・ホウライ」。死んだ子が「ユキ・アマネ」だって。別に興味はないけど、これから存分に働いてくれるのなら、何も言う事はないわ。
 今はユキ・アマネの方をマギリエルに預けて、式神の術式を刻んでいる最中らしい。

 以上の報告を受けて、私は頷いてバーバラから受け取った紙束を机にそっと置く。

「後処理、ご苦労様です。これで全ての国が帝国に屈服し、我々が大陸を支配したも同然……といいたいところですが」

 私は腕を組み、窓の外の景色を見やる。時はもう夕刻。空は茜色に染まっていた。

「「アレン・ミーティア」とエクエス傭兵団が目障りですね。彼らの処理はまだ進んでいませんか?」
「は……申し訳ありません。何度も彼らを罠へと誘い込み、殲滅しようとはしていましたが――」
「言い訳は聞きません。結果が全てなのですから」
「は」

 バーバラは深々と頭を垂れる。
 まあ、でも……バーバラが手古摺るのも頷ける。あちらには私の元近衛騎士、「アルテア・エクエス」に「フィリドラ・ソレイズ」の二人に加え、元教団騎士「モーゼス・クレイセント」までいる。
 それに、あの忌々しい……黒い腕を持つ「アレン・ミーティア」。奴につけられた傷は、見た目は治っていても、彼の名前を思い出すだけで全身が疼いて仕方ない。奴だけは私の手で殺さなくてはいけない。
 奴が私の弟……? 本当に虫唾が走る。あんな男、何もかも失って絶望していけばいいわ。

 私がアレン・ミーティアの事を考え、内心腹を立てていると、バーバラが私の顔を心配そうに覗き込んできた。

「陛下……お顔が優れませんわ。もう休まれますか?」
「……いえ。嫌な事を思い出しただけです。気にしないでください」

 私は「それより」と言って、その場から歩み始める。

「シラベとユキ。その二人を一度見てみたいです。行きましょう」
「仰せのままに」


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